墓荒らしの女

作者:ハル


「……お久しぶりっすね」
 リン・グレーム(銃鬼・e09131) は墓石の前で手を合わせると、そっと瞳を閉じる。そうすれば、すぐにでもリンの脳裏に彼女は蘇る。あの鮮烈な紅い髪と、リンと同じ色をした瞳と共に……。
「君を一度も救えなかった俺になんて、君は逢いたくなかっただろうけれど……それでも今年もこうして花を添えるぐらいは許して欲しいっす」
 不自然な程の静寂が辺りを支配する中、リンは彼女の墓に備え付けられていた花瓶に、彼女の紅い髪にいつも生えていた花を飾る。
 そうして、フッと一息つきながら立ち上がると――。
「……ブッ……く……ははっ……かはははっ!」
「……なにが、可笑しいんすかね?」
 堪えきれないとばかりに静寂を打ち破った嘲るような笑い声に、リンは眉根を寄せた。
 大口を開けて笑っていたのは、褐色の肌に深紅のドレスを纏う女だった。
 だが、女が携える血に濡れた刃を一目見て、すでにリンは臨戦態勢に。女の周囲を回遊する魚から察するに……。
「死神」
「ご名答だ、糞野郎。ちなみにネロって素敵に暴君な名前もあんだ、そこんとこよろしく頼むぜ?」
 女の死神――ネロは咥えた煙草を吐き捨てると、足元で踏み潰す。そして、「てめぇに良いもん見せてやる」そう邪悪に口元を歪ませると、回遊する魚がリンの周囲を蠢いた。
「……そういう事だと、思ってたっすよ」
 次の瞬間リンの眼前には、彼が一時は共に心中する事になってもいいとすら思った、大切な人が実体を伴ってそこにいた。リンのよく知るその姿。死んだはずの、殺したはずの少女。彼女の瞳は虚ろであり、そして何故か絶望したような表情を浮かべながら――。
「リン、死んで?」
 懐かしい歌声を響かせ、リンに明確な殺意を向けた。
「その顔、最ッ高だぜっ! カハハハハハッ!!」
 俯き呆然とするリンを、ネロの哄笑が追い立てる。


「リン・グレーム(銃鬼・e09131)さんの元に、ネロと名乗る死神が急襲したという予知が下りました!」
 集められたケルベロスは、山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)の第一声に瞠目した。
「連絡を取ろうと幾度も試みていますが、未だ繋がることがなく……。最早皆さんに救助をお願いするしかない状況です。今すぐに、グレームさんの救援に向かってあげてください!」

 桔梗が言い終わるまでもなく、ケルベロス達が戦闘準備に取りかかる。
 慌ただしく動く彼等に聞こえるよう、桔梗は大きめの声で伝えなければいけない情報を口にする。
「死神・ネロの特徴は、人が堕する瞬間を何よりの好物とする醜悪な性格にあります。特にオラトリオの絶望が好みであるらしく、オラトリオの方は狙われやすい懸念があるため、注意してください。状況によっては、ネロの行動を引きつける事も可能かもしれません」
 ネロは故人の魂を陵辱し、故人の墓を見舞ってくれた縁のある者を殺害させる。ネロはその瞬間を見つめてほくそ笑み、時には腹を抱えて笑うのだ。
「唾棄すべき敵です。皆さんの救援のタイミングですが、グレームさんとネロの接触直後に送り届けることができそうです」
 リンの現在地は、墓地であることが判明している。現場の状況だが、ネロが人払いを行っているらしく、人影はないようだ。
「現場には、当然ながらかなりの数の墓石が並んでいます。様々な人の思いが眠る場所……できれば傷つけたくはないですが、ネロは気にしないでしょうね……」
 桔梗が、悔しそうに歯嚙みする。
「ともかく、グレームさんの救出が最優先事項となります。皆さんのご無事を祈っております!」


参加者
リーズレット・ヴィッセンシャフト(焦がれる世界・e02234)
綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)
リン・グレーム(銃鬼・e09131)
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)
ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)
鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)
リュリュ・リュリュ(仮初の騎士・e24445)
豊間根・嘉久(天ツ空・e44620)

■リプレイ


(友に手を出させはせん。―――疾く、惨たらしくブッ殺してやるよ)
 現場へ急行するケルベロス。ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)は、漆黒の瞳に殺意を滲ませる。口は開かない。開けば、今にも爆発してしまいそうだったから。
 それに。
「なんと冒涜的な輩でありましょうか」
 綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)の瞳にも怒りの色。
 ――この場にいる仲間は多かれ少なかれ、誰もが同じ思いを抱いているから。
「最近のケルベロスジョークは笑えないわね。死者への敬意も忘れたのかしら?」
「聞く限りでは、随分な性悪であるのは確かなようだ」
 死者への愚弄。ヴァルキュリアであるリュリュ・リュリュ(仮初の騎士・e24445)にとって看過できぬ様に、眉根を寄せる。
 戦乙女に応じる豊間根・嘉久(天ツ空・e44620)の表情も、自然と渋いものに。
「デウスエクスって皆悪趣味なのかしら?」
 溜息をつく鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)。考えて見れば、胡蝶と縁のあるデウスエクスは、
「……下衆ばかりだったわね」
 と、納得してしまう者達ばかりだ。
「亡くなった人の心を、残された人の心をなんだと思ってるんだ」
 ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)が、苛立たしげに金の短髪を掻き毟る。
「絶望よりも、笑っている顔の方が素敵だと思うんだが……」
 きっと、死神とは理解も、共有もできないのだろう。リーズレット・ヴィッセンシャフト(焦がれる世界・e02234)が、目を伏せた。

「ミィエスュツ」
 リン・グレーム(銃鬼・e09131)の目の前に、彼女はいた。面影も、歌声もそのままに。
「リン、死んで?」
 ミィエスュツは告げる。絶望に満ちた表情で。リンは、そんな彼女の――家族が見せる表情が辛くて、苦しくて……彼女の歌声が身を苛む事さえ無視して、その細い肩を掻き抱きたい衝動に駆られる。
 だが、それが叶わぬ願いだと、誰よりも知っているのも彼。ゆえ、リンは自らに問いかけた。
 ――いつまで呆けているつもりだ、リン・グレーム? と。
 恩人を弄んだその所業に対し、下す罪科はただ一つ。リンは三度目の邂逅となるミィエスュツの姿を目に焼き付ける。すると、色を取り戻した世界で、「カハハハハハッ!!」その不快な哄笑が途端に耳をついた。
 死神・ネロ。
「命1つじゃ足りねぇぞ」
「はっ、やってみろよ?」
 戦力差などどうでもいい。突き動かされるように、リンは銃を構える。ディノニクスが、彼を守ろうと陣取った。
 ネロが操る複数の魚が、弾丸の如くリンに殺到する。
 リンにとって、決死の戦いが始まろうとした……その時――。
「させねェよクソッタレが」
 長年親しみ、生死を分かつ場面でも背中を預け合った戦友の声が木霊する。声の主がソルである事を証明するように、ネロを轟音と共に竜砲弾が襲う。
「リンさん、応援に来たぞ!」
「リン、助けに来たぜ!」
 リーズレットと、ハインツの声。
 同時、チビ助がネロに神器の剣で斬り掛かった。
「助太刀に参りましたよ、グレームさん」
「なっ! 皆さん!?」
 リンを庇うように、リーズレットとハインツも含め、合計5つの影が前方に陣取る。ディノニクスも含めれば6人となる彼等の周囲には、いつの間にかリーズレットのケルベロスチェインが展開。
 隣には、友人である鼓太郎の姿。鼓太郎は、自身とリンを庇う前衛に、大量の紙兵で守護を。人数が多いために効果は万全とはいかないが、ないよりは断然良い。また、漏れた者には、優先して響が属性を注入していく。
 見れば、胡蝶、リュリュなど、他にも見知った者ばかり。加え――。
「豊間根・嘉久だ。死神は初見だが、力になれるはずだ」
「イイねぇ!」
 嘉久が灰色の翼を広げると、ネロの視線が集中する。
「おっと、私も負けてはいられないぞっ!」
 負けじと、リーズレットが羽先にかけて黒から紫に移り変わる六枚羽とキスツスの花弁を誇示すると、ネロの嗤いが深みを増した。
「オラトリオに向けるその醜悪な笑み。あんた、聞いた通りの悪趣味な奴みたいだな!」
 水流怨霊弾をライオットシールドで受け止めたハインツは、重ねて私兵を散布する。強力な毒が込められた攻撃も、装備など各種耐性によって最小限に。
「ご無事で何より、グレームさん」
「さあ、リン。行くわよ。今こそ罪深い侮辱を贖わせる時よ。それと皆、いいかしら? 墓石の被害をなるべく抑えられるように努めましょう!」
「あ……ああ!!」
 胡蝶に、リュリュに背を押され、リンは改めて頷いた。
 男らしい口調のリンが珍しいのか、胡蝶がクスリと頬笑むと、
「そうね、墓石を破壊したくないし、されたくもないものね。さっさと倒してしまいましょう。まずは小手調べに――」
 ウイルスカプセルを投射する。
 続き、リンは銃弾を発射する角度を調整し、跳弾で死角からネロを狙う。
「時間は少しかかりそうだけれど、私達も前準備が必要ね。死神――お前を確実に仕留めるためにね」
 リュリュの視線が鋭さを増す。燃え盛るような赤のオウガメタルから、輝くオウガ粒子が放出される。
「死神がどの程度のものか、試してやろう」
 燃えるのはオウガメタルだけではない。嘉久のエアシューズは、文字通り燃え上がりながら、ネロに迫る。
「舐めんなよ、オラトリオ。てめぇらには絶望がお似合いだぜぇ!」
 だが、その蹴りは寸前でネロに躱される。返す刀で、蒼鎌が嘉久の肩口を深く切り裂いた。
「……それで終わりか?」
「はんっ、その余裕がいつまで続くか、見物だなぁ?」
 肉を裂かれても怯むことのない嘉久に、ネロはつまらなそうに鼻を鳴らす。
 リーズレットは後退しながら絶えず防御を引き上げ、言った。
「なら、我慢比べでもしようか? アナタが堕ちるのが先か、私達が絶望に陥るのが先か……」
「良い度胸だ、そのお綺麗な顔を歪ませてやるから覚悟しろォ!!」
 ネロがリーズレットに魚を嗾け、周囲を回遊させる。
 が――!
「覚悟すんのはでめぇだ。見物なのはてめぇのニヤケヅラがいつまで続くか、勘違いしてんじゃねぇぞ? ああ゛!?」
「グッ……ガァ!?」
 しかし、オラトリオに意識を奪われた代償は高く付いた。嘉久とリーズレットが後退していたのは、ネロを誘い込むため。誘い込まれた先にはソルと、捕食モードのブラックスライムが網を張っていたのだから……。


 ハインツの鼻をついたのは、腐臭。それも、腐った魚の臭いを、何倍も凝縮したような、強烈なもの。だが、ハインツは顔を背ける事などできなかった。
(娘に父親……そしてそれを守ろうとした恋人……)
 何故ならば、臭いの元凶であるゾンビ達は、逃れられないように彼を囲んでいたのだから。そうして、ハインツを恨みの篭もった視線と殺意で傷つける。ハインツは思う。彼等の憎しみは正当だと。ヒーローになりきれない未熟な自分が、そこにいた。
 だが――。
「もう誰も失いたくないから戦うんだ。……思い出させたのは逆効果だぜ?」
 ヒーローは立ち上がる。何度でも。
「エクハルトさんしっかり、敵を見誤らないで下さい!」
「分かってるよ、鼓太郎」
 鼓太郎の声と、肉体に充足するオーラの感覚。悪夢を振り払ったハインツは、墓地に花びらの雨を降らせる。
「助かるぞ、ハインツさん。それにどうだ、死神! 私だけじゃなく、ハインツさんだってアナタの絶望には簡単に堕ちないぞ! 絶望なんて、とうの昔に味わい尽くしているのだ!」
「……チィ!」
 言いながら、リーズレットが勇ましく咆哮を上げる。ようやく前衛全体に耐性が行き渡り、ネロが見せる悪夢と氷に対応できるようになってきていた。
 ケルベロスの防御を打ち崩す術を有さないネロが、忌々しげに舌打ちする。チビ助が、ネロを炎上させると、さらに苛立ちに拍車をかけた。
「そら、ふざけた高笑いはどうした? ―――勝ち戦でしか笑えねぇか?」
 雷を帯びたソルのハンマーが、追撃をかける。
 ならばと、ネロは一旦矛先を後方支援に徹する厄介な鼓太郎に向けるが。
「お気遣いありがとうございます!」
「このくらい、何ともないぞ!」
 その狙いは、リーズレットによって阻まれる。それだけ、ケルベロス達の守りは頑強であった。
 かといって、攻めが緩いわけでも断じてない。着実に蓄積していくダメージに、ネロが煙草を咥え、紫煙を燻らす。
「させるかよ!」
 間髪入れず、リンが構えるバスターライフルが、凍結光線を放つ。着弾と同時、彼と胡蝶によって元々刻まれていた凍傷が、ネロを激しく苛んだ。
 と――それは突然の事。
「クッソガアアアア!!」
 思い通りにいかない現状に、癇癪でも起こしたようにネロが墓石を無作為に破壊し始める。その中には、リンの大事な家族……ミィエスュツのものも含まれており。
「何をやっているのよ!」
「ッ!」
 何の意味も無い愚行に、リュリュが声を荒げ、鼓太郎が瞠目する。
 だが、ネロはニヤリと笑うと。
「何をも何も、お前らが言ったんだろ? 墓石を壊したくないってなぁ。ご覧の有様だぜぇ? なぁ、今どんな気分だよォ? お前らやあっちのオラトリオの女の顔見るに、やって正解だったみてぇだなぁ、カハハハハハッ!」
 冷静沈着な嘉久はともかく、リーズレットはネロの凶行に無反応ではいられず、下唇を噛みしめている。
 リュリュの表情から感情の一切が失われ、急速に酷薄さを増した。
「下衆は死ななきゃ治らないみたいね?」
 軽蔑も露わに、ドラゴニック・パワーを利用して爆発的な勢いでネロに迫る胡蝶。蒼鎌を盾に身構えるネロを数メートル吹き飛ばす。
「試練だ。欠乏にあっても耐えられよ」
 戦乙女として、騎士として、『リュリュ』として。貴様だけは生かしておかぬと、リュリュはルーンを虚空に輝かせる。巻き起こった飢餓を呼び込む風は、ネロを捉えて離さない。
「武器は、見た目だけじゃないと思え」
 表面上の顔色を変えずとも、それは嘉久の感情を示す指針には決してなりえない。事実、彼の胸の奥ではグツグツと、闘志と怒りが煮えたぎっている。口にした戒めの言葉と、無造作に振るわれる零式鉄爪。一見本命と思われた鉄爪はネロには届かぬが、オウガ粒子によって覚醒した超感覚が作用し、ネロの肉体に二段仕込みの仕込み針が突き刺さった。
(……我よ、心を静めるのだ)
 残骸と化した墓を眺め、しかし鼓太郎は大きく息を吸う。激情を示すのは、己の役目ではないと律し、鼓太郎はオーラをを仲間に注ぐことに専念した。


(死神に思うことは無いでもないけれど……)
 リュリュが眉を寄せる。彼等がこの世に姿を現すようになった一端に、ヴァルキュリアは関わっている。だが、今は――。
「リン、あなたが決着を付けるべきよ!」
 後衛を振り返り、リュリュはカラフルな爆発を発生させる。決着の時はそう遠くない。それは、ネロが煙草を消費する感覚が短くなっていることからも明らかだった。
「道連れにしてやんよ、糞オラトリオ!」
 だが、性根の腐ったネロが、素直に座して死を選ぶはずもない。
「……ッ、ぐぅっ……!」
 振るった蒼鎌が、防備を薄い所を狙って、嘉久の身を抉る。蒼鎌はこれまで消耗してひび割れていた鎧を易々と裂き、嘉久から溢れ出した血が辺りの墓石を紅く染める。
「豊間根さん!」
 傾き、倒れ込んだ嘉久。鼓太郎は、嘉久を下がらせようとその身を背負う。
「響、私達の出番だぞ! ハインツさんも!」
「応ッ、任せろ! 胡蝶も、頼んだぜ!」
 後方に下がろうとする鼓太郎の前に出たリーズレットとハインツ。
「承知しているわ。さぁ死神、年貢の納め時よ。欲の侭に踊り狂って、そのまま果てるなら――それはとても、幸せだと思わない?」
 オラトリオへの執着を隠さないネロの背後に回り込むのは実に容易だったと、胡蝶がその背にしな垂れかかり、囁きが耳から侵入し脳髄の隅々までを侵す。
「……あ゛っ……い゛ぁっ……」
 瞬間、ネロの褐色の肌が、それと分かる程明確に熱に染まり、腰砕けになりかける。
 だが――。
「ざけんなぁ! 殺すんだよ、オラトリオはなぁ! そんで絶望しやがれ!」
 ネロの執着は快楽を踏み躙り、嘉久諸共前衛を潰すべく、回遊する魚達が弾丸のように乱れ飛ぶ。
 リーズレットが壁のように張り巡らせたケルベロスチェインに、ハインツが散布していた私兵が、そして彼等自身が水流怨霊弾の余波を受け、粉塵が上がる。
 やがて、視界を取り戻した時。健在を示すリーズレットとハインツ。そして、ディノニクスに庇われ、重傷を免れた嘉久の姿があった。
「これで大丈夫だ、あと一歩頑張ってこうぜ!トイ、トイ、トイ!!」
 ハインツが、リーズレットに黄金を纏った蔦を触れ合わせ癒やす。ハインツには、響が属性を注いだ。
「遍く日影降り注ぎ、かくも美し御国を護らんが為、吾等が命を守り給え、吾等が力を寿ぎ給え」
 嘉久を安全圏に移動させた鼓太郎は、傷を負ったソルに、誓いの祝詞をあげて加護を与えた。
「数秒隙を作る。―――神業、魅せてくれンだろ? ……任せたぜ、相棒」
 動く気力を取り戻したソルは、左手のガジェットを握り締め、駆ける。水流怨霊弾の影響で、先程まで身から出ていた血までをも刃に変えて、一閃!
「ウォッ!?」
 矢のように、斬撃が飛来した。防ごうとしたネロの上体が反らされ、隙が生まれる。
「ドーンとキメてくれ!」
 6連装リボルバー銃を構えるリンの耳に届く、リーズレットの祈り。無論、リンとてそのつもりだ。
「6発じゃ足りねぇ、持ってきな。取って置きの七発目だ!」
「ふざけんなぁ!!」
 発射される銃弾は、吼えながら悪夢の一端――ミィエスュツを生み出すネロの四肢と心臓、腹部を撃ち抜く。そして、心を削って装填された7発目は。
「さようなら、ミィエスュツ」
 ミィエスュツの残影諸共、ネロの眉間を撃ち抜いた。
 消え去る間際、ミィエスュツは絶望から解放された表情で、
「ありがとう、リン」
 そう言ったような気がした。


「これで死者が安心して眠ってくれると良いわね」
「だな」
 可能な限り手作業で修復された墓石群。労るように墓石に水を掛けるリュリュに、リーズレットが同意を示す。
「グレームさんは、大丈夫でしょうか?」
「心配ね」
 ミィエスュツの墓の前でジッと動かないリンを、鼓太郎と胡蝶が気遣わしそうにみやる。ハインツと嘉久も、今ばかりは何も言えなかった。
「………俺も、祈らせて貰って良いか?」
「ミィエスュツも喜ぶっすよ」
 ソルはリンの隣にしゃがみ、手を合わせる。
 せめて来世は幸福を……平凡だが、皆の総意であろう願い。
「さっ、帰るっすよ!」
 空元気だと一目で分かる笑顔を浮かべるリン。
「……ッ」
 ソルは何事か告げようとして、やめる。リンは言葉など望んでいないと分かっていたから。だから代わりに、その肩に手を置いた。彼が一人ではないと、伝えるために。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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