其は首を狩りし者

作者:鯨井琉可

 ここは名古屋市の繁華街の路地裏。
 自分に似た姿の女性を追って、テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)は人っ子一人いない路地の角を曲がる。
「確かこちらの方に来たはずですけれど……姿が見えませんね」
 ビルとビルの隙間、曲がった先には誰もいない……と思ったその時。
 ブンッ! という風圧と共に、巨大なハサミが 唸りを上げる。
 思わず身体を捻ってそれを躱したテレサが振り向くと、そこには彼女と似た雰囲気を持つ一人のメイドが立っていた。
 無骨な機械を身に纏ったその女性は、テレサをキッと見つめたかと思うと、ニタリと笑いながらこう告げた。
「とりあえず死んでくれる……? 私、あなた達のことが大っ嫌いなの!」

「みなさん、緊急事態です! テレサさんに危機が迫っています!」
 ヘリポートに集まったケルベロス達に向かって、 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は、はやる気持ちを抑えつつ説明を始める。
「テレサさんは名古屋市の繁華街にいるはずです。が、今現在連絡が全く取れません。恐らく敵の襲撃を受けたものと思われます。事態は一刻の猶予もありません。すぐにヘリオンで現場に向かってください!」
 そして緊張の面持ちのまま、ねむは言葉を続けていく。
「敵はメイド型ダモクレスで、バスターライフルと巨大なハサミを装備しています。能力としては、主にミサイルやエネルギー弾を放ってきますが、特にハサミから繰り出される斬撃は、一撃必殺の強力な技なので十分注意してください」
「また、現場は繁華街になりますが、ビルとビルの間にある路地裏になり、人通りもありません。また、路地裏と言ってもそれなりの広さがあるため、戦闘に支障はないと思われます」
 そこまで一気に説明すると、ねむは一同へ深々とおじぎをした。
「このままでは、テレサさんが危険に晒されてしまいます。どうかみなさんの力でデウスエクスを倒してください!」


参加者
槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)
メロウ・グランデル(眼鏡店主ケルベロス美大生・e03824)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
佐藤・非正規雇用(バトルシップスタイル・e07700)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
黒岩・白(すーぱーぽりす・e28474)
リチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)

■リプレイ


 ここは名古屋市の繁華街の路地裏。
 同じ様に機械を身に纏った二人の女性が対峙していた。
「とりあえず死んでくれる……? 私、あなた達のことが大っ嫌いなの!」
 大きなハサミを構えたメイドは、同じくメイド服を着たテレサ・コール(黒白の双輪・e04242)をキッと見つめたかと思うと、ニタリと笑いながらこう告げた。
 そして、ハサミをゆっくりと振り被ったと思うと、路地裏に幾人かの発した言葉が響き渡った。
「そこまでよ! テレサ様、わたくし達が来たからにはもう大丈夫ですわ」
「そうそう、こんな小さい子に手を出すなんて! 絶対許さないっス!」
「テレサさんには指一本触れさせませんよ。私が! メガネです!!」
 レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)がいち早くテレサの前に立ち塞がると、黒岩・白(すーぱーぽりす・e28474)が一際小柄な体ながら、無骨なバスターライフルを構え、メロウ・グランデル(眼鏡店主ケルベロス美大生・e03824)が眼鏡をくいっと掛け直す。
「テレサはまだ子供だから、俺達が守ってやらないとな」
「佐藤さん、その恰好、もうちょっと何とか……まぁいいか」
「何はともあれ、今は目の前の敵を倒すのみ。話はそれからでも?」
 ひらひらフリフリなメイド服姿のせいで、格好良い台詞がどこか台無しな、佐藤・非正規雇用(バトルシップスタイル・e07700)が、さりげなく耳の中から如意棒を取り出す。
 そんな彼をチラ見した軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)は、抜かりなくケルベロスチェインを地面へ展開する準備を始める。
 それと同時に、リチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)が紳士らしくバスタードソードをすらりと鞘から抜き放つ。
「もー、あれほど皆さんに、知らない人について行っちゃダメって言われてたじゃないですかぁ。もぅ、仕方ありませんねぇ」
 準備していた通行禁止札を、ぽいっとその場に投げ捨てた槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)の言葉を受け、テレサが助けに来た仲間達を見渡す。
「皆様、助けに来てくれたのですね……っ! ありがとうございます。皆様がいれば、もう大丈夫!」
 テレサがその巨大なジャイロフラフープ・オルトロスを展開させると同時に、戦いの火蓋は切られた。


「私達の裏切者であるあなたは絶対殺す……でも、まずはそのうるさい取り巻きからからね」
 その言葉と共に、身体中からミサイルポッドを出したグロリアは、大量のミサイルをケルベロス達へと浴びせていく。
「なっ、この量は避け切れ……っ!」
「まだっ! 戦いは始まったばかりですわ!」
 身体に受けたミサイルを打ち払うかの様に、レーンは全身に地獄の炎を纏って傷を癒す。と同時にドラヒムがテレーゼに己の属性をインストールする。
「やってくれるじゃねぇか! なら、これはどうだ?」
 非正規雇用が、遅れて飛んできたミサイルを如意棒で捌きながらグロリアへ一撃を加えると、店長が神器の瞳で彼女を睨むも、彼女を燃やすことはできなかった。
「ハサミならこっちも負けてないっス!」
 そこへ、白が敵の持つハサミと同等かそれ以上の巨大なハサミを具現化すると、蝶番を外して両手に構えて鋭い連撃を繰り出すが、これを紙一重で躱されてしまう。
 主に続けとばかりに、マーブルも口に咥えた神器の剣で斬りつけるが、こちらもさらりと躱されてしまった。
「なかなか手強い相手ですね……何、最後に立っていた方が勝利者なんですよ」
 そう嘯くと、リチャードは全身に力を籠めて防御の構えを取る。
「当たれっ!!」
 どこか思い悩む表情を浮かべながらも、テレサはグロリアに向かってジャイロフラフープから弾丸を打ち出す。しかし彼女のハサミを狙った弾丸は、ほんの数ミリの差で当たることはなかった。
 同時にテレーゼも、内蔵ガトリングで掃射を試みるも、こちらも当たらず。
「テレサはどうしてこう、ほいほい知らない人について行くんだ? もっと身の安全を……って、鋏だけでも強烈なのに、ドデカいミサイルまでたァ、とんだ欲張りさんだぜ」
「そうそう、テレサさんはもう少し危機意識を持たないと、ですね」
 テレサを説教しかけた双吉が、気を取り直して足元に展開した魔法陣を発動させると、メロウが後衛に向かって霊力を帯びた大量の紙兵を散布する。
 そしてメロウの守護を受けたリムも、自身の羽ばたきでケルベロス達の邪気を祓っていく。
「仲間をやらせはしません……照準内に補足。発射!」
 淡々とした口調と共に、紫織がヴァリアブルバレルライフルの照準をグロリアに向けると、敵の熱を奪う凍結光線を放つ。
 すると、グロリアの腕に当たった個所がわずかに凍り付き、彼女の動きが鈍くなったような気がした。
「ふうん、なかなかやるじゃない。でもこの私の敵じゃない」
 わずかながらダメージを受けるも、不敵な笑みを浮かべるグロリア。
 戦いはまだ始まったばかり。だがケルベロス達は、確かな手ごたえを感じていた。
 が、彼女には切り札があった。
「さて、誰の首から狩ろうかしら? ここはやっぱり……あなたかしら?」
 ジャキン! とハサミを鳴らすと、グロリアは紫織に向かって一直線に迫る。
「やらせませんわ!」
 一気に首を斬り裂かんとするハサミを、その身体で庇うレーン。
「くぅっ!」
 それでも何とかその場に踏み止まると、裂帛の叫びと共に傷を癒していく。
 あまりの斬撃に、思わず息を飲むケルベロス達。
 しかし、すぐさま体勢を整えると、反撃を試みる。
「笑っていられるのも、今のうちだけだぜ」
 非正規雇用がスカートをひらめかせながらチェーンソー剣で敵に斬り付け、さらに傷口を広げると、ほんの少しグロリアの動きが鈍る。
 その隙を突いて、白がバスターライフルで冷凍光線を浴びせるも、これは横っ飛びに避けられる。が、飛んだ先に待ち構えていたリチャードが、構えたバスタードソードから達人の一撃を放つ。
 流石にこの攻撃まで見越していなかったか、グロリアはその鋭い斬撃をその身に浴びてしまう。
 さらに畳み掛ける様に、テレサがテレーズと息の合った連携攻撃を試みるも、よろけながらも躱されてしまう。
「くそがっ!」
 今までの攻防を見るや、双吉がレーンへ分身の幻影を纏わせて敵の目をそらそうとする。
「ほおら。もたもたしてると取り返しつかなくなっちゃいますよ?」
 レーンの回復具合を見ていたメロウは、いつの間にかグロリアの吐息を感じる距離まで迫ると、隙の無い拳打を撃ち込んでいく。その拳を受けた個所が、一瞬だけ石化した様に、リムの目には見えた。
「先程のお返しはこれで……行きます」
 グロリアのハサミが切れ味が鈍くならんと、紫織が彼女のグラビティが弱体化するエネルギー光弾を射出する。
 すると、ここまで少なくないダメージを受けていたグロリアは、避ける事ができずその身に光弾を受けてしまう。
 次々とケルベロスの攻撃を受け続けたグロリアから、すうっと笑みが消える。
「ここまでやるとはね。でもせめてテレサ……あなたの首は狩る!」
 憎しみを籠めた眼でテレサを睨みつけるグロリア。
 睨みつけられたテレサはというと、困惑の表情を浮かべていた。


 戦いは続く。
 グロリアは一気にケルベロス達を葬らんと、再び大量のミサイルをその身体から発射する。
 今度の標的は、テレサのいる後衛。
 しかし、ディフェンダー陣がお互いを庇い合い、少なくない傷を受けるも何とかその場に踏み止まる。
「ちっ!」
 その様子を見たグロリアは、苦々しく舌打ちをした。
「ダメージは蓄積している……でもまだ今ではありませんわ」
 そんな彼女の様子を見たレーンが、さらに自身を強化せんと、その全身に炎を巡らせていくと、ドラヒムもそれを援護するかの様にグロリアへブレスを放射する。
 そこへ、非正規雇用が軽やかなステップを踏みながら、場違いな音楽を奏でる。
「これは竜派なのか? それとも人派なのか……」
 そのメロディを聞いた仲間の身体から傷が消え、痺れが取れていく。
「なかなか簡単には倒れてくれないっスね。でも、絶対ここで倒すっス!」
 手にした惨殺ナイフがキラリと光ると、グロリアの身体をザックリと斬り裂く。と同時にその返り血を浴びた白の傷が代わりに塞がっていく。
 主の一撃を目の当たりにしたマーブルは、グロリアへ地獄の瘴気を解き放つ。
「ふむ……確かに手強い相手ですが、皆で力を合わせれば倒せるかと」
 言葉を紡ぎながら己自身の精神を集中させると、リチャードはグロリアを一瞬だけ睨みつける。と、その瞬間彼女の足元から爆発が起こり、その場から吹っ飛ばされて倒れ込む。
「まだっ……! まだ私は使命を果たしていないっ!!」
 身体のあちこちに亀裂が走り、半ばボロボロになりつつも、ゆらりと立ち上がるグロリア。
 その姿を見たテレサが思わず声を掛ける。
「どうして私を狙うんです? 私はあなた達を裏切ってなんか……」
「いいえ、裏切者には悲惨な最期を。これが私に課せられた使命。こればかりは覆らない。だから死になさいっ!」
 グロリアが白刃に煌く一対のハサミを閃かせテレサへと迫ると、テレサもそれに呼応するかの様に自身のジャイロフラフープとテレーゼを操り、彼女のハサミを受け止める。
 ガキィン! と金属音が鳴り響き、これまでグロリアの攻撃を受け続けていたテレーゼに亀裂が走り、その場に倒れる。が、それと同時にグロリアのハサミにも亀裂が走る。
「なっ……そんな……」
 必殺の武器であるハサミに入った亀裂を見て明らかに動揺を隠せないグロリア。
「へえ……やるじゃねぇか。必殺武器が使えなくるのはどんな気分だ?」
 テレサの攻撃を見た双吉は、今がチャンスとばかりに、グロリアへ氷結の螺旋を放つ。
 今まででもかなりの氷結攻撃を受けていたその身体は、ますます氷が張り付いてダメージを蓄積していく。
「この好機を逃すわけにはいきませんね……っ。私だって!」
 メロウもチャンスとばかりに、グロリアの気脈を一瞬で見出すと、そこへ指一本突き出して断ち切った。と同時に、リムも追撃とばかりに自身の爪を伸ばして彼女を引っ掻いた。
「わ、私が、負ける……。いえ、最後まで諦める訳にはいかない……っ!」
 悲壮な覚悟を決めた相手は時に恐ろしい。
 真っ直ぐテレサを睨みつけ、ボロボロの身体を引き摺り上げ、折れたハサミを構えると、彼女に向かって弱体化させるエネルギー光弾を射出する。
 彼女の守護を担っていたテレーゼがいない今、レーン達がカバーに入るも、一歩遅くテレサに攻撃が当たってしまう。
 しかし、今まで受けたダメージが大き過ぎたのか、その攻撃は万全の状態からは程遠かった。
「ドラヒム、回復は任せましたわ……喰らいなさい!」
 レーンがグラビティチェインから引き出したエネルギー弾をグロリアに投射すると、彼女は身を捻って避けようとするが、その追尾を振り切る事ができずに攻撃をまともに受けてしまう。その隙に、ドラヒムがテレサへ自身の属性をインストールする。
 そしてレーンの攻撃を皮切りに、ケルベロス達の最後の猛攻が始まった。
「お前もこれで終いだな。大人しく壊れろ!」
 手にした如意棒を巧みに操りながら、非正規雇用が店長と連携を取りながら強烈な一撃をグロリアへ与えると、彼女の身体がぐらりと揺らぐ。
「血塗れ兎の恐ろしさ……みせてやるっス!」
 グロリアの折れたハサミと対照的に、光り輝くハサミからなる一対の刃を手にした白が、口に剣を咥えたマーブルと一糸乱れぬ連撃を加えていくと、彼女の身体の傷がどんどん深くなっていく。
「闇を友とし光で貫く。我前に立つなら覚悟するが良い」
 そう言葉を放ったリチャードは、蝙蝠型の手裏剣を手にしたかと思うと、高速でグロリアへ投げつける。と、その手裏剣が炎を帯び、彼女を燃やしながら切り刻んでいく。
 グロリアもその手裏剣を避けようとするが、不規則な機動の為避ける事が叶わない。
「力押しってーのは柄じゃないが、しかし! 完全に捉えたこの状況! 思いっきりいくしかねーよな~~~~ッ!!」
 雄叫びさながらの声で、双吉が高らかに宣言すると、双翼に纏ったブラックスライムがグロリアの左右に展開すると、そのまま彼女を包み込む様に巨大な口を開いて捕食する。さらにヒドラバルブでラッシュをかけて、さらにダメージを与えた。
 バキィン!
 鈍い音と共に、グロリアの身体に更なる亀裂が走る。
「このメガネに誓って、ここであなたを倒しますっ! テレサさんの為にも!」
 自身の眼鏡を指差すと、メロウはグロリアの間近に迫り、隙の無い拳打を連打すると、亀裂が大きな穴となっていく。
 一方リムはといえば、メロウの命令に忠実に、仲間へ邪気を祓う羽ばたきを行っていた。
 そして、紫織はやや憂いを帯びた表情でグロリアを見つめていた。
「医術は、突き詰めればこういうこともできるのです」
「……本当の所は、禁じ手も良い所なのですが」
 そこで言葉を切ると、グロリアへ向けてすうっと手を向けると、宣言する。
「手術開始。悪いところもそうでないところも、纏めて切除します」
 その言葉通りに、彼女に魔術切開を執り行うが、そのまま患部を放置した。
「わ、ワタシハ……こんナトコロで負けるわけニハ……」
 ガシャンという派手な音と共にその場に崩れ落ちるグロリア。
 だが、まだ完全に機能停止してない彼女に、テレサは悲しみの表情を浮かべる。
「私はあなたと話がしたかっただけなのに……どうしてこんな……」
 ジャキっという音と共に、ジャイロフラフープを構えると、テレサは彼女へ弾丸を打ち出す。
「……さよなら」
 そしてテレサの攻撃を受けたグロリアは、完全に機能を停止したのだった。


「よしっ! それで、あと何体メイド服の宿敵が残っておられるのですか?」
 ガッツポーズを決めた後、苦笑しながらレーンはテレサへ質問すると、彼女は首をかしげながら、もごもごと口を濁すばかり。
 一方、白と非正規雇用は、彼のメイド服について語り合っていた。
「佐藤さん、そのメイド服はどうしたんスか?」
「ああ、これか。テレサ以外にもメイドがいれば敵が勘違いすかと思ってな」
「テレサより、俺の方がメイド服似合ってるんじゃないか、なんてな」
 ガハハと笑う非正規雇用を、白が複雑な表情で見ていると。
「なあ、いっぺん小学校の防犯対策セミナーにでも行ってみたらどうだ?」
「そうですよ、一月足らずで連続で襲われるなんて」
「……それもありかもしれませんね……考えてみます」
 双吉とメロウが心配する中、テレサも少し考えた様子。
「それにしても、メイドさんというのは皆さんつよいものですね」
 と、リチャードがつぶやくと、付近をヒールしていた紫織が、そろそろ戻ろうと皆に声を掛けたの合図に、路地裏から立ち去ったのだった。

作者:鯨井琉可 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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