ニャンコもふもふモッフモフー!

作者:ハッピーエンド

 澄み渡る空の下、穏やかな風に撫でられて草木が揺れていた。
 初夏の香りがほのかにただよう大草原。
 木がサワサワと音楽を奏で、木漏れ日が優しく照らす午後のひと時。
「ニャ~♪」
「ウニャ~」
「ニャウ~」
 緊張感のかけらもない、リラックスしきったニャンコの鳴き声がそこかしこから聴こえてきていた。
 ここは猫島。
 そこらじゅうに大福のようにモニュっとした猫が転がるこの世の天国。
 観光におとずれた人々は、のびのびと顔を洗う猫たちの姿を見て、だらしなく顔をくずしている。
 この島ではすべての生命体が、モニュっとした顔になってしまうさだめ。
「おいで~、おいで~~」
「ニャ~ん?」
 猫なで声の人々に、眠そうな仕草で顔を向けるダラダラ子猫。
「はぁ、この毛並み……。まるでシルク……」
「あぁ……、可愛すぎる……。モフモフ……、プニプニ……。この手触り、天にも昇りそうだわ……」
 だらーんとした猫をだきあげ、体をモフモフ、肉球プニプニ堪能する。
 嬉しげにノドを鳴らすニャンコ。
「たまらん……」
 顔をとろけさせた人々のつぶやき。ため息がとまらない。

 しかし、そんな楽園に、突如、天空から巨大な牙が舞い降りる。
 人々の腕からとびおり、物陰に身体を隠すニャンコたち。
 心配そうな顔で、飛来した牙を見つめる人々。
 牙は、またたくまに鎧兜をまとった竜牙兵へと姿を変えていった。
「ミツケタゾ。グラビティ・チェイン」
 招かれざる者達の拳が、怪しく光る。
「猫ちゃん、逃げて!!」
 勇敢な女性たちが猫を護るように身体を投げ出し――、
 ――ほどなく、人々は倒れ、悲しげな猫の鳴き声だけが、猫島に響き渡った。

●5つの拳を打ち砕け
「猫島。そこは地上の楽園。猫島。そこは癒しの殿堂。
 恐ろしい予知でした。猫島が襲撃されます。さぁ皆様、勇敢な人々と愛らしい猫たちを救いに参りましょう!」
 足元に野良のニャンコをはべらせながら、金髪のオラトリオ、アモーレ・ラブクラフト(深遠なる愛のヘリオライダー・en0261)は勇壮に拳を振り上げた。
「敵は竜牙兵が5体。クラッシャー1、キャスター4の構成となります。個々の能力はさほど高くありませんが、1体ブレインとなる個体がおります。その名も牙帝。牙帝の指揮により、他の4体が連続攻撃を繰り出し、また最初に狙った獲物が倒れるまでターゲットを固定するようです。敵の指揮を壊すか、連携をくずすか。対策が必要となるでしょう」
 一息に語ったアモーレの前に、お茶が差し出される。お茶を差し出したマスカット色のエルフ、ハニー・ホットミルク(縁の下の食いしん坊・en0253)は、アモーレの足元にいたニャンコの首元を撫で始めた。こしょこしょ。こしょこしょ。気持ちよさそうな声が零れる。
 優しげな表情で眺めるアモーレ。お茶を飲み干すと、キリッとケルベロス達の方を見つめた。
「さぁ、猶予はございません。皆様方の力で、その手に勝利とニャンコをつかみ取ってください!」
 真摯な瞳でアモーレはケルベロス達にお辞儀をするのだった。


参加者
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)
高辻・玲(狂咲・e13363)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
時雨・乱舞(純情でサイボーグな忍者・e21095)
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の弾丸・e39784)
斬崎・冬重(天眼通・e43391)
今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)

■リプレイ

 5つのドクロと対峙するように立ちはだかった者達がいた。ズラッと並ぶケルベロスコートの一団。サーヴァントまで着こんでいる。
「ジュ、十四ツ子ダ!!」
 竜牙兵は動揺した。
 しかし沸き上がる。威厳に溢れた笑い声。
「貴様ラノ目ハ、フシアナカ! 違ウデハナイカ! ソコハカトナク」
 牙帝様が、王者の器で手を広げていた。
「サスガ牙帝サマ! 見分ケガ、ツクノデスネ!」
「……ツク」
 流石っす! 竜牙兵は沸きに沸いている。
「牙帝? 帝気取りとは、随分頭が高いね。此処の主は猫様達だよ」
 竜牙兵を白眼視しながら、高辻・玲(狂咲・e13363)は遠目に猫のいる場所を確認した。さり気なく池を背に布陣する。
「悪いな、ココには俺達以外人っ子一人、猫ッ子一匹いねえぜ!」
 フゥと一息つきながら、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)が豪快に笑った。今しがた付近にいた猫を逃がしてきたところだったりする。
「良イ良イ。気配ハ感ジテオル。貴様ラカラ、グラビティ・チェインヲ奪ッタノチニ、狩ルトシヨウ」
 牙帝の手が上がると同時に4つの影が走った。狙いは時雨・乱舞(純情でサイボーグな忍者・e21095)。
「させるか!」
 横薙ぎの旋風が吹き荒れた。まずは武器を砕く。三和・悠仁(憎悪の種・e00349)の鉄塊剣が敵の腕を斬り裂いた。
 一郎の拳が、乱舞を空中に打ち上げる。が、浅い。
 追撃をかけようと二郎が天空に跳び上がる。が、
「ここはネコちゃんたちの聖域なんだから、暴れちゃダメッ!」
 フワり金髪が風に舞い、今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)が二郎に組み付いた。
「コシャク!」
 二郎の回転肘打ち。日和はきりもみしながら着地して、ふふんと笑う。
「行け、null。みんなを守れ!」
 くるんと回って地面に鎖で円を描く。光り輝く守護の力が後衛を包み込んだ。
 同時に、三郎の追撃も黒い影が受け止めていた。
「ダメージを集中させるわけにはいかないのでね」
 渋めの声を響かせ、斬崎・冬重(天眼通・e43391)が地を滑る。涼しい顔でスイッチをポチり。力強い爆風が前衛を後押しした。
 息もつかせぬ連携で、相棒のボクスドラゴン『マグナス』が主人を癒し、サポートに駆け付けた宝来・凛とウイングキャット『瑶』のコンビも日和を癒す。
「ナカナカ ヤルデハナイカ」
 四郎の拳が乱舞を捉えた。機械の右腕が火花を散らす。
 これで4体の攻撃を受けたが、現時点で深手を負った味方はいない。
 牙帝はまだ動かないようだ。ならば攻勢。まずは指揮官を砕く。番犬達は互いに目配せした。
「いっくよー!」
 ハニーから立ち昇ったオウガ粒子が、前衛を研ぎ澄まし、
「お猫様に仇なす者は許さん。貴様ら、塵も残らんと思え」
 閻魔のような声が響いた。リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)はグオォッと振りかぶり、
「ふん!」
 力の限り竜砲弾を射出した。
 竜の顎に動きを取られ、牙帝のフットワークがもたつく。そこに、
「まずは『頭』を狙うのがTheoryだ、覚悟しな!」
 ランドルフの重い蹴りが脚を砕く。
「さっさと終わらせよう」
 続けざまアルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の弾丸・e39784)も執拗に脚を砕いた。
 牙帝は歯噛みした。こいつら戦い慣れている。
「ヒャハハハハ!! ダメですねえ! 可愛い猫ちゃんたちをおどかしては!!」
 脚の止まったところに、乱舞が狂ったように毒の滴る手裏剣を投じ、
「シラヌイ!」
 号令と共に、火の玉となったライドキャリバー、シラヌイが牙帝に突っ込んでいく。
「平穏曇らす暗雲は、尊き猫様達の御前から消えてもらおう」
 そして、玲の苛烈な剣が牙帝を捉えた。
「クソッ!」
 思わず牙帝が両手を高く掲げた。
「オオ! アレハ!」
「撃ツノデスネ! 奥義ヲ!」
 部下たちが色めく。
「今コソ、ソノ目ニ刻ムガイイ! ハァァァッ!!」
 大気を揺らすほどの力が満ち――、
 牙帝はツヤツヤと回復した。
「?」
「?」
「?」
「?」
「フフフ、マズハ、気力ヲ溜メナクテハナ」
「ナルホド! チョウ必殺技デスモノネ!」
 にわかに敵が活気づいている。
 その隙に、番犬は入れ代わり立ち代わり影を交え終えた。
「ナント! コレデハ、ターゲットガ分カラナイ!」
 計画通り。頭の弱い4体はこれで対象を見失った。
 しかし、自信満々に胸を張るのは一郎。
「龍ノマナコト恐レラレシ牙帝サマノ眼ヲ欺クコトナド不可能! サァ! 牙帝サマ! ドイツデス!!」
 4つの眼が尊敬に彩られ、ボスを見つめた。
「フフン! ……ジャア、ソイツ!」
「サスガ牙帝サマ!!」
 4体は一切疑うことなく、演武を踊りながら技を繰り出した。黒いライドキャリバーへと。
 しかし、どうにも致命傷には届かない。回復は的確に降り注ぎ、番犬の攻撃は牙帝を逃さない。
「牙帝サマ、今コソ奥義ヲ放ツ時デス!!」
 攻撃の要は牙帝。興奮した竜牙兵の叫びが上がり、
「ムッハー! ユクゾ!! ハッッッ!!」
 大地を揺るがす咆哮――、
 牙帝の傷が神々しく回復した。
「?」
「?」
「?」
「?」
 ジッと上司を見つめる配下たち。
「指揮官ガ倒レテハ、勝チ目モ薄クナルカラナ!!」
「「「「ナルホド!!」」」」
 素直。
 当然この隙にシャッフルタイムである。次のターゲットは悠仁に移り、敵の攻撃は分散。味方の攻撃は的確に牙帝を追い詰めていく。
 敵に焦りの空気が流れた。
 牙帝は暫し考え、
「コノママデハ、勝テヌ、カ……」
 観念したように笑うと、フンッ! と脚を地面に叩きつけた。三戦立ちの構え。
「牙帝サマ!」
「ツイニ!!」
「アア! 我ノ屍ヲ越エテユケ!!」
 凄まじいエネルギーが牙帝の拳に集束していった。大気が揺らぎ、爆発せんばかりのエネルギーが脈打っている。牙帝のマントがバサバサはためく。
「一撃、ヒッサツ! 牙王! 衝天ゲキ!!!」
 光が弾けた。巨大な龍の気が番犬に襲い掛かる。
 ヒョイッ。
 激烈な威力の大技は、少しかわしただけで横を通り過ぎていった。
 悲しいかな大技。命中率は圧倒的に低い。
 しかし、威力だけは凄絶――。
「猫様が!!」
 玲の声が響き、
「俺が行く!!」
 リューデが、鬼神の如きダッシュでお猫様を護りに走った。普段はクールな男の意外な側面。
 池が爆発した。魚が飛び散り、にゃっほーい! 猫が大ハッスルしている。
 同時にリューデが、黒翼をバサァッと広げ、猫を庇おうと身体を張った。キラキラとした飛沫と砂利が襲い掛かり、瞬く間に水も滴る良い男へと変貌していく。
「素晴らしい!」
 お猫様を護ったリューデに、仲間から惜しみない声援がかけられた。
 この行動が取れたのは、余裕のある戦線を作ったすべての者の功績であるといえよう。
 さて……。お仕置きタイムである。
「ボクをこれ以上、怒らせるなよ。ネコちゃんたちに謝りなさい!」
 日和はプンプン怒ると、左眼を閉じ、右眼で牙帝を睨みつけた。エネルギーの奔流が牙帝の中で荒れ狂う。
『さあ、我が幻影達よ……踊りなさい!!』
 一息で懐へと跳び込む乱舞。印によって現れた分身達によって牙帝はダンスを強いられた。
「猫様を害そうとしたキミを許す訳にはいかない――霧散頂こうか」
 一閃。玲の静かなる太刀が牙帝を斬り裂いた。牙帝の意識が宙に舞い、そして――、
『……血に、沈め……』
 リボルバー銃が牙帝を補足した。美しい青の瞳が敵を捉える。アルシエルの放った弾丸は牙帝を打ち砕き、
 雄々しい咆哮をあげ、牙帝は散った。

 指揮官を砕けば、後は統率を失った残党狩りである。
 デバフを重ねて各個撃破していくのみ。統率を失った敵の攻撃は先ほど以上に散漫。
 戦いが流れる。
 必殺の時と見て、銀の風が四郎の懐に潜り込んだ。
「あんまり上司を待たせるモンじゃねえぜ、とっとと逝きなッ!!」
 ランドルフの左右からなるコンビネーション。重いブローがボディに刺さり、次の瞬間、音波の衝撃を纏った弾丸によって四郎は砕かれた。
 戦いが流れる。
 次は三郎。必勝の機会を得たのは悠仁。
「残り3体。火力優先でいく!」
 右眼から地獄の炎を猛り狂わせ、獰猛に襲い掛かる。三郎は荒れ狂う地獄に呑まれて闇に散った。
 戦いが流れる。
 二郎へ終の一撃を贈ったのはリューデ。
『乱れて、散れ』
 地獄を宿した赤の花が、美しく二郎を焼き焦がし火葬した。
 戦いが流れる。
 最後に残ったのは一郎。深く目を瞑る。
「牙帝サマ。セメテ貴方ガ求メタ獲物ヲ!!」
 全霊をかけた一撃が番犬を打ち据えた。
 ゴッ!
 拳を受け止め、地を滑ったのは冬重。
「むこうで仲良くやるといい」
 爆破が一郎の身体を打ち上げ、
 ドカッ! ジュッ!
 最後のドクロは、シラヌイの車輪の下でマグナスの炎に焼かれ、大好きな上司の元へと旅立っていったのだった。

●もふもふターイム!
 ポカポカとした陽気の中、乱舞は相棒に背を預け草原でくつろいでいた。
 パクリッ。
 クレープを頬張る。クリームの甘みと果実の酸味が丁度いい。
 膝の上では猫が丸くなっている。
 モニュっとした顔が、実にかわいい。
 ついつい顔は緩み、ぎこちない笑みは満面まで広がっていく。
 もふもふ。もふもふ。
「にゃん♪」
 猫は膝の上でぐるりと仰向けに向き直り、こっちを撫でてとアピールしてくる。
 こしょこしょ。こしょこしょ。
「なぁぁん♪」
 甘い声が零れた。
 こしょこしょ。こしょこしょ。
 乱舞は時間を忘れてこの天国に興じるのだった。

「にゃん?」
 つぶらな瞳がこっちを見ている。
 お撫でなさい。
 そう言われている気がした。
 普段猫と戯れることがないアルシエルは、おっかなびっくり手を伸ばす。
 サワッ。ふわっ。ふかふか。
 おお!? なんだこの手触りは!? なんというか、滑らかで上品だ。気持ちいい。
「……まぁ悪くはないな」
 少しニヒルに笑ってみる。
「にゃん♪」
 猫は一鳴きすると、
 すりすり。
「!?」
 頬を寄せてきた。
 こ、これは、思わぬ攻撃じゃないか。
「ま、まぁ、悪くはないな……こ、こら、登るんじゃない」
 素直になれない少年は、表情筋と戦いながら猫と興じ続けるのだった。

 青年は、復讐のために生きていた。
 全てを奪ったデウスエクスも、無力であった自分自身も、いつか根絶やしにしてやる。
 そう、心に決めていた。
 その青年が、彼である。
「おお、人慣れしてて懐っこい……。肉球が……肉球が……!!」
 その青年が、彼、三和・悠仁である。
「背中のこの毛並み! あぁ! 肉がムニュムニュしています!」
 三和・悠仁である。
「おや?」
 不意に肩に跳び乗った黒猫に目を奪われる。
 顔を伸ばして、おでこをぺろぺろ舐めてくる。
「ずいぶん積極的な子ですね。うちの子と似ているかと思いましたが、これは新鮮です」
 優しく鼻筋を撫でてやる。猫は気持ちよさそうに目を細めた。
 猫に囲まれ、悠仁は幸せそうに笑みを零した。
 全てを失った青年。この触れ合いが彼にとって少しでも救いとなったなら、助けられた猫たちも幸せに思うだろう。

 リューデとハニーたちは、クレープをモグモグしながら日向ぼっこしていた。
 落ち着いた雰囲気の老猫たちに囲まれて、まったりゆったり。
「はい、どうぞ」
「これはすまない」
 紅茶の香りが優しく揺れる。
 リューデは無表情に猫を見つめていた。
 しかしハニーは見た。無表情だけど、あれが出ている。あの、漫画とかでよく見る効果。パァァッとした効果。まったく隠れてないよ。
「やはり、猫は良い」
 軽く言ったようでいて、万感の想いがこめられている感じ。
「ちょっと、横になってみて」
「?」
 リューデは言われるまま横になった。
 ぽて。
 お腹になにかが置かれた。鳥のささ身?
 ピョイ。
 跳び乗ったのはお猫様!
 お腹の上でムシャムシャお食事。そのまま満足して、
 モニュ。
 お腹にニャンコの温もりが――ッ。
 リューデは無表情で空を見つめていた。
 しかし、ハニーは見た。幸せいっぱいなその効果を。
 無表情の男は、そのままどんどん背景の効果をパァァッと広げていくのだった。

「ここは美味い食べ物も、素敵な生き物もいて良い場所だな」
 冬重はご機嫌だ。
 黄金色の液体が喉を潤し、香ばしい肉が口いっぱいに旨みを爆発させる。一仕事終えた身体に染み渡っていくじゃあないか。
「これ食うか?」
 上機嫌で一つまみ、マグナスにつまんでやる。
 マグナスは嬉しそうに目を細めた。
「俺には娘はいても息子はいないので、お前が息子のようなものだ」
 竜の頭をポンポン叩き、幸せなひと時に興じる。
「にゃん!」
 匂いにつられて猫が自分をアピールした。
「お前も欲しいのか?」
「にゃぁん♪」
 てぽてぽ近づき、冬重の手からむしゃむしゃ食べる。
「どれどれ」
 もふっ。
 おお。良い手触りだ。
 もふっもふっもふっ。
 かわいいな。とても癒される。
「娘が猫アレルギーでなければな……」
 冬重は空に呟いた。その顔は実にモニュっとしていたという。

 木陰に腰を下ろしたランドルフの元へやってきたのは、見覚えのある猫だった。戦闘前に逃がしてやった猫だ。
「ナァ♪」
 嬉しそうにドヤ顔で靴下を咥えている。
「くれるのか?」
「ナァ♪」
「そうか……」
 靴下、っていうのは銀狼的にはちょっと困るんだがその気持ちは嬉しい。
 ランドルフの尻尾が、ついつい揺れた。
「うにゃ!」
 バビョン!
 つられて猫が尻尾に跳びつく。
 それを見ていた仲間の猫たちが、次々にバビョンバビョンとモッフモフな尻尾にじゃれつき始めた。
 猫まみれ。暫し、夢中になって興じる。
「どれ」
 ゴローン。
「ふにゃ!?」
 寝っ転がったランドルフの下から、猫たちが身体をふりながら顔を出した。
「ナァ♪」
 そのまま気持ちよさそうにモニュっと垂れる。
 猫たちにまみれて、ランドルフもモニュっとなる。
「……至福……ッ!!」
 そのままぽかぽか陽気と草原の匂いの中で、うとうと眠りに誘われるのだった。

「さぁ、僕達もいざもふもふな一時に」
 凛と瑶を連れ立って、玲が嬉しそうに白い翼をフワサァッと揺らしながら猫の群れへと歩き寄る。
「みゃぁ?」
「にゃ~♪」
 ゴローンと寝返りをうちながら、眠そうに目を閉じているニャンコたち。
「こ、こんな愛らしい猫様ならば、ニャンパしなくては失礼にあたる。そう、ニャンパするのは紳士として当然の嗜み!」
 玲は両手にクレープを握りしめた。ここのクレープは猫様たちが食べても大丈夫な素材で作られていると店主が自慢していたのだ。使わせていただく!
「猫じゃらし装備でいざ!」
 凛も高火力装備を構え、準備は万全だ。
「瑶も羽伸ばしといで!」
 フワリッ。飛び上がると、瑶も最終兵器ネコの尻尾を空中にフリフリ。三者三様に猫たちを誘惑してみせた。
 猫の瞳がシャープに獲物を定め、
「うにゃん♪」
「にゃうん♪」
 猫じゃらしと尻尾にじゃれつきダンスを踊る。
「あっちもこっちももっふもふで堪らんねぇ!」
 つられ、凛の声音も弾むようにダンスしている。
「な~ん♪」
 こちらのニャンコは玲の両手がお目当て。嬉しそうな声を上げて、玲の前に行儀よくちょこんと座った。
「さぁ。ご遠慮なさらず」
 紳士的にクレープが差し出され、
「うにゃん♪」
 パクッ。ぱくぱく。ちろちろ。
 クリームが付いた玲の手を舐めている。
「し、心臓がッ」
「にゃ~♪」
 パクッ。
 瑶がもう片方の手に食いついた。その尻尾を追いかけて、猫たちが玲にまみれる。
 もふもふ。撫でる。もふもふもふ。
「嗚呼ッ胸が高鳴るよ。もふ楽浄土が見えるね」
 玲は体をくねらせ、もふ楽浄土へと旅立っていった。
「玲ちゃんは相変わらず変――やけども今回は全面同意よ!」
 凛もまた、猫とゴロゴロ戯れながら、もふ楽浄土へと旅立っていったのだった。

「にゃーん。ボクもここで暮らしたいなー。ねえ、みんなで何しようか?」
 お洒落に着替えて猫耳フードに肉球手袋。日和はすっかり猫の仲間になっている。
 草むらでゴロゴロ。猫も草むらでゴロゴロゴロ。
「この島のコト知らないからお散歩する? ちょっと狭いところでも通れるから安心してね!」
 猫にくっついて、ご機嫌お散歩四つ足前進。茂みを揺らし、紫陽花の群生地を越え、猫と一緒ににゃんにゃんにゃん。辿り着いたのは――。
 木漏れ日を浴びて、ニャンコたちがモニュっととろけている。
「こ、ここは!!」
 昔の人はこう言った。本当に居心地のいい場所は猫が知っている。と。
 ここがそうなんだね!
 あまりの嬉しさに、猫にまみれてゴロゴロする。手袋を外して肉球もプニプニ。気持ちいい。
 満面の笑顔でごろ~ん。
 ぽかぽか。きもちい~ぃ。

 と、幸せの化身は見た。
 右から、左から、後ろから、前から、ニャンコに連れられて、モニュっとした顔のやつらがやって来た。
「さっきまで一緒に戦ってたみんなだ!」
 全員の顔が、周りの仲間を見て、ハッとする。
 どうしよう、今、人には見せられない顔をしてたかもしれない。
「な~お?」
「にゃうん?」
「んにゃ~♪」
 モニュっ。
 でも、しょうがないよね。
 かつてない連帯感が、番犬達を包んでいた。
「舐めるとくすぐったいですよ~」
「お腹の猫ちゃんあったか~い」
「はぁ……もふもふだよぉ……もふもふ……」
 ここは猫島。あらゆる生き物が、モニュっとした顔になってしまう魔境。あなたの顔も、きっと。

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 0
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