ミッション破壊作戦~地に落ちる一粒の麦

作者:ほむらもやし

●季節は巡る
「もう6月だね。いつも早いと思うのだけど、また、グラディウスが使えるようになっていたから、粛々と、ミッション破壊作戦を進めよう」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、爽やかに話を切り出した。
「行き先によって敵の強さは、かなり変わるけれど、基本的な考え方はいつも通り。——で済ませられれば、楽なんだけど。それはダメだよね。そう言う油断は僕も含めて禁物だ。だから繰り返す。このグラディウス、見た目は小剣だけど『強襲型魔空回廊』を攻撃できる戦略兵器だ。魔空回廊を守るバリアに刃を接触させるだけで兵器としての機能は発揮する。それ以上でもそれ以下でも無い。不確かな情報に惑わされ無い様に。攻撃後は撤退。立ちはだかる強敵を倒し、ミッション地域中枢から離脱する」
 作戦は魔空回廊への降下攻撃と、撤退戦の二つの段階からなる。
 前者は思いの強さがポイントになるらしい。後者は素早い行動と仲間との連携が、重要とされる。
 なお降下については大抵の者は自由落下だが、怖いのが嫌であれば、パラシュートなど、ヘリオンに備え付けの道具を使っても構わない。
 既に判明している知見をどのように生かすかもポイントになる。
「撤退作戦は苦戦する方が多いみたいだけど、手書きで案内図を作るやり方で考えればやりやすいと思う。闇雲に撤退するわけではなく、何を目印にして、どの方向に進めば良いかということだよね。他、予想できる障害に対して何を注意するか、時間を掛けずに対応できることなら、有効な手立てになると思う」
 今から僕らが、向かうのは、攻性植物のミッション地域のいずれか。具体的な行き先はパーティで相談して決められる。

「特に気をつけることはありますか?」
 引き受ける依頼を悩んでいるという様子のケルベロスのひとりが、声を上げる。
「細部までスピード感を持つことと、仲間との協調だね。新手の来援を許す程に戦いが長引けば最悪だ。作戦地域が敵の占領地域である以上、行動の遅延が致命的な結果を招くことは認識して欲しい」
 状況は危険だが、敵は、グラディウスの攻撃の余波である爆炎や雷光、同時に発生する爆煙(スモーク)の影響で、大混乱に陥っているから、あなた方が多少大胆な行動を取っても、まかり通る。……多少なら。
 それが、少人数の奇襲でも、僅か1回の遭遇戦で撤退可能と見込める最大の根拠である。
「スモークが有効な時間はグラディウス攻撃を終えてから十数分程度。向かった場所やその日の状況で違いはあるようだけど、何十分も持つものでは無い腹づもりで」
 なお時間制限がシビアである強調したが、現時点でミッション破壊作戦におけるケルベロスの死亡事例は無い。
「あと、グラディウスは攻撃時に気持ちを高めて叫ぶと威力が上がる。君の熱い叫びがミッション地域を人類の手に取り戻す力になる。だから、恥ずかしがらずに思う存分叫んで良い、むしろ叫んで欲しい!」
 攻撃目標はミッション地域の中枢にあたる、強襲型魔空回廊。
 通常の陸路で、そこを目指せば、遭遇戦の連続となり、消耗による撤退が不可避と言われる。敵にとっても重要なアイテムである、グラディウスを奪取される危険を考えれば、行うべきで無い。その為、現在の所、ミッション破壊作戦では、高高度に侵入したヘリオンからの降下攻撃が実施されている。

「叫びはグラビティを高める為の手段だけど、何をもって強い叫びとされるかは解明されていない。誤解されがちだけど、叫びの内容や思いの強弱によってグラディウスが制御不能に陥ったりはしない。だから扱いについて、神経質になりすぎないように」
 使い手やグラディウスの個体差による挙動の違いはあるかも知れないが、自分から手放そうとしなければ、喪失することは、通常あり得ない。
 ミッション破壊作戦では、何度も攻撃を繰り返して、ダメージの蓄積による強襲型魔空回廊の破壊を目指している。ただの一度での制圧を狙うなら、大規模な作戦の実施が必要になるだろう。
 過去に1回とか2回目の、攻撃で破壊に至った事例もあるが、幸運なケースだ。
 だから1回の攻撃で大きな戦果は要求していない。そんなことよりも無事の帰還を最重視して欲しい。
 敵のグラビティなど、公示されている知見もある。それを活用すれば撤退できる算段は立つはず。
 ミッション地域は、日本の中にあっても、人類の手が及ばない敵の占領地。
 日々ミッション地域へ攻撃を掛ける有志旅団の力を持ってしても、防備の固い中枢近くまでは、手が届かない。
「デウスエクスは日々の暮らしも、長年の努力も、歴史も……簡単に踏みにじる」
 ターゲットとなるのはあなたの住む街かも知れないし、知らない土地かも知れない。
 しかし目の前に見える景色が平和であっても、侵略を受けている日常は危機だ。
 知らない土地で起こった惨劇は、明日、あなたの目の前に起こるかも知れない。
 運が悪い、可哀想だ。
 他人ごとだと思っていた悲劇の当事者に、ならずに済んでいるのは幸運に過ぎない。
 そして既に起こってしまった、危機に立ち向かえるのは、あなた方、ケルベロスだけだ。


参加者
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)
雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140)
神苑・紫姫(白き剣の吸血姫伝説・e36718)
荒谷・つかさ(疾風迅雷の鬼娘・e50411)

■リプレイ

●栃木県足利市上空
 到着を告げるブザー音が鳴り響き、ヘリオンの扉が開く。時間は午前6時、天気は快晴である。
 高空からは北から南に続く山の峰が、濃緑の鏃となって市街地に突き刺さっている様に見えた。
「こんなにおぞましい森に変えちゃって、まあ……」
 ぽつりと洩らして、眉を顰めると、雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140)は降下姿勢を取る。
 正直な所、遠目に見るだけでは、自然の森と異界の森の色の違いを判別することは難しいだろう。
「時間も経っていますし、市街もかなり喰われているようですわね」
 ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)の言葉に、荒谷・つかさ(疾風迅雷の鬼娘・e50411)、豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)も、厳しい表情をする。
「これ、線路も切れているよね?」
「山側に撤退するか、平地側かのどちらが妥当なのかな?」
 過去の衛星画像で地理情報のポイントを押さえていれば、渡良瀬川の両岸にある筈の街並みが消え、川の手前で留まっているはずの濃緑が川を越えて南に大きく伸びていることぐらいは分かる。
「それじゃあ、先に行くよ……」
 遥か下方に魔空回廊を防護するバリアを認めた利香は外に飛び出てゆく。
 バリアの見た目は変幻自在で、常ならざる泡沫の如き。今、空の色を映して青い瞳のように見えるバリアに進路を向けて、利香は翼を鋭角にして落下を加速する。
「クルウルクの一族をこれ以上、野放しにはできない」
 今は市街地の一部に留まっている異界の森が全てを飲み込む様を思い浮かべると背筋が寒くなる。
「獣を模倣する異形の植物たちに告ぐわ!」
 間近で見れば平らな壁にしか見えない、青空をバックにバリアに映る自分を睨み据え、利香はグラディウスを突き出した。
「一刻も早く、その商店街から立ち退きなさい!」
 小剣と称するには大きめな70センチが、バリアに接触した瞬間、大気が固まったが如き気配が広がる。
 弾かれるような衝撃が身体を突き抜け、手先を起点に全身に激痛が走り抜けるが、力を込め直して、叫ぶ。
「……こんなものは叩き切る! みんなが笑顔で買い物していた、街を取り戻すんだよ!」
 直後、天に向かって伸びた閃光は成長限界に達した巨木の如くに、光の枝を伸ばし、枝は針の如くに形を変え、光のシャワーとなって地表に降り注いだ。
 降下を続ける、スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)の瞳に、地表が半球状に輝く無数の爆炎に覆われて行く様が映る。
「そのまま燃えてしまえ! 訳の分からない唸り声も、この街の樹海化も、今日でおしまいなんだよ!」
 炎は異形の植物もろとも、異形の森に呑まれた街をも焼いて行く。網膜に届いた、何もかもが等しく炎に呑まれて行く様を記憶に焼き付け、スノーエルは叫び、そしてグラディウスを叩きつけた。
「取り返しがつかなくなる前に、この街から出て行ってもらうんだよ!」
 膨れあがる巨大な爆炎の熱が、巻き上がる風を作り出し、灼熱の瓦礫を空高く放り上げて行く。
「……こんなの、許せない」
 空中に巻き上げられてなお、燃え続ける異形の木々の間を縫うようにして、空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)は降下速度を上げる。
「ここには、お前たちのような訳の分からない生き物も、訳の分からない森も、不要」
 表情を変えぬままに、赤黒い煙の渦を映すバリアに刃を振り下ろす。
「この地を人の手に取り戻すために、お前たちを、必ずここから排除する……!」
 刃の接触から生み出された雷光が兵隊蜂の群れの如くに広がり、異物を排除する意志に導かれたように巻き上げられた敵影を焼き払って行く。
 衝撃に弾き飛ばされる無月と入れ替わる様にして、ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)が突入する。
「さあ、私は何だ。私の名前はユグゴト・ツァンだ。私は黒山羊だ。——故に、此処で証明するのは『真実』で在れ!」
 ユグゴトが抱くのは、『クルウルクの落とし子』の出自への疑念。刃を振り上げ、続く言葉と共に自らの存在意義、白黒を懸けて、グラディウスを振り下ろす。
「貴様と私の何方が『神話』に相応しいのか——」
 壮絶な衝撃音が、続く叫びと重なった瞬間、大気が灼熱する。上昇気流に吸い寄せられたあらゆる物が高熱に触れると同時、塵と消える。火球は風船の如き急速な膨張を見せながら、赤黒い茸雲となって、空高く立ち昇る。
(「美しくて楽しいこの地球を、プラブータのようにはさせないわ!」)
 つかさの顔は、舞い上がってくる灰に塗れていた。額から突き出た角も、身体も、である。
 今、グラディウスを手放せば、無事では済まない。降下攻撃の余波である、火炎と稲妻が自分を避けるように飛び去って行くのは、所持する者にだけ与えられた加護であるから。
「クルウルク……! ここから、いなくなれっ!!」
 胸に満ちる万感を叫びにするには、時間が短かったのかも知れない。間近では壁の様にしか見えないバリアを目がけて、つかさはグラディウスを突き出した。
 橙色の炎が津波の如くに痛めつけられた大地を、異界の森を嘗めて行く。衝撃波に散らされた木々の破片が瞬く間に燃え尽きて、灰と消え行く中、間を置かずにミルフィが突っ込んで来る。
「貴方たちも、何時まで、わたくしどもの地球に居座るつもりですの?」
 青空には山並みよりも遙かに高い茸雲が巨大な傘を広げており、その赤黒い色彩は劇画に描かれるこの世の終わりを告げる光景を彷彿させる。
「地球は、貴方たちの苗床にも巣窟にもなりませんし、させませんわ! グラディウスの輝き……受けなさいな!!」
 次の瞬間、爆ぜる雷光、同時に肉体を衝撃が走り抜ける激痛に意識が飛びかける中、ミルフィの脳裏を過ぎるのは、スターピルグリムやオグン・ソードたちと、戦いを繰り広げた日々。
 置き土産のようにこの地に残る、『クルウルクの落とし子』を一日でも早く消し去りたかった。

 同じ頃、先に着地した5人は集合し、撤退の準備を進めていた。
「こんなになっちゃって、この街の歴史も、もう終わっちゃうのかな?」
「……違う、絶対、無い」
 スノーエルの邪気の無い呟きに、無月が説明不足の呟きで返す。街が灰燼に期しても、この地を離れた人々が戻ってくれば、再び歴史は紡がれる。恐らくはそう言うことだろう。
 降りて来るミルフィを認め、ユグゴトは視線を移す、魔空回廊の上に浮遊するバリアは健在で、猛攻にも関わらず、壊れる気配は認められない。

「随分持たせたけど……やっと、ここに来た」
 グラディウスを確りと構え、翼を窄めると姶玖亜は突入姿勢を取る。今、脳裏に浮かぶのは、破壊し尽くされる以前には存在したであろう、この地に根ざした人々の顔と、同じ場所にあったはずの有形、無形の文化財の数々。
「みんなが、この地の奪還を待ちわびている!」
 それはケルベロスとして、一人の人間として、足利市を知る者としての確信。
 例え相手が強大だろうとも、人を弄ぶ卑劣の魑魅魍魎だとしても、怯むことは無い。
「今日こそ排除し、この地を取り戻す! 人々の……ボクの願いに応えろ! グラディウス!!」
 ケルベロスの力は誰の為、何の為に、得られた力なのか、姶玖亜は見誤らない。そしてグラディウスの強大な力を未来の為に行使する。
「この地にも、あの惨状をもたらすおつもりなら。絶対に野放しには出来ませんわね」
 神苑・紫姫(白き剣の吸血姫伝説・e36718)の瞼の裏に浮かぶのは、グラビティチェインを奪い尽くされ、荒廃した惑星プラブータの光景。そこと繋がるゲートは今、僅かな手勢によって監視されているに過ぎない。
 今、何を諦め、何を諦めてはいけないか、それは答えられる者のいない問い。瞬く程の刹那に思考を紫姫は目の前に広がるバリアを睨み据える。
「地上に在る人は、正気と理性、そして生をこそ讃える存在。だから狂気と異様な緑を讃え、人の死を無秩序に振りまくあなた方とは相容れませんの」
 小細工は無い。胸の内に湧き上がる万感と、思い浮かぶ記憶、ありとあらゆる思い詰め込んだ叫びと共にグラディウスを突き出す。
「ましてあなた方の狂気がこの地を支配し続けることなど、赦しはしません」
 瞬間、雷光が爆ぜる。解放された巨大な破壊力の反動から来る激痛に耐えながら、グラディウスに蓄えられた全ての力を解放せんと、緩み掛けた腕の力を、さらに篭め直した。
「今すぐこの大地を、この商店街にあった平穏を、正しい住人に、理性ある人々に返しなさいな。――去ね、異形共!」
 思いつく限りの手を尽くし、刃を叩きつけた、紫姫の身体は、まるで力を使い果たしたのように、爆煙の中に沈んで行く。一瞬の後、崩れ落ちる火球が、放射状に広がる爆煙を追って、地表を舐めて行く。

●心残して撤退
 しかし、紫姫の叫びをぶつけても、魔空回廊を砕くには至らなかった。
「落ち込んでいる暇は無いよ」
 魔空回廊を守る強力な護衛戦力が態勢を立て直すまでに、時間は多く掛からない。
 こうなればもう、大急ぎで逃げなければならない。紫姫の姿を認めた姶玖亜は、即座の撤退を促す。
 異界の森林の侵略に加え、攻撃の余波による炎と雷光に蹂躙された市街であったが、道路、橋、線路といった主要なインフラは瓦礫に埋もれながらも原型を留めていた。
「思いがけないプレゼントだね」
「……本当だ」
 道は太古の昔から人々が歩み続けた痕跡だ。姶玖亜に頷きを返す無月には、これが。たかが1年の異界の森の侵略如きで消し去られて堪るかという、人間のしぶとさを象徴しているように見えた。
 果たして、一行が歩みを進めて、渡良瀬川を越えようとしたところで、緑の巨獣の如き——樹獣『クルウルクの落とし子』が立ちはだかった。
「……押し、通る」
 比較的前方に位置していた、無月が最小の動作で星龍砲を向けて、エネルギー光線を撃ち放つ。光の筋は漂うスモークにトンネルの如き筋を描いて樹獣を直撃した。身の毛もよだつ悲鳴が上がると同時、返す刃が無月に突き刺さりその命を啜り取る。樹獣のダメージが回復する様を見て、利香の表情が曇る。
「拙いね。この剣で……勝利を掴む!」
 魔力による刹那の身体能力向上に懸けた超スピードの斬撃が樹獣を捉える。轟く悲鳴。
 耐久力の高さは予測できた敵だ。
 だから利香は威力重視でクラッシャーにポジションを取る。確実性の低さはホーミングで補い、自身で出来る全て短時間でダメージを与える一点に特化した。従ってそのシナジーにより、数人分の連撃に相当する威力が生み出され、樹獣を深く斬り裂いたのは、当然の結果でもあった。
「道を開けろ。我こそが貴様を愛する『黒山羊』で在る」
 ユグゴトは言い放ち、続けて、ある魔道師の解いた一言を引用し、倒されるべき敵の紡ぐ滑稽な物語に、端的な意味を与える。『クルウルクの落とし子』にそれを理解する能力なり、物語る知性なりがあったなら多少は違った反応も示せたのかも知れないが、今はただ、奇妙で不快な唸り声を上げるばかりだった。
「お取り込みのところ悪いけど、時間が無いんだよ!」
 竜語魔法の調べに続けて、スノーエルが突き出した掌から、白熱するドラゴンの幻影が放たれる。幻影は樹獣の巨体を燃え上がらせる。続けて、ボクスドラゴン『マシュ』の支援に背中を押された、紫姫は黒き翼を掲げ、度し難き叫びと共に百戦百識陣を発動する。
「よく聞こえなかったので、後でもう一度教えて下さいませ?」
 紫姫の名付けた陣形名があまりにも格好良かったので、ミルフィは無邪気に言い置き、破剣の加護を得た凍結光線を乱射する。直後、出し惜しみせず重ねて撃ち放たれた光線は容赦なく樹獣に突き刺さり、凍気が作り出す氷の結晶で巨体を路面に縫い止めた。
「さあ、踊ってくれないかい? と言っても、踊るのはキミだけだけどね!」
 姶玖亜の絶え間ない銃撃が始まる。銃弾は巨体の脚部に襲いかかり、足止めの効果を刻む。
 戦いは時の運であるとは、誰もが望むままに口に出来る。それが良かったとも悪かったとも。
 プラブーダの壊滅は、敵の特性を見誤ったオウガ自身が招いたことだと知りながらも、つかさは、「故郷の惨状を地球で繰り返させない」という決意を胸に抱き、メタリックバーストを発動する。
「この星を、あんたたちみたいなキモイ木だらけの星にされてたまるもんか!」

 猛攻にも関わらず、『クルウルクの落とし子』はしぶとく踏ん張った。
 普通の戦いならば、時間を掛ければ済むところだが、敵の勢力圏では、そんなに甘くない。
 スノーエルも、ユグゴトも、利香も、覚悟はとうに済んでいる。撤退出来なければ、皆死んでしまうと思えば、覚悟をするのは、清々しいほどに簡単なことだ。
 無月の放ったバスタービームが緑の壁の如きを貫き、機を合わせるように、利香は必殺の意志で高めた斬撃で巨体に刻まれたバッドステータスを一挙に花開かせる。
「しかし……クルウルクの配下と合間見える度に思いますけども……貴方たちは……何者なんですの……!?」
 疑問への答えが返ってくる筈は無いが、もし真実に触れることが出来れば、なにか前に進む術に繋がるような、ぼんやりとした期待がミルフィの頭の中に浮かぶ。
「目を閉じて――わたくしからの愛、お受け取り下さいまし……」
 普通の生命とは思えない姿の敵には、生命力を奪う対価に何をしても、心は痛まなかった。
 ほんの僅かな時間が、長く感じられた。だが、それももうすぐ終わりだ。
 ユグゴトの薙ぐ混沌『斬拓』と名付けた、チェーンソー剣が呻りを上げる。蔦を断つような手応えと共に跳ねた不快な粘液を浴びて、ユグゴトは唇の端を微かに歪める。
 傷口が広げられ、積み重なったバッドステータスがさらに花開いた。満身創痍の樹獣が身体を傾ければ、スノーエルが巨大な魔道書を召喚し頭上に構えて。
「こんなことも出来るんだよ? 出ておいで、いくよっ! ……そーれっ!!!」
 巨大な魔道書自体の重さに導かれるように、その角を無造作に打ち下ろした。
 その直撃を以て、『クルウルクの落とし子』は崩れ落ちて、動かなくなった。
「さあ、お行きなさい、此処は私が引き受けますの、夜の平穏を護るモノの威光、ご照覧あれ!」
 ビハインド『神苑・星良』と共に殿に回った紫姫の凜とした声に促されるようにして、橋を渡り始める一行。
 敵の目を惑わしてくれるはずのスモークはこの時点でかなり薄れており、地響きのような唸り声と共に数え切れないほどの敵の気配が、此方に近づいて来る。
「紫姫ちゃんも喋っている暇があったら急いで——」
「うわわっ、これは拙いですわ」
 迫り来る敵との接触を、際どいところで回避して、紫姫もまた仲間を追って駆け始めた。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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