レインボースイーツシャワー

作者:遠藤にんし


「この色彩溢れる世界。スイーツであっても、その色彩を失うことは許されない」
 断言するビルシャナ。
 テーブルには言葉通り、色とりどりのスイーツがある――果物の色をそのまま活かした淡いものから、着色料を用いた濃いものまでさまざま。
 和菓子も洋菓子もある中、それらは全て七つ以上の色から出来ていた。
「これほどまでに色彩に満ちた世界で、スイーツに少しの色しか使わないというのはまさに蛮行。スイーツであるならば、多彩な色にあふれるべきだ!」


「色とりどりのスイーツは、見ていて楽しいよね」
 高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)はそう言って、今回の事件の説明を始めた。
「今回のビルシャナは七色のスイーツを好んでいるらしい。それよりも色の少ない……六色以下で構成されたスイーツについては否定的な意見を持っている」
 今のところは営業の終了したカフェに潜入して虹色スイーツを作っているだけだが、今後、どのような事件に発展するか分からない。
「不安の種は、未然に潰しておこう」
「現場となるカフェは閉店して数時間が経っていて、店員も誰もいない状態だ」
 ビルシャナと配下はまたま施錠が漏れていた裏口から入り込んだ模様。
「『スイーツは七色の虹色であるべきだ』という思想のようだが、色数を揃えることが優先されてしまっているようだね」
 色や味のバランスとしては、決して良いものではない……そう聞いて、空野・紀美(ソラノキミ・e35685)は唇を尖らせる。
「ぜんぜんインスタ映えしないっ!」
「そうだね、見た目も食欲がわくものではないね」
 配下らについては、戦う前に説得をすれば正気に戻る可能性がある。
「スイーツの魅力が何なのか、しっかり伝えてあげたいね」


参加者
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)
未野・メリノ(めぇめぇめぇ・e07445)
シンシア・ミオゾティス(空の弓・e29708)
クラリス・レミントン(サナギ・e35454)
空野・紀美(ソラノキミ・e35685)
天喰・雨生(雨渡り・e36450)
翔羽・水咲(産土水に愛されしもの・e50602)
トーキィ・ゼンタングル(天真爛漫モノクロガール・e58490)

■リプレイ


「ちょーっと待ったーっ!」
 空野・紀美(ソラノキミ・e35685)の声にしゅばばっと集まったのはケルベロスたち。
 あまりに突然のことでぽかんとしているビルシャナの眼前、ペンキと煙も添えればまるで戦隊もののヒーロー・ヒロインのよう。そのままの勢いに乗って、紀美はビルシャナを指さして。
「虹色推しに物申す!!」
「赤色のスイーツを勧めるんよっ。スイーツレンジャー!」
 スイーツレンジャー・レッド――シンシア・ミオゾティス(空の弓・e29708)が差し出すのはフランボワーズショコラ。
 キツい、とすら思えるほど鮮烈な赤のハートは目を惹く。配下らの注目を十分に集めてから、シンシアは言葉を続ける。
「味のほうもばっちり美味しいんよ。虹色じゃなくても全然おいしそーじゃない?」
 そもそも、虹色だって色んな色が集まって虹色になっている。
 虹色を作っている一つひとつの色だって大切にしないと、と伝えるシンシアに大きくうなずいて、紀美はピンクの良さをプレゼン。
「ピンクと言えばやっぱり桜!」
 紀美の背後のペンキも、シンシアの見せた赤とは対照的に淡い色――春の大定番の桜色だ。
 ふわりと柔らかで優しいピンク、あれが虹色だったら、と紀美は彼らに問いかける。
「どう? だれも桜だ! って思わないでしょ? 桜は日本の心なんだよ、それが無くなっちゃってもいいの!?」
 春だ、と感じられるのはこの色に優しさが備わっているから。
「ほら、桜餅だってこんなにおいしそうなのに!」
 そんなスイーツレンジャー・ピンクな紀美が紹介するのは桜餅。
 おしろいをはたいたように粉を纏うピンクのお餅は、中の餡子をうすく透けさせている。
 スマホで一枚撮影すれば、画面いっぱいに広がるほんのりした色彩に気持ちが和む。「ほら!」と嬉しそうな笑顔も、花が開くようだった。
「その色と甘さははおひさまの恵み! オレンジ色の恵みをみんなにも! スイーツレンジャー・オレンジ!」
 スイーツレンジャー・オレンジの翔羽・水咲(産土水に愛されしもの・e50602)が強く推すのは、オレンジやみかんのスイーツ。
「オレンジやみかん…もちろんそれだけでもとっても素敵ですし、オレンジゼリーにシャーベット、それにオレンジ1色なケーキだってあります!」
 実際に持ってきたスイーツをテーブルに置きながら、水咲はそれらの味にも触れる。
「オレンジ色のスイーツは、オレンジそのもののように、ほんのり酸っぱかったり、柔らかい甘さいっぱいだったり、同じ1色でもなかなかに個性的です。でも色々混ぜちゃったら、そんな個性も……何より、オレンジ&みかんの味、という大事な物が消えちゃいますっ!」
 一色のスイーツは一色のままでと熱弁、オレンジスイーツを気にする配下がいれば水咲はその者へ向けてオレンジゼリーを渡して。
「オレンジとみかんの違いも堪能してくれたらより嬉しいですっ」
 太陽の光をそのまま受け止めたような艶やかなゼリー。閉じ込められた果汁を味わってほしい、と水咲は微笑みかける。
 同じ柑橘系なら、ということでスイーツレンジャー・イエローの遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)も名乗りを上げる。レモン柄のワンピースと黄色のスカーフ姿からも分かるように、鞠緒がお勧めするのはレモンのスイーツだ。
「虹色のスイーツには私も特別な思い出があります」
 準備をしつつ言う鞠緒が思い出すのは、雨降るカフェで友人と食べた虹色のサンデー。あの時に話した恋の相談も込みで、あの綺麗さと美味しさは心に残っていた。
「でも、世の中のスイーツが全部虹色になったら折角のスペシャル感が薄まってしまうと思いませんか?」
 用意したレモンスイーツは友人のレストランで作ってもらったもの。一切れナイフを差し込めば、突き抜けるような甘酸っぱさが香る。
「このレモンスイーツや皆さんが紹介しているような様々な魅力的な色のスイーツがあってこそ、7つもの色を特別に組み合わせたスイーツが輝くんです!」
 特別な虹色だからこそ、ありふれたものにしたくない――そんな願いを込めて。
「本当に虹色スイーツがお好きなら今すぐ改心なさい!」
 鞠緒は、彼らにそう告げるのだった。


「大人の渋みで甘さを引き立てるスイーツレンジャー・グリーン、参上」
 名乗りを上げる天喰・雨生(雨渡り・e36450)は十四歳、まだ大人の渋みを語るには年齢が足りていない感じもあるが、無表情で淡々とした喋りで、そこはうまいことカバー。
「僕の好きなこの緑、スイーツにもよく使われる抹茶だよ」
 鮮やかな、あるいは淡い緑ではなく、重厚さすら感じられる緑色は抹茶のカラー。
 アイスクリームやチョコレート、ムースに混ぜ込んで使われることが多いが、そうして出来上がるスイーツはどれも甘いだけではない、と雨生。
「他の甘さを引き立てる、仄かな苦味と落ち着いた色合い」
 確かに、他の色と比べて地味かもしれないし、ぱっと見では目を惹かないかもしれない……虹色と比べて、派手さや華やかさには欠けた色だ。
「でも、そればかりじゃ疲れるよ。落ち着いた色合いとほろ苦さを楽しみながら、一息つくのもいいんじゃない?」
 そんな雨生の言葉に続く未野・メリノ(めぇめぇめぇ・e07445)は、テーブルの上に涼しげな色合いのカップを置いて。
「スイーツレンジャー・ブルー、此処に参上、です」
 ちょっと恥ずかしそうに言ったメリノは、置いたカップへ目を落とし。
 透明なカップは海を閉じ込めたかのように透き通った青に満ちている。散らしたミントも相まって、見た目も香りも爽やかな印象だ。
「……虹色はとっても素敵ですけれど、シンプルな色彩だからこそイメージできる素敵な情景も、あると思いますっ」
 取り出すカップはひとつではなく、配下の分も。
「虹色以外の世界も御一緒に如何です、か?」
 口の中を満たす爽やかさは、確かに青色ならではの味わいだ。
 ――それを堪能した配下へと声をかけるのはクラリス・レミントン(サナギ・e35454)。
「モットーは清廉潔白、シンプルイズベスト。スイーツレンジャーのホワイト参上、だよ!」
「白っ!?」
 そんな素っ頓狂な声は、配下の誰かが上げたもの。
 今までの色は――ピンクだけ意見が分かれるが――全て、虹の中にあるもの。
 しかし白は、どんな風に虹を見たって見えない色だ。
 配下たちの驚きの感情を受け止めつつ、クラリスはガスマスク越しに言葉を紡ぐ。
「何の色に染まらなくても、お菓子は美味しいし、充分に美しいんだよ」
 ブラマンジェ、チーズケーキ、マシュマロ……白いお菓子だって多い。
 それらは長年愛されてきたお菓子――母が教えてくれたたくさんのお菓子のレシピの中に、数えきれないほど白いお菓子のレシピもある。
「つまり、至高のお菓子を作る為に『色を付ける』なんて枠に囚われてるうちはまだまだ素人、修行が足りてないってこと」
 虹色のお菓子は可愛いが、ちょっとだけ目に悪い。
 そんな時には、無垢な色が欲しくなることもあるだろう。
「ビター&シュガーでクールに決める、スイーツレンジャー・ブラック参上!」
 最後、スイーツレンジャー・ブラック・トーキィ・ゼンタングル(天真爛漫モノクロガール・e58490)が紹介するのも虹の外の色、黒。
「黒一色、綺麗に染まったスイーツを無視するの? 大人っぽくてクセになる苦さを持ってるのよ?」
 腰に手を当ててぐいと配下に迫り問いただすトーキィ。
「いや、苦いのってあんまり好きじゃなくて……」
「もちろん、苦いのが嫌いでも大丈夫。とろける甘さだってあるんだから!」
 配下が逃げ腰になればなお迫るトーキィの両手には、スイーツを載せたお皿。
 右手は重厚感のあるビターなガトーショコラ、左手にはたっぷりのごまが入ったお饅頭。
 苦味が苦手ならこっち、とごま饅頭を差し出し、トーキィは黒スイーツを香りでもアピール。

 以上、八色のスイーツはそれぞれの色を象徴するかのような味。
「虹色だけに縛られるのは勿体ないです、よ」
 そんなメリノの言葉の通り、虹色では決してこんな味は作れないのだった。


 配下たちを全員避難させれば、ビルシャナとの戦いが始まる。
「これは、あなたの歌。懐い、覚えよ……」
 鞠緒の歌声がビルシャナを思索へ落とし込み、身動きを奪う間にケルベロスたちはお互いの護りを高め、ビルシャナの行動の阻害のために動く。
 ウイングキャットのヴェクサシオンが生み出した風が、メリノの作るカラフルな爆煙をそれぞれの仲間の元へと送り込む。
「虹色だけに縛られるのは勿体ないです、よ」
 メリノ自身が背負う煙は青。そこから飛び出るミミックのバイくんは白いエクトプラズムを吐き出すことでビルシャナを苛む。
「覚悟するんよーっ!」
 シンシアのそんな声にメリノがさっと身を屈めると、頭上すれすれをウイングキャット・ネコが飛んでいく。
 吹き荒れる風が一際大きくなり、シンシアの射る矢は勢いを増す。
「黒ヤギさんたら読まずに食べたっ」
 宿した黒山羊因子がビルシャナを侵し、シンシアはにっと笑みを向けた。
「回復は十分そうですねっ」
 サーヴァントたちのお陰で攻撃に回れそうだ、と水咲は『混沌の水』を凍てつく矢に変えて。
「産土水様……その御身を、その御力を疾き矢とし、彼の者に裁きを与え給え……!」
 ビルシャナへと放った――羽毛が凍って、軽い音と共に砕け散る。
「私もいくよっ!」
 トーキィもまた妖精弓を手に、ビルシャナへと矢を送る。
 繰り返される攻撃の応酬。ビルシャナも作り出した虹を眺めることで自らの癒しを図りはするが、ケルベロスたちの猛攻にはとても間に合わない。今こそ畳みかける時とばかりに、クラリスは自身の影へ目を落とす。
「――退いた、退いた、」
 蠢く影に身構えるビルシャナの身には、既にいくつかもの傷。
 一人ひとりの個性を生かしたからこそできた連携、攻撃……全員が違う色彩を持つからこそ、こうしてビルシャナを追い詰めている。
 やがて影は黒一色の猫の姿を取り、猫は迷いなくビルシャナへと向かう。
 足元へ食らいつけば災いが湧き、ビルシャナは悲鳴を上げる。
「地味だからって舐めて貰っちゃ、困るんだよ」
「自分のワガママでほかのひとふりまわしたらダメなんだから!」
 クラリスの言葉に続けて紀美は言って、ビルシャナへと駆けよって。
「つぎはわたしの番っ!」
 射手座のモチーフネイルはカラフル。いくつもの色が重なっていても、間違った使い方でないのならこんなにも綺麗だった。
 真っすぐ飛んでいく矢が貫いた直後、ビルシャナへと迫るのは隠頭巾を纏う雨生。
 口の中、囁くような詠唱と共に雨生は掌底を放つ。
 掌底は波動を生み、波動は内側へと潜り込む。
 水気をことごとく奪っていく波動が、ビルシャナをどこまでも干からびさせていく――ついには最後の一滴まで搾り取られて、ビルシャナはその場から失われた。

 こうして、レインボースイーツを愛するビルシャナは消えた。
「……なんか、沢山お菓子の話してたら、お腹空くね」
「うんうんっ、お菓子食べにいこーっ!」
 クラリスの言葉に紀美がうなずけば、ケルベロスたちはお菓子の話に花を咲かせる。
 八人の声がまじりあう様子は、空に架かる虹のようだった。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。