惑わしの金色竜

作者:あき缶

●最後の砦
 ぽちゃん、ぽつん、と重く垂れた鍾乳石から水が滴る。
 本来は暗いはずの鍾乳洞が、ぼうっと青白く光るのは、瓶底眼鏡の女がブツブツ呟きながら、タブレット端末めいたものを片手にたくさんの光のウィンドウを空中に展開しているからである。
 彼女の周囲には、黒い異形がぞろぞろと取り巻く。竜のようなヘドロのような……とかく悪夢のような異形が。
 女は何か探し当てたらしく、はっと手を止めた。口端がいやらしく歪む。
「さぁ、見つけたわよ……。お前達……この場所に向かいドラゴンの封印を解き、ドラゴンに喰われ、その身のグラビティ・チェインを捧げるのよ……」
 女がそう言うと、周囲の悪夢の塊が動き出す。黒い異形の赤い目が不気味に、鍾乳洞の闇のなかで浮かびあがる。
「全ては、ドラゴン種族の未来の為に……」
 くすくす、くすくす、女は嗤っている。
 ここは竜十字島。ドラゴンの最後の砦。
 嗤う女は、死を待つばかりのドラゴンを起死回生の策で救うべく画策するドラグナーである――。

●喰らわれし悪意
 竜十字島から飛び立った悪夢達は、岐阜の山中に降り立つ。
 その四体の悪夢は、ケイオス・ウロボロスと称されるドラグナーであった。
 森の中にあるぽつんと大きな岩にたどり着いたケイオス・ウロボロス達は、キィキィギィギィと何かが擦れるような耳障りな音を発しながら、祈りを捧げるような動きを始めた。
 ズズ、ゴゴ、重たいものが滑るような地響きの後、ずるりと這い出てきたのは眩い黄金竜。
 ケイオス・ウロボロスは蘇りしドラゴンを見るなり、熱に浮かされたように互いを攻撃し始めた。まるでこの金塊の持ち主を争うように。
 だがそれも一瞬のことだった。ドラゴンは、争い合って団子になったドラグナー達に飛びかかると瞬く間に引き裂き食らいつくし、辺り一帯を平地に変えた挙げ句、ケイオス・ウロボロスが持っていたグラビティ・チェインを己のものにした。
 あとには四つのコギトエルゴスムが転がるだけである……。

●悪夢の予兆
 シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)達が危惧していたドラゴンの活動が、ヘリオライダーの予知に引っかかった。
 香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)の顔は青い。
「ドラグナーらが、大侵略期に封印されていたドラゴンの居場所を探し当て、そのドラゴンの封印を破って戦力化しようとしとる」
 ドラゴン復活を画策するケイオス・ウロボロスというドラグナーと戦う必要はない。なぜなら、彼らは復活したドラゴンの餌に成り果ててしまっているからだ。
「とはいえ、ドラグナーのグラビティ・チェインごときでドラゴンが満腹になるわけもなく、復活したドラゴンは、かなりの飢餓状態で理性は欠片もない。定命化すら始まっとるようで、意思疎通は不可能と考えてええで」
 万全とは言えないドラゴンだが、それでも戦闘力は凄まじいものだと予想される。
「けど、十分くらい耐えたら、ドラゴンも疲れてくるやろう。諦めずになんとかドラゴンの猛攻を耐えて、勝機を伺うんや!」
 ケルベロスが全滅すれば、ドラゴンは人里に降りて、人々を食らいつくしてしまうに違いない。
「それだけは……なんとか避けんとな」
 今回のドラゴンは今まで以上の力を誇る。刺し違える運命になるかも知れない。それでも、ケルベロスは逃げるわけにはいかないのだ。
「復活するドラゴンは、イシュタルテ・ウェヌスっちゅー金ピカのドラゴンや。金脈を呑み干したような全身金色で、めっちゃデカイ。ざっと全長十メートルはあるかな」
 その黄金を見ると、知性ある者は欲を刺激され、心を奪われるという。
「端的にいうと、その金を独占したくなって、イシュタルテ・ウェヌスを護りつつ、周囲の生き物を皆殺しにしたくなる」
 金を奪い合って殺し合うという醜悪な光景を作り上げるドラゴンなのだ。
 いかに金への欲を抑えて戦うかが要になってくるだろう。同士討ちは避けたい。
 だが催眠状態を恐れてヒールに専念していると、ヒール不可ダメージが蓄積し、ケルベロスばかりが追い詰められていくだろう。勝機が見えるまで耐えつつも、こちらが崩れる前に、ある程度ドラゴンの体力を削っておくことも重要だ。
「……奴らが、そのドラゴンをどう使って挽回しようとしとるのかは分からんけど、ドラゴン一体が本州内で復活するだけでも十分脅威や。熾烈な戦いになるやろうけど、頼んだで」
 いかるは、震える声を絞り出した。


参加者
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)

■リプレイ

●ゴールデンテンプテーション
 ぐらり、ケルベロスの脳が揺れる。痛い、痛い、頭が痛い。激痛と幻聴で思考が揺れる、目が眩む。
 ――この金は自分のもの、自分だけのもの、周囲は敵だ。この金を守れ。
 黄金竜イシュタルテ・ウェヌスの体色は、人の欲を揺すぶる眩い金色。
 ドラグナーを喰らってなお飢えて、竜は目の前の障害を壊し、グラビティ・チェインの豊富な人里に降りることばかり考える狂乱状態にある。
「……初めての竜狩りがこんな大物相手とは……相手にとって不足なし!」
 必死に揺れる思考を落ち着かせ、北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)は銃を構える。騎乗する愛機に似たその銃口をドラゴンに向け、
「一発なら躱される弾丸でも、六発同時なら!」
 イシュタルテ・ウェヌスの四肢や首めがけ六発の弾を放った。乗り手の計都を乗せたまま、こがらす丸はドラゴンの足回りをスピンで轢く。
「やや趣に欠ける相手ではあるが、敵としては申し分ないな」
 千歳緑・豊(喜懼・e09097)はそう呟きながら、地獄で異形の獣を作り上げる。彼の隣に控えるそれは、五つの目をぎらつかせ、棘つきの尾をしならせて主人の合図を待つ。
「ターゲット」
 豊の一声とともに、獣はドラゴンめがけて駆け出す。
 しかし、ドラゴンはそれを鬱陶しげに尾の一振りでかき消した。
「なるほどね」
 豊はしたり顔で頷く。相手は格上、そう易易と攻撃を成功させてはくれまいか。
「であるが、我々とて退くわけにはいかん」
 ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)の放つ魔法の木の葉が、村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)を取り巻く。ワルゼロムのシャーマンズゴースト、タルタロン帝はミルフィに祈りを捧げる。
「後ろには守るべき人々がいる以上、此処から先には行かせられない」
 腕に装備した縛霊手から紙兵を前衛に撒き散らし、ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)の語る決意は、ここに集ったケルベロス全員共通のものだ。
「はい、絶対に、此処で食い止めてみせます! ……友愛の力を秘めし、実りの石よ。……真実の光持ちて、加護を打ち砕け!」
 エタンセル・デ・グルナ――大地彩る実の色で光る石は、エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)の願いに応えて後衛に癒やしと力を与える。
 エレの後ろで飛んでいるウイングキャットのラズリは、普段よりも厳しい表情で翼を羽ばたかせ、自身を含む後衛に加護を与えた。
 同じく後衛に薬液が降り注ぎ、脳の痛みを消していった。術者はレカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)である。
「これが大侵略期の竜ですか。研究材料には事欠きませんね」
 ベルは、とうっとばかりに跳び上がり、上空からの蹴りを試みるが、まだ彼女の力ではドラゴンに当てることが出来ない。虚しく地面を蹴り砕き、着地したベルはむうっと色眼鏡の奥の眉を寄せる。
「あ、この色眼鏡は少しでも黄金に目がくらまないようにというものですよ~。イージーエイトさんもお揃いで!」
 『お揃い』を装着したベルのサーヴァント、イージーエイトは主人を守るための祈りを捧げる。ドラゴンに、こちらの加護を打ち破る力はない。だから、少しでも金への誘惑を断つ加護を重ねたいケルベロスである。
(「このままでは甚大な被害が及ぶのは必至……何としても防がねば」)
 キッと愛らしい顔を引き締め、ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)は氷鎚を構え、発砲音を轟かせ竜砲弾を撃ち込む。
 初手、ケルベロスは守りを固めることにほぼ専念した。また、まだスナイパー以外に攻撃を当てられる者もいない状況。
 故にドラゴンの損傷は軽微であった。デウスエクスは侮ったような顔で、輝かしい幻惑をまとう。

●ゴールデンイリュージョン
 じわり、じわり、イシュタルテ・ウェヌスの誘惑は力を強めていく。
 ケルベロスも誘惑を打ち払い、また幻を削り取る加護を重ねていく。
 どちらの力も確実ではない。また、誘惑にケルベロスが屈するかどうかも確実ではない。
 運も左右する戦局を、それでも実力と戦略で、勝利に引き込まん。不退転の誓いをもってケルベロスはここに立っている。
 ぐわんっと脳が揺れた。
 またイシュタルテ・ウェヌスは黄金を見せつけて、裏切りを誘う。
「くっ!」
 騎乗していたこがらす丸の消滅に、体勢を崩した計都はぜえっと息を荒げながら、気迫を叫んだ。
 これで何度、気合をいれただろう。計都は眉を寄せる。ドラゴンの力が強く、満足に攻撃に転じられない。
 もちろん計都が戦場に立ち続けることは重要だ。しかし、スナイパーの役を担う計都には、他の者が満足にデウスエクスを攻撃できるように足止めるという重要な仕事がある。手番をヒールに割いては、数分後に訪れる好機までにドラゴンに十分なダメージを与えることが出来ないかもしれなかった。
 イシュタルテ・ウェヌスの誘惑の威力そして付随してくる裏切りへの誘致、どちらも計都にとっては、一撃喰らえば即気迫を叫ばねばならぬ脅威であったとしても、もっと前のめりになっておくべきだったかもしれない。
 ミルフィを庇って催眠を受けた豊が放つ獣は、矛先を誤ってムギに飛びかかる。
「確かに、殺し合うならケルベロスでも問題はないか」
「惑わされるな!」
 仲間の攻撃に耐え、代わりに抑え込んでいた狂気を撒き散らしながらムギが叫ぶ。
「教祖式光線療法!」
 ワルゼロムは額の梵字から放たれる法力光線を自分に与えた。
 何度も後衛の代わりに攻撃を受けてしまって、竜に治癒を祈ってしまった錯乱気味のタルタロン帝だが、後ろの気配が弱くなっていくのに気づいたのか、気遣わしげに振り返って主人を見てくる。
 サーヴァント使いは生命を従者と分け合う者。手数を増やすことの代償として体力が少ない。
(「……やられるわけには……!」)
 しかし執拗に後列ばかり狙ってくるドラゴンの力は強大だ。次で墜ちるかも知れない……ワルゼロムは唸った。
 エレのエクトプラズムがドラゴンの足を止める。ラズリの爪が続く。幸い、エレの理力はイシュタルテ・ウェヌスに当たっている。疲弊していく一方の後衛の代わりになれるだろう。
「手折れぬ花のように。どうか、ご加護を」
 天高くに開いた芍薬へと、レカが矢を放つ。見事に射抜かれた芍薬は、はらりはらりとたっぷりとした花弁を後衛の回りに麗しく散らしていく。
「拘束制御術式三種・二種・一種、発動。状況D『ワイズマン』発動の承認申請、『敵機の完全沈黙まで』の能力使用送信ー限定使用受理を確認」
 ベルの色眼鏡がターゲットスコープへと変わり、彼女の全身に魔法陣が浮かび上がると、無数の霊鎖を召喚してドラゴンを戒め、電撃による麻痺を狙っていく。
 イージーエイトは爪でドラゴンの魂を挑発しようとするのだが、まだ核心に爪が届かない。だから原始の炎で炙っておく。
 ミルフィの機重光砲が敵を凍らせる。
 徐々にグラビティ・チェインを消費して飢え、力を失っていくイシュタルテ・ウェヌスは、苛立たしげに再び黄金を見せつけた。
 網膜を焼く閃光と共に脳髄まで至るほどの煩い幻聴が襲ってくる。
 ワルゼロムは今度こそ自身の限界を覚悟するも、目の前に割って入ったシャーマンズゴーストに目を見張る。
「!」
 タルタロン帝が消えていく。主を守って。
「守勢は好みじゃないんだがね。まあ、若者を守るのも年長者の役目だ」
 計都を守った豊は、有利な位置をとっても尚締め上げるような頭痛に耐え耐え、計都に頷いてみせた。
 彼の意図を正確に読み取り、計都は六発の銃弾『ヘキサバースト』を放つ。急所に当たったか、デウスエクスは初めて苦悶の表情を見せた。
「健全な精神は健全な筋肉に宿る、たかが金なんかに惑わされるかよ!」
 レカを守ってムギが吼えた。
 エレは背後でラズリがあえなく消えてしまったことを感じる。
(「よく頑張ったね、ラズリ」)
 目を閉じ、ふわふわの小さなウイングキャットに労りを贈って、そしてドラゴニックハンマーを握り。
「ああああーーっ!!」
 ずしりと重いハンマーを振り上げて、渾身の力で超重のストンプ。
 まだ確実ではない命中率だったが、エレの気合に運が味方したか、敵を押し潰す。
 レカの薬雨が降りしきる中、ワルゼロムの木の葉がムギの頭痛を癒やす。
 ワルゼロムは前中衛に木の葉での加護を与えていたが、どちらかと言えば確実に足止めができるスナイパーに与えていたほうが、話は早く済んだのかも知れない。
「龍は……東洋では、権力や富、幸運等をもたらす象徴とされますが……人の欲を掻き立てて惨劇を引き起こす龍など……」
 それでも何度めかのミルフィのヘルヘイムの氷霜鎚が怒鳴る。
 イシュタルテ・ウェヌスには、自身に付けられた呪詛を解決する手段がない。じわじわと動きは鈍っていた。
 ずどん。ベルの流星蹴りがドラゴンに命中した。
「ようやくですかね!」
 晴れ晴れと笑うベルはまだ無傷だ。当たるようになればここから先は出来うる限りで、デウスエクスに嫌がらせをしていくまで。
 イージーエイトの爪もドラゴンの魂に至る。
 デウスエクスは吼える。吠え猛り、黄金の前脚爪を前衛めがけて薙ぐ。
 精神攻撃に防具をあわせてきたケルベロスにとって、それは痛烈に効いた。

●ゴールデンタロン
 ディフェンダーは何度も後衛を庇ってきた。そのさなかでの突然の爪の直撃。
 体を引き裂かれ、エレは思わず自身を抱きしめ、自身を戦場を取り巻く大自然に繋ごうとし……誤って接続先をドラゴンにしてしまった。だくだくと流れてくる血とグワングワンと響く幻聴に、エレはもはや正確な判断ができなくなっていた。
「心躍るよ……」
 一方、出血しながらも豊は心から微笑んだ。一方的ではない死のスリルこそ、彼の無常の歓びである。死ぬか否かの瀬戸際を、この大侵略期の竜は与えてくれる。
「舐めるな糞蜥蜴が!!」
 満身創痍でもムギは更に気迫を吼えた。
(「ああ上等だ、この筋肉はこういう時の為に鍛え上げたもの……。必要ならばどれだけだろうと耐えてやる」)
 不退転、不退転だ。ぐらつく思考と激痛に耐え、ムギは自分に言い聞かせる。
 計都はダメ押しの轟竜砲を放つ。前衛に攻撃が向かい、自身に被害が及ばなかった今こそ、次からの一転攻勢のために。
 ワルゼロムの木の葉がエレを包むも、彼女の表情は険しい。
(「今更正義を気取る気は無い、だが無関係な者を巻き込むのは、此方のポリシーが許さんのだよ」)
 だから耐えてくれと祈るように、ワルゼロムはエレの傷を修復してやる。
 レカは盾に薬の雨を降らせる。イージーエイトも盾のために祈る。
「世のあらゆる欲を取り込んだ龍が……さしずめ貴方ですかしら……?」
 ミルフィも冷凍光線でドラゴンを凍らせにかかった。
 ベルはドラゴニックハンマーで同様に凍結の殴打をドラゴンに浴びせる。
 ムギは高らかに叫ぶ。
「耐えて見せたぞ、この十分。さあ反撃の時間だ!」
 空気が変わったのを察したか、ドラゴンは幻影を纏い、不服げに唸った。
 飢餓でどんどん動けなくなっていっているのに、一向に眼前の邪魔者が消えない。その苛立ちは如何程のものか。
 計都はレイヴンシューターを構え、冷凍光線を撃った。
 じわじわとドラゴンは自身を取り巻く氷に身を刻まれていく。
 豊の雷電が目にも留まらぬ速度で引き金を引かれ、竜の急所を貫く。何度も何度も確認した有利な位置からの射撃は、ドラゴンに大打撃を与えた。
 エレは癒しの風を巻き起こし、前衛を支える。勝機が見える時間とは言え、まだ勝利が確定したわけではないから。だが回復不能なダメージは蓄積している。今できる範囲で十全にヒールを重ねたからと言って次のデウスエクスからの攻撃に耐えきれるとは、限らない。
 パイルバンカーがしゅうと細かな氷の霧を纏う。雪さえも退く凍気をドラゴンめがけて、撃ち込むムギ。
 ワルゼロムの白生姜治癒光線がレカを包む。レカが射抜く芍薬の花護が次の攻撃に備える。
 ベルのビームが、イージーエイトの炎が、ミルフィのエネルギー弾が、ドラゴンを攻めたてる。
 十分を過ぎてもなおドラゴンはしぶとく生きていた。序盤にもっとダメージを与えていれば、今頃は死んでいたろうが、ケルベロスは防戦に徹していた上、ときたまだが催眠によって利敵行為をさせられたため、削りが甘いのだ。
 それでも懸命にケルベロスは攻撃を繰り返し、死期を悟ったらしきドラゴンは殺意を増した狂乱の目でケルベロスを睥睨するなり、ビカリと光った。
 すべてを飲み込むような凄まじい金光が戦場を満たしていく。
「俺の目の黒いうちは誰もやらせはしねえ!」
 怒鳴り、ムギが飛び出す。
(「誰も犠牲にさせない。……だって、護りたい。手の届くもの、全部!」)
 エレも目の眩むような激しい光の前に、無我夢中で躍り出る――。

●ゴールデンドラゴン
 ひく、とレカの喉が震えた。
 光が終息した後には、死屍累々……と表現するに値する世界が広がっていた。
 エレ、ムギ、ワルゼロム、計都が戦線脱落。
「動ける者は、私を含めてあと四人と、サーヴァントが一体。まだまだこの程度では『戻る』とは言い難いね。なにせ、『戻る』なんてつまらないことは、やりたくないものでね……」
 豊は冷静に呟くと、地獄の獣を走らせる。
 退けとドラゴンは怒気のこもった目で睨みつけてくる。しかしレカは竜の威嚇を真っ直ぐに見返した。
「に……逃げませんよ。何があっても、どんな状況でも」
 庇ってもらったことは、この黄金竜を殺すことで報恩する。レカは、二の矢・花護で守りを固めた。
 ミルフィはエネルギー弾を撃ち込む。氷の破片ごと弾を押し込まれ、ドラゴンが苦悶する。
 瀕死のイシュタルテ・ウェヌスの爪が中衛めがけて振り下ろされた。
「かかった! 畳み掛けましょう!」
 ベルは血まみれになりながらも、残存兵に叫ぶ。今の今まで狙われなかったため、ベルとイージーエイトの損傷はさほど酷くない。むしろ、ドラゴンにヒールされず、また被害の大きい前後衛に被害が向かわなかった事は、明確なチャンスだ。
 豊は頷き、走狗をけしかける。
 レカはベルを治療すべきか一瞬悩むも、彼女の意思を尊重して、弓に影の矢弾をつがえた。放たれた影がドラゴンを侵食する。
 既に半身を覆う氷で自身を苛まれたイシュタルテ・ウェヌスの生命は風前の灯火であった。
「目を閉じて――わたくしからの愛、お受け取り下さいまし……」
 ミルフィは幻惑のキスで、ドラゴンから生命力を吸い上げる――それで最期。
「勝ちました……」
 覚悟は出来ていた。が、レカはただ安堵する。
 ケルベロス側の被害は決して小さくない。しかし、ここでドラゴンという強大なデウスエクスを押し止めることが出来たことは、僥倖と言えるだろう。

作者:あき缶 重傷:ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300) エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月29日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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