いちごのしあわせ。

作者:七凪臣

●不条理な苺
 くるくる、ひらり。
 甘くデコレーションされたスカートの裾を愛らしく躍らせ、とんっと爪先立ちで軽やかなダンスを終えた少女は、恭しく腰を折ると真っ赤に実った苺を一つまみ。
 そのまま唇に運ぶと、愛おし気にかぷり。
「!」
 直後、頭上にぴんと立ったウサギ耳は、警戒の証。ぷくぅと膨らんだ頬は、不満の証。
「このイチゴはいまいちですぅ。私にふさわしくありませんー!」
 言うが早いか、可憐な少女――甘菓子兎・フレジエはくるんと半回転。
「こんなイチゴは必要ありません! めちゃくちゃにしちゃってくださぁい」
 こてんと小首を傾げ背後に控えた二体のストロングベリーに命じると、
「さぁ、私はつぎへいきましょう。こんどは私にお似合いな、ぴかぴか美味しいイチゴと出会えるといいんですぅ♪」
 甘く歌うように笑って、魔空回廊へ気儘に姿を消してしまう。
 さすれば残されるのは苺頭のムキムキマッチョ。
 彼らはフレジエの命令通り、収穫を待つばかりの苺たちへ無慈悲な手を伸ばす。

●苺メロンパンとの出会い
 大阪府近郊の苺農園が攻性植物に襲われる事件が起きる。
 発端は、爆殖核爆砕戦。大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物たちが動き出したのだ。目的はおそらく、拠点拡大。大阪市内を中心に事件を多発させ、一般人を遠退けようとしているのだろう。
「決して大規模な侵攻ではありません。しかし放置すればゲート破壊成功率もじわじわ下がってしまいます。それに異変に気付き駆けつける農家のご家族が被害に遭われてしまうんです。これだけは絶対に阻止しなければなりません」
 甘菓子兎・フレジエの姿は既にないが、配下のストロングベリーが農家さんを襲う直前には間に合わせますとリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は請け負い、戦うケルベロス達に必要な情報を詳らかにする。
 場所は露地栽培の苺畑。
 二体のストロングベリーは苺ヘッドで頭突きしてきたり、苺のつるでこちらの身を縛めたり、全身に実る苺を投げて攻撃してくるらしい。
「見通しは良いですし、邪魔になるものはないでしょう。罪のない苺を気遣うのであれば、畑と畑の間にある農道へストロングベリーを誘導してみてください」
 互いの位置取りを気を付ければ、ケルベロスの皆さんならさほど難しい事でもないでしょうと太鼓判を押し、リザベッタはそれまでとは異なる緊張感を纏う。
「実はこの農園のすぐ近くに近所でも評判のベーカリーがあるんです。名物は、こちらの農園から仕入れた苺をふんだんに使った苺メロンパンらしいのですが――」
「まぁ、メロンパンが有名なのですね! でも、メロンなのに苺なのですか?」
 キラキラキラ。苺のような赤い瞳に、興味の星々を無数に瞬かせるラクシュミ・プラブータ(オウガの光輪拳士・en0283)の様子に、リザベッタは「えぇ」と眉を下げて笑む。
「メロンパンはメロンの形をしていることから、メロンパンと呼ばれるようになったそうですよ。こちらの苺メロンパンはほんのりピンク色のふわふわさくさく生地の中に、甘酸っぱい苺ジャムが沢山入っているそうです」
「それはとても美味しそうですね」
 にこにこにこ。目映いばかりの微笑みを振りまくラクシュミに、リザベッタは曖昧に頷きを返す。予知した事件現場の近くに美味しいメロンパンがあるとなったら、こうなる可能性もあると思っていたのだ。
「ラクシュミさんも行きますか?」
「はい、私でお役に立てるなら! 皆さん、どうぞ宜しくお願いしますね」


参加者
クィル・リカ(星願・e00189)
天見・氷翠(哀歌・e04081)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
花露・梅(はなすい・e11172)
宵華・季由(華猫協奏曲・e20803)
ルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)
セリア・ディヴィニティ(忘却の蒼・e24288)
楠木・ここのか(幻想案内人・e24925)

■リプレイ

●苺の守り人
「ミコト、あれは食えないから」
 宵華・季由(華猫協奏曲・e20803)は、自分の頭の上から敵へ熱い注ぐ垂れ耳翼猫を制す。
 真っ赤に熟れた苺頭のマッチョメン。『可愛い』『美味しそう』と『強そう』『不気味』の間を彷徨う絵面は、アンバランスさが極まって何ともシュール。
 だが、あれも危険なデウスエクス。
「畑は私達が守るですから、今は避難をお願いするです!」
 大事な畑での騒ぎに駆けつけた農家一家の数は三。彼らを視界に捉えるや否や、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は警鐘を告げると、強く踏み締めた農道からアームドフォートの主砲を火吹かせた。
 牽制に真理のライドキャリバー『プライド・ワン』も疾駆する。なるだけ畝を選んだ走行だった。しかしたわわに実る苺も無害ではいられない。
(「苺さん……」)
 ストロングベリーに無造作に踏みつけられた苺を悼む天見・氷翠(哀歌・e04081)は、戸惑いを振り切るように背へ薄青を帯びた白翼を広げ武術棍を構えると、低く翔け出す間際に声を飛ばす。
「大丈夫、大切に育てた苺さんも。頑張って、守るよ」
 多くは語られなかった。だが、苺農家の人らが察するには十分だった。
「こっちよ」
 農道に陣取ったセリア・ディヴィニティ(忘却の蒼・e24288)は、ストロングベリーたちの頭上に槍の雨を降り注がせ気を惹く。
 ――さぁ、あなたの敵は此処。だから『此処』まで来なさい。
『……!』
 ずしずしと重い足音を立て、ストロングベリー達がケルベロス目掛けて畑を走る。迎え撃つのは氷翠の風切る一打が先。そしてそれを跳ね返すような頭からの突進へは、真理と季由が迷わず身を投げ出した。
 交差する二人と二体、計八本の脚。されどいずれも、もう苺を踏んでいない。
(「これで遠慮は不要です」)
 敵を農道まで引き寄せるのに成功したのを見止め、クィル・リカ(星願・e00189)は一気に渾身を放つ。
「咲き裂け氷、舞い散れ水華」
 狙いは真理と氷翠の攻撃を被っていない方。クィルは己が周囲に展開させた光る水で象った華で敵を刺し貫き、攻性植物の体躯を構成する幾本も弾けさせる。
「すみません、宜しくお願いします」
「お任せよ! 悪趣味なムキムキマッチョな苺頭なんて、速攻で滅殺よ!」
 クィルに続いたルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)は農家の願いを自信満々で請け負うと、すかさず敵の背後へ回り込み、
「お前には分かるまい! 私の身体を通して出る力が! 滅殺!!」
 作り出した三体の分身と同時に衝撃波を放ち、追い打つ突撃で攻性植物の体力を一気に削りにかかった。
 農家の人々を難より遠ざけ、農道を戦場とすることで苺も守る。
(「ここまでは、狙い通りだな」)
 順調な成り行きに白磁の貌へ美しい笑みを描いて、季由は真理と自分の癒しを兼ねて甘いチョコレート色のオウガメタルの力を借りる。かぶり付くのを堪えたミコトも清らかな羽搏きで主の意に応えた。
「愛情込めて育てられた苺畑に何たる仕打ち!」
 くるり、くるりと軽やかに舞うのが似合いの楠木・ここのか(幻想案内人・e24925)も、無慈悲を前に素直な怒りを発露させ。
「悪い苺さんは、この私が成敗します! 死ぬまで踊りなさい」
 ストロングベリー二体まとめて、足元から炎の渦に飲み込む。
 ぶわりと膨れ上がった赫は攻性植物の身に自然には消せぬ炎を灯す。その様子は、さながら焼き苺。ここのかの足元からちょこまかと駆けた継ぎ接ぎ姿のテレビウムの一撃にも、炎は更に激しさを増す。
「えぇ、えぇ。確かにこのような敵は許せませぬね!」
 愛用の梅柄のぶかぶかキャスケットに今日は苺のマスコットを揺らし、花露・梅(はなすい・e11172)も小振りな翼をばたつかせて奮起する。
「わたくしも回復でしっかり支えますゆえ、皆様はどーんとやってしまって下さいませ!」
 言うが早いか虹色の光のヴェールで梅は真理らを包み込み、「わたしも同じ覚悟です」とラクシュミも仮初めの光の翼を仲間へ与え傷を癒した。

●打倒マッチョ
 それにしても、だ。
(「ストロベリーなのにマッチョ……!!!」)
 後方から敵の挙動をしげしげと観察すればするほど、梅の目の座り度が増してゆく。
 ――そして。
「正直、可愛くありません……! これは由々しき事態です……!!!」
 幾手かの攻防を経た後、梅、きっぱり言った。言い切った。だって乙女にとって苺モチーフは可愛いが絶対。それに真っ向から立ち向かってくるマッチョな敵は、存在自体が大・問・題!
「そうなのよね……」
 ぷんぷん怒りでぴょんぴょんぴょん跳ねながら回復を振りまく梅の意見に、セリアも激しく同意。
 苺と言えば、見た目も愛らしい甘美な果実。だのにどうして、眼前の敵は態々こんな姿を象って顕現してしまったのか。
 魂や命の在り方は、それぞれ多様であるべき。セリアもその事は十二分に解ってる。解ってはいるがだがしかし!
「……それでもお前達だけは、ないわね……。如何に外宇宙からの侵略者と言え、現地に於けるパブリックイメージというものを考えなさい……」
 盛大な溜め息を吐いたセリアは、牽制の真理のミサイル大量投下を追って光の戦輪をストロングベリー達へ放つ。
 苺イコール可愛い。そう定義付ける者らにとって、見てくれからが苺の冒涜に等しい敵。しかも丹精込めて作られたろう苺たちを省みることさえしない敵。
「折角実をつけた苺を踏みつけるような真似、理解しがたいですね。一体ふさわしい苺とは、どんなものだと言うのでしょう」
 理解しがたい、と言いつつ。懇切丁寧に説明されたとしても彼らとその主の暴虐ぶりを理解するつもりのないクィルは、怒りを覇気に変えてデウスエクス目掛け飛翔する。
「ひと粒も口にして頂きたくないですよ、もう」
 クィルの箒星の煌き宿す蹴撃に、打たれた一体の膝が文字通りに崩れた。そこへルリィがチェーンソー剣を手に襲い掛かる。
「全く以て、同意見です!」
 超然とした強気の令嬢ぶりを如何なく発揮して、ルリィはストロングベリーの身体を更に解き壊す。
 高威力の破壊力を有すクィルとルリィの二人の集中砲火を浴びる攻性植物の命は、既に風前の灯と化していた。
 片方へは牽制に留め、主力は定めた標的へ集中させる。各個撃破の定石を踏んだケルベロス達の策は、攻性植物殲滅という成果へ近付きつつあった。
 然してまた一手、季由は敵の攻撃を受け止める。戦い序盤で氷翠が仕掛けた武力を封じる妨げが効果を発揮しているのは、盾を担う者にとって正直とても有り難かった。
(「美味しい苺メロンパンを食べられるよう、頑張ろう――ロゼも、待っている」)
 そしてミコトから翼の癒しを貰い受け、後から駆け付ける秘めし想い人を胸に、季由は自動追尾の矢で敵を穿つ。
「手早く、終わらせてしまいましょう」
 後に控える美味と夢見る一時を想い、ここのかの指にも力が入る。結果、華奢な乙女らしい指先から放たれた影の弾丸は、常ならぬ破壊力を発揮し、弱り切ったストロングベリーの苺頭の半分を吹き飛ばした。
 ぐぎぎ、ぐぎぃ。
 苦痛を不安定な挙措で示し、デウスエクスは尚もケルベロスへ襲い掛かる。
 その戦い方は、デウスエクスの執念というべきもの。或る者にとっては醜悪にも映るだろう。
(「終わらせなくてはいけないのなら、せめて――」)
 されど敵の命も味方の命も、等しく憂う氷翠にとっては哀れなもの。
「……癒しの願い、命の想い、光雨となりて降り注げ……」
 ならば早期の解放を祈り、哀歌の天使は慈雨が如き光で仲間の身体能力を向上させた。

 そして氷翠の願った通り、戦いは急速に終幕へと進み征く。
「此方、落とせますです」
 残り香の如き渾身の頭突きを喰らった真理が断言する。
 果たしてその読みは正しかった。
「これで終わって下さい」
『……、っ!』
 鋼の鬼と化したクィルの拳に、遂に一体のストロングベリーが全身の苺を地面へ落として命を散らす。
 残った一体も攻撃が儘ならないのか、足を縺れさせて農道に転倒した。
 その緑の手が、全ての苺を呪うように地面を掻く。全て滅茶苦茶にしろと命じられたのだ。邪魔なケルベロスごと、蹂躙し尽くさねば。
 だが、そんな妄執を笑い飛ばすようにルリィがストロングベリーの前に立ち塞がる。
「残念。逃がさないし、許さないの。さぁ、これからフルボッコにしてあげる!」
 この敵は、苺を冒涜したモノ。罪なき農家の人々を危険に晒そうとしたモノ。
「苺さんの名誉回復の為にも、わたくし達は存分に苺を楽しまなくてはならないのです! 故に、苺ハンターこと花露梅。このピンチを絶対に何とかしてみせますとも。皆様の平和のため、苺の平和のため!!」
 意気揚々と宣誓し、梅は全霊を賭した回復でケルベロス達を鼓舞しまくる!

●完遂
 強敵も数が一になってしまえば、後は早い。
 九人のケルベロスと三体のサーヴァントが織り成す網に逃れる隙はなく、運命は『終わり』に向かって直走る。
 クィルが咲かせた水の花に生命凍らせる一撃を浴びせられたストロングベリーへ、分身体らと一丸となったルリィが繰り出した衝撃波からの連撃に、デウスエクスは千鳥足を踏んで余力の残り少なさを誰の目にも晒す。
 全てはケルベロスたちの思惑通り。
 満足ゆく結果を前に季由は黒絹の髪で風を切り敵へ肉薄すると、白く輝くボーンチャイナの指で緑の体表を引き裂き、命を啜り上げる。置いていかれたミコトも、足を踏ん張りキャットリングを放った。
『――、……っ!』
 怒涛の攻勢に、膝を農道についたストロングベリーが天を仰ぐ。だが苺頭が見たのは救いの神ではなく、紫陽花色の髪の女。
「さようなら?」
 蝶の舞のような斬撃でここのかは緑マッチョに灯る炎らの激しさを増させ、テレビウムも振り被る凶器でここのかに続く。
「……苺さんは。滅茶苦茶にされたら、次の命も繋げない――だから」
 階の終点を見据え、氷翠も魔法のブーツで空へ翔ける。
(「おやすみなさい」)
 悼む祈りを心で捧げる氷翠の星散らす蹴りに、デウスエクスは上体をも地面に沈ませた。
 ひたすら務めを全うしようとする者、あらゆるものへ哀れを抱く者。戦いに際する人の心理は様々だ。近付くご褒美に胸躍らせる者も、その一部。
「さぁさ、困った筋肉苺さまにはご退場頂きましょう――忍法・春日紅!」
 癒しの任から解放された梅は、ここぞとばかりに一族伝来の技を踊り、ラクシュミも伸ばした金色の角で人々を危機に晒すモノを穿つ。
「苺メロンパン……初めて聞いたですが美味しそうですね」
 長らく抑えに徹した真理も、自由と未来を噛み締め、自身で改造したチェーンソー剣を振り翳した。
 クールで通す真理だが、恋仲の相手を呼び寄せているのだ。さすればムキムキな苺頭には須らく退場頂くより他に無し。
「後はお任せしますです」
 誰かが肩口に刻んだ傷を広げるだけ広げ、プライド・ワンの疾駆を見届けた真理は、仕上げをセリアへ託す。
『……!』
「……!」
 そこで苺頭と目があった気がした――そもそも何処が目なのかいまいちよく分からない――セリアは息を飲んだ。終わりに怯んだ苺頭を、一瞬だけ苺メロンパンに空目してしまったのだ。
 思えば近頃、甘い物に釣られているのか、はたまた因果に引き寄せられているのか、どちらがどっちなセリア。誇り高き騎士槍を手にしていても人間換算年齢は十七だもの、それも已む無し。
「――。此の手に宿すは氷獣の爪牙。――噛み砕け」
 前に置いた深呼吸は、気を取り直す為のもの。斯くして光翅の戦乙女は、強靭な鎧をも貫き得る凍てる一閃にて戦いに終止符を打った。

●いちごのしあわせ。
 大繁盛のベーカリーは、お連れ様はお一人までがお約束。「私の分も楽しんでね!」とユーロに送り出されたリーナは、お疲れ様のルリィへぴょんと抱き着く。
 お呼ばれ組も追いついて、始まる苺の幸せタイム。

 メロンパンなのに苺。苺なのにメロンパン。
「これを矛盾と捉えるのか、それとも折衷と捉えるか……」
 苺の汎用性に感じ入りつつ、セリアはほんのり苺色なメロンパンを前に思案に暮れる。
 概念とは個々の感性に因る処も大きく、セリア自身はこのマリアージュを悪くないと思うのだけれど――……けれど。
「わたくし、梅も好きですが苺も好きなのです……!」
 ふわふわ生地に、溢れんばかりの苺ジャム。贅沢に思いっきり頬張れば、わたくしもう幸せ過ぎて死んでしまいそうっ!
 隣にはむはむふがふが幸福マックス状態の梅がいれば、セリアの悩みも長くは続かず。甘味を求める戦乙女も、いざはむり。
「――これは、癒し」
 荒事ばかりでは荒みかねない心に、程よい甘味は命の潤い。魅惑の苺メロンパン、まさに至福。
「ラクシュミさんはどう?」
 水色もほんのり苺色な紅茶と雲のようなパンを楽しんでいた氷翠がラクシュミに訊ねると、「大変、美味しいです」と前のめり気味な是が煌く瞳と共に返る。
「メロンパンや焼肉の他にも好きな食べ物は見つかった?」
 そう問うたのは、ラクシュミへ最初にメロンパンを薦めたルリィ。対する応えは「様々が目新しく興味が尽きない日々です。地球は本当に素敵ですね」といった満面の笑み。
 地球ライフを存分に満喫している様子にルリィもまた笑顔になり、
「リーナさんも苺メロンパン、気に入られたようですね」
 ラクシュミの微笑に、リーナが黙々と苺メロンパンを口に運び続けているのに気付く。
「甘いものは幾らでも入るね……」
 そうして、二個、三個とぺろり平らげるリーナの食べっぷりは実に圧巻。
 ラクシュミを中心に寄せたテーブルで語らう乙女たちは賑やかに。
 またの機会やお料理会をルリィが提案すれば、氷翠は可愛らしい苺メロンパンのお持ち帰りを思い付き、梅は苺ミルクのお代わりに緑の庭を跳ねる。

 こくりと苺ミルクで喉を潤し、サクサクの幸せを薔薇色の唇でかぶり。
「!」
 思い切りよく苺メロンパンを味わって、その美味しさに瞳に星々の煌きを瞬かせるロゼの仕草一つ一つに、季由の裡には歓びが溢れる。大好きなアイドル歌手で、心から応援する人。想いが叶わないのは知っていても。こうして『嬉しい』を共有できるのは、やっぱり幸せ。尤も――。
「甘くてさっくりで、とっても美味しい!」
(「メロンパンも美味しいが、君の笑顔が何より美味しい……なんてな」)
 季由の最大の幸福は、そこなのだけれども。
「きゆ、ぼんやりしてるからミコトに取られちゃったじゃないですか。ほら、きゆもあーん!」
 ミコトの悪戯、ロゼの優しさ。廻り来た思わぬ『半分こ』の幸せは、季由にとって特別の味わいになる。
「お疲れ様、真理」
 お茶の用意は万全。真理を迎えたマルレーネは対面配置の椅子を隣へ移動させ、恋人同士の時間に勤しむのに余念がない。三角屋根の作り出す日陰に、白い木製のテーブルセット。色鮮やかなポピーに彩られる庭なんて、どれだけ絶好のシチュエーション。
「はい、あーん」
 甲斐甲斐しく差し出された苺メロンパンに口を寄せ、はむりと食んで、真理は気付く。
「マリー、ちょっとです」
「?」
 見つけたのは、唇についた苺ジャム。と、なれば勿論。指で掬って、パクリと舐めて。
「……美味しいですね?」
 果たして『何』が美味かはさておき。残る気恥ずかしさも、甘い時間の良いスパイス。

 いったいどんな味なのだろう? 可愛らしいピンク色の見た目は、とっても甘そうでもある。
 しかし。
「……これ、中に苺ジャムが入ってますよ。ジエロ、ほっぺが蕩けちゃいそうです」
 ワクワク顔から一転、満開の幸せを綻ばせるクィルにジエロも納得。爽やかな酸味を残したジャムは大人なジエロにも驚きと歓びを齎す。だから「ね、せっかくなので飲み物は苺フレーバーの紅茶にしませんか?」の提案にも、一も二もなく頷いて。
「こんなに美味しいのが作れたらすごいなあ」
 自分が運んだ紅茶と一緒にパンを食み、何やら思案気なジエロの様子にクィルは笑みを深める。
 一緒に作りたいと考えているのだろうか。
「ふふ、苺づくしですね」
 そう出来たら、きっともっと美味しくなる予感に、クィルはまた一口、苺色の幸せを頬張った。

 幸せそうに苺メロンパンを口に運ぶここのかの、何と愛らしいことか。告げてしまうと、恥ずかしがってしまうだろうから。ルークは密かに笑むに留め、彼女が食べ終わるのをじっと待ち――。
「おや、ここのか。お口にジャムが――少しだけ僕の方を見ていて……ん、甘い」
「……、~~~!! あ、あの、今のって、その……!」
 手元が空になったここのかは、ルークの言葉にきょとりと従い、耳まで苺色に一気に染める。だって、ここのかの口元を拭った指先が運ばれたのはルークの唇。これはひょっとしなくても、間接キスになってしまうのではっ!
 苺メロンパン以上に、甘酸っぱい一時。楽しい時間はあっという間と言いはするけど。
「ここのかと過ごす時間ほど、そう強く感じるようになった。君も同じ気持ちなら嬉しいな」
「わ、私も……同じ、気持ちでっ」
 重なる気持ちの謎解きは、未だ。
 この時間が続けば良いと思い合う二人の答えは、きっと明らか。けれどもどかしさを胸に、未来の甘い関係を夢に見る。
 今日という日を、大切な思い出の一頁に刻み。

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 2
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