終演の一劇

作者:のずみりん

 霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)は朽ちた劇場の演壇を見上げた。
「久しぶりだね、霧島・カイト……君には色々な名前があるが、今日はそう呼ばせてもらうよ」
「あんたは」
 声に驚きはない。ただ予感だけがあった。
「『座長』カーテン・フォール。以後、お見知りおきを」
 背広姿の紳士はシルクハットを手に、完璧な角度で一礼する。
 オールバックの髪、整えられた顔立ちに涙のような痕。
 崩れた天井に降りしきる雨が霧を呼ぶ。懐のボクスドラゴン『たいやき』の焦げ付くような唸り声に、カイトは反射的に距離を取った。
 ただの雨霧ではない……体内の機器が不調と共に訴えている、既に攻撃は始まっていると。
「俺に、何のようだ」
「役のない『座長』が演壇に立つ理由は一つだけだろう?」
 油断なく間合いを図るカイトの詰問、その様子をむしろ満足そうに『座長』は謳い上げた。
「霧島・カイト。君と仲間たちは多くを失い、多くを戦い、多くを得た。自分を探し、殺し、取り戻した……誇らしく、素晴らしいよ。後は……」
「終わらせるだけだ」
 割って入るカイトと、『座長』の声が重なる。
「上がってきたまえ。カイト」
 白手袋の手が、カイトを上品に招いた。

「霧島・カイトが奇妙なダモクレスに襲われている……襲われる予知があった」
 情報を聞いて集まったリリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は、その奇妙なダモクレスについて説明する。
「名乗る所によれば、名は『座長』カーテン・フォール。会話は断片的だが、どうやらレプリカントになる前のカイトを手掛けたものらしい」
 その経緯はわからないし、わかる必要もないが、ダモクレスはカイトの命を止めに動き出した。その悲劇の台本をそのままに受け取るわけにはいかない。
「考えるのは後だ、ケルベロス。現場の劇場跡に向かい、カイトと共にカーテン・フォールを撃破して欲しい」
 だが、とリリエは強く警告する。カーテン・フォール、『座長』を名乗るダモクレスは強敵だ。
「得体が知れない、と言うべきか……演劇、演出じみた攻撃はどれも強力で兆候が分かり辛い。注意深く行動しないと、何もできないまま相手のペースでやられかねない」
 確認されたものでは雨から呼び出した霧はアンチヒール……殺神ウイルスに近い効果。それに爆破スイッチに似た地雷のような爆発攻撃。
 またダモクレス周囲をとりまくオーラめいたものはヒールグラビティ、ジョブレスオーラに近い効果と推測される。
「これらの他、肉体を切り裂き、不調を与える歯車のような飛び道具も使用できるようだ。こちらはカイトのグラビティの拡張強化版といった感じだな」
 黒幕めいた見た目と言葉遣いだが、正攻法で十分強い。
 自らが直接に操るのでなく、相手に考えさせ、動かさせたうえで上を行く。その立ち位置は統括たる『座長』を名乗るにあっているといえなくもない。

「人生は一つの劇……とはいいますが、結末まで決められるものでしょうか」
 ソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)はぽつりという。
 グランドフィナーレにはまだ早い。悲劇の幕は切り裂いて終わりにしたいものだ。


参加者
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
夜陣・碧人(影灯篭・e05022)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330)
鹿島・信志(亢竜有悔・e44413)
蔓荊・蒲(サクヤビメの選択者・e44541)

■リプレイ

●開演のベルが鳴る
 霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)は進む。
「なんで、『俺』だったのか。俺になった今でも、分からないし、分かりたくもないけれど……」
 ボクスドラゴン『たいやき』のインストールする属性がが無味無臭の霧を甘く染め返る。階段を上る確固たる足取りに、『座長』カーテン・フォールがぱちぱちと手を叩く。
「不治の霧に気づけたか。手の打ちと知りつつも踏み込み、動揺もない。よい対応だ」
「それだけじゃあない」
 バイザーを下ろすと同時、起動する戦闘システムが『スチームバリア』を噴き上げる。呼応するオウガメタル『凍護銀涙』を握り、カイトは拳を『座長』カーテン・フォールへと構えた。
「近づかなけりゃ、取り戻せない。あの日から、全部持っていかれた物を、返して、くれ」
「ふむ、そうか。そうくるか……君とのデュエットは楽しいが、霧島・カイト」
 血を吐くような決意と対照的な、カーテン・フォールの酷薄な声。唐突に途切れたのと、手から放たれる歯車はほぼ同時。
 だが身構えるカイトに迫る前、歯車は上空で火花と鐘のような音を散らした。
「予測防御を成功。たいやきは俺が護る……待たせたな、カイト」
「すまん……助かった。そして気を付けてくれ……強敵だ!」
 闇より降り立つマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)の身体。開演を告げる援軍に、カイトは感謝と共に舞台を蹴った。
「SYSTEM COMBAT MODE!」

 カーテン・フォールは強敵だ。叩きつけた決意を果たすには、カイトと仲間たち……築き上げた全てを叩きつける覚悟がいる。
「シールド・レフト破棄……ソフィア、把握しました。援護します」
「全く物騒だね……折角だし舞台に上がらせてもらおうかな、と思ったんだけどねん」
 ソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)の二つに割れたシールドに、白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)は警戒を露にする。
 彼女の技量では『HW-13S』防盾で受け流すマークのような真似はできないし、当てることも厳しい。そういう次元の相手だ。
「舞台に上がる者が持つような才は特に持ち合わせていないが、戦であるなら致し方なし……最善を尽くさせてもらおう」
 ゆえに最初に仕掛けたのは鹿島・信志(亢竜有悔・e44413)たち、スナイパーのポジション。当たらないなら、当てられるようにすればいい。
「お気にせず。手加減はできないが、観客と演者は多い方がいい」
 奇妙な意見の一致を見たドラゴニアンとダモクレスが交錯する。信志の放つ翠光のスターゲイザーは間一髪で避けられたが、更に十字砲火。
 スターサンクチュアリを展開するソフィアを飛び越えた夜陣・碧人(影灯篭・e05022)の同じ技がめくり気味に、今度こそカーテン・フォールの肩を裂く。
「なかなかいい連携だ。一座に誘いたいものが多くて困るよ、ケルベロス」
 ようやっと一撃。だが裂けたスーツをさして気にもせず、カーテン・フォールは指を弾く。
 爆発。
 更に爆発。
「あぁ、そうなったんでしたっけ……っつ。演劇、演出……座長というより演出装置ですね……なるほど」
『屋内爆破は違法! 違法です!』
 テレビウム『小金井』による抗議の応援動画に支えられ、碧人は何とか受け身を取る。ディフェンダーの守りがあるとはいえ、かわせない広範囲への攻撃は後衛には非常に厳しい。
「演出装置……なら、まだ使い道がありそうっすね。あ、どうもー、ケルベロス劇団っす」
「ほう?」
 だが弱音は吐けない。蔓荊・蒲(サクヤビメの選択者・e44541)は、手にした第一形態の『サクヤビメ』と共に、崩れた瓦礫越しでカーテン・フォールと対峙した。
「うちの劇団に脚本家や演出家は特にいないんで、カイトさん含め劇団員の俺らで好きにやらせてもらう、って事っす。具体的に言うと、あなたの筋書きなんてどうでも良いっす」
 その言葉は目前のダモクレス、そしてカイト双方に。感染性の『殺戮衝動』がカーテン・フォールから仲間を守り、狂気の力を宿らせていく。
「で、あればどうすると?」
「こうしますよ!」
 再びの歯車に、答えを継ぐのは八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)。エクスカリバールと己の身、二重の盾が傷つきながらも要の後衛を守りぬいた。
「ボクもフィクションは好きですけど、他者の痛みを筋書きに取り込んで演劇に仕立てるのは業腹です。座長気取りとは片腹痛い!」
 不器用、口下手にも東西南北はあるがまま叫ぶ。
「カイト、振り回されては駄目だヨ。彼の考えはボクも興味あるところだけど、拘りはそれぞれ……どうせボクにはわからないことダ、と!」
「そうだな。だいぶ冷え上がってきた……」
 再びの爆発が蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330)との会話を打ち切るが、絆と心は受け取れた。 ゲシュタルトグレイブを引き抜き、迷いなき超高速の稲妻突き。
 迸る電光に、カーテン・フォールが身構えた。

●与えられたものは
「二つ。話さなければいけないね……君の兄弟たちも揃ったようだ」
「その心遣い、もちっと仲間にもしてあげたら? カイトの偽物……呼ばせてもらうけど、彼奴はお前に認めてもらいたくて挑んできた」
 ダモクレス、レプリカントを問わず、この男に好意的なものはいないだろう。不快感を隠さぬ永代のブレイブマインがカイトを押す。
「ふむ、そうか。ダメだったな、彼は」
 迫るグレイブをカーテン・フォールは戦輪のように取り回した歯車で受ける。僅かに逸れる切っ先、また一つかすり傷。
「演者は演目に集中し、第四の壁に囚われてはいけない。ダモクレスならば容易いことのはずなのだが」
「……『カイト』はどう思ってるかは、知らないけれど。『戒斗』も、俺も。あんたのことは、嫌いだ。そういうところも、何もかもだ」
 答えより早く霧が舞う。氷結エンジンの出力が低下し、マークのアラートが退避を叫ぶ。
「N.B.C ALERT! GET OUT!」
「ぎゃぅっ」
 碧人のボクスドラゴン『フレア』の属性インストール、更にマークの『G&J M99-SAGITTARIUS』レーザードローンを駆使した『無人機火力支援』に守られつつ、蒲はメタリックバーストと悪態でアンチヒールの霧に立ち向かう。
「助かった……いやこりゃ厄介だねん」
 回復を確認し、永代は再びメタリックバーストの輝きをまく。ボクスドラゴンたちの属性は敵の状態異常をよく防いでくれているが、受けてしまった対処は蒲のみできるメディックの仕事だ。
「インタビューは拒否っすか。イイ根性じゃないっすか、座長」
「ボクも作成側だったからね、そこのところ。興味あるのだけど?」
 ウェアライダーの青年の据わった目、更にアルタの好奇心に睨みつけられるカーテン・フォールは苦笑った。
「嫌われる事には慣れているが、一つ誤解を解かせてくれないかね。私は脚本家じゃあない、才もないッ」
「どうぞ、続けて。手脚は待ちませんけどッ」
 踊るような碧人の連脚、グラインドファイアをスウェーしつつ会話は続く。その様相は、アドリブを交えたミュージカルかオペラにも見える。
「そこのニホンウサギくん……蒲くんだったか、私も同感だよ。私は企画者で、調整役に過ぎない。用意されたステージにどう立ち向かうか? どう倒れるか? それを決めるのは君たち演者だ」
「……なんとなく思うんすけど、あなた多分人望ないでしょ」
 酷薄な座長の共感に、蒲の返事は冷たい拒絶。
 そして彼の推理を裏付けるように、天井から降り注ぐのは怒りの『氷戒『極点の凍楔』』、霧島・トウマの操る氷結と雨の氷柱弾だ。
「丸投げで支配者気取りかよ……斜め上に最悪だな、てめぇは!」
「あくまで、これはカイトの話だ……だがどちらにせよ、俺もあんたが嫌いということには変わりは無い。今、いやまして嫌いになった」
 降り注ぐ針が動きを封じたところ、矢継ぎ早に放たれるリカルド・アーヴェント必殺の空圧弾『絶風弾:咎凪』。
 爆発に次ぐ爆発を、更に爆発で迎撃するカーテン・フォール。ダメージもさることながら、削られた一手は彼にも手痛い。
 スーツの誇りを叩くカーテン・フォールの舌打ちを見逃さず、アルタはククと笑った。
「嫌われてるネ、座長。悪役冥利に尽きるんじゃないかナ?」
「おほめにあずかり光栄だよ、お嬢さん……では、もう一つ悪役らしくいこうか」
 アルタの皮肉にカーテン・フォールの唇がゆがむ。これ以上語らせるのは危険か? 月光斬で切り込む信志だが、ダモクレスの動きは一手早い。
「霧島・カイト。君を選んだ理由だがね? ボロボロになりながら擦り切れてくれそうだった。何度も打ちのめされ、立ち上がり、また打ちのめされて……ね」
「……聞きしに勝る悪役ぶりですよ。反吐が出る」
 東西南北が直ちに吐き捨てた本音はカイトの代わりに吐いた本音だろう。理解しながら、カイトの拳は震えていた。

●コールドファイア
 出遅れた信志だったが、それはある種の僥倖だった。
「さて、どうする?」
「その言葉、そのまま返させてもらう」
 カーテン・フォールの言葉にこそ間に合わなかった結果、カイトの反応より、誰よりも早く踏み込めた。
「我が血は邪道也、されど、我が剣は正道也」
 カーテン・フォールの予想すら超えて、妖剣が血飛沫を放つ。信志のそれは剣の呪詛によって蝕まれた右腕そのもの……多量のグラビティチェインを流し込んだ不浄の血を纏い、放たれた剣圧は苛虐な血龍。
 ダモクレスといえど、魂をも引き裂く『惨爪剔抉』からは逃れられない。
「……切裂き抉るは我が化身。その魂を持って贖え」
「これ、はっ……!?」
 重ねに重ねた束縛が、異常が、妖剣に倍加させてカーテン・フォールに膝をつかせる。その一撃こそ、攻防の分水嶺だった。
「慢心は悪の美学といえ、少々油断が過ぎたんじゃないかナ? さぁ狙い撃ちだ!」
 見る事には慣れている。乾坤一擲のタイミング、アルタの押し当てたガジェットドリルの回転衝角がヤスリのようにオーラを削る。散々に苦労させられた対状態異常の護りを破るのは、今この瞬間しかない。
「効果、確認……いけます!」
「ではいきましょうか? 巌を雲に、虹を無色に、全ては極微の塵芥に……!」
「あぁっ!」
 眼力に確信したソフィアの声へ、碧人は満を持して虚無魔法の球体を放つ。
 全てを飲み込むディスインテグレートを壁に歯車を避け、自分はソフィアのヒールドローンを足場にカイトは空を突進する。
「ヒートヘイズ……!」
 可能にしたのはカイトの術技と相反した炎。アルト・ヒートヘイズが灯した『魂癒の焔』は、彼の得た心そのものに見えるほど冷たく赤々と輝いた。
「……出来ることならあんまりアンタと話したくねぇんだけど」
 その炎をもたらしたアルト・ヒートヘイズは、ここまで見えなかったカーテン・フォールの殺意に、皮肉気に肩をすくめる。
「どーせ、俺はあんたらにとっちゃ失敗作で、「裏切者」なんだし……かまわんだろ」
 カイトによく似た彼だが、それは他人の空似……それが座長の心をみだしたか。ともあれ、舌戦はそこまで。突き立てられるゲシュタルトグレイブに、カーテン・フォールも余裕はない。
「その選択への答えは、こうしよう……!」
 スーツを引き裂き、放たれるのは無数の『機械仕掛けの舞台歯車』たち。狙うはかわしきれぬだろう仲間たち、庇って退くか? 見捨てても決着をつけるのか?
『選ぶ必要はない』
 奇しくも小金井の応援動画が答えだった。
「あー、ダメですよ小金井くん! カイト君、今日は主役なんだから。カイト君も迷ってるとたいやき君貰っていっちゃうよ?」
「言うまでも……ねぇっ!」
 碧人の軽口じみた激励に、カイトは修復プログラム『無銘者の炯眼』を起動。走査線が走る割れたバイザーの向こう、視線はカーテン・フォールを逃さない。
「PERFECT DEFENSE.DRONE WEPONS ALL FREE!」
「いやまぁ……ちょっと、言うまでもありますけど……言っちゃいましたからね。泣いて笑って、もがいてみますよ」
 後ろに立つのは共に戦う頼れる仲間だ。
『R/D-1』の支援でドローンと『XMAF-17A/9』の火砲ををフル稼働させたマークは一人にして一個の部隊。
 ハイテンションで嵐を呼ぶ『嵐棒』を振るう東西南北しかり、仲間たちは決着のために集まったのだ。飛び交う歯車のギロチンに傷つきこそすれ、挫け、助けを求めるものなどいはしない。
「ボクは彼といい事させてもらいますんで、後はその、よろしく」
 構わず行け。
 膝をつきながらも東西南北は限界を凌駕する。
「あぁ。さっさと白黒、つけたろうじゃないの!」
 永代が放つフォーチュンスターが歯車を砕き、開けれた道を渾身のセクシーポーズ『チェリーボーイ×クラッシュキッス』が駆け抜けた。

●戒演の一劇
「なにかね、これはっ!」
 ダークピンクのハートビームが腕を貫き、カーテン・フォールの上着を剥ぐ。
「逃がすか!」
 もはや選択肢はお互い無きに等しい。叩き落とされるゲシュタルトグレイブに目もくれず、『強化ガントレット』が覆う腕を回転させるカイト。
 地雷を起爆するカーテン・フォール。
「これで終わりに……させてもらう」
「できるものかなッ」
 突き刺さるスパイラルアーム、超至近距離の爆発が互いの武装をはぎ取っていく。
 追い詰めてなお地力はダモクレス優位。だが今や舞台仕掛けは封じられ、勝敗の天秤はケルベロスたち側へ傾いた。
「交代だ、車掛りでいくぞ」
 声をかけつつ、信志が側面から仕掛ける。互いにヒールグラビティの限界を超えたダメージだが、そうなればケルベロスたちが数で勝る。
 閃く月光斬。急所を切り裂く一閃が、双方の差を更に縮める。
「八王子さんたちには私がいます、カイトさん! 無粋な演出など跳ね除け、あなたらしくです!」
「助太刀感謝っす、んー……そんじゃ、俺も飛び入りで」
 イッパイアッテナと相棒のミミック『相箱のザラキ』が倒れた仲間たちを守り、戦場より切り離す。結果、メディックの役割を終えた蒲はフリーハンドを得た。
「神話検索、展開……再構築。冠するは『天叢雲』」
 エンチャントは十分、ヒールグラビティも癒しの限界はとうに超えた状況でも、蒲には『咲耶姫第三形態『天叢雲』』がある。
 草原を切り裂く神剣『天叢雲剣』を模倣したガジェット『サクヤビメ』の一閃は狙いすまし、ダモクレスの足を裂く。
「後は任せるっす……汝総てを切り拓く者なり」
「ぎゃっ」
 強敵に対し、当たりは浅い。だが足止めを食らわせれば、そこに人ならざるカイトの相棒『たいやき』の雄姿がある。
「何を……まさか……!」
 カーテン・フォールの戸惑いを焼く、甘く熱いブレス。
「幕の時間だ、座長」
 背に燃える白焔と裏腹に、永代の声は冷たく険しい。
「アンタとカイト達の因縁はよく知らないし、立ち入る気もない……だがカイトが殺されたら悲しむ人も、悲しむ女性が居るのも知っている。だから、殺させない」
「……ありがとうよ」
 並び放たれた戦術超鋼拳がスパイラルアームを後押しする。今度こそ、カイトの拳は因縁の座長を貫いた。
「……だが、終わりではないよ……」
「まだ、かよ」
 致命傷は与えたはず。だがカーテン・フォールが笑ったのは直後だった。
 突き込むカイト。座長を名乗ったダモクレスは血のように部品を吐き、しかし穏やかに告げた。
「いっただろう、私は企画者で、調整役だ……私の死も、君という人生の劇は、終わらせ、ない……」
 それは負け惜しみの皮肉か、それとも被造物への歪んだ情だったのか。問うにもカーテン・フォールは完全に沈黙していた。

「……本当に、終わったんだな? 『俺達』はもう、何も縛られずに、立っていて、良いんだよ……な?」
 誰となく、カイトは呟く。カーテン・フォールの最期のせいではないが、まだ実感はわかない。
「SYSTEM REFORMATION……俺が言えるのは、奴は間違いなく倒された……それくらいだ」
 宿縁を乗り越えたマークだから多くは言えないし、言わなかった。おつかれさまだと、たいやきに差し出す『skygayzer』望遠鏡キャンディの缶だけが、無言で二人をねぎらう。
「一つ言うなら、別に難しく考える必要もないんじゃないかナ」
「この先にあるのは、カイトの人生。好きに行きなよん……人生が劇かなんて、決められるのは自分だけさ」
 もう少しまぜっかえしてくれたのはアルタと永代。手当てを受ける東西南北が、しんみりと笑った。
「人生はアドリブの連続、結末がどう転がるかわからない。それでも……最後に笑ったもの勝ちです」
 カーテンフォールは孤高だった。そう感じたのは彼のある種シンパシーだろうか? だがだからこそ、一人の天才の筋書きより、仲間と共に体当たりで練り上げる劇のほうがきっとずっと楽しいだろうと彼は確信を持って言えた。
「どうせ彼はもう先を見ることは出来ないんです。勝手にやらせてもらいましょう、ってね?」
 くすりと笑う碧人につられてか、その時、カイトの顔もふっと笑顔になっていた。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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