初夏に狂う寒椿

作者:柊透胡

 花粉のような、胞子のような――チラチラと煌く粒子は、御堂筋の方向から風に乗り、その公園に辿り着いた。
 数棟の高層マンションに囲まれたその公園は、周辺住民の憩いの場として造られたのだろう。カラフルな遊具や瀟洒なベンチを、丈低い生垣がグルリと取り囲んでいる。
 ――その一角は、寒椿が植えられていた。数えて5株。ピンクや赤と、明るい花色が魅力の寒椿は、その名の通り、寒い冬に咲く花だ。
 花期の後に剪定を済ませた寒椿は、今は艶やかな緑の葉を繁らせている。それがまさか、煌く粒子が降り掛かるや、一斉に血のように紅い花を咲かせようとは。
 ――――!!
 のみならず、咆哮を上げ、次々と根っこを引き抜き動き出す。開花と同時に、倍程の丈に成長した5株の寒椿は、無人の公園を我が物顔に株を巡らせると、獲物を求めてマンションの方角へ動き出した。

「寒椿の狂い咲き、という訳ね」
 水仙の髪飾りを揺らして小首を傾げた彼女の口調は、いっそ素っ気ない。対するヘリオライダーも真顔のまま頷き、集まったケルベロス達の方に向き直った。
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が、動き始めて暫く経つ。
「攻性植物らの攻撃は、相変わらず大阪市内を重点的に狙ってきています」
 大阪市内の事件を多数発生させて一般人を避難させ、拠点を拡大させようという計画は、まだまだ続行中という訳だ。
「大規模な侵攻ではありませんが、このまま放置すればゲート破壊成功率も又『じわじわと下がって』いってしまいます。これを防ぐ為にも、敵の侵攻を完全に防ぎ、更には、隙を突いて反攻に転じなければなりません」
 この「隙」を見付けるまでは、如何なる攻撃も着実に防衛していかなくてはなるまい。
「今回の敵は『寒椿』の攻性植物で、謎の胞子によって複数の攻性植物が1度に誕生し、市街地で暴れ出そうとしています」
 タブレット画面をスクロールさせ、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は粛々と説明を続ける。
「初夏に咲く寒椿なんて、興醒めもいい所ね」
 髪飾りに触れながら、冷ややかに呟く城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)。
「城間星さんの懸念が、私の案件にヒットしましたので、皆さんに集まって戴いた次第です」
 寒椿の攻性植物らは、一般人を見付ければ殺そうとする為、とても危険な状態と言える。
「敵の数は多いですが、別行動する事無く固まって動き、戦い始めれば逃走もしませんので、対処自体は難しくありません」
 敵が一般人と遭遇するのに先んじて、掃討してしまえば良い訳だ。
「とはいえ、5体もの数の多さは脅威ですし、同じ植物から生まれた攻性植物である所為か、連携もしっかりしています」
 油断していては、こちらが痛い目に遭いかねないだろう。
「攻性植物は、元は高層マンションに囲まれた公園の生垣でした。正午という時間のお陰で公園は無人ですので、公園内で対峙出来れば、人払いは不要です。それなりの広さがありますので、戦うのに支障はないでしょう」
 攻性植物は総じて全長2m程。どの株も、真っ赤な寒椿が沢山咲いている。
「生い茂る葉は全て鋭利な刃と化しており、チェーンソー剣のような切れ味です。又、花の部分で、マインドリングに似た攻撃を行う場合もあります」
 或いは、枝を妖精弓の矢のように撃ち出す株もあるようだ。
「集団戦闘だと、ボスから叩くのがセオリーだったりするけれど?」
「今回は特にリーダー格の株はいないようですね。全てが同じくらいの強さです」
 集団戦闘は、単体の強敵との戦いとは又違った難しさがある。敵同士が連携するなら尚更だ。
「ですが、私はケルベロスの皆さんの絆を信じます。攻性植物が幾ら連携しようと、皆さんの敵ではないと証明して下さい。ヘリオンより、皆さんの武運をお祈りいたします」


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)
リリス・セイレーン(空に焦がれて・e16609)
ルルド・コルホル(廃教会に咲くイフェイオン・e20511)
ラヴィニア・リアーレ(青く輝く雷の如く・e34324)
天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)

■リプレイ

●初夏に狂う寒椿
 初夏の風は爽やかながら、陽射しは6月に入って更に強くなった。お昼時の公園は、無人。生垣が敷地を囲んでいるが総じて丈が低い為、見晴らしは良い。
 ――――!!
 故に、突如動き出した寒椿の位置もよく判った。紅の開花と同時に倍程の丈に成長した5株の寒椿は、我が物顔に株を巡らせる――。
「だめよ。誰かを傷つけるために目覚めてしまっては……」
 例えるならば、スイートピーの花。甘やかに飛び立つ蝶のような足取りで、駆け付けたのはリリス・セイレーン(空に焦がれて・e16609)。ウイングキャットを伴う。
「こんなに暖かい……寧ろ暑いのに寒椿なんて、おかしな話ね。あなたたちが暴れちゃ、誰も憩う事ができないじゃない」
 微笑みを唇に刻む城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)の声音は、沈着だ。
「狂い咲きの寒椿、ねー。好きなお花だし、人を襲わないならそのまま楽しめるんだけど。今回はそうもいかないみたいだね」
 バスターライフル「KAL-XAMR50 “BattleHammer”」を携える秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)は、対照的に快活な表情でポニーテールを揺らす。
(「無理やり咲かされた花たちが、人々を襲うというのはなんだかな……」)
 青雷灯すような双眸を細め、ラヴィニア・リアーレ(青く輝く雷の如く・e34324)は形良い眉を寄せる。
「花は綺麗なものなのに。まるで殺人植物だな……? なぁ、ルド」
「そうだな。……だが、それが現実にならない為にも、ここで止めないとな」
 ラヴィニアの言葉に、ルルド・コルホル(廃教会に咲くイフェイオン・e20511)は淡々と応じる。季節外れに咲く花は、時として人の心を動かす。だが、恐怖に由来しては駄目だと、ルルドは思う。
「こいつら、エンブリオの胞子の所為だよな。ここまで飛んできてんだな」
「うん、御堂筋で広がった胞子の影響だよね」
 炎翼を広げて生垣を飛び越えた天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)は、溜息1つ。
「むりやり攻性植物にされて、しかも育ててくれた人たちを襲おうって言うんだから……やりきれないな」
 ――――!!
 徐に動き出した攻性植物と化した寒椿は、グラビティ・チェインの気配を感じたか、再び咆哮を上げる。次々と、その進路を遮るケルベロス達。
「もぐら叩きの状況が、歯痒いのは判るぜ。だが、打開策が生まれるまで出て来た所を地道に、迅速に叩いていくしかねえな」
 鍛えた肉体を惜しみ無く晒し、マッスルガントレットを打ち鳴らして身構える相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)。
(「サキュレント・エンブリオが飛散させる粒子を止めることはできない……でも、都築さんと城間星さんがその戦いを繋いでくれました」)
「御堂筋で戦った人たちの勝利のバトン。私たちも繋げましょう」
 彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)の言葉に否やはない。
「しっかり花びらを散らしてあげちゃうから、ねっ」
「そうね。大人しくなってもらいましょ」
「速やかに倒してあげるよ」
「ああ、早く片付けて元の穏やかな公園に戻したいところだ……」
 決意を口々に、ケルベロス達は戦闘の火蓋を切って落とさんと――。
「……む?」
 回し蹴りを放とうとして、泰地は逡巡する。敵は5体。一応に紅花咲かせる株に、違いは殆ど無い。つまり、どの攻性植物がどの攻撃をするか、一見して判断出来ないのだ。
 ――――!!
 更に、撃破の順序をポジションで定めていた。だが、ポジション不明の敵に先んじて攻撃出来た時、何処から仕掛けるか。
「っ!?」
 無から判断を下すほんの少しの躊躇も、戦闘では隙となる。泰地に先んじて、2体が若枝を仲間に突き刺し、その援護を受けた片方に、大輪の紅椿を盾のように翳す3体目。ディフェンダーが動く暇があればこそ、艶やかな葉が唸りを上げて次々と橙乃を襲った。
 例えば、右か左か――1人でも取っ掛かりを示唆していれば、先制攻撃も叶っただろう。

●推し量る
「枝と葉が各2、花が1体、ね」
 リリスの判断に頷き返した橙乃は、更にポジションを見極めんと目を凝らす。
「旋風斬鉄脚!」
 先手を打たれた事は忌々しく思いながらも、グラビティの力を全身に込める泰地。
「花は後衛のようだな!」
 旋風の如き回し蹴りが届く間合いから、敵の立ち位置を探っていく。手近の葉の一方を狙う、その軌跡に追随して悠乃もスターゲイザーを放った。
 ガキィッ!
「葉は、ディフェンダーという訳ですか」
 だが、泰地に続く悠乃の追撃は、もう一方の葉に阻まれた。
「君もディフェンダーでよろしくね!」
 相棒に声を掛け、リリスは黒太陽を具現化する。惑星レギオンレイドの陽射しは、絶望を伴い枝揺らす2体へ降り注ぐ。
「葉が前衛、枝が中衛、かしら?」
 ウイングキャットと魂分かつ身に、範囲攻撃の厄付けは厳しい。それでも、列攻撃の対象から着実に立ち位置を判断していくリリス。
「整備は万全! いつでもいけるよ!」
 炎の翼は広げたまま、蛍が元気よくヒールドローンを展開すれば、鉄製の手甲「青蓮華」にブラックスライムを纏わせ、ルルドは枝をしならせる一方に殴り掛かる。
「燃えろ、その宝石が尽きるまで」
 立ち位置が確定すれば、ポジションは2つに1つ。中衛に在って、眼力が示す命中率が常と変わらぬ、となれば。
「枝はどっちもジャマー、って事か」
 実戦経験も多い者も少なからずならば、眼力が報せる命中率もそれなりに。とはいえ、まだ万全とは言い難い。集団戦なら尚の事、早急にケルベロスの総攻撃を可能とするのが肝心だ。
「凍雲」
 橙乃の呼掛けに応じて、冬空を映したような鈍色のオウガメタルが粒子を前衛へ振り撒く。
「皆、無理はしないようにな」
 先制攻撃を被った橙乃を心配そうに見詰めるラヴィニア。被ダメージの程は、眼力では量れぬ。見極めようとするのは、メディックの観察眼だ。
 だが、橙乃の背筋はしゃんとして。唇に余裕の笑みさえ浮かべている。故にラヴィニアは予定通り、後衛に対してサークリットチェインを描く。
 その間も、よくよく狙い付ける結乃の瞳孔が極端に絞られていく。
「とっておきを……あげるっ」
 Armor Piercing Snipe――初撃から出し惜しみせず、密度を高めた特殊なグラビティ弾は初速と貫通性を以って、ジャマーの片割れに痛撃を叩き出した。
 拮抗する戦力バランスを如何に崩すか――集団戦に於いて、最初の撃破までがまず峠だ。今回は、攻性植物の方にも当て嵌まる。
「っ!!」
 まるで矢のように放たれた寒椿の枝は、連続して容赦なく橙乃を貫く。ぐらりと視界が揺れ、押し寄せる酩酊感。その傷を広げんと、葉刃が重ねて抉り込まれる。
 それでも、枝の片方の攻撃は、ルルドが遮った。ちなみに、ディフェンダーは刹那の間隙に滑り込んで仲間を庇う。その挙動は反射的で、特定の攻撃を見越したり、誰かを目して庇う余裕はない。
 ――――!!
 ケルベロスに反撃の暇を与えず、紅椿がばら撒かれる。花々は唸りを上げて旋回し、次々と前衛の装甲を切り裂く。
「これは……」
 同時に取巻くオウガ粒子を掻き消され、悠乃は確信する。後方に陣取り花を撒く攻性植物は、メディックと。
「葉は片方の威力が強烈ね……」
 不本意ながらも、ダメージの程から橙乃は前衛のポジションを確定する。
 ディフェンダーとクラッシャーが各1、ジャマーは2体。これに回復役を加えた編成で、寒椿は獰猛に枝葉を揺らす。ぽたりと首が落ちるように、紅が狂い咲いては落花した。

●峠を越えるべく
 連携は敵も負けてはいない。少なくとも、息を合わせるという点はケルベロス以上に徹底している。
 ――――!!
 ケルベロス達の連撃が途切れた、その間隙を逃さず、攻性植物は一斉に動く。回復役の花はヒールと範囲型ブレイクを使い分け、隙あらばケルベロスの強化を崩さんと。
 何よりの脅威は、催眠の枝矢だろう。本来は厄の発動率は低い筈だが、ジャマー2体掛かりに加え、前衛の葉刃は時に傷口を更に抉る。その攻撃全てが、橙乃に集中すれば。
「……っ」
 ディフェンダーは蛍、ルルド、ウイングキャットの2人+1体。それでも全ての攻撃は庇いきれない。
「もしかして、山茶花にまちがえられて、怒っちゃった?」
 フロストレーザーを放ちながら挑発の言葉を投げる結乃だが、グラビティ伴わぬ言葉に強制力は無い。見向きもされないのがもどかしい。
「気を確かに!」
 ラヴィニアはメディカルレインを降らせるも、橙乃1人の中衛に列ヒールは色々な意味で勿体無い。
「戻ってきなさいな」
 攻撃の手までが回復に割かれてしまうのは厄介だ。だが、橙乃のサイコフォースがラヴィニアに爆ぜるに至り、清浄の翼を広げるウイングキャット。更にリリスのサキュバスミストが艶やかに立ち込めれば、紗幕に覆われたようだった橙乃の瞳に光が戻る。
「何だか、申し訳なかったわね」
「ま、仕切り直し、だな」
 庇った余波で被った厄を掃うべく、ルルドは沈丁花を撒きながらステップを踏む。
「まずはてめぇからだ!」
 攻性植物の攻撃が橙乃に集中したならば、ケルベロスもジャマーから落とすべく枝の一方に攻撃が殺到する。
 左右のマッスルガントレットを打ち鳴らし、光闇の双腕を伸ばす泰地。セイクリッドダークネスを以って強かに殴り付ける。
 根気よく足止めの攻撃を繰り返すリリスが、更にスターゲイザーで蠢く根を刈れば、ウイングキャットの爪が樹皮を抉るように引っかいた。
「……」
 じわりと推移する命中率は、眼力が逐一報せてくれる。それでも、空の霊力を乗せた刃はまだ届き難い。眉を顰めながらもルルドは雷刃突を繰り出した。
 雷刃が樹皮を散らせた箇所を、結乃のゼログラビトンが撃ち貫く。その痛撃の威力は、スナイパーならではだ。
 ゴォッ!
 それでも、攻性植物は橙乃を狙う。機械的なまでに容赦ない葉刃を阻んだのは炎の翼。
「焦るな、すぐ治す」
 すかさず、駆け寄ったラヴィニアが的確にウィッチオペレーションを施せば、蛍は感謝の一瞥を投げて再び翼を広げる。
「ふふっ、遅い遅い!」
 蛍の標的もあくまでジャマー。跳躍で前衛をかわし、繰り出された苛烈が花葉を散らす。身を捩じらせる同胞に、後方の1体が守りの花を降らせるも。肉迫した橙乃が体内のグラビティ・チェインを破壊力に変え、愛鎌「雲英雀」を振り抜く。
「お返し、だわ」
 取巻く盾花を鎌刃が砕いた次の瞬間、正確かつ舞うような斬撃が、最初の1体をバラバラに解体する。
「次はどうしましょうか」
 両の黒曜石のナイフを一振りして木屑を払い、小首を傾げる悠乃。その言葉は思案するようでいて、視線は次の標的をしっかと定める。
 ――――!!
 枝矢を撃ち出すもう1体に向かって、ケルベロスは更なる牙を剥く。

●落花散華
 漸く最初の1体を倒せたと言えど、敵はまだ4体。それでも、最初の峠は越えられた。
「っ!!」
「ルド!?」
 枝矢の射線を遮ったルルドは、その勢いに思わずたたらを踏む。追尾する枝矢は魔力を帯びる。射手がジャマーだと自動追尾の時間も長く、ディフェンダーでも油断は出来ない。
 すかさず、魔術伴う緊急手術を施すラヴィニア。
「私が、皆を守る!」
 決意も新たにケルベロスチェインを握る両の拳を固め、ヒールに専念の構えだ。
「私も、負けてられないね」
 メディックの存在を頼もしく思いながら、蛍もルルドに魔方陣を展開。
「魔方陣展開、巻き戻れ!」
 陣が増幅するのはオラトリオの時を操る能力。極局地的に時間を巻き戻す事で、対象が傷付く前まで状態を修復するヒールグラビティだ。
「橙乃くんは?」
「今はまだ平気」
 リリスの問いに、やや素っ気ないながらも端的に答える橙乃。声を掛け合って回復の無駄撃ちを避ける一方、攻撃は集中させて各個撃破を目指していく。
 ―――!!
 集中攻撃は敵も同じ。そして、盾が攻撃を阻み、時にヒールが飛ぶのも同様だ。だが、ケルベロスの盾が3に対して、敵は1だ。「総攻撃」が可能な状況となれば、手数もケルベロスの方が多い。
「旋風斬鉄脚!」
 蹴りの軌跡が、眩い光の弧を描く。1体目の撃破に掛かった時間より早く、2体目に高速かつ強靭な回し蹴りで引導を渡す泰地。
 このまま、仲間を落とさず敵の撃破を進めれば、戦況は加速度的に優位に傾く――ケルベロス達の攻撃は勢いを増し、火力を殺がんと敵のクラッシャーに殺到する。
 Bloom Shi rose. Espoir sentiments, a la hauteur de cette danse――。
 ウイングキャットより飛来する尻尾のリングに続き、飛ぶように軽やかに、戯れるように舞い遊ぶ。優美に舞うリリスの足元から、可憐な蕾が芳しく咲き乱れる。蔓薔薇の幻は、気高く甘美に攻性植物を絡めとる。
「お前達には、人に感動を与える前に散って貰う……悪く思うなよ」
 その実、花と動物が好きなルルド。故に、攻性植物相手の今回の戦闘はけして楽しいものではない。
 苦しげに身を捩じらせる寒椿の様に、ほんの僅かに繭を顰めるのも束の間。青年は獣化した拳に重力を集中させる。
 ――――!!
 振り抜いた拳は淀みない。己の最大火力を以って、ルルドは寒椿の葉を散らし、枝を払い、幹をへし折った。
 4体目は、ディフェンダー――盾役と回復役が残っている状況だ。それなりに持ち堪えるも、ここまで来ればケルベロスの勢いは止まらない。
「せめてこれ以上、被害を出さないようにしないと、ね」
 戦闘の余波で荒れ模様の公園を一瞥し、蛍が独立機動砲台+6に装填したのは、時空凍結弾。
 流石に、自身を自身で庇う事は叶わない。回復量に上回る火力を浴びせられ、盾役の寒椿はダメージを被る度に、花を葉を凍らせ、端から砕かれていく。
「狂い咲きの寒椿は散らしてしまわないと、ねっ」
 快活な宣言から一転、鋭い眼差しでロックオン。スナイパーぶりを遺憾なく発揮して、結乃のArmor Piercing Snipeは、狙い誤たず紅椿を次々と凍らせ撃ち砕いた。
 いよいよ、残った攻性植物は回復役唯1体。これでもかとそれぞれの最大火力を浴びせるケルベロス達。初めて攻撃に転じたラヴィニアが投射するのは、治癒を阻害する殺神ウイルスだ。
「取り巻く羽根は鋭き刃。あなたの癒しを阻みます」
 今なら、悠乃の舞羽も届く。刹那、広げた白翼より放たれ、鋭利な刃と化した羽も花の癒しを封じんと緑の周囲に漂う。すかさず、ルルドの絶空斬が重ねられ、治癒阻害の厄を積み上げた。
 緩緩と、染む滴は深き碧――大気の潤いを凍らせ、氷の水仙を生む。
「あなたがいた所に、ちゃんと寒椿を植え直してあげるわ……じゃあ、さよなら」
 静かに微笑み、橙乃は指先を一振り。煌く氷葉と花弁は刃と化し、狂い咲く紅を尽く枯らした。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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