花映しのさすらいびと

作者:東間

●生まれ変わる
 どこかしっとりとした竹林の中を、宝石乗せた小型ダモクレスが素早く移動していた。
 小型ダモクレスは、頭上を埋める竹の色や水気を含んだ空気にも気を留める様子はなかったが、竹林が途切れた地点──『ごみ置き場』の札が立つ場所でぴたりと止まる。
 そういう日だったらしく置かれていたのは家電ばかり。その中に1つ、他とは空気の違うものがあったが、小型ダモクレスはそれの前面に出来ていた亀裂から内部へと潜り込み、姿形を──更には性質までもを作り変え始めた。
 長方形の箱に似た頭へ影を落とす傘。ギザギザの刃が並ぶ刀。飾り気のない着流し。
 だがそれら全ては硬質な素材で出来ており、ひどく無機質だ。
『イ……い、ザ……』
 頭に浮かんでいた砂嵐が、数度乱れた後、花鳥風月描いた札の絵に切り替わる。
『……いざ、遊戯の時……』
 ダモクレスはノイズがかった低い音声を響かせ、目の前を走る砂利道ではなく、竹林へと足を踏み入れた。そのまま足を進める事、約1時間。緑の合間に『骨董店かぐや』の看板が覗いて──悲鳴が響いた。

●花映しのさすらいびと
「いざ遊戯の時、ですか……」
 花札の筺体がダモクレスとなって最初に口にした言葉。それを口にしたルイ・カナル(蒼黒の護り手・e14890)は、報せを持ってきたラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)に視線を向ける。
「ですが、ダモクレス相手では楽しい時間とはいかないでしょう」
「ああ。敵はグラビティ・チェインを手に入れる為、ショートカットを狙ってなのか竹林を突っ切るつもりらしい。君達には移動途中の所で迎撃してほしいんだ」
 敵は笠を被った浪人風の姿をしており、のこぎり刃が目を引く刀による斬撃、『こいこい』と表示されたままの顔から光線、花札型のミサイル発射、といった3種を繰り出してくる。
 ミサイルは花札らしく──かは不明だが、必ず『役』で出てくるという特徴付きだ。カスに赤短青短、猪鹿蝶や四光等々。1回の発射で狙われるのは複数。どうやら、内臓している札は大量にダブっているようだ。
 そして回復手段は持っていないが、どの攻撃も常に効果の重ね掛けが発生する。
「という事は、敵のポジションはジャマーですか」
「その通り。けれど、君達が力を合わせればきっと大丈夫さ。君達も……そして、骨董店『かぐや』もね」
 予知の中で『最初の被害者』となっていた骨董店の未来を、変えられるかもしれない。
 古書、絡繰り、かるた、鏡、櫛、箪笥、皿──和の物ばかりを揃えた『かぐや』は、そこに集まった品々に負けじと年月を重ねている店なのだとラシードは笑顔で言った。
「終わったら、守り抜いた証を楽しんでもいいんじゃないかな」
「そうですね。月の姫も羨む宝と出逢えるかもしれません」
 その為にも、まずは緑濃い竹林で一勝負。


参加者
シャーリィン・ウィスタリア(千夜のアルジャンナ・e02576)
ルイ・カナル(蒼黒の護り手・e14890)
御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724)
藍染・夜(蒼風聲・e20064)
幸・公明(廃鐵・e20260)
エレオス・ヴェレッド(無垢なるカデンツァ・e21925)
英桃・亮(竜却・e26826)
シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)

■リプレイ

●死合い
 シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)は音もなく殺気を広げ、眼鏡の縁をくいっと上げた。
「……竹林の中に浪人とは、時代劇の様ですね」
 瑞々しい緑の中、『そう』と知らなければ『そう』見える機械兵が1体。
 向こうは立ちはだかるケルベロス達を見て、ぴた、と足を止める。
『いざ、遊戯の時を』
 呟いたのと同時、一気に迫ってきた。
 地面すれすれを翔た刃先が振り上げられ、竹林の緑に紅が散る。
 腕に、真っ直ぐ線を引かれたようだった。
 間に飛び込んだ御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724)は眉ひとつ動かさないまま鮮やかな爆煙を起こす。本当の札遊戯ならいざ知らず、今のような真似しか出来ない機械兵など、ここから先へは行かせられない。
 爆煙を背に受けた空木が機械兵の懐に飛び込み、敵の胴を足場に飛べば神剣による傷が刻まれて。
「これはお遊戯ではありません、仕事です」
 ぴしゃりと言ったシデルは如意棒で機械兵の刀を幾度も弾き、僅かな隙を突いて痛烈な一撃を見舞えば頭部にひびが走った。
 その後をルイ・カナル(蒼黒の護り手・e14890)はしっかりと繋ぎ、跳ぶ。
 そうあれは──機械兵の行いは。
(「遊戯と言うには少々荒々しい気も致しますが……いえ、そういう問題でもないですね。幾ら美しくとも見る者を傷付けるようでは魅せる者としては失格ですよ」)
 人々の血で穢れてしまう前に、此処でケリを。
 流星の衝撃が叩き込まれた直後に、英桃・亮(竜却・e26826)もまた星の圧に満ちた一撃を見舞った。
 片や鋭く、片や烈しく。機械兵の足をそこへ縫い付けるような蹴撃の後、藍染・夜(蒼風聲・e20064)は天藍の霧を降らす。
「終焉への幕開けを花で彩ろうか」
 それは、被っている笠も遮ろうとする手も用を為さない霞の檻。
 機械兵が惑うような仕草を見せる間、シャーリィン・ウィスタリア(千夜のアルジャンナ・e02576)は親愛なる『魔女』に心を寄せ、自身を『彼女』の謳とする。その謳は前衛陣の力を高め、箱竜・ネフェライラの癒しは蓮から禍をひとつ祓っていった。
 エレオス・ヴェレッド(無垢なるカデンツァ・e21925)の編み上げた雷壁も、竹林の緑にきらきらと金色の波紋を映しながら、前に立つ者達を支える加護となる。
「皆さん頼もしいです。回復は任せて下さいね」
 そこをミミックのハコが一気に駆けた。竹林の中で斬り合う浪人と箱、という図に、幸・公明(廃鐵・e20260)も光の剣を手に加わって──眉尻を下げ、笑う。
 付喪神は、長年大切にされてきた故に魂を宿す存在だけれど。
「彼らを乗っ取りつくりかえるだなんて無礼が過ぎますよ、量産型」
 ああ、あまりにも違い過ぎる。

●花が降る
 僅かに後退した機械兵が笠の縁を押さえながらケルベロス達を見た。その顔に浮かんでいるものは、相変わらず。
『こいこい?』
「ええっと?」
「花札を見せてくれるようだよ」
 首を傾げたエレオスへ、夜は涼しげな笑みを浮かべながら言った。けれどひらり流れるように動かした指先は、得物の柄をしっかりと。月が揺れた、その刹那。
『こいこい』
 一気に放たれる札の群れ。シャーリィンはそれを満月の双眸に映しながら囁いた。
「――さあ、わたくしにはどんな“役”を魅せてくれるのかしら」
 札の群れは豪雨の如き勢いで前衛へ降り注ぎ、亮を庇った彼女には松と桜、ススキの五光が1枚ずつ。本当の『こいこい』なら『三光』となり6文稼いだ事になるが。
「碌でもないな」
「絵札は雅だが行いは趣に欠くね」
 今の季節を札で現すなら、牡丹に蝶か。蓮は一瞬見えた『猪鹿蝶』を思い出し、受ける気を改めて皆無にして。夜も地に落ちた札の残骸をちらりと見てから地を蹴った。
「”遊びをせんとや生まれけむ”な君。満ち足る前に捨てられたのなら、最期の餞に戦庭で遊ぼう」
 蓮は『散華』を叩き付けてすぐ霊網で機械兵の全身を縛り上げ、身動き出来ぬその身体目がけ夜は振り上げた『宵羽』を叩き付ける。
「いざ勝負、なんてね」
 衝撃を食らって自由になった機械兵だが、空木がすかさず解き放った瘴気に身を包まれ、背後を取られたと気付いた時には──もう、遅い。
「花札……『花かるた』とも、言うそうだね」
 亮が一瞬見た花や鳥。あそこに描かれていたものは四季を尊ぶこの国らしい。
 そんな国に生きる人も、花札も護れるように。
「せめて安らかな眠りを」
 地獄焔纏った『銀の灰』を力の限り叩き付ければ、凄まじい衝撃と共に焔が弾け飛ぶ。
 その頭上からしとしとと薬液の雨を降らせたエレオスも、和の世界が魅せる魅力の奥深さを覚えながら頷いた。
「これからも続く筈の日々を、壊させはしません」
 癒しの雨はほんの少しだけ視界を霞ませ、禍をそっと祓っていき──その中をシデルはピンヒールを履いている事実を感じさせない早さで行く。
「花札は私、花合わせ派なので」
 役を寄越してくれるとはいえ、あんなもの。
 見抜いた箇所へと叩き込んだ一撃にシデルは『御免被る』という返事を添え、バキリと亀裂を走った所へ銀に煌めく拳が重なり、鋼鬼の拳からルイの体を覆う鎧へ、しゅるんと戻っていく。
 その後を繋いだ公明は状況を見てすぐバスターライフルを構えた。皆無事に終える為、今取るべき手段はコレだ。
「折角のお店、楽しめなくなっちゃ寂しいですからね」
 それに無礼を働けばその分が返るのが世の常。人の世であればクレームというものがありまして。
 一瞬だけ『うっ』した公明の背をハコが駆け登り、跳んだ。淡い七色の牙は機械兵によく『見えて』いたが、星の蹴撃によって刻み付けたものがその動きを鈍らせる。
 振り払おうと腕を右へ左へ、上へ下へ。
 忙しそうなその頭上に、ふわ、とモダンな装いが舞う。それに惹かれたか、機械兵の顔が上を向く。
「そのまま、わたくしを見ていて」
 シャーリィンは微笑み、気に入りのマリアヴェールが飛んでいってしまわぬよう押さえた。ネフェライラの癒しが、目映い虹と共に着地したばかりの身に贈られて──機械兵の『こいこい』が、ちかちかと点滅し始めた。

●遊戯の果て
 放たれた光はシャーリィンを狙って真っ直ぐ迸るが、空木が風のように飛び出し彼女を守り抜く。
 着地して即、咥えた神剣を勇猛に揮う空木へとエレオスは癒しのオーラを届け、傷も禍も薄れてゆく。
 その一瞬で夜は猪のように真っ直ぐ踏み込んだ。鹿を思わす軽やかな足取りで突き出される刀を跳ね躱し、蝶の如く舞う剣閃で翻弄する。そこに覗く遊び心は猪鹿蝶を示すが、無駄なく確実に敵を攻め立てていた。
 機械兵が効果の重ね掛けを得意とした個体でも、その情報を事前に受け、万全の対策を取ってきたケルベロス達に隙はない。
 傷や禍を刻み付けてもすぐに対応され、また攻撃を受けて──と、それを繰り返すうち、機械兵の行動は少しずつ絡め取られていき、逆にケルベロス達には支えが増えていく。
 重ねられていくそれは花札の遊びの如く、役が集まっていくように鮮やかに。
 そして。
「楽しい時間も終わりにしようか。後が詰まってるんでね」
「遊戯の時間は……もうお終いですよ」
 蓮はそう言って技術の粋を込めた攻撃を叩き込み、胴の一部がひしゃげたそこへエレオスの放った黒鎖がきつく絡み、縛り上げればベコンと音がした。
『むう、う、ぐ……!』
 機械兵が藻掻き、暴れた事で自身の一部が欠片となって零れ落ちても、気にする様子はない。笠も大きく欠け、『こいこい』の文字は何度かジジッと音を立てて揺らいでいた。そのど真ん中にズドンと衝撃ひとつ。
「花合わせ派だと申し上げた筈ですが?」
 シデルの操る如意棒で機械兵の動きが一瞬止まるが、頭に突き刺さる如意棒を乱暴に抜くと、思い切り飛び退き距離を取った。そして。
『こい! こい!』
 声と共に放たれた花札達は高く高く舞い上がり、弧を描く。度重なる攻撃で勢いが落ちているのか、描かれている絵の内容は最初と比べ、見やすかった。
「想像以上に絵が雅ですね。見惚れている場合じゃないですが……!」
(「あれだけ綺麗だとなんだかめでたいですね」)
 自分目がけ飛んでくる花札が『五光』だと気付いた公明は、エレオスの慌てる声をBGMに思わず目を見張っていた。その視界に飛び込んだシルエットが五光を叩き落とし、落とされた花札が爆発する。
「本来なら、今ので15文だ」
「凄いですね。本当の『こいこい』なら、喜んで受け取るんですけど」
 公明は笑みながら蓮へ礼を言うと同時に、今度は、へらりと笑う。
「ここ、ですかねぇ」
 何となくそう感じた所へ光の剣、その切っ先を刺し込んで、ぐっと上へ。
 不思議な程に真っ直ぐ斬れた所へ、ハコのばらまいた偽りの財宝がざくざく突き刺さる。その隙間へシャーリィンの手がそっと入り込み──派手な音を響かせながら引き裂いた。
 欠片が、鋼が──札が、中から溢れ出す。菊、紅葉、ススキに桜、萩等々。描かれたものは、やはりどれも美しかったが。
「ダブった札では如何様というもの……怒鳴るのは得手ではないですが、本物の雷でも落として差し上げましょうか」
 ルイの揮う竜槌に雷光が宿り、叩き付ければそれは光爆ぜる楔になる。
 ネフェライラのブレスが後退る機械兵を追うように吹き荒れ、夜は炎の輝きを受けながら笑んだ。駆け引きの遊戯は、いつだって心を躍らせる。
「礼に宵花で昏き黄泉路を彩ろう。幻惑に酔いて花と散れ」
 声と共に藍の霧が花開き、機械兵の体、その隅々まで捕らえ始めれば機械の体が必死に藻掻き始めた。しかし逃れる事は許されず、ボロボロの体へと亮は1歩踏み出し、跳ぶ。
 ダモクレスになっても美しさは変わらない。だが、此処に居てはいけない者だから。
「彩鮮やかな四季の中へ──さあ、おかえり」
 確実に『帰す』為、星となって降る。
 ドォン、と緑の中に音が木霊して──静かになった。

●かぐやなるひととき
 戦場となった場所を整えてから訪れた骨董店『かぐや』は、しん、と静かだった。並ぶ品々のせいか、それとも店が持つ性質なのか、流れる時間も空気と同じく静かなもので。
「おや。いらっしゃいませ」
 奥からひょっこり顔を出した店主が嬉しそうに笑い、『どうぞごゆっくりぃ』と言って、また奥へ消えていく。
「たまにはこういうのも良いでしょう」
 その背を見送ったシデルの足音は、静かな店内にコツ、コツ、と小さなリズムを刻むよう。そんな彼女が求める品は板紅──現代でいうリップパレット。
「おや、コレは悪くないですね」

 心に来る物が見つかったのだろう。かすかに届いた声の方へエレオスは目をやってから、再び目の前の棚に目線を戻した。
 つい息を潜めてしまうのは、この空間が重ねた年月を感じ取っているから。
 その目が密かに輝くのは、馴染み無い世界に心がときめくから。
(「うーんと、扇子かうちわは無いでしょうか……」)
 ──あ。
 思わず声を零し、慌てて口を閉じる。その声を聞いたのは、手にした水うちわに泳ぐ赤金魚だけだろう。これがあれば暑い夏だって。

 エレオスが会計を済ませた後、一足先に外へ出ていたシャーリィンは購入したばかりの煙管をそ、となぞる。伏せた瞼の内には亡き父の姿。
(「今なら、お父さまの気持ち……解るのかしら」)
 火を灯して控えめに煙を取り込めば、それと一緒に思い出も駆け巡る。
「──嗚呼……お父さま。確かに此れは……夜を彩っては薫りましょう」
 指先は、煙管に彫られた月に届くのに。

 趣き溢れる数多の和小物。その中でも四季を彩るかるたは亮の目を惹いたが、探しているのは唯一想う少女と揃いの傘。
 どうぞ広げて見てください。店主の声に頷き返し、手にしたそれを開けば、ぽんっと紅梅が咲いた。梅紫色のレース生地に青竹色の葉と朱金で描かれた紅梅は、かぐや姫も羨み月から戻って来そうなほどに綺麗だ。だが、こればかりはかぐや姫の願いでも譲れない。
(「……手渡すのが、待ち遠しいな」)
 ふわり微笑み、店主のもとへ。
 晴天の日も雨の日も、紅梅が咲いたなら、共に歩くひとときはもっと楽しくなるのだろう。

 遙か昔の品々と『かぐや』が紡ぐ佇まいは、時の忘れ物の如く。
 1つ1つ手に取り、装飾や形を指でなぞれば、『彼ら』が過ごしてきた永く遠い歳月の歌語りが夜の耳に聞こえてくるようだった。
 その中で抹茶椀に視線が引き寄せられるのは、夜自身、茶を嗜むが故。
 艶忍ぶ黒釉は一見無骨な程に質素だが、両手で持てばまろみある形が掌に馴染む。
 この抹茶椀で茶を点てたなら、林のように青々と深い茶の緑はさぞ映える筈。
 林を渡る風。
 木漏れ日。
 鳥の鳴き声に耳を澄ませる静かな時間。
 その時に紡がれるもの、難き宝に包まれるだろう予感に、夜は静かに微笑んだ。

「ハコさーん、それただの箱ですよぅ。おしゃべりとか出来ませんよー」
 公明が声をかけても、ハコは飴色の道具箱の前から動こうとせず、口をぱかぱかと開けては閉め、開けては閉めを繰り返す。
 しょうがない、抱えて帰ろう。途中で怒って暴れないでくださいねーと言うと今怒りそうなので、心の中でそっと、そぉーっとお願いしながらハコを抱え上げる。
 ──と、道具箱も返事をしたように見えた。目をこすってみるが、やはりただの箱だ。けれど、見ているうちに彫られた花と鳥模様が目に、心に焼き付き始めて。
「さすが、神様は商売上手ですね」
 お買い上げ決定。

「何時もあの子が御世話になっております」
「? ……ああ。いや、別に俺は何も」
 蓮とルイ、実は初対面だった2人を繋いでいたのは、今日はここに居ないとある虎の子供。蓮と彼のわんこ──空木の事だろう──が大好き、と笑顔で話を聞かされているルイは、本人曰く保護者ではあるが家族とは少し違うと言う。
 そう語る姿に事情を察した蓮は、それ以上を問わずに『そうですね』と返し、別れた。
(「あいつに土産でも買うか」)
 それと実家書店に置けそうな物──特に、あそこに無さそうな珍しい古書があれば是非購入したいものだ。
 目に付いた古書を取ってみると、表紙には聞き覚えのないタイトルが綴られていた。
 内容は。
 ──暫くの間、紙の捲れる音だけが聞こえていた。

 店で使う皿を幾つか見繕えたら、と店内をゆっくり廻るルイは、幾つもの皿が並ぶ一角で足を止めていた。
「大皿……は、どちらかと言うと観賞用になってしまいそうですし……」
 どれにしましょうか、と悩みながら再び足を進めるその目に、小皿のセットが飛び込んだ。おや、と手に取ったそれを彩るのは、竹林で見たような花札達。
「これならば、供養にもなるかもしれませんし、丁度いいかもしれません」
 かの花札は全て消えてなくなってしまったけれど──この花札は、誰かを傷付ける事なくいつまでも咲き続けるのだろう。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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