病魔根絶計画~花蕾

作者:ねこあじ


「えっへっへ、きょーはイーカンジに稼いだぞぉっ♪」
 日伊・ルナは足取り軽く、自身の住処へと向かっていた。
 そこは廃屋で、彼女は無断で住んでいる。
「ちょーラク」
 ニコニコ笑って、おじちゃんのおしゃべりを聞くだけで、お金がもらえる。
 下町っぽいところで暇そうに座ってれば、あっちから声をかけてくるのだ。
 ルナは十四歳だった。危ないなぁって思った時は、蹴り入れてこの身軽な体で一目散に逃げるし、会うのはそれっきり、と注意している。
 住処はちょくちょく変えて、住む町も変える。
 母はいない。父は暴力を振るい、何度もルナに怪我をさせた。
 学校のみんなや先生は助けてくれようとしたけれど、父が暴れ、結局みんなは近寄ってこなくなった。
 我慢できなくなったルナは、家にあった菓子パンとペットボトル、そしてお気に入りの物をできるだけ持って家をでた。
『自由』な日々は、他人を気にしなくていい日々は、なんと楽しいことか。
 昔の家とは違う、今の『家』に帰った彼女は、くたびれた鞄を放り投げて地面に座りこむ。
 反動だろうか、ふらりとした。
「……?」
 ふらり、ふらり。
 眠ったら治るかな? そう思ったルナは寝転んで、目を閉じた。
 ――それからすぐに高熱を発したルナは、一人苦しむ。
 一人で生きていく。それはひとりぼっちだということ。
 誰も、助けてはくれない。

「……ッ、おかあ、さん……」
 ほろりと涙が零れ落ちた。
 症状は進行していく。
 皮膚の下は、ほぼ全身が脆い炭のようになっていた。
 このままだと、全身が炭の塊となり、ルナは人知れず死んでいくこととなる――。


「今回集まってもらった皆さんには、病魔を倒してほしいのです」
 炮烙病という病気を根絶する準備が整ったことを、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はケルベロス達に説明する。
「皆さんは、この中で特に強い、重病患者の病魔を倒してください。
 今、重病患者の病魔を一体残らず倒すことが出来れば、この病気は根絶され、もう、新たな患者が現れることもなくなるでしょう。
 ですが、この病魔に敗北すれば病気は根絶されず、今後も新たな患者が現れてしまいます」
 この病気を発症するのは、社会や他人との繋がりをほとんど持たずに孤独に暮らしていた人物。
 それ故に病院にかかることもなく、また、病状が進んだ現在では、少し触れただけでも炭のようになった身体部位が崩れ落ちてしまう。
 これだと、病院に移送するのもできない。
「そのため、皆さんにはこの子が倒れている場所へと直接向かっていただき、そこで病魔との戦闘を行ってほしいのです。
 デウスエクスとの戦いに比べれば、決して緊急の依頼というわけではないでしょう。
 ですが、この病気に苦しむ人をなくすため、そして日伊ルナさんを救うため、作戦の成功を目指してください」
 と、セリカは言った。
「高熱を出させてからの病魔となりますので、そういった類の攻撃を仕掛けてくると思います」
 彼女は説明を続ける。
 今回は、この病魔への『個別耐性』を得られると、戦闘を有利に運ぶことができる。
 個別耐性は、誰とも繋がらずに過ごしてきた患者の孤独を、「あなたは一人じゃない」というような感じで和らげてあげると得られることができるだろう。
 病気が治った後に他人との繋がりを持ち、社会に復帰できるような、希望。
 あのセカイで、もう少し待っていたら、きっとたくさんの大人達が少女を助けに動いたことだろう。
 けれど彼女は待たなかった。
 そもそも、そんなことは知らないし、限界だったのだ。
「どうか皆さん、この病気で苦しんでいる彼女を、助けてあげてください」


参加者
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)
レテイシャ・マグナカルタ(自称遺跡探索者・e22709)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)
ニャルラ・ホテプ(彷徨う魂の宿る煙・e44290)
梅辻・乙女(日陰に咲く・e44458)
レーニ・シュピーゲル(空を描く小鳥・e45065)
アムリタ・ラジェンドラ(ちいさな巨神・e53227)

■リプレイ


 炮烙病――この病を根絶するため、廃屋に訪れたケルベロス達。
 屋内の日伊・ルナ(にちい・―)は熱があるためか呼吸が大きく浅く、そして微かに炭が香る。
「ルナさん、たすけにきたよ」
 レーニ・シュピーゲル(空を描く小鳥・e45065)が屋内の段差を小さな翼でふわりと越え、ルナの傍に降り立った。力なく開く目。
「はじめまして、嬢さん。お前さんの家……てわけじゃ本当はないんだが、お邪魔するぞ」
 そう言ったヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)は室内のスイッチを押したが、反応が無いのを見て、持参した自動発電機を置いた。
 壁の一片は瓦礫が転がり、古い戸板が打たれた室内。
 ルナと目があったレテイシャ・マグナカルタ(自称遺跡探索者・e22709)は傍に座る。
「オレはレテイシャ、助けに来たぜ。
 今、ルナは、何かに触れるとルナの体が危なくなる病にかかってる」
「出来る限り、動かないようにして欲しい」
 同じく屈み、告げるのは梅辻・乙女(日陰に咲く・e44458)。
 乙女はそっと手を翳した。触れずとも熱が仄かに掌に伝わる。
「君は、炮烙病という病に冒されているんだ。
 辛いかもしれないけれど、少しだけ、我慢して欲しい。
 ……必ず君は、我々が助けるから」
 やや意識が朦朧としている様子のルナは、理解したのか、一度目を伏せた。
 高熱にかかるルナは声を出すことが叶わない様子。
 レテイシャが吸い口をつけたスポーツドリンクを見せると、ルナが口を微かに開いたので、慎重に、触れないように僅かな水分。
 ニャルラ・ホテプ(彷徨う魂の宿る煙・e44290)は、からりと音の鳴る窓を開けた。
 彼女の煙管から香るさわやかなそれに外の空気が混ざり合う。
 室内に引き返したニャルラは、少しでも楽になるようにと香を焚く。鎮静効果のある香りだ。
 気流ができると、室内の空気が衝立越しに設置された扇風機で循環されはじめ、加えて僅かながら水分補給のできたルナの呼吸は少し落ち着きを見せてきたのに対し、自身の内にある『病魔』を知ったせいか瞳には怯えの色が見えた。
 レーニは寄り添う。
「レーニ達は強い子だから大丈夫。置いて逃げたりしないよ。
 痛いのも怖いのも、レーニ達が一緒にたたかうから。
 病魔をやっつけるから――そしたらレーニ達、戦友になれるね!」
 励ます微笑みは楽しい未来を描くように。
「それで、元気になったら一緒にあそぼ」
 パレットの明るい空色を下地にして、人気のお店のパンケーキ、今年流行のハイウエストワンピースを実際に描いて見せれば、ルナの瞳が輝く。
「人気のお店でスイーツ食べて、買い物行って、それから笑顔で、またね! って約束するの」
 活力というものは大事で、それがあるからこそ生者は前に進もうとするものなのかもしれない。それを根底に、この歪な環境から抜け出す勇気。
「ルナちゃん」
 話しかけるのは、館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)。
 声に反応し、ルナは詩月を見上げた。最初の言葉で、なるべく動かないようにしているのが分かる。
 ここに到着するまでに、あちこちへ連絡をとった詩月は得ることのできた情報を整理し、ルナが理解できるよう分かりやすく説明すれば、懸命な様子で聞いてくれる。
 ルナの住んでいた地区ではルナの保護に踏み切ったところで、彼女は出奔。行方を捜す福祉関係者が警察へと届け出ていた。
「この生活から抜け出しても、前の生活には戻らなくてもすむんだよ」
 だから治そう、と柔らかな色を僅かに含む声で、詩月は言う。
 詩月はルナへ明確な道を示す。
 そしてその中で母親のことも明らかになっている。消息不明という生存の可能性。
 メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)は年上の少女に優しく話しかけた。
「ミス日伊、お母さんが生きてるならもう一度会わなきゃ」
 どうして少女の傍にいないのか――それは母親にしか分からない――でも、この世界にいる可能性。
「抱きしめてもらわなきゃ」
(「メアリのママはもういない」)
 いるけどいない――ビハインドのママを見上げ、付随する過去を思う。
 流れる子守唄は、懐かしい声で。
 メアリベルが一音一音、心を込めてマザーグースを唄っていると、ルナが口を開いた。
「やさしい、おと、ね」
 酷く掠れた声だったが――その表情に、今まで誰も唄ってくれなかったのだろうと知ったメアリベルの灰の瞳が潤み、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
「ルナちゃん……ずっと寂しくて、辛かったんだよね」
 ぺたりと座ったアムリタ・ラジェンドラ(ちいさな巨神・e53227)は両手を床につけ、ルナに目線を合わせようとした。
「あのね、アム、ルナちゃんのお友達になりたいな!
 もしお父さんにいじめられてもアムが守ってあげる!」
 ルナは潤んだ目を瞬かせた。
「アム、オウガだからちょっとぐらい殴られてもへっちゃらだし、力比べになっても負けない自信あるよ。
 それに、ここにいるケルベロスのみんなは強くて優しいよ!
 だから絶対に大丈夫!」


 アムリタは思う。
(「家族に暴力を振るって怖がらせるなんておかしいよ。
 アムの家族も武術の修行で戦うことはあるけど、それは相手を怖がらせるためじゃないし、怪我させちゃったらちゃんと手当てもするよ」)
 それに、いつもとても優しいのだ。
「元気になったら、皆で一緒に遊びに行こうよ。
 何かに怯える必要なんてない。心から笑えるようにね」
 アムリタの声に頷きながらレーニは絵を描き続けている。楽しい事の候補はいっぱいあっていいのだ。
 優しいとうさまから教わったレーニの絵で、優しさが伝わればいいな、とそんな気持ちをこめて。
「オレの家には色んな理由で親元に居られなかった弟妹が沢山いてよ」
 レテイシャが、話す。
 彼女のいる孤児院は、デウスエクスに親を殺された子、事情あって家庭から離れた子。
 レテイシャの家族になってくれた院長のように、ルナの支えになってやりたいと彼女は思った。
「血が繋がってなくても家族として助け合って暮らしてる。だからお前を見捨ておけねぇ。
 誰かが怖くて誰もお前を助けてくれなかったか?」
 家庭と環境。噛み合わなかった歯車。
 それらを丁寧に拾いあげ、ケルベロス達は組立てていこうとする。
「安心しろオレ達はケルベロスだぜ、怖いものなんてねぇ……治ったらお前の手を離さない、その為に来たんだ」
 ルナの手へ、触れないように手を翳す。
 メアリベルもそっと手を翳した。
「貴女は一人辛い境遇に耐えてきた。けれども……貴女を助けようとした人間が誰もいなかった訳じゃない」
 ルナの母がどんな人なのか……それは分からない。けれど真っ直ぐな心の糧となることを祈り、
「最後にすがれる人がいるなら貴女は一人じゃない。さしのべられた手を受け取る勇気をもって」
「ルナさんが崩れちゃったら泣いちゃうよ……治ったらいっぱい手を繋ごう」
 レーニも両手を翳し、冒す熱とは違う温もりを与えようとする。
「どうしようもない身内といるより、今の独りのほうが気楽だったでしょう。
 でも、こういう時にちょっと困るのよね……」
 ニャルラのどこかのんびりと揺蕩うような声は、大人の女性そのものだった。
「だから、頼る相手はいた方がいいわ」
 じっと見つめてくるルナへ、微かに頷いてみせる。
「あなたは一人じゃないし、手助けしてくれる人は必ずいるから」
 ね? と言い添えたニャルラの言葉を浸透させるよう、一度目を閉じるルナ。
 ふむ、と顎を撫でたヴィクトルは今一度室内の風向きを確かめたのち、ルナの近くに腰掛けた。
 そして、とりとめのない話から始める。
「俺の死んだ兄貴は、詩人になりたいと言っていた。
 最近ハイスクールに進学した俺の一番上の妹はモデルになりたいと言っていた」
 ヴィクトルは二拍置き、「……なあ、ルナの嬢さん」と語りかけた。
 活力たるものを得、取り巻く環境の理解――踏み出す一歩は、強ければ強いほど、いい。
 上を向いて、目を輝かす渇望を、彼女に。
 ルナに憂いなく道に立って欲しいと願うケルベロス達は言葉を重ね続けてきた。
「お前さんに、夢はあるかい?
 何かになりたい、誰かに会いたいって夢を。
 夢を叶えるには、お前さんが思う以上に、協力してくれる人と沢山の金が必要なんだ」
「ゆ、め……」
 少女の目が潤んだ。動きたい、動けない――動いてはいけない、そんな葛藤が見て取れる。
「夢と自由を両立するのは難しいものだ。
 ……だが、まずは、お前さんの身体の中で好き勝手している病魔を潰してからだ。俺達ケルベロスが力を貸してやる」
 ルナの目を見て、ケルベロス達は要請に応じ同行していたウィッチドクターへ頷いた。
「……抗え、お前さんの夢を、病魔に明け渡すな!」
 ヴィクトルの言葉とともに病魔召喚が行われる――緊張で呼気が乱れそうなルナに、乙女が言葉を添えた。
「……実を言うとね。
 私も、実家から逃げてきたんだ」
 こくりとルナが喉を鳴らす。
「ずっと辛くて、寂しくて……誰も、助けてくれない。
 ……よく、今まで我慢したね」
 そう言って、微笑みかける乙女。
 排出された熱気が渦巻く。牛を象る黒体。
「――さあ、もう暫くの辛抱だ」
 オオオォォォ――熱の奔流がケルベロスを叩く。
 間髪入れず動いたのは詩月だ。
 跳躍し病魔に体当たった彼女は、敵を後退させたのち強く腕を払う。
「専門ではないけれども、心得はあるからね」
 作りあげた間合いのなか、半身を捻り弧を描く蹴撃を繰り出した。
 病魔の衝突に、古びた戸板が外れる。


 詩月を鏑矢の役と見なせば、そこはもう戦場だ。
 ルナと医師を背に布陣するケルベロス達。
 魚鱗の陣――レーニはアオハネを振った。
 ひらりひらりと舞う鮮やかな青の羽根は力を発揮し、前衛に破魔力を与えていく。
 詩月の初撃に乗じ、一瞬で壁際に追いやられた病魔に向かってレテイシャが地面を蹴り翼をはためかせた。
 半ば飛ぶように、跳躍したレテイシャが電光石火の蹴りを病魔に放つ。
 同時に、ヴィクトルの瓦礫を使った跳弾射撃が病魔を撃ち抜いた。
「でりゃあああっ!!!」
 その突撃は射撃に怯んだ敵を押し退け、広がる空の下が軍庭となった。拳を突き出し、蹴りを放つ彼女から飛び退く病魔を今だヴィクトルの銃口が追う。
「“炮烙”にファラリスの雄牛……刑罰と処刑道具か……俺のような社会のはみ出し者には、最低にキツいモチーフだな!」
 敵の動き、跳弾の場、角度。判断は一弾指、ヴィクトルは病魔の死角をとっていく。
「いこう、ママ」
 はたりとカナリアイエローの翼、ふわりと赤の髪をなびかせて、メアリベルは巨大な斧を手にした。
 ママの手が上向けば地の礫が浮き、ママが腕を振るえば敵を撃ち抜く勢いで礫が放たれる。
「リジー・ボーデン斧を振り上げお母さんを40回滅多打ち! メアリは41回滅多打ち!」
 メアリベルが斧を振り下ろせば斬風が巻き起こり、一閃された敵胴は放射状に痕が刻まれていく。
 敵から噴き出す鮮やかな炎に照り返す斧の刃色。
 その色が濃くなる――刹那、病魔から炎が吐き出され、渦巻く奔流がケルベロス達の肌を灼こうとする。
 しかし炮烙病の個別耐性を身につけた彼らには、炎は肌の表面を舐めるように這いあがっただけで、すぐに散った。
 家屋にすら迫る炎を斬り払うように、喰霊刀を振るう乙女の肌にも熱の残滓。
(「自由、か……」)
 自身が自由だと言い聞かせる事で、少女は寂しさや孤独から逃れようとしたのだろうかと乙女は考える。
(「彼女は未だ若い。
 彼女は未だ、絶望に落とされるには早過ぎる」)
 接敵した彼女が振るう剣捌きは艶やかで。下方から斬り上げる剣筋は拓くものだ。
(「……ルナがこれからの未来、笑っていられる様に」)
「私ができる、最善を」

 たおやかな指を愛用の煙管に添えながら、ニャルラは風向きを読んだ。
 香をふかし、風上から病魔に向かって吐き出す。
「君はもう、動けない」
 さわやかな針葉樹の香りは、病魔の神経を刺激し麻痺させていった。
 戦いという盤上、優位に立つケルベロス。
 連携し、病を刈るべく攻撃を重ねていく。
 駆ける黒体から噴き出る炎に怯むことなく、アムリタが拳を繰り出す。腰を落とし、丹田に力を込め打ち放った一撃は敵胴を強く穿つ。
 ギャンと叫びをあげて仰け反った病魔に、箱に入ったボクスドラゴンのナジャが体当たりした。
「迷子の迷子の、」
 レーニが水彩絵筆で空をひと撫ですれば、さあっと広がる白。敵の黒も塗り潰されて。
 玲瓏たる朝霧に紛れ敵懐へ入った詩月は、ナイフを翻す。
「ここで、終わらせよう」
 炎宿る眼窩、そして胴から首へと走った刃――次の瞬間、敵は数多な傷から強く炎を吐き、ぼろりぼろりと身を朽ちさせていく。
「オオオォォォ」
 重低音を響かせるのは、病魔の声か、熱の気流か。


 少しでも楽になるようにとアムリタからの回復、加えて水分補給したルナは、恐る恐ると起き上がった。
「衰弱も激しいから、無理をしないようにね」
 詩月が言えば、ルナは頷くとともに少しふらりとする。
「入院して、まずは回復に専念することだ」
 ヴィクトルの言葉に、病院が怖いのか少し不安そうな表情を浮かべる。
「大丈夫! しっかり食べて寝てれば、元気になる!
 その後は……ウチに来るか?」
「……いーの?」
 レテイシャを見て、そわそわとしながらルナは言った。
「勿論だぜ。色々手続きあっからなぁ、見舞いがてら決めていくか」
 な! と詩月を見て言うレテイシャ。
「お見舞い! レーニもお見舞いに行くね」
「アムも!」
 レーニとアムリタが遊ぶ約束をする。
 そんな彼女達を、ニャルラはどこかぼんやりと見守っている。
 孤独なルナの心境をある程度は理解しているニャルラ。彼女もまた、過去、気付けば一人でいたのだ。
 とはいえ、それからすぐに話し相手などを作り気楽に生きてきた――仲間の大切さを知っている。
(「まだ子供だし、頼る相手さえできれば大丈夫でしょう」)
 と考えながら、自らが調合した火皿の香をふかした。
「あの、いろいろありがとーございました」
 ルナは微笑んで礼を言う。慣れていないのか、少しだけぎこちない。
「……君は、これからどうしたい?」
 乙女は問うた。添えた手に温もりを感じる。
「君が決めるべきだ。
 ……君の、自由だから」
「……まだ、よくわかんないけど、ちゃんと笑えるようになりたい、気がする」
 ケルベロス達にちゃんと向き合って、少女は言う。
「これを、贈るわ」
 メアリベルがBlue Moon Ritusをルナの手に。
「貴女の名前はルナ、月の異名」
 月を模したお守りが未来を照らしてくれるよう祈って。
 清廉な蒼の月長石は、陽のなかきらきらと輝く。

作者:ねこあじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月19日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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