マダ遊ビタイ!

作者:麻香水娜

●静かな夕暮れ時
 町外れにある廃工場。
 敷地内に入ると、開け放たれた建物の入り口付近には何故か冷蔵庫やテレビ、扇風機など古い家電が乱雑に置かれている。
 どうやら心無い人間が、粗大ゴミとして出す費用や手間を省きたくて捨てていっているらしい。

 ――カタカタ……。

 17インチのブラウン管テレビから小さな物音が響き、眩い光に包まれた。
 光が引くと、50インチくらいに巨大化し、側面からは腕、底面からは短い足、そして上面にはガトリングガンを乗せたダモクレスが姿を現す。
『アト チョットー!!』
 機械的な音声を響かせたダモクレスはガトリングガンから銃弾をばら撒きながら外へ飛び出していった。

●多くの不法投棄の中から
「使われていない建物はゴミ捨て場ではないのですが……」
「ったく、嫌な連鎖だね」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が静かに目を伏せると、塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)も眉間に皺を寄せる。
「しかも、その負の連鎖が、塩谷さんが懸念したダモクレスを生み出してしまうのですから……」
 蒼梧は頭の痛そうな顔をして嘆息した。
 町外れにある廃工場に不法投棄されていた古いブラウン管テレビがダモクレスになってしまうのだという。
 無人の廃工場内にあった為、まだ被害は出ていないが、放置すれば多くの被害者が出るのは明らかだ。
 テレビがダモクレスになるのは夕方18時すぎ。
 この廃工場は建物の前には5台分の駐車スペースがある。建物から出てきたところ、この場所で迎え撃つのが障害物もなく戦いやすいだろう。
 山を切り開かれた場所に作られているので、周辺には民家も店舗もない。
 但し、道路は通っているので付近を車が通りかかる可能性はある。
 人払いの対策があれば安心だ。
「ダモクレスって事はレプリカントのようなグラビティを使ってくるんだろ? あと、ガトリングガン装備?」
 翔子が軽く首を傾げる。
「はい、仰る通りです。非常に高い攻撃力を持っているようですので、充分注意して下さい」
 頷いた蒼梧は、更に補足した。
「不法投棄は罪ですが、だからといって無関係の人々の命が奪われていい筈がありません。どうか、被害が出る前に撃破をお願い致します」


参加者
メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)
燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)
ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)
カロリナ・スター(テイクオーバー・e16815)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
アンナマリア・ナイトウィンド(月花の楽師・e41774)
逸見・響(未だ沈まずや・e43374)

■リプレイ

●ここから先は立ち入り禁止
「ボクは大通りから入って来るところに貼ってくるよ」
「大通りが近いなら手早くやった方がいいよね。私もそちらに行くよ」
 カロリナ・スター(テイクオーバー・e16815)がキープアウトテープを取り出して口を開くと、ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)もテープを取り出した。
「拙者もそちらを手伝おう」
 葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)が苦無を取り出し2人の後を追う。
 苦無の根元にテープを貼り付け繋げ、こちらに来る道を完全に封鎖しようと提案しながら。
「じゃ、私は反対側に。手分けした方が早いし」
 逸見・響(未だ沈まずや・e43374)が3人の歩いて行った方を見て、反対側を向いた。
「そうね。向こう側から来られてしまったら危ないものね」
「そちらは私が手伝いますよー!」
 同じくテープを取り出したアンナマリア・ナイトウィンド(月花の楽師・e41774)が響と共に歩き出すと、メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)が明るく笑いかけて小走りに追いかける。
「アタシ達は万が一早く動き出した時の為にここで見張ってるよ」
「テキトーによろしく」
 塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)が笑顔で6人を見送ると、燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)は気だるげに軽く手を振った。

 暫くしてテープを貼りに行った6人が戻ってくる。
「準備は上々、かしら? 規制線ってこうやって作るものなのね」
 アンナマリアが自分の貼ってきたテープを見ながらぽそりと呟いた。
「お疲れさん。ダモクレスはまだ大丈夫だ」
 翔子がニッと笑顔を広げる。
「んじゃ、ヤローども、殺っちまうか」
 亞狼がペインキラーを発動して建物の入り口を見据えた。

●もう終わりにしなさい!
『アト チョットー!!』
 一同が武器を構えて待ち構えるとダモクレスが出てくる。ケルベロス達に気付くと、目に付いた前衛に向けて上部についているガトリングガンから大量の弾丸をばらまいた。
 前衛の4人は咄嗟に腕を交差したり武器を体の前に翳して防御体勢を取る。
「めっ、です! ゲームは1時間までのお約束でしょ~!」
 銃弾の嵐が止むと、メリーナがビシっとダモクレスに言い放った。
「くだらね。こっちゃ現役ゲーマーだ、なもん知るか」
 メリーナの言葉を一笑に付した亞狼が、ダモクレスにのみ見える黒い日輪を背に浮かばせ、その熱で自らへ敵愾心を抱かせる。
「なかなかやるじゃないか」
 予め聞いていた通りの攻撃力に軽く眉間に皺を寄せた翔子がケルベロスチェインを展開。前衛を守護する魔方陣を描き、傷を回復させた。すると、ボクスドラゴンのシロがミルカに属性インストールを使って傷を癒す。
「ありがとな」
 ミルカは回復してくれたシロに微笑みかけると、シロは得意気に細い尾を揺らして応えた。
「ブラウン管テレビとはずいぶんとレトロな。でも、『あとちょっと』と言うからには、引き際は弁えないとな!」
 すぐに視線をダモクレスに戻し、バッと担ぎ上げたバスターライフルで凍結光線を発射する。
「……動きを封じさせてもらおう」
 スッと静かな動きで日本刀を抜いた影二は、瞬時に距離を詰め、緩やかな弧を描きながら的確に腕の接続部を斬り裂いた。
『マ、ダ……マダー!!』
 火花を散らして動きの悪くなった手足を動かし、駄々をこねるように地団駄を踏む。
「こらー! お約束を守れないならゲーム禁止です!!」
 再び、子供を叱るように強く言い放ったメリーナが、真正面からモニターに踊るように短剣を閃かせて達人の一撃を打ち込んだ。
 パッとマインドリングから具現化させた弓を構えるカロリナが狙いを定める。
「貰った!」
 矢尻が氷になっている矢でダモクレスのモニターの角を射抜いた。
「本当にいろんなモノがダモクレスになるね。不法投棄は問題だけど……今はこのダモクレスをなんとかしないとな」
 ブラウン管テレビを見た事がなかった響は、興味深そうにダモクレスを見ながらも、自分を含めた後衛に紙兵を大量にばら撒いて守護させる。
「カーテン・コールの時間だわ。黄昏の中でラスト・ダンスを踊りなさい」
 アンナマリアが光の鍵盤を展開し、鍵盤を奏でながら美しい旋律と共に半透明の御業がダモクレスを鷲づかみにした。

●寝る時間よ!
 ダモクレスは時折小さな火花を散らす腕を高速で回転させ、ドリルのように変形させる。
『クラエー!!』
 大きな体からは想像もつかないほどの瞬発力で一気に亞狼の腹を貫いた。
「やってくれんじゃねぇか」
 ペインキラーで痛みを誤魔化している亞狼は、チャンスとばかりに至近距離にある大きなモニターをナイフで力いっぱい、より深く、抉るように回路を切り裂きながら薙ぎ払う。
「不法投棄されたのはお前のせいじゃないけどさ。だからって、やりたい放題させるわけにもいかないな!」
「家族の事を覚えてるヤツに、別の家族を壊させる訳にはいかないんでね」
 亞狼が瞬時に離れ、攻撃を受けてよろめいた瞬間を見逃さなかったミルカから時空凍結弾が放たれると、翔子の達人の一撃が打ち込まれた。
『……!!』
 見事な連携攻撃を受けてダモクレスは片足を折って斜めに傾いた。
(「今か……!」)
 影二が稲妻の霊力を帯びた棒手裏剣に螺旋の力を込めて放つ。
 ダモクレスはなんとか立ち上がって体勢を整えようとするも、内部にまで深々と刺さる稲妻の霊力に感電したように体が重い。
「……身動きも出来まい」
 その様子を見ながら影二の声が静かに響いた。
「団長さん」
 アンナマリアがメリーナに声をかけた瞬間に奏でていた旋律を変えると御業が炎弾を放った。
「はーい!」
 名を呼ばれて頷いたメリーナは旋律に合わせて踊るような軽やかな足取りで弧を描きながら足の接続部を斬り裂く。
「不精に亘る勿かりしか、貴方の名前は分からないが貴方が成した行いは不滅である……」
 更に響の凛とした詠唱と共に、大量の氷柱が空中に現れた。それらは地を這う様にダモクレスに向かい、足に次々突き刺さる。
 連携攻撃でダモクレスが動けないうちにとシロが亞狼に属性インストールをかけてその傷を癒し、破かれた服も修復した。
「回復専念するよ」
 カロリナは気合を入れなおすと、サークリットチェインで前衛に守護をつけながら傷を塞ぐ。更にいくらダモクレスの動きが悪くなっているとはいえ、狙いが定め難くなっていた翔子とメリーナの状態も正常に戻した。
「ありがとね」
「どうもですよー!」
 翔子が軽く笑いかけ、メリーナは満面の笑みを向けると、カロリナもにこやかな笑顔で応える。
『モウチョット! クリアシタラ!』
 バチバチとそこら中から火花を散らすダモクレスは、分厚い側面や背面からミサイルポッド出し、亞狼のいる前衛に向かって大量のミサイルを発射した。
 ミサイルに足を止められた4人だったが、ダモクレスが随分弱っているのは明らかだと痺れを気力で誤魔化す。
「うるせー、てめーなんざ廃棄だ廃棄」
「遊びの時間はおしまいだ。良いコはもう寝る時間さ」
 亞狼は再び黒い日輪を背に浮かせ、その熱で暴走を誘い、翔子が縛霊手で殴りつけると同時に網状の霊力を放射して緊縛する。
「我が御業よ! 哀しき未来を駆逐なさい!」
 2人にタイミングを合わせたアンナマリアが攻撃的な魔曲を奏で御業を強化し、目標を空間ごと凍結した。
「エリミネートッ! ティアァァァァズッ!!」
 雄叫びとともに御業の拳がラッシュを叩き込み粉砕する。
「もう十分暴れただろ、そろそろゲームオーバーだ! フォトンドライブ、モード・フレア!」
 そこへミルカがラビティ・チェインでレーザー発振器の出力を極限にまで高め、無数の超高出力ホーミングレーザーを一斉に発射。
『!!!!!』
 畳み掛けるような連携攻撃に、ダモクレスは鮮烈な閃光と共に大爆発した。

●エンドロール
「……討伐完了」
 影二が周囲を確認し、粉々になったダモクレスの破片を見ながら小さく呟いて武器を納める。
「主よ、どうか彷徨える魂を御導き下さい」
 散らばる破片に近付いたカロリナは、十字架のネックレスを両手で握り祈りを捧げた。
「さて、お片付けです! 来たときよりも美しく、でーすよ♪」
 メリーナが仲間達に明るい笑顔で呼びかけ、自分も周辺にヒールを始める。
「んじゃ後ぁ任せたぜ。どれ、肴でも買って帰ってヤりながらゲームすっか」
 んーっと伸びをした亞狼は、後片付けは面倒だ、と仲間達に任せて戦場を後にした。
「それにしても、テレビも置かれていた家族の事を覚えてるモンなんだねえ……」
 翔子が周辺にヒールをかけながら、ダモクレスが爆発した辺りを目にしてぼんやりと口を開く。自分の家族を思い出しながら。
「ブラウン管テレビって分厚いんだね」
 初めてブラウン管テレビを観た響が、ぼそりと漏らした。
「はは、若い子は知らないかい。昔はこんな分厚くて重いテレビだったんだよ」
 運ぶのも大変でさー、と、懐かしそうに目を細めた翔子が笑いながら昔を思い出す。
「ふーん。あ、キープアウトテープ片付けて来なきゃ」
 翔子の話を静かに聞き、ふと思い出したように道路に向かった。
「拙者も苦無を回収してこなければ」
 影二も自分の苦無を回収しながらテープを片付けに向かう。
「少し勿体無い気もするな」
 廃工場内にあったのだろうか、ホウキとチリトリで破片を集めながらミルカが呟いた。
「アンティークとか好きなのかい?」
「いや、アンティークというか、機械に愛着が湧く性分でな。趣味の武装開発からきたもんなんだが」
 ミルカの呟きが耳に入った翔子が小首を傾げると、軽く肩を竦めながら手を動かす。
「それにしても、アンナマリアちゃんってあんな綺麗な曲奏でるのに、めっちゃカッコ良かったですよ!」
 思わず聞き惚れちゃいましたのに、と笑いかけた。
「ふふ、ありがと」
 アンナマリアはにこりと微笑む。そして──、
「家電はちゃんと、リサイクルに回して貰わないと、ね。約束よ」
 誰もいない方に向けてウィンクした。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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