ミッション破壊作戦～炎精が求めるモノとは……？

■リプレイ

●現場上空にて
　ケルベロス達を乗せたヘリオンは、彼らの希望を受けて攻略地域を目指して空を飛ぶ。
「シャイターンはまだまだ被害地域が多いな」
　村雨・柚月（黒髪藍眼・e09239）は現地点で、シャイターンに侵略されたままの地域を確認していた。
　今から向かう場所を含め、占領地域は８ヶ所。
　なればこそ、大小にかかわらず目を向ける必要がありそうだと柚月は考える。
「シャイターンの活動の裏側にあるものは何でしょう……」
　黄色のサングラスを吊り上げ、ダリル・チェスロック（傍観者・e28788）は相手の考えを推し量るが、納得できる事由はなかなか思い浮かばない。
　その時、現場到着のアナウンスが機内に響く。
　暁星・輝凛（獅子座の星剣騎士・e00443）はグラディウスを握りしめ、立ち上がる。
「皆でミッション破壊を達成するよ！　勿論、グラディウスは必ず持ち帰る！」
「そうだね、この地の解放を必ず……」
　それに明るく応じたのは、輝凛と同じ旅団の天羽生・詩乃（夜明け色のリンクス・e26722）だ。
　デウスエクスに支配された人々をこの手で護りたい。そう考えるからこそ、詩乃はこの作戦に参加している。
　その２人と同じ、旅団の仲間である上月・紫緒（シングマイラブ・e01167）は並々ならぬ気概で、この場にいた。
「全てが救われて、全てが幸せになることを願って、手に持つ剣を叩きつけましょう！」
　気合を入れる紫緒に、輝凛、詩乃が一緒に声を上げた。
　それを聞き、久々のミッション破壊作戦に臨むダリルもいつも以上に気合を入れ、グラディウスを強く握りしめて仲間と共に降下していく。
　宙を落ちる薄墨色の鱗の竜派ドラゴニアン、ゼー・フラクトゥール（篝火・e32448）も仲間達の言葉に一つ唸って。
「老骨に鞭打ち、ちと頑張るかのぅ」
　ゼーは悠然と翼を広げ、真下の『強襲型魔空回廊』目掛けて加速していくのである。

●願いを魂の叫びに変えて
　茨城県かすみがうら市。
　かつて、攻性植物の大攻勢があった地を敢えて狙ってきたのは、シャイターンだ。
　魔法のランプ型の器から現われたのは、『ランプの魔人』を名乗る筋肉質な男。
　そいつは有名な物語に語り継がれる話の通り、願いを叶えると主張すると言うが……。

　先んじて、目鼻を大きな瞳が描かれた布で隠す葛之葉・咲耶（野に咲く藤の花のように・e32485）が魔空回廊を包むバリアを破壊する。
　彼女の刃で切り開かれたバリアの内部へ、ケルベロス達は飛び込む。
「願いは己で叶えるものじゃ」
　真下に向けて飛ぶゼーは、小剣グラディウスを構えて。
「大きな被害が出る前に、早急にお帰りいただこうかの。……この地を去れ」
　淡々と言葉に想いを込め、ゼーは魔空回廊目掛けて刃を振り下ろす。
　刃が突き刺さると、周囲に雷光が駆け巡る。
「願いを叶えるという蠱惑的な響きで、これまで何人の犠牲者を生み出して来た？」
　シャイターンに問いかけるように、ダリルは叫ぶ。
　――人は誰しも欲を持つが、それはデウスエクスに利用される為のものではない。
　――この街でどれだけの犠牲を出してきたか、ケルベロスの怒りがどれほどのものなのか。
「それを、今から知らしめてくれるッ―……！」
　ダリルの刃が続き、魔空回廊に突き刺さる。
　さらに、光り輝く刃によって、魔空回廊へと傷が入っていく。
　目を灼くほどの強烈な光によって、この地にいたシャイターン達の呻き声が上空にも聞こえてきた。
　そいつらは現状、人をそそのかすだけかもしれないが、いつ気を変えて大きな被害をもたらすか分からないと詩乃は考える。
「……きっとみんな、不安の中で暮らしてきたと思う」
　詩乃の願い。それは……。
　――この街のみんなを、デウスエクスに怯えて暮らす日々から解放したい。
　――何の憂いもなく、心から笑えるようにしたい。
「お願い、グラディウス。この街を解放するために、力を貸して！
　強い想いは力となる。
　突き出した詩乃の刃は、魔空回廊に深く突き刺さる。
　とはいえ、今回は初回の攻略。さすがに魔空回廊には大きな変化が見られない。
　メンバーは皆、そう考えていた。
　――ランプの魔人様ですか？　願い事を叶えてくれる？　曲解して？
　そこに、自分の願いなんて曲解しようがないと微笑みながら、紫緒が飛び込む。
「だって、世界中のみんながたくさん恋をして幸せになる！　それが私の願いですもん」
　以前の紫緒の二つ名は、『狂愛葬奏』。
　狂っていた彼女は愛して憎んで壊すことが全てだった。
　だが、彼女は恋することで大きく変わる。
「恋って、素敵なんですよ。私は恋をして救われて、それで今は結ばれて幸せになったんです」
　――だから、この世界の、この宇宙のみんながそれぞれ恋をして、いっぱいいっぱい愛が広がって幸せになる。……それが、今の私の一番の願い。
　紫緒の手にするグラディウスが、これ以上なく輝いた。
「恋に救われた私が先駆けとして叫びましょう」
　――恋する心は絶対に幸せを掴み取れるの。だから、私は生涯、恋をし続けます。
　直視できぬほどの光を、紫緒は真下へと振り下ろす。
「愛しの旦那さまとの恋を、恋する乙女の力を思い知れ！」
　刃はものすごいエネルギーを内包し、その全てを魔空回廊へと叩き込む。
　たったの一撃で大きな爆発が巻き起こり、魔空回廊全体に亀裂が駆け巡る。
「新婚さん強っ！！」
　予想を超えた破壊力に輝凛は毒気を抜かれて苦笑するが、すぐに表情を引き締め直した。
「僕達もやろう、グラディウス！」
　――ここは、地球の命が幸せを営むための場所だ！
　――歪なランプの魔人なんか必要ない！
　輝凛の声に応え、グラディウスは光り輝いて。
「僕達は、お前たちには願わない！　自分の願いは、自分で叶えてみせる！」
　彼もまた刃を振り下ろし、魔空回廊の亀裂を大きくする。
　そこから濃いスモークが噴出し、辺りを包み込んでいく。
　右往左往するシャイターン達は、願いを叶えるなんて甘言で人に近づき、乗ってきた者を都合よく利用するのだろうと柚月は確信していた。
　街の平和は、人を目的の為の道具としか見ていない連中に脅かされている。
「これ以上様子を見ている余裕はないんだ！　何としてもここは解放する！」
　そうでなければ、明日にも犠牲は出てもおかしくない。それほどの脅威だと柚月は疑わない。
「必ず砕いて、人々が安心して暮らせる街を取り戻す！」
　仲間達が作った亀裂を彼女はさらに大きくし、より大量のスモークが噴出した。
　最後に舞い降りてきたのは、骨装具足とフルフェイスで全身を覆い隠す、シルフィディア・サザンクロス（ピースフルキーパー・e01257）だ。
「……あんな事件があった場所をわざわざターゲットにしてくるとは……馬鹿なんですか？」
　シルフィディアが指しているのは、以前この地を攻性植物が攻めて来た一件のことだ。
「まあ、聞くまでもありませんよね……。このゴミ屑共が……！」
　デウスエクスに対し、並々ならぬ怒りと憎しみを燃やし、それを魔空回廊にもぶつける。
　相手が二匹目のドジョウを狙ったのだろうと踏んだシルフィディアは、フルフェイスの中から真下の魔空回廊を睨みつけて。
「……貴様らのその『一度上手くいったんだから次も上手くいくだろう』という、人を見下す舐め腐ったその態度がムカつくんですよ！」
　人は学び、成長する生き物。
　無駄に永遠の時を過ごしてなお反省も後悔もないデウスエクスには理解できぬだろうと鼻で笑い、シルフィディアもまたその手のグラディウスから眩い光を放つ。
「わたしの願いはわたしが叶えますよ……。貴様ら全てを地獄に葬り去るのがわたしの願い……！」
　黒い翼を羽ばたかせる彼女は勢いをつけ、一際大声で叫ぶ。
「……死に絶えろ、ゴミ屑野郎！」
　地獄の炎を燃え上がらせたシルフィディアが突き出したグラディウスの刃。
　それは、魔空回廊の奥深くにまで突き刺さり……、彼女の体ごと突き抜ける。
　轟音を上げ、一際大きな雷光に爆発が巻き起こった。
　なおもスモークが充満する中で魔空回廊は瓦解し、徐々に消滅していく。
　難易度はさほど高くなかった場所とはいえ、まさかの一発破壊。
　メンバー達は嬉しさを滲ませながらも、グラディウスを大切に保持しつつ、撤退へと転じる。
　だが、それをさせじとスモークの中から現れる人影が……。
「よくも、やってくれたわね……！」
　オネエ口調で喋るシャイターン、ランプの魔人。
　筋肉隆々な半裸をさらす敵は、忌々しげにケルベロスを睨みつけてくる。
「俺たちの願いは今叶った。お前の力に頼らずにな！」
　構えを取る柚月が言い放つと、互いに臨戦態勢へと入り、スモークに周囲を包まれた中で交戦を開始したのだった。

●曲解した望みなどいらない
　願いを叶えるというランプの魔人。
　だが、シャイターンたるその男は、不良グループにすらその話を拒絶されたという。
「馬鹿にするのもいい加減にしてもらいましょうか……！」
　シルフィディアは猛然と、地獄の炎で包む『斬触斧』で切りかかる。
　ただ、前線に立ってせめくる相手は、手にするランプより怪しげ煙を放つ。
　催眠効果を持つ煙は咲耶へと向けられたが、ワインレッドカラーベースのライドキャリバーのジゼルカが盾となって受け止めてみせた。
　反撃にと精神を集中させた咲耶は、相手の持つランプごと敵を爆破する。
　その横から、紫緒が飛び出して。
「私は強欲なんですよ」
　一時的に黒い翼を鋭い刃となした自身を具現化した彼女は、目の前の愛しいもの全てを『恋獄ノ大太刀』で斬りつけた。
「この世界中のみんなが恋をして、幸せになることを願っているんですから♪」
　その紫緒や自身のライドキャリバー、ジゼルカら前線メンバーに詩乃が黄金の果実を煌かせて支援する。
　輝凛も回復役として援護するのだが。
「なんか落ち着かない！！」
　普段は攻撃、盾役が多い輝凛は、戸惑いながらオウガ粒子を飛ばしていた。
「リィーンリィーン、皆のカバーを頼むぞい」
　老獪な古き良き武将といった風情のゼーは自身の箱竜に指示を出し、自らは竜鎚から砲弾を相手へと叩き込む。
　ゼーの一発を受けた魔人が僅かに怯んだところで、柚月が流星の蹴りを浴びせかけ、さらに態勢を崩そうとした。
「あぁっ！」
　巨体をぐらつかせた魔人へ、柚月が飛び掛かる。
「人の弱みに付け込もうとする外道だな、お前は！」
　激しく蹴りつけた彼の一蹴に続き、ダリルもまた速攻を意識して流星の如き蹴りを食らわせていく。
　戦いの勘を取り戻すようにダリルは立ち回っており、今の一撃もかなり手応えを感じていた様子。
「願わくは、君達の狙いを教えて欲しいのですがね」
「……アタシがそれを教えると思って？」
　憤慨する魔人は答え代わりに豪腕を振りかぶり、ケルベロスへと殴りかかってくるのである。

　魔空回廊の破壊もあり、ケルベロス達の士気はすこぶる高い。
　前線のシルフィディアは勢いのまま、露出させた地獄の両腕を刃と化して。
「貴様のような奴がいつまでもいるから……、このかすみがうらは平和にならないんですよ！」
　相手の露出した上半身を、シルフィディアは躊躇なく切り刻んでいく。
　続き、咲耶も紅蓮の炎を纏わせた『丙陽実生無節棍』で殴りかかれば、その隣から紫緒が呪われた刃で追い討ちをかける。
　己の恋心を信じる紫緒に、迷いはない。
　その幸せがどこまでも、宇宙の果てにまで広がることを信じて相手に立ち向かう。
「賢しいですねぇ、地球人……！」
　自らの甘言にもまるで靡かぬ地球人達を、ランプの魔人は力技で屈服させようとする。
　それを、盾となって受け止めた詩乃が腕部の簡易魔術回路と機械部分の応急手当用マニピュレーターを接続させて。
「対象の身体状況をスキャンします……完了」
　そして、自らの身体へと詩乃は治療を施す。
　ライドキャリバー、ジゼルカが激しいスピンで魔人を攻め立てる間に、輝凛も金色の光球を前線のメンバーへと撃ち放つ。
「僕が居る限り、お前の好きにはさせないよ」
　そうして、相手の煙に惑わされる仲間を我に戻し、輝凛は強気に笑ってみせた。
　魔人はランプを擦り、出現する煙で自らの傷を癒そうとするが、手前の箱竜リィーンリィーンが攻撃チャンスと見て、ブレスを吹き付ける。
　加えて、主のゼーが畳み掛けた。
　服の下で地獄となった心臓を燃え上がらせるゼーは、相手がクラッシャーだと分かったこともあり、命中率重視で轟竜砲を撃ち込んでいく。
　足をもつれさせた魔人の隙を突き、柚月はカードを取り出す。
「我が掌中に集え！　その型、神斬の太刀！」
　カードの力を発動させ、彼は体内に流れる気を高めていく。
「顕現せよ！　スピリットブレイク！」
　攻撃すると共に柚月はエネルギーを解き放ち、魔人の体を深く肩口から切り裂く。
「お前の力に興味はねぇよ。さっさとランプに帰れ」
「ぎゃあぁぁっ！！」
　どす黒い血を流して、魔人は身悶える。
　その間に、ダリルが雷雲を呼び起こしていて。
「謳え雷（いかづち）、地に響け」
　轟音鳴り響いて震える大気の中、放たれる雷光、駆け抜ける雷鎖。
　それは、魔人の身体を瞬時に焼き焦がす。
「嘘……でしょ？」
　完膚なきまでに叩き潰された魔人は煙のように爆ぜ飛び、その姿を消してしまったのだった。

●２度目の解放
「み、みなさん無事ですか……？」
　眼前の敵を撃破し、元の気弱な性格を見せるシルフィディアが仲間達を気遣う。
　だが、シャイターンを倒しても、この近辺にはまだ敵影がある。ぼやぼやしてもいられない。
「近辺のケルベロスは……」
「大丈夫だ、連絡がついた」
　ケルベロス達はそいつらに絡まれる前に、ミッション中のケルベロスと詩乃、柚月が連絡を取る。
「なら、一息つくのは後にしましょう」
　紫緒が協調するように移動する２人の後を追い、シルフィディアやダリルらも共にこの場から撤退して行く。

　かすみがうら市は再度、ケルベロスによって解放された。
　ミッション攻略中のケルベロスにこの場は任せ、メンバー達は互いに喜び合いながらこの地を離れていくのである。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年6月13日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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