●救い無き火刑
夏の始まりにしては随分と蒸し暑い外の空気が、生暖かい風となって街の中を吹き抜けていた。
その日の仕事を終え、大槻・幸治(おおつき・こうじ)は古びた家の扉を開けた。
途端に、中から溢れ出す酒臭い湿気。部屋の隅に転がっている、空き缶から漂っているものだろう。
「……疲れたな。それに、どうも最近は景気が悪い。散々働いて、これぽっちか」
日払いの給与袋を取り出して、幸治は大きな溜息を吐くと、色褪せた畳の上に寝転んだ。
幼くして両親を失い、気が付いた時には身寄りのない生活を続けていた。若い頃は、それでも我武者羅に働いていたが、それも20年近く昔のこと。日雇いの肉体労働だけでは生活して行くのが精一杯で、誰かと話すことはおろか、心から笑ったことさえ遠い昔のようだ。
果たして、自分は生きている意味があるのだろうか。こんな自分など、死んでも誰も悲しまないのではないか。そう、幸治が思ったときだった。
「……っ!?」
突然、全身に激しい痛みを覚えたかと思うと、幸治の身体は急に熱を帯び、そのまま動くことができなくなった。
(「あ……拙いな、これ……。きゅ、救急……車……」)
なけなしの金で買った安物の携帯電話に手を伸ばそうとするも、幸治の身体は動かない。仕事仲間とさえ連絡先を交換していなかった自分が、今になって恨まれたが後の祭りだ。
やがて、幸治の身体は皮膚の下のほぼ全身が脆い炭のように変化してしまった。このままでは、遠からず全身が炭の塊となって死ぬだろう。だが、そんな幸治に救いの手を差し伸べる者は、果たして誰もいなかった。
●炙り焼く病
「召集に応じてくれ、感謝する。今回はお前達に、病魔の退治を依頼したい」
その日、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)よりケルベロス達に告げられたのは、新たなる病魔根絶計画が発動したとの報だった。
対象となる病の名は『炮烙病』。炮烙とは、炙り焼くことを意味する言葉で、その名の通り、この病気に罹った者は皮膚より下の肉体が、炭化したように黒く、脆く変貌してしまう。
「この病気を発症するのは、社会や他人との繋がりを殆ど持たず、孤独に暮らしていた人物だ。それ故に病院にかかることもなく、随分と症状が進行してしまった。おかげで、少し触れただけでも炭のようになった身体部位が崩れ落ちてしまい、病院へ移送することも難しい」
今までの病魔根絶計画とは異なり、今回は患者が倒れている場所へ直接向かい、そこで病魔を倒して欲しいとクロートは告げた。なかなか厄介な病気だが、しかしこの機会に重病患者の病魔を一体残らず倒す事ができれば、この病気は根絶されて、新たな患者が現れることもないはずだ。
もっとも、敗北すれば病気は根絶されず、今後も新たな患者が現れてしまう。おまけに、敵の病魔は火炎や咆哮で複数の者を同時に攻撃できるだけでなく、回復と同時に自身の攻撃力も上げることができる強敵だ。
「まともに正面から戦えば、敵のパワーに圧倒されることになるだろうな。だが……こいつも病魔には違いない。今までの病魔根絶計画と同様に、患者と親密な関係になることで、『個別耐性』を得ることが可能だぜ」
場所が変われど、やることは同じ。今回、患者が倒れている場所は、街外れにある古びた民家。そこに倒れている大槻・幸治という男が、炮烙病の患者である。
「患者の男は親を早くに亡くし、日雇いの肉体労働だけで、20年近く暮らして来たみたいだな。親戚の類もなく、他に頼れる者もいない。そうして重ねてきた孤独を和らげることができれば、戦闘を有利に運ぶことができるはずだ」
大切なのは、身体のケアではなく心のケア。生まれてこの方、殆ど誰とも深い繋がりを持たずに生きて来た幸治の心を理解し、彼が再び誰かと繋がりを持とうとしたり、社会に復帰したりできるようにしてやることが望ましい。
「自分が死んでも、誰も悲しむ者はいない、か……。だが、この世界に生まれて来た以上、意味のない存在など在りはしないはずだ」
命だけでなく、心も救う。それこそが本当の戦いだ。そう言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。
参加者 | |
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軍司・雄介(豪腕エンジニア・e01431) |
風花・つぐみ(夢のひとひら・e20196) |
天城・弥白(天に舞い散る・e20197) |
白銀・夕璃(白銀山神社の討魔巫女・e21055) |
エクレール・トーテンタンツ(煌剣の雷電皇帝アステリオス・e24538) |
萌葱・菖蒲(月光症候群・e44656) |
ディース・ノウェム(星屑投影機・e47172) |
武蔵野・大和(魔神・e50884) |
●孤独に朽ち行く存在
川沿いの通りを抜け、さびれた住宅街へと歩を進めると、程なくして目的の家が見つかった。
「ったく、酷ぇなこりゃ。ちょいと叩いたら、速攻でブッ壊れそうな家じゃねぇか」
近隣住民の避難を終えた軍司・雄介(豪腕エンジニア・e01431)が、改めて病魔に憑かれた男の住んでいる家を見上げて言った。
見たところ、築60年は下らない建物だ。補修も満足に行われておらず、よく今までヒールもされずに残っていたものである。地震や台風は勿論、デウスエクスが一薙ぎすれば、瞬く間に吹いて消し飛ぶような家だった。
そんな場所で、今回の被害者である大槻・幸治は、病魔に憑かれて朽ちようとしている。誰にも知られず、気にも留められず、その身を一片残さず炭にして。
無論、そんなことなど許しはしない。全ての準備が整ったところで、ケルベロス達は幸治の家の扉を開けた。
「お邪魔しま……! ちょっ……な、なにこの臭い!?」
瞬間、部屋の中から溢れ出る凄まじい臭気に、天城・弥白(天に舞い散る・e20197)が思わず口元を押さえて顔を顰めた。
埃とカビと、それに酒と生ゴミの臭いだろうか。こんな場所にいては、ただでさえ酷い病状が、ますます悪化してしまい兼ねない。
「肉体が炭の様に脆くなり、動けなくなる病魔……ゾッとします」
「孤独は人を殺すなんて話を聞きますが、あながち間違いでもないんですね……」
あまりに壮絶な部屋の様子に、ディース・ノウェム(星屑投影機・e47172)と武蔵野・大和(魔神・e50884)は、それ以上は何も言えなかった。
ここは日本だ。それは間違いない。だが、しかし、目の前に広がる光景は、まるで外国のスラム街の一角を思わせる異質なもの。デウスエクスの襲撃を受け続けているとはいえ、それでも懸命に生き続ける人々の住まう国に、未だこんな場所があったのかと。
「う……ぁ……。だ、誰……だ……」
ともすれば崩れてしまいそうな身体で、部屋の真ん中に転がっていた塊が、目だけを動かしてケルベロス達に尋ねた。
病状は、思っていた以上に深刻なようだ。炭のように変色した塊が患者である幸治だと理解するのに、その場にいた全員が数秒の時間を要する程に。
「もう大丈夫だよ! つぐみ達が来たからね!」
風花・つぐみ(夢のひとひら・e20196)が慌てて駆け寄り、幸治の様子を確認する。その後ろでは、なぜかエクレール・トーテンタンツ(煌剣の雷電皇帝アステリオス・e24538)が、謎の光をバックにドヤ顔で仁王立ちしていたが。
「貴様は一人ではない! 何故なら! そう! 雷電皇帝たる余が来たからだ!! この世界は須らく余の庭! そこに住まう者に手を差し伸べるのも余の務め!」
「……え、えぇと……な、なん……だ……君、は……?」
残念ながら、今にも崩れてしまいそうな幸治には、エクレールのノリが良く解らなかったらしい。
「……私達は……ケルベロス。あなたを……助けに来た……」
困惑する幸治に、萌葱・菖蒲(月光症候群・e44656)が端的だが、しかし無駄のない言葉で説明する。その上で、白銀・夕璃(白銀山神社の討魔巫女・e21055)は幸治の手を優しく包み、崩れないように注意しつつ指をなぞった。
「お体、少し診せて頂いても……? ……大丈夫……必ず治しますから」
炭化寸前の、黒ずんだ指先。だが、それでも注意して触れて行けば、良く働いた跡が判る力強い手だと判る。
この男性を、死なせてはならない。言葉に出すことこそしていなかったが、幸治の姿を見たケルベロス達の想いは、等しく同じものだった。
●一握りの救い
淀んだ空気の漂う部屋に、表情も乏しく転がる幸治。彼の病状を考えると一刻も早く病魔を召喚して退治したいところだったが、その前に準備が必要だ。
「ずっと同じ姿勢のままだとお辛いでしょうし……。体が起こせそうなら……少しご飯に、しませんか?」
まずは、食事をさせて力をつけさせようと夕璃が尋ねたが、幸治は力無く左右に首を動かすだけだった。
「駄目……だ……。もう……手も……足も動か……ない……」
高熱と炭化の進行により、幸治は既に喋るのも苦しい状態だった。それならば、せめて掃除や買い物を含めた家事を手伝わせてくれないかと、雄介が収納グッズを取り出した。
「一人暮らしじゃなにかと不便だろ。なにか必要なものとか、やってほしいことないか?」
遠慮は要らない。苦しいときは、お互い様だ。そんな雄介の言葉に続け、つぐみと弥白もまた部屋に転がったゴミを片付け始め。
「とりあえず……お掃除してもいい? また、散らかっちゃうかもしれないけど、全部終わったらちゃんと綺麗にしたげるね! それに、美味しいご飯もあるから、楽しみにしててね!」
「……誰かと食べる食事はきっとおいしいわよ。病気は私たちが祓って見せるから、終わったら一緒に食べましょ」
絶対に助ける。だから、信じて待っていて欲しい。そう言って励ます二人だったが、しかし幸治は溜息を吐いて、彼女達から顔を背けた。
「放って……おいて……くれよ……。頼む……から……このまま……死なせて……」
ここで元気になったところで、どうせ自分の居場所など何処にもない。明日をも知れぬ、夢も希望もない貧乏暮らしが始まって、いつまた悲惨な目に遭うかも判らない。
そんな人生なら、いっそのこと炭になって消えてしまった方がマシだ。どうせ、自分が死んでも悲しむ者など誰もいない。行きずりの御節介で助けるぐらいなら、人知れず静かに消えてしまった方がいい。それが、幸治の答えだった。
長年に渡り、孤独で惨めな生活を続けてきたという現実。それに病気が重なって、幸治の心は既に芯まで折れ掛けていた。
このままでは、仮に病魔を払ったところで、彼は遠からず自らの命を絶ってしまうかもしれない。だが、当然のことながら、そんな未来などケルベロス達が認めようはずもない。
「今までずっと一人で生きてきたんですね。お疲れ様です」
「大丈夫、こうして僕達が来たんです。あなたを一人きりで死なすなんてことはさせません。絶対に」
大和とディースが、それぞれに幸治と手を重ねた。崩れないように気をつけつつも、その言葉に込められた力は強かった。
「……僕は元々、この星で生まれた者ではありませんでした。僕の生まれた星で、先輩ケルベロスに助けられて、僕もケルベロスになりました」
だから、次は自分が助ける番だ。それに、この病気が治ったら美味しいパンが待っていると、大和は自分の身の上を交えて幸治に告げ。
「こうして存在を知ってしまった以上、僕はあなたに生きて欲しいです」
「……いつでも……電話して…。話し相手くらいには……なるから……」
どれだけ辛いことがあっても、もう貴方は独りではない。ディースの言葉に続けて菖蒲が自分の携帯電話の番号を教えたところで、つぐみもまた倒れたままの幸治の顔を覗き込んだ。
「せっかく出会ったんだもん! 今日は病気で辛いだけの日じゃなくて、たくさん頑張ったご褒美の日にしてあげたいからね!」
だから、そう簡単に死ぬなどという言葉を使わないで欲しい。その想いは、ここにいる全員が同じなのだ。
「これで解ったでしょう? いなくていい人なんて、いないのよ。当然、貴方もね」
苦笑しつつも諌めるような口調で弥白が言った。その言葉を聞いて、幸治はしばし目を瞑ると、静かに息を吐きながら天井を仰いだ。
「あ……ありが……とう……。あぁ……なんだか……胸が熱い……」
病魔のもたらす地獄のような熱さとは違う何か。それは、幸治が長きに渡り、忘却の彼方に捨て去ってしまった感情である。
「大槻さん……それは、ぬくもりというものです。今までのあなたに……足りなくて……でも、絶対に……必要なもの……」
優しく微笑みながらも、何かを決意したようにして立ち上がる夕璃。
もう、これで幸治の心は大丈夫だろう。ならば、後は今も彼を苦しめ続けている病気の根源を呼び出して、徹底的に退治するのみ。
「皆さん……準備、いいですか?」
意識を集中させ、夕璃が幸治の中に巣食う病魔を召喚する。刹那、凄まじい熱風を共に現れたのは、漆黒の身体から絶え間なく炎を吹き出す猛牛だった。
「ブモォォォォッ!!」
鼻息も荒く、病魔はケルベロス達を睨み付ける。だが、幸治だけでなく、この病によって苦しめられている全ての者を救うためにも、ここで退くという選択はない。
「まったく、趣味の悪い病魔も居たモノよな!」
手に携えた槍に雷を落し、紫電を纏わせエクレールが構えた。
戦いは、これからが本番だ。炙り焼きの拷問の名を冠する病魔を前に、ケルベロス達は幸治を守るようにして散開し、一斉に攻撃を開始した。
●燃える猛牛
孤独により弱った心の隙間。そこに付け入り、心身の全てを焼き尽くさんと荒れ狂う、猛牛のような姿をした恐るべき病魔。
炮烙病。まともに戦えば、実に強力な敵であったことに間違いはない。だが、それでも今のケルベロス達には、幸治から得た信頼の力がある。それを以てすれば、病魔の繰り出す炎や咆哮とて、彼らの前にはそよ風程度……の、はずだったのだが。
「ふははは! 余が来たからには百人力! 大船に乗ったつもりでいるが……って、熱っ!? この病魔……まさか、暗黒炎術の使い手だとでも言うのか!?」
他の者達がなんとか炎に耐えられている中、エクレールだけは一際手痛いダメージを負っていた。どうやら、厨二病でカッコつけるのを優先した結果、彼女だけは幸治から得られる信頼の力が薄かったらしい。
「大丈夫ですか? 油断は禁物ですよ」
見兼ねた大和が掌底の風圧で強引に炎を吹き消したことで、なんとかエクレールが消し炭にされることだけは防がれた。厨二病を拗らせた結果、最後は炎に抱かれてサヨウナラ等、本気で洒落になっていない。
「おのれ……よくも、余の身体に下劣な炎を吹きかけてくれたな! その罪、万死に値すると知れ!」
まあ、焼かれた本人はあまり気にせず、お返しとばかりに炎の蹴りを敵に叩き込んでいましたが、それはそれ。
「ブモォォォッ!!」
テレビウムの雷光の従者が大剣にも似た狂気で病魔の尻を叩き割り、亀裂から凄まじい勢いで炎が漏れ出した。そこを逃さず、雄介が狙い澄ました斧の一撃で、今度は脳天をカチ割って行く。
「オラ、どうだ! このまま一気に、押し切っちまおうぜ!」
「そうね。あまり長引かせると、幸治さんの身体に障るかもしれないし」
雄介の言葉に、頷く弥白。彼女が竜の爪を伸ばして構えれば、同じくつぐみもまた巨大なパイルバンカーを携えて、一気に病魔へと肉薄する。
「いくよ、弥白ちゃん! 絶対に、幸治さんをs#tあげるんだから!」
「ええ! 合わせるわよ、ぐみちゃん!」
ノイズの混ざるつぐみの声に、弥白が軽く頷いた。巨大な杭が、鋭い爪が、それぞれに病魔の身体を抉り、そして斬り裂く。抗う病魔は、未だ部屋の奥で倒れたままの幸治を見やると、最後の足掻きとして彼から力を奪おうと試みるが。
「これ以上、大槻さんの身体は……蝕ませません……!」
すかさず、夕璃が対デウスエクス用のウイルス入りカプセルを口に放り込んだことで、敵は己を回復する力さえも弱体化させられた。
「対象情報のデータ化を完了しました。分解を開始します」
今までの戦闘で得た情報を基に、弱った病魔をディースが容赦なく分解して行く。もはや、死に体の負け牛となった病魔に対し、情けを掛ける者など一人もおらず。
「……一気に……決める!」
崩壊を始めた病魔へと、菖蒲が瞬時に距離を詰めた。
その手に握られる刃より繰り出されるのは、常人には扱えぬ達人の一撃。研ぎ澄まされた一閃を振るえば、それは絶対零度の吹雪を呼んで、燃え盛る業火さえも凍らせる。
「モ……モ……ブフォォォォォッ!!」
内より溢れ出る熱と、外より襲い来る凄まじい冷気。その温度差に、耐えられなかったのだろうか。
全身の亀裂から炎を吹き出して、炮烙病の病魔は木っ端微塵に弾け飛んだ。部屋の中に散らばる、黒い残骸。だが、やがてそれも灰色の煙を出しながら、全て溶けるようにして消えてしまった。
●本当の希望
戦いの終わった部屋を軽く片付けた後、ケルベロス達は改めて、回復した幸治と向き合っていた。
「よかったですね……。さあ、一緒にご飯にしませんか?」
「美味しいパンもありますよ。食べきれなければ、置いて行きますね」
夕璃や大和に勧められ、幸治は軽く頷いて食事を口に放り込んだ。数日間、何も食べていなかったようで、実に豪快な食べっぷりだったが。
「……少し、いいかい?」
ふと、幸治が唐突に箸を止めてケルベロス達に尋ねた。
「どうしたの? 口に会わなかった?」
「いや、そうじゃないんだ。ただ……最後に、少しだけお願いがあってね」
弥白の心配を軽く否定し、幸治はケルベロス達に向き直って顔を上げた。そこには、先程まで炭になって消えてしまいたいと言っていた、弱きで独りぼっちな男の顔はなかった。
「俺以外にも、こういう暮らしをしている人間は、知られていないだけで大勢いるんだ。だから……それを同じ社会に生きる連中にも伝えて欲しい。あんた達が、俺の部屋で見たもの、聞いたもの……全部、包み隠さずな」
デウスエクスの脅威に比べたら、貧困など大した問題に思われないかもしれない。だが、それでも誰かに知ってもらうことで、やがては世界も問題に目を向けるようになるはずだ。
その場凌ぎの施しでは、恒久的な救いにはならない。それはケルベロス達も解っていたが、だからこそ、ここで幸治に何も残さず去るのは気が引けた。
「解りました。それが、あなたの願いならば……。ですが、あなたに生きて欲しいと思っている人間がいることも、同時に忘れないでくださいね」
釘を刺すようにして、ディースが告げる。その言葉に、幸治は軽く頷いて答えた。
「……寂しくなったらいつでも連絡くれ。遊びにくるからさ」
「生きる意味も繋がりも、これからいっぱい見つかるよ。嘘だって思うなら……まずはわたしが友達になったげる! ……だめ?」
雄介とつぐみも、それぞれに幸治へと約束した。最後に、菖蒲がシガレット型の砂糖菓子を取り出して、それを一本、幸治に勧めた。
「……どうぞ」
「ありがとう。遠慮なく、いただくよ」
ぶっきらぼうな言い方だったが、幸治は気にせず受け取ってくれた。そんな彼らの姿を見て、エクレールだけは何故か最後までドヤ顔を崩さず、盛大な高笑いを響かせており。
「ふははは! やはり、余に不可能はない! これからも、困りごとがあれば遠慮なく助けを呼ぶが良い!」
なんというか、この人だけは最後まで、まったくブレていなかった。
作者:雷紋寺音弥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年6月19日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
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