夜道にうごめくぱんタンク

作者:猫目みなも

「つ、疲れた……」
 げっそりと呟きながら、日柳・蒼眞(無謀剣士・e00793)は月明かりだけに見送られて補講後のキャンパスを後にする。ケルベロスとして戦う彼も普段はひとりの学生、こうして日が暮れるまで勉学に励む日も少なくないのだ。
「しかしまずいな、このままだと単位が……」
 揃えなければならない単位の数と、それを手に入れる為に必要な出席日数、試験の点数、他もろもろ。そんなことを疲れた頭でぼんやり考えながら歩いていたせいだろうか、うっかりと気付くのが遅れていた。
 ……いつの間にか、周囲から人の気配が消えている。
「!」
 背筋に悪寒が走った瞬間、咄嗟に蒼眞は飛び退いていた。それでも不意に放たれた一撃をかわし切ることはできず、裂けた袖口にじわりと血が滲む。
「何だこの……何だ? うにうに……」
 巨大プリンアラモードを搭載した戦車、と表現するのが最も分かりやすいだろうか。そんな奇怪な姿のダモクレスが、呆然と呟く蒼眞を巨大な眼球で見下ろして。
「敵性体発見。排除」
 戦車部分から伸びるガトリング砲を、無慈悲に彼へと向けるのだった。

「大変です! 蒼眞くんが、ダモクレスに襲われちゃうっていう予知が出ました!」
 慌てた様子で現れるなり、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)はケルベロスたちにそう告げた。すぐに蒼眞に連絡しようとしたのだが、それも上手く行かなかったとも。
「なので、急いで駆け付けて、助けてあげてほしいのです!」
 敵は一体、巨大プリンを載せた戦車のような外見のダモクレス。その奇妙な形状はともかく、ガトリング砲による制圧射撃、鞭による打撃、フルーツを模した爆弾の投擲と多彩な攻撃を行ってくることが予知されており、その戦闘力は侮れない。
「見た目で油断しちゃダメってことだな」
「その通りなのです。でも、襲撃地点の周りに一般の人はいないので、避難誘導とかは考えずに全力で戦っちゃって大丈夫です! そこは安心してください!」
 新藤・ハヤト(シャドウエルフの降魔拳士・en0256)の零した呟きに深く頷いた後、気を取り直したように力強くそう言って、ねむは拳を握り締める。
「あのヘンテコなダモクレスと蒼眞くんとの間に、どんな因縁があるのかはわかりませんけど……でも、理由はどうあれ放ってなんておけないです! ダモクレスをやっつけて、みんなで無事に戻ってきてくださいね!」


参加者
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)
日柳・蒼眞(無謀剣士・e00793)
モモ・ライジング(神薙画竜・e01721)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)
チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)
ジェスト・エクスナージュ(紅き鋼の竜の戦士・e45416)

■リプレイ

●発進、怪ダモクレス
「たしかに二次元存在になってテレビ画面の中に入ってみたいと思った事はあるけど……!」
 こんな妙な戦車に轢かれてぺったんこののしイカにされる訳にはいかない。その一心から、日柳・蒼眞(無謀剣士・e00793)は全力でダモクレスに背を向け、走り出す。その背中に向けられた、チョコボールともライチとも例えがたい不吉な単眼がぎらりと光った。
「逃走行動認識。阻止」
「うわっ!」
 うにうにと不気味にうごめく鞭状の武装が振りかざされる気配に、一瞬身を固くする蒼眞。その隙が命取りとなるかに思われたが――。
「蒼眞……なんてものを見つけてきちゃったの……」
 彼を捕縛しようとした鞭を代わりに愛用のファミリアロッドと、そして己の腕自体でも絡め取りながら、駆け付けた燈家・陽葉(光響射て・e02459)がため息をつく。ほぼ同時に曲がり角の向こうから顔を出したチェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)が、赤く煌く瞳を真ん丸く見開いた。
「うおー! なにこれパンナコッタ? それともプリン?」
 普通のスイーツなら好きだけれど、こんな奇怪なお菓子はノーサンキューとばかりに二振りの刃を構えて駆け出す彼女に、陽葉もひとつ頷いて。
「ダモクレスの方もなんでプリンを搭載しちゃったの?」
 いつかのハロウィンでもお菓子によく似た攻性植物が出現したことがあったが、ダモクレスにもそんな個体が存在したとは。驚きとも呆れともつかない感情を含んだ呟きに、モモ・ライジング(神薙画竜・e01721)も心の底から同意と言わんばかりの表情を浮かべつつ、蒼眞の方へちらりと視線を送った。
「あの、日柳さん? あれ、うにうになの? それとも戦車? どっちなの?」
「……俺に聞かないでくれ」
「……それもそっか」
 どちらが本体(或いはコア)であるにせよ、夜道で人に突然襲い掛かるようなダモクレスを見逃してやる道理はない。すいと仲間たちからぱんタンクへと視線を動かし、銀色に煌くオウガ粒子を袖口から零しながら、愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)が蒼眞の傍らに並び立った。
「まぁ、一人でこれの相手をさせるような無茶はさせません。大丈夫なのです……!」
 力強い言葉に、新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)も熱を持たない『水晶の炎』を燈すことで同意を示す。透明な輝きがうにうに動くゼリー体を切り刻み、戦車の装甲をも傷付けていくさまを真っ直ぐに見据えながら、彼は小さく呟いた。
「噂には聞いていたが、直接見るとやはり開いた口がふさがらんな」
「蒼眞さんも変わったのに狙われるね」
 その声が聞こえていたのか、アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)もちらちらとダモクレスと蒼眞を交互に見やる。
 或いは何か、プリンの恨みを買うようなことをしたのか……無邪気にそんなことを問いかけられて、蒼眞はぶんぶんと首を横に振る。してない、そんなことは断じてしてない。そもそもまっとうなプリンは善良な学生を恨んだりしない。
 だが悲しいかな、今ケルベロスたちの目の前にいるのはまっとうなプリンではない。プリン付き戦車――いや、戦車付きプリン? ともあれ、人々を狙い、危害を加えんとするダモクレスなのだ。であれば――戦うよりほかあるまい!
 ガジェットから伸ばした光刃を振るい、鞭の殴打を果敢に切り払おうとしながら、ジェスト・エクスナージュ(紅き鋼の竜の戦士・e45416)は戦車の上に鎮座するプリン的な部位をまじまじと見上げる。
「以前のうにうにはうまかったと話に聞いたが……ブレス吹いて焼きプリンにでもするか?」
「やめておけ、ぽんぽんイタイイタイになっても知らんぞ」
 よく似た見た目の攻性植物を挙げて首を傾げたジェストを、恭平が真顔で制止する。見た目こそ似ているが両者の関係性は不明だし、そもそもこれはダモクレスだ。下手に口に入れない方がいいという恭平の言葉は、他のケルベロスたちにも至極説得力のあるものとして響いた。
「プリン戦車……ネタとしては悪くはないかな。でも、こんなのをのさばらせておく訳にはいかないね!」
 改造スマートフォンの画面に指を走らせ、仲間たちを鼓舞するコメントを神速で書き連ねながら、アストラがそう気炎を吐く。うん、と、或いはおう、と、そこへ頼もしい声がいくつも重なった。

●激戦、プリンon戦車
 金色に輝くファミリアのそれと同じ羽根が、前衛をまたひとり守らんと舞い踊る。いかにうにうにうごめく謎の存在とは言え、相手は立派なデウスエクスだ。油断はしないとばかりにもう一本のファミリアロッドを握り締めたまま、陽葉はまっすぐにぱんタンクを見据えた。
「真正面からぶっ叩くよ!」
 大きな垂れ耳を揺らす様は愛らしく、けれど放つ攻撃はどこまでも苛烈に。チェリーの掌から放たれた竜炎が、ぱんタンクの上半分を情け容赦なく焼き焦がす。
 キャラメリゼという言葉がしっくり来る甘い香りが漂い出したのを受けて、モモが軽く服のポケットに触れた。布地越しに甘い存在を確かめた僅か一瞬の後、彼女は地を蹴り、手甲に仕込んだ刃を開いて。
「どんなに頑丈でも、装甲をはぎ取ってしまえば意味無いわよね?」
 初撃で幾重にも打ち込んだ『剣痕一剔』の傷跡を更に広げんと、鋸歯持つ形へ変じたナイフが舞い踊る。手品のように装甲を穿たれ、剥がされていくことへ抗議するように、ダモクレスは搭載された鞭を頭上高く振り回した。
 鞭に空気が裂かれる音に、もうひとつ鋭い音が重なる。蒼眞がエアシューズのローラーを走らせ、炎すら纏うほどの激しいダッシュを始めたのだ。けれど今度は、ダモクレスから逃れるためではない。
 まっすぐに駆け抜けた先で、彼は渾身の蹴りを敵の装甲の最も薄い箇所へと見舞う。グラビティの炎が戦車を鎧う鉄板を舐め、煌々と燃え上がるその光の中、ジャケットの背に描かれた『風の団』の紋章が銀色に煌いた。
「ポンちゃん!」
 硬そうなタンクに対抗すべく、更にオウガメタルの煌きを仲間たちへと贈りながら、ミライは自身とよく似た色合いの相棒へと呼びかける。応えるようにぱたりと羽ばたいたボクスドラゴンが、力いっぱい吐き出したブレスでダモクレスを包み込んだ。
「逃がさん」
 仲間を傷つけようとした意趣返しとばかりにケルベロスチェインを放って、恭平は同じく後衛に立つもう一人の少女へ視線を送る。任せてとばかりに頷いたアストラが、再び愛用のスマートフォンを叩いた。
「まだまだ弾幕薄いよ!」
 グラビティの弾幕に乗せて仲間たちへと的確だったりそうでなかったりする無数の助言を送るアストラのリズムに合わせて、彼女のミミック『ボックスナイト』も小さな足で高々と跳躍し、ぱんタンクの単眼へ牙を突き立てる。鬱陶しがるようにプリンを大きく揺らしたダモクレスの前に、透き通るような青い髪の少女が舞い降りた。彼女――サポートとして合流した鈴菜は、奇妙なダモクレスをしげしげと眺めて目を細める。
「……これが……蒼眞が前に言っていたうにうになの……?」
 噂に違わぬ奇妙な姿、とは言え彼を狙って仕掛けてきた敵には違いない。ならば今は自分にできることをとヒールグラビティに力を込める彼女のほうをちらと見て、新藤・ハヤト(シャドウエルフの降魔拳士・en0256)もまた剣の切っ先で守護星座の陣を描くことに集中したようだった。
 ダモクレスは答えない。どう呼ばれようとも己の任務は変わらないとばかりに投げ放たれた果物型の爆弾を、ひとつは陽葉が、もうひとつはボックスナイトが、身体を張って受け止めた。
「……っと、やっぱりこいつの方が効きそうか」
 振り抜いたルーンアックスの刃を頑健な装甲に大きく逸らされ、崩れていた体勢を立て直したジェストが、『マキナドラグナー』と名付けた小手型のガジェットに視線を落とす。確実に当てるなら、最も有効なのは恐らく理力による攻撃――ケルベロスたちの眼力が、そして実際にグラビティを放った手応えが、そう告げていた。
「なら……!」
 精密に狙い澄まして、陽葉のしなやかな指先が敵の方を指し示す。その一点めがけて、カラスとニワトリ、二羽のファミリアがひとつの透き通る幻影となって宙を駆け抜ける。疾風のような一撃に、瞬間ぱんタンクの眼球がぐるりと回転した。
「そこ、行くよーっ!」
 チェリーの走らせた妖刀の軌跡が、敵の生命力を啜って持ち主へと還す。先の爆発で負った火傷が癒えていくのを感じながら、彼女は己の唇を小さな舌先で潤すようになぞった。
 明らかな不利ではない。けれど慢心するには早い。冷静に冷静に、モモは戦況を見定める。まだ、一気に決めるには敵が力を残し過ぎている。ならば、切るべきカードは――一瞬で思考を走らせ、彼女は小柄な身体を翻した。
「私の本当の切り札、その身に刻みなさい!」
 咆哮と共に、高速回転を伴う突撃が鋭い風を巻き起こす。その勢いのまま、モモは振り上げた得物を何度も何度もぱんタンクへと叩きつける。殴打と言うよりむしろ斬撃に近いその連撃は、既に回避の足を鈍らせつつあるダモクレスの頑丈な装甲をも確かに凹ませて。
 そこへすかさず滑り込むようにして、蒼眞がぱんタンクの無限軌道を横合いから蹴り抜いた。転輪を歪められた戦車が、がたりと大きく揺れる。
「回復はお任せなのです!」
「ボクもついてるからね!」
 ミライとアストラ、二人のメディックが重ねた回復グラビティが、前衛の傷をまとめて癒しつつさらにその攻撃の正確さを引き出していく。ならば己のすべきことはとネクロオーブに手を添えつつ、恭平はふと何とも言えない表情を浮かべた。
「しかし何というか、食べ物を無駄にしている感ばりばりなんだが」
「食べ物、で、いいのかな。あれ」
 そう呟くハヤトの目は、そこはかとなく遠くに向けられている――ような気がした。
「ぷりんぷりんだけど食べるのはちょっとなー!」
 やっぱり食べ物にはカウントしたくないかもしれない。うごめいてるし。襲ってきてるし。そんなチェリーの意見ももっともだ。頷き合って、ケルベロスたちは再び、三たび、油断なく構えを取る。わずか一秒にも満たない無音の時間を断ち切ったのは、竜鱗を思わせる光刃を振りかざして飛び出すジェストの靴音と咆哮だった。
「纏めて斬り裂くッ! ドラグレザーッ!」
 光が伸び、唸り、奔る。ただ斬りつけただけなら容易に回避されていたであろう一撃は、けれど度重なる足止めによって敵の動きが鈍った今なら。
 深々と装甲に一文字の傷を穿たれたダモクレスが、ぎろりと単眼を巡らせた。

●さらば、ぱんタンク
 敵とて疲弊している様子だが、こちらも無傷とは行かない。既に戦闘が始まって数分、ヒールでは癒せぬ負傷も少しずつではあるが蓄積してきている。そろそろ決めにかからねば――そんな風に、最初に仲間たちを目の動きだけで見回したのは誰だったか。
「! 待って、蒼眞……危ない!」
 不意に鈴菜が上げた常ならぬ大声に、ケルベロス達の視線がそちらへ向かう。一層軌道の不規則さを増した鞭が、高速で蒼眞へと迫っていた。
「この……!」
 一撃程度なら耐え切れる。耐えてみせる。万一耐え切れなくとも、残った仲間たちの力量であれば、必ずここでダモクレスにとどめを刺してくれるだろう。
 そう判断して、蒼眞は覚悟を決めたように腰を落とし、せめてその一撃を少しでも受け流せるように斬霊刀を斜めに構えた。
 びゅん、と空気が切り裂かれる鋭い音、びしりと何かが打ち据えられる音――けれど、覚悟していた痛みは訪れなかった。そして、銀の瞳にひとつの小さな影がはっきりと映る。
「ナイスだよ、ボックスナイト!」
 すんでの所で割って入り、見事にディフェンダーとしての役目を果たしてみせた相棒を、アストラが手を叩いて褒めちぎる。労いとばかりに相棒へ『真に自由なる者のオーラ』を送った彼女が何故かがじがじ齧りつかれているのを見ながら、ミライは蒼眞に向けて『KIAIインストール』を歌い上げる。
「どんなに傷ついても 歩むのを止めはしない 1を100に変える魔法が 生きると決めた君を支えるから」
 あと少し、もう少し。それだけの頑張りを引き出すための願いの歌が、確かな力に変わっていく。ゆっくりと頷いた鈴菜もまた、寄り添うようにヒールグラビティを解き放った。
「相手もそろそろ満足に身動きできない筈だ、行くぞッ!」
 振り下ろされる鞭を掻い潜り、切り払い、ジェストが果敢に敵の懐へと飛び込んでいく。その背を追うように、『清光』と『舞葉』、それぞれの双翼が再び重なり合ってひとつになる。
「攻め切るよ」
 両手をかざしてファミリアたちを送り出す陽葉の指に、二つの指輪が煌く。攻めて、勝って、無事で帰るのだ。主人の誓いを汲み取ったように、幻影合成獣と化した『清光』と『舞葉』がぱんタンクの軟らかいプリン部分を大きく突き崩した。
「叩いて砕いてぶっ飛ばしてあげる!」
「決めてるのよ。跡形も欠片も一切残さないってね!」
 それぞれ迷いなく振るい抜かれたチェリーの刀とモモの鈍器が、左右からダモクレスの部品を断ち切り、或いは打ち砕く。巨大プリンが一際派手に揺れたその隙を見て、蒼眞は刀を持たない手を殆ど反射的に真上にかざした。高まるグラビティの余波を真紅のバンダナをはためかせながら、彼は『それ』を呼び出す呪文を口にする。
「――うにうにっ!」
 声に応え、『それ』は確かに現れた。うごめくプリンのような、不可思議な存在――その姿は一見、眼前のダモクレスが搭載した謎のパーツに似ていたかもしれない。けれどそのサイズと重量は、戦車のそれすら軽々と上回る規格外のものだった。月明かりの中、ぱんタンクの真上に黒々とした影が差し――そして。
 ずん、と腹の底を揺さぶるような地響きと共に、ダモクレス・ぱんタンクは完全に沈黙させられたのだった。

●戦い終わって夜は更けて
「なんつーかその……災難だったな」
 蒼眞に歩み寄ったジェストが、ぽんと彼の肩を叩く。ダモクレスに――それもこんな妙な機体に狙われるなど、できればしたくない体験に違いない。そこには同意しつつも、ミライは少しだけ思うところがあるように遠い街明かりに目をやって。
「もうちょっと、素直に心配できるシチュエーションのほうがよか……こほん。何にせよ、無事に終われてよかったのです」
「これでまたプリンハンターに近づけたかな?」
 アストラの言葉に、思い出したようにモモがぐぐっと腕を伸ばす。
「何か久々に疲れた戦闘だったかも……ううん、絶対疲れたよー。日柳さん、何か甘い物奢って」
「持ち歩いているんじゃなかったのか?」
「いやいや、あんな物見ちゃったら、これじゃ足りないのよ」
 恭平のツッコミに、モモはポケットを叩きつつそう答える。いいねえと笑って、チェリーもぴょこりと耳を揺らした。
「食べたいね、おいしい普通のスイーツ!」
「あのタンクみたいな巨大プリン作りに挑戦するのもいいかもな」
 戦場跡を見やりつつ、ジェストが楽しげに提案すれば、なるほどと乗り気な者、プリンはしばらくいいやという者、悲喜交々の反応が返ってきた。
「待て、その材料費も俺持ちなのか……?」
 そんな不安げな呟きを零しつつ、蒼眞は戦闘の余波で荒れた周囲を率先して片付けにかかる。そんな彼に続いて、恭平も割れた路面へとヒールグラビティを施しながら呟いた。
「食べ物を無駄にするとは罪深い存在だったが、これでひと安心か」
 彼と共に鈴菜やミライ、アストラたちがグラビティで手早くヒールを行い、他者へ向けるヒールグラビティを持ち合わせていないメンバーも協力して瓦礫を片付けてしまえば、現場が再び綺麗になるのも早いものだ。
 静かになった夜道をようやく安心して歩きつつ、ミライはふと思い出したとばかりに仲間を振り返り、笑みを浮かべる。
「そうそう、冷凍庫にアイスクリームがあるのです。帰ったら、これも処理しませんとね♪」
「なあ、処理って言わなかったか今」
「最近暑くなってきましたし、アイスのおいしい季節ですよねー♪」
「待てってば……!」
 わいわいと騒がしく声を上げつつ、けれどそのいつも通りの騒がしさをどことなく懐かしいように思いながら、そうしてケルベロスたちは帰路につく。
 冷凍庫のアイスが果たしてどんな味わいだったのかは、また別のお話だ。

作者:猫目みなも 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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