「見つけた!」
竜十字島、鍾乳洞からの奇声が止んだ。
「菩薩累乗会はよくやってくれたわ……この中村・裕美、見つけたわよ……ケイオス・ウロボロス!」
分厚い眼鏡を妖しく光らせたドラグナーの少女に周囲、名を叫ばれた怪物たちが身構えた。
「座標035、138……ただちに向かいドラゴンの封印を解きなさい……その身と共に、グラビティ・チェインを捧げるのよ……奉ずべき先は戦竜、マルス・トロイント……!」
自殺的指令にも怯むことなく、ケイオス・ウロボロスたちは動き出す。彼らドラグナーその行動原理は単純にして明快。
「全ては、ドラゴン種族の未来の為に……!」
四体のケイオス・ウロボロスは迅速だった。
富士を仰ぐ森のなか、目印一つない座標へ辿り着くや復活の儀式が開始される。
「キィー……ギィー……ギィー……」
信じ、仰ぎ、祀り、祈る。
超音波じみた鳴き声の意味を察する事はできないが、それが破滅を帯びた冒涜的なものであることだけは伝わってくる。
「グ、ガ……オォォ……!」
空に震え、大地が割れる。祈りの歌は歓喜に変わった。
地より這いでずるは猪めいた緋色。しかしその巨体は10メートルを優に超え、身体より伸びる爪、角、尾いずれもが究極の戦闘種族『ドラゴン』である事を世界に示していた。
「ゴォアッ」
瞬間。
ドラグナーたちは食われ、四つのコギトエルゴスムが散らばる。
封印より目覚めた『マルス・トロイント』は飢餓状態であった。だがしかし、潤沢なグラビティ・チェインと知性があろうと、戦竜の行動は変わらないだろう。
率い、奪い、殺し、貪り尽す。弱者を踏み潰すことこそ、強者の在り様なのだから。
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)たちが警戒していたドラゴンの活動が確認された。
報告を受け。集まったケルベロスたちにリリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は状況を話す。
「簡潔にいこう。ドラグナーたちは菩薩累乗会の余波を利用し、大侵略期に封印されていたドラゴンの居場所を探し当てたようだ。彼らは自らを生贄にドラゴンを復活させようとしている……いや、復活する」
ケイオス・ウロボロスと呼ばれた実行犯のドラグナーは復活したドラゴンに食われるため、直接戦う事はない……戦う事はないが、復活自体の阻止は今からでは無理だ。
厳しい顔でリリエは告げる。
「場所は東海、富士山麓の南方面だ。阻止のチャンスは復活直後しかない。ドラゴンは飢餓状態なうえ、定命化も始まっている。すぐにも駆け付ければ、倒す事も不可能ではないはずだ」
不可能ではない。いうほど簡単でない事はリリエ自身もわかっているだろう。
だがケルベロスたちが食い止められなければ、ドラゴンは都市と人々を蹂躙してグラビティ・チェインと力を取り戻す。
そうなれば、終わりだ。
「調べられた情報を話す。復活するドラゴンは大地を蹂躙する戦竜、マルス・トロイント。大侵略期、自ら生み出したオークの軍勢『トゥルウィス』を率い、奪い、殺し、地の全てを貪り尽したそうだ」
戦竜はかつてシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)の先祖たちに封印されたと伝わっているが、完全な力を取り戻せば、かつての雪辱の分までも暴虐を尽くすのは間違いない。
「最初に強く言っておく。ケルベロス、真っ向勝負は絶対するな」
定命化と飢餓状態にあってなお、マルス・トロイントの実力はケルベロスたちの最大戦力を上回っている。正面から挑めば、ドラゴンの生贄が八つ増えるだけだ。
「とにかく耐えるんだ。本能だけのドラゴンは常に全力で加減が効かない……十分も暴れれば、グラビティ・チェインも底をつく、そこに勝機を見出せ」
最も苛烈な序盤をどう凌ぐか? 致命傷をいかに避け、温存するか?
考えることは多く、実行は更に困難だ。
「幸い、復活したマルス・トロイントは『トゥルウィス』を率いてはいない……せいぜい一時的な召喚術としてのみだ」
かの竜が率いたオークの軍勢は対峙者のトラウマを呼び起こし、むさぼり喰らったという。一時的でも厄介だが、乗り越えるべき雑兵がいないのは持久戦では助かる話だ。
「マルス・トロイントは弱者を徹底的に嬲り、蹂躙する。理性を失っているが、行動の性質は恐らく変わりないはずだ……あまり嬉しい情報ではないが隙を見出す手がかりになるかもしれない」
マルス・トロイントの性質は、その他のグラビティにも表れている。
動きを封じる石化ガスのブレス、足場を崩す地震攻撃。存分に力を見せつけ、なお折れぬ者を直々に食らう。
「止めの一撃は当たれば最後、凌駕の予知すらないが……そうそう当たるものではない。向こうもわかっているから、早め早めで対応していけば使ってくることもないはずだ」
また止めの一撃は他の攻撃より対象範囲が狭い。危険を伴うが、弱った演技で攻撃を誘うのも一つの策かもしれない。
「ドラゴンたちの最終目標はまだわからない。定命化への最後の抵抗か、何か探しているものがいるのか……」
だが今は目前に迫る破滅を切り抜けなければならない。阻止する事で見えてくる情報もあるはずだと、リリエは胸元に手をやった。
「私たちも全力を尽くす。竜退治を頼む、ケルベロス」
参加者 | |
---|---|
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612) |
天尊・日仙丸(通販忍者・e00955) |
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257) |
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729) |
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612) |
因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
仁王塚・手毬(竜宮神楽・e30216) |
●ドラゴンアタック
口が軽くなるのは恐怖しているという事だ。因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)は思う。
「あーもー、直で見るとドラゴンちょー怖いんだけど! あんなの蘇らせたドラグナー恨むよ!? あのあれ? 中村裕美だっけ? 高校の頃のクラスメイトに同じ名前のいたけど、同じ名前いっぱいいるし――」
「しゅ、集中……集中ですよ、白兎さん……! み、みんなで、無事に帰りましょう……!」
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)の声が参加し、会話は収まらない。
堅苦しく説教でもされれば、かえって幾分か気は楽だっただろう。そうならないほど、皆が一杯一杯だった。
「まずい、飛べ!」
地に降りるや、マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)は叫ぶ。同時、大地が跳ねた。
ドラグナーたちを腹ごしらえに平らげ、一踏み。10メートルを超える『マルス・トロイント』の巨体からほとばしる力が大地を砕き、森を侵す。
「伝説以上に……ロックな奴デス……!」
再びほおられた空、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は翼を開き、マサムネの相棒『ネコキャット』の清浄の翼が起こした風でなんとか衝撃をやりすごす。
マサムネの編み上げたサークリットチェインの救助ネット、更に上に敷いた自らのマインドシールド、どれ一つが欠けても危なかった。
「みんな、無事かい!?」
「無事の意を問いたくなるの……生きてはおる」
美しいグレーを汚された恩人……ネコキャットを抱き守り、仁王塚・手毬(竜宮神楽・e30216)が片膝に立つ。からくり細工めいたテレビウム『御芝居様』の顔にも傷とヒビ。よくぞ生きのこったものだ。
「吐息くるぞ!」
だが安堵する暇はない。
警告するティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)の橙の髪が暴風に逆巻く。
十メートル、一軒家をゆうに凌ぐ高さと容積の緋が迫る。攻撃の予測は容易く、回避は困難。
「ゴォォォォ……ァァァアアアー……ッ!」
「この威力、広告の品か!」
二階建ての高さから吹き降ろされる石化の吐息に、天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)が息を呑む。
草が、花が、見る間に石膏細工と化していく威力と速度はは、テレビ通販もかくや……『完成した石像がこちらです』とお出しされても違和感ない。
こいつばかりは、誇大広告に終わらせなければならない!
「なんとしてでも、潰す!」
ティーシャの抱える『カアス・シャアガ』が轟竜砲を連打。ドラゴニック・パワーを圧縮した竜砲弾が、更に常識外れの竜鱗に弾かれる、跳弾が地面を抉り、クレーターを生み出していく。
「ティーシャさん、これ以上は!」
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)が叫ぶギリギリまで打ち続け、一発か二発、通ったか?
殲虐の姉妹の末妹と、専用火器の威力は破壊された森が十分に物語っている。それをこれ見よがしに踏み潰していく、赤い鉄槌の如き四肢が、あまりに規格外なのだ。
「森が、死んでいく……」
逃げ遅れた森の住人が、ティーシャたちへ投げかけたリディのオラトリオヴェールの光が、石化の吐息に輝きを奪われ、砕けて消える。
『恐れ、嘆くがいい』
ただ歩くだけで岩が砕け、木々が裂ける。巨体と咆哮は、知性なくしても大地の蹂躙者の意をありありと示していた……が。
「……戦えてるじゃないですか、私」
その全てを目にしながらも、シルフィディアは笑った。『戦闘用強化型骨装具足・type-X』を身にまとい、奪われた身体を地獄と燃やしてみれば、全てを失ったあの日から随分マシになったものだと少女は思う。
マルス・トロイントの威力は圧倒的だ。だがその意に従う理由など、集まったケルベロスたちには一切ない。
「儂は宿敵の竜を倒すために力を鍛えてきた。竜を相手に引くわけには行かぬ。御主はどうだ、シィカ!」
「当然! 最高なロックを見せてやるのデース!」
答えは決まっている。手毬の振りに、シィカはライフルをギターの如く叩きつけ、叫んで見せた。
●蹂躙する戦竜
死せる森にロックが響く。
「届けてみせるデス! ボクの……ボクたちの歌を!」
「後顧の憂いは任せよ。おぬしらは存分に歌い、戦えば良い」
シィカの歌う『聖唱-神裏切りし十三竜騎-』に、手毬が舞う。『神楽【画竜点睛】』、竜を封じしものと、竜神を鎮めし者それぞれの末裔が織りなす芸術は、世界を侵す灰色を一時だが確かに食い止めた。
間髪いれず、白兎は『お着替え☆収納BOX』をぶちまける。なりふり構ってはいられる相手ではないのだ。
「今のうちにお色直しタイムだよ! 立て直しちゃって!」
白兎が『ドレスアップ』を完了するまでの時間は数ミリ秒にすぎない。一瞬の閃きとともに日仙丸の装束が姿を変えた。
「かたじけない。御代は日仙の道に拠り月締めにて……参る!」
集中させた精神力をドラゴンの爪へと返品無用で叩きつけ、ひびいった先端を砕く。わずかだが、日仙丸の与えた痛みと傷はドラゴンの武器たる暴力を封じ、減じてくれるだろう。
だが一矢報いられたことか、あるいは響く歌声を察したか、マルス・トロイントは再び狂暴な方向をあげる。
「ブレスじゃない、今までと声が……あ……あぁっ!?」
突然、マサムネの身体が宙を舞った。軽々と角を掴み上げた卑猥な触手を操り、醜い姿が地より染み出す。
「こいつ等が……」
「トゥルウィス!」
ティーシャとシルフィディア、二人の声と力が即座に同時に反応した。『バスターライフルMark9』の凍結弾がぶち抜き、骨装具足がシャッターを開く。
「惑わされてはいけません、怒號雷撃!」
迸る雷光。貪り尽すオークの群れは、その伝説に反し、あっけなく数を減らしていく……予想通りだ。
今のマルス・トロイントにとって彼らは一時的な召喚存在、グラビティであれば相殺できる。
ドラゴンのグラビティの中で、その威力は決して高い方ではない。だが……。
「思い出させるな……やめろ! 今のオレには愛する人も友達もいるんだ!」
「ぬぅ、この期に及んで……!」
それは戯れの力ゆえ、侮れない。
虚空に手をばたつかせ、マサムネが悲鳴を上げる。身構えた手毬の腕が激しく血しぶいた。
オークの軍勢が引き起こすトラウマは、攻撃の数を数倍にも引き上げてくる。彼彼女らのトラウマの正体は当事者以外にはわからないゆえ、厄介にすぎる。
「幸せを……喜びの力を、わすれないで……」
だからリディは祈った。『ミスティック・ハピネスリメンバー』、それは人々に『幸せ』『喜び』……感情を抱いた瞬間の記憶を呼び覚ます祈り。
幸せに包まれた人の心は、トラウマなどに負けはしない。
●不達
「千里眼の如く狙え!」
かき鳴らされるマサムネの『Audientis gratias ago!』をBGMに、ティーシャは『Mark9』ライフルの引き金を引き続ける。
「なんとかなるものだな! 撃ち続ければ」
巻き上がる血しぶきと埃の中、『R.F.NVゴーグル』がその性能を輝かせた。
接近する『トゥルウィス』の軍勢からの触手を『Iron Nemesis』で回し蹴り、宙返りしながらのゼログラビトン弾がマルス・トロイントの脇腹を狙い違わず撃ち抜いていく。
「ヌガァァァァァーッ!」
「捉えられた……!? 捉えられたよ!」
苦々しげな咆哮と、思わず漏れたリディの喝采。ようやっと手が届いた……そう思う間にも石化ブレスが吹き付けられる状況、時間経過を見る余裕はない。
だが時計が壊れていないなら、先ほど聞こえたアラームは八回目、耐える時はあと二分のはず。
「……ありがとう、ネコキャット。後は任せろ」
触れば折れてしまいそうな毛皮をそっと抱き上げ、すっかり固くなってしまったネコキャットの身体をマサムネはそっと脇へとよけた。
ドラゴンたちが半ば本能で求めているのはグラビティ・チェインだ。戦闘不能の相手を追い打ちしてくる可能性も十分ある。
「務め、御苦労であった……儂らも、そろそろかの」
灰を被ったかのように動きの鈍いテレビウム『御芝居様』と共に、手毬も荒い息を吐く。暴力的火力と範囲で平押しするドラゴンのような相手に、彼女やマサムネのようなサーヴァント使いはかなり厳しい。
「万が一の時は、頼むぞ」
「いく時は一緒デス。手毬、あと少し耐えるのデス……!」
シィカが『楓の一本簪』を手に笑いかける。ただの激励ではない、この極限まで八人が立って来られたのは必然だ。
一人でも欠ければ最後、荒れ狂う暴虐に防衛戦は数分で決壊してしまう。一か八かならぬ、零か八か。目前の伝説はそういう相手なのだ。
「……皆の衆、備えを。時間にござる!」
永遠にも思えた残り時間へ、日仙丸の声が終わりを告げた。振り下ろされる脚が起こす地震が、ガクンと勢いを減じた。
通販忍法仕込みの惨殺ナイフが突き立てる『ジグザグスラッシュ』が、これまでになく深く刺さる。時間だ。
「リディ殿」
「作戦通り。いくよ……っ」
暴れるマルス・トロイントの戦塵を目くらましに、リディが距離を詰める……一般に下策とされる戦闘中のポジション移動だが、それを踏まえてなお一行はこの作戦にかけた。
ドラゴンの全力の限界は十分、そこまでくればメディックを置く意味はない。予想通り、蓄積した致命ダメージは既にメディックの手に負える範疇を超えていた。
「どうして食いついてこないんだよ……!?」
ただ一つの予想外はマルス・トロイントの誘導。白兎のダメージを偽装した『ドレスアップ』の効果は芳しくなく、赤い災厄は未だにディフェンダーたちを絞り切らない……いや。
「眼力か……くそっ!」
気づいたマサムネは悪態をつきながら、ブラッドスターに曲を切り替える。
デウスエクスとケルベロスは共通能力として、攻撃の当たりやすさを正確に把握できる。好みに合う……傷ついた相手が目前に複数いる今、マルス・トロイントはもっとも当たりやすい相手を標的に定めた。
「宿命、かの……まぁ、よかろ」
全てを悟ったような手毬は、舞の足運びを誤ったようによろめいて見せる。目前に迫る竜の顔が舌なめずりをしてみせた。
「手毬殿っ!」
日仙丸が手を伸ばす目前、迫る牙に伸びる爪が見えた。
仮にマルス・トロイントに知性があれば、五体を引き千切り、存分に噛み殺して悲鳴を美味と味わっただろうか。
「ゴガッ!?」
「だが、そう安くはやらぬ」
大きく開く口腔めがけ『竜爪撃』が突き立てられる。欲望のままに食らいついてきてくれたのは、手毬にとって不幸中の幸いだった。
怒りのままに振り上げられたマルス・トロイントの前足が、少女を蹴り上げる。
「そこまでです!」
役が果たされたギリギリで、シルフィディアが打ち込む零式寂寞拳。死の淵で得た力が竜の身体を散々ばらまいた石の呪いに包む。だが間に合わない。
叩きつける。
鈍い音が響く。
『イキロ』
「矜持は、果たされたでござるか……っ」
日仙丸を振り払いったマルス・トロイントの前足が、伝言の応援動画を掲げた『御芝居様』を忌々しげに踏み潰す。
癒しの効果は僅かだが、日仙丸には少なくとも一手の猶予が与えられた。
「……その命運、必ず届ける!」
「往くよ、幸せを届けに!」
受け継がれる絆がリディの『レディエンスリング』を輝かせる。顕現したマインドソードを掴み、リディはクラッシャーの威力全てを怨敵へと叩きつけた。
●勇者の在り様
そこからはただ、死闘だった。
「ドラゴンよ、お前にかける慈悲なんて無い」
「ブチ砕いてやって、よろしく!」
白兎がペトリフィケイションで硬化させた後脛を、マサムネがスターゲイザーで撃ち抜く。よろめく巨体、四肢に一段と石化が進む。
喰らえばやられるという極限状態の中、貴重な一手が更に稼ぎだされた。立て直す隙を与えず、シルフィディアが食らいつく。
防空に召喚されたトゥルウィスたちが触手を偽骸の少女へ次々伸ばすが、あいにくと彼女の肉体大半は既に地獄と化している。
「効果はあったようですね。なら次は風通し良くしてやりますよ……!」
千切れる足から地獄が吹き出す。襲い掛かるトラウマも振り払い、シルフィディアは腕より変わった大型の杭打ち機をもって『地獄杭打刺突撃』、地獄を零距離で削岩機の如くドラゴンへと打ち込んでいく。
「ガァァッ、ヌガァァッ!」
「ロックが切れてきたデスね! 燃え上がるデース!」
シィカの踏みつけるようなグラインドファイアが、マルス・トロイントの頭に血と炎の紅蓮を咲かせる。ようやっと立て直した暴竜が首を振ったのは、その直後。
「あぐゥッ! ま、まだ……」
「シィカ、交代だ!」
嬲り殺してやる。叩きつけられた少女に食らいつく竜頭を、ティーシャは『全て破砕する剛腕』で何とか掴む。
「なるほど……相当な虚勢のようだな……!」
限界を超えた駆動に全身の補助駆動が悲鳴を上げる。今更の事だ。
殲滅者の笑みを浮かべ、ティーシャは力の限りに破砕アームを引いた。
「ゴァッ」
苦し紛れに放った石化ブレスが、高木ごとティーシャ、シィカの四肢を灰色に染めていく。直で吐きつけられていれば、危なかった。
「あと少し、ティーシャさん……そこぉ!」
ギリギリに引っ張られた首を深くえぐるリディの旋刃脚。地に向けて急降下する顔を、更に日仙丸の螺旋掌が叩き上げる。
「腕が……不覚っ」
……叩き上げるが、上がらない。揺れる大地、崩れた足場が踏ん張りを拒絶する。押し込まれ、零距離から灰色の吐息が吹きかけられた。
「何人、動ける……?」
重くのしかかる『擬態用マルチウェア』を排除。柔肌を晒しティーシャは周囲を見渡した。
「生き残っちゃったよ……こんな時に限ってさ」
「不運な人、その二。けどまぁ、あんまし長くはなさそうだ」
白兎に続き、マサムネ。そしてたまたま後方についていたシルフィディア。
「向こうも長くはなさそうです。やることは一つですね」
シルフィディアの言葉に四人は振り向く。止めのブレスを構えるマルス・トロイントへ、一行は飛んだ。
「来い!」
身をさらすマサムネ。そのブレスを吐き出す口腔をティーシャが、白兎を支えにを照準する。無茶の代償として破壊された破砕アームの代わりだ。
「……こんなんで大丈夫? いや役得だけど」
「何も問題ないのですよ……マサムネさん、今!」
身を犠牲に、マサムネは完璧に誘導をこなした。ブレスをまき散らした大きく開け放たれた口腔は今、ティーシャ達の正面にある。
「終わりだ」
「終わりです!」
異口同音の気合と共に『堕龍槌』が、『カアス・シャアガ』が轟竜砲を放つ。絡み合う二つの竜砲弾は吸い込まれるようにドラゴンの口、そして中枢へ。
「やった、デスか……」
爆光に赤が消える。色を取り戻していく世界にシィカは弱々しく、しかし確信を抱いて呟いた。
作者:のずみりん |
重傷:天尊・日仙丸(通販忍者・e00955) リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612) 仁王塚・手毬(竜宮神楽・e30216) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年6月5日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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