息ができない

作者:六堂ぱるな

●空気に溺れて
 他愛のないおしゃべりが、一番注意しなくちゃいけない。場の空気を乱さないよう、人の気分を害さないよう。そうすれば仲間外れにされたりもしない。けど。
「なんだっけ、あの子。話しないから名前覚えてないや」
「ひっどーい、クラスメイトじゃーん。あたしも覚えてないけど」
 笑いあう級友に頷けない。だって今仲間外れにされているのは、幼馴染の真奈だから。
「暗くてノリ悪いしマジ無理じゃない?」
「結はずっとあの子と小中仲良かったんでしょ? 迷惑してたんじゃない?」
 真奈はいい子なのに、そんな言い方しなくたっていいじゃない。
 ……でも、空気読まなきゃ。
「内気なんだよ、きっと」
「結って人がいいっていうか、ちょっと抜けてるとこあるよね」
「そういうとこだよーユイ!」
 ああ、私の話になった。それならいつもみたいに言えばいい。
「だよね。私もそう思うー」
 自分の返事でまた笑って、教室を出ていく友達たちを見送り溜息をついた時。
「自分が思ってもいないことに笑って頷いて、他人に流されることに意味はあるのか?」
「え」
 突然かけられた言葉にどきりとして振り返った。
 スケバンとか番長とか、そんなキツめの印象の女生徒が立っている。鋭い眼光を浴びせてくる彼女の言葉が胸に突き刺さった。
「意見があるならぶつけるべきじゃないか? 言わなければあいつらだって、おまえの本心を知らないままじゃないか? お前は自分で自分の価値を下げていないか?」
 高校に入ってからずっと考えていた。
 こんなのよくない。そうは思わない。友達との話はそう思うことが大半だった。
 波風を立てたくなくて、口に出す勇気が湧かなかったけれど――今なら。
「うん。そうだよね」
 頷いた瞬間、胸に大きな鍵が突き刺さった。

 結の姿をしたドリームイーターが廊下を駆ける。
 異常に気付かずに笑いあう少女たちの背後へ肉迫して、ぶつけるのだ。言えなかった言葉だけでなく、力を。

●在るべき魂のかたち
 日本各地の高校に、ドリームイーターが出現し始めている。高校生がもつ強い夢を奪って強いドリームイーターを生みだす為に。そこまで説明した笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は、困った顔で首を傾げた。
「狙われているのは江西・結ちゃんっていう女の子なのです。周りに合わせて意見を呑みこむことに、内心疑問を感じていたみたいなんですよう」
 結から生み出されたドリームイーターの力は強い。しかし夢の源泉たる『空気を読むことへの疑問』を弱めれば、弱体化させることはできる。曰く、空気を読まずに己を主張ばかりする者は和を乱すものだ、和を乱すことを厭うのは悪いことではない。そうした説得が戦闘を有利に運ぶ力になるだろう。
 けれど彼女が抱いた疑問は、ドリームイーター・フレンドリィの指摘は、皮肉にも彼女に必要だ。意思は言わなくては伝わらず、互いの尊重には交流は不可欠なのだから。
「結ちゃんの意思を強く否定したら、芽生えた疑問も意思も挫けちゃうかもしれません! 意見を言えない心のままになっちゃわないように、気をつけてあげて下さいね!」
 説得をせず弱体化させずに戦うこともできるが、相応の苦戦が予想される。どうするかはケルベロスが選ぶことだ。
 場所は神奈川県のとある高校の校舎内。結から生まれたドリームイーターは教室の机を破壊し、鉄パイプをもぎとって手にしている。
 生徒玄関から出て行くクラスメイト3人を追って教室を飛び出していく、その瞬間を押さえるのが一番だとねむは説明した。
 注意点として、廊下は勿論、校舎内には学生がまだたくさんいる。幸いドリームイーターは、ケルベロスと遭遇するとケルベロスとの交戦を優先するので、避難誘導は高校の教師に頼むことはできるだろう。
「話しあえるようになる、はじめの一歩がうまく行かないだけだって思うんです。だからみんなが手助けしてあげて欲しいなーって。よろしくお願いするのですっ!」
 小さな手を握りしめたねむが、一行を送り出した。


参加者
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)
朔望・月(桜月・e03199)
天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)
暁・万里(迷猫・e15680)
唯織・雅(告死天使・e25132)
櫂・叔牙(鋼翼朧牙・e25222)
龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)

■リプレイ

●くるしみ
 校舎に満ちるざわめき。たくさんの人の気配を前にして、朔望・月(桜月・e03199)は己の足が止まらないように、そっと息を吐いて緊張を解した。
 学校は苦手だ――人の多い、昼間は特に。虐められていた過去を思い出す。
「……櫻」
 共にいてくれたものの名が、唇からこぼれた。
「どうか……僕に一歩踏み出す、勇気を、ください」
 己を奮い立たせて仲間たちに続いて生徒玄関をくぐり、廊下へ入る。
「空気を読むって、難しいですよね」
 月と同様にここの制服を纏ったエレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)が、1年2組の近くの廊下で仲間を振り返った。
「でも、自分の事をちゃんと知ってもらうためには自分の意見も言わないと。それが、大事だと思うんですけれど、ね。やっぱり、難しいですねえ」
 頷いたメリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)は弱々しい声をあげる。
「う、うぅ他人事に思えない……」
「自分が楽しくなければ意味がない。言いたいことも言えないような関係なら、必要ないと切ってしまう僕にしてみれば……彼女みたいな子は偉いとも思うけどね」
 壁に身を預けた暁・万里(迷猫・e15680)が溜息をついた。制服に隠密気流も使って極限まで存在を隠蔽している。
「でもそれでここまで追い詰められてしまうのは、見過ごせないね」
「真面目で。素直な方……なのでしょう」
 スマホを弄るふりをしながら櫂・叔牙(鋼翼朧牙・e25222)が呟いた。
(「そういえば、もうすぐ制服も着なくなっちゃうんだよね」)
 メリノがちらりと高校卒業の後へ想いを馳せた時。
 木と金属が歪む音が響き渡った。1年2組の扉が勢いよく引かれた弾みに外れ飛ぶ。
 同時にケルベロスたちも動き始めた。隠密気流で居ることすら悟らせなかった龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)が、辺りの生徒へ鋭い声を放つ。
「俺達はケルベロスだ。ここで戦闘が始まる。全員、この場から離れろ」
 生徒が悲鳴をあげて駆けだした。居あわせた教師にも声をかける。
「避難誘導を頼む」
 1年2組から飛び出してきた少女――胸がモザイクと化し、結の姿をしたドリームイーターは、ケルベロスたちを見て急制動で止まった。
「申し訳、ありませんが……ここから先は。デウスエクスは……通行止め、です」
 唯織・雅(告死天使・e25132)は制服からケルベロスとしての姿に変じ、傍らにはセクメトが羽ばたく。同様に正体を現しつつ、叔牙は周囲に注意喚起と避難を呼び掛けた。
「この娘は、デウスエクスです! 落ち着いて、急いで……この場から、待避を!」
「ここに近寄らないように皆に伝えながら逃げろ!」
 ライドキャリバーの天狼を伴った天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)も、ドリームイーターを囲む位置取りで吼える。
「皆さん、よろしくお願いします! デウスエクスだ、皆、急いで避難しなさい!」
 隆也や陽斗の指示に頷いた若い教師は、生徒たちに声をかけながら駆けていった。

●さけび
 避難の騒々しい足音が遠ざかる。
(「守ってくれた人達はもう居ない。今度は自分自身で自分も守りたい人も、守るのだ」)
 胸に手をあて自分に言い聞かせながら、月はドリームイーターを見据えた。
『ワタシの、意思を!』
 隆也へ向けられた鉄パイプの一撃は、立ち塞がった雅が代わりに引き受ける。
「そう、簡単には……抜かせません」
「覚悟はいいな」
 威風堂々と告げる隆也を恒星のような黄金のオーラが包んだ。気圧された夢食いの鳩尾に拳を見舞い、隆也は語りかける。
「空気を読む、まあ、軋轢を避ける為に必要ではある。だが、自分にとって大切なものを傷つけられてまで避ける必要があるかは考えなければならないな」
 雅がスイッチを押すと、爆発が起きて前衛の攻撃に加護をかけた。セクメトの翼が癒しの力で治癒を進め、仲間の耐性を強める。
「往くぞ、天狼。悪しきを断つが我らが宿命だ」
 狼のファー飾りをまとった天狼が陽斗に応じてエンジンを唸らせた。夢食いにガトリングを浴びせ、壁を蹴った陽斗が踵落としを食らわせる。
 跳ね起きたドリームイーターと相対する叔牙の背で、四対のエネルギー放出フィンが展開した。フィンの発光と踏込みは同時、鮮やかな軌跡を描くハイキックを見舞う。
「雅さんとセクメトさんのおかげで、強化が早くすみそうですね」
 エレはエクトプラズムで前衛たちの身体を覆った。相棒ラズリが尻尾のリングから飛ばした輪が、ドリームイーターの手元を絞めつけて自由を奪う。
 怒りの唸りをあげる夢食いへ万里は真摯に語りかけた。
「君が空気を読んだり相手の為に気持ちを押込めることはとても尊いし、その気持ちは間違ってないと思うよ。合わせて我慢して、偉かったね」
『合わせて。笑って』
「でも、君は今、楽しい? 楽しくないから、こうなっちゃったんだよね」
 攻撃をかいくぐり、万里が星の落ちるような重い蹴りを食らわせる。夢食いが怒りの叫びをあげ、震えあがったメリノは思わず陽斗の後ろへ隠れた。攻性植物から果実をもぐと、黄金の光で後衛の仲間を強化する。
「回復は間に合いそうですね」
 月が手にしたハンマーを砲撃形態へ変え、夢食いへ砲撃を叩きこんだ。前衛へ突っ込もうとしていた夢食いが吹っ飛ぶ。

●かたり
 陽斗めがけて鉄パイプが投げつけられた。端に結わえた紐で軌道をコントロールしているらしい。タイヤを軋らせて前に滑りこんだ天狼が鈍い衝突音を立てて庇う。
 ふらつく夢食いにミドルキックを叩きこみながら叔牙が告げた。
「言うべき事を、言わず。否定すべきを、否定しないのは……相手の言葉を……肯定しているのと、同じです」
『違う。違う!』
「実際。積極的に、肯定されずとも……否定されぬ限り。相手も、自分の言が……肯定されたと、取るでしょう」
『だから!!』
「とはいえ、暴力は飛ばし過ぎだ。まず、対話を試みろ」
 隆也が一喝した。気迫に一瞬口をつぐむ少女へ、雅が訥々と語りかける。
「周囲の和を、乱さぬ様。気を使う事は……尊い事です。誰も彼もが、我を主張したら。そもそも、会話が……成立しません。それを、感じ取る事も……立派なコミュ力の、一種です」
 思わぬ肯定に夢食いの少女は動きを止めた。前衛がまとう加護の付け漏れがないよう、もう一度爆発を起こしながら雅は少女を見返す。
「その面では。貴女……いえ、結さんは……高いコミュ力を、お持ちの方だと……言えるでしょう」
 首を振った夢食いは、再び鉄パイプを振りあげた。その手元へセクメトが尻尾から飛ばした輪を飛ばす。武器を取り落とした隙に万里が間合いを詰めていた。
「違う意見を持つことも、口に出すことも、空気を読むのと同じくらい大事なんじゃないかな」
 雪解け色の刀身が光を撥ねる。雪代の斬撃は夢食いの体を切り裂いた。次いで隆也の鋭い回し蹴りが脇腹に捻じ込まれる。
「空気は吸うモノだ……なんて言えるようなら、こんなに悩んでねーか。業深き魔の顕現だ、喜べ」
 溜息まじりに呟いた陽斗が腕を掲げた。はね起きようとする夢食いを、天狼がスピンしながらの体当たりで元通り壁に叩きつける。
『届かぬ月、焦がるる儘に汝は崩し、潰すだろう!』
 陽斗の腕は異形のものへと変貌していた。月すら切り裂くような衝撃が、ドリームイーターを壁へめりこませながら引き裂く。
『ああああ!』
「幼馴染を過剰に庇わなかったのは賢い選択だ、逆にイジメの対象にされかねん。残念ながら正しさだけでは救えないのが世の無情さだ」
「結さんが抱いた疑問自体は間違ってません。でも、力で傷つける事は違います」
 仲間を癒す歌が結にまで届いて欲しい――願いを込めて月は歌う。
『わたしは歌う。わたしは願う。あなたへと繋がる「奇跡」があるならば、いつか。たどり着くその未来に。この歌が、祈りが、届くように』
 ――お願い、力を貸して。メリノの求めに応じて、急速に伸びた蔓や枝葉、根がドリームイーターに襲いかかった。
「人付き合いするうえで空気を読むのはとても大切です」
 仲間を守る加護を雅と分担するエレが、ボタンを押し込みながら語りかける。
「でも、思ってることは言わないと、伝わらない事だってあるはずです。相手にわかってもらうためには、力ではなく言葉で伝えませんと!」
 青いリボンを翻して夢食いの背に飛び付いたラズリが爪を立てた。身を震わせた夢食いは叔牙を狙う。彼の頭を狙った攻撃を代わって食らったエレは、トラウマを引きずりだされて苦しげに呻いた。銃を構え、高速演算を済ませた雅が呟く。
「構造的弱点……確認」
 攻撃が数度重なった一点、鉄パイプを携える右の肩をライフルの光条が撃ち抜き、苦悶の声があがった。

●めざめ
 的確な戦略で臨んだケルベロスは、数分でドリームイーターを追い詰めた。攻撃が当たっても大ダメージたりえないが、それが雅が仲間を庇わない理由にはならない。
「抜かせないと……言った、筈です」
 雅の構えたバスターライフルが放つ光弾は、夢食いの攻撃力を中和しながら撃ち抜いた。のけぞる喉をセクメトが爪で裂き、隆也の回し蹴りが壁に叩きつける。
 エレが構えた氷柩の戦斧のルーンが夢食いの目を灼き、冷気をまとった青い刃は肩から胸へと切り裂いた。ラズリの尻尾で輪が輝くと、光がドリームイーターを絞めつける。
「え、えっと……勇気を持って言えるのはとっても良いことだよ。慣れない事でつい言い過ぎたり手が出ちゃうのかもしれない」
 メリノは勇を鼓して口を開いた。彼女の願いを聞き入れた植物が蔓や根を伸ばし、夢食いを絡め取り打ち据える。一方のメリノはエネルギー消費で青ざめていった。
「だけど、クラスメイトって友達だって思ってるのなら。関係を断つ事に力とか言葉を使うんじゃなくて、変わっても関係を続けていく勇気も必要だと……お、思う」
「自分の伝えたい事は、ちゃんと、言葉の力で伝えなくては。たくさん考えて、それでもと思って紡ぐ言葉は和を乱す事はありません」
 治癒を阻害するカプセルをドリームイーターの口へ放りこみながら、月も口を添えた。
「摩擦だらけの関係も。疲れますが……摩擦が無いだけの、関係など。何の意味が、あるでしょうか?」
 叔牙のハンマーがドラゴニックパワーを噴いて夢食いにめりこんだ。骨の折れる異音が響く中、万里が穏やかに語りかける。
「大丈夫。本当の友達なら、違う意見を言っても君から離れたりしないから――さあ、狩りの時間だ、Grizabella」
 陽炎のように揺らめく毛並みの影の猫が万里の影から飛び出した。鋭い爪と牙が赤い血を撒き散らす。夢食いが反射的に鉄パイプを振り回したが、全て空振った。
「重要なのはバランスだ。笑いながら、冗談めかして、真剣に、相手に相応しい方法で斬り出していけ。そうすりゃ息もし易くなるだろうよ」
 炎をまとった天狼が体当たりでよろめかせ、一見冷めた言葉をかけた業魔を宿す陽斗の爪が無残に切り刻む。
「結さん、力ではなく言葉を伝えましょう? 僕らと一緒に一歩、踏み出しましょう?」
 月の呼びかけに、夢食いが苦しげに頭を振った。
 その首にラズリが鋭い爪を立て、振り払おうともがく胸をエレのエクトプラズムの弾が撃ち抜く。ぐらり、揺らいだドリームイーターの腕を掴んで陽斗は囁いた。
「悪夢は終わらせてやる。目覚めたあんたは、今までとちっとばかし違うだろうさ」
 引き締まった身体からは想像もつかないほどの怪力で、夢食いの右腕をもぎ取らんばかりに肩から引き裂く。絶叫が廊下に響き渡った。
「撃ち抜く……!」
 叔牙のエネルギー放出フィンが光を放ち、攻勢エネルギーが彼の手首から先を超硬化させる。脇と肘を締めて引いた次の瞬間、抜き手はドリームイーターの鳩尾に突き刺さった。
『がっ?!』
 前腕フレームが最高出力でスライドし、鋭利化された手刀は一気に胴を貫く。
 ドリームイーターは糸が切れたように動きを止めた。叔牙の腕が抜けると廊下に崩れ落ち、幻のようにかき消える。
 それが少女から生まれた夢食いの最期だった。

●いきかた
 廊下の壁に穴はあいたが、校舎の躯体に影響はなかった。隆也が壁をヒールで回復させて吹っ飛んだ掲示板が元通りになると、メリノが拾い集めた印刷物を貼り直す。
 一方、意識を取り戻した江西・結は目の前にいたケルベロスに恐縮しまくっていた。
「ご、ごめんなさい! 私……なんだか空気が変わるのが、怖くて。うまく自分の気持ちが言えなくて……」
「空気を読むかは状況による。自分にとって良い空気になるように動かすのも手だが、向き不向きがあるのも事実だな。『こうすればいい』という指標は提示できない」
 それだけ言うと隆也は口をつぐみ、結を見守る。戸惑う彼女に月ははっきりと告げた。
「失敗する事はあります」
 え、と上ずった声をあげる結に、今度は力づけるように続ける。
「僕も失敗ばかりで傷付いてばかりです。それでも……守れたものは、あって。それは、一歩踏み出さなかった時よりずっと、尊いです」
「……失敗は怖いです、けど……それじゃダメですよね」
「どっちが正しいとか間違いじゃないよ。どちらも必要な時はあるんだから、結ちゃんの心が楽なようにするのが一番じゃないかな」
 彼女の緊張を解くように微笑みながら、万里は穏やかに応じた。

 仲間と言葉を交わす結を、少し距離を置いて叔牙は眺めていた。
「ケルベロスも、心までは……守る事は、できませんからね……。結局は……彼女が今後。どの道を、選ぶかは。本人の意思に、委ねるしか……できる事、ありませんから……」
「自分でやっていくしかないからな」
 天狼に身を預けた陽斗が首肯すると、ごろごろと喉を鳴らすラズリを構いながらエレは微笑んだ。
「……大丈夫じゃないでしょうか。彼女、笑えていますから」
 ケルベロスの言葉を受けとめた結は笑顔になっていた。地味に暴れるタルタリカを撫でながら聞いていたメリノが、安堵の息をつく。明後日の方を向いたままのセクメトの頭を撫でてやりながら、雅はふと呟いた。
「結果的には、誤った行為でしたが……中々に、考えさせられる。主張でしたね。ドリームイーターも……成長、してるのでしょうか?」
 フレンドリィの意図は不明だが、恐らく人を想いやってのものではない。今後も止めねばならない事件であることは確かだ。
 そっぽを向いたまま、セクメトの尻尾が嬉しげにぴこぴこ揺れた。

 泳ぎを知らない者が溺れもがくように、術を知らず息もつけずにいた少女。
 ケルベロスによって、彼女は新たな一歩を踏み出していくだろう。

作者:六堂ぱるな 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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