●
都内のとあるアパートに10人ばかりの人々が集まって一心不乱にゲームに興じている。
「俺のターン! ドロー!」
高らかに響く声と共にビルシャナがデッキからカード抜き放つ。
既にバトルフィールドは敵プレイヤーのカードに埋め尽くされ、絶体絶命の状況――。
だが、伝説のカードゲーマーたるビルシャナさんは動じない。
(へへッ……! 全く、この局面でこのカードを引き当てるとは……。時折、自分の強運が恐ろしくなるゼ……!)
ドローカードを確認したビルシャナはフッと微笑する。
「さあいくぜ! グラビティカード『ビルシャナ経文』!
このカードをビルシャナ属性のオレが使用することで特殊効果が発動ッ!
攻撃力+200だッ!!」
はああああ! と、力を込めて頭上高くカードを掲げるビルシャナ!
「くらえッ! 衆生救済の菩薩累乗会アタックッ!!」
パァン! とカードが畳に叩きつけられると、ぶわっと強烈な風圧が巻き起こる。
その強力な一撃で、場を支配していた敵カードがことごとく吹き飛ばされてゆくッ!
「そ、そんなバカな……うぎゃああああッ!!」
対戦相手だったおっさんも断末魔をあげながら吹っ飛んで、ボロアパートの壁にドーン!
「うおおお! 教祖様の勝利だぁああ!」
大喝采!!
まさに敗北の運命(さだめ)を覆す至高の一手!
観衆の信者達は口々にその逆転勝利を讃える!
そして、勝利を収めた鳥野郎はご自慢のビルシャナデッキを天に掲げて叫ぶ!
「至高の遊戯とは何か!?」
「カードバトルッ! カードバトルッッ!」
信者たちもまた己のデッキを掲げながら、それに熱狂的に応えるのだった。
●
とまぁ、そんな感じの予知を語り終えたセリカ・リュミエールがケルベロス達に向き直る。
「というわけで、このメンコ遊戯こそが至高、という教義を掲げるビルシャナの討伐を皆さんにお願いしたいのです」
「え、いまのゲーム、メンコだったの!?」
思わずツッコむケルベロスの一人にセリカは神妙な面持ちで頷く。
「そうです」
「えぇ……。じゃあ、あの攻撃力云々のくだりは一体なんだったの?」
「気の持ちようです。いえ、この場合は『イメージ』……とでもいいましょうか」
フワッとした説明でその場をしのぐセリカさん。
恐らく、彼女もまた「そんなの私に聞かれても……」と思っているに違いない。
「……とにかく」
コホンと咳払いするセリカ。
鎌倉奪還戦の際にビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で人間がビルシャナ化してしまう事件が多発している。今回の事例もその一つだ。
そして、ビルシャナ化した人間は周囲の人間に自分の考えを布教して、配下を増やそうと目論んでいるのだ!
「もしこの活動を野放しにすれば、ゆくゆくは空前のメンコブームが日本を席巻し、やがて、メンコの強い者だけが権力の座を支配する、空前のディストピアが訪れるかもしれないのです……!」
「え~……」
そうはならんやろ、と思いながらも黙って説明を聞くケルベロス達。
なお、ビルシャナの周囲にいる一般市民の男たちをそのままほうっておくと洗脳が完全に完了しビルシャナの配下になってしまう。
もし戦いになれば身を挺してでも教祖を守ろうとしてくることになるはずだ。
信者化した一般市民は戦闘能力は弱いものの、攻撃すると簡単に命を落としてしまう、ある意味で厄介な相手になってしまう。
今回提示された作戦の成功条件はあくまでビルシャナの撃破のみであり、一般市民の生死はこれには含まれていないのだが――。
「可能であれば、彼等も助けてあげてください」
皆さんなら出来ます! とばかりのガッツポーズでセリカ。
「えぇ……」
ほぼ丸投げの展開に頭を抱えるケルベロスの面々。
なお、セリカの説明では、この場に集まっているのはビルシャナの教義に肯定的な人々なので「危険だから逃げろ!」みたいな説得では効果が無いとのことである。
つまり信者の説得を試みるのであれば、ビルシャナの教義を覆すようなパンチの利いたインパクトが必要になってくるだろう。
「あ、そういえば、このビルシャナの教義では教祖自身こそが『究極のカードファイター』であり、特別に神聖視している存在のようです」
つまり、その教義を覆すことが出来れば……。
予知によれば事件が起こるのは一週間後。
各自、決戦に向けてデッキを構築してみるのもいいかもしれない。
「では皆さん、どうか宜しくお願いします」
そう説明を結び、セリカはケルベロス達に深く一礼するのだった。
参加者 | |
---|---|
ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352) |
オイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033) |
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815) |
シフカ・ヴェルランド(鎖縛の銀狐・e11532) |
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570) |
紺崎・英賀(自称普通のケルベロス・e29007) |
長篠・ゴロベエ(パッチワークライフ・e34485) |
リリエッタ・スノウ(未来へ踏み出す小さな一歩・e63102) |
●1
教団の中枢、都内のボロアパートに侵入を果したケルベロス達。
「戦闘準備完了……では、行きましょうか」
決戦を前に両腕に鎖を巻きつけながら、シフカ・ヴェルランド(鎖縛の銀狐・e11532)。
「うーん、10歳まで忍軍だったからTCGに触れてないんだよ……。
少年の遊びには憧れるけれどルールが分からない…………え? これメンコなの? ならルールぐらいなら分かる……よ」」
と、デッキを片手に戸惑いがちなのは紺崎・英賀(自称普通のケルベロス・e29007)。
「めんこ、話や本で見たことはあるけれど! これがあのMENKOなのね!」
六畳間のバトルフィールドを前にローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)が瞳を輝かせる。
「めんこ! 仁義も容赦もない修羅の競技だと聞くのです……」
オイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033)は緊張した面持ちだが、
(ローとやった修行の成果見せてやるのです!)
と、気合を入れ直す。
「遊びにも構わず鳥は居るもんですね」
小さく吐息をつきながらミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)。
カードバトルと聞いて巷で流行っているトレカかなんかと思いきや、まさかのメンコ勝負。
「でもタイミング的に、これが最後のビルシャナ依頼だって」
リリエッタ・スノウ(未来へ踏み出す小さな一歩・e63102)が会議室での説明を思い出しながら一言。
鎌倉大菩薩の一件から、いやってほど登場した個性豊かな鳥さんたち――。
最後と言われれば、それはそれで感慨深い。
「メンコなんて、いつの遊びなんです? えーとルールは……」
念のためにもう一度確認しておこうと資料を読みふけるミリム。リリエッタもその隣でルール確認をしてゆく。
そこに現れたのは――。
「クックック……そちらには初心者もいるのかい?」
「それで我々に戦いを挑むとは……。全く、命知らずな連中よ」
四天王を名乗る教団の方々がご登場。
それぞれ赤、青、黄、緑と4色のコンセプトデッキを用意し、纏うオーラは強者のそれ。
「彼らを倒さないことには、ビルシャナを戦場へと引き摺り出すことが出来ないようですね」
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)が敵を見据えて呟く。
「それにしても、カードファイトと言ったらスタジアムで戦うものではないのか?」
と、おもむろに長篠・ゴロベエ(パッチワークライフ・e34485)が訝しむと、教団連中は居心地が悪そうに俯く。
「まだ成長過程だから……! 教団が大きくなったら国技館だから……!」
何となく、悪いことを聞いてしまったとゴロベエはコホンと咳払い。場の空気を払拭するようにと大きく息を吸う。
「それでは……! MENKOバトルゥウ・ファイトォオオオッ!!」
強引に開戦の時を告げるゴロベエ!
この事件が終わればもうビルシャナは出現しなくなる! つまり!
「みんな行くぞッ! これが最後の戦いだ!」
「「「「おう!」」」」
決戦が、始まる――。
●2
まず進軍してきたのは四天王・緑。
「どれ、俺が遊んでやろう」
森デッキを駆る歴戦のおっさんだ。
「むぅ、カードでディストピアな衆合無なんて来させないよ!」
ドロー! リリエッタがデッキからカード抜き放つ!
「ミノタウロスを召喚。守備表示の『聖なるエルフ』を攻撃だよ」
スパーンと叩きつけられたミノタウロスが敵エルフを撃破。
リリエッタが用意したのは某会社の社長も使ったことがある由緒正しきデッキ。このミノタウロスもまだまだほんの小手調べに過ぎない。
「なかなかやるな……ならばこれならどうだ! フィールドカード『森の迷宮』!」
瞬く間に戦場を大森林が覆い尽くす。
無理に森へと踏み込めば、即座に木々の影からエルフが奇襲を仕掛けてくる。
厄介なゲリラ戦術だ。
「私、炎剣の騎士の出番というわけね!」
活路を開くのはローレライ。彼女が準備してきたのは、鉄を重しに挟んだり、蝋で補強した火のマークがついたデッキ。
「名づけて『燃え盛る炎デッキ』よ!」
炎剣の騎士が振るうは厄災の業火。燃え盛る紅蓮の炎が森の迷宮を焼き払ってゆく。
「めんこも、話しには聞いていたけれど実際やってみると楽しいわね!」
森を灰燼へ帰しながら、炎の騎士が微笑む。
「ええい! 俺が替わる!」
緑を押しのけるように青の四天王が進み出る。
操るのは海洋帝国の軍勢を束ねし海デッキ。
その中でも強力なのが、赤眼の鮫王『シャーク・キング』。特殊効果こそないものの、他の追随を許さない基礎攻撃力を持つ極レア糞カードである。
「くッ……強い……!」
暴虐の鮫王がケルベロス陣を喰い破る。均衡が崩されようとしたその時――。
最前線に躍り出たのはオイナス!
「ボクが食い止めます!」
その手に持つのは真っ黒いカード。
「ふはは……! 何かと思えば、ごく普通のコモンカードじゃねえか!」
嘲笑する青の四天王。だが、オイナスはこれを受け流すように笑う。
「普通のめんこでも戦えるという事を見せてやるのです!」
迫り来るシャーク・キングに対し、オイナスは身構える。
「死ねえ!!」
サメの乱杭歯がオイナスのカードを喰いちぎらんと迫る。
だが、その一瞬こそがオイナスが狙った瞬間。
「風圧で裏返すだけがめんこにあらず! 相手の下に潜り込むテクニックもあるのです!」
オイナスのカードがシャークキングの真下に滑り込む! 完全に相手のカードの下に隠れ、その姿はまさに亀が甲羅に隠れるがごとし!
「名付けて! 奥義! 玄武の型!」
攻撃のできない死角に入られ、狼狽えるシャーク・キング。その隙を見逃さず、ローレライが動く。
「行くわよ! 『神々の黄昏』!」
紅蓮の刃がシャーク・キングを切り裂く。鮫王の巨体がズゥンと地響きを立てて沈む。
「イェイ!」
「い、いえーい」
攻撃と防御で役割を分担し、前線を切り開いてゆく二人。
だが――。
「ふはは……! 時間稼ぎ感謝するぜ! 青ッ!」
態勢を立て直した四天王・緑が切り札の『世界樹ユグドラシルの苗』を発動。
時間経過と共にバトルフィールドに根を張り、攻防を際限なく増大させてゆくカードである。
「フィールドそのものを破壊する植物の苗カード……一般ルールでは禁止されているんじゃないのかい?」
審判役のゴロベエが咎めるが――。
「勝てばいいんだよッ! 勝てばなぁ!」
樹々に侵食されてゆく畳。この世界そのものを崩壊させんと、狂人の笑みを浮かべる緑。
ヤツを阻止するためには、ユグドラシルを上回る攻撃力で撃破するしかないが――。
「おっと、この場面で来たか! さすが俺のバディだ」
引き当てたカードを確認してニヤリと微笑むゴロベエ。
ゴロべエが構築してきたのは『登場!自宅警備ロボ』デッキ。テキトーに家にあったケルベロスカードでなんやかんや構築したそのデッキ。
「俺はこの世全ての自宅(せかい)を守る! ルミナイズ、登場! 自宅警備ロボ!」
立ち上がりし巨大ロボが世界樹を抑え込んでゆく!
「俺のターン! ドロー! チャージ&ドロー!」
怒涛の連続攻撃! ゴロベエは叫ぶ! 共に戦いし相棒の名をッ!
「バディコール! 絶望粉砕デッドエンドブレイカァー!
いくぞ! ファイナルフェイズ、キャスト! 『必殺! 稲妻重力落とし!』」
ゴロベエに応じるようにピカーンと瞳を輝かせるロボ。
その両碗に重力的なエネルギーを迸らせ、必殺の一撃をユグドラシルに叩きつける!
「ぐ、バ、バカな! ぐわあああ!」
緑の悲鳴と共に世界樹が崩壊してゆく!
コテン、と裏返ったメンコ。
まずは四天王の青・緑ペアを撃破だ!
●3
「緑と青を倒したぐらいでいい気にならないで欲しいですわ!」
そう叫ぶのは教団の紅一点、金髪ロールのお嬢様『四天王・黄』。
とある財閥の生まれながら幼少からカードを嗜み、金にものを言わせた戦術が持ち味。
「行きなさい! ゴールデンナイト!」
『金冠の女帝』が率いる金ピカ騎士の大軍勢が侵攻を開始する。
ゴールデンナイト……場に金冠の女帝がいる限り、攻防大アップするというアホみたいな強さで有名。
刷られた枚数がそもそも少なかった為、あまり出会わないという理由でかろうじて許されている糞カードなのだが……。
「ふふふ、札束デッキで合法的に殴る……。これこそがカードゲームの醍醐味ですわ~」
迫り来る黄金の軍勢。再び追い込まれてゆくケルベロス陣営――。
「……漫画の決闘は逆転ストーリーにすると面白い……とは言うけどね」
現実は、そう甘いものではないと苦笑する英賀。
物心つくころから忍軍に攫われ、密偵暗殺修行を叩きこまれた英賀には、奇跡の大逆転など信じることは出来ない。
「……僕が信じられるものと言えば……これしかないか」
隠密気流で存在感を消し、闇の中に潜んで後攻を狙う英賀。
「アーッハッハ! 蹂躙ですわ! 圧倒ですわ! クソザコ乙ですわ~!!」
有頂天で団扇をあおぐ四天王・黄。
だがその時――。
ヒュオ、と黒い風が吹き抜けた。
「へ?」
呆けた声をあげる四天王・黄。
天井裏の隙間から飛んできた名刺が、金冠の女帝カードをスパーンと真っ二つに切り裂いたのだ。
「あ……ごめん、つい本気で」
天井板を外してシュタッと降り立った英賀。へなへなと腰を抜かす黄色。
「ええと、何か代わりになるカードは……そうだ、猫好き?」
せめてもの弁償にと猫カードを手渡す英賀。
あ、はい……と呆然としながらも猫カードを受け取る黄色だったが、金冠の女帝を失ったゴールデンナイト達はその特殊効果を消失。
つまり、反撃開始の時である――。
「さあ、いきますよ……? 心象風景をイメージなさい! スタンドアップなんちゃらです!」
完全に悪役の顔でミリムが微笑む。その背中から展開してゆくのは千手の観音の如き多腕。
「私のターン、ドロー!」
百枚以上のカードを一気に抜き放つミリム。
「魂の叫びを聞きなさい! 急襲『グラディウス』!」
降り注ぐ流星群の如く、怒涛のカード連射が開始!
「チェインして『ケルベロス・ウォー』!」
圧倒的な物量攻撃に次々と屠殺されてゆくゴールデンナイト。終わりなきミリムのターン!
「そして必殺! 『緋牡丹斬り』ぃい!」
最後のゴールデンナイトに自身のケルベロスカードを叩きつけるミリム。完膚なきまでボッコボコにされ、四天王・黄が倒れる。
●
「不甲斐ないぞ、貴様ら! どけぇい!」
筋骨隆々の傭兵みたいなおっさんが進み出る。
四天王最強と名高い鉄血の『四天王・赤』――。圧倒的な堅牢さを誇る、戦車デッキを得意としているおっさんである。
「ビルシャナ様の為……我は負けるわけにはいかぬのだ!」
理想の為に準じる覚悟は出来ている、と吼える赤。
だが――。
「古くから伝わるカード・バトルのルール……それは負けた側が自分のカードを失うというもの」
シフカが一歩進み出る。
眉根をひそめながらも、そうだ、と頷きを返す赤。
「だからこそ。我は何者にも奪われぬよう、このデッキを組んだのよ」
おっさんにもかつて少年時代があった。
弱く、脆弱で、ただ強者に奪われるしかなかったあの苦い日々――。
そんなおっさんの過去を見透かすようにシフカは続ける。
「もしカード・バトルの強さで全てが決まるようになれば、負けた側が失うものはカードだけにとどまらなくなるでしょう。
地位、名声、財産、果ては命すらカード・バトルの結果次第で奪われるようになってしまう。
その教祖が築く世界とはそういうものです。そんな世界で、貴方達は活きていられますか?」
シフカの言葉に「うぐっ……」と言葉を詰まらせる鉄血のおっさん。鋼鉄の意志が揺らいだ瞬間――。
頭上高くにカードを掲げるシフカ。
牛乳パックを複数枚重ねて丸型に切り取り、糊で貼り付けたそのカード。
対戦相手に自身の持つカードを任意の枚数与える代わりに、与えた枚数分次に使うカードの攻撃力が爆発的に上がるという、「ミルクを搾る」と「力を振り絞る」を掛けたような能力を持つ『ミルク』デッキ!
「目を覚ましてくださいッ!」
どーん、と白き制裁が叩きつけられる!
「うッぐあああああッ!」
四天王最強の男を打ち破り、ケルベロス達はついにビルシャナの待つ玉座へと歩を進める。
●4
「フー……まったく使えん連中よ」
肩を竦めながら、ついに戦場に舞い降りるビルシャナ。
「……むぅ、ここから先は闇のメンコデュエル?」
ビルシャナが纏うヒリつくような強者のオーラを感じながらリリエッタ。一般人である信者達へと振り返り、
「一般人はこの戦いにはついてこられないよ。このケルベロスカード型メンコをあげるからおうちに帰ってね?」
ここから先は観戦するだけでも危険であると伝えるものの。
「ふっ、この戦いの結末……見逃すわけには行かねえぜ!」
「……命の保証は出来ないよ?」
「へへっ……。舐めないでくれよ! 俺達だってカードファイターさ!」
と、鼻の下を擦りながら信者達は観客化。
決戦開始――。
先手を取ったのはリリエッタ!
「リリはこの真っ白いドラゴンのメンコを3枚を融合して、アルティメット真っ白いドラゴンのメンコを召喚!」
「なぬ! 融合召喚だと!?」
驚愕に目を見開くビルシャナ。
そんなことが出来るのか、と問いかけるより早く! リリエッタは手札に揃った3体の真っ白いドラゴンのカードをテープでぐるぐる巻きにして補強! 物理融合じゃねーか!
だが、その効果はばつぐんである。アルティメット仕様となった白竜は攻撃力も3倍!
滅びの一撃が発動し、敵のビルシャナカードを吹き飛ばす!
まさかのワンパン展開かと思われたが、ひらひらと吹き飛んだ敵カードは表側に返ってくる。
「……むぅ」
「ホホッ、危ない危ない……」
不気味に微笑むビルシャナさん。
●5
戦闘開始から数分。
何かがおかしい――。
誰もがそう感じ始めていた。
先程から、ビルシャナのカードがことごとく『表側に返ってくる』のだ。
ルール上、裏返さないことにはフィールドから除外することは出来ない。
「また表……!」
「あと少しで、私達の勝ちなのに……!」
奥歯を噛むケルベロス達。
「……こいつは……」
審判的なノリで試合を注視していたゴロベエはハッと気が付く。
カードが吹き飛んでいる間、ビルシャナが小刻みにその両翼の羽を震わせていたことに。
「まさか、気流操作……!?」
そう――。
翼の動きで微細なる空気の流れを支配し、カードの裏表を操作する。それこそがビルシャナの力だったのだッ!
「ホホッ! よく気が付きましたね。
ですが、気が付いたところで我が【絶対支配】を防ぐ手立てはない――!」
戦局はあっという間に引っ繰り返されてゆく。これが、カードバトルの神を名乗る者の力なのか……!?
「これが、最後のターン、か……」
逆転するための最後のチャンス。だがしかし、ケルベロス陣に打開策は無かった。
「俺のターン……ドロー」
絶望と、諦めの空気がゆるりと流れる中――。計都はデッキからカードを引く。
「――!」
引き当てたカードは【凶兆の鋼鴉】の合体形態。
ライドキャリバーを纏って戦う計都自身の姿のカードである。
(そうだ……これまで、前に進み続けてきたじゃないか――)
諦める事無く、何にでも全力投球で。それが計都のモットーだったはず。
「この星をメンコトピアにするわけにはいかない……! この決闘、受けて立つぜ!」
絶望的状況に屈することなく、再び立ち上がる計都。
「ホホッ、無駄なあがきを……!」
大鷲のように翼を広げ、すでに勝ち誇るビルシャナ。
「……合体形態のカード……」
計都がカードを見て呟く。
「そうだ、これなら……!」
一瞬の閃きがあった。最後の攻撃を前にして、計都は仲間を集め、自分の思い付きを説明してゆく。
●
ファイナルターン……。ケルベロス達が進み出る。
「そ、そのカードは!」
目を見開くビルシャナ。
それは、これまでの戦いでケルベロス達が使用してきた『全てのカード』。
誰が持ってきたのかよくわからんシャーっとよく廻るスピナーまでもが……!
テープでぐるぐる巻きにされて合体し、一つの『カード』となっていた!
「ば、バカな……そ、それは! そんな力があってたまるかッ!」
さすがのビルシャナも抗議の姿勢。だが、ケルベロス達はビルシャナの意見をガン無視。
「これこそが! 愛と勇気と友情の絆パゥワー!『ケルベロスデッキ』です!」
ミリムが叫ぶ!
合体カードを中心にして互いに手を合わせて円陣を組み、頷きあうケルベロス達。
今、みんなの力を一つに重ねて――。
「いっけぇえええええ!!」
カードに塗られた蝋が大気との摩擦熱で発火し、炎となる!
噴き上がる炎をスピナーが竜巻へと変え、熱波の暴風が戦場に吹き荒れるッ!
「バカな……!」
翼で風を必死に制御しようとするビルシャナだが――。
「こ、このようなことが!? バ、バカなァアああああああッ!?」
暴風を受けて吹き飛ばされるビルシャナ! ボロアパートの窓ガラスを突き破り、遥か彼方へと消えてゆく。
ついに、無敵かと思われたビルシャナカードが、ついに――!
コテンと裏返った。
そして、観客たちの爆発するような歓声がボロアパートに響き渡るのだった。
作者:河流まお |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年6月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 8/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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