梅雨晴のオークはスライムと共に

作者:秋月きり

「お願いします! この子達も連れて行ってください! 私達螺旋忍軍にも活躍の場を!」
 スライムを差し出しつつ雷霧はオーク達に懇願する。頭を下げ、地面に平伏する土下座は、オークの嗜虐趣味の琴線に触れたようだ。
 土下座の最中、触手で身体を撫で回される恥辱に身を震わせながら、それでも雷霧は頭を下げ続ける。それもこれもスパイラル・ウォー以降、螺旋忍軍の立場が弱くなってしまった為だ。本来ならばドラゴンの配下でしかない下級デウスエクスなど……。
「くっ……」
 己の立ち場に涙すら零れて来る。胸や尻を這い回る感触は到底心地よい物でもなく、いつか復讐してやると心に誓っていた。
 そんな雷霧の心算を知ってか知らずか。彼女の身体を堪能したオーク達はぐへへと下品な声を上げると、スライムを触手で受け取るのだった。
「仕方ないブヒ。お前達の願いを聞き届けてやるでブヒ」

 梅雨の合間にも晴れ間は来る。
 梅雨晴れとなった6月某日は、既に夏の如く蒸し暑さが世間を占めていた。
 ならばと解放された屋内プールに人が集まるのは道理。
 そして。
「――きゃあああっ。デウスエクス!!」
 絹を裂くような悲鳴が響き渡る。突如開いた魔空回廊より降り立った10を超えるオーク達が、プールで涼を楽しむ女性達を襲ったからだ。
 まして――。
「水着が溶け――」
「いやーーーっ」
 雷霧から託されたスライム達が水着を溶かしていくのだ。半裸処か全裸と化し、逃げ惑う女性達をオークがブヒヒと追い回す。
「あの螺旋忍軍のねーちゃんはいいものをくれたでブヒ。これで服を沢山溶かしてやるでブヒよ」
 ここにはいない雷霧に形だけの感謝を示しつつ、オーク達は狂喜乱舞するのであった。

「時期的にプール開きにはまだ早いと思っていたけど……」
「奴らはそれを選ばん。致し方ないのじゃ」
 ヘリポートの会話は二人のドラゴニアンによって紡がれていた。一人はヘリオライダー、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)。そしてもう一人はケルベロス、レオンハルト・ヴァレンシュタイン(ブロークンホーン・e35059)であった。
「レオンハルトの心配した通り、プールを襲撃するオークの予知を見たわ。梅雨の合間の暑くなる日、そんな時期のプールを狙って魔空回廊を結び、女性を略奪しようとしている様ね」
「まことに許し難い輩どもよ」
 リーシャの説明にレオンハルトは不快感を露わにする。傍らのゴロ太にもそれが伝わったのか、小さく唸り声を上げていた。
「だったら今のうちに警告して避難させれば……と思うかもしれないけど、そうしちゃうと予知と内容が変わっちゃって、オークの出現場所そのものが変わりかねないの。だから、被害を防ぐ為には女性達の避難はオーク達が出現してから行う必要があるわね」
 また、幸か不幸か、否、女性達にとって間違いなく不幸だっただろうが、プールにはスタッフ含め、10数名程の女性しかいない様子なのだ。まぁ、そんな日もあるのだろう。
「女性達の避難が完了していない場合、戦闘中にオークに悪戯されちゃう可能性が高いから、出来るだけ避難させてあげてね」
 それと、とリーシャは言葉を続ける。
「どういう経緯か不明だけど、オーク達に『服だけを溶かすスライム』が同行しているわ。こっちにも気を付けてね」
 予知の中では突如現れたように見えた為、何処に潜んでいるか不明だけど……とのリーシャの言葉はレオンハルトの驚愕によって遮られる事となった。
「服だけを溶かすスライム! じゃと?!」
「本当、何考えているんだろう」
 服だけを溶かす能力の為、ケルベロス達の装備に影響があるわけではない。しかし、服だけを溶かされると言う難儀な被害は例えケルベロスであっても免れる事が出来るわけではないようだ。幾らヒールを使って服を復元出来るとは言え、気を付けて欲しいとの助言だった。
「肝心のオークだけど、人数は20体ほど。全てがクラッシャーだから、単純な力押しをしてくると思っていいわ」
 服を溶かすスライムとの搦手以外、気を付ける事は無いようだ。もっとも、それが一番気を付けるべきことかもしれないが。
「あとは予知と異なる状況にしない、と言う事が課題かしら? 女性のケルベロスであれば室内にいる事が出来るかもしれないけど……」
「更衣室かはたまた廊下か。我ら男連中には難儀じゃのう」
 レオンハルトの独白に、リーシャはあははと苦笑いを浮かべる。
「それと、スタッフを合わせて一般人女性は10名ほど。みんなもいれると、ちょっと人口密度が高くなっちゃうわね」
 それをいち早くクリアする為にどうするか。それも大切になりそうだ。
「まぁ、オークもそうだけど、服だけを溶かすスライムも十分脅威ね。と言っても、服を溶かしてしまうと消えちゃうみたいだから、持って帰る事も出来ないけど、戦う必要もないのが幸いみたい」
 そして紡ぐいつもの言葉に、レオンハルトを始めとしたケルベロス達は頷き、ヘリオンに向かうのだった。
「それじゃ、いってらっしゃい」


参加者
アルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
フレナディア・ハピネストリガー(サキュバスのガンスリンガー・e03217)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
神宮・翼(聖翼光震・e15906)
御苑・由比(キャスパリーグ・e42479)
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)
カレン・シャルラッハロート(シュトゥルムフロイライン・e44350)

■リプレイ

●初夏の香り
 その日の空気は茹だる様な暑さを纏っていた。久々に訪れた快晴はしかし、梅雨の空気を払拭するに至らなかった様だ。沢山の湿気と太陽光。その二つに晒された都心は確かに、サウナ状態との言葉が相応しかった。
 だが、それは屋外の話である。
 冷暖房完備の屋内プールに於いては、外の不快な空気など何処ぞ吹く風。プールに逃げ伸びた人々は心の洗濯とばかりに、その快適な空間を堪能していた。
「新作水着の発表の時期にはちと遅いが、海水浴にゃまだ早い時期だよなー」
 見事なクロールを決めた後、さばりとプールサイドに上がったアルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)もその一人だった。茹る様な気候と言えど、未だ肌寒さを感じる事もある梅雨の頃合いだ。本格的な海開きは梅雨明けからだろうか。
 濡れた金髪がメリハリのある肢体にするりと絡みついている。その身体を纏う空色の水着はドレスの如く、彼女の煌びやかさを強調していた。
「いやー。それでも涼しい室内で待機できるのは役得だよねー。役得ー」
 神宮・翼(聖翼光震・e15906)の声は喜色に染まっている。アルメイアと同じくひと泳ぎして来た後なのだろう。お団子に纏めた髪はしっとりと濡れ、ぽたぽたと零れる滴が形の良い胸に後を残している。ごく普通の水着姿にも関わらず、サキュバスであるが故か、その姿は何処となく艶めしかった。
「うう、ぢめぢめぇがもっと濃ゆくなっちゃいそうです……」
 湿った声を上げるのは御苑・由比(キャスパリーグ・e42479)だった。肌色が目立つ彼女の纏う水着は三角ビキニ。胸や下腹部に食い込む様は、ここに男性がいれば注目の的になる事は請け合いだった。幸い、彼女達ケルベロスを含め、客層は全て女性であり、そのような好色な視線を向けられる事はなかったが。
 それもこの瞬間までだろう。オークが来ればわたし達はきっと……と、悲観的な思考が脳裏を染め上げる。心臓が早鐘を打つのは、緊張しているからなのだろうか。
「プールにオーク。ホントに何時でも何処でもなんだね」
 胸の零れ落ちそうな水色ビキニと言う風体のカレン・シャルラッハロート(シュトゥルムフロイライン・e44350)は半眼で嘆息する。うんざり、とあからさまに書かれた表情に、朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)が笑顔を重ねた。
「全ては聖王女様の導きのままに。皆様にもその恩寵がありますように」
 組まれた腕と聖句に呼応して、豊かな胸が柔らかく揺れる。その膨らみを覆う水着は包むよりも先端のみを隠すだけの際どさで、水泳よりも肢体を見せつける事だけを目的としている物だと、容易に見て取れた。
「ともあれ、私達に出来る事はオークに備える事のみ」
 只の一人もドラゴンの尖兵達による犠牲を出すつもりは無いと、義憤に駆られた表情をフィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)が浮かべた。

「それにしても、何処でも湧いてくるよな、オーク」
 壁越しのロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)はどのような顔をしているのだろう。更衣室に待機するフレナディア・ハピネストリガー(サキュバスのガンスリンガー・e03217)は彼の表情を想起し、小さい笑みを浮かべた。
 ケルベロス達が待機に選んだのはプールだけではない。外もまた、重要な拠点と定め、避難誘導の為の布陣を敷いたのだ。
「少し控えめになってくれればこちらも楽なのにね」
 しかし、定命化――重グラビティ起因型神性不全症に苦しむドラゴン達の現状を考えれば、彼らの打つ手が収まる事は無いだろう。
「厄介だな」
 ロディの独白にええ、と頷く。
 結果、螺旋忍軍と手を結ぶ事になった現状は、笑えるものではない。個人主義のデウスエクスが故、同盟と呼ぶ程大袈裟なものでは無いが、良くない事態の兆候にも思えてしまうのも事実。
 だが、その思考も長く続かなかった。
「きゃあああっ。デウスエクス!!」
 絹を裂くような悲鳴が、施設内に響き渡っていた。

●梅雨晴れのオーク、それとスライム
 プールサイドに開いた魔空回廊から降り立ったオークの数は20体。成程、予知の通りだとケルベロス達は頷く。
 ならば、予知が告げた次の状況は――。
「水着が溶け――」
「いやぁぁぁっ」
 更なる悲鳴が、建屋の中に木霊した。
 ああ。なんと言う事だろう。まるで酸でも掛けられた様に、女性の水着が融解し始めたではないか。接する皮膚に爛れが見えない事から、降り注いだ無色透明な液体が『服だけを溶かすスライム』なのは明白だった。
「ぶひひひ。あの螺旋忍軍のねーちゃんはいいものをくれたでブヒ。これで服をいっぱい溶かしてやるでブヒよ。その前に……」
 下卑た笑みを浮かべたオークは雄々しく触手を振り乱すと、水着が溶けた女性へと群がる。元々、小麦色の肌を申し訳程度に覆っていたビキニは既に紐状の残骸と化し、色薄い桜蕾も、更に色素の薄い茂みすらも露わにしている。
「に、逃げて下さいーっ」
 ラブフェロモンを伴った由比の叫びが響く中、逃げ遅れた数人へオーク達が殺到する。その中には先程の小麦肌の女性――昴の姿もあった。
「頂きまーすでブヒ!」
 同じく取り残されたフィスト、翼、そしてカレンへオーク達が群がっていく。可憐な悲鳴と下卑た哄笑が周囲に響き渡っていった。

「持ってけ、ありったけ!」
 響く銃声は一度だけだった。否、ロディによって極限にまで圧縮された連射が、一撃と錯覚させる銃声を響かせたのだ。
 脳天を貫かれたオークは悲鳴も上げず、絶命。遺体は光の粒子と化して消失していく。
(「これで2体目」)
 止めを刺した敵の数を数えるロディの思考はしかし、次の瞬間、むぎゅりと中断させられてしまう。
「ケルベロス様っ!」
「わっ。わわわっ」
 オークに追われていた女性による感謝混じりの抱擁だった。だが、ロディには刺激が強すぎたようだ。押し付けられる膨らみも、薄い水着越しに伝えられる体温も、塩素臭の奥から漂うなんかいい匂いも、彼にとっては毒過ぎた。
「さ。慌てないで確実に避難してね。慌てると転ぶかもしれないわよ」
 苦笑交じりのフレナディアに引き剥がされた少女はぺこりと頭を下げると、小走りに駆け出していく。
「……なんだよ。べ、別に恥ずかしかった、とかじゃないからな!?」
「顔、赤いわよ」
 ロディの反応ににふりと笑ったフレナディアはその鼻先をちょんと突くと、プールに向かうのだった。

 一方その頃。
 プール内に漂うむせ返る程の獣臭は、オークから零れた物か、はたまた。
 既に水着の体を為していないぼろきれを纏う6人は、それぞれが幾多のオークに吊り下げられ、霰もない姿を晒していた。局所を手や腕で隠す所作はしかし、オーク達の嗜虐心に火をつけるだけだった。
 ブヒブヒと歓喜に震えるオーク達の数は18体。入口に向かってしまった2体ばかりのオークは止める事も叶わず、今頃、好き勝手暴れているのだろうか。
 否、と断ずる。プールの外には2人の仲間がいる。彼らならば何とかしてくれている筈だ、と信じる事が出来た。
 故に今、この恥辱を受け入れ、囮の役目を果たしているのだ。そう思わなければやっていられないのも事実だった。
「大体お前ら、元から溶解液出すじゃねーか! スライムが必要なのか!」
「そうだそうだ。自前の溶解液があるだろ貴様ら!」
 アルメイアとフィストの罵倒にしかし、返って来た返答は小馬鹿にしたような嘲笑だった。
「ふん。良く聞くでブヒよ。俺らの溶解液は――単なる毒でブヒよ」
「「なっ?!」」
 オークの触手から放出される液体は、【服破り】の付与能力を持っていないのだ。確かに【服破り】は触手による刺突攻撃によって行われていたなぁ、とカレンがぽつりと零す。
「つーか、お前ら煩いでブヒよ。そんなに溶解液が好きなら、これでも喰らうがいいでブヒ!」
 ぬっと鎌首を擡げた触手は蛇の如く、アルメイアとフィストの口腔へ侵入する。
 口を閉じて侵入を拒もうとも、噛み千切って反撃しようとも試みたが、駄目だった。口内を蹂躙した肉の管は喉に到達すると、ぶしゃりと毒液を吐き散らかす。
 吐き出そうにも別の触手が頭を抑え、それを許さない。頭を抑えられた二人は必然的に、オークの吐き出した溶解液を嚥下する結果を強いられてしまう。
「げほっげほっ」
 ようやく解放された二人が激しく咳き込む。唇の端から零れる白濁液は皮膚を灼くと、じゅっと音を立てて消失していく。
「ダメ! そんな沢山! 一度になんてムリだからぁ……!」
「口ではそう言っても、身体は違うようでブヒよ!」
 同士討ちを誘うべく零した翼の懇願はしかし、結束の固いオーク達には何の効果も発揮しない。
「お前には口をやるでブヒよ! 俺はお尻を貰ったでブヒ!」
「なら俺はおっぱい貰うブヒ!」
 ワキワキと触手が翼の口を、零れ落ちた胸を、そして尻を蹂躙していく。太腿を這い回る感覚は不快そのもので、しかし、そこに滴る毒は甘い痺れとなって翼の思考を溶かしていく。
「あ、ああ、んぁ」
 零れ出た嬌声は、嫌悪と期待に彩られていた。
「ああ、駄目っ。抵抗出来ない……」
 あからさまな演技の声を纏うカレンはしかし、その触手が羽根や尻尾、胸の尖端を擦る度に、演技とは異なる甘い声を零してしまう。
「フヒヒ。ここがいいでブヒか?」
 弱点が露わになれば的確に責めるのは戦士の性。まして、目の前にいるオークは略奪やセクハラにかけては百戦錬磨の兵なのだ。爪の如く尖端を尖らせた触手はカリカリと、的確に弱点を爪弾いていく。
(「んっ。駄目っ……」)
 思わず唇を噛む。こんな声、オークに聞かせるわけにはいかなかった。
 そんな弱点を責める行為はカレンにのみ及んでいたわけではない。昴もまた、その毒牙の餌食となっていた。
(「聖王女様っ」)
 触手に腕を縛られ、持ち上げられた彼女は如何な責め苦にも屈しない。触手の先端が幾ら胸や太腿、彼女自身を辱めようと刺激しても、敬虔な聖王女の使徒たる昴は篤い信仰心を盾に動じない――その筈だった。
「――ぁっ」
 短い悲鳴は触手の尖端が脇腹を擦った事に端を発する。そして、一度決壊してしまえば篤い信仰心など、役に立つものでは無かった。
「い、いや。止め……ないで……」
「ブヒヒヒ。堕ちたでブヒ」
 無理矢理引き出された快楽が心を蝕む。零れ出た嬌声を自身でも止める事が出来ず、逆に身体を絡ませ、オーク相手に快楽を貪り始める。ぬるりと響く水音はプールの水か、それともスライムの残滓か。
「あ、あわわわ」
 立ち上る熱気やら獣臭やらで雲でも出来るのではないか。
 そんな錯覚に溺れそうになった由比はがくがくと首を振る。だが、ただ一人残された彼女をオークが見逃す筈も無かった。
「ひゃっ、て、てあーっ!! って、と、溶かすは止めてくらひゃい~~っっ!?」
「ブヒヒヒ。溶かすなと言われて溶かさないオークが何処にいるでブヒか!」
 嗜虐者の笑みで由比を追い回すオークは彼女を拘束すると、既に水着ではない布切れにスライムを塗りたくっていく。その行為に意味こそ無かったが、由比の怯えそのものが行動原理の彼らにとって、それはどうでも良かった。
「い、いや。ぬるぬるして、あ、くっ」
 スライム塗れの触手が触れるのは水着だけではない。当然、それが嘗て、隠そうとしていた煽情的な肢体の曲線をなぞり、ついでとばかりに揉みしだく。やがて、由比の口からは拒否以外の声色が溢れ始めて行った。
「好き勝手はここまでよ。オーク!」
 色々と限界に達した仲間の中に飛び込んだフレナディアとロディが声を上げる。
「何っ! ケルベロスだと?!」
 ようやく事態を悟ったオークが大声で雄叫びを上げるのだった。

●番犬無双
 響く無数の銃声にオークの一体が斃れ、消滅していく。ガトリングガンによる抜き撃ちを放ったフレナディアはにぃっと挑発的な笑みを浮かべると、指をくいくいと自身に向ける。即ち、挑発であった。
「これでも喰らうでブヒよ!」
 プールの水に潜むスライムを触手で掬い、フィレナディアに投擲するオーク。如何にケルベロスが強くとも、所詮は女。スライムに服が溶かされれば羞恥に染まり、裸になった身体を隠す。――彼らの認識ではその筈だった。
「なっ。でブヒ」
 驚愕の声はオークから零れる。
 スライムに服と溶かされ、一糸纏わぬ姿になったフィレナディアはしかし、座り込む事も、局所を隠す事すら無く、身に着けた移動砲台の砲塔をオークに向けて発射。侵略者の命を重力の楔で消滅させる。
 彼女は羞恥を覚えない。何故ならば。
「他人様に見られて恥ずかしい身体じゃないし、見られて減る何かも持ち合わせてないわ」
 腰に手を当て、堂々と自身の裸体を晒していた。
 そしてロディとフレナディア、二人の乱入が反撃の狼煙と化す。
「空を貫く螺旋は星を砕き、音を上げ、壊滅的な夜を穿とう。全て立ち塞がる物を片付けよう。そして事も無げに笑え。未来の為に。――数が多いからっていい気になるんじゃねー!?」
 歌うように響くアルメイアの詠唱は、得物の蒼いギターをドリルに変え、オーク達を穿っていく。ちょっと罵倒が混じったが、乙女の怒りだ。仕方ない。
「左に紅葉姫、右に雪姫、共に螺旋の流れに連なる姉妹鯉! ――猛きヴァイキングが裔、守護者最後の一人を舐めるな!!」
 フィストの怒りが召喚した一対の鯉は水の刃でオーク達を切り裂いて行く。罵声はちょっとだけ快感を覚えてしまった自分への戒めでもあった。
「あたしのビートで、ハートもカラダもシビレさせてあげる!」
 キュンキュンと響く鼓動は翼から。魔性のリズムはオークの心を奪い、身体を、脳を、精神を痺れさせ、蝕んでいく。
「ミンチよりひどいよ!」
 治癒をかなぐり捨てたカレンの攻撃は、巨大なチェーンソーによる木っ端微塵粉砕斬りだった。機械音と共に炎を撒き散らし、オーク達を斬殺――否、粉殺していく。
「こ、こいつら、急に復帰したでブヒ」
「聖なるかな、聖なるかな。聖譚の王女を賛美せよ。その御名を讃えよ、その恩寵を讃えよ、その加護を讃えよ、その奇跡を讃えよ」
「ひゃう゛っ!? ご、ごめんなさい~っ!?」
 焦燥に駆られるオークに突き刺さるは異形と化した昴の爪、そして謝罪と共に放たれた由比の拳だった。
 無数のグラビティに晒され、オーク達は一体、また一体とその命を落としていく。
「せ、せっかく、服を溶かすスライムを手に入れた……ブヒよ」
 無念の声と共に、最後のオークが命を散らし、消滅していく。
「ま、スライムに過信し過ぎた事がお前達の敗因だった。ってことだな」
 ロディの言葉だけが、葬送の様に紡がれた。

 さて。
 オークとの戦いの傷跡をヒールで癒したプールに、8人のケルベロスによる楽しげな声が響く事になるのだが。
 それはまた、別の話であった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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