ストロベリー・ステージ!

作者:皆川皐月

 とんとんとん、爪先を三回鳴らして。
 気持ちはいつでもお客さんの前。笑顔はオッケー?お天気は快晴!
 レッツ・ミュージック!
『ら・ら・ら・べーりっ!べーり、すーとろべりー♪まぁっかなー ほおっせきー♪』
 ミルクチョコレート色の耳がふわふわり。
 切り揃えられたストロベリーブロンドは、ターンの度に陽光を返して。
『べーりっ、べーり、すーとろべりー♪わたぁしのー かわっいいー♪』
 くるくる回す日傘はケーキのよう。
 レースたっぷりな袖がひらりと踊れば、ストライプのリボンも同時にターン!
 甘菓子兎・フレジエの舌っ足らずな甘い歌声が木霊するここは長閑な農道。
 どすどすと音を立て、フレジエの背後でテンポよく踊る苺頭の人型はストロングベリー。
『まっかなーイ・チ・ゴ!』
 るん、るん、るん、ズドン。
 フレジエがステップ!ハウスの扉を指差しウィンク!
 ストロングベリーが1・2・3で扉をドーン☆鯖折。
『かわいいアナタをいっただっきます!……むぅ』
 ギリギリまで愛らしい笑顔を浮かべていたフレジエが、苺を口にした途端顔が曇る。
 はぁ、と盛大な溜息。ピンと立っていた耳は下がり、先程の元気は嘘のよう。
『もー最悪ですぅ……甘くないイチゴはぁ、ぜーんぶ壊しちゃってくださぁい……』
 しょんぼりなフレジエはもう興味がないと言わんばかりに魔空回廊へ。
 残った3体のストロングベリーが、野太い足を振り上げる。

●スイーツベリー
「苺には、お菓子の為の苺とそのまま食べる苺……それぞれ役割があるんです」
 からの長い溜息。
 資料を配り終えた漣白・潤(滄海のヘリオライダー・en0270)の一言目がこれだった。
 困ったものです、と言いながら慣れた手つきでファイルを開いて。
「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出しました」
 大きな戦いの名とここ最近何かと話題に挙がる地名に様々な反応。
 それを横目に、潤の言葉は続く。
 動き出した攻性植物たちは大阪市内への攻撃を重点的に行っている。おそらく、大阪市内を派手に荒らすことで一般人を避難させ、大阪市内を中心とした拠点拡大が目的であると思われます、と告げ。
「侵攻は都度、大規模ではありません。ですが放置すれば、ゲート破壊成功率も徐々に低下する恐れがあります」
 小さな穴が開いた船はゆっくり沈む。
 それと似たようなものです、と言葉にしてからファイルを捲り。
「それを防ぐためにも、甘菓子兎・フレジエの侵攻を止めて下さい」
 攻性植物 甘菓子兎・フレジエ。配下のストロングベリー。
 起こす全ては未だ細やかだが、その隙を許してはいけない。
「今回もフレジエは撤退済みです。現地にはストロングベリーが3体のみ」
 フレジエが居ない理由は簡単。
 “いちごがわたし好みの味じゃない”――ただ、それだけ。
 それだけで配下のストロングベリーに苺ハウスの破壊を命じ、自身は撤退したのだ。
「ストロングベリーはフレジエに忠実で、指示通り“ハウスの破壊”を目的としています」
 資料の写真の通りの屈強さ。
 見目相応に力任せであり、暴れまわることに特化してる。
 既に3体皆ハウスの中にいるため、引き釣り出して下さいと言ったところで説明は終了。
「皆さんが良ければ、ですが……」
 ヘリオンヘ向かおうとしたところで、潤がファイルを急いで捲る。
 あった!と微笑んで差し出したのは苺のマークが可愛い8枚のチケット。
「こちらの農園の苺を使ったストロベリーブッフェが行われているそうなのです」
 ストロングベリーの撃破が済みましたらぜひ。
 微笑んだ潤の竜尾がゆったり揺れた。


参加者
イェロ・カナン(赫・e00116)
暁星・輝凛(獅子座の星剣騎士・e00443)
白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)
燈・シズネ(耿々・e01386)
暁・万里(迷猫・e15680)
ヴェルトゥ・エマイユ(星綴・e21569)
咲宮・春乃(星芒・e22063)

■リプレイ

●雨前
 空気に混じる水の匂い。
 既に梅雨入りした地域の晴れ間ゆえに、雨後の匂いは独特のもの。
 件のハウスに近づけば、扉拉げたそこからほんのりと香る甘さに暁・万里(迷猫・e15680)の頭を過ったのは、苺好きな可愛い彼女の顔。
「苺が苺を襲うとうのも、仲間割れみたいでなんかシュールだな……」
 目を細めればハウスの透明なビニール越しに蠢く大柄な何かが薄っすら見えた。
 この光景を彼女が見ればなんとするかなど、万里には手に取るようによく分かる。
 あぁ、と言葉にする前に無意識に小さな溜息が零れれば、同じタイミングで溜息をついたのは白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)。
「好みじゃないから破壊するとか。気持ちは分かりますが許容できません」
「好みの味じゃない、ねぇ……随分とまあ、我儘な理由だな」
 言い切る佐楡葉に同意したヴェルトゥ・エマイユ(星綴・e21569)も、ぽつり。
 この破壊は、あくまでフレジエの気分なだけ。それがなんとも度し難い。
 皆の言葉に黒い猫耳を震わせては頷いていた燈・シズネ(耿々・e01386)が、くわりと目を見開いた。
「そう!酸っぱい苺だってお菓子になればとびきり美味しいのに!」
 たしーんたしーんとエア床を打つ耳と揃いの黒尻尾も、ややご機嫌斜め。
 ぴこぴこ動く耳も尻尾も愛おしくてつい笑みを零したラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)へ、シズネが勢いよく振り返る。
「オレたちの方がすとろんぐだって教えてやろうぜ、なあラウル!」
「ああ、苺なのに全然可愛くない奴らにどちらが強いか見せてやろうぜ!」
 テンションは一緒に、ニッと交わす笑顔はいつも通り。
 にゃご、と鳴いたウイングキャット ルネッタの尾のミモザが風に揺れた時、皆が立つ逆側から手が上がった。
 周囲にキープアウトテープを巡らせ終えたイェロ・カナン(赫・e00116)だ。
 ストロングベリー達の死角にあたる位置から皆と囮役へ手を上げ、合図を送る。
 まず、合図に合わせてヴェルトゥが周囲に殺気を放てば準備は完了。
 イェロと身を潜めた仲間に咲宮・春乃(星芒・e22063)と暁星・輝凛(獅子座の星剣騎士・e00443)は頷きあう。
「おいしいイチゴは守らなくちゃ……いこう、みーちゃん、暁星さん!」
「にゃあおう」
「さぁ、頑張っちゃおうか!」
 鬼さんこちら、手の鳴る方へ。

●可愛くない苺
 ぱちんぱちんと鳴る春乃の手。
 白い手が打ち鳴らした音に、足や拳を振り上げたままの姿勢で苺頭が振り返る。
「そこまでだ!」
 びしりと指差した輝凛がきりりと瞳を吊り上げて。
 同じく、きゅっと眦上げた春乃も揃えて同じポーズ。みーちゃんも負けじと、ぶんぶん尻尾を振り。
「ハウスをめちゃくちゃにするなんて許さないんだよ!」
「にゃあ!」
「僕達はこの後大事な予定があるんだ。倒させてもらう!」
 ゆらりと、苺頭が足を地面に下ろした直後。
 ど、と地を蹴り綺麗なフォームで真っ直ぐ向かってくる。
 揃った三体の足音に確りと武器を構え――……ではなく、くるりと反転。
 二人と一匹は予定通り皆の下へ走り出す。
 追うストロングベリーは二人からすれば大柄。ゆえに、その一歩は大きい。
 瞬く間に輝凛の背へ迫ったストロングベリーが輝凛達へ拳を振り上げた時。
「本番スタートだ!」
 ちろと後ろへ視線を流した輝凛が、べえと舌を出す。
 駆け寄るストロングベリーの拳が当たる直前、ちかと光るや勢いよく爆ぜた。
『……?!』
 驚き一瞬退こうとしたストロングベリーに触れた輝凛が笑う。
「甘く見てると、火傷するよ?」
 蔦を絡めて生まれたその身を熱が駆け上がって。
 一度触れれば焼き尽くすまで金色の輝きは衰えない。喰らい付き離さぬ焔の獅子牙。
 叩こうと振り回そうとストロングベリーの身から炎は消えず、三体の腕で燃え続ける。
 そして滑り出す様に春乃とみーちゃん、輝凛と追うストロングベリーが外へ出た。
 瞬間―――。
「うーん、苺頭にマッチョな肉体――控え目に評して理解できないセンスです」
「確かに理解は出来ない。が、する必要もないんじゃねぇの?」
 出入口の両サイド、出迎えたのは佐楡葉とラウル。
 パチリと白魚の指が鳴ったのを号令に、佐楡葉の足下から溢れた黒鎖が生き物のように苺頭を絡み喰う。
 と、Luneの輪胴回したラウルが親指でハンマーを下ろし、言う。
「――存分に哭け」
 パン、と一発。
 しかし幾重にも分かれ躍る弾丸は音以上の数で至近の苺頭を撃つ。
 蔦絡み合い出来た隆々の足を。膝を。腿を。それはまるで縫うような正確さ。
 喋れず悲鳴も上げられず、ストロングベリーはただ悶える。
 主同様に涼やか視線で苺頭を見たルネッタの羽搏きが前衛陣に柔らかな邪気払い。
 重なる連撃は絶えず。
 未だ黒鎖にもがくストロングベリーの足下が突如炸裂。
「終わったら甘いご褒美が待ってるし……俺と一緒に頑張ろうぜー」
「りりり、るぅ」
 白縹、と呼ぶ前にイェロの相棒はツンとした態度を崩さぬまま、苺頭目掛け煌めく身を躍らせれば、ぐしゃりと潰れた赤い果実は二度と起き上がらない。
「さ、僕とも遊ばない?」
 立ち上がった苺頭に笑いかけたのは万里。
 黒革に包まれた指先をぱちんと弾けば、瞬く間に生まれた気弾が蔦撒く体に牙立てる。
「出来るなら、だけどね」
 しかしストロングベリーとてやられっぱなしではなく。
 軋む佐楡葉の鎖を無理矢理引き千切るや二体共にの苺頭をカッと光らせ、赤く燃えるような鋭い光線で前衛を凪いだ。
「わっ」
「万里さん危ないっ!きゃっ……!」
「にゃあ!」
 万里を春乃が庇い、主と同じく盾役のみーちゃんが手近なシズネを庇う。
 ちりちりと肌を舐める炎の熱に深く息を吐き出して。
 星舞の爪先でステップ、夕星の剣先で綴る優しき牡牛座。
「させないよ……ハウスも、イチゴも、ここも、守るんだから!」
 春乃の手が強く強く柄を握れば、応える牡牛座紋様の輝きも一層強く。
 羽搏くみーちゃんの翼が清浄な輝きと加護を重ねていって。
 ライフルのスコープ越しに見る苺頭へ、ヴェルトゥの星銀の瞳がしかと照準を合わせ。
 人差し指で引く引き金に躊躇いはない。
「甘酸っぱい苺も良い物だよ。分からないまま潰されるわけにはいかないな」
「ぎゃううあ!」
 ヴェルトゥの光線がストロングベリーのグラビティを中和し風穴を空けるのと同時、しなやかな身で元気いっぱいに空中泳ぐモリオンの属性が春乃に纏わりつく炎を吹き飛ばす。
「さっきはありがとな、みーちゃん。っし、お返しと行くか!」
 傷も炎も癒えたみーちゃんの頭を一撫でし、シズネは鋭く走る。
 低く低く、全身をバネに風穴空いた苺頭の下へ這うように―――。
「よそ見してっと足元すくわれるぜ?」
 囁くような声。 後、斬撃。
 熟れた苺頭を削ぐ一撃が、二体目のストロングベリーを潰しきる。
 残るは、一体。

 既に二つの実は潰え、元より退路の思考は無し。
 ただ静かにストロングベリーがファイティングポーズを取った、直後。
 距離があった筈の大柄な身が、シズネの前に居た。
「シズネっ!」
「……っ、!」
 ラウルの声。咄嗟の事。
 腕を揃えて身構えたシズネの身を、捻るように揮われた鋭い拳が三度打つ。
 体格に遜色無い一撃に吹き飛ばされたシズネの腹から空気が抜け。
「ぐっ、」
 明らかな仕返し。
 はっきりとケルベロスの打倒狙う意志。
 構えるストロングベリーに油断も隙も無い。だがそれでこそ、デウスエクス。
「……王者も奴隷も等しく、この蒼白に慈悲はありません」
 しかしケルベロスとて、手練れ。
 佐楡葉の詠唱が自身の魔術回路を素早く展開。
 ふわり舞う蒼白いの燐光を掌に乗せ、踏み込んだ勢い殺さぬままに苺頭打つその表情に不安はない。
 何故ならば。
「大丈夫?今治しちゃうね!」
「ルネッタ」
「モリオン」
 元気づける様に明るく温かい輝凛と、ラウルとヴェルトゥの声が揃って呼ぶ相棒の名。
 光溢れた輝凛の指先が裂けた皮膚をしっかりと塞げば、追随する二匹。
 主の意は勿論の事、察しシズネのために羽搏くルネッタと宵闇のような属性で打撲痕を癒すモリオンの姿あればこその、安心感。
 だからこそ、佐楡葉の微笑みは強気。
「この程度で崩そうなどと、甘いですよ」
「そうそう、やるならもっと早くのが良かったかもね」
 表情だけでにこりと笑った万里の瞳は鋭く。
 きろりと影色の灰眸と薄い唇で紡ぐのは、水の姫君の名前。
「おいで――Ophelia」
 指先の魔法陣から泳ぎ出た鮮やかなる淡水闘魚。
 零れたる沫は水中の様相。ふわり遊ぶ尾鰭が、水鞠を打つ。
 柔らかに見えたはずのそれはしかし――……ばちん!と爆ぜるや無慈悲にストロングベリーの腕を無惨に炸裂させた。
 夢のように美しくとも、幻のように柔らかでも。
 そう、此処は戦場。命取り合う場所。
「シズネ」
「おう、ラウル」
 行こうぜとは言わずとも、その目は言葉より強い。
 巡る輪胴もすらり抜かれた刃も互いによくよく見知った動作。
 前走るシズネに躊躇わず、ラウルは引き金を引く。
 ストロングベリーの拳が振り下ろされる直前、身を捻ったシズネが飛ぶ。
 狂いの無いラウルの弾丸が、腹の頭蓋を砕いた直後のこと。
「オレたちの方が、すとろんぐだぜ!」
 ニッと笑ったシズネの犬歯が苺頭の見た最期の光景。
 真昼の鋼三日月が、熟れた頭を斬り下ろした。

●苺に魔法を
 軽やかな着地と同時に、ずんとその身が地に沈む。
 まるで最初から無かったかのようにその身が沈み込めば、事は終了。
「おつかれさま」
 殆どハウスを傷つけることなく終わった光景を改めて目にすれば、各々の肩が下がる。
 拉げたハウスの扉をヒールし、壊れた金具と共に付け直せば完了。
 待っているのは苺の印が愛らしいブッフェ!

 白いクロスの上、メニューを開いた輝凛が鼻歌。写真や文字をなぞる指先はご機嫌。
「ほんと、何にしよう……んんーと、」
 捲って戻って、もう一度捲って。
 悩みに悩んでトップバッターに決めたのは“ナポレオンパイ”。
 お待たせいたしました、と出された一切れに輝凛の瞳はぴかぴかと。
「すっごい!大きな苺……!」
 金色のフォークでそっと崩して掬って、一口含めば至福の味。
 控えめながら苺の酸味引き立てる卵色に包まれた甘酸っぱい赤は無敵。
「苺にカスタード……ってさあ、考えた人は悪魔だって思うよ……」
 美味しくてほっぺが落ちそうなんて迷信と思ったけれど、強ち嘘でもないのかもと微笑む顔は幸せ一杯。
 追加注文は、赤の至宝か豪奢なティータイムか。
 こちらは窓辺。
 萌える緑鮮やかな席でカップを傾けるのは佐楡葉。
「労働後の一杯は格別ですね」
 氷の音心地良い紅茶は薫り高く口腔を満たす。
 運ばれたナポレオンパイの苺は口にすればその酸味に愛おしささえ感じられるほど。
「しかしどれほど甘い苺が好みかは知りませんが……」
 さくさくのパイは噛むほど芳醇なバターの香り。
 嫌味なく、寧ろ僅かな塩味が良い。カスタードもまた甘さ控えめ。
「私のように何でも美味しく頂ける身には……」
 歯触り、甘さ、酸味。それこそ三位一体。
「――理解しがたいものです」
 再びカップを傾ける手は上品に。桜色に色づいた唇が口角を上げる。
 ぐるぐる喉鳴らすルネッタは勧められた完熟苺ミルクにご機嫌。
 微笑ましく見守るラウルとシズネは身を寄せてメニューと睨めっこ。
「シズネはもう決めた?」
「オレは、なぽれおんぱいにしようかなあ」
 あとさいだー!と無邪気に笑うシズネに、悩みに悩んだラウルがメニューを閉じた。
「よし、先ずは赤のショートケーキ!」
 オペラもシャルロットも素敵だけれど王道を。
 少し待って全て並べれば机上が一息に花のよう。
「美味しいね。これスポンジまで苺が――……シズネ?」
 じぃっとシズネの見つめる先には大粒の赤宝石。つやつやぴかぴかの一粒。
「ふふっ……いいよ。はい、あーん」
「いいのか、ラウル!」
 甘い透明衣の苺は最高に幸せの味。噛み締めて見る愛おしい人の笑顔もまた、至福。
「また一緒に此処に来ようね」
「だな!約束だぜ、ラウル」
 向かい合わせの四角い机。メニューを眺めては添えられた写真を見て。
 互いに考えていたのは、愛しい人が喜ぶかどうかばかり。
「……春乃ちゃん、さては彼氏さんに連絡中だね?」
 猫のように微笑む万里が呟けば、慌ててスマホを投げかけた春乃がわたわたと。
「う。……うん、彼に送ってみたんだよ」
 苺尽くしの机上を撮ろうと四苦八苦する春乃を見ていた万里にはすぐ分かった。
「あのね、彼も甘いものすきだから、きっと来てみたいはずなんだよ」
 今度のデートはここにしたいこと。だから今回は味見の下見だよ!と意気込む春乃に、なるほど!と万里が手を打って。
「下見路線って良いね。そういうことなら……っと」
 撮った写真を送信すれば、素早く震えるスマホ。
 賑やかな愛しい反応に零れた万里の微笑みは、机上のケーキより甘く。
 ご褒美は赤い宝石。
 ヴェルトゥの膝の上でご機嫌なモリオンの視線は、机上で輝く苺達よりも瞬いて。
「気に入ったものはあった?」
「ぎゅっ、ぎゅっうあ!」
 優しいヴェルトゥの問いに、パッと笑ったモリオンが首を巡らせ閃いた。
 あれ!と小さな手が指差す大粒はショートケーキのてっぺん。
 幼子の憧れから寸分違わぬ小さな相棒に微笑まない者など居るはずもなく。
「ふふ……うんうん、じゃあアレにしよう」
 あーん!と甘える相棒の愛らしさも、喜んで尻尾と羽をぱたぱたすることも。
 何もかもがヴェルトゥの心を癒す。
「まったく、敵ながらこの味を知らないなんて勿体無い」
 美味しいねと笑いあえば旨味は一層引き立って。
 一口食べたショートケーキの赤さも味も、一人と一匹の良き思い出となる。
 イェロと白縹は、向かい合わせでも視線が合わず。
 まるで、気の強い女性とでも向かい合っているような不思議な緊張感。
 ついイェロから苦笑いが零れたのも、致し方なきこと。
 ……というのは、ついさっきまでの話。
 ずらりと机を締める、赤、赤、赤。さくりとフォーク突き立てたパイを噛みしめ、イェロは向かいの白縹を見る。
「ショートケーキ、美味いんだ」
 右へ左へふんわりゆらり。
 差す陽光を受け止める硝子の様な白縹の尾が白いクロスをプリズムで照らしている。
 いくらツンとしたところで、愛らしい相棒に変わりはない。
 口内で豊かなパイの食感とカスタードの柔らかな甘み、噛み締めた苺の酸味も本物。
「ンふふ、苺、持って帰れないか聞いてみよっか。素材そのままも、好きだもんな」
「……りる」
 今日頑張ったご褒美。
 小さく鳴いた白縹の鳴き声に、イェロは頬の緩みを抑えない。

 守り通した赤は輝きに違わぬ幸せの運び手。

作者:皆川皐月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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