時期ハズレ・ベリートラップ

作者:朱凪

●梅雨前苺
「らんらん、ららん♪」
 軽やかな足取り、揺れるスカート、ひらめくリボン。
 ご機嫌でターン、それっ、と傘を投げ上げてキャッチ! ついでにウィンク!
「どうどう? この振り付け! これでみんなの視線は私に釘づけですぅ」
 嬉しそうに告げる少女──甘菓子兎・フレジエの言葉に、後ろに続くストロングベリーはノー・リアクション。けれどフレジエは全く気にする様子もなく、手近なビニールハウスへと踏み込んだ。
 そして思いっきりご機嫌を損ねた。
「うぅ……っ、暑い……じめじめしますぅ……」
 当然だ。ビニールハウス内の湿度をなめてはいけない。
 ついでに梅雨前の大阪の湿度もなめてはいけない。
「う~~、お味もいまいちですぅ……! やっぱりイチゴは旬に限りますぅ」
 やっちゃってくださぁい。彼女のあっけないくらいのひと言でストロングベリー達が我先にと丁寧に植えられた苗木達を引き抜いていく。
「おいしくないイチゴはかわいくないですぅ。かわいくないものは私に相応しくありませんからぁ」
 誰も見ていないのに、ウィンクをひとつ。フレジエはさっさと蒸し風呂のようなビニールハウスを後にした。

●この時期に?! 大阪近辺で?!
「ハウスですから」
 有無を言わせないいつも通りの笑顔で、暮洲・チロル(夢翠のヘリオライダー・en0126)はきっぱりと言い切った。
「う、うん」
 気圧されたプルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)も、肯くよりない。
 先の爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物が動き出したらしい。事件がゲートのある大阪を中心に事件を重点的に発生させ、拠点を拡大する狙いのようだ。これを放置すれば、ゲートの破壊率も低下する可能性がある。
 「しかし失礼な話ですね」とチロルは嘆息をひとつ。
「確かに旬から外れてはいますが、苺の需要というのは年中あるんですよ。そこで活躍するのがハウス苺なのに」
「うん、わたしもその需要は判るよ」
 そうだそうだとでも言いたげに、彼女のテレビウム・いちまるもフォークを掲げ応じる。だからこそ、フレジエの横暴は見過ごせない。
「それにね、近くの幼稚園の子達が遠足でちょうどそのハウスをいちご狩りに使う予定らしいの。そのために確保されてた苺なのに、ひどいよ」
 だから絶対に止めようね、とプルトーネは集ったケルベロス達へと拳を握って見せた。
「甘菓子兎・フレジエはDear達がハウスに辿り着く頃には既に撤退していて、あいまみえることはできませんが……配下であるストロングベリーを倒して被害を食い止めることは可能です」
 ストロングベリーはムキムキな筋肉──のように編み込まれた蔦が特徴の攻性植物だ。
 しかも今回は数が3体。1体1体の強さはそれほどではないが、面倒ではある。
「でも、ただ倒すだけだよ。ね、チロルお兄ちゃん?」
「はい。Dear達なら、きっと問題ないと、俺は信じてますよ」
 見上げる少女に、静かに青年も肯く。
 それを受けて、プルトーネはもう一度ケルベロス達へと向き直って一礼した。
「今回は遠足の子達のために残しておいてあげないといけないから、いちご狩りはできないけど……近くでハウス苺のタルトとか、ストロベリー・ジュースとかも売ってるから、それをご褒美に、でも。力を貸してくれたら嬉しいよ」


参加者
泉本・メイ(待宵の花・e00954)
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)
雪積・桜紅楽(春を待つ優雪・e07370)
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)
野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
セリア・ディヴィニティ(忘却の蒼・e24288)
プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)

■リプレイ

●ハウスと苺と
「そこまでですわ! ──う、」
 バサァとビニールをからげてハウス内へ踏み込んだエルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)を迎えたのは、むせ返るほどの土と草葉のにおい。それと。
 ──そ、想像以上に暑くてじめじめしますわ……っ!
 思わず柳眉をしかめつつも敵を睥睨した彼女の、ちらと寄越された視線を受けて、こくんとひとつ肯き泉本・メイ(待宵の花・e00954)が飛び出し──そしてほんのちょっとだけ、その表情が強張った。
 狙うは敵のストロングベリー、それも、ディフェンダーとして働くはずの一体……だけど予知を持たない敵達はまだ臨戦態勢にも入っていない。そのためどの個体がどの役割をするのか見分けなどつかなかった。
 三体全て苺頭に、これまでに殺してきたのだろう人間の骨を巻き込んだ蔦の体躯が、
 ──む、ムキムキでちょっとこわいの……っ。
 それでも、躊躇うわけにはいかなかった。ストロングベリー達の手は既に苺の苗木を掴んでいる。追ってハウス内に駆け込んだ野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)も敵を見て、もう一度見て、それからふるふるっと顔を振って「メイちゃんがんば……!」ぎゅっと両の拳を握った。
 意を決し、メイは最も手近に居た敵へとバスターライフルの銃口を向ける。
「わたし達が相手だよ──それっ!」
 力強く照射された光線に、ムキムキの腕を掲げて苦しそうに──不思議だ、どうしてそう見えるんだろう──身悶えしたストロングベリーが、ストロングベリー達が、きっ、と揃えて苺頭を回転させ、メイとエルモアを睨んだ。目なんかないけど、間違いなく睨んだ。
「これ以上の狼藉は……っ、」
 許しません、という言葉が続かなかった。ムキムキなストロングベリー達がまるで軍隊のように足並みを揃えて競歩の如き速さで迫ってきたのだから!
「ちょ、ちょっと……!」
「わ、わわわっ……!」
「はやっ、速くない?!」
 それも当然のこと。甘菓子兎・フレジエの命令通り、邪魔者は排除しなくてはならない。来ないで、という言葉を呑み込むのに必死な三人の後ろから、
「こっちだぞ!」
 アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)がビニールを跳ね上げて、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)が示す方向を指した。
 多くの仲間達が連携して事前の下調べを行っていたお蔭もあり、競歩のムキムキ達に追いつかれることもなく、想定した開けた場所へとスムーズに誘導できた。
 そこで待ち構えていたプルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)もその一糸乱れぬ行進に思わず口角を引き攣らせ──いちご模様のお洋服を着せた傍のいちまるに視線を移して気持ちを落ち着ける。
 ──こ、怖いしやっぱり変だよあの敵……!
 でもここであれ達を放置すれば、いちご狩りを楽しみにしている幼稚園児達が悲しむことになる。それだけは、避けないといけない!
「兎にも角にも襲われるのは苺農家ばかり……」
 きゅ、と瞳に決意固めて顔を上げるプルトーネの後ろでセリア・ディヴィニティ(忘却の蒼・e24288)が細い吐息をひとつ。彼女にとってあの奇異な敵と相対するのも三度目。
「こうも続くと、早々に手を打ちたくなってくるわね。悪いけれど……子供達をがっかりさせる訳にはいかないの」
 凜と告げて、据える瞳は深い蒼。
 相手が言の葉で退けることも叶わない獣であれば、力を以って応えるのが道理だと。そう静かに告げて、セリアは姿のないフレジエを睨める。
 ──その悪意、決して実を結ぶことはないと知りなさい。
「犯さんとしたその罪、仄暗い水底で存分に省みなさい……此の手に宿るは氷精の一矢」
 さぁ、射ち穿て。
 槍の先に蒼い光が灯り、前衛の敵へと光線が奔る──Frozen Ray。
 射抜かれる直前、前に飛び出してきたムキムキ。もといストロングベリーにセリアは表情を動かさぬまま、静かに言う。
「──あなたね」
 防護の要。
 彼女の断定と同時、庇われる形になったムキムキの全身が解けるように蔦が伸びて「!」黄金の瞳を見開くエルモアへ、
「させません!」
 鋭い痛みはケルベロスコートを翻し跳び出した雪積・桜紅楽(春を待つ優雪・e07370)の肩口を打った。攻撃の担い手である敵の一撃は、決して軽いものではない。
 それでも彼女はニ、と笑って見せた。
「無粋な鎖で失礼します、」
 繰り出す、グラビティで編んだ無骨な鎖。じゃらららっ、と音を立てて彼女の腕とストロングベリーの腕を繋ぐ枷──Deadly Dance。
「私と一舞、踊っていただけますか? なんて、ね。しばしのタイマン勝負、お付き合いしていただきます……!」
 始まった『武踏』を前に、イチカは瞼を伏せる。
「離れないで。"ここ"から"そこ"までは──守ってみせるよ」
 描かれる温かな銀色の"面積計算"の宿題──カージオイド・コミット。桜紅楽を包む癒しの力にディフェンダーのムキムキが僅かに身動ぎする隙を逃さず、竜を象る砲撃がその身を打った。
「……っ!」
 声もなく呻きを上げてたたらを踏むストロングベリーに、紺がゆっくりと瞬きをする。
「行かせませんよ。……生産者の方が大切に育てたイチゴに、美味しくないものなんてあり得ません。それを勝手な理屈で台無しにするとは言語道断です」
 反省してくださいね。

●攻防の果てに
「メイっ、行っくぞー!」
「うんっ!」
 ウイングキャット・先生の翼が羽ばたき癒しを送る傍ら、アラタとメイが共に揃いの巨大な槌を構えれば、メキメキと変形したその竜の咢が轟音と共に砲弾を撃ち出し──そして、同時に叫ぶ。
「イチカ!」「イチカさん!」
「まっかせて!」
 轟音の残響の中、くるくるっと回したライトニングロッドを掴み敵へと向ける。生み出す雷撃に鋼色の瞳が紫電を帯びて、
「セリアちゃん!」
「ええ」
 霹靂の残光を反射する彼女の全身を纏う流動の銀鎧が更に輝きを増していく。オウガ粒子を導くように、彼女が両手を差し伸べる。
「エルモアさん、プルトーネさん」
 煌めきが、前衛の仲間達へと降り注ぐ。
「ええ! 生搾り果汁にして差し上げますわ!」
 三連続同じ依頼に関わった者同士だ、向けられたウィンクにプルトーネも肯いて。
 エルモアのスパイラルアームがストロングベリーを穿ち、
「……っ! ……!」
「いくよいちまる!」
 苦悶するそれから素早く距離を取った彼女を跳び越えるように、空高くから舞い降りたいちまるのフォークとプルトーネのルーンアックスが、敵の苺頭を両断した。

 カッ、と輝く苺。
 列を丁寧に癒し続ける後列のムキムキの所為で多少の時間は掛かったが、地獄の番犬達の連携した攻撃を前に倒れたディフェンダームキムキ。
 しかし、
「くっ……!」
 防御に特化したポジションとは言えど、攻撃に特化したポジションの敵をひとりで押さえ続けるのはさすがに厳しい。もちろん支援は受けているが、それは敵も同じなのだから。
 絡みついた蔦が桜紅楽の動きを妨げる。それが自らの鎖の有様に重なって、
 くす──、
 彼女は、笑う。
「桜紅楽お姉ちゃん、大丈夫?」
 ほとんど背中合わせで戦うプルトーネの、苺色の視線が肩越しに寄越される。ぼぅっ、とセリアの指先から喚び出された光の盾の恩恵を受けながら、桜紅楽は首を傾げて見せた。
「……別に、倒してしまってもいいんですよね?」
 不敵な台詞は、絡む視線は、仲間への信頼ゆえに。
「桜紅楽ちゃんが片付けちゃう前に、イチカ達も負けないよに頑張るね!」
 とッ、と軽い音を立てたはずのイチカのブーツが、瞬きの間に後列の苺頭へと肉迫し、その横顔──横顔ったら横顔だ──に叩き込まれた。

 心置きなく周囲に六機の『カレイド』を浮遊させ、それにしても、とエルモアは小さく息を吐く。
「ハウスが駄目……? それなら、旬の苺を冷凍保存するとか……?」
 想像してみる。
「……微妙ですわ」
 思わず顔をしかめた彼女に、まったくだ、とアラタも同意して両手にぷわりぷわりとカプセルを浮き上がらせ頬を膨らませる。
「近頃は品種改良で病気に強いのもあるが、それでも基本苺はとても繊細だ。ハウスは病気や気温変動から苺を守り、育て、美味しく熟させる……ハウス栽培無くして今日の苺文化は無いのだ、ぞッ!」
 シェフ見習いとしてキッチンで出逢う食材達は、アラタにとってすべて尊いものだ。
 撃ち出すカプセルが次々とムキムキへ襲い掛かるのを掻い潜るように飛ぶ、プロペラ飛行機は廻る回転翼──ロタシオンエイル。
 「そうなんだ」とぱちくり瞳を瞬いたメイは、ビニールハウスを振り返る。
「ハウスってすごいの。苺を大事に包み込む優しい両親みたいだね」
 彼女も知っている。お母さんと一緒に作るお菓子に、苺は鮮やかな彩りを添えてくれる。
「どんな季節でも苺を食べられるなんて、天国みたいって思うよ」
「なるほど……天国ですか。こんな身近にも天国があるなんてやはり世界は面白いですね」
 紺が純粋に感動しながら撃ち出す神速のクイックドロウは、過たず繰り出され掛けていた敵の拳を砕いた。
 そうですわね、と微笑んだエルモアの指先が中空を斬るように薙ぐ。
「ハウスであろうとチョコやミルクをかけても美味しい苺。……貴方に浴びせるのは、このビームで充分です! カレイド、散布!」
 浮遊していた『カレイド』が、ストロングベリーを取り囲むように舞い上がる。
「目を閉じなさい……わたくしの輝きが、増しますから!」
 そして放つ光線が『カレイド』達に乱反射して──多角的な攻撃に回復役のムキムキも、遂に地に伏し、消えた。

「お待たせ、桜紅楽お姉ちゃ」
「……!!」
 振り向いたプルトーネに向け、蔦で編み上げられた拳が全力で迫る。「っ!」思わずぎゅっと目を瞑った彼女を──けれど、「……?」いつまで経っても衝撃は襲わない。
「まだ、わたしは倒れていませんよ?」
 電光石火の桜紅楽の蹴撃が、敵の拳をいなして相殺する。
 お待たせしましたとメイが笑い、助かりましたと紺が丁寧に告げる。
「お疲れさま。耐え切ってくれたのね」
 セリアが労いの言葉を零しながら癒しの盾で桜紅楽を庇護すれば、彼女はなんでもないかのように微笑みを返す。
「ほんとに倒しちゃうつもりだったんですけどね?」
「イチカ達にも出番ゆずってくれたんだよね、知ってる!」
 笑い合いながらも攻撃の手を緩めない彼女達に、ムキムキ苺は最後の力を振り絞る。振りかぶった、拳。
「……!! ……、?!」
 しかし、ぎしりと固まった身体はまるでいうことを聞かず。
「おしまいだ!」
 アラタが撃ち出した竜砲がムキムキの体幹を強打して。
「さぁ──子供達に、楽しい時間を『返し』ましょう」
 最後に紺の早撃ちがたん、と苺頭を撃ち抜いた。
「もちろん、わたし達にも美味しい苺が待っていますから」

●ハウス苺のタルトとストロベリー・ジュース
 ビニールハウスとは離れていたけれど、一応とみんなで周囲の戦闘の痕を癒したなら。
「あっまーい! うっまーい♪」
 絞りたてのストロベリー・ジュースに思いきり頬を緩めて、アラタが歓声を上げる。メイもどうぞと差し出されたそれをありがとうと受け取ってひと口。
「わ、思ってたより甘酸っぱい……でもすごく美味しい!」
「ああ、爽やかな香りで凄く元気になるな!」
 動き回った戦闘のあとだ、よく冷えたジュースはのど越しも良くて。
「んん……! ぜいたく……!」
 と相好崩すイチカの隣では、
「逆に、無添加なのにこれほどの甘みが出るのですね……! 芳醇な香りに味わい……旬の名残を感じますね」
 と紺がしげしげと透明なカップの中、ストロベリー・レッドを眺める。
「プルトーネはどうだ、食べてるか?」
 ひょいとアラタが覗き込めば、「わぁ」とプルトーネがつやつやきらきらの宝石みたいな苺がめいっぱい盛られたタルトを前にきらきら瞳輝かせたところ。
 隣のセリアもその瞳の中に喜びを隠しきれない。彼女にとって事件は三度目、苺をご馳走になるのも、三度目。
「釣られている気もないのだけど、ええ……。然し好意も無碍に出来るものでなく……」
 好意は享受すべきなのよ……と念押しのように告げる彼女に構わず、プルトーネが食べようと促してタルトを切り分ける。
 そして、──さくっ。
「……!」
 苺の香りとほど良い酸味、それを上回るみずみずしい甘さが口いっぱいに広がって、さくさくのタルト生地と滑らかな舌触りのカスタード・クリームは甘さ控えめなのが、更に苺の甘さを引き立てる。
「カスタードとの相性も抜群ですわね……! 本当、あのハウスで作業する農家の方には頭が下がる思いですわ」
 エルモアも年相応の少女の表情で微笑んで、プルトーネも嬉しそうに夢中で食べ進めるものだから、その頬にクリームがついてしまうくらい。
 それを桜紅楽がそっと拭ってあげながら、買ったタルトの箱を見下ろす。
「あ、お土産?」
「はい。素直には受け取ってくれないでしょうけど、きっと甘いものは好きですから」
 ふふ、と笑う桜紅楽が思い浮かべるのは、いつも視線を逸らしがちのひねくれ屋。彼女の返事にイチカも素直じゃない友だちや素直過ぎる兄を思い浮かべて──つい、笑う。
 ほんとうは。
 甘いものは、好きか嫌いかで訊かれたら、ふつう、だったけれど。
 ──いろいろ一緒に食べてるあいだに……みんなの笑顔と一緒になって笑って、だんだん好きになっちゃった。
「……イチカも買って帰ったげよ!」
 そうやってまたひとつ、たくさんの『好き』を積み重ねていきたいから!
 メイとアラタも「一緒に食べよう」プルトーネに促されて、タルトに舌鼓。
 甘くてほんのり酸っぱくて、梅雨を前にしてもなお、春を感じるその味は、
「……自然の苺をぎゅっと抱きしめた味なの」
「ぎゅっと抱きしめた味……うん、そうだ! 自然と人の愛がぎゅぎゅっと詰まった味だ」
 ふたりでふにゃり幸せの気持ちを一緒に抱いて。お土産にも、と手にしたタルトはひとつではなく。
「ねえアラタちゃん、このタルト、チロルさんにも渡したいな。いつも私達の帰りを信じて待ってくれてるから……幸せのお裾分けなの」
 いいな、と笑ったアラタも「暮洲も喜んでくれると思うぞ♪」賛同する。
 それから、最後のタルトをひと口。メイは向こう側に見えるビニールハウスを見遣って、頬んだ。
「幼稚園の子達もきっと楽しい時間を過ごせるね。だって、こんなに美味しい苺達が待っているんだもん」
 集まった少女達もその言葉に肯いて。アラタもメイの肩を抱いて笑った。
「ああ! きっと大丈夫だ!」

 彼女達が懸命に護り抜いたハウスで──梅雨前の苺の味をめいいっぱい、楽しんでもらえるはずだ。

作者:朱凪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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