ミッション破壊作戦～尽きぬ悪意を打ち砕け！

■リプレイ

●沖縄の海を見下ろして
　ヘリオンはケルベロスたちを乗せ、沖縄県中頭郡の魔空回廊を目指していた。
　玉榮・陣内（双頭の豹・e05753）は高高度から沖縄の島々をながめていた。
「なにを見てるんだい、陣内くん？」
　飲み友達でもあるガロンド・エクシャメル（災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925）のほうへと、陣内は目を向ける。
「いや、別に。実家がこのあたりにあるから、ちょっと見てただけさ」
　そっけない調子の言葉。
「実家か……孝行したい時分に親は無し、なんて。ケルベロス界隈じゃことわざですらないよな」
「別にそういうんじゃないさ。ただ、ちょっと、気になっただけだ」
　毛皮に覆われた彼の顔に感情が浮かんでいるのを確認することはできない。
「自分の親を散々振り回して離散させた俺が、よそ様の親孝行を手伝うってのも妙というか筋の通らない話ではあるが」
　続けた言葉を、陣内はあえて否定してはこなかった。
「ま、どのみち放置もできんわけだし、逆にそんなドラ息子が暴れる理由にしちゃ随分上等だよな」
　鋭い牙を見せて笑い、ガロンドはグラディウスを握りしめた。
　眼下には沖縄の青い海が広がっている。
「奇麗な海ですね」
　ルティア・ノート（ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e28501）が呟いた。
　彼女の心は、この光景を美しいと判断している。
「そうですね。必ず解放しなくてはいけません」
　相槌を打ったのは２人いる魔女のうち１人だった。
「修学旅行で、水族館に行きたいんですよ私は。早くここを解放しないと、修学旅行に行けないじゃないですか」
　漆黒の礼装に身を包んだベルローズ・ボールドウィン（惨劇を視る魔女・e44755）が静かに告げる。
「そのためにも、今回であの見苦しい筋肉だるまどもを火だるまの血だるまにしましょう」
　言葉を交わしている間に作戦地点の上空へたどり着く。
「もうすぐ作戦開始ですね。皆さん、準備はいいですか？」
　青い髪をしたオラトリオの神白・鈴（天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623）が、仲間たちに問いかける。
「ああ。いつでも行けるぜ」
　鈴と似た青い髪のウェアライダー、彼女の弟である神白・煉（死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023）はグラディウスを力強く握って不敵な表情を見せた。
「うん……いつでも行けるぞな」
　ピンク色の髪にトンガリ帽子を乗せたノーザンライト・ゴーストセイン（ヤンデレ魔女・e05320）はのど飴の袋を力強く握ってやはり鈴に応じる。
　そして、ケルベロスたちは魔空回廊へ向けて出撃する。
　バイオレンスギターの音色が響いた。
「今日のケルベロスライブもばっちし、ロックにキメるのデース！　イェェェイ、ロック！！」
　グラディウスを手にしたまま器用に弦を弾きながら、シィカ・セィカ（デッドオアライブ・e00612）が空中へと身を躍らせる。
　８人のケルベロスとサーヴァントたちは、燃えるひまわり畑へと降下していった。

●火精の住処へと叫べ
　空へとロックを響かせながら、シィカは中心部にあるバリアをしっかりと見据えていた。
「ヒマワリ畑を焼き払うとはトンデモない野郎デース！　まったくもってロックじゃないデス！　沖縄の青い海に火の海なんて似合わないのデス！」
　両手を離し、ストラップでぶら下がるに任せて彼女はギターを小剣に持ち替える。
「ロックで綺麗な島と海、ばっちし返してもらうのデスよー！！」
　そして、音楽を上回る爆炎が、バリアへの表面を揺らした。
　降下していくと海は見えなくなる。
　ルティアはその光景を思い出しながら、グラディウスを握る。
「沖縄の地は、自然がとても綺麗で、人々は長閑な暮らしをしている所だと聞いています。そのような場所を焼き払おうとするシャイターンの悪行、同じ妖精8種族の１人として見過ごせません！」
　きっと、シャイターンに支配された島も、本当は美しい土地なのだろう。
「ここで息絶え朽ちるのは、あなた達の方です……！」
　振り下ろしたグラディウスから、また爆発が起こった。
（「炎は好き」）
　二度の攻撃で巻き起こる炎を、ノーザンライトは感情の読めない目で見つめていた。
（「嫌なものを焼き尽くしてくれるし、赤い揺らめきは心を落ち着ける。でも命を奪うために撒くのは論外……共感できない」）
　何度作戦に参加しても大きな声を出すのは慣れない。ノーザンライトは大きく息を吸い込んだ。
「火遊びのマナーのない奴は獄に帰ればいいの。地獄の劫火に落ちろ！」
　思わず咳き込む眼前で、爆炎と雷光が周囲へ飛び散った。
　続く青い髪の姉弟もグラディウスを構える。
「けっ、勇者勇者言うが、結局は体のいい奴隷集めだろーが。グラビティ採取のよ」
　吐き捨てるように煉が言う。
「エインヘリアル化が上手く行くようになったからって、調子に乗ってんじゃねぇぞ、シャイターン」
　不機嫌な声を出しながら、少年は剣を強く握った。
　弟の声を聞きながら、鈴もまた想いを込める。
「やらせませんよ、シャイターン。死ねと言われて死にたい人なんていない。わたし達はあなた達のおもちゃじゃない！」
　鈴の声に混ざっているのも、隠しようのない怒りだ。
「前からてめぇらのやり口は気に入らなかったんだ。心も体も弱い奴ばっか狙いやがってよ。本当に英雄と言えるような奴を選定してた、ヴァルキュリアとは大違いだ」
　煉の声が風の音に負けずに響く。
「不死故に、獄に繋がれていたが故に、死の恐怖を知らない、分からないっていうなら。何度でも思い知らせてあげます。わたし達ケルベロスが！」
　鈴の声も徐々に大きくなっていった。
「しかも沖縄だぁ？　俺らケルベロスを避けて、んな遠方を姑息に狙ってんじゃねぇ」
　いくらか早く落ちている煉が、まずグラディウスを振り上げる。
「罪人なら罪人らしく檻に帰りやがれ、地獄って檻にな！　死ぬのはてめらだ火霊族。俺の獄炎で燃え尽きろ！」
　四度目の爆発が起こった。
　少年の叫びが終わらぬうち、鈴もまた輝く小剣を突き出す。
「死なないくせに、本当の死もその悲しみも知らなかったくせに、軽々しくその言葉を使うな、シャイターン！」
　そして、五度目の爆発がバリアを揺らしていた。
　黒いマントをなびかせて、ベルローズが姉弟に続く。
「中城の美しい海と自然、人々を、血と炎で染めんとする外道どもめ。今こそ、この地から排除する！　中城に解放の明日を、いざ進め猟犬達！」
　肩で切りそろえた黒髪が風に揺れる。
「青い海、輝く自然、そして人々の平穏を、これ以上、穢させやしない！」
　あたかも希望を呼び寄せる１つの呪文のごとく、黒衣の魔女の声は朗々と響く。
「沖縄の自然の猛威たる颱風の如く、すべてを等しく照らす太陽の光の如く、自然と人々の嘆きと怒りを乗せ、逆巻き輝き飲み込め！　グラディウス！！」
　そして、振り下ろした刃からは六度目となる爆炎と雷光が周囲へと飛び散っていた。
　ガロンドは、陣内の姿をちらと見た。飲み友達の黒豹の声は聞こえて来ない。だが、心配はあえてしなかった。
「確かにここは日本の中央から遠い。元々日本とは別の交易で成り立ってた王国があったところでもある」
　それよりも、ガロンドは己が想いをしっかりと剣に込めた。
「だがな……てめぇらが来て好きにしていい場所じゃねぇ。はみ出し者はさっさと冥府にでも行け。『焼いていい場所』なんか、どこにもねぇんだよッ！」
　七度目の爆発。
　幾度も起こる爆発をながめながら、陣内はグラディウスへ語りかけていた。
「俺は自分で思っていたよりも、親や故郷に情ってものがあるらしい。ここを通って少し北、それから東へ海を渡ると、父と母の住む島がある」
　聞くのは小剣のみ。想いをあからさまに語るのは好みではない。
「娘は既に亡く、たまに帰ってくる息子は何をしているのかわからない。それでも二人が俺を責めたことは一度もなかった」
　やろうとしているのが『親孝行』だと認めてもよかったのだろうが、照れが邪魔をした。
「……ろくでなしの放蕩息子ができる数少ない『親孝行』ってやつさ。こういうことのためにある力なんだろう？」
　語りかけている相手は剣だが、言葉は自分に返ってきて、内にある想いは高まっていく。
「父と母が愛する島と海を、返してもらう」
　そして、陣内は視線を燃える地上へ向けた。
　仲間の耳に届いたのは、ただ獣が放つ咆哮のごとき叫び。
　次の瞬間、ひときわ大きな爆音が周囲へと轟いた。
　だが、それで終わりだった。
　沖縄の大地に降り立ったケルベロスたちは爆煙の中でまだバリアが健在であることを確かめる。
　ノーザンライトがなにか言おうとしたが、その声は皆には聞き取れなかった。口の中で大量ののど飴を噛み砕いていたからだ。
「……甘すぎて喉が焼ける」
　だが、言わんとしていたことはなんとなくわかる。
「届かなかったみたいですね……」
「みんなあんなにロックに叫んでたのに、残念デース」
　ルティアが首を横に振り、シィカがギターをかき鳴らす。
「ダメだったものは仕方ないな。早々に引き上げるとしよう」
　すぐに頭を切り替えて、陣内が仲間たちに呼びかける。
「ま、次に来る奴らに期待するとしようぜ」
「ええ。修学旅行に間に合うといいんですが……」
　ガロンドの言葉に、ベルローズが大きく息を吐いた。
　ケルベロスたちが走り出す。
「行こうぜ、姉ちゃん」
　走り出そうとしない姉へと煉が手を差し伸べる。
　頷き、鈴も彼を追う。
「……グラディウスの効果は短いから十分には治してあげられない……。逃走に失敗するわけにはいかないから……ごめんね……」
　経路上の一部だけでも治しながら、ひまわり畑へと鈴は語りかけていた。

●火霊族の襲撃
　移動するケルベロスたちは、煙の向こうから熱気を感じた。
「よくもやってくれたな、ケルベロス！」
　炎を身にまとい、怒りの声を上げるシャイターン。だが、怒っているのはケルベロスたちの側も同じ。
　舞い踊る炎がケルベロスたちへと襲いかかってくるが、ひるむ者などいない。
「大地に眠る祖霊の魂……今ここに……闇を照らし、道を示せ！」
　鈴は手にしていた天扇を掲げた。あふれ出すオーロラから光り輝く狼の群れが飛び出して、反撃に出る仲間たちの支援に向かった。
　追跡を得意とするエネルギー体は外敵の探知を得意とし、移動先を照らし出すのだ。
　ガロンドがオウガメタル粒子を散布してさらに仲間たちの命中率を上げる。
　シャイターンの中でも精鋭である敵の動きは速い。少しでも捉えられる可能性を上げなければ短時間で勝つことはできない。
「火炎祭りの始まりぞな」
　ノーザンライトは足元に炎の魔法陣を展開して、灼熱の精霊を召喚した。
　飛び回る不死鳥の羽が舞い、仲間たちの武器に炎を宿す。
　あまり表情が変わることのないノーザンライトの顔に、かすかな笑みが浮かんでいたことに気づいた仲間はいるだろうか。
「炎使いに不死鳥の支援なんざ洒落てるじゃねぇかノーザン」
「ロックな鳥さん、助かるデース」
　支援の技を受けながら、煉やシィカ、ガロンドが敵との距離を詰めていく。陣内とルティア、ベルローズは後衛から狙いをつけて攻撃している。
　陣内はグラビティ・チェインで鉛の矢を生み出していた。
「これは、「拒絶の矢」。逃げろ、どこまでも」
　確実に当てられることが感覚でわかる。ただ、それはおそらく攻撃を当てやすい位置から狙っているからだ。
　精鋭でない敵と、この個体にどの程度の違いがあるかを確かめながら、陣内は矢を放った。
　だが、まだ前衛や中衛の攻撃は確実に当たるとは言い難い。
「コード申請。使用許可受諾。……不滅の刃、受けてみなさい！」
　ルティアは細身ながら重い鉄塊剣へ不滅の聖剣が持つ権能を付与した。
　大上段に振りかぶりながら踏み込んで、一気に振り下ろす。
　衝撃で足取りが鈍ったところに、黒いマントを踊らせた魔女がしかける。
「怨嗟に縛られし嘆きの御霊達よ。ここに集いて、我が敵を貪るがいい！」
　この地に遺された怨念から魔力を抽出する。
　惨劇の記憶から、黒い腕がシャイターンへと襲いかかる。
「美しい海と自然に囲まれ、歴史ある中城も何故、こんなにも「惨劇の記憶」に溢れているのか」
　誰にも聞こえない声でベルローズは呟く。
「惨劇は力だけでなく、悲しみも怒りも絶望も。でも、そのなかから「希望」を見つけて、明日に繋げる。それが、惨劇に呑まれた人々を救える唯一の道だから……きっと」
　まとわりつく手は敵の動きをさらに阻害する。
　回避の足を止めて、攻撃はだいぶ当たりやすくなった。
　苛立たしげに光線が放たれる。
　ガロンドはすぐ射線に割り込んだ。
　金色の鱗が焼かれ、熱に体を貫かれる。
「燃えろ、滅びろ。愚かで哀れな火霊族。お前たちの居場所をちゃんと考えてる奴なぞ、それこそ封印した長老以外にはこの世におらんのだ」
　はっきり宣言し、ガロンドは己を鼓舞した。
　ミミックのアドウィクスと共に耐えている間に、仲間たちはシャイターンを追い詰める。
　鈴やサーヴァントのリュガが回復してくれているが、おそらく最後まで立っていることはできないだろう。だが、その分素早く敵を弱らせられていた。
　敵は自らを陽炎で占うが陣内の矢やシィカのウイルスに侵されて思うようにそれができない。それらを解除する力も、不死鳥の力がかき消してしまう。
「占いの注意……己に都合のいい解釈は、精度を落とす。半端な火遊びは事故の元ぞな」
　ノーザンライトが召喚した竜の幻影が火精すら焼く炎を放つ。
　防衛役の１人と１体が倒れる頃には、シャイターンもすでに限界を迎えていた。
　ルティアの燃えるような刀身を持った剣が、実際に炎を宿して切り裂く。
　反撃と踊る炎も、ケルベロスたちを倒すには至らない。
「あと一息デース！　ロックじゃない奴に勝利はないのデース！」
　シィカが高々と跳躍し、叩きつけるように斧で切り裂く。
　炎の隙間から、ベルローズが水晶の炎で切り刻んでさらに敵の守りを崩す。
　陣内と彼のウイングキャットが連携して、雷のハンマーと魔法のリングでさらに削った。
　そして、蒼炎が敵へと襲いかかる。
「姉ちゃんいくぞ、姉弟連牙『双星狼牙』！」
　煉は蒼い炎を腕に宿して姉に呼びかけた。
「うん、お父さんの奥義、わたし達の絆……はぁぁぁっ！」
　応じる鈴の右腕には白い光が宿る。
「これが俺（わたし）達の絆っ！」
　左右から仕掛ける焔と光が、狼の牙に似た軌跡を描く。
「この青き星にてめぇらにくれてやる命はねぇ。燃え尽きな、略奪者！」
　焔の牙がシャイターンを噛み砕き、命の炎を吹き消した。
　勝利の余韻にひたる暇はない。敵がもう動かないことを確かめて、ケルベロスたちは急ぎ撤退する。
「さあ、シーサー買って帰るぞな」
　ノーザンライトが言った。
　魔除けの獣が、いつか沖縄に平穏をもたらすことを願いながら、彼らは煙の中を走った。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年6月19日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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