決闘する植物

作者:零風堂

「オウ、お前ら覚悟はできてんだろうなぁ!」
「そっちこそ、今さらワビ入れても遅ぇぞコラァ!」
 ふたつの若者のグループが、互いに罵声を発しながら威嚇し合う。
 一触即発のそんな状況で、異形の存在が前へと踏み出してきた。
「ならお前ら、この『紅蓮腕のレイジ』に勝てるってんだな!?」
 髪を赤く染めた青年は、右腕から肩、背中辺りに掛けてが太い樹木と化しており、無数の紅葉に覆われていた。かすみがうら市の不良たちに起きている、攻性植物化が起きているのだろう。
「ナメんなよ。『首領愚連合』には、『鉄頭のゴウ』が居るんだぜ!」
「……」
 相手のグループがそう答えると、大柄な浅黒い肌の男が前へと出てきた。無数のトゲが付いたヘルメットを……いや、その男の頭部はドングリのように硬質化しており、幾つもの鋭いトゲがびっしり生えているのだ。こちらも攻性植物と一体化しているらしい。
「そこまで言うなら、レイジとゴウでタイマンだ」
「望む所だ。『烈怒不麗霧』と『首領愚連合』の代表で決闘……負けた方は、勝った方に吸収される。ナワバリもメンバーも、丸ごとだぞ」
「いいだろう。まあ、勝つのはウチだけどな」
 グループの中でも口に長けた者が、互いに決闘の条件を確認し合う。その間も攻性植物のふたりは、至近距離でガンの付け合いをしていた。
「じゃあ、見届け人はここに居る全員。開始はこのコインが落ちたらだ」
 チャリーン。
 そうして攻性植物による、狂気を帯びた決闘が始まった。

「紅葉の攻性植物が現れるんじゃないかって、調査していたんですけど……」
 ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)はそう言って、集まったケルベロスたちに話を切り出した。
「ウィッカさんの調査を元に、我々も予知を行ってみたところ、茨城県のかすみがうら市で、新たな事件の発生を察知することができました」
「……かすみがうら?」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の言葉に、ひとりのケルベロスが思わず聞き返す。
「はい。若者の不良グループ同士の抗争が多発し、最近では攻性植物化した者による事件も起きていた地域です」
「私も攻性植物化した不良が、敵対する不良や仲間を殺しちゃう事件かなって思ったんですけど……」
 ウィッカはそう言って、セリカに視線を送った。
「さらにもう一体、別の攻性植物化した者が事件に関わってきます。どうやら彼らはそれぞれ別のグループに所属しており、『負けた方が勝った方の傘下に入る』という条件で、決闘を行うようなのです」
 攻性植物――デウスエクス同士が、決闘……?
 ケルベロスたちがその言葉を呑み込んだことを確かめるように一拍の間を置いて、セリカは再び口を開く。
「デウスエクス同士の決闘は、敗北してもコギトエルゴスムになるだけであり、グラビティ・チェインの豊富な地球であれば、復活するのも比較的早く済むようです。これを放置すれば、かすみがうらの攻性植物たちが徐々に集まり、いずれはひとつの大きな集団となってしまうかもしれません。そうなれば、強力なデウスエクスの組織となってしまいます」
 そんな事態は避けなければと言うセリカに、ケルベロスたちも頷いた。
「決闘するのは、『烈怒不麗霧』というチームのレイジという、紅葉が多数付いた右腕を持つ攻性植物と、『首領愚連合』というチームのゴウという、ドングリのように硬質化した頭部を持つ攻性植物のようです。ただ、注意して頂きたいのですが……」
 セリカは真剣な眼差しで、話を続ける。
「この2体の攻性植物が一時休戦して、協力してケルベロスを倒そうと攻撃してきた場合には、単純な戦闘で勝利することは困難だと思われます。1体だけでも確実に攻性植物を倒せるように、何か立ち回りを工夫することが重要かもしれません」
「ええと……、決闘の様子をこっそり見て、弱ってる方を一気に倒すとか、片方のチームに加勢するフリをして、もう片方を倒してしまうとか……。怪しまれずにできるかどうか、ですね」
 ウィッカは難しい顔で、いい方法がないか考え始めていた。
「場所は高架下の道路で、時刻は深夜。不良グループ以外に人の気配は無いようです。あと、この2体以外のメンバーはただの人間ですから、脅威にはなりません。彼らはケルベロスと攻性植物の戦いが始まれば、勝手に逃げていくでしょう」
 やはり問題は、2体の攻性植物とどう戦うかになるだろう。
「攻性植物の大きな組織が出来てしまう危険を放置することはできません。立ち回りの難しい作戦ですが、皆さんのご協力をお願いします」
 セリカはそう言ってケルベロスたちを激励し、話を終えるのだった。


参加者
一恋・二葉(蒼涙サファイアイズ・e00018)
双星・雹(氷壺秋月・e00152)
灯堂・鉄心(敗残野良犬・e00161)
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)
除・神月(覇天哮・e16846)

■リプレイ

 チャリーン。
 コインが落ちると同時に、レイジが飛び出す。右腕の紅葉を赤く煌めかせ、かなりの勢いで張り手を繰り出した。
 一撃を受けてゴウの胸が燃え始めるが、それでもゴウは怯まずに頭突きで応戦する。
 この石頭とまともにやり合うのは悪手と判断したか、レイジは下がって紅葉を嵐のように放出した。
「……フン」
 ゴウは悠然と構えたままで、頭部から無数の礫のようなものをばら撒く。良く見ればそれは、小さなドングリだ。
 ばばばばばばばっ!
 小爆発が連続して巻き起こり、舞い飛ぶ紅葉を迎撃してゆく。
「オラァ!」
 レイジがそれを目くらましにして、ゴウとの間合いを一気に詰めた。
 虚を突かれたゴウは反応が遅れ、張り手をまともに受けてしまうのだった。

「……やはり、かなりの実力のようですね」
 ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)はロングコートで身を包み、隠密の術式によって特殊な気流を纏っていた。
 黒っぽい帽子に長く赤い髪を押し込んで目立たないようにしつつ、攻性植物同士の決闘の様子を窺っている。
 二体とも完全に攻性植物と同化しているらしく、その決闘は完全に人外同士の争いに思えた。
 灯堂・鉄心(敗残野良犬・e00161)も螺旋の気流を纏いつつ、高架橋に潜伏して上から様子を見ていた。時折周囲に目を向けて、こちらに近づく者が居ないか確認することも忘れない。
「よっシャ! 調子に乗ったチンピラ共に一発ブチかましてやっカ!」
 除・神月(覇天哮・e16846)は鉄心の傍で口元に勇ましい笑みを浮かべていた。胸元にはサラシを巻いて学生服を着ているので、少し見ただけでは線の細い不良男子に見えなくもない。
 不良グループは身を隠したケルベロスたちに見られているとは気付かずに、自分たちの代表を荒々しく応援していた。
「やれやれ、そこだ!」
「ぶっつぶせー!」
 激しい戦いによって二体は傷付き、次第に疲労が蓄積してゆくように見える。
(「攻性植物同士でも争うことがあるんだね。珍しい」)
 四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)は気配を殺しつつ、興味深そうに目の前で繰り広げられる戦いの行方を目で追っていた。
 何度目かのレイジの掌底が、ゴウの顔面にクリーンヒットする。そのタイミングで沙雪は携帯のコールボタンをタップし、神霊剣・天を抜き放った。
 そのまま左手で刀印を結び、刀身をなぞるように振り抜く。その一瞬で、刃に空の霊気が集まった。
「悪いね。見てられない、手伝わせてもらうよ」
 軽く地を蹴り、沙雪が舞う。振り下ろされた斬撃を、レイジは樹木化した右腕で辛うじて受け止めた。
「な……!?」
 突然の襲撃に、レイジもゴウも、周囲の不良少年たちも言葉を失い、動揺が広がる。
「今、テメーに倒れられちゃ困るんだよ」
 レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)が携帯のコールを受け、影の力を凝縮させていた。
 それは闇色の珠となって放たれ、レイジの体に侵食してゆく。
「よォ……見付けたぜェ、レイジサンよォ」
 更に鉄心が橋から降りてきて、すっと刀の切っ先をレイジに向けた。更にゴウへちらりと視線だけを送る。
「狙い目は同じてえ事だ」
 鉄心は呟いてから大きく跳び、蹴りを狙うが……。
「――っ」
 一瞬の躊躇の後、日本刀を振り上げていた。その刹那にレイジは身体を捻り、樹木部分で月光斬を弾き逸らす。
 自身の準備の不備を恨みつつ着地し、鉄心は刀を握り締めた。
「そちらの方に負けてもらうのは困りますね。加勢させてもらいます」
 しかしウィッカが一瞬だけタイミングをずらし、レイジの懐へと滑り込んでいた。
 ウィッカは魔術文字の刻まれた短剣を敵の太腿に突き立て、もう一刀で樹木部分を思い切り薙ぐ。
「野郎っ!」
 レイジが腕を振るが、咄嗟にウィッカはマントの留め金を外し、置き去りにするように身を伏せて回避した。レイジの腕は、無人のマントをぼすっと打ったのみ。
「ゴウさん! 遅れましたが人数集めました。全員で一気にやっちまいましょう!」
 ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)が声を上げながら、攻性植物を腕に絡ませて突っ込んでくる。
 そのままレイジの弱点を見極め、破壊のポイントを狙って衝撃を叩き込んだ。
「ぐ……」
 僅かに揺らぎ、レイジは後退る。
「てめぇら、どういうことだ!」
「卑怯だぞ!」
 ジューンの言葉を受け、ざわざわと騒ぎ始める『烈怒不麗霧』のメンバーたち。
「ごちゃごちゃうっせー、です!」
 どぉん! と叩きつけられた鉄塊剣が、ざわつきも動揺もまとめて沈黙させる。
 そこに立つは一恋・二葉(蒼涙サファイアイズ・e00018)、齢10歳の少女が堂々と、武骨な剣を携えた姿だった。
「……漢の喧嘩に介入してごめんね。けれど」
 双星・雹(氷壺秋月・e00152)がアームドフォートを構え、レイジへの砲撃を開始する。
 レイジは右腕を前に出して防御の構えを取りながら、少しでも被弾を少なくしようと動いていた。
 それでもビシビシと、傷ついた体に攻撃が重ねられてゆく。
「義を見てせざるは勇無きなリ、ってナ!」
 神月が回避に動くレイジの前に先回りし、ダッシュの勢いを乗せた鋭い蹴りを繰り出した。
 何とか払い除けようとするレイジだったが、神月は樹木化した腕の表面を削るように蹴りを走らせ、胸に一撃を叩き込む。
「……よく分からんが、今だな」
 突然の乱入者に驚いていたゴウが、小さく呟いた。
「レイジさえ居なければ、『烈怒不麗霧』の連中は敵じゃない」
 劣勢だったゴウは、兎に角レイジをぶちのめすことにしたらしく、ドングリを放って攻撃を再開し始める。
「く、くそっ、ナメたマネしやがって……」
 レイジは深い傷を負い、肉体部分から血を流しながらも紅葉を輝かせ、全身を紅い闘気で覆い始めた。みしみしと樹木が広がり、紅葉が新たに開いてゆく。
「そう簡単にはやらせねー、です」
 二葉が身を低くし、長い黒髪をなびかせながらレイジに突っ込む。そのまま下から蹴り上げるようにして繰り出された蹴りの軌跡と、地獄化した右目から零れる輝きが、闇夜に美しい煌めきを刻んだ。
 更に二葉の肩から、何かが飛んだ。ボクスドラゴンの蒼海石が乗って一緒に突撃していたらしく、空中で箱に入ってレイジの胸部にタックルで激突する。
 衝撃で仰け反るように、レイジが揺れる。
「どうもキミの綺麗な紅葉が気になって、気付いたら手が出てたんだ」
 雹が一瞬だけ、静かで冷たい視線をレイジに向けた。同時に時空凍結の弾丸を、ライフルの中に生み出して装填する。
 鋭く、正確に。青い瞳がターゲットを捕らえた。雹は躊躇いなくトリガーを引き、レイジの体に魔氷を張り付ける。
 ずばん!
 更にミミックのパンドラが武装具現化で斧を生み出し斬り付けていた。レイジの紅葉が切り裂かれ、何枚かがひらひらと地面に落ちる。
「奪ってでも持って帰りたくて、たまらないもん」
 雹はその光景をちらりと一瞥し、小さく呟いた。
「さて、参ろうか」
 沙雪がレイジの左側に回り、刀にグラビティ・チェインを纏わせる。ちらりと横目で鉄心を見て、攻撃のタイミングを刹那だけずらした。
 鉄心が二刀を揃えて振り下ろし、刃に込めたグラビティ・チェインを叩き付ける。レイジは右腕側を前面に出して防御するが、その瞬間に沙雪の一撃が胴へとぶち込まれた。
「が……」
 レイジの体がくの字に曲がり、苦呻と共に紅の闘気が零れ落ちる。
「特攻天使エーデルワイス、行っきまーす!」
 ジューンがレディースっぽい格好で踏み込み、腕から蔓を触手のように伸ばし始めた。蔓はレイジの体に絡みつき、動きを縛りあげてゆく。
 ウィッカがルーンダガーを逆手に握りつつ、目前に魔石を放り投げる。輝く魔力を刃に纏わせるように、高速で斬撃を繰り出した。
 踊るようなウィッカの動きに翻弄され、レイジは全身をズタズタに薙がれてゆく。
「見極めてやる!」
 レンカがレイジの死角を踏むように、密かに接近していた。そして相手が剣の間合いに入った瞬間、影のように気配を殺した一刀を、音もなく振り下ろす。
 ざくりと肩口から真っ直ぐに傷を刻まれて、レイジがレンカに視線を向けた。
「……」
 ゴウが少々難しい表情をしながらも、頭突きでレイジの腹に痛打をめり込ませる。バキバキと枯れ木の折れるような乾いた音が、レイジの体内から聞こえてきた。
「ヤ、ロォ……」
 レイジは震えながら、一歩、二歩と後退る。
「知らねーんなら教えてやるヨ、あたしってばサイキョーなんだゼ!」
 神月がニッと笑みを浮かべ、胸の前で思い切り左の掌を打ち鳴らした。ぱぁんと空気を震わせるような、盛大な音が響き渡る。
 獣のようにしなやかに、獰猛に、神月が突っ込む。野生の牙の如く繰り出された拳がレイジの右胸に突き刺さり、バキッとぶち抜いた。
「自分の身体一つで強くなル、これがマジもんのサイキョーってやつだゼ?」
 神月が拳を抜いて、崩れゆくレイジに言い放つ。レイジは植物部分から全身に亀裂が広がり、バラバラと崩れて消滅していった。
「こ、これは……」
 レイジが敗れ、消滅したことに、不良グループのメンバーたちがざわざわ騒ぎ始める。
 そこで神月がしゅるりとサラシを解いて抜き、いつも通りの姿になった。
「掛かったね! 実はボクたちはケルベロスだったのさ。さあ、市内を騒がせる連中は大人しくしてもらおうか!」
 ジューンが朗々と宣言し、構えた腕に光の剣を生み出した。
「う、うわー!」
「こいつはヤベぇ!」
 周囲の少年たちはケルベロスの介入に、これはまずいと我先に逃げ去ってゆく。
「最強の一撃を創造する、あの英雄たちの様に!」
 ジューンは憧れのヒーローを想い、溢れるロマンを力に変えてゴウへと斬りかかる。虚を突かれ、ゴウの肩口に夢幻英雄撃が叩きつけられた。
「お前にもお見舞いしてやるゼ!」
 神月が続き、ジューンと入れ替わりに降魔の力を拳に集めて殴りかかる。しかしゴウは僅かに腰を落として神月の拳を捌き、頭から無数のドングリをばら撒いてくる。
 ずががががっ!
 ドングリが爆ぜ、無数の発破音と爆炎が広がる。その間にゴウは大きく下がり、体勢を立て直した。
「メディックなんてガラじゃーねーけど、ま、たまにはな!」
 レンカは星座の力を地面に集め、ゴウのドングリで衝撃を受けた仲間たちを癒し、加護を与えてゆく。
「可憐な美少女に癒してもらえんだから喜べよな!」
 レンカは前衛の男性陣に向けて悪戯っぽく言って、軽く笑みを見せた。
「デウスエクス同士で潰し合うならよいのですが、合併して勢力が大きくなるのは困りますね」
 ウィッカはやれやれと言いながら、両手に魔石を握り締める。
「黒の禁呪を宿せし刃。呪いを刻まれし者の運命はただ滅びのみ」
 禁じられた術式を解放し、ウィッカは黒の呪を短剣の刃に纏わせた。そのままゴウの方へと走り、両手の刃を振りかぶる。
 走るうちに帽子が飛んで、隠していた赤い髪が長く揺れた。赤の軌跡を描きながら、ウィッカはゴウの腹部に黒の滅印を刻み付ける。
「放っておくわけにはいかないからね」
 沙雪の突き出した斬霊刀が天の力――雷を纏い、ゴウの脇腹に突き立てられた。
「へっ……タダじゃやられねぇ……ぜ」
 ゴウは腹を貫かれながらも、口元に笑みを浮かべていた。そして至近距離の沙雪の前で、ぐっと拳を握り締める。
「させねー、です」
 蒼い閃光――二葉がゴウの目前に割り込み、ゴウの猛烈なラッシュから沙雪を庇っていた。
「オラオラオラァ!」
 しかしゴウの拳はハンマーのように重く、二葉の体を容赦なく痛めつけてゆく。
 全身に衝撃と痛みが広がってゆくが、すぐさま蒼海石から蒼い力が溢れ出し、二葉に力を取り戻させる。
「……言ったじゃねーか、です」
 しかしそれでも、痛みは残っていた。荒い呼吸を整えながら、二葉は鉄塊剣を突き出すように構えた。
「『そう簡単にはやらせねー』って……」
 命を喰らう炎の珠を撃ち出して、二葉は何とか体勢を立て直してゆく。
「オラ! まだまだ立てっだろ?」
 更にレンカが悪戯っぽく笑いながら、二葉の脳髄を禁断の術式で強化して活性化させていった。
「騙して悪ィがねえ、コイツも仕事なンだわ」
 鉄心はにぃ、と口端を思い切り吊り上げて、炎弾に貪られるゴウの死角に滑り込んだ。
「賭け金は『一切』。テメェは勝負にノるしかねェ」
 ゴウの反応より先に、鉄心が刀を鞘に納めた状態で踏み込む。ちゃき、と握られた日本刀から、鍔鳴りが響く。
 抜き打ちで放たれた大博奕の斬撃が、ゴウの胸部を思い切り薙いでいた。
「それじゃあキミも、潰れてもらうよ」
 雹は短く言ってから、ゴウの周りを円を描くように駆け始める。そのままアームドフォートの砲口をゴウに向けて、次々に砲撃を開始した。
「人様の惑星で図々しく勢力拡大図ってんじゃねー、です」
 二葉が駆け込み、両腕を立てて防御態勢のゴウに飛び蹴りを繰り出す。身を屈めるようにしてゴウは頭を下げ、硬質化した部分で打撃を受け止めた。
 ばきんっ!
「二葉を越えられねーなら、どっちが手を組んでもおんなじだ、です!」
 吼えると同時に二葉は空中で一回転し、煌めく蒼い軌跡を描いて、再び蹴りを叩き込む!
 ガードが弾き飛ばされ、ゴウは両腕を開いた体勢で後退した。
「ぶっ叩くゼ!」
 神月が追って鋭い蹴りを繰り出すが、ゴウも頭突きで応戦しようとしている。
「ここで止める……絶対に!」
 だがそこにジューンが割り込み、ゴウの攻撃を胸部で受け止めた。そして無防備な頭部に神月の蹴りが突き刺さり、ビシッと大きな亀裂が刻まれる。
「来て、フェニックス。力を貸して」
 雹の体が光に包まれ、蒼く輝く巨鳥となってゴウへと突撃してゆく。
「鬼魔駆逐、破邪、建御雷! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 沙雪が九字の印を切り、指先に光の刃を生み出した。そして雹とぶつかるゴウの側面へと斬り付ける。
「刻みますね」
 ウィッカがその傷口に、重ねて短剣を突き入れる。左右別々に刃を振り抜き、ゴウの体を両断した。更に舞うような斬撃が樹木を微塵に断ち、雹の光がそれらを呑み込んで消滅させてゆく。

「……」
 雹は地面に降り立つと、落ちていた紅葉を一枚だけ拾い上げた。
「潜入捜査官みたいで燃えたね!」
 そこにジューンも笑顔を向けて、仲間たちを労っている。
「しかし、かすみがうら市って不良グループ多すぎませんか?」
 ウィッカはやれやれと言いながら、一体どうなっているんだろうと首を傾げた。
「雑草みてェに生えやがる辺りは、人間連中の悪党と変わンねえなあ」
 鉄心はそんな風にぼやきつつ、息をゆっくりと吐き出していた。
「残った不良はもう悪さしないようニ、あたしの部下に勧誘しないとナ」
 それから神月はハッとした様子でそう呟き、逃げた不良を追うのだった。

作者:零風堂 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年11月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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