絶景ノースリーブ

作者:天枷由良

●美しき狭間
「お願いします! どうか、どうか私のスライムを持っていって……!」
 薄暗い茂みの中。螺旋忍軍はスライム忍者こと雷霧が必死に頭を下げている。
 相手はオークだ。それも一匹でなく、十を超えるほどの群れ。
「服だけ溶かすスライムだったかブヒ。まあ、タダでくれるなら貰ってやるブヒ」
「ありがとうございます! ありがとうございます……!」
 オークがスライムを受け取ると、雷霧は凄まじい腰の低さで礼を繰り返す。
「ついでにネーチャンもタダで貰ってやってもいいんだブー」
「ふわぁっ!?」
 ぺろーんとオークの触手に二の腕を撫でられて、雷霧は小さな悲鳴を上げた。
「ブヒヒ! なんつー声出してるブヒ!」
「おめーの格好は好きだけどヨォ、これからもっと美味そうなオンナを狩りに行くってのに、おめーなんかに無駄撃ちしてたら勿体ねーワ! おら、さっさと失せナ!!」
 ドラゴンの配下とは言えど、オーク如きにそこまでの態度を許していいものか。
 しかし雷霧は抵抗することもなく、魔空回廊に消えるオーク達を見送るだけだった。

 そしてオーク達は女子大の教室に出ると、なんやかんや言いながらスライムを活用した。
 全ては彼らの理想郷――即ち、女性の美しい腋を嬲り舐りするため。
「全部は溶かさねぇブー!」
「袖だ! 袖だけ溶かセ! そしたら後は好き放題ダゼ!」
 何をどうして、そんなヘンテコな嗜好を抱くようになるのか。
 わからないが、しかしオーク達が女生徒をノースリーブ状態にして、ちゅるちゅるべろべろてろんてろんと触手の餌食にすることだけは確かだった。

●ヘリポートにて
「またオークなの? 懲りない連中ね」
「そうねぇ。私の予知にもオークの事件が増えてきて、近頃食欲不振よ、もう。……あ、皆来たわね」
 他愛もない話をしていた古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)とミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)が、集合したケルベロスに向き直る。
「服だけを溶かすスライムなんてものを使う、オークの事件がまた一つ予知されたわ。場所は女子大の教室で、救出に向かわなければ多くの女子大生がオークに攫われてしまうでしょう。幸いにもスライムが皆の装備まで溶かすことはないから、しっかり装備を整えて、女性の敵をバッチリやっつけてきてちょうだいね」

 場所は先述の通り、女子大の教室。広さは三十人ほどが入れるくらいで、北の黒板、西に窓。東側の前後に出入り口があって、あとは机が並んでいるという特に珍しくもないところだ。
「オーク襲来時には女生徒が十二人ほどいるわ。既に学校側に連絡して、当該教室周辺には誰も近寄らないようにしてもらっているけれど、予知が変わってしまうから中にいる子達までは避難させられないの。歯がゆいところだけど、皆は外から様子を伺って、オークの出現と共に突入するのがいいんじゃないかしらね」
 オーク達は魔空回廊を通って教室に湧く。数は十五と大軍だが、一匹一匹は大した強さでもないので、油断慢心さえなければ勝利を掴めるだろう。
「女生徒達は……やっぱり女の子だから、びっくりして逃げられない子もいるかもしれないわ。教室の外にさえ出られればいいでしょうから、女生徒達に手出しできないよう最初から全力で叩きのめしにかかるもよし、彼女達の代わりに犠牲になってもいいという人が肌を晒すもよし。……まぁ、それはあまりよくないのだけれど。必要に迫られたら……その時は、しょうがないのかしらね」
 なお、今回のオーク達は腋に興奮するらしい。
 ただし上着を纏っていないような破廉恥さではダメで、ノースリーブ・スリーブレスといった服装の相手を積極的に狙うようだ。
 また露出の少ないものには服を溶かすスライムをぶちまけようともするだろう。女性ケルベロスは、くれぐれも腋から二の腕の辺りにかけては注意するべきだ。
「それじゃあ、オーク退治よろしく頼むわね!」
 努めて明るく言って、ミィルは説明を終えた。


参加者
マイ・カスタム(一般的な形状のロボ・e00399)
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)
アルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)
ブリュンヒルト・ビエロフカ(活嘩騒乱の拳・e07817)
クローディア・ワイトマリア(ムネノコドウ・e19278)
根住・透子(炎熱の禍太刀の担い手・e44088)
シャイン・セレスティア(光の勇者・e44504)
ベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)

■リプレイ


 女子大の一角。オーク退治に来た女性ばかり八人のケルベロスが、戦場となる教室の様子を廊下から伺っている。
 格好も年齢も様々であったが、周囲に怪しむような者はいない。先に伝えられていたとおり、既に連絡を受けた大学側が、誰も近づかないように措置を講じてくれているからだ。
 教室内で何も知らずにいる女学生十二名は少々可哀想だが、彼女らを避難させてはオーク出現の予知が変わってしまう。せめて迅速な行動を心がけることで無辜の学生達には危害が及ばないようにと、ベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)などは隅々まで慎重に観察していた。
「しかし、本当に懲りない連中だな」
 敵が現れるのを今か今かと待ち受ける中で、きっちりケルベロスコートを着込むことで肌を隠したマイ・カスタム(一般的な形状のロボ・e00399)が呟く。
「でも今日のは変わったブタよねぇ。腋が大好きだなんて」
 クローディア・ワイトマリア(ムネノコドウ・e19278)が言うと、根住・透子(炎熱の禍太刀の担い手・e44088)が同意するように小さく頷いた。
「目覚めなくていい文化に目覚めてるよなあ……」
 アルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)も嘆く。文化だなんて少し大袈裟な気がしないでもないが、しかし一匹二匹でなく一群で同じ性的嗜好を共有しているのだから、なるほど確かに文化かもしれない。
「それにしたって十五体もいて全員が腋好きって、おかしいんじゃないの。わざわざ集めたの?」
 古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)が辛辣なことを言う。
 だが、面白い発想ではないか。少し妄想してみよう。
 彼らは……そう、きっと名もなきオーク主催の腋フェチオフ会で出会って、盟友と契った仲。確実にドン引きするほどの特殊な趣味でもないが、かと言って変態臭さは抜けない腋フェチであることを隠さずに済む、かけがえのない同志なのだ――なんて、ありえない妄想は此処までにしておこう。腋フェチオフとか、どっちかと言えばビルシャナっぽいし。
「ホント理解不能だわ」
 諸々纏めてブリュンヒルト・ビエロフカ(活嘩騒乱の拳・e07817)が両断しつつ、ガントレットに包まれた拳を力強く握る。
 その雰囲気は何処からどう見ても姉御。レベルアップで力がぐんぐん伸びていくタイプの、女拳士なTHE・姉御。
 彼女には、オークと女騎士にありがちな「くっころ」とかあり得ない。種族もシャドウエルフだけれど、絶対にオークとは絡まない。恐らくは、そのテンプレごと全部打ち砕くだろう。拳で。
 でも大丈夫。くっころ枠は別途確保されている。
「邪悪なオークやスライムは、正義の勇者シャインが倒して見せますっ」
 可愛くフラグを立てたシャイン・セレスティア(光の勇者・e44504)だ。教室内には女学生十二名しかおらず、聴講を諦めざるを得なかった彼女は、この後で活躍するはずだ。主に身体で。


 そして、その時はすぐにやってきた。
 るりが囮役を務める二人に向かって「腋は顔に近いから注意しなさい」とか「挟んで折ってしまいなさい」なんてアドバイスを送った頃だ。
 静かな構内に悲鳴が響く。罪もない学生達の周りに、奴らが出てきたのだろう。
「現れましたね、オークとスライム! この勇者シャインが、一般人の皆さんには手出しさせません!」
 がらがらと扉を開けたシャインが飛び込んで、まずは威勢よく言い放った。
 まだ出てきたばかりで触手を揺らめかすだけだったオークが、ちらりと視線を向けてくる。そこで猛然とアルメイアが突撃をかけて、蒼いギターを思いっきり振り上げる。
「ちょっと地獄を見ていけや!!」
「ブヒー!?」
 脳天に一撃。一匹のオークの頭が、凹の形に変わった。
「な、なんだブー!?」
 襲撃に来たら襲撃されていた。何を言っているのか分からないが、オークだって何が何だか――などと、そんなことはどうでもいい。
「なんだじゃねーヨ! 見ろ! 腋ダ!!」
 ギターを振った拍子に羽織る上着がずれて、アルメイアがチューブトップ着用の腋丸出しスタイルで来たことをオークの何匹かが目ざとく捉えていた。
 ついでに言えば下はホットパンツで、頭にはスポーツキャップ。何だか色々なフェチに対応できそうだ。
 でもオークの目に映るのは腋オンリー。
「ワキダー!」
「うおおおああああ!?」
 フェチってレベルじゃねーぞと言いたくなるほどに、凄まじい勢いで触手に飲まれるアルメイア。
 これは負けていられない。シャインもさらに進み出て、オーク達の前で勇敢に叫ぶ。
「一般人の皆さんは、この身に代えても手出しさせません!」
「うるさい女ブヒ。ほーれスライムよーい」
「ふふん、スライムの攻撃程度、この私には効きません……って、きゃあっ!」
 つい最近、同じ台詞を聞いたような。
 そう思う間もなく、ぱしゃりと引っ掛けられた粘性アイテムがシャインの両肩を露わにさせる。
 後はもう流れで。触手が伸びてきて、すりすりすり。舌を這わせて、ぺろぺろぺろ。
「ひゃあっ!」
 ぴくんと身体を震わせて、それからすぐにシャインは脚をジタバタとさせる。
 くすぐったいのだろうか。腋だし。……と、彼女の反応を眺めている場合でもない。
「あらあら、溶かすのが好きなのかしら? 奇遇ね……私もよ」
 言葉こそ穏やかにも聞こえたものの、仲間を辱める敵に強い怒りを抱き、額に青筋まで浮かばせたベルベットが、包帯に染み付いた血液を桜の嵐に変えてオークを五体ほど灼く。
「ギョワー!!」
「今のうちに、早く外へ!」
 マイが廊下を指さして、女学生達に避難を促す。突然の出来事に悲鳴を上げるか立ち尽くすかだった十二名は、まさかアルメイアやシャインのように触手の餌食とはなるまいと焦って、教室の出口に殺到。
「ゲ、逃がすんじゃネーブヒ!」
 十五体もいるばかりにすべすべの腋からあぶれていたオークが、逃げる獲物に気が付いて数匹、脱出を阻止しようと迫る。
 ……こうなるとオーク事件で起こりうるのは、ケルベロスからの新たな生贄誕生。もしくは一般人からの供物贈呈。どちらにしたってお色気で柔肌が傷つく展開かと思われた。
 しかし今日のケルベロスは一味違う。ヤるなら私を、なんて献身はしない。
 ヤラれる前に、殺れの精神だ。
「オラァッ!!」
「ぶべらっ!?」
 狭い教室の中を飛び越えて、ブリュンヒルトの脚が女学生に向かうオークの一体を顔面から蹴り飛ばした。
 豚肉はそのまま壁にめり込む。あまりの衝撃に、ぱらぱらと破片が落ちる音すら聞こえるほど静まり返った室内で、ブリュンヒルトは生き生きとした表情を見せながら声を張り上げる。
「さぁ、お楽しみの時間だぜ豚ども!!」
「ブ、ブヒ……」
 違う。お楽しみってそういうんじゃない。屈強な女拳士との間に死んでも埋められない溝があることを認めたオーク達は、絶対に近寄るまいと後ずさる。
 だが悲しいかな。殺意に満ち満ちているのはブリュンヒルトばかりでなく。
「さぁ、塵になる時間よぉ~」
 何処となく抜けた声で言ったクローディアも、その雰囲気と裏腹に黒々とした悍ましい太陽を具現化して、絶望の黒光でオークを四匹ほど纏めて薙ぎ払う。
「ひぇー。何だ、えっち大好き連中とご同輩かと思えばやるじゃねーの♪ イカしてんぜ!」
「ありがと♪ ふふっ、よく言われるわぁ」
 同族の焼ける臭いで狼狽えるオークを余所に、称賛を贈ってきたブリュンヒルトへと答えたクローディアは、淫売と一纏めにされていたことなど気にする素振りも見せず、人差し指を口元に当てて。
「どちらかと言えばヒルトさん寄り、なのよ」
 などと言いながらウインクしてみせた。
(「す、すごいなぁ……」)
 オーク絶対殺すウーマンと化した二人に圧倒されて、透子は心の中で呟く。
 できることなら、あれくらい自信をもってスカッとオークを倒していきたい……とは思いながらも、透子はそれを実行に出来ずにいた。
 それでもオークへの嫌悪感を表面に滲ませた彼女は虹を纏って、黒光に焼かれて悶えるオークの一匹に蹴りを打つ。
「な、なにするブヒ!」
 オークもすぐさま反撃に出た。
 反撃と言ってもスライムは使わず。かといって辱めるわけでもなく。ただひたすら、背に生える八本の触手を鞭のようにしならせて透子を打つ。仕方ない。彼女はまだ十五歳で、教室に溢れるオーク達からは陵辱すべき獲物と見なされていないのだ。
「いたっ、いた、いたたた」
「ふざけんなブヒ! 此方だって痛かったブヒ!」
「お肌が真っ赤っ赤だブー! 触手もヒリヒリするブー!」
「でもあいつら怖いからお前を痛めつけて発散するゼ!」
 弱いものは群れる。あっという間に調子づいたオークは、寄って集って透子を叩く。
「そんな事をしていないで、腋好きの同志で慰めあってなさい」
「ああんッ!?」
 何を警戒するでもなく声に反応したばかりに、そのオークはるりの魔眼で一気に正気を奪われた。
 異変を感じ取った仲間が、透子叩きを止めてるりを見る。そしてまた両眼に飲まれる。
 ほんの数秒の出来事だ。それだけで、オーク達は触手の矛先を同族に変えた。
「よ、よく見たらお前の腋もいいブヒね」
「いやお前のも」
 そう言いながら、互いの腋に触手を這わせるオーク達。
 まさに同志の同士討ち。地獄絵図である。
「……見ないようにするべきだな」
 広く取った視界から起用にその部分だけを塗り潰して、マイは痛めつけられた透子に光の盾を纏わせた。


 そうして一部オークの組んず解れつが一段落した頃には、女学生全員が教室を出ていた。
 元より広い場所でもない。オークに遮られなければ、それほど時間もかからない。
「もう十分だな! おら邪魔だクソ共! そこをどきな!」
 アルメイアが一転、攻勢に出ようと吼える。
「さあ、バラバラにぶった切ってやるぜ! サヨナラバイバイしやがれ!」
 かき鳴らしたギターを巨大な鋏に変形させて、周囲の空間ごと断ち切って言葉通りにサヨナラバイバイ。また一匹のオークが、腋フェチに殉じた。
 しかしむざむざと大量の得物を、即ち大量の腋を逃したオークにも意地がある。
「お、お前を舐り倒してやるブヒー!」
「うわっ、ちょ……!? 離せ!?」
 再び取り囲まれたアルメイアの身体から上着がはらりと落ちたのも無視して、ひたすらに舐める舐める舐める。
「わひゃ……んっ……くそ、ええい畜生、こそばゆいだ・ろ・う・がぁぁあ!?」
 叫びも聞き流され、ぺろぺろ地獄はいつ終わるともしれない。
 シャインもだ。一度は触手を振りほどいて大剣を構えたものの、またすぐに捕まって「そんなっ!」とか「ゲームのオークには触手なんてないのにっ!」とか言いながら、抵抗虚しく腋を触手で弄ばれている。
 ふと戦闘直前に貰った助言の半分を思い出して腋を締めてみれば、オークはなぜだか「うっ」と呻いて、白濁とした粘液でシャインの顔を汚した。そんな行為が行われるのも、そんな光景を目にするのもベルベットには耐え難い。
「紅き奔流よ、醜悪なる者を打ち砕け! 紅の拒絶!」
 怒りのままに唱えれば、オークの背辺りで空気が急激に膨張して大爆発を起こす。
「ブヒィ!」
 吹き飛ばされた豚は教室を舞って――。
「ギャアァ!」
 一番近づいてはならないお方の胸元に落ちてしまった。
「テメェ何しやがる! 死にてぇんだなコラ歯ァ食いしばれェ!!」
「ち、ちが――」
 哀れオークよ。弁解の機会は与えられない。
「アタシに近づいたのが運の尽きだったなァ!」
 ブリュンヒルトはガントレットに地獄の炎を纏って、片腕でロックしたオークの頭を潰れるまで殴った。
「うふふ♪ 私も負けていられないわねぇ♪」
 声だけ聞けば穏やかなクローディアにも、慈悲は一欠片とて無い。
 取り出したるはドラゴニックハンマー。それを変形させて――。
「……えいっ♪」
 砲弾発射。撃ち当たったオークは錐揉みしながら壁にぶつかって、そのままシミになる。
「まだまだ行くぞクローディアァ!」
「はーい♪」
 二人はなおもブッちぎれたまま、オークを千切っては投げ、千切っては投げ。
 これで実のところ初対面らしい。
「凄まじいな……」
 もう全部あいつら二人でいいんじゃないかな……とまでは言わないが、そう言わせたくなるような気迫を感じて、マイが呟く。
 だがアマゾネス達が好きに暴れていられるのも、マイがEWACドローンによる戦場観測で命中率を底上げしていたりするからだ。有象無象のオーク相手でも、そういうことをひっそり行う役割は、とても大事。
「……とはいえ、攻めないことには片付かないしな」
 敵の減りを見て、マイは激しい雷でオークを一匹、仕留めてみせる。
 透子も『火焔野太刀 劫火』に魂喰いの炎を纏い、オークに突き刺して内側から焼き尽くしつつ魂を喰らう。
「この調子なら、割と早く帰れそうね」
 帰って涼しい部屋でゲームでもしたいわとボヤきながら、るりは神槍のレプリカで串刺したオークを、生と死の境界線から招来した悍ましき触手で、逆触手プレイに処してやった。


 それからすぐに、触手豚は全滅した。
「いやぁ、スッキリしたぜ!」
「良いストレス発散になったわねぇ♪」
 触手豚の残骸も片付き、教室が平穏な姿を取り戻したあたりで、ブリュンヒルトとクローディアが口々に言った。
「アルメイアもシャインも、お疲れさん!」
「……ああ、そっちもな」
「アタシは疲れちゃいねぇぜ! 殴れりゃいいからよ!」
 豪快な笑い声を上げるブリュンヒルト。一方でアルメイアは、腐った目で教室の隅を見やって「ペロリストどもめ……」と呟く。
 まあ、オークには恨み言の一つも言いたくなるものだろう。色々な汁で全身べとべと、戦いが終わった今だからこそ、不快感は頂点にある。
「シャワー室とか借りたい、さすがに」
 まず腋を念入りに洗いたい。それから髪と全身を洗いたい。
「あ、それなら……」
 おずおずと申し出てきたのは、騒動が終結したために戻ってきた女学生。
 その娘に案内されて、ケルベロスの責務に全身を捧げたアルメイアとシャインは身を清めに向かう。
「……着替え、持っているのかしら」
 ふと思ったベルベットも、その後を追っていった。着衣がある上での腋フェチとかいうこだわりがオーク達に溶解液を乱用させず、思った以上に露出が酷くならなかった為に持ち込んだ服もアイテムポケットの肥やしで終わるところだったが、もしかしたら役に立つかもしれない。
 もっとも、ベルベット自身の趣味が大きく反映された派手なドレスと、ただのシャツ。選ばれるとしたらどちらになるかは、考えるまでもないような気がしたが。
「……私達も行きましょう」
 そろそろ用もなくなってきたので、るりが帰還を切り出す。
 そしてケルベロス達は次々と女子大を後にしていった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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