病魔根絶計画~ライターの涙は黒くにじむ

作者:ほむらもやし

●誰の目も届かない
 壁を占拠する、本棚には沢山の小説や辞書、図鑑、地図が詰め込まれており、机上のディスプレイは明々と灯ったまま、書きかけの原稿を映している。
 部屋は6畳ほどの広さ。電気は消されていて、薄い緑のカーテンで遮られた窓からは、朝の光が差し込んでいる。
 そして、窓の近くに敷いてある、布団の中でピンク髪の女性が苦しそうに、悶え、ガタガタと震えている。
「……痛い、痛い、誰か、助けて。身体がおかしい。肌が真っ黒なんて、絶対におかしい」
 メールやSNS用と、仕事用で使い分けているのだろうか、枕の前には二台のノートパソコンが置いてある。
 だから、誰かに窮状を伝えることは出来そうにも見える。
 30cm先の、キーボードまで腕を伸ばし、助けを求めれば……あれ。
 誰に? どうやって?
 この場所まで来られる人っているの? 三次元の友だちなんていない、近所に住む人の顔も名前も覚えていない、取引先の会社とはメールでしかやりとりしたこと無い。
 いま、彼女の頭の中に思い浮かぶのは、二次元のキャラクターの顔ばかりだった。
 そして、布団と擦れた自分の黒い皮膚が垢のようにボロボロと崩れ落ちて、シーツを黒色に変えて行くのが、目の前の現実だった。
「趣味に生きるってこういうことだったんだ、私って、ほんとバカ……」

●病魔根絶のお願い
「突然で申し分けないけれど、よかったら、病魔の根絶に、手を貸してくれないか?」
 小走りに近寄って来た、ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)の、開口一番はそれだった。
「と、言うのも『炮烙病』の病魔根絶の準備が整ったと連絡が来た。既に医師やウィッチドクターと共に患者の元に向かう段取りも出来ている。あとは諸君が行くとさえ言ってくれれば、作戦は発動する」
 勝手に話を進める、ケンジは、今から向かうのは、病院では無く、重症患者の自宅となると告げた。
「病院に搬送しようとすれば、症状の進んだ身体の組織が崩れて死んでしまう恐れがあるから、今回は、病院に搬送はせず、自宅で治療(撃破)を実施する作戦となった」
 なお、重症化した患者の多くは社交的ではなく、人との繋がりを最小限に絞ってしまうタイプである。
 今回、あなた方が担当する重症患者もそのケースに当てはまる。
 地方にある国立大学を卒業後、安定した職に就いたものの、人間関係に疲れて退職、心機一転して、地縁も血縁もない、田舎でフリーライター業を始めた矢先の発病であった。
「今回の作戦で重症患者に取り憑いた病魔を、残らず撃破することができれば、『炮烙病』は根絶される。そして今後新たな患者が出ることはない。素晴らしいことだと思わないかい?」
 ただし、難易度の低い敵とは言え、この戦いに敗北すれば、根絶の試みは失敗する。
 即ち、新たな発病を食い止めることも出来ず、今、苦しんでいる患者を救うことも出来ない。
「患者に取り付いた病魔は炎を纏った黒い牛、焼け焦げた木彫のような見た目だ。そして、この病魔との戦いの重要なポイント『個別耐性』の獲得になる。これは患者に寄り添い、元気づけることで、一時的に獲得できる耐性で、病魔との戦いでのみ確認されている特別な耐性だ」
 患者は人付き合いを避けていたとは言え、内心では、誰かに構って貰ったり——は言い過ぎか、普通に誰か話しをしたり、趣味ついて語ったりしたかったはずだ。
 つまり患者を元気づける目的で、寄り添うような言動は原則として個別耐性獲得に向けた行動と見なされる。
 なお、あなた方が担当する重症者の名前は、薬師寺はな。
 ふんどしをこよなく愛するフリーのライターである。
 もしあなたも、ふんどしが大好きなら、女性なら妄想を全開にして語って良い。男性なら凜々しいふんどし姿で決めポーズを取るなどしてふんどし美をアピールして良い。ふんどしを愛しているのなら、存分にふんどしについて語るが良い。
 かくして必要な情報を告げたケンジは、穏やかな表情であなた方を見つめる。
「この病気は、痛くて熱くて苦しくて寂しくて、身動きも取れなくて、だから寝ているしか出来なくて、起きている間は、そのどれかひとつでも良くなって欲しい、時計の針が進む度に身体が良くなって欲しいと願うしかできないんだ。したくても、頑張ろうとしても、何も出来ないのだから、そこだけは理解してね」
 そこまで言うとケンジは、仕切り直すように咳払いして、よろしくお願いします。と、丁寧に頭を下げた。


参加者
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)
惟任・真琴奈(素顔内在証明・e42120)
レッヘルン・ドク(怪奇紙袋ヘッドクター・e43326)
アーシャ・シン(オウガの自称名軍師・e58486)
四十川・藤尾(馘括り・e61672)
霊ヶ峰・ソーニャ(コンセントレイト・e61788)
山下・仁(新人ケルベロス・e62019)
ペスカトーレ・カレッティエッラ(ポンコツフィッシング・e62528)

■リプレイ

●置き去られた家
 歴史上、人間は権力を現わす手段の一つとして、着衣を用いた。
 そのデザインを変え、施した装飾の違いより形成したヒエラルキーを可視化した。
 が、ふんどしは表に見える着衣の変化とは違って、簡略化されることはあっても、複雑になることは、あまり無かったと言われている。

 はなさんのことを、作ったものを、もっと知りたい、楽しんでみたい。
 惟任・真琴奈(素顔内在証明・e42120)の気持ちのなかでは、もう、はなはもう友だちのようで、今、手を差し伸べたいという気持ちは、とても自然で当たり前のことになっていた。
 たった一人でも、分かっていくれる人がいてくれれば、世界は優しくみえる。
 どん底の不幸とまでは言わないけれど、大して幸福とも言えない人生を象徴するように、家の壁の色は、あせたような冴えない色に感じた。
 庭の木も植え込みも、刈り掛けの坊主頭という感じで、やりかけのまま、放置されているように見える。
 沢山の人間が周りにいても、用件のみの繋がりしかなければ、用件が終わると同時に、その人は人界との繋がりから断絶されてしまう。これは、今回、不運にも『炮烙病』を発症してした患者に限ったことではない。

「これは、症状の進行が早かったのでしょうね。とにかく早急な処置が必要だと思います。急ぎましょう」
 病魔への対応については、やるべき手順が確立されている。
 ならば、少しでも早く、病魔を分離して撃破するのが患者の為になると、レッヘルン・ドク(怪奇紙袋ヘッドクター・e43326)は考えているのかも知れない。
 治癒が早くなるのは、患者にとって良いことだ。しかし治療の相手は生きた人間であるから、家電の修理とは勝手が違う。相手の気持ちに寄り添い、信頼を得ることも重要だ。
『情けは人の為ならず』
 霊ヶ峰・ソーニャ(コンセントレイト・e61788)の頭の中に浮かぶのは、昔からあることわざ。
 親切な行いは世の中を巡り巡って、やがて自分に戻ってくる。と言うのが辞書的な意味だ。
「戦い、共に、する、仲間、大事、に、しろ、教わった」
 あなたが優しい振る舞いをすることで、あなたに繋がる人も優しい気持ちになれる。いつの間にかにあなたの周りは優しい人ばかりになる。だから優しい世の中で生きて行ける。
「人、と、行動、共に、する、大事さ、気付か、された」
「あっしも人付き合いが苦手だから、寂しい気持ちは良く分かるでやんす」
 胸の前で腕を組んで、山下・仁(新人ケルベロス・e62019)は頷く。
 ソーニャの区切り区切りの言葉は、ゆっくりで、たどたどしい印象を抱かせてしまうが、内容は聞く相手のことを考えて、要点も整理されている。故に意図は分かりやすかった。
「別に一人で、閉じこもンノが悪いとは言わねェヨ」
 ただし、ひとりぼっちで苦しんで死ぬような結末は誰も望まないと、ペスカトーレ・カレッティエッラ(ポンコツフィッシング・e62528)は憂いを含めた目を細める。
 人付き合いが苦手なことと、人気者になれない、話題の中心になれないと言うことは、全く違うこと。
 もしあなたが、他人の話に興味があり、耳を傾けるのが苦痛でないならば、それは人付き合いが苦手とは言わない。誤解して気に病む必要は無い。
「人、付き合い、苦手、理由、に、逃げる、のは、ダメ、そう、教わった」
 そんなタイミングで、先に家で準備を進めていた、医師と看護師が、よろしくお願いします。と、あなた方を呼んだ。

●病人の寝所
 室内の様子は一般的にイメージされる若い女性の部屋とはかなり違った。
 本棚には資料らしき文献や図版がビッシリと並び、剥製や模型のような物が雑然と置かれている状況は、大学の研究室か、画家のアトリエを連想させる。
「はじめまして、はなさん。……今日はプレゼントを用意してきました」
 何だか分かりますか? と、据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)はゆっくりと告げながら、おもむろに服を脱ぎ始めた。
「すみません。手間ばかり掛けさせちゃって……いいんですよ、私、なんかに、そんなお気づか……、えっ?!」
 辛そうに瞼を開いた、はなの瞳に飛び込んできたのは、赤く瑞々しい鱗に覆われた、赤煙の裸身と、白のふんどしであった。しかもそれは日本男子のスタンダードとも言われる越中褌だ。
 尻の見え具合においては、好みが分かれる所だが、実用的で愛用者も多い品である。
「ふ、ふんどし〜、美しいのです〜」
 はなの顔が歓喜の色に塗り変わる。機を逃さずに、赤煙は金剛力士像の如くに掌を突き出して、先ずは阿、続けて腰に手を当てるようにして、吽と気合いのポーズで魅せた。
「これが、本物のふんどしなのね。すっごくお洒落で、素敵じゃない!」
 浮世絵に描写される飛脚みたいねと、アーシャ・シン(オウガの自称名軍師・e58486)は雰囲気を盛り上げる。
「もう大丈夫ですぞ。聞けば、人間関係の辛さから一人を選ぶようになったとか。あらたな道を歩み始めたばかりなのに、さぞ理不尽な思いをしているでしょうな」
 この人はすごい。相手がレッヘルンも仁も言葉を失ってしまった。まさにふんどしへの友愛の体現。身体を張った赤煙の激励は、東一局いきなりの役満自摸に匹敵する威力で、はなを励ました。
「はなさん? 御免下さいまし、わたくし、ケルベロスの藤尾と申します」
 恍惚とした表情のはなの顔の前で掌を振って、四十川・藤尾(馘括り・e61672)は意識状態を確かめた。
 意識はハッキリしている。やや呼吸が荒いように感じるが気持ちも落ちついているように見える。
「わたくしたち病魔の治療に参りましたの。宜しければ褌についてお話しませんこと?」
「はいっ、喜んで」
「実は、わたくし普段から着物を愛用しておりますの。生地にも寄りますが……西洋の品ですと線が合いません。だから絹の褌も愛用しております」
 4人もの殿方の目もある為、小声で耳打ちをし合う形にはなったが、使い心地に関するデリケートな感想や、便利な小技、あるあると、目を細め合う2人は、数分前に出会ったばかりなのに、まるで昔からの友だちのように見えた。
「ん?」
 夢中で話し続けて暫く、藤尾は袖を引かれる感触に、後ろを振り向いた。
「ソーニャ、わから、ない、こと、多い。良ければ、ソーニャ、にも、いろいろ、教えて、欲しい」
「「勿論ですよ」」
 使い古された言い回しかも知れないが、コミュニケーション根源にあるものは、相手への関心。関心があるから知りたいと思うし、話したい気持ちは自然に湧き出てくる。
「貴女はライターさん、でしたね。貴女の作品、ボクは興味があるのです」
 ありがとう。真琴奈の衷心からの言葉に、涙ぐむ、はなの頬に黒い筋が曳かれる。
「世の為、貴女の為、なによりボクの為。ここで貴女を死なせたりはしません」
「もし、良い、なら、共に、戦おう。……必ず、助ける」
 気持ちは人生最高の瞬間だったかも知れないが、病状は最悪と言えるほどに、身体を蝕んでいた。
 触れただけで砕けて壊れてしまいそうだから、身体に触れることは出来なかったけれど、それでも確りと顔を見据えて、ソーニャも真琴奈も告げた。
「是非ともボクたちを、頼って下さい。必ず助けますから」
 果たして、満貫の4倍増しの激励を受けた、はなからの病魔の分離作業が開始された。
「よしそこだ! 一本釣りダァ!!」
 ペスカトーレのかけ声に導かれるように、ずるずると、はなの小さな身体から出てくるのは、軽トラックほどの大きさもある、牡牛の如き病魔。それを開け放った窓の外に引っ張り出すと、病魔の攻撃が家に向かぬように、半開きの翼の如き形に布陣する。
 対峙する漆黒の巨躯は何者をも圧倒する圧迫感があったが、個別耐性獲得の成果なのか、絞ったまま乾かした雑巾のように痩せ衰えていた。

●殺意の応酬
「やっとお出ましですか?」
 ふんどし一丁でパフォーマンスを続けていた、赤煙は、待ちわびていたように、病魔の前脚を脇に抱えると、確りと地を踏み込んだ。巨体にも関わらず、病魔は驚く程に軽かった。
「飛龍のごとく……」
 かけ声と共に高々と跳び上がった赤煙の繰り出すきりもみ回転。病魔の膝に衝撃を与えながら投げ飛ばす技は、紛うことなきプロレスの技、その進化形とも言えるグラビティであった。
 直後、強烈な魔法の力と共に病魔を地に打ちつける。木炭が割れるような軽く澄んだ音を立てて、黒い巨体は破片をまき散らす。
 病魔はもう何が起こっているか分からないという様子で、橙色の目を宙に泳がせる。
 その眼差しが、誰かに向けられる前に、横に薙ぐかに見せたフェイントから繰り出された、真琴奈の神速の突きが病魔の巨大な腹を貫く。
 同時、突きが孕む稲妻が体内で暴れ、パラライズを幾重にも刻みつける。直後、仕返しとばかりの吐き出した朱い炎が、前に躍り出た仁を直撃し、続けて前衛に襲いかかった。
「さあ! さあ! お前の焔はその程度でやんすか?」
 だが、炎を浴びても仁が怯むことない。
 そしてその攻撃も戦いの趨勢に影響を与えることは無かった。
 それ程までに病魔の弱体化は顕著で、パラライズも大きな効果を上げていた。
「油断は大敵ですからね」
 レッヘルンの召喚した雨雲が薬液の雨を降らせる。それは病魔の動きを牽制するように間合いを保っていた仁を苦しめる炎を消し去った。直後、ナノナノが突き出した尻尾が、病魔の巨体に愛の心を注入した。
「一挙に畳みかけましょう」
 藤尾は言い置くと、踵を踏み込んで、飛び上がる。放物線の軌跡を描く上昇の頂点で頭上に掲げたルーンアックスを落下の勢いに乗せて振り下ろす。甲高い衝撃音が響く、直後、バッサリと裂ける病魔の巨体から、赤熱した鉄の如き輝きが露わになる。
「アンタ、はらわたが丸見えだぜ!」
 ペスカトーレの撃ち放った竜砲弾が崩れて行く巨体に追い打ちを掛けるように命中して、大爆発を起こす。
「もう、終わったんじゃねぇの?」
「いいえ、まだよ!」
 だが、膨れあがる爆炎の中心に見える塊のような存在感は変わらず。
 アーシャが注意を促し、前後して、ソーニャが炎の中心に狙い定め、力を集中させる。
「炎よ、集え。風よ、集え。土よ、集え。沈黙させよ、殺戮せよ、討伐せよ。今この時、我の意思の元、その力を示せ」
 淡々と言い放ち、ソーニャの術に集められた力が、病魔の直下で火山の如き大爆発を起こす。そこに爆炎を裂いて突っ込んで来たアーシャが、力任せの拳を突き出した。
「さーてと、黒焦げの丸焼けになってそうだけど、きっちり解体してあげないとね!」
 直後、満身の拳と化したアーシャが、凄まじい勢いで衝突して病魔の上半身を粉砕する。
 轟音と共に朱炎と黒炎が噴き上がり、形を留めていた下半身も湯気のような灰を散らしながら消えて行く。
 数秒の後、力を出し尽くしたアーシャとソーニャが緊張を緩めた時には、病魔は綺麗サッパリ消え去っていた。

●本当の友だち
「はっくしょん!!」
 赤煙の人生の中で、依頼の最初から最後までの間、ずっとふんどし一丁で過ごしたのは、多分始めての経験であった。
「この辺りは今が田植えの季節ですか、寒いわけでは無いのですが、慣れないことをするとムズムズします。と言いますか、締まりませんな」
 とは言え、はなからの熱い視線を向けられて、なんとなく服を着づらい雰囲気になっていた。
「この前知ったのですが、ふんどしダンサーなる方もおられるようですね。貴女と同じ趣味を持った方は他にもおられます。よろしければ、何故ふんどしにハマったのかお聞かせ願えませんか?」
 はなは、レッヘルンの問いかけの意味を理解しかねて、言葉を濁すしか出来なかった。
 相手に対する興味が動機だったとしても、自らを語らず、見せずであれば、心の開きようが無い。
「はい! 実はわたくし、此処に来るまでふんどしって、よく知らなかったの。もう、相撲取りのまわしみたいなものぐらいイメージしか無かったのね」
 アーシャはこの依頼に取り組むに当たって、検索してふんどしについて調べ、その奥行きのある世界にすっかり魅了されてしまったと熱弁を振るう。
「そう、尻を強調するバックスタイルは、小細工なしで雄の力強さを引き立てるわ!」
「それです、それ。恥ずかしながら、私も、お祭りで見た殿方のお尻が可愛らしくて、ええ、まあそれが切っ掛けで、……人生がこんな感じになってしまいました」
 自分の趣味は普通では無いから、もう結婚も諦めた。できれば誰にも迷惑のかからないところで、好きなことをしていたい。ネットさえあれば、仕事だってある程度は何とかなる筈だから——。
 そのはずだったのに、病魔はその目論見を打ち砕いた。と、はなは寂しげな表情をして、同時にあなた方との出会いを導いてくれたと、透明の涙をこぼす。もう、『炮烙病』の症状は綺麗に消え去っている。
 もう病気は完全に治り、任務は果たした筈だけど、それだけでは全然足りないような気がして、この人を真に助けたことにはなっていない気がして、ソーニャははなの衣の裾を引いた。
「一人、違う。皆、頼って、いい」
「細かいことは良いんだよ。アンタはアンタなりに、ライターとして、まだまだやりテェことが山程あんダロォ?」
 それなら命は大事にしろと励ましつつ、それ以上は何を言えば良いか分からなくなり、ペスカトーレはやりかけのまま放置されていた、庭木の剪定を片づけてやると、庭に出て行くのだった。
「和装の方が好きなので、ふんどしならボクも着用しているのですが、こんなに話が広がるものとは、思いも寄りませんでした!」
 はなの作品を読みふけっていた、真琴奈が此方の世界に帰ってくる。
 全てに目を通せたわけでは無いが、時代によってデザインの変化が大きい衣服に対して、変化の少ないふんどしについての比較考察に始まって、いつの間にかに偏執的なふんどしを愛ばかりが書かれている卒業論文や、それを人間工学的な究極、ミニマルとして、脚線と臀部の構造美を論じつつ、新しい時代の息吹としてふんどしの普及に取り組む若きデザイナーの物語を目にしたらしい。
「はなさん。これはボクの我儘かも知れませんが、何かを全力で愛した人の創作って、見ていて元気が出ますから、……これからも見せて欲しいし、作り続けて欲しい」
 そう告げた真琴奈の顔を、はなはきらきらした表情で、見返して来る。
「もう、本当に、勝手ですね」
「はい、もう友だちなんですから、遠慮する必要なんてないですよね」
 愛や憧憬だけでは、飯を食べて行くことは難しい。でも、愛や憧憬を諦める人生も寂しい。
 窓の外を見れば、ペスカトーレが庭木の剪定を進めてくれていたお陰で、でこぼこの緑の枝の代わりに、空がスッキリ見えるようになっていた。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月19日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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