和菓子だけの特権

作者:遠藤にんし


「和菓子! 和菓子いいよね! おいしいよねぇー!」
 テンション高くビルシャナは笑顔を振りまき、そばにいる配下たちに語り掛ける。
「洋菓子が良いって人もいるみたいだけどさ、やっぱり時代は! 和菓子! だよねー!!」
 うららかな陽光差す公園も、ビルシャナが叫んでいるせいでまったく人気はない。
「なのに! なのになのになーんでスイーツビュッフェとかって洋菓子メインなの!? ほんとーにありえないんだけど!!」
 お怒りのご様子のビルシャナは、クワッ! と翼を広げ。
「こーなったら、世界に和菓子の良さを広めるしかないっ!!」
 快晴の空へ向けて、決意を語るのだった。


「えっと、皆さん集まってくれてありがとうございますっ」
 ぺこんと頭を下げた笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)によると、和菓子を愛するビルシャナが現れてしまったらしい。
「洋菓子のすいーつは、お好きではないのかしら?」
「そうみたいですね」
 朱桜院・梢子(葉桜・e56552)の疑問にうなずくねむ。
 どうやら、和菓子を大好きだった人が、スイーツビュッフェが洋菓子だらけであることに怒り、それによってビルシャナ化してしまった模様。
「近所のホテルでスイーツビュッフェをやっていて、それがきっかけでもあるみたいです」
 公園を陣取るビルシャナは、数名の配下と和菓子の素晴らしさを語り合っている。
「配下の人たちも和菓子好きで、そこを狙われちゃったみたいです」
 しかし、彼らはまだ説得によって、ビルシャナの影響下から逃れることができる。
 ビルシャナの教義は『和菓子こそ至高』。これに反論するような内容や、和菓子以外の魅力をアピールするのが効果的だろう。
「説得をしなかった場合は、彼らとも戦闘になりますから……出来るなら、説得はしておいた方が良さそうですね」
 そして、ビルシャナ退治が終わったら近所のホテルでスイーツビュッフェを楽しむこともできるだろう。
「では、気を付けて行ってきてください!」
 言って、ねむはケルベロスたちを見送るのだった。


参加者
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
百鬼・澪(癒しの御手・e03871)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
明空・護朗(二匹狼・e11656)
ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)
ウェイン・デッカード(鋼鉄殲機・e22756)
グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)

■リプレイ


(「和菓子だけの特権って逆になんなんだろ……」)
 そんなことを考える円谷・円(デッドリバイバル・e07301)の作戦は、和菓子とも洋菓子ともつかないお菓子で配下らを混乱させるというものだ。
「和菓子が好きっていうことだけど、これはどうかな?」
 差し出したのは大福、鯛焼き、羊羹。見た目は完全に和菓子、興味を持ったらしい配下の前で、円は鯛焼きを割ってみせる。
 ――中に詰まっているのは、あんこではなくカスタードクリーム。大福は生クリーム入りで、羊羹はチョコレートが練り込まれている。
「どう? 外見では和菓子だけど、中身は洋風だよ? こういうのはどう判定するのかなー?」
 尋ねつつ口に運べば、とろける甘さに円は顔をほころばせる。
「和菓子ももちろん美味しいけど、洋菓子の魅力だって負けてないよ」
 円の言葉にうなずく琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)もお菓子を持参している。
「さぁ皆様お食べ下さい、ケーキとかプリンじゃ作り出せない繊細なお菓子を!」
 繊細な味を味わってほしいからと目を閉じるよう伝えると、グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)はすかさず目隠しを差し出す。
「こっちの方がゲーム性楽しめて良いと思うよぉ」
「そ、そういうものか?」
 戸惑いつつも目隠しを着けた配下の口元へ淡雪が運ぶのは、大福、どら焼き、お団子。
「これは……」
「うむ、旨いな」
 感嘆の声を上げる配下たちを見て、淡雪はにまりと笑い。
「美味しいですか? 美味しいですわよね? さぁ目をあけて結構ですわ」
 目隠しを取った配下が見たもの――それはクリーム入りの大福とどら焼き、そしてみたらし団子に見立てたクリームチーズだ。
「和洋折衷の美味しい処取りが一番美味しいのですわ!」
 そんな言葉に力いっぱいうなずくグレイシアもそのお菓子を食べ、感涙をこぼす。
「美味い……! うちの姉も料理さえ出来ればもう完璧なのに……!」
「だ、大丈夫ですの……?」
 不安げな淡雪の様子に、グレイシアはようやく我に返って。
「あれぇ……おかしいねぇ……あ、うちの姉の写真見る? めっちゃ美人だからぁ。最高だよぉ…………料理以外は」
 どこかうつろな目で配下へじりじりと迫るグレイシア、引きつった顔で距離を取る配下。
「し……しかしな、洋菓子は味が濃すぎる。それはちょっといただけないな」
「でしたら、こちらはいかがですか?」
 配下の反論に百鬼・澪(癒しの御手・e03871)は『抹茶の寒天』として抹茶ゼリーを勧める。
 硝子の器もあって涼し気な印象のゼリーを食べ、配下らがひと息ついたところで澪はそれが寒天ではなくゼリーだったことを明かす。
「固めのものだと、食感も似ていますよね」
 和菓子と洋菓子、種類は違えど似たものもある――和洋の線引きなどしなくても、それらが美味しいことに変わりはない。
「そのような楽しみ方もあるのではないでしょうか」
 言って、彼らへと微笑みかけるのだった。


「和菓子、おいしいよね。あんこ、大好き」
 うなずく明空・護朗(二匹狼・e11656)が提案するのは、あんこにホイップクリームを合わせるというもの。
 大福やパンでもあんことクリームを合わせたものは多いと伝えた上で、護朗はケーキを取り出す。
「ロールケーキとかシフォンケーキとか色々あるけど、大粒のイチゴののったショートケーキが王道でおいしい」
 ちょっといいお店で買ってきたショートケーキを、もぐもぐと美味しそうに頬張る護朗。
「プリンとか、食べている人が幸せそうな表情になれる素敵なお菓子だと思うけれど……それも『認めない』のが君たちの教義でいいのかい?」
 問いかけるウェイン・デッカード(鋼鉄殲機・e22756)が思い起こすのは、大事な人が営む洋菓子屋。
 彼女のことを思い出すとビルシャナの教義がなぜだか見過ごせない気持ちになって、口を半ばマフラーに埋めてウェインは続ける。
「……それに、和菓子はワビサビ、と聞くよ。ビュッフェのようなスタイルとはそもそも雰囲気が合わないんじゃないかな」
 そんなウェインの言葉にその通りとうなずくのはソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)。
「そもそも、和菓子ってビュッフェで食べるものじゃないでしょ。そんな大事にしない食べ方は、ある意味和菓子への侮辱じゃないかしら?」
 必要以上に和菓子をプッシュする彼らの態度からは西洋コンプレックスが感じられる。そう思うソフィアが説くのは、和菓子をいかにして食べるかということだ。
「和菓子って、ただ食べるものじゃなくて、見た目や香り、その和菓子にあった季節の空気を感じながら味わうものでしょ。おばちゃん、和菓子はビュッフェで食べるくらいなら、ビュッフェの入場料くらいの高級な和菓子とお茶でのんびりした時間を過ごしたいわー」
 ビュッフェで和菓子が少ないことに彼らは腹を立てているようだが、そもそも和菓子をビュッフェのような場で食べるのはちょっと違うのではないか……まずはそこを理解してほしいとソフィアは伝えるのだった。
 ――こうしてケルベロスたちが言葉を重ねていると、突如として甘い香りが辺りに漂う。
 テレビウム・地デジの運ぶお菓子はフォンダンショコラとアップルパイとパウンドケーキ。熱々で甘い香りのそれらを配下の鼻先に、オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)は口を開く。
「果物とか、バターとか、色んな食材の香りがするのは、洋菓子のみりょくです」
 いつもは眠たげなオリヴンはここぞとばかりにテンションアップ、配下の前でフォンダンショコラにナイフを入れて、とろける中身を見せつける。
「香り、嗅いでみて? 食べるんじゃなく香りだけなら、いいでしょ?」
 芳香につられてグレイシアや護朗は出来たてスイーツを堪能。オリヴンも口に運びながら、まだまだたくさんあるスイーツを見てひとりごちる。
「んー、おいしいなー……でも沢山あるから食べきれないかも……一緒に食べる人、いないかなー……」
 配下をじっと見ながら誘いかけるオリヴン。
 意地を張ってか配下たちはなかなかフォークを持たないが、スイーツが気になって仕方ないのは視線で明らか。配下たちの視線を浴びるスイーツは、あんなにあったはずなのにみるみる目減りしていく。
「え、こんな美味しいのに要らないの? 勿体ないねぇ。仕方ないなー、オレが全部食べてあげる。気にしないで? 残ったらお持ち帰りするから、大丈夫。残すワケなーい」
 グレイシアは見せびらかすように、護朗は夢中で食べ進める。
 ……耐え難いほどに食欲を掻き立てられ、配下の中には降参する者が出てしまうのだった。


「それでも和菓子が……好きだッ!」
 そう叫んだ配下をウェインが素早く気絶させたのが、戦いの始まりの合図となった。
 護朗の作り出したオウガメタルの煌めきに満ちる戦線、オルトロスのタマはビルシャナの攻撃を赤い刃で受け止めてから押し切るように地獄の瘴気を辺りへ広げる。
「攻撃はしないで、ね」
 オリヴンに言われて地デジは大きくうなずくと、緑のエプロンをはためかせて飛び回り、美味しそうなスイーツの映像を仲間たちへ届ける。
 オリヴンの一撃は地を裂くほどに力強く。揺れる大地を意に介さず、ソフィアは遠隔操作型縛霊手『イノセント・プレイ』を手にビルシャナへ迫る。
 締め上げられたビルシャナへとミミックのヒガシバはエクトプラズムを吐きつけることで攻撃。
 澪はリボン彩るピンヒールでビルシャナへと歩み寄り、咲き乱れる星々を注ぎ込む。
 ボクスドラゴンの花嵐がブレスを吐くと、翼に咲くニーレンベルギアがかすかに揺れた。
 そんな花嵐の姿を好ましく見つめていた円は、己のウイングキャットにも指示を出す。
「蓬莱っ、皆を守ってあげて!」
 蓬莱は毛で大きく膨らんだ身体を持ち上げて翼を打つ。巻き起こる風に金髪を揺らしながら、円は三日月の鱗を手にして。
「おかしな夢を見させてあげる」
 投擲を受けた途端ビルシャナの動きは鈍る。その隙を待っていたとばかりにグレイシアは光を翼の力を発現、突撃によってビルシャナの肉体を破壊する。
「『この身が朽ち果てようとも彼の者達を守りなさい! ひゃっかおうりゃん!!』あぁごめんなさい……噛んじゃったわ♪」
 淡雪の言葉に吹き荒れる桜の吹雪――テレビウムのアップルはその中をくるくると踊りながら、ビルシャナへと凶器をつきつけるのだった。


「動けなくしてあげるねぇ」
 回避困難な冷気をグレイシアに浴びせかけられたビルシャナは、振り払うことのできない冷気に身を縮める。
「甘い物はぜんぶ大正義だよ、和菓子も洋菓子もすきだよ」
 そんなビルシャナに言ってから、オリヴンは大気に手を伸ばす。
「きら、きら」
 呟きに生まれる氷は、地デジの作る光を映して。
「凍るよ」
 輝く破片の襲来――二度にわたる凍てつく攻撃へ続くのは、アップルによる暴力的な輝き。
「さぁ、これはどうかしら?」
 微笑と共に淡雪が向かわせたのは黒い球体。癒えない傷を苛まれて苦悶の声を上げるビルシャナは、それでも負けじと焼き尽くすような炎でケルベロスたちを包む。
 滾る炎を受け止めたのは澪――文字通りに身を焦がす炎を受けながら、澪は自分にだけ聞こえるように呟く。
「今は春べと、咲くやこの花ー花明、賦活」
 電流は薄紅色。傷痕に小さな花が咲いたかと思えば傷は消え、花嵐の属性が澪の体に花を咲かせる。
 更に護朗は、傷痕のあったところに手をかざして。
「痛いの痛いの、飛んでいけ」
 魔法の言葉は小さな光を灯して、それで痛みすらも澪から完全に消え去った。
 円は妖精弓『イーバウ』を引き、追尾の矢を送り出す。蓬莱の風を追い風に矢はビルシャナへ追いかけ、その腹へと深い傷を負わせるのだった。
「行くわよ、ヒガシバ」
 タマが神器の瞳でビルシャナと対峙するのを見ていたソフィアの言葉に気力満点という風なヒガシバ――共に攻撃を繰り出してから、楽でいいという風にソフィアは軽く肩を回す。
「この一瞬に、永遠の輝きを――――」
 ビルシャナが己の身に浮かぶ白銀の十字架に気付いた時には、もう遅い。
 銀色の流星群は射撃によってだが、ウェインは自身もビルシャナへ肉薄し、跳躍から蹴りを放つ。
 炸裂する光が辺りを満たし――そして、戦いは勝利に終わった。

 戦いが終われば、甘いものの時間。
 お茶はスタンダードなものからちょっと風変わりなフレーバーまで。持ち帰りたいほど美味しい数々のスイーツに、サーヴァントたちも小さな快哉を上げる。
 ささやかなお祝いにと食べるスイーツは、どれも甘く、疲労を溶かしていくような味だった。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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