ミッション破壊作戦~いざなう者

作者:遠藤にんし


 その日、グラディウスの使用が可能となったことが告げられた。
 グラディウス――長さは七十センチほど、光る小さな剣の形の兵器であるそれは、通常の武器として使うことはできない。
「できることは『強襲型魔空回廊』を破壊することだ」
 グラディウスを一度使えば、再度使用するまでにかなりの時間を要する。
「攻撃するミッションは、みんなに任せるよ。現在の状況などもふまえて決めてほしい」
 強襲型魔空回廊はミッション地域の中枢にあるため、普通の方法で辿り着くことは難しいだろうと高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)は言う。
「貴重なグラディウスが敵の手に渡ることは防ぎたいから、今回はヘリオンを使って、高空からの降下作戦でいこう」
 強襲型魔空回廊の周囲は半径三十メートルのドーム状バリアで囲まれている。
 しかし、このバリアにグラディウスを触れさせさえすれば良いため、高空からの降下であっても攻撃は充分に可能だ。
「八名のケルベロスがグラビティを極限まで高めてグラディウスを使い、強襲型魔空回廊に攻撃を集中させれば、一撃での破壊だって可能なはずだよ」
 そうはいっても、一度の作戦で破壊する必要があるというわけではない。
 最大で十回程度の降下作戦を行えば、確実に破壊することが出来るだろう。
「強襲型魔空回廊の周囲には護衛戦力が控えているが、奴らもこれほどの高さからの降下攻撃は防げない」
 グラディウスが放つ雷光と爆炎はグラディウスを持つ者以外へ無差別攻撃を行うため、強襲型魔空回廊を守る精鋭部隊であっても、完全に防ぐことは出来ないのだ。
「もちろん、グラディウスを持ってさえいれば問題はない。みんなには、この光と炎、スモークを利用して、その場から撤退して欲しい」
 グラディウスは貴重な品だから、これを持ち帰ることも重要なのだ。
 魔空回廊の護衛部隊は、グラディウスの攻撃の余波である程度は無力化出来る――だが、それは完全ではない。
「戦いを免れることは出来ないと思った方がいいかもしれない」
 だが、混乱状態にある敵は連携を取ることが出来ない。目の前の強敵を素早く倒せば、無事に撤退は出来るはずだ。
「戦闘で時間がかかりすぎたり、長く留まったりすると、敵が戦闘態勢を整えてしまう。そうなった時は――降伏するか、暴走した上での撤退しかなくなるかもしれない」
 攻撃するミッション地域によって、現れる敵には特色がある。
 攻撃する場所を選ぶ時は、それらを参考にするのも良いだろう。
「どのような道を取ろうとも、強敵との戦いを避けることは難しい。準備は万端にして行ってほしい」


参加者
ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)
ノーヴェ・アリキーノ(トリックスター・e32662)
巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)
大神・小太郎(血に抗う者・e44605)

■リプレイ


 ヘリオンの向かう先は、さいたま市大宮区――。
 グラディウスを手放さないように握りしめた村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)は声を張り上げる。
「何のために皆がここに集まったと思ってやがる!」
 コンサートホールへ突如現れた死神『ブラックパール』――彼女への怒りも込めて、声は響く。
「皆、好きなアーティストの好きな歌を聞きたくてここにいるんだよ」
 日々を頑張る人にとって、音楽は最高の娯楽。
 ブラックパールの占拠したコンサートホールで音楽を存分に楽しんで、明日も頑張ろうと思える活力を受け取っていたはずだ。
「それを、人々を疲弊させる元凶のデウスエクスが襲おうなんざ言語道断! まして歌で命を奪うなんて真逆の行為を許すわけがない!」
 発見されてから随分と経っているが、これ以上長引かせたくはない。
 グラディウスを握りしめ叫ぶ柚月に続いて、ノーヴェ・アリキーノ(トリックスター・e32662)は。
「音楽はいいよね、様々な思いや感情を詩や音に変える素晴らしい芸術だよ」
 態度にはどこか余裕を見せるノーヴェ。
「でもここはコンサート会場で『演奏する側』と『聞く側』が一体になる場所なんだよね」
 しかし、紡ぐごとに言葉は力を増していく。
「他人の演奏に乱入した挙句一方的に歌って高すぎる代価を頂こうとするキミのようなのがいていい場所じゃないんだ――だから!」
 小さな手に握りしめられたグラディウスが、輝く。
「ここから! 出て行けぇー!!」
「勝手に聞かせておいたくせにチケット代を取ろうだなんてふてぇ野郎だな!」
 続けて声を上げたのは大神・小太郎(血に抗う者・e44605)。
「歌っていうのはな、人を勇気付けたり、癒やしたりするものだぜ! 間違ってもお前みたいに死に追いやるような物じゃねぇ!」
 狼の尾は風を含んで大きく膨らむ。耳元で鳴り続ける風音にも負けない声量で、小太郎は。
「そんな歌しか歌えないやつの親衛隊なんか死んでもごめんだね! いい加減、この場所を皆に返しやがれってんだ!」
 最短ルートは把握している、グラディウスは腰のベルトに挟むと決めている。
 今やるべきことは叫びをぶつけることだけ――小太郎は全身全霊の叫びを放った。
 巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)は白い睫毛に縁どられた瞳で、眼前の光景を見下ろす。
 ――人が安心して眠るためには、死の影は配するべきこと。
「音楽堂は人の心を癒す奏者と、観衆が心の安らぎと明日を生きる活力を得る場所。嘲笑い死を喰らう者達がいて良い場所ではない」
 呟く癒乃は、手に固定したグラディウスを今一度握りしめる。
(「再びこの地を人々の手に取り戻す事は、安らぎを取り戻す事」)
 であれば、ここで成し遂げなければいけない。
「死を享楽とする死神よ、奏でるならば、死にゆく汝らに送る葬送曲が相応しい!」
 決意は言葉の形でこぼれ出る。
 クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)の感情もまた、死神・ブラックパールへの侮蔑を籠めて。
「音楽や歌と言うのは人を楽しませ、癒し、勇気付ける……そういった効果の有るものだ」
 だというのに、ブラックパールのそれは人の体を傷つけ、心を壊し、聴く者に深い悲しみを与えるもの……そんなものを、クオンは認めるわけにはいかない。
「故に! この現世での公演はこれにて幕だ! アンコールは一切認めん!」
 グラディウスを手に、クオンは。
「我は巨獣! このさいたまの地に不快なる雑音を撒き散らす3流芸人に引導を渡し正しき『歌』を取り戻すべく参上した、緋の巨獣なり!」
 宣言し、輝くグラディウスを突き立てるのだった。


「今は食い止められているとしても、人口の多いさいたま市に魔空回廊とは危険すぎますね」
 一歩間違えてしまえば大惨事が起こってしまうとウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)は憂いを口にする。
「そもそも音楽は人々を感動させたり癒したりするものであるはずです。決してそれは虐殺に利用されるものではありません!」
 ウィッカの胸に宿るのはデウスエクス駆逐、そしてゲートの勝率上昇への使命。
 幾度となくミッション破壊のために力を使ってきたウィッカの声が、響き渡る。
「人の命と音楽を冒涜する貴女は、私の全力を込めて打ち砕きます!!」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は深呼吸――気持ちを高め、ヘリオンから降下。
「私はデウスエクスに苦しむ人達を見たくない聞きたくないが為にデウスエクスを退けて手に届く限りの人を救っていってます」
 もう何度目になるか分からない破壊作戦のやり方には慣れてきたミリムだったが、そこに掛ける想いは似ているようでいつも違う。
 今、ミリムの胸にあるのは怒り。大勢の人が死神によって苦しめられているという今こそ、救いの手を差し伸べたかった。
「グラビティ・チェイン収集目的に暴れる死神をこれ以上のさばらすわけにはいかない!」
 グラディウスを掲げ、ミリムは叫ぶ。
「死のコンサートなんてものは今日限りで閉幕です!! 埼玉県大宮市、この地を今すぐ返してください!!」

「おんがく、って……すてきなもの、じゃないの……?」
 ケルベロスたちの叫びとは対照的に、ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)は呟く。
 ロナが思うのはアーティストである友人のこと。聴くと元気が出て、演奏する人が輝いて見えて……音楽とは、そういうもののはずだった。
「まちがっても……だれかをきずつけたり、……ころしたりするものじゃ、ない……!」
 ためらいがちに、しかし明確に、ロナの双眸には拒絶の色が浮かぶ。
「あなたのおんがくは、まちがってる……。おんがくは、おとをたのしむもの……それを、ひどいことになんかつかわせない……!」
 願いを込めて、グラディウスを突き立てる。
 瞬間――世界は白に満たされた。
 目を開けていられないほどの眩さと轟音で満ちて、周囲の状況を把握するのは難しい。成功したのか、それとも――願うような時はそう長くはないはずなのに、ケルベロスたちには永遠にすら感じられた。
 ……やがて、極光は薄れて。
 ――広がっていた景色がどこか晴れ晴れとして見えて、ケルベロスたちはミッション破壊の成功を確信するのだった。


「よし……! 成功だ!」
 快哉の声を上げたクオンが足を踏み出した瞬間、耳障りなギターの音が飛び込んできた。
「邪魔してくれちゃって……まぁいいわ、蘇生(サルベージ)して親衛隊に入れてあげるから、せいぜい私に歓声を寄越しなさい!」
 怒りの声は目の前に現れた死神・ブラックパールのもの。
 骨を組んだようなスタンドマイクへ向けてブラックパールが歌いだすと同時にケルベロス達は戦闘の陣形を組む。
「地獄みたいな音だね!」
 耳の良いミリムにとって、ブラックパールの演奏と歌声は耳障りなもの。
 爆炎の散る音にも負けじとがなり立てているから、そのうるささはかなりのもので、ミリムは爆音から身を護るようにオウガ粒子を振りまく。
 ウィッカは赤いツインテールを大きく揺らして流星を伴う蹴りでブラックパールを出迎え。燃え盛るような星々の瞬きは、スモークの中でもよくわかる。
 雄牛の突き棒を手にしたクオンもまた瞬時にブラックパールとの距離を詰め、得物は間一髪のところでスタンドマイクに防がれてしまうが、スタンドマイクには縦一筋に大きな亀裂が入った。
「先手必勝だ!」
 言いつつ柚月の取り出すカードはほのかな光を放っている。
「暗闇射抜くは漆黒の瞳! 顕現せよ! スナイパーアイ!」
 輝きから放たれた一撃は、まさに光速。
 目にも止まらない攻撃に周囲の霧が晴れ、ブラックパールの黒い姿がより明確となる。
「ごちゃごちゃと……邪魔するんじゃないわよ!」
 苛立ちの声と共に、ブラックパールの赤い爪がギターを爪弾く。
 その音はケルベロス達を苛むのではなく、彼女自身を癒すために。負けじとロナはシャドウエルフの力で魔法の木の葉を纏わせ、ケルベロス側の護りを強めた。
「終幕の刻はきた……喝采も、カーテンコールも死を喰らう者には過ぎたるものか」
 呟く癒乃の視線は、ブラックパールへ注がれている。
「竜の喉、御使いの光輪……」
 癒乃の息遣いは、竜の勇者のそれ。
「今再び、調停の時をはじめましょう」
 咆哮――小太郎の送り出したオウガ粒子もその身をかすかに震わせるほどのもの。
 オウガの小さな輝きは涼やかなもの――ノーヴェは氷属性の騎士を喚び、ギターの上を動くブラックパールの指を止めにかかる。
「っ邪魔! 親衛隊に入ったら、そんなこと二度と許さないわよ!」
 怒りの声と共に、ブラックパールは攻撃の手を強めていく。
 ――ミッション地域の破壊に後がないことを知ってか、ブラックパールの攻撃はこれまで以上に苛烈なもの。
 ケルベロスたちもそれらの攻撃を受け流し、自らを癒し、抵抗していく……だが、それは向こうも同じ。
 長引く戦いの中で互いの体力は削られていき――それでも、ブラックパールの命に手が届きそうだという時に。
「そうは行くかってんだ、この程度ッ……!」
 ディフェンダーとして庇いに徹していた小太郎は、度重なる攻撃に足をふらつかせる。
 赤黒く濁る喰霊刀を握りしめた手にはまだ力がある。だが、それを振り上げるだけの力が、小太郎には足りずに。
「こたろう……だいじょぶ、たたかいがおわったら……すぐ、かいふくするから……」
 ロナは悲しげに目を伏せて、それでも戦うべき敵へとささやきかける。
「神々の黄昏はもうおしまい。あとはこの爪痕を、終わった世界を楽しみましょう。何もない世界だけれど、吹雪と酸の雨は大盤振る舞い!」
 世界へ吹き荒れる吹雪の中、ウィッカは。
「契約に従いてその力を我が前に示せ! 其が宿すは腐敗の魔力、絶対なる傷を与える刃なり!」
 癒しを阻む刃でブラックパールの喉を裂き、声を出せないよう戒める。
 ミリムはゴーストヒールで仲間のヒールに専念、これ以上の怪我人が出ないようにと気を配り、その守護を得て柚月はチェーンソー剣で斬りかかる。
「歌は希望を与えるモンだ! 命を奪う道具じゃねぇ!」
 ノーヴェはブラックスライムを向かわせ、癒乃は白亜のパイルバンカーから杭を打ちだし、凍気を籠めた一撃でブラックパールを貫く。
「さあ、終わりの時間だ3流芸人」
 武装のすべてを投げ捨てたクオンが虚空へ手を伸ばせば、そこには白銀に輝く三叉の槍。
「そんなに歌を歌いたければ……冥府の地、シェオルの果てにて存分に歌って来い!」
 一瞬にしてブラックパールは貫かれ、音もなく血を吐く。
 ――その血が地面に滴る頃には、既にその肉体は喪われていた。

作者:遠藤にんし 重傷:大神・小太郎(血に抗う者・e44605) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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