一夏一会の装いを

作者:東間

●準備万端からの窮途末路
 夏の風物詩である浴衣は、時代と共に変化してきた。
 白地に藍染を施したシンプルなものは、今や色・柄・使われる生地は増えに増え、最近ではゴシックやロリータファッションを愛する人や、シルバーアクセでキメにキメた若者向けのものまである。
 そんな時代を映してか、今年とあるドームで開催される浴衣販売イベントのテーマは『どの世代のどんな人でも、お気に入りの装いが見つかる場所』。
 その為にプロアマ問わず集った製作者達が用意したのは、無地、ストライプ、和柄、浮世絵、ゴスロリ系等々。
 帯もセットで売っているものが多いが、好きな組み合わせで楽しめるよう、浴衣と帯が別々に売っているブースも用意して。浴衣以外のアイテムもしっかりばっちりパーフェクト!
 しかし、そんなイベントの開催日が迫っていてもおかまいなしの存在がいた。
 日々地球の侵略に勤しむデウスエクスである。

●一夏一会の装いを
「会場になっていたドームは幸いにも無事だったんだ。けれど、目の前を走る大通りや周辺の一部道路が滅茶苦茶にされてしまってね」
 ラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)は、破壊された道路がヒールされれば浴衣イベントは無事開催の運びとなり、大勢が笑顔になれるからよろしく頼むよと言って笑う。
「楽しみにされていた方もいらっしゃるでしょうし、精一杯努めます」
 壱条・継吾(土蔵篭り・en0279)はこくりと頷き──質問なんですが、と続けた。
「その浴衣販売イベントって、甚平の取り扱いはありますか?」
「ああ、あるよ。メインは浴衣だけど甚平も色々用意されているみたいなんだ。小物も充実しているらしくて、SNSで検索すると、そっち目当ての声が結構見つかったよ」
「小物……じゃあ、簪もあるのかしら?」
「あるとも」
 花房・光(戦花・en0150)の質問にラシードはしっかりと頷いた。
 平打簪、玉簪、薬玉、つまみ細工の花簪──浴衣や甚平に負けじと多くの簪作家が集っている。
 暑さをやわらげてくれる団扇や扇子、貴重品をしまうのにピッタリの巾着、それから下駄も多数あるのだとか。
 購入した浴衣や、既に持っている浴衣に合うものを求めて会場内を巡るのも楽しいだろう。ラシードはそう言ってから『会場内の飲食及び喫煙は禁止、火気厳禁』だと注意事項に触れた。
「それと最重要事項が1つ。現金もしくはカードの用意を忘れずに」
 夏を彩ってくれる出逢いを逃してしまったら、それはとっても切ないものだ。
 では、諸々の準備が整ったなら──いざ出陣。


■リプレイ

●絢爛、夏衣
 破壊された道路が見事に甦り、それを見た吏緒は次へと向かいながら胸を躍らせ、ノってる心現す地味めの甚平はためかす。
「開場したら地球が輝けと囁きそうな甚平を探すんだっ! 後は普通の扇子も欲しいなぁ~」
 誰よりも事前準備を楽しみながら次々癒していけば、開場はすぐ。

 数多の浴衣と小物が外とは真逆の冷気と共に壮輔を出迎える。気になった場所で足を止めれば店主が顔を出した。
「薄い水色の布地に映える模様柄が欲しいんだが……」
「でしたら此方などいかがでしょう?」
 夏を楽しむ為の『ひとつ』は、すぐそこ。

「穣、これじゃないか?」
 目に付いたそれはよく見れば猫の柄。らしさ見つけ顔綻ばす隣、無ければ特注と考えていた穣は目を瞬かす。
「小さい粒が全部猫だ……」
 感嘆覚える仕事ぶりには色違いもあり、職業柄スタンダードを選ぶだろう巌のも買っちゃえと鮮やかに猫小紋を買い占め、早速夏の装いへ。
「穣、折角だから何枚か見繕おうか?」
「いいね」
 扇子や履き物、帯に信玄袋等々。迎えた数だけ外出も楽しくなる。年など関係なく心躍らせ手を繋ぎ、大切な温もりと共に、夏衣の海を。

 去年大人しめだったから逆に、とベラドンナは目的を立てつつ可愛い小物には心惹かれる予感。結は、可愛い系よりも大人っぽい浴衣が欲しい。それと。
「……ちょっと変わり種な浴衣って気にならなぁい?」
「うん、気になる気になる。どんなのなんだろうね!」
 はぐれぬよう繋いだ手に好奇心を込め、笑顔を零しいざ出発。そして。
「これは輝かしすぎて目にイタイ……」
「着る人を選ぶ、ね? 色々な意味で目立ちそう……」
 業物を前に顔を見合わせ笑い合う2人の腕には、今日の成果。濃紺に白抜きの桔梗は結を少女から大人へと魅せ、躑躅色をした無地の半帯は、白地に向日葵咲く浴衣と共に夏の明るさをくれる筈。

 薄青に朝顔咲く浴衣を胸に抱き、惹かれるままに見て回るルルゥの後を付き添う灰に浴衣への拘りはない。それでも、巡る中見つけた動物柄に『今』という時代を感じ、頭上の夜朱が気にする赤巾着を手に取ってみる。
「金魚みたいだ」
「よう、ラシードも目当ては見つかったか?」
 見る物が多く目が回りそうだと言えば同じくの声。ルルゥはそんな男達とは対照的。風鈴金魚朝顔と夏色魅せる簪を前に確固たる思いを解き放つ。
「正直に言いましょう。全部買っていってもいいですか!」
「……お前は甘いお菓子を前にした子供か。なんかこのまま財布になるよりは、俺も何かしら探したくなってくるな」
「では私の分だけというのも申し訳ないですし、もう一度端から端まで巡り直して素敵な一着を探しましょう!」
「おーい、ルルゥさーん?」
「あの名案に勝つのは難しいよ」
 エールに灰は笑い、少女の後を追う。夜朱にも似合う浴衣を見つけたら、買ってやろう。

 沢山の浴衣=皆ここで買ってお祭りに行く。そんな方程式を浮かべるウォーレンとリリウムが見つけた浴衣は変わり種も多い。
「サンバのリズムが聞こえてきそう。猫の浴衣は猫祭りっぽいし、ゴスロリ浴衣は謎の魔法陣マント付き……和のココロ……奥が深いね」
「きっとこれは、じょーきゅーしゃ向け! というやつなのですねっ。わたしはふつーの可愛いのがいいと思いました!」
 奥深過ぎたせいか、大人しめの柄が新種に思えるほど。
 動きやすそうな甚平にリリウムの目はまん丸、尻尾はぱたぱた。袖を通すと尾の活きは更に良くなり、駆け回る様は元気印溢れる風の如く。
「可愛いしすごく似合ってるよ」
「これできまりですね!」

「ねぇねぇととさま!」
 可愛い娘・魅羽の声に父・笙月が向ける眼差しは優しかった。優しかったが。
「これなんてカワイイと思うのね! 魅羽に似合うと思うわ」
 指さす浴衣は黒きホラーアートやぶさかわイラスト系。斬新センスにカオスも添えて。そんな新発見に咳払いし首傾げる父の姿に、娘もこてんと首を傾げる。
「ととさま?」
「ほ、他の浴衣も見てからにするざんしな」
 その後、この父娘がどうなったかというと、最終的には笙月が見立てた物を買ったのだとか。

 折角の機会だからと晟はラシードを拉致──ではなく普通に声を掛け、会場内を巡っていた。求めるのは青と白ベースの甚平。小物も一応。懸念があるとすれば。
「サイズはあるのだろうか」
「君、羨ましいくらい逞しいからなぁ。けど大丈夫、この商機を逃す出店者はいないさ」
 そう言って笑う男はいつもの姿。民族衣装だからか、和服のイメージはないが割と似合いそうな雰囲気は醸し出しているよな、と思う晟はラシードの見つけた店へ向かう事にする。
 ずんずん行く190.0cmと183.7cmは、ちょっぴり目立っていた。

 夏祭りの為の浴衣と揃いのアクセサリー求めるエルスを、紫陽花や桔梗が迷わせる。藤の浴衣は既に持っているから、ここは菖蒲も良い予感。
「……彼なら、どれが好きなのかしら……?」
 ぽつり呟き悩みに悩み。そして見つけた流水と菖蒲描く白の浴衣に青の帯を締め、菖蒲の花簪と銀鈴のアンクレットも身に付け──あれ。
「やっぱり翼をしめなきゃ……」
 職人の手助けが入るのは、少し後。

「こういう感じの物、実は好きなんだ。嬉しいよ、ありがとう。ところでこれ、男物だよね……?」
 アンセルムが環に確認したそれは梅の花と鳥をモチーフとした金の簪。しっかりしているが、ごてごて度は控えめ。さり気ない可愛いを仕込める一品は、白い髪を引き立てるだろう。
 一生懸命選んでくれた環へのお返しは、揺れもののない小振りな薄ピンクの芍薬。誰かの為に選んだ物をその場で渡す事が初のアンセルムへ、環は喜びを弾けさせた。
「すっごくかわいいです! しかも動きやすさまで考えてくれて本当に嬉しい……!」
「……うん。気に入ってもらえたようで、何よりだ」

 さらっと着こなしそうだから何を選ぶのか超キョーミあったから。ラシードに声を掛けた萌花は、照れ臭そうに笑う男へ、自分達はついさっき運命の出逢いを果たしたからお迎えしてきたとこ、とウインク。
「あは、私のはこれです。萌花ちゃんがこれ着てるの見てみたいって……」
「如月ちゃんの絶対かわいいから、楽しみ」
 水彩調の水玉模様はサイズも色も豊か。袖や帯がひらっとした白の浴衣をよく見れば、玉の間を縫って泳ぐ金魚もいる。
「でもでも、萌花ちゃんの浴衣のほうが綺麗ですよっ♪」
 紺地に開く花の色が夜明け空のような変化を描く浴衣は、胸を張る如月セレクト。三日月の形に白い花弁が舞うのがロマンチックで、萌花のイチオシポイントだ。
「いいね、どっちも素敵だ」
 それぞれの出逢い、お披露目の時はそう遠くない──かも。

「鈴、これはどうだ」
「パパすごーい! なんで鈴がこれ好きって分かったの?」
 鈴蘭咲く藍の浴衣。セットは白い飾り帯。好みを把握している所は、流石は父だ。
「それじゃあアッシュにはこれかな?」
 藍よりも濃い方が好みだろうと紺色を手に取れば、確かにその通りな男は的中の訳に思い至り、トーリもすごい! と鈴は更に目を輝かす。
「た、たまたまだ。たまたま」
「たまたま、ねぇ?」
「鈴ね、トーリとおそろい着たいなー」
「わ、私の分はいいんだぞ?」
 鈴の浴衣に合わせて簪も、と進路変更を図るが、鈴のお願いは断るのも回避も至難。何せ父娘は後で彼女の分をと密談済み。けれど簪探しは確かに名案。鈴は瞳李が付けているような花の簪に惹かれるも、彼女の花は特別製。なら。
「3人でとくべつなのさがそ!」
「そうだな。白に映えそうな黄色とかいいかもしれないぞ?」
「淡い紫とかも似合うしなぁ……」
 悩む時間も3人一緒なら特別製。

 藍色に撫子と金魚柄の浴衣をキカに当て、ひなみくは自分の直感は正しいと知る。
「大人っぽい……落ち着いた色だけど、髪の色にぴったり!」
 新鮮な色にどきどきなキカの目は、ピンクの帯を乗せたタカラバコを見て更に丸くなる。帯の可愛さ、お洒落さと言ったら!
「タカラバコ、ありがと!」
 撫でてミミックをとろけさせた後は自分の番。
「ねぇねぇ、これ、これ似合うと思う! 暑くなるけど、これでまとめたら、涼しいよ」
 夏の空と太陽の瞳にきらり映る青色変化魅せる硝子玉。星と小鳥の吊し飾りは涼しげで、綺麗な夏の夜空に寄り添う小鳥はひなみくのよう。感動する少女の傍、タカラバコにも揃いのきらきらシュシュが贈られて。
「今度一緒に、これでお祭りに行きたいね」
「うんうん! 一緒にお祭り行こう!」

 斜に構え気取った時間は実物を前に彼方へ。試着後にサイファは見かけた光をナンパし、なんてなと笑う。
「コウは濃い色よりも飴色とか琥珀色とか、柔らかい色の方が似合うカンジ。あっ、オレの感覚なだけなので!」
「ふふ、大丈夫よ。そうね、普段使わない色を選ぶのも……」
 並ぶ簪の中には男性向けらしき物もある。サイファが見つけたのは蜂を思わす黄色や黒の簪で。
「チビだけど油断してるとちくっと刺すんだぞ!」
 得意顔で手にすれば、必殺する仕事人みたいと目が輝いていた気もしつつお買い上げ。
「コウもいいのが見つかるといいな」
「それが、素敵な物が多くて迷子になりそうなの」

「どうだろう? 地味かな?」
 シンプルな濃紺の微塵格子柄の浴衣に、帯はごく淡い灰色で麻の葉柄。普段の白衣とは違うけれど対に近い色合い。十郎の新鮮な姿に、エレオスは来た時以上の感嘆を上げた。
「大人の魅力を感じて格好良いです……!」
 十郎は少々照れながら、素直な賛辞をくれた友人の着付けを手伝っていく。織り目美しい白地に勿忘草が咲く涼し気な浴衣。合わせる帯は紺瑠璃と花浅葱と美しく、結びで表情を変える品だ。
「えへへ、似合っているでしょうか?」
「ああ。エレオスの雰囲気に良く似合う」
 続いて訪れた小物売り場で見つけたシンプルな玉簪は、真白い髪を。折り鶴飾りの付いた簪は、淡灰の帯を彩る夏の装い。

「どうせ買うなら普段使いできる物とかのがいいだろうけど……」
「うーん……髪飾りとかどうかな」
 ペアの小物を探すベルンハルトと兎夜。より『和』な物を求める2人の視線と足取りは、緩やかに。兎夜は和装の際に簪を使うが、ベルンハルトとペアとなると──と考え浮かんだヘアゴムなら簪のように似たデザインは並んでいる筈。それに。
(「折角こういう場なんだし、和の際立つがいいよね」)
 相談しながらのヘアゴム探しは選択も難しいが、出逢いは確かにあった。
「ほー、つまみ細工。こんなのがあるんだな……かわいいじゃないか。いいね」
「じゃ、これにしよう」
「え、俺も?」
 男の自分が、という思いは、兎夜が選んでくれたという嬉しさで消えていく。

 白。いや、と明るめの蒼の絣柄を手に暖色系の帯を当て、そこから赤系や昔ながらの藍染と吟味に吟味を重ねていた梓は、探しているのは散華の浴衣と思い出し振り返る。
「どんなのが好みだ?」
「どれも綺麗なものだが……梓の好きなものを着たい。梓が選んだものなら、きっと間違いはないだろうさ」
「その返答は反則だぞ」
 そして梓が選んだ物全てを纏い、結い上げた髪に玉簪を飾った散華が試着室から出てくれば、艶やかに華が咲く。
「どうだ? ……なんとか言え」
「ん、綺麗だ」
「せっかく着飾らせたんだ。デートはこれから、だろう?」
 満足するにはまだ早い。女はくすり笑い手を差し伸べ、その手に男の手が重なる。夏を纏って、暫し散歩と洒落込もう。

 互いに相手の事を想いながらの浴衣探しは時に難しさを覚えもしたけれど、想う故か、グレッグとノルが選んだのは対になる一品。
「燕は縁起物なんだって。仲睦まじく、同じ巣に戻ってくるから」
 白い空を翔る夏空色の燕はグレッグの持つ空色の瞳と響き合うようで、すごくきれい、と微笑むノルへ晴れた空色を自由に飛ぶ白燕を選んだグレッグも、表情を綻ばせていた。
「そう言う縁起物ならこれが良いな」
「それに、グレッグが飛ぶ姿が好きなんだ。綺麗で鋭くて、空を駆けていくような」
 自分は飛べないけど、ずっとその隣にいたい。
 そう願い、語る人が寄り添ってくれるから、グレッグは自由に空を駆ける事が出来る。
「……ずっと一緒にいたい」
「うん。ずっと一緒に」
 燕のように、自分達もずっとずっと、そうでありますよう。

 淡い色合いは着物でよく着ているから、浴衣は濃い色に。方向性を決めた氷翠は光と一緒に簪へ向かう。
「平打簪か玉簪……玉簪が良いかなぁ。花房さんは、気になってるのある? お綺麗でお耳も可愛いから、どの簪も似合いそう」
「て、照れるわ……その、どれも素敵で迷ってて」
「私も」
 2人仲良く簪迷子。けれど互いの髪を見ながら色々と見比べ勧める時間は、職人が生み出すデザインの数だけ楽しさが増していく。
「天見さんお勧めの、この蜻蛉玉にするわ」
「お役に立てて嬉しいな。私は……この、お星様な玉簪にしよう」
 髪に寄せれば優しい青色に星が宿ったよう。素敵、と零す光に氷翠もほのかに微笑んだ。

 始めは借りてきた猫状態だったシズネだが、着せ替え人形タイムを満喫するラウルが隣にいるから、胸のわくわくが止まらない。
「君の優美な浴衣姿、沢山見せてね?」
 おめぇが選んでくれたのなら、何でもいい──なんて言ったら怒るんだろう。過ごす時間の楽しさは天井知らずで、つい悪戯心が働いて。
「なあなあ、どっちのオレがかっこいい?」
「え、ちょっと待って」
 夏の記憶の彩に似た、木賊色の沙綾形に白鼠の帯合わせは清涼な青葉の梢のよう。藍染めの滝縞柄に櫨染の帯合わせはいつもと違い大人っぽく見える。
 両方かっこいいだろと胸を張るシズネに、ラウルは笑顔でハムスターやドーナツ柄と可愛すぎる2着を当てた。
 そんな驚きも思い出にして、出逢った一等を持ち帰る。見せびらかしタイムは、新たな夏の思い出、その時に。

 悪戯心だった。思い切り笑い合う筈だった。なのに。
「えっ待って普通に似合って」
 ──闇に舞い降りし蒼銀の貴公子。
 アイヴォリーによって髑髏に十字架とCOOL過ぎる浴衣を体に当てられた夜の実力侮りがたし。彼は今日も今日とて涼しげで品が良い色男。
「なんて恐ろしい、罪という名の美貌」
「何やら使命に燃えてるね。じゃあ、俺からも」
 生成地に走る藍縞とそこに咲くレトロ調の白花は落花流水のようであり、可憐で上品。簪は敢えてシンプルな硝子玉。
 花持つ乙女の髪を撫でる指は愛し気で、結い上げ簪で留めたなら大人っぽく見えるかしらとアイヴォリーは僅かに頬を染める──けれど、今は彼の限界を確かめるという使命が。
「黒薔薇柄のも着てみて貰っていいですか。ああっ、そんな、これも!?」
「……ヨカッタネ」

 クロガネセンパイのニホン文化教室により、龍虎の派手な和柄を持ったラシードにヤの付く人感が増した次は、一面の黒薔薇・荊に埋もれる血色の髑髏。今宵禁じられた狂宴へ甘く誘う浴衣の登場は、今の流行りというサイガの発言付き。キソラは堪えきれず腹を抱え笑い出す。
「待ってソレ写真だけ撮っとこ?」
「じゃあ髪をこう、少し弄って」
「やべえせくしー」
 笑って撮って楽しんで。キソラはラシードのような雰囲気なら派手な縦縞でも、と思えるが自分となるとわからないとアドバイスを乞うた。
「ならこれを。誰も君に追い付けない」
「ヤメテその路線に巻き込むな。金閣寺越えの黄金城下町はチョット」
「蛇柄とかパンク路線にしとけ」
「サイガセンセこそご自分のは? 金魚柄に兵児帯とかお似合いじゃねぇですかね」
「俺ぁ別に……ってなんだこのふにゃってした帯よわそう……」
 まさかの評価に噴き出す笑い声。おふざけ交えた真剣物色はまだまだ続く。

 日本の民族衣装・浴衣に囲まれながら、ヴィルベルは着慣れてるであろうナディアが見繕う物を纏っていく。が、そこには個性的な柄を着せろと囁く大地の囁きがあった。
「此方の方がいいんじゃないか?」
 滑らかな輝き放つ漆黒の泉を染める獄華、は黒い浴衣に赤い帯。羽織ってポーズをキメればあら不思議。
 ――この燦きで天国すら漆黒に染めてみせる。
「ん”っ!」
 ナディアの喉から変な音がした。
 ヴィルベルは少し虚無という名の漆黒に包まれたが、着心地は悪くなく。自分の分を放って着せ替えを楽しむ彼女に付き合う中、他のお宝を見つけ出した。
「ほらあそこの簪。ナディアにとても似合いそうだ」
 え、と視線向けながら、さっと後ろ手に隠した物。真剣に見繕っていた浴衣一式が、一瞬だけ顔を覗かせた。

 夏彩る品々が放つ煌めきに囚われ、クィルはそわそわ。けれどはっと気付き手を繋げば、優しく見守っていたジエロも繋いだ指先絡め、手に力を込めた。
「今日は僕がジエロのことをコーディネートしてあげますからね」
「ふふ、楽しみにしているよ」
 クィルが選んだ浴衣は、シンプルな黒に白龍が薄く現れる物。帯は明るめの青に。扇子も1つ。
 渡される物を素直に受け取りながら、君はこういうのが好みなのかなとジエロは密かに学び、途中出逢った蜻蛉玉のシンプルな簪も銀髪に添え、向き直る。
 とびっきりかっこいい世界一のジエロの完成に、さっきまで胸を張っていたクィルプロデューサーは少し心配顔。
「どうですか?」
「ん、似合うかな。今度着てみないとね」
 そう言って名を呼び、手を伸ばす。
「次は君のを選ばせてね」
 そして互いの一番を纏って。共に、好き夏を。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月12日
難度:易しい
参加:43人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 0
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