飢餓に狂う知恵の番人

作者:なちゅい

●叡智を食らう竜は全てを食らう
 東京からはるか東に位置する竜十字島。
 ドラゴン勢力のゲートがあるこの地の鍾乳洞で、1人の少女がなにやら作業を行っていた。
 空中に様々な計測データを展開するその少女。ただ、この島にいるのがただの少女であるはずがない。
 彼女はドラグナー、竜性破滅願望者・中村・裕美だ。
 その周囲に多数控えていたのは、全身真っ黒な怪人達。
 ケイオス・ウロボロスと呼ばれるそいつらはドラグナーでありながら、定命化したドラゴンを餌とする為、ドラゴンに疎まれる存在だ。
「さぁ……、見つけたわよ……」
 さて、裕美は何か発見したらしく、計算している手を止めてニタリと笑う。
「お前達……。この場所に向かい、ドラゴンの封印を解きなさい……」
 そして、彼女は周囲のドラグナー達に、封印から解かれたドラゴンに食われ、その身のグラビティ・チェインを捧げるよう指令を出す。
「全ては、ドラゴン種族の未来の為に……」
 虚空を見上げた裕美はぐるぐる眼鏡を吊り上げ、怪しい笑いを再び浮かべるのだった。

 佐賀県北部にある波戸岬。
 そこは、日本本土における最北西端だ。
 恋人の聖地と呼ばれるモニュメントのある場所へ、4体のケイオス・ウロボロスたちがキーキーと超音波を発しながら降り立ち、この地に封印されたドラゴンを解放していく。
 輝く地面から解放され、地面から這い出てきたのは縦に細長いドラゴンだ。
 見たところトーテムポールに近いような姿をしてはいるが、己の意志で繋ぎ目を自在に曲げることができるようだ。
 ソフィア・ミネルヴァと呼ばれるこの竜は、知恵の番人とも言われていたそうだが……。
「グゥ……グルルル……」
 どうやら、グラビティ・チェインがほぼ枯渇しており、完全な飢餓状態となっている。そこには理性らしきものはまるで見られない。
「グゥルル……グガアアアァァァ!!」
 牙をむくそのドラゴンは、周囲にいたケイオス・ウロボロスを本能のままに食らっていく。
 ある個体は頭から。ある個体はつま先から。
 ソフィア・ミネルヴァは獰猛なる本性を見せながら、4体のドラグナーを全て食い殺してしまうのだった……。

 動き出したドラゴン達。
 ヘリポートには、その情報に関心を持つケルベロスが多数集まっていた。
「数名のケルベロス達が懸念していた、ドラゴンの活動を確認したよ」
 リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が言うには、ニケ・セン(六花ノ空・e02547)らがこの状況を危惧していたとのこと。
 彼らは大侵略期に封印されていたドラゴンの居場所を探し当て、そのドラゴンの封印を破って戦力化しようとしているようだ。
「この作戦に当たっているのは、不気味で禍々しい姿のドラグナーなのだけれど……。彼らは復活したドラゴンによって食べられて、コギトエルゴスム化してしまうようだね」
 これらのドラグナーとは戦うことはないが、問題は復活したドラゴンだ。
 復活したドラゴンはかなりの飢餓状態な上、定命化も始まっているらしい。意思疎通が難しい状態であり、その戦闘力は脅威となる。
「ただ、戦いが長引けば長引く程、ドラゴンの戦闘力は弱体化していくよ」
 目安は戦いの開始から10分。これ以上の時間耐え忍ぶことで、勝機が見えてくる。
 しかし、万が一にも敗北しまうと、ドラゴンが人里に下りてしまう。
 そのドラゴンはグラビティ・チェインを奪う為に多数の人間を殺し、大きな被害を及ぼすのは確実だろう。
「僕が視たのは、ソフィア・ミネルヴァ。柱のような見た目を持ったドラゴンだね」
 元々、知恵の番人を呼称していたと言われるドラゴンらしいが、飢餓状態にあるこの敵にその面影はほとんど見られない。
 全長12mもあるこのドラゴンは直接相手の叡智を食らおうとしたり、長い体躯で暴れ狂ったりしてくる。
 それだけでなく、遠方にいる相手は鋭い眼光で射抜き、また、広範囲に毒ブレスを吐き掛けることもあるようだ。
「場所は、佐賀県の波戸岬。岬というだけあって、手狭に感じるかもしれない。戦う相手がドラゴンなだけに余計、ね」
 とはいえ、市街地での戦いに比べれば、開けた面積は大きい。
 岬から敵を出さぬよう戦う事で、人的被害を気にせず戦う事ができるはずだ。
 一通り説明を終えたリーゼリットは、少しだけ腑に落ちないことがあるという。
「ドラゴンの目的は封印されたドラゴンの解放によって、戦力を増やすことに間違いないはずだけど……」
 ただ、そのドラゴンの定命化は始まってしまっている。
 根本的な解決方法とはならないことから、別の目的があるのかもしれないと彼女は考えていた。
「とりあえずは、解放されたドラゴンを倒さないとね」
 ――強敵ではあるが、皆なら……。
 リーゼリットは真摯な瞳で、参加を決めたケルベロス達へと訴えかけるのだった。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)
浦戸・希里笑(黒蓮花・e13064)
海乃宮・玉櫛(海神の衛士・e44863)

■リプレイ

●知恵の番人もいまや……
 佐賀県北西部の波戸岬。
 ――古の竜が目覚める時。
 ――地獄よりの使者が現れ真の滅びを与えるだろう。
 ――そのもの達の名はケルベロス。
 ――神をも殺す戦士なり。
「……とかいう予言が有ったりしそうなシチュエーションだよね、コレ」
 この地に降り立ったジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)は、ナレーション風味にそう語る。
「おい、あのトーテムポールがターゲットじゃねーのか?」
 海乃宮・玉櫛(海神の衛士・e44863)が指したのは、北米にある彫刻柱を思わせる姿をしたドラゴンだ。
「不思議な外見が、逆に凄い威圧感ですね……!」
 ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)は直にその力を感じ、冷や汗を流す。
「ソフィア・ミネルヴァ、か」
 ドラゴンの名を告げた水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)。
 彼が聞いた話によれば、元は高い知恵を持ち、理知的なドラゴンだったとのこと。
 ともあれ、ケルベロス一行はその竜へと接敵していく。
「此処から先は通さないの! ソフィア・ミネルヴァ、あなたはここで絶対に倒すんだよ!」
 円谷・円(デッドリバイバル・e07301)が大声で呼びかけると、飢餓に狂うドラゴンも気付いたのか赤く目を輝かせて牙をむく。
「知恵の番人などと称された所で、このような姿になってしまっては見る影もないな」
 電子機器のタイマーを10分に合わせつつ、カジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)が見上げんばかりに巨大な敵を見据える。
「ここまで来ると、もう哀れにも感じるね」
 そんな相手に、浦戸・希里笑(黒蓮花・e13064)は憐憫の情すら抱く。
 目の前の相手はすでに矜持も誇りも何もない、ただ暴れるだけの……。
「ひゃっはー! ドラゴン狩りじゃー!」
 分刻みでタイマーを10分までセットしていた平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は、どこぞの狩りゲーを思わせる勢い。
 仲間と力を合わせてドラゴン肉を得るというロマンに、和は目を輝かせていた様子だ。
「此奴は、腹を括らなきゃ、な」
 無気力に生きる鬼人だが、この場はやるべきことをと気合を入れる。
「理性が無いような状態だが、だからこそ油断ならねーよな」
 圧倒的な力の差を感じても、玉櫛に『できない』という文字はない。
「羽織る白雲(しらくも)、箱より出(い)でて、我常世(われとこよ)へに、海神(わだつみ)の衛士(えじ)!」
 仲間に先んじて、彼は自身の周囲に赤く光る血文字が刻まれた帯を球状に展開していく。
「グゥルル……グガアアアァァァ!!」
 唸り声を上げるドラゴンは大きく口を開き、ケルベロスへと食らい付いてくる。
「出し惜しみはできません、全力で臨みますよー!! みんなで良い結果を掴み取りましょうっ!!」
 ピリカの呼びかけに応じ、一行は暴れ狂う巨竜の討伐に乗り出すのである。

●ドラゴン、ソフィア・ミネルヴァ
 牙をむき、食らい付いてくる知恵の番人なる竜目掛け、和が最初に飛び込む。
「ドラゴン肉獲ったるどー! うぉりゃー!」
 成人男性とは思えぬ可愛らしい声と姿で、和は砲撃形態の竜鎚から砲弾を発射する。
 ただ、12mもの巨大な体躯を持つ相手だ。
 人間からすればそれなりに大きな弾丸であっても、ドラゴンにとっては豆粒程度の認識。足止めするなら数が欲しい。
 飢餓状態の相手は、10分ほど交戦することで弱体化するという。
 この為、ケルベロスとしては少しでも耐えながら戦いを進めたいところ。
 一行の作戦は、和が指揮を取っていた。
 盾となるのは、鬼人、そして3体のサーヴァント達。
 相手の初撃となる食らいつきを、鬼人は自らの武器で受け止める。
「出来れば、獣としてではなく、理知溢れたドラゴンの奴と戦いたかったぜ」
 だが、この状態であっても、交戦するには強大すぎる相手だ。
 あくまでもチームの一員との認識を持って戦場を立ち回る鬼人は、地獄の焔を舞わせた刀『越後守国儔』で切りかかっていく。
(「ドラゴン……最強種族って言うのは伊達じゃない」)
 後方にいた希里笑は、自身の力が通用するのかどうかと僅かに逡巡する。
 数々のケルベロス達が手を尽くし、抑えに抑えたドラゴン。
 定命化に飢餓という形までしてようやく、戦いの舞台に立つことができる相手だ。
「ここで抑えよう、飢えている分凶悪だよ」
 手を緩める余裕などはない。
 後方から飛び込む希里笑は、敵の腹部らしき場所へと電光石火の蹴りを見舞う。
「蓬莱、こっちは大丈夫だから、そっちは任せるよ!」
 同じく後方に立つ円は前線の盾と回復を翼猫の蓬莱に任せ、自らは鬼人に桃色の霧として展開した快楽エネルギーで包み込み、癒しへと当たる。
「私はとにかくヒールですよっ!!」
 ピリカは明るさを振り撒きながらも、手前のジューンや玉櫛へとオウガ粒子へと飛ばして支援に当たる。
 しかしながら、前線に送り出した相棒の箱竜、プリムには気遣いを見せていて。
「頑張って、少しでも長く耐えて。お願いっ……!」
 時間稼ぎの為、勝利の為に、ピリカはプリムを信じる。
 カジミェシュもまた、箱竜ボハテルを前線に向かわせていた。
 ドラゴンはサーヴァントだろうとお構いなしに、蹂躙してくることだろう。
「飢餓が戻れば、対話くらいは出来るのかも知れないが……」
 いずれにせよ敵であることに変わりはないと、流星の蹴りを浴びせかけていく。
「復活早々に悪いが、これ以上は進ません」
 そう告げたカジミェシュに続き、中衛陣も動く。
「行くぜ!」
 ジャマーとなる玉櫛は仲間の強化の為、一族に伝わる秘術を行使する。
「我、呼び出すは海霧の祝福なり!」
 玉櫛が周囲に展開する霧は、自分達のジャミング能力を向上させた。
 それを受けたジューンはドラゴンの体を駆け上がり、相手の顔面へと殴打を見舞っていく。
 さほどダメージを与えたようには見えないが、かすかに入る亀裂が相手にはグラビティを発する障害となる。
 直後、ドラゴンが広域へと吐き出した毒霧に耐えながら、ケルベロスは次なるグラビティを繰り出していく。

●巨竜の侵攻を耐え凌ぎ……
 和のセットしたタイマーが、幾度目かのアラームを鳴り響かせる。
「グルルアアアァァァ!!」
 狂えるソフィア・ミネルヴァは叫びを上げ、持てる力をケルベロスへとぶつけてきた。
 少しでも、グラビティ・チェインを得ようと口を開いてくるのは、生物の生存本能なのだろう。
「首と肉置いて、ボクのロマンになれオラー!」
 こちらも本能むき出しにした和が嬉々として、稲妻を纏わせた槍で相手の体を貫く。
 柱のような外見の敵だが、体の強度は他のドラゴンと大差はないようで、身体を覆う鱗を貫けばダメージ自体は通る。
 ただ、ドラゴンの攻撃は激しすぎた。
「グ、グガアアアァァァ!!」
 全てを射抜く瞳はボハテルを射抜き、長い巨体で暴れ回ればプリムが衝撃に耐えられずに姿を消してしまう。
「プリム……」
 数分の間でもドラゴンの攻撃に耐えてくれた相棒にピリカは感謝しながら、赤青に点滅する強烈な光を発して仲間の傷を塞いで行く。
 正面から普段どおりの布陣で戦っていたなら、チームはあっさり半壊、場合によっては壊滅していたことだろう。
 達人としての技量をもって斬熊刀を相手へと叩き込む鬼人がカバーに当たるが、その身を挺してなおドラゴンの攻撃は止められない。
 徐々にサーヴァント達が落とされる中、メンバーは前線の穴を塞ぐ必要を迫られる。
 補充人員として先に前に出る予定は、メディックとして立ち回っていた円とピリカだ。
 サーヴァントが倒れた後、前線に立つのは2人。
 チームとして前線の人数を制限することで、一行は敵の広域攻撃にもしっかりと備える。
 幾度目かのドラゴンの攻撃。鋭い牙で食らいつかれた蓬莱の姿が消えると同時に、円は前に出た。
「次は、私が相手だよ!」
 巨大な竜を見上げ、彼女は子供っぽい口調で言い放つ。
 現状、ケルベロスのみ立っている状況となっているが、最低でもあと数分は耐えねばならない。
 玉櫛は地面に九尾の鞭を展開し、魔法陣を描いて前後衛メンバーへと守護をはかる。
 最悪、仲間が……ケルベロスが4人倒れれば、ドラゴンの討伐は不可能と判断、撤退という流れ。
「討伐できない……なんてゆーわけないだろ!」
 Noと言わないのが信条の玉櫛にとって、それだけは避けたいと気合を入れて仲間の支援に当たる。
 如意棒での顔面殴打に、主砲一斉発射、さらに展開した透明ドローンを爆破させることによる足止め。
 ジューンはなるべく多くの絡め手を駆使して、相手の阻害に動く。
 ある程度、仲間の与えたグラビティが重なるのを見て、ジューンは釘を生やしたエクスカリバールで柱のようなドラゴンを殴りつけていた。
 前線メンバーも、いつまで耐えられるかは分からない。
 狙撃役として、希里笑は言葉通りに攻撃の手を緩めず、バスターライフルよりエネルギー光線を発射する。
 ――少しでも敵のグラビティを中和し、威力を弱められたら。
 相手を抑えるべく、希里笑も必死だ。
 カジミェシュも相手を慎重に捉え、唸るチェーンソー剣でドラゴンに傷を増やす。
 元々は仲間を守ることが得意なカジミェシュだが、これ以上仲間が倒れぬようにするには、攻撃を続ける他ない。
「これ以上は進ませんと言った」
 相手の顔面付近を意識し、カジミェシュが精神を集中させて爆発を巻き起こす。
 だが、そのカジミェシュら目掛け、ドラゴンは毒霧を吐き出してくる。
 鬼人は相手目掛けて、握る『越後守国儔』で達人の剣閃を放つ。
 その直後、彼はスピカを庇うように毒霧を浴びた。
「……っ」
 瞬く間に全身が蝕まれた鬼人は、度重なるドラゴンの攻撃で弱っていたこともあってそのまま昏倒してしまう。
「ありがとう……ございますっ……!」
 同時に、スピカが守ってくれた彼に礼を告げ、手前へと移動してくる。
 続き、後方メンバーを狙った霧を晴らそうと、円はこの場に月を出現させた。
「月よ、皆にその加護を!」
 昼間だろうが、彼女にとっては関係ない。
 概念を具現化して出現した月の光は、仲間達に祝福を与えていく。
 長いようにも思えた時間。その時、2つのタイマーが同時に音を立てる。
「10分経過! 行くぞー!」
 和が叫ぶのと同時に、カジミェシュもやや前のめりな態勢で構えを取り、動きが鈍り出していたドラゴンへと攻勢をかけるのである。

●一気に撃破を……!
 ケルベロスが駆けつける直前、ソフィア・ミネルヴァはドラグナー、ケイオス・ウロボロスを喰らったことでグラビティ・チェインを補給していた。
 それも、10分という戦いの間にドラゴンはほぼ枯渇させてしまい、激しく弱体化してしまう。
 竜の首筋目掛けてカジミェシュは重力を宿す蹴りを叩きつけ、相手の態勢を大きく崩す。
 中後衛から攻め立てるメンバー達も、倒れぬことに重点を置いて立ち回っていたが、こうなれば全力で相手を叩き潰すだけ。
 釘を生やしたエクスカリバールを振り上げ、ジューンが相手の全身へと殴打を食らわせた。
 作戦と各自の踏ん張りがあってこそ、チームはここまでドラゴンと戦えている。
 最後まで気合を抜かず、ジューンは目の前の相手と対して。
「『トラップカード発動!』……って感じ」
 空中に設置していた透明化したドローンを、相手の接近と同時に起爆させる。
 大きく爆風に煽られた巨体へ、和が相手の足元から噴き出した溶岩を浴びせかけていく。
「そろそろ、疲労で動き止めるんじゃねぇの?」
 しかし、和が考えるようには、ドラゴンも動きを止めてくれない。
「ガ……アアアアアアアァァッ!!」
 グラビティ・チェイン不足の影響は、深刻な様子。
 知性の欠片も見せぬドラゴンは全長12mもの巨体で暴れ、疲弊していたケルベロスをなおも追い込もうとしていく。
 皆の体力が大きく削られたが、円は敢えて攻撃へと出る。
 発動した虚無魔法は球体となり、全てを飲み込もうとしていく。例えドラゴンの巨体であっても、だ。
「大勢の命がかかってるもの、何としてもこの戦いは勝たなきゃ……!」
 ピリカも尖端が丸いステッキを突き出し、迸る雷を発していく。
 その巨体を駆け巡る痺れすらソフィア・ミネルヴァは抗う力がなくなってきており、うな垂れるような態勢で弱々しく呼吸を行っている。
 僅かな間でも、ドラゴンを休ませるわけには行かない。
「ボハテルよ、龍(Smok)にして英雄(Bohater)の名持つ友よ」
 カジミェシュは姿を消したはずの相棒へと呼びかけて。
「汝、その名の所以を顕せ!」
 まるで軍馬のような姿を取ったボハテルへと跨り、彼は竜へと突撃していく。
 さらに玉櫛が追撃をかけ、自らの周囲に展開する【血化水紋陣】に空の霊力を加え、仲間の傷を大きく抉った。
「ガ、グオオォォッ……」
 弱々しくも、抗うドラゴン。
 そいつに、希里笑はバスターライフルの照準を合わせる。
「終わりだよ……ドラゴン」
 次の瞬間、砲口から凍てつく光線が放たれた。
 直進した一撃は相手の喉元へと命中し、完全に凍りつかせてしまう。
「…………ガ、ァッ」
 目から光を失ったドラゴンは、後方へと上体を崩していく。
 岬に響く轟音。
 それは、飢餓に狂うドラゴンとの決着を意味していた。
(「……その強さは、やはり伊達ではなかった」)
 希里笑は相手の力量を肌で実感しながらも、自身の力が通用したことにほのかな喜びも覚えていたのである。

●激戦を乗り越えて……
 犠牲はあれど、ソフィア・ミネルヴァの撃破に成功したケルベロス一行。
 重傷を負っていた鬼人もよろけながらも身を起こし、恋人からもらったロザリオに手を当てて、生還できそうだと祈りを捧げる。
「ドラゴン肉、獲ったどー!」
 和はその体から剥ぎ取りを行い、ドラゴン肉を回収していたようだ。
 鬼人はそれで、ドラゴンに食い殺されたというドラグナーの存在を思い出す。
「持ち帰って、研究を頼みたいのだがな」
 そんな要望を行う彼だったが、仲間達からは否定意見が多く挙がる。
「気持ちはわかるけど、わずかでも危険な可能性のあるものは放置できないよ」
「グラビティ・チェインを吸収して、いつデウスエクスに戻るとも分かりません」
 円、ピリカがその危険性を指摘し、反論する。
 最悪の場合を想定するのであれば、この場での破壊はやむなしと鬼人も考えを改めざるを得ない。
 帽子で視線を隠しつつ、彼は拾い上げたコギトエルゴスムをその手で握り潰したのだった。

作者:なちゅい 重傷:水無月・鬼人(重力の鬼・e00414) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月31日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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