女子会にはスライムを添えて

作者:遠藤にんし


 スライム忍者・雷霧が差し出すスライムを、野卑た笑みのオークは受け取った。
「スライムにも、オークと同じくらいの活躍をさせてあげてください!」
 スライムに触れると手には粘液がつく。
 オークはぬるぬるになった自分の手を見ると、雷霧の腰をするりと撫でる……びくっとなる雷霧は、しかしスライムのためと反撃には出なかった。

 とあるホテルは女子会デーと銘打ち、女性たちでその夜は満室となっていた。
 ――そんな中に現れたオークはドアを蹴破り、女性たちへと次々襲い掛かる。
 悲鳴を上げる女性たちを追いかけ回すように、触手とスライムはホテルへと飛び交うのだった。

「オークによる女性の略取事件が発生した」
 高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)の説明によると、今回オークが現れるのは、郊外にあるホテル。
 カップルや夫婦が利用することの多いホテルのようだが、その夜は女子会デーを銘打ち、偶然にも客は女性だけとなっていたようだ。
「事前に彼女たちを避難させてしまうと、オークが別の場所に現れる可能性がある。避難をさせつつ戦いをする必要があるだろう」
 ホテルのフロントにはスタッフも含め、10名程度の女性がいる。
 正面出入口と裏口が1つずつあるので、そこから逃がしていくことになるだろう。
「2階以上の人たちについては、フロントに内線電話が何機かあるから、それで避難を促せば十分だ」
 オークは16体。触手による攻撃のほかに、服だけを溶かすスライムも投擲してくるので注意が必要だ。
「ボス格はいないようだから、全員を倒しておく必要があるね」
 なお、急なキャンセルなどによって、ホテルにはいくらかの空室がある模様。
「戦いの後、ゆっくり休んでから帰ることも出来そうだね」


参加者
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)
屍・桜花(デウスエクス斬り・e29087)
吉岡・紅葉(傀儡斬魔・e55662)

■リプレイ


「わざわざ女子しかいない日を狙ってくるなんて……」
 どんな嗅覚してんだよ、と呆れ顔なのは吉岡・紅葉(傀儡斬魔・e55662)。
 ロビーに現れるということで、紅葉が待機しているのはロビー。豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)もまた嗅覚への感嘆を抱きつつも、裏口あたりで待機する。
(「どこから来るか分からないのが難点デスネ」)
 一般人に紛れてのティータイムのさなか、アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)はそう考えつつ、辺りに気を配る。
 見取り図は既に用意してある。どこから来ても対応はできるはず、と思うアップルの横、屍・桜花(デウスエクス斬り・e29087)は斬霊刀の柄に手をかけて薄暗く笑む。
 ――少し前、とある敵に襲われた挙句仕留め損ねたために桜花は苛立ちを覚えていた。鬱憤晴らしに丁度いい、とでも言うかのように、黒い双眸はぎらついていた。
 そうして待機していた時間は、そう長いものでもない。
「来たぞ!」
 真っ先に動き出したのはエメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)。正面玄関から現れたオークの元へ駆けつけると、薄手のコートを脱ぎ捨てようと手をかけ――。
「っ!?」
 その瞬間、オークからスライムを投げつけられた。
 どろりとスライムが粘ればその分だけコートは溶け、その下に着ていたビキニアーマー……彼女の正装があらわとなる。
「っ!? さ、作戦通りではあるが……!?」
 脱がされたことへの羞恥に身を隠すエメラルド。
「そのスケベな触手を切り落とされたい子は遠慮なくかかってきなよ!」
 喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)も声を張り上げてオークへと向かい、エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)は二階より上にいる人々へと避難経路を示す。
「着替えは持ってきてるよ、服が溶けても慌てなくて大丈夫!」
 もちろん、そうならないように守るからね、と笑顔で安心させるエルネスタ。
 比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)は内線電話で階上の人々へ避難を呼びかけ、一階で始まる戦闘にも目を向ける。
「服だけを溶かすスライムね、またオークが好きそうなものだね」
 ちらと視線をやって、黄泉はそう呟くのだった。


 エントランスの中央に陣取るアップルは純白のバニースーツで華やかに戦う。
 間断なく射出される光弾の雨は次々にオークへ命中、オークの身や触手を焦がすたび、オークは無様な悲鳴を上げる。
 華やかな戦闘はまさに目を惹く。一般人の保護を一番に考えるアップルにとって、自身が注目を浴びることが重要な策だった。
 避難の呼びかけと誘導をする黄泉がオークへ向ける視線には、警戒と興味が半々くらい。
 薄汚れた顔つきは遠目であってもで見るには堪えないものだったが、黄泉の興味はそのオークらが持つスライムにある。
 特定のもの――衣服のみを溶かすスライムとは一体どういうものなのか。蹴りのついでにまじまじと観察する黄泉だったが、見た目ではいわゆるスライムとの違いは見当たらなかった。
「気を付けないとね」
 波琉那は警戒しながらも果敢にオークへと迫る。
 破壊の光線を放つ波琉那にも触手やスライムは向けられる。大きく回避はしないから少しずつ衣服は溶かされていくものの、今はまだ決定的なほどではない。
「よかったわ、まだ平気そう!」
 階段の下へ目を向け、戦いの様子を捉えたエルネスタは安堵の声。何かあった時のためにとプライバシーミストで大切なところを隠せるよう準備はしてきているエルネスタだったが、とりあえず今のところは避難誘導に専念してもよさそうだった。
 姶玖亜も割り込みヴォイスを使って避難を呼びかけ続けていること、スタイリッシュモードを使う紅葉が励ましているお陰で大きな混乱は起こらなかった。
 ホテルという場所柄、少々大胆な服装でいる女性たちも多かったが、人目の少ない裏口から出ればそこまで恥ずかしいことにはならないだろう。
 オークらの意識もどちらかといえばケルベロスたちに向けられている。
「我はヴァルキュリアの戦士、エメラルド! 貴様らの狼藉も――ひゃっ!?」
 特に、煽情的な服装のエメラルドは恰好の餌食。ビキニアーマ―の隙間にぬるぬるの触手が入り込むと、エメラルドは肩を刎ねつかせ。
「なっ、何をするんだ! まじめに、っ……!」
 肌に吸い付くような触手に耐えながらも、ゲシュタルトグレイブを突き立てる。
 桜花は何も言わずに着物の胸元を大きく広げ、そこに殺到した触手ごとオークを斬って捨てる。着物の裾が溶けても気にせず刀を振るう桜花が裏口へ目をやれば、避難はほとんど終わりかけで。
「みんなで殲滅……お祭り……」
 不穏な笑みを浮かべつつ、桜花は刃についた血を振り払うのだった。


 人々の避難は完了した――紅葉は裏口からフロントへ取って返し、刀を抜きながら声を張り上げる。
「悪よ、とっとと地獄に落ちやがれぇ!」
 その声に一斉にオークが紅葉の方を見た――新たなる女の現れにオークらの眼光に鈍い光が宿ったかと思えば、触手が紅葉へと殺到する。
 ――しかし、いくらかの触手は紅葉の体に触れる前にエメラルドが斬り落とす。
 幾度となく触手に全身を弄ばれたエメラルドは呼吸が荒く、全身が汗やオークの体液で濡れている。それでも攻撃の切れ味は落ちることなく、触手もオーク自身も刻まれ、命を散らしていった。
「クク、クハハハ……」
 紅葉の口からこぼれたのは笑み。刀の持つ力に変異をもたらした精神が笑みを与え、常人ならざる斬撃を紅葉に許す。
 刃舞うたび散る血潮。身を狂気に浸すのは、桜花も同じ。
「ふふふふふふふふふふ……」
 平時の無表情からは想像もできないような笑みは、オークの体に傷が生まれるごとに大きくなる。
「あはははははははははは!」
 声音も笑顔も魅力的。そこに一瞬でも耳や目を奪われてしまったオークは瞬く間に命を奪われ、血飛沫と僅かばかりの肉片を残すのみとなってしまった。
「今日はバイト先のスーパーで肉の大安売りだったんだ」
 リボルバー銃『フォーリングスター』を構え、姶玖亜は言う。
「豚肉も飛ぶように売れたから、キミ達も飛ぶように撃ち落としてあげようか」
 解体ショーのサービスつきだ――姶玖亜の言葉にオークが警戒するように身構えるが、既に遅い。
「痺れるような早業を魅せてあげるよ!」
 雨霰と降り注ぐ弾丸は雷を帯びて。
 姶玖亜の放つ弾丸に痺れて倒れるオークの背中、触手も先ほどまでのたくましさを失って縮こまっている。それでもスライムを投げる元気だけは残っていたのか、ほとんどあてずっぽうでスライムを投擲するオーク。
「うわっ!?」
 そのスライムを食らったのは波琉那――今までも少しずつ服を溶かされ続けていたこともあって、とうとう衣服には大穴が開き、その下に着ていた貝殻水着があらわになる。
 更に追撃されるスライム。貝殻水着にかすめたスライムがじわっと貝殻をも溶かしたのを確かめると、波琉那はファミリアを向かわせることでオークを沈めた。
「みせられないよ!」
 貝殻水着の向こう側が見えそうになっちゃったので、エルネスタはすかさずプライバシーミスト。ありがとう、と言う波琉那の声がちょっと甲高くなっていたが、いずれそれも治るだろう。
「不思議だね」
 貝殻であっても衣服として溶かした、ということに黄泉は興味津々。
 持って帰って調べることが出来たら一番良いのだが、残念ながらスライムは衣服と共に溶け去ってしまっている。これ以上のことを知るのは難しいようだと判断し、黄泉はオークへと向き直る。
 螺旋力でもってパイルバンカーを射出――分厚い脂肪すら突き破ってオークのはらわたまでダメージを届ければ、オークは脆く崩れ落ちる。
 気付けば残りのオークはあと一体。
 アップルは最後の一体の前に立ちはだかり。
「さあ、泣き叫べ! ティアードロップ・ダーク・ナイト!」
 無数のコウモリを飛び立たせれば、オークの視界からアップルの姿は消える。
「ウェイクアップフィーバー!!」
 ――切り裂かれたのは、魂。
 跡形もなくオークが消え去れば、辺りに残っていたスライムの残滓もたちまち失せた。


 エメラルドは英雄凱旋歌で辺りを癒し、波琉那もまた黄金の蜂蜜酒で建物の傷を修復する。
「奴らは欲望ばかりが先走っていて嫌だね~」
「困りものデスネ!」
 波琉那の言葉にアップルも大きくうなずいた。
「やれやれ、困ったサプライズゲストだったよ」
 姶玖亜は肩をすくめると、本来のゲスト――このホテルを利用していた女性客を呼び戻しに裏口へ向かう。
 念のためもう一度確認してみるが、女性客の中で怪我を負った者はいないらしい。よかったと安心しながら、紅葉はちゃっかりPR活動も。
「はーい、新人ケルベロスの吉岡紅葉です! 以後お見知りおきを☆ これ、あたしのSNSのアカウントね」
 朗らかな声が、突如勃発した戦いに緊張していた彼女たちの気持ちをほぐしていく。
 エルネスタは【Adult Tale】Moon Light――お高めのランジェリーや下着カタログを希望者に配って回り、ランジェリーの着け方に悩みがあるなら相談に乗るとアピール。
「無事に終わってよかったですネ」
 戻ってきた女性たちに怪我がないことが何よりだとアップルは胸を撫でおろす。
「ホテルで休んでも良いみたいだし皆でお風呂でも入る?」
「そうね……」
 黄泉の言葉に、桜花はうなずく。
 戦闘の高揚、そしてオークに触れられたことによって体はまだ熱を持っていた。衣服を溶かされた際に体液やスライムのぬるぬるにまみれてしまった者も多いので、ケルベロスたちはホテルの一室を利用することにした。
 ――体を綺麗にして、ベッドで休めば心身ともに元通り。
 勝利の達成感と共に、ケルベロスたちはそれぞれの場所へと帰っていくのだった。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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