しとしと、ぴしゃん。
ぱらぱら、ぱたん。
丸い半円形のビニールハウスをぱたぱた、ぱたぱたと一定のリズムで雨粒が叩いている。
その中にふわりと降り立ち、雨音に合わせてぴょんぴょん、と軽やかにステップを踏むのはふんわりウサギ耳のボンネットの少女。
「るん、るん、るーるー♪ あまつぶ、きらきらー♪」
真っ白ふりひらのクリーム模様に彩られた傘をくるくると回しながら、ビニールハウスからビニールハウスへと繋がっている、足元の六角形のレンガをひとつずつ、跳ねるように進んでいく。
その後ろをイチゴ頭の人影が黙ったまま付いていく。
「あめはきらきら、げんっきをくっれるー♪」
ひょい、と片っ端から覗き込めば中にはきらきら、大きく実ったイチゴが輝いている。
「あまっくてーおいーしいー♪ いっちごっになっるのー♪」
ふわりとエプロンドレスの裾を揺らした少女は、小人の家に誘い込まれるお姫様のようにひょいとビニールハウスのひとつに飛び込んだ。
「んー! すてき!」
躊躇いもせず、少女はひょいと手近な中から大きくて真っ赤なイチゴを選び出して、ぽいっと口の中に放り込んだ。
もぐもぐ、もぐもぐ。
「んぅー?」
しっかり舌の先で味わって――ごっくん。
「このイチゴ、美味しくないですぅ……イチゴはあまあまじゅーしーじゃないと」
くるり、後ろのイチゴ頭たちを振り返って、少女は眉間のしわを深くする。
「こんなイチゴはいりません!! めっちゃくちゃにしちゃってくださーい!!」
「それが、甘菓子兎・フレジエね」
チョコミント色の傘をくるくると回しながら、詩・こばと(ミントなヘリオライダー・en0087)は肩を竦めた。
この世に必要のないイチゴなんて。いいえ、フルーツなんてないってこばとは思っている。それなのに、爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物が動き出してしまった……!
まだ大規模な侵攻ではないけれど、このまま放置すればゲート破壊成功率も徐々に下がっていってしまうかもしれない。
……それを防ぐためにも敵の侵攻を防ぎ、反撃に転じなければならない。
「苺、好きだもんね」
芹城・ユリアシュ(君影モノローグ・en0085)が緩やかに笑みを零すのに、当たり前でしょ、と頷いて見せてからこばとはタブレットの画面をスワイプして地図を示した。
「それで、皆にはあるイチゴ農園に行ってほしいのよ」
大阪近郊にあるイチゴ農園。
「今から行けば、フレジエがいるところには間に合わないけど、ストロングベリーが農家の人とか農園に被害を出す前には駆け付けられると思うわ」
こばとはえへん、と胸を張る。
「任せて」
なんだか得意げなこばとに、ユリアシュもこくりと頷きを返す。
「まんまるなドーム型のビニールハウスに、種類ごとのイチゴを育てているらしいわ」
甘くて大きなイチゴから、スイーツ用の酸っぱいイチゴまで。
ビニールハウスの中はランプやベンチ、テーブルもアンティーク調に揃えられ、中でいちご狩りを楽しみつつティータイムを過ごすことができる。
さらに、ビニールハウスからビニールハウスの間もイングリッシュガーデン風に誂えられていてお散歩するだけでも楽しいようだ。
「あいにく当日は雨だけど」
素敵な場所だから、ストロングベリーからしっかり守ってね、と付け加えて。
「そのストロングベリーだけど」
つい、と差していた傘の柄を指先でなぞるようにしながら、こばとは肩を竦める。
いちごジュースの水鉄砲とか、小粒のイチゴをマシンガンみたいにいっぱい撃ってきたりとか、大粒のイチゴももぐもぐ食べたりとか。
むきむきの外見に似合うとの似合わないとも言いづらい感じだけれど。
「皆なら、心配ないわね」
口元で、ふふっと笑って見せた。
「大事なのは苺だから」
そろそろ苺の時期も終わってしまうけど、でもその前に。
雨の恵みと、甘い苺に感謝して。
悪い苺はやっつけて、美味しい苺を堪能してしまおう――!
参加者 | |
---|---|
アマルガム・ムーンハート(ムーンスパークル・e00993) |
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634) |
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426) |
サイファ・クロード(零・e06460) |
月原・煌介(泡沫夜話・e09504) |
ドミニク・ジェナー(激情サウダージ・e14679) |
赤矢・俊(恋するアヴェンジャー・e18363) |
雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840) |
しとしと、ぴしゃん。
ビニールハウスの群れの中を翔ける足元で、小さな水溜まりが跳ねる。
切れ間のない雨音、土の匂いが鼻腔をついて、けれどその中に確かに、隠しきれない甘酸っぱい香りが混じっていた。
苺の香り。
青さと、甘さの入り混じった、心擽られる匂い。
ビニールハウスの街の中のひとつ、透き通った向こう側に、蔓でかたどられたむきむきの肉体とそこにぽん、と乗せられたような苺の姿は見間違うハズもない――情報通り、ストロングベリーだ。
ケルベロスたちは瞳を見交わし合い、頷き合う。
そして一気に、目標のビニールハウスの中に雪崩れ込んだ。
苺への被害は最小限に抑えたい。そのために。
ケルベロスの出現に、イチゴを今にも破壊してしまいそうだった三体のストロングベリーが振り返った。
ずらりと並んだその姿。
「ごめんな、ここで行き止まりなんだ」
サイファ・クロード(零・e06460)が声を張る。
ずらずらとイチゴからこちらに標的を変えたストロングベリーは敵意剥き出し。
まぁ、出口を塞がれたらそれはそうだろう。
「イチゴさんたちは少し避けておくのじゃ」
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)が隠された森の小路でそっとイチゴたちに語り掛ける。……ほんの気休め程度だが、しないよりはマシだろう。
「いやァ、シュールな絵面じゃのォ」
こだわりのイングリッシュガーデンにムッキムキのイチゴ頭。さらに三倍。どん。
ドミニク・ジェナー(激情サウダージ・e14679)が溜め息付きたくなるのも無理はない。
「お前さんらの方が、よっぽど不味そうだァな」
周囲のイチゴと、よくわからない怪物感。見比べるとますますヤバい感じである。
「……でっかい苺ショートケーキ作れそうだけどねえ」
思わず呟いたアマルガム・ムーンハート(ムーンスパークル・e00993)が、ぶんぶんと首を横に振るのにあまり時間は掛からなかった。
「……ねぇ、あれって人間の骨?」
まじまじとストロングベリーのその姿を観察していた赤矢・俊(恋するアヴェンジャー・e18363)が、眉根を寄せる。
ストロングベリーの身体の隙間から覗く白い骨は確かにそう、見える。
なんにせよ、どんなに頑張っても良い生き物と解釈するのは難しそうだ。
ビニールハウスのイチゴを見渡して、木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)は大きく息を吸い込んだ。大き過ぎず、ケーキに乗せるのにちょうどいいサイズのそのイチゴは、きっとそのまま食べるのには少し酸っぱいのだろう。
けれど、そんなイチゴが無くなっていい訳はない。
「農家の人が丹精込めて育てた苺、それを荒らす悪いマッスルさん達には、いたーいお仕置きが待ってるんですから!」
雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)がぐっと拳を握りしめ、月原・煌介(泡沫夜話・e09504)がこくりと頷く。
「愛らしく瑞々しい食の宝石……護らないと、ね」
「こんな苺はいらない……その言葉、そのまま返すぜ苺頭!」
ケイが勢い良く地面を蹴のがほぼ同時。
それが、戦闘開始の合図になった。
抜き放った刀は目にも止まらぬ速さで一閃、カチン、と鞘に収まると同時に起こった風で、桜吹雪が燃え上がる。
「危険だから耳塞いどけ。……まぁ、今更塞いでも手遅れだけどな」
サイファがニッと笑む。
その手にしたマンドラゴラが激しい断末魔の叫び声を上げたのを、誰も聞いていない。あの、ストロングベリー以外は。
ストロングベリーたちが、連携して勢いよくジュースの水鉄砲を放つ。
辺りに漂う甘い香りは、甘い夢の世界にでも連れて行ってくれるような心地。
けれど、
「大丈夫? しっかりしてね」
目標を見誤らないように。俊の踏む軽やかなステップが、花弁の舞が、仲間たちの傷を癒していく。
「回復は任せて」
芹城・ユリアシュ(君影モノローグ・en0085)が回復を重ねれば、傷はみるみるうちに癒えていく。
「行くよ!」
頷いて、アマルガムが気咬弾を放つ。
ひとつのビニールハウスだけで、ほかのビニールハウスには被害を出したくない。それは、皆で決めた作戦だ。
でも、できるなら、このビニールハウスにだって被害は出したくない。
少しでも、心がけるだけでも、違うのだって信じたい。
「うおりゃぁ!」
ドミニクが振るうハンマーが空を切り、轟竜砲が敵の足を鈍らせる。
「今のわたしが、なにに見えますか?」
問い掛ける、しずくの声は静かで穏やか。
そして、背筋が凍るほど美しい。
ちらり、と煌介の方に視線を向け、彼が応えるのを確かめて。
そう、文字通り、相手を凍らせるほどに。
相手の動きを鈍らせたい。それが自分たちの役目。
煌介が指先で撫でた優美なフォルムの長銃が放つ、魔法光線がストロングベリーを捉える。誰一人、逃がしはしない。
ぽいー殺神ウイルスのカプセルを投げつけたウィゼが凛と声を張った。
「畳みかけるのじゃ!」
●
漂ってくる甘酸っぱい香りが、辺りの本物のイチゴからなのか、それとも機敏に動きイチゴを操るストロングベリーからなのか、不意に錯覚を起こしそうになるけれど。
(「オレ、この仕事が終わったらイチゴをお腹いっぱい食べるんだ……」)
お約束のフラグを立てつつ、それは折るのがケルベロスの役目。……たぶん。
ふるり、首を横に振って邪念を振り払い、サイファは武器を構え直す。
「ティティ!」
アマルガムの呼ぶ声に、ウイングキャットのティティがふわりと彼に寄り添う。
頬を寄せて、弓を構える。ティティが尻尾の輪を投げるように振るうのと、アマルガムが射るのとはほぼ同じタイミングで――ストロングベリーを貫いた。
「華王! 齧っていいわよ!」
俊の言葉に、華王がにゃおん、と鳴いて返して、ストロングベリーに飛び付いた。
決定的な大きな一手はない。
けれど、回復と足止めの豊富なケルベロスたちは、じりじりとストロングベリーを追い詰めていた。
BSの防御のを振りまいたおかげで、
「ナイスだ、ポヨン!」
ケイの声に、ポヨンが照れ照れと嬉しそうにくるりと回る。
あと少し、あと少しで美味しいイチゴが待っている。
……の前に、ストロングベリーがモガモガと大きなイチゴを口に押し込んでいる。
「……お前さんら、イチゴ食うンかい」
どこからどう見ても共食いにしか見えない、とドミニクがドン引きしていたのはさておいて。地面をしっかりと踏みしめて、振り上げたハンマーに、グラビティ・チェインを乗せ勢いよく叩き付ける。
「これでおわりなのじゃ!」
そこだ、と言わんばかりにウィゼは小さな身体でガジェットを抱え上げ、いつも通りの穏やかな口調を崩さずにそれを、ストロングベリーの身体に押し当てる。
ドリルがその身体を貫く、呻き声は高く、低く。
切なげな響きを残して、ストロングベリーの一体は崩れ落ちた。
「わたし、苺は大好きですけど、あなた達みたいに乱暴なのは、大っ嫌い」
いーだっと、ばかりに怒ったようにそう言って、しずくの放つケイオスソードが寸分違わずにストロングベリーを打ち抜く。
しずくの掌の上で凍らされたり、串刺しにされたり。この暑い季節にはちょっと美味しそう。……とかいうのはちょっと置いておいて。
「煌介!」
しずくの呼び掛けに、煌介が頷く。
「月光に聖別されし雷……敵を穿て」
煌介の杖の先から生み出される雷撃が、相手の動きをさらに奪う。
「人が丹精込めて育てた苺を何だと思ってるの、勝手な真似はさせないわ!」
俊のブラックスライムがしゅるり、とその姿を変え、ストロングベリーの一体を飲み込む。それを認めて、素早く距離を詰めたサイファの掌がストロングベリーに触れた。悲鳴にも、呻きにも似た声が辺りに響き渡る。
けれど、それが最後。
「ま、あまあまじゅーしーなイチゴが正義ってのは同意なんだが」
崩れ落ちていくストロングベリーを見遣り、軽く首を左右に振って、サイファは肩を竦めた。
ビニールハウスは所々に綻び、踏み荒らされてしまったイチゴたち。
けれどそれも、最小限の被害で留まった。
何より、ヒールをすれば元通り。恵みの雨も、イチゴの成長を助けてくれるはずだ。――だから、ここからはお楽しみの時間。
●
ぱたぱたぱた。
一定のリズムで、雨音がビニールハウスの屋根を叩いている。
「雨音を聞きながら楽しむ苺も、乙なものです」
ね、と輝く微笑みを向けるしずくに、煌介は気恥ずかしそうに頷いて、目の前のストロベリーパフェに視線を移した。
「余りに、綺麗で……誘惑に、勝てなかった……苺は、凄い」
白いクリームと赤いイチゴが層になったパフェ。
その隣には、イチゴと言ったらやっぱり定番でしょう、と選んだしずくの、ふんわりクリームと真っ赤なイチゴのコラボ、ショートケーキが並んでいる。
「ふわぁ……クリームもスポンジもふわふわです」
感嘆のため息とともに、しばらく二人で矯めつ眇めつ眺めてから、意を決してほぼ同時に、ぱくり、と一口くちのなかへ放り込んだ。
甘酸っぱいイチゴと、甘いクリームのハーモニーが口の中に広がる。
「苺って幸福の食べ物、だね……」
「ふふふ、幸せを我慢するなんて勿体ないですからね。美味しい苺の前では、特別です」
照れる煌介に、それが幸せだと言わんばかりにしずくは彼の顔を覗き込んだ。
そわそわ、どきどき、うずうず。
待っている間から。否、戦闘中からイチゴのいい香りに包まれていたんだから、これ以上イチゴをおあずけだなんて耐えられない。
「おおー」
だから、並べられたアフタヌーンティーのセットに、サイファとハチは並んで感嘆のため息を漏らした。
「お、おいしそう……っていうか美しい?」
「苺、苺、苺……!」
三段のアフタヌーンティーにはこれでもかと言わんばかりに赤い宝石のようなスイーツがてんこもり。
「ぴっかぴっかの宝石箱みたいっスなぁ!」
「こんな綺麗なものを食べるなんてとてもできない!」
でも、我慢するなんてもっとできない! その手はあっさりとスイーツに伸び、そして口へと運んでしまう。
もぐもぐ。
口の中で蕩ける甘さと酸っぱさをゆっくりと……いや、
「おい、ひい……!」
我慢しきれず、ハチがもごもごと感想を漏らす。
「サイファ、サイファ! これ、幸せの味がするっスよぉ!」
「ふはは」
ハチがあんまり嬉しそうだから、サイファは思わず吹き出した。
「幸せか、オレも幸せ」
そうして、幸せな夢を叶えて、また、新しい約束を交わすのだった。
「ヘリオンで待っているこばとおねえにもお土産を買ってゆくのじゃ」
イチゴを堪能しながら、真剣な表情でウィゼはお土産を選んでいた。
「このアフタヌーンティーセットとかどうかのう?」
「アフタヌーンティーセットごと、っていうのは難しそうだけど」
ふわりとユリアシュは笑って、お持ち帰り可のリストに目を通して、つい、とその上に人差し指を滑らせる。
「こっちのバスケット入りの採れたてイチゴにしたらどう?」
新鮮美味しいイチゴなら、きっとどんなメニューにも合うはずだ。
傘を叩く雨雫の音に身を任せながら、ケイはイングリッシュガーデンをのんびりと歩いていた。傍らには、黄色いレインコートのポヨン。
水属性のポヨンは雨も苦手ではないけれど、なんだか嬉しそうにしているので一緒に嬉しくなる。
居候させてもらっている洋館の薔薇園で、庭師みたいな仕事をしているから、園芸関係の仕事はなんでも吸収したい。
「こういうレイアウトもいいし……イチゴなんか育てたら、皆喜ぶだろうな」
なぁ、とケイが傍らのポヨンに語り掛ければ、ポヨンも嬉しそうに鳴いた。
「でも、難しくないかな……」
うーん、と考え込んで、その瞳は真剣そのものだ。
「今年の苺はもう終わりかと思っていたわ。ふふふ。間に合って良かった」
微かに弾むような俊の口調。口元は笑み、ふわふわの黒猫尻尾がゆらゆらと揺らしながら、イチゴを選ぶ姿に、炯介は目を細めた。
やっと最初の一粒を決めた、指先がイチゴを手にする。色付いたイチゴをまじまじと眺めていた俊は、視線に気付いて軽く首を傾げ、彼を見た。
「何見てるのよ?」
「いや」
つい、と視線を反らした炯介は肩を竦めて言う。
「そっちの方が美味しそう」
何食わぬ顔でそう言うから、もう、と俊は軽く頬を膨らませてから、仕方ないわね、とイチゴを差し出した。ほかにもイチゴはたくさんあるのに。
炯介の掌へ、近付く細い俊の手首を不意に、掴まれる。
「っ」
ぱちんと瞳を瞬いて、俊は炯介を見た。指先に摘まんだイチゴを、彼の唇がイチゴを口に含むまで。……時間がゆっくりと、流れていくのをただ見詰めるしかなかった。
満足げな笑みを浮かべる彼に、唇を尖らせて俊は熱い頬をその掌で抑えた。
「いっちごー♪ いっちごー♪」
楽しげに声を弾ませるエルトベーレ、どの子にしよう、と真剣に悩んでいる彼女を愛おしげに見詰めながら、ドミニクはぷちり、と手近なイチゴをひとつ摘んで、ぽいっと口の中に放り込んだ。
「おォ、やっぱ採れたては最高じゃのォ!」
瑞々しくて、甘酸っぱい。
「あっニコラスさん、先にずるいです!」
ぷう、と頬を膨らませるエルトベーレ。そんな表情に苦笑しながら、ドミニクは一番美味しそうに見えた、赤く熟れたイチゴを差し出した。
「ほれ」
今度はわーい、と嬉しそうに表情をころころ変えて、差し出されたイチゴをぱくりと齧るエルトベーレはなんだか、本当に可愛い。
「美味しい!」
満面の笑みの後、ハッと気付いて今度は照れたようにはにかむ。
「……未だに、こういうのはちょっと照れてしまいます」
「……ワシも、毎回照れとるわ」
ああでもその気恥ずかしさを、この微笑み合う時間と天秤に掛けることなんてできないのだ。
「雨にうたえば、なんてね♪」
イチゴをたっぷり堪能して大満足。六角形のタイルの上を軽やかに、アマルガムが跳ねていく。雨は相変わらずに降り続けているけれど、濡れながら、素敵な庭をお散歩というのもなかなか粋である。
「あ、でも俺は頑丈だからいいけど、ユーリは風邪ひいちゃう!?」
「そんなに繊細なつもりはないけど。……ああでも、」
降る雨に掌を翳していたユリアシュは、アマルガムの言葉にくす、と笑ってから、つい、と解けば地面に付きそうなほど長い三つ編みの先を摘まんで見せた。長い髪がびしょびしょに濡れるのは、得策とは言い難い……けれど、たまにはいいかもしれない。こんな機会は滅多にないから。
そっか、とアマルガムは嬉しそうに笑って、先に立って歩き出す。
アマルガムの鼻歌が、雨音と混じって柔らかく響く。
その後ろを歩きながら、ユリアシュは雨の匂いがする空気を思いっきり吸い込んだ。
恵みの雨が晴れる頃には、暑い夏が来る。
だけど、今はまだ少しだけ。
作者:古伽寧々子 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年7月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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