白い真砂とソフトクリーム

作者:坂本ピエロギ

 地平線まで続く蒼穹に、真水のように透き通った海原。白い浜辺に寄せて返すさざ波は、時に思いもよらない宝物を運んできてくれる。
 不思議な形の流木、潮騒を奏でる珍しい貝殻、宝石のような七色のビーチグラス……。
 だがこの日、そんな宝物と一緒に、二つの招かれざる客が流れ着いた。
 ひとつは冷蔵庫のような直方体型の産業廃棄物――業務用のソフトクリームサーバ。
 そしてもうひとつは、コギトエルゴスムを背負ったダモクレスである。
「キリキリッ、キリキリ? キリキリキリ!」
 波打ち際に打ち捨てられた巨大な機械を前に、ダモクレスは小躍りした。
 ありがたい、俺はなんて幸先がいいんだ――もしダモクレスが喋れたら、自身の気持ちをそんな風に表現したに違いない。さっそくソフトクリームサーバに取り付くと、ダモクレスは見る間に機体を巨大な殺人マシーンへと作り変えていった。
「ソフトオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 静謐さの漂う砂浜に、怪物の咆哮が轟いた。

「暑くなってきたな! こんな日は、冷たいソフトクリームが食べたくなるな!」
 ヘリポートに集まったケルベロスに、鬼飼・ラグナ(探偵の立派な助手・e36078)は太陽にも負けない眩しい笑顔で微笑んだ。彼女がケルベロスを呼んだ理由、それはデウスエクスの絡んだ『事件』が予知されたからに他ならない。
「実は数日前から『ソフトクリームが食べたい!』って思うたび、妙に嫌な予感がして……きっと、探偵助手のカンってやつだろうな! ヘリオライダーに調べてもらったんだ!」
「つーわけで調べてみたら、ドンピシャだったっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)がラグナの話を継いだ。
「観光地の浜辺にソフトクリームサーバ型のダモクレスが出現するっす。幸い浜辺に人影はないっすけど、少し歩けば駅やら商店街やら学校やらが密集してる場所に着いちまうっす。犠牲者を出す前に、皆さんに撃破をお願いしたいっす!」
 ダモクレスの大きさは全長3メートル。冷蔵庫を思わせる直方体の機体の両脇に筋骨隆々とした巨大な手足が生えている。武装は機体中央部に付いた噴射ノズルで、ワッフルコーンにたっぷり盛りつけたソフトクリームそっくりのグラビティを投擲してくるというものだ。性能的にはバスターライフルに近いという。
「見た目はユカイっすけど油断は禁物っすよ。バスターライフルとほぼ同性能ってことは、その破壊力はちょっとしたもんっす。下手な車とかなら、たぶん一撃でオシャカっす」
 作戦開始は正午。現着と同時に、浜辺のソフトクリームサーバがダモクレス化するので、これを撃破する。オフシーズンのためか周囲に人影はないので、避難誘導の類は必要ない。
「敵は攻撃力は高めっすけど、防御力や耐久力はぶっちゃけ低いっす。油断しないで戦えばそんなに苦戦せずに勝てるはずっす」
 戦いの後は近くのカフェで休憩して帰ってくるといいだろう。店では各種ソフトクリームのほか、軽食やお酒以外のドリンクも注文できる。冷房の効いた店内で寛ぐも良し、テラス席でのんびり海を眺めるも良し。なお店内は全席禁煙なので、そこだけは注意だ。
「最近、戦い続きで大変だと思うっすけど……こんな時だからこそ、戦いの後はのんびり羽を伸ばして下さいっす。それじゃ皆さん、よろしく頼むっす!」


参加者
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
デニス・ドレヴァンツ(花護・e26865)
御手塚・秋子(日長石一族の眷属・e33779)
鬼飼・ラグナ(探偵の立派な助手・e36078)
雨後・晴天(本日は晴天なり・e37185)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ

●浜辺を行きながら
 さざ波が打ち寄せる浜辺。
 白い砂に足跡を作りながら、ケルベロス達は戦いの場へと歩を進める。
「浜辺でソフトクリームか……丁度暑くなってきたからタイムリーなダモクレスね……」
 愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)は額の汗を拭って忌々しそうに呟いた。周囲に市民がいないか確認するのに、首を動かすのも億劫だ。
 実際浜辺の暑さはきつかった。カンカンと照り付ける太陽に、肌に吸い付く潮風。靴底を貫通してくる砂浜の熱気は完全に真夏のそれだ。幸いというべきか、オフシーズンで海開き前の砂浜には、瑠璃たちを除いては人影ひとつなかった。
「敵がソフトクリームサーバで良かったわ。ストーブとかだったら死んじゃいそう」
「本当に。こんな日は、さっさと冷房の効いた部屋に引き篭もるに限る」
 雨後・晴天(本日は晴天なり・e37185)は気怠そうに頷いた。彼が差す愛用の傘は、日光を防いでくれる有難い相棒だ。
 アラサーの晴天にとってこの日差しは拷問そのもの。心の半分は既にカフェの冷房に向いている。それは隣を歩く御手塚・秋子(日長石一族の眷属・e33779)と櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)にとっても同様らしく、
「暑い……! ソフトクリーム! ソフトクリーム食べたい!」
「全く……早くソフトクリームが食べたいな」
 二人ともうわごとのようにソフトクリームの名前を口にしている。
 一方デニス・ドレヴァンツ(花護・e26865)と君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)は、日差しなどどこ吹く風で颯爽と砂浜を歩いていた。それもそのはず、二人の装備は普段と違うラフな出で立ちだ。
「そういう姿も似合うな、眸」
「これもTPOといウものだと思ウ」
 デニスは細身のジーンズに、白い長袖のシャツ。服の随所には細かい仕事が見て取れる。センスの良い身だしなみ、月並みだがそんな表現がぴったり当てはまる姿だった。
 眸はTシャツにパーカーを羽織った姿。レプリカントである彼の白い肌には汗一つない。ケルベロスというよりファッションモデルを思わせる佇まいだ。
 そんな眸とは対照的に、同じレプリカントのエトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)は、コートを羽織り、銀色の涼しげな瞳で海原を懐かしそうに眺めている。
(「綺麗な砂浜デス。叶うならば、少し裸足で歩いてみたいものデス」)
 出現予想地点まで約数十メートル。武器を手に戦いの支度を揃えるケルベロスの先頭を、鬼飼・ラグナ(探偵の立派な助手・e36078)は駆け回っていた。
 目の前に広がる砂浜を独り占めしたい、そんな気持ちを頑張って抑え込み、エアシューズの動作チェックを終える。
(「楽しむ前に、まずはあの機械に止まってもらわなくっちゃ!」)
 不思議なことに、今日のラグナの『探偵助手のカン』は冴え渡っている。根拠はないが、そんな気がした。そのカンがこう言っているのだ。
(「多分、そろそろダモクレスが現れる頃――」)
 ダモクレスの雄叫びが海辺に轟いたのは、まさにその時だった。
「ソフトオオオオオオオオオオ!!」
「覚悟なさい! このルーンアックスで、あたしのファンにしてあげるわ!」
 得物を構えた瑠璃の一声が、戦いの火蓋を切って落とした。
 戦闘開始だ。

●這い寄るソフトクリームサーバ
「ソフトオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
 ダモクレスは陣形を整えたケルベロスの姿を認めるや、凄まじい速度で接近してきた。
 四つん這いの姿勢で砂浜を駆ける巨大ソフトクリームサーバ。その進行方向にはデニスと千梨がいる。
「見た目……愉快というよりシュールな気がするが……」
「全く。あれでは怪談にもならないな」
 先陣を切った千梨はシャーマンズカードでエクトプラズムの砲弾を生成し、発射。
 デニスのメタリックバーストによって狙いの研ぎ澄まされた砲弾が、綺麗な放物線を描いて着弾し、白い砂もろともダモクレスを宙に舞わせた。
「ソフトオオオオオオ!!」
 ダモクレスは即座に空中でバランスを立て直し、着地。掌中のコーンを濃緑色のクリームで満たす動作をワンアクションで完了すると、後衛の晴天めがけて投擲する。
「あの色、抹茶味と推定しマス。一体どのような味でしょうカ」
 そう言いながら、射線に割り込んだエトヴァがこれを庇った。
 着弾。振動。舞い上がる砂に混じって、涼を感じる新茶の香りが周囲を満たす。
「成程、これはなかなか……苦みが好みデス」
「香りを再現すルか。要らぬ所で芸の細かイ敵だな」
 ダメージは痛いが、支障をきたすレベルではない。エトヴァはドラゴニックハンマーを、眸は竜を象った『戦棍グザニア』を砲撃モードに展開し、息を合わせて撃ち出す。
「ターゲット捕捉……発射」
 二発の砲弾が同時に着弾。ダモクレスは駆動部を破壊されたのか、先程より動きが鈍い。
 だが、そんな負傷をものともせずに、ダモクレスは距離を詰めてきた。右手の中には既に円錐形のコーン。程なくして第二弾が来るだろう。
「快晴! ヒンメルブラウエ君を回復だ!」
 晴天はシャーマンズゴーストに祈りを捧げるよう指示を飛ばし、黄金の果実でエトヴァを癒してゆく。ソフトクリームの威力は中々のものだ。体力の低い仲間に直撃でもすれば、大ダメージは避けられない。
「ちょ……何あれ、シャレにならない威力ね……」
 瑠璃はルーンアックスを振りかぶり、助走をつけて躍りかかった。ダモクレスは回避を試みるも、眸のサーヴァント『キリノ』が操る浜辺の木片が足さばきを執拗に妨害する。
「アイスの角に頭ぶつけて死ぬとか、冗談にしても笑えないわよ!?」
 振り下ろした斧が、機体の端を削り取った。体勢を崩した敵のどてっ腹めがけて、瑠璃のウイングキャット『プロデューサーさん』が雨のように猫ひっかきを浴びせる。
「ソフトオオオオオオオオオ!!」
 ダモクレスは必死に攻撃を振り払い、怒り狂いながら攻撃モーションへと移った。先端がチョコレート色のノズルに手をかけた一瞬の隙を、ラグナは見逃さなかった。
「美味しそうな見た目でも騙されないぞ!」
「ソフトォ!?」
 ラグナのスターゲイザーが、ダモクレスの関節を容赦なく破壊。入れ替わりで振り下ろされた秋子のエクスカリバールが直撃し、鉄のボディを派手にへこませる。どうやら回避するだけの素早さは完全に奪えたようだ。
「ロク、味方の回復は任せた!」
 ラグナのボクスドラゴン『ロク』は一声鳴くと、エトヴァに属性インストールを施した。盾役のメンバーは、特に攻撃を浴びやすい。一分の隙も見せることなく、ケルベロスはじりじりとダモクレスを追い込んでいった。

●浜辺に散る
「ソフトオオオオオオオ!!」
「早く終えてソフト食いたいし、とか思ってない。ああ、思ってないとも」
 ダモクレスは再度ソフトクリームを投擲。ロケット砲めいて飛来するチョコ味のそれを、簒奪者の鎌『灰隠』でガードしながら千梨が言う。
「だから投げて来るんじゃない。まあ強いて言えば俺も抹茶が好みだが」
(「成程……千梨殿は抹茶が好み、ト」)
 目にも留まらぬ灰色の斬撃を放つ千梨の横で、エトヴァはダモクレスの方を向くと、人差し指をそっと口に当てた。
「……und Sie?」
 唇から紡がれるエトヴァのグラビティ『ripple』。心を探し続けた青髪のレプリカントの問いかけが、さざ波のごとくダモクレスの思考回路を揺さぶる。
「ソ……フト……?」
 嵐のように叩き込まれる、眸のマインドソードと瑠璃のフロストレーザー。ダモクレスはガードを試みるもダメージを殺しきれず、パケット制限のかかった動画のように動きが鈍くなりはじめた。
「弱ってきているようだ。そろそろ、仕留めにかかるとしようか」
 デニスはスイッチを攻撃へと切り替えた。ひと跳びでダモクレスの間合いに飛び込むと、オウガメタル『Narya』の朱金の煌きを拳へと集約させ、全力で殴りつける。
 直撃。外装のパーツを派手にまき散らしながら、ダモクレスは悶絶した。
「ソ……ソフトオオオオ!!」
「EX,EX,EX,DE……VVV――It's fine today」
 バスターライフルを仕込んだ晴天の傘がバサッと開き、覆った秋子の傷を癒してゆく。『本日是より晴天也』――夏の浜辺に相応しい、晴天のオリジナルグラビティだ。
「ダモクレスになって気の毒だったな。安心しろ、いま俺たちが止めてやる!」
 入れ替わるようにラグナの気咬弾が飛び、ダモクレスの体を切り裂いた。
 態勢を立て直すダモクレスの体は既に満身創痍だ。直方体のボディはデコボコにへこみ、折れ曲がった左腕はバチバチと火花を吹いている。
「ソフトオオオオオ!!」
 しかし、ダモクレスは痛覚というものがないのか、自由な腕でバニラソフトを構えると、秋子めがけて叩きつけた。いっぽう秋子は傷口もそのままに、口の端を吊り上げて挑発の笑みを浮かべる。
「ふふふ、もうお終い? なら今度は私の番ね」
 握りしめたエクスカリバールを大きく振りかぶる秋子。それはありったけのグラビティを込めて、大地を叩く必殺技『La risposta della Terra』の発動体勢だ。
「Time to rock!!」
 ぐらり、とわずかに足元が揺れたその直後――。
 ガガガガガガガガッ!!
 尖った岩が乱杭歯のように隆起し、ダモクレスをコギトエルゴスムごと串刺しにした。
「ソ……ソフトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
 断末魔の絶叫をあげて爆散するダモクレス。
 砕け散ったソフトクリームサーバの残骸に、エトヴァはそっと冥福を捧げた。
「お疲れ様デシタ。どうか安らかニ」

●夏の足音
 後始末を終えて8人がカフェに着いたのは、ちょうどかき入れ時を過ぎた頃だった。
 昼休みが終わる頃の店内は、良い具合に席が空いている。奥の席に案内された一行は、さっそく注文する品を選び始めた。
「あぁ、なんか無性に冷たいものが食べたくなってきたわね!」
 店内に漂うソフトクリーム特有の甘い香りと冷房の涼やかな空気に、瑠璃は辛抱できないといった顔で言った。いつの間にやら着替えた衣装で、メニューをパラパラとめくる瑠璃。隣に座る秋子と一緒に品を選ぶその顔には、嬉しい迷いが浮かんでいる。
「やっぱりまずはバニラがいいかしら。それとも……」
「私はええと、苺とバニラと、カボチャに甘酒に、塩味もいいかも……」
 そんなこんなで数分後、各々の注文した品がやって来た。
「ふう……生き返る。おや快晴、それは小豆味か? 一口おくれよ」
 晴天はバニラとキウイのミックスソフトを口にして、至福の表情を浮かべていた。甘みと酸味の絶妙なフレーバーが、火照った体を優しく冷やしてくれる。
「うむ。窓から眺める海もいいものだね」
 デニスはソファにもたれながら、レモネードを一口あおった。戦いに疲れた体に染み込む抹茶バニラの濃厚なコクと、嫌みのないドリンクの甘みが心地よい。
 彼の瞳に映るのは、空と水の青いコントラストだ。降り注ぐ光が水面に踊るその光景は、一幅の絵画のようだった。
「海はなかなか来なイが、綺麗なものだな……大運動会を思い出す」
 チョコソフトのフレーバーを楽しみながら、眸は過去の催しに思いを馳せる。どれも忘れ難い体験ばかりだった。今年は何処で、どんな催しが行われるのだろうか――。
「大運動会か……夏の風物詩だな。さて、俺も何か注文を――」
 そう言ってメニューに手を伸ばした千梨の手を、がしっとラグナが掴んだ。
「せーんーりー! ほら、テラス! 海だぞ! すごいぞ!」
「うん、外に行くのか……判った判った」
 千梨は半ば諦めた表情で外のテラスへと引きずられていった。
 遠ざかる仲間達の顔。冷房。ソフトクリーム。浜辺の潮風が、なぜかとても目に染みる。
「海すごいなー、おっきいなー! 塩ソフトも美味しいし!」
「……ああ、良かったじゃないか」
 ソフトクリーム片手にはしゃぐ助手の無邪気な笑顔を、千梨はぼんやり見つめた。
 ラグナは幼い頃から修行に明け暮れてきた少女だ。本物の海を見たのもこれが初めてなのだろう。それを思えば多少は気が……いや、やはりソフトクリームは惜しい……。
 と、そこへ。
「お待たせ致しマシタ、お客様。抹茶ソフトデス」
「ん?」
 聞きなれた声に顔を上げると、エトヴァがソフトクリームを持って立っていた。
「おお……細やかな心遣いをありがとう。流石、エトヴァだなあ」
 端から僅かにクリームがはみ出したコーンは、手に持つとズッシリ重い。
 一口食べて、思わず綻ぶ千梨の顔。
 ここ数日間の嫌な事を、すべて忘れさせてくれる味だと思った。
「ありがとうエトヴァ。美味い。ああ美味い」
「いえいえ。お疲れ様デス」
「エトヴァも塩味か。俺とお揃いだな! ……そうだ!」
 抹茶ソフトに舌鼓をうつ千梨に、ラグナはスッと自分の分を差し出した。
「千梨! 塩味たべてみるか?」
「ああ、折角だし頂こうか」
 匙で掬って一口食べると、程よい塩梅の甘塩が舌にじんわり染み込んできた。仄かな塩気が汗をかいた体に心地よい。
 いったいこの味をどう表現したものだろう。しばし悩んでから、千梨は口を開いた。
「海の味、だな」
「海の味、か……! ステキだな!」
 ふとラグナは、エトヴァが店の中の仲間に視線を送っているのに気付いた。
「……ん? エトヴァ、中の皆が気になるのか?」
「ええ、少シ」
「海、綺麗だもんな! 手、振ってみようっと!」
 ラグナとエトヴァに便乗して、千梨も中のメンツに手を振った。
 涼しい所で狡いぞ。来るが良い――そんな思いを込めて。
 それを見た眸は、仲間たちを見回して言う。
「どうやら、ワタシ達を読んでいルようだ。行ってみなイか」
「さんせーい! あ、会計は済ませたから皆安心してね♪」
 眸に続いて、ソフトを両手に持った秋子も外へと向かう。
「面白そうだ。私もご一緒するとしよう」
「外のお誘いを断るのも無粋だな。行こうか」
 外に向かって手を振り、席を立つデニス。その後を追うように、よっこらしょとソファを立ちながら、晴天は思った。
(「ああ、若者は元気だな」)
 彼は晴れの日も海も大好きだが、さすがにはしゃぐ年頃でない事は自覚している。せめてあと10歳若ければ……そんなことを考え、つい苦笑してしまう。
 ドアを開けて外へと出れば、ラグナが浜辺を指さして何やらお願い事をしているようだ。
「な、浜辺歩けないかな? 綺麗なものが、いっぱい流れ着くんだろう?」
 千梨とエトヴァはお互い顔を見合わせて、
「宝探しか? ま、付き合おう。俺も海は、嫌いでない」
「……ア、俺も砂浜を歩きたいなト……ぜひ」
 千梨たちに手を振りながら、デニスは思う。
(「今年もまた、素敵な夏がやって来そうだ」)
 初夏の日差しが、ケルベロス達に燦燦と降り注いでいた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。