泣いている女の子がいた。だから、手を差し伸べた。
困っている女の子がいた。だから、声を掛けて話を聞いた。
悲しげな表情で佇む女の子がいた。だから、俺は……。
ばたりとドアが閉まる。家族のDVから逃げてきたと言う少女は愛想笑いにも似た表情で、男に視線を向けていた。
怯えの色が無い事に男はむしろ安堵の溜め息を零す。どうやら彼女もまた、このような出来事に慣れているのだろう。
ギブアンドテイクはこの世の理だ。それが男の持論だった。家出少女に一夜の寝床を用意する。代わりに男は一夜の快楽を手に入れる。つまり、ギブアンドテイクの成立と言う訳だ。
「うーん。お兄さんいいよね。顔はイケメンだし、紳士的だし、考えている事は下衆で屑だし」
「――な?!」
整った顔立ちを歪め、泡を吹く男の身体を青い炎が包み込む。男の身体が焼かれ、消失していく様を見送る少女の名前は、『青のホスフィン』と言った。
やがて、炎が晴れた時、そこには一体のエインヘリアルが跪いていた。
「なかなか、良い見た目のエインヘリアルにできたわね。やっぱり、エインヘリアルなら外見にこだわらないとよね」
生前の男の面影を残すエインヘリアルは、所謂イケメンだったのだ。
「でも、見掛け倒しはダメだから、とっととグラビティ・チェインを奪ってきてね。そしたら、迎えに来てあげる」
「御意」
ホスフィンに頭を垂れたエインヘリアルは表を上げると、そのまま外に飛び出す。
彼が狙うのは夜の街。そして、主の所望するグラビティ・チェインだった。
「『青のホスフィン』の動きを捉えたわ」
ヘリポートにて、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)が敵の名を告げる。それは『炎彩使い』と呼ばれるシャイターンの一人の名であった。
「炎彩使いは死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性をエインヘリアルに導くことが出来る様子なの」
此度、犠牲となった男性は出会い系のサイトで家出少女に宿を貸し、代わりに一夜の快楽を求める、いわゆる神様、と呼ばれる存在だったようだ。
「そう言うのは都市伝説じゃなかったのね」
そして、一夜の恋に身を焦がす筈が、死者の泉の炎で燃やし尽くされた、と言う訳だ。
炎から出現したエインヘリアルはグラビティ・チェイン枯渇状態にあるようで、人を殺してグラビティ・チェインを奪おうと暴れ出す様だ。男の家から近くの繁華街まで徒歩で十数分と行った処。つまり。
「今から向かえばエインヘリアルが繁華街に突入する前に接触できるわ。急ぎ現場に向かって、エインヘリアルを撃破して欲しいの」
焦燥混じりの声で、リーシャはそれを告げる。
「敵はエインヘリアル一人。得物はルーンアックスね。それと、魅了の能力を持っているわ」
ホスフィンが美形を求め得るが故だろうか。美貌に魔力が伴っているようなのだ。武器による攻撃だけでなく、それらが付与する催眠効果には注意して欲しいとの助言だった。
「ホスフィンに賛同している事からも、説得などは一切、聞く耳持たない物と思って欲しい。あと、女の子を食い物……いえ、女性に執着していた生前の記憶からか、見目麗しい女性を標的にする傾向にある様子よ」
強力なエインヘリアルだが、健在な好色さを利用する事で有利に立ち回れるかもしれない。英雄色好むとはよく言ったものだ。或いは色即是空と言った処か。
「みんなが止めなければエインヘリアルは繁華街が暴虐と惨殺の渦に巻き込まれちゃうわ。みんなならきっと、エインヘリアルによる虐殺を止めてくれるって信じてる」
そして、リーシャはケルベロス達を送り出す。いつも通りの言葉を添えて。
「それじゃ、いってらっしゃい」
参加者 | |
---|---|
物部・帳(お騒がせ警官・e02957) |
フィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338) |
リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197) |
ルルド・コルホル(廃教会に咲くイフェイオン・e20511) |
アシュリー・ハービンジャー(ヴァンガードメイデン・e33253) |
ローゼリア・ブラッド(狂った様に舞う蝶・e33931) |
天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796) |
御廟羽・彼方(眩い光ほど闇は深く黒く・e44429) |
●神様の残滓
夜の街を男は駆け抜ける。目指すは煌々とした光に包まれた人々の営みがある場所、つまりは繁華街だった。
夜の光に集う人々を虐殺し、グラビティ・チェインを得る。それが『青のホスフィン』に命じられた男の使命。故に男は駆け抜ける。主の言葉は絶対。主命こそが、エインヘリアルとして生まれ変わった男の全てだった。
故に、自身の前を立ち塞がる人影など、捨ておくわけにいかなかったのだ。
「はーい! 警察のお時間なの! 悪いヤツは逮捕なのよ逮捕!」
銀髪の少女――フィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338)がびしりと指を突き付け、エインヘリアルに宣言する。
突然の言葉に眉を跳ね上げたエインヘリアルへ、向けられたのは更に困惑を引き出す合いの手であった。
「ふっふっふ、勤務中に居眠りして、体力を蓄えておいた甲斐があったと言うものです。治安を乱すデウスエクス退治、頑張って行きましょう!」
リボルバー銃を構える物部・帳(お騒がせ警官・e02957)は何処か得意げに胸を張り。
「成程。仕事の為に居眠りしてコンディションバッチリだね……って勤務中に居眠りしてちゃダメじゃん!」
「オイオイ局長、勤務中に居眠りなんかしてたのかよォ? ならその分しっかりと働いて貰わねェとなァ?」
天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)はそんな彼にびしりと裏拳混じりのノリツッコミを、ローゼリア・ブラッド(狂った様に舞う蝶・e33931)はざらりとした鮫の様な笑みを向ける。
「やれやれ。こんなのが『神様』ねぇ」
頭を掻きながら、つまらなさげにエインヘリアルを評するのはルルド・コルホル(廃教会に咲くイフェイオン・e20511)だった。神様――一夜の宿を提供する代わりに快楽を求める存在の隠語がそのまま、デウスエクスに転生させられ、本当に異貌の神へと成り下がってしまった。因果関係も支離滅裂の、ただ、皮肉な結果に苦笑いすら零れてしまう。
「あの様な屑の所業が『神様』であってたまるか」
リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)の憤りは尤もであった。
ギブアンドテイク。ヘリオライダーの弁から察する男の考えは、確かに世界にそんな面が無いと否定出来ない物だった。だが、彼のそれは行き場を失った少女達を欲望のまま、食い荒らすだけの弁明に過ぎない。卑劣漢め、と虫唾すら走ってしまう。
「貴方の所業が死に値する迄の物かと問われれば少々困りますけど、同情出来る物でもありませんね。『さきがけの騎士』の名にかけて、ここで討ち果たさせて頂きます!」
サーヴァント、ラムレイに跨ったアシュリー・ハービンジャー(ヴァンガードメイデン・e33253)は得物の砲槍を構え、鬨の声を上げる。
「グラビティ・チェイン!」
ケルベロス達が有する良質なグラビティ・チェインを看過した為か。対するエインヘリアルもまた、喜色の声を上げていた。
●悦ばしき知識
神は死んだ。言わずとも知れた19世紀の哲学者フリードリヒ・ニーチェの言葉である。その意味は解釈が別れるところだが、一般的には虚無主義への傾倒、原理主義への別離を意味していると言われている。
神は死んだ。そう。地球人の求めた神は何処にも居ない。ただ、彼らからグラビティ・チェインを奪おうと襲い来る侵略者――異郷の神デウスエクスがいるだけで。
そして、死と言う概念を持たない筈の神はしかし、死の運命を背負う事になった。
神を殺す牙を持つ番犬、ケルベロスの出現によって。
「見目麗しい女の子を狙うなんて変なエインヘリアルだね!」
御廟羽・彼方(眩い光ほど闇は深く黒く・e44429)の疑問はむしろ、当然であった。
戦場に於いて敵を選り好みするのは余程の兵か、或いは救いようのない馬鹿だろう。
「ふ。笑顔が素敵なお嬢さん。貴方の言う通り、確かに違和感を感じるかもしれない。だが……」
エインヘリアルが浮かべた微笑は、輝かんばかりに彼方達の胸を貫く。
「――っ!」
それは魅了の魔力だった。如何に彼自身に魅力が無いと断じた処で、それが防御策とはなり得ない。突き刺さる刃物に対して痛くないと強がるのと同じで、そして、それでは身体を貫く刃に太刀打ちする事など出来ないのだ。
アシュリーとローゼリアがその魔力に捕らわれなかったのは、防具の相性が故だった。しかし、彼方の回避は一歩遅れ、魅了の魔力をまともに受けてしまう。
(「……熱いっ」)
どくんと胸が疼く。心臓が跳ね上がる。この痛みは、この思慕の情は――。
「生まれ落ちた性分と言う奴でね。そう言う風に出来てしまっているのだよ」
「それはいわゆる性癖と言う奴だ。――目標捕捉……動くな!」
彼方にウインクするエインヘリアルに、リューディガーの威嚇射撃が突き刺さる。空砲に、しかし思わず足を止めてしまったエインヘリアルへケルベロス達のグラビティが殺到した。
「甘い言葉だけかけるヤツは注意しろっておばーちゃんが言ってたの!」
派手な爆発はフィアールカから。カラフルな爆風を受け、スームカを始めとした仲間達のテンションが上がっていく。
そしてスームカが跳んだ。エクトプラズムで作り出した斧は敵を唐竹割にすべく、ぶんと振り下ろされた。がちりと響く金属音は、その一撃をエインヘリアルの斧が受け止めたが故に。
「ふふん、戦闘ならちゃんと働きますとも! 活躍できなかったら目からバナナを百本食べて見せますよ!」
帳の抜き撃ちは星霊甲冑の籠手を打ち砕き、エインヘリアルの腕に血を流させる。どうやら此度、バナナの出番は無さそうだった。
「グラビティ・チェインの為に人間を食い物にするって言うのなら、あんたは私の敵だね。かかって来なよ。全力で迎撃してあげるからさ」
宙に浮いた蛍から降り注ぐ砲撃は、壁、道路、そして建造物を厭わず、エインヘリアルごと破壊していく。その様はまるで、爆撃機の様だった。
己の両手と斧を盾とし、破片から顔を守るエインヘリアルは、眉間に皺を寄せ、むぅと唸る。
「なぁ。あぁ言うのはタイプじゃないのか?」
剣戟と共にブラックスライムを付与するルルドの軽口は、ローゼリアに向けられていた。
はんと鼻で笑うローゼリアは流星の煌きを足に纏い、輝く飛び蹴りを以てエインヘリアルの機動力を削いでいく。
「アハハッ、大好きさァ、切り刻んでミンチにしてやりたいほどなァ!」
「魅力的な肢体の少女よ。それはご遠慮願いたいものだ」
エインヘリアルの視線はローゼリアが象る曲線に注がれていた。纏った殺気と狂気はされど、女性らしい膨らみとくびれを隠しきる事は出来ない。色好むエインヘリアルの興味を引く事は、仕方ないと言えた。
「容姿端麗にして忠勇無比。それだけならば湖の騎士そのままなのですけど」
騎士の中の騎士。円卓の中でそう謳われた騎士を思い出し、アシュリーは嘆息する。ならばこそ、と構えた槍から迸るは閃光。――真なる騎士すら拒んだ裁定の光だった。
「『聖杯』は、穢れた者を認めない――リミッターカット! 吼えろ、ロンゴミニアド!」
加速し、加熱した粒子がエインヘリアルの身体を焼く。上がる雄叫びじみた悲鳴は、苦悶の色を纏って響き渡った。
「本当に魅了させたかったら、もっともっと男磨いてきなよ」
生前、貴方のやっていた事は弱みに付け込むだけの物だ。唾棄の思いと共に喰霊刀が捕食した魂を飲み干す彼方は青き瞳に怒りを為、エインヘリアルを見据える。
判っている。目の前のこれは少女達を食い物にしていた下衆ではない。それが素体となっていようとも、転生体である以上、無関係な存在だ。
だが、性根に変わりは無い。何とかは死ななければ治らないと言うが、このエインヘリアルは。
「それには及ばぬよ。お嬢さん。私の魔力は貴方達を捉えて離さない。口でなんと言おうとも、心が私を求めている事に変わりは無い」
そう、と男は笑う。端正な顔立ちに、しかし、宿ったそれは醜悪な物だった。
「求めよ。さらば与えられん。私は貴方の欲求を満たそう。代わりに私はグラビティ・チェインを貰い受ける」
「腐った性格は、死んでも治らなかったようだな」
嫌悪の表情をリューディガーが形成する。
●神様が居てくれる
振り回されるルーンアックスの動きは最小限度に。その狙いは的確にケルベロス達のみを狙っていた。
「綺麗な戦い方、だけど」
振り下ろされた斧をアームドフォートの砲身で受け止めた蛍は皮肉気な笑みを浮かべる。
エインヘリアルは、そしてエインヘリアルを生み出した青のホスフィンは見た目に拘っていた。むしろ、拘り過ぎていた。それ故、男の戦い方が一種の舞踏の如く、周囲を魅了するような動きを取っていた事は事実。
つまり。
「見切りやすい、のよ」
斧の一撃を潜り抜け、螺旋の拳を叩き付けるフィアールカはふっと笑う。そもそもの狙いがフィア―ルカと蛍に絞られ、その軌跡も百戦錬磨のケルベロスにしてみれば稚拙と断ざる得なかった。二人がディフェンダーの加護を纏う事、そして多重の攻撃が彼女達を襲っても、スームカとラムレイによる2体のサーヴァントがダメージを肩代わりする事で、彼女達への被害は最小限度に抑えられている。
「格好つけるってのも大変だねぇ」
重力を纏わせた拳でエインヘリアルの身体を吹き飛ばしたルルドの評価に、返って来たのは「ぬかせ」と言う罵倒だった。
「求められたものがそうであるならば、何の不満があろう。私の存在価値が外見であるならば、それを誇示する事が私の忠義」
「いやはや。宮仕えも大変ですね」
帳の嘆息は誰に向けられた物か。
深い溜息と共に表情を真摯な物へと代えた彼は、唇をゆるりと開く。
零れるのは地の底から響く怨嗟にも似た呪詛――それが形成した呪歌だった。
「聞こえるでしょう? 怨嗟の声が。見えるでしょう? 貴方が踏み躙ってきた者の姿、水底に烟るその魂が! ――因果は巡るもの、少々女遊びが過ぎましたな」
「う、おおおおおおっ」
彼方の評した通り、生前の行いとエインヘリアルそのものに因果は無い。だが、帳の召喚した怨念達はそう受け取らなかったようだ。
まとわりつく手足はその成れの果て。食らい付く骨となった顎はその恨み。星霊甲冑ですら食い破る亡者の牙に、エインヘリアルの表情が恐怖で歪む。
「生前の行いを悔いろ、と言うのも詮無き話だが」
電撃を帯びた突きを見舞うリューディガーの表情はあくまで険しい。
「判断能力の無い子供を狡猾に騙し、搾取した貴様の罪だ。まして、今、人々のグラビティ・チェインを搾取しよう等との行いを許す訳にいかん」
あの世があればそこで後悔しろ。主も送り届けてやる。
それは痛烈な罵倒だった。静かに、だが、彼の怒りを体現するように、深くエインヘリアルに突き刺さって行く。
「寒い? 冷たい? 温まりたいなんて願いは叶うことなく。あなたはここで絶たれる運命なの、受け入れてね」
そして、彼方が詠唱を紡ぐ。
極低温の魔力を纏う抜刀はエインヘリアルを袈裟懸けに切り裂き、その傷口を冷気で覆っていく。そこに慈悲は無い。温まりたい。生きたい。その望みすら喰らうよう、喰霊刀はぶるりと身震いする。まるで、怯え切った魂を喰らう事を喜ぶように。
「さて、終わらせよう。あんたの覚悟を聞く気はないけどさ」
突き刺さる無数の弾丸は蛍の放つ砲撃だった。
主砲、副砲。全ての砲撃を一身に浴び、エインヘリアルは仰け反り、踏鞴踏む。まだ倒れないのは、彼の抱く矜持だった。――そのような美しくない行いを、認めるつもりは無かった。
「ケル、ベロス――」
故に吼える。咆哮は魔力と化し、彼を襲う害悪達を切り裂く。そこに秘められた魅了の魔力は、彼への害為す物全てを排除する導きへと転じる筈だ。
その筈だった。
「ラムレイ!」
「スームカ!」
魔力を蹴散らすのは排気音と共にルルドの前に飛び出したラムレイ、そして蛍への魔力を一身に浴びるスームカだった。サーヴァント達と同じく前線に立つフィア―ルカ自身は唇を噛み締め、その魔力を耐える。身体に纏うは舞台衣装を改造した防具。浴びた脚光を思えば、この程度の魅了など、些事に等しい。
「貴様ら――」
魅了の魔力は働いた。ラムレイとスームカはエインヘリアルに従うよう、ケルベロス達に敵意を示している。
しかしそれも、このタイミングでは意味を為さない事を誰もが知っていた。
「遅かったな」
アシュリーの槍撃を受けたエインヘリアルへ、ルルドは苦笑を向ける。
これが治癒能力を持つ者への魅了ならば話は変わって来ただろう。だが、その試みは失敗に終わった。ならば、彼に待つ物は一つだけだ。
「これなるは女神の舞、流れし脚はヴォルガの激流! サラスヴァティー・サーンクツィイ!」
「アハハッ、容赦なくやらせてもらうゼェ?」
肉薄する小柄な体躯はフィアールカ、そしてローゼリアだった。
膝、踵、脛、爪先、そして甲。舞うように放たれたフィアールカの蹴撃と、黒死蝶、死青蝶と名を持つ対のナイフから繰り出されるローゼリアの斬撃乱舞は、エインヘリアルの身体を切り裂き、梳っていく。
そして、横殴りの足刀が一閃した。フィアールカの蹴りとローゼリアの回し蹴りがエインヘリアルの頭を捉え、吹き飛ばしたのだ。
「燃えろ、その宝石が尽きるまで」
体術と斬撃に動きを封じられたエインヘリアルへ投げ付けられるは、ブラックスライムの一撃だった。
肉を喰らい、骨を喰らい、果ては星霊甲冑まで。
ルルドの命の下、エインヘリアルを覆った濃紺色の焔はやがて、そこに何も残す事無く、全てを喰らい尽くしていった。
●Gott ist todt
「終わった。終わったでありますよ! 早く帰って寝たいであります!!」
「その前にヒールだな、局長殿」
塵すら残さなかったエインヘリアルの最期を見届けた帳の台詞に、冷静なリューディガーの言葉が突き刺さる。
流石に戦闘跡。裏路地とは言え、半壊に近い有様を晒す風景を前に、面倒臭いやら申し訳ないやら、色々な感情が浮かんでは消えていく。
「みんなでやれば早いの! 頑張ろう、局長!」
「アハハッ。そうだゼェ。もうひと踏ん張りだ、局長ヨォ」
「……と言うか、殆どこれ、壊したのは本官達――」
フィアールカとローゼリアの声に重なる悲鳴は、しかし、誰も聞かなかったことにした。
「……青のホスフィン」
ヒールの最中、険しい顔をアシュリーが形成する。
「終わらせなきゃ、ね」
「ええ。こんな事、認めてはいけない……」
全ての元凶たる炎彩り使いの存在に、蛍と彼方も嫌悪の表情を浮かべていた。あれが残る限り、この悲劇は繰り返されるのだ。
「……だったら、終わらせなきゃならねーだろう」
見つけて、全てを清算させる。
ルルドのそんな独白は、夜の闇の中に消えていく。
作者:秋月きり |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2018年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|