リフォーマット・ラブ

作者:のずみりん

 襲い掛かった異常に、アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)の判断は迅速だった。
「テロス・クロノス!」
 静止した廃墟の時間を動く彼女に空間がねばりつく。未知の感覚に必死で抗い、元凶たる蝙蝠じみたスピーカー付ドローンを撃ち落とす。
「その力、やっぱりそうだ……!」
 動き出した時間に昂った声が響く。荒い息で振り向くアーニャの前には、サキュバスのアイドルにも見える……しかし何処か自分の面影を感じるダモクレス、ツーテールの少女。
「シュネール……イーツ……」
「あはっ、憶えててくれてたんだっ! じゃあ話は早いよね」
 アナ・シュネールイーツ……自分と源を同じくする姉妹機の三女。魅了と疑似催眠魔眼を与えられた洗脳タイプ。
 先ほどの攻撃もその一環だったのか? 考える間にも、アナのよく通る高い声が心を惑わしてくる。
「連れて帰るなんて面倒しないんだからね! この場で、すぐに戻し……」
 アナの目が輝きだすのを待たず、アーニャは廃墟の路地へ身を投げた。自分をどうするつもりか? あの攻撃は何か? 確実なのは捕まればやられるということ。
「逃がさない! テロス・イーリス!」
 止まるわけにはいかない。宿縁の声に重くなる手足をアーニャは必死に動かした。

「アーニャ・シュネールイーツがダモクレスに襲われた」
 予知された邂逅に集まったケルベロスたちへ、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は開口一番、緊迫した様子で告げた。
「確認された敵機種は『アナ・シュネールイーツ』……名前や予知から察するに、ダモクレスだった頃のアーニャの姉妹機……同系列の相手と思われる」
 配下や姉妹機はいないようだが、油断は決してできない。
 アーニャが時間干渉機能の試作実験機だったように、アナもまた特殊機能の試作実験機であり、その能力は『洗脳』……配下がいないのは敵より奪い取ればいいという自信ですらあるのかもしれない。
「アーニャは首都圏内の市街から廃墟方面に逃れたようだ。すぐにヘリオンを出す、彼女を救出してアナ・シュネールイーツを撃退して欲しい」
 周辺地図と共にリリエはケルベロスたちに依頼した。

 予知ではひとまず逃れたアーニャだが状況は芳しくない。戦場となる廃墟は身を隠せる建物が多く残っており、市街戦となる可能性が高い……洗脳とかく乱を得意とするアナには非常に有利な地形だ。
「相手はアーニャの事を相応以上に調べているようだ。最初から想定して誘導されたのかもな」
 アナの能力はおよそサキュバスに近い。まず特徴である擬似催眠魔眼……擬似とあるが範囲を狭め効果を高めた発展型と言った方が近いかもしれない。
 これにパラディオンのものに似た魅了の歌声と、それら効果を増幅するスピーカー型ドローン……名づけるならラウドドローンといったところか。
 歌声はパパライズに似た束縛の効果を、ラウドドローンは彼女の洗脳能力を増幅させる働きがあるようだ。
「それと最後に彼女は少しだけ見せた……名乗りに則るなら『テロス・イーリス』というグラビティ。原理や範囲などは不明だが、効果としては石化に近いものだと思う」
 他の能力から推測するに何らかの催眠、洗脳の類によるものなのだろうか? 他のグラビティと合わせ、対策を整えて当たらなければ厄介なことになるだろう。

「ダモクレスの考えはわかりませんが……アーニャさんが彼女の手に落ちることは絶対阻止しなければなりません。絶対」
 ソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)は前置きしながらも、力を込めて言う。
 わからないがゆえに恐ろしいものもある。このままアナの為すに任せれば、アーニャというレプリカントの存在が消えてしまうかもしれないと。


参加者
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)
唯織・雅(告死天使・e25132)
櫂・叔牙(鋼翼朧牙・e25222)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)
御春野・こみち(シャドウエルフの刀剣士・e37204)

■リプレイ

●What’s Done is Done?
 空気が重い。
 足がもつれ、つまづく。
 受け身もとれぬアーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)の視界に地面が急接近する。
「危ないっ」
 目をつぶる瞬間、衝撃と共にグイと頭が引っ張られた。
「怪我なんてさせないでよ、お姉ちゃん」
「やめて、アナ……!」
 良くした顔は目と鼻の先にあるのに、抗議の声は届かない。
 掴んだ美しい銀の髪をなで、ダモクレス……アナ・シュネールイーツは愛おし気に目を細めた。
「アナ、聞いて……! 地球もこの星に住む人々も、お母様が言う様な価値の無いものじゃない! 私は心を得る事で理解したの……もうダモクレスには戻らない!」
「ダーメ。悪いところ、治さなきゃ。アナのお姉ちゃんはそんな顔しないよ……?」
 アーニャの決死の説得を、エコーがかった声が塗りつぶしてくる。がっちりつかまれ動かぬ顔に、少女の瞳が妖しい輝く。
「なかなかの再現度だけど……催眠はただ頭を揺さぶるだけじゃあダメよ?」
 咄嗟、身を引くアナ。分かたれた姉妹の間を、デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)の声と冷気、星降る闘気の三重奏が切り裂いた。
「誰よ ムカツク!?」
「HAHAHA! どうでござるかな? いつもとは逆の立場は新鮮でござろう」
 ご期待通りにと瓦礫の上から逆落としで参上するカテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)。呆気にとられるアナが致命的な数秒を浪費する最中。
「銀河随一の、お節介。ケルベロス……只今参上、です」
「ミッション、孤立した友軍機の救出及びダモクレスの撃破。作戦行動、開始」
 白と黒、あるいは光と闇をはためかせ唯織・雅(告死天使・e25132)、その輝きを反射させたリティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)の白が螺旋を描いて着地する。
「敵戦力確認……データベース照合……敵機はサキュバスの能力を模した攪乱兵装の模様。データリンク」
 羽音に振り向くアナめがけ、展開される『スカウトドローン』。雅を経由して送られた情報に、雌獅子にも似たウイングキャット『セクメト』のキャットリングが、冷気の靄を切り裂いた。
「こ、このクソ猫ッ!」
 アナが振り払うまで、ほぼ一手。数秒の隙が一手ぶんまでに伸びた。アーニャは降り注ぐ紙吹雪のなか、止まりかけた身体が解れる感覚に気づき、一手の隙を機動する。
「星辰結界、展開完了しました」
「お手伝いします、アーニャさん! こちらへ!」
 降り注ぐ雨は御春野・こみち(シャドウエルフの刀剣士・e37204)の紙兵散布、光はソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)の描くスターサンクチュアリ。
 頷き、飛び退きながらアーニャはライフルを斉射。ポッドを内蔵したアナの翼が小さく爆ぜる。
「お姉ちゃん、なんで……っ!」
「アナ……貴女を、このままには、できない……そのために、心を失うわけには……いかない」
 徐々に小さく、最後は消え入るような声の叫び。
 夢喰いの残滓が封じられたドラゴニックハンマー『求道氷槌』を手に、リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)は複雑な表情でレプリカントの姉妹を見守る。
「出力リミット、ミリタリーまで解放……仕掛けますか?」
「アーニャの意志を、尊重しよう」
 同じ気持ちはあったのだろう。櫂・叔牙(鋼翼朧牙・e25222)の確認するような問いかけに、リカルドは彼と自分自身にそう告げた。
 彼女の意志は揺れている。最善ではない決断だろうが、ためらわず最善を選べるなら自分たちは『こちら』側にいなかったはずだ。
「わかったよ、お姉ちゃん……そいつらなんだね? お姉ちゃんのお友達」
「SYSTEM CO……お、オトモダチ?」
 指を突き付けるダモクレスの少女に、前に出たマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)は思わず開いた逆手で自分を指す。
 荒事に身を置くものとしてスラングや罵詈雑言は慣れたものだが、お友達とは。
「そうなんでしょっ! お姉ちゃんの、悪い、悪いお友達っ!」
 キンとトーンが一段あがる。聴覚センサーを震わせる叫びに、ドローンが大きく羽ばたいた。

●Loudness Love
「やめて、アナ!」
「みんな壊れちゃえばいいよっ! テロス・イーリス!」
 アナの、ラウドドローンの翼が謳う。音の衝槌がケルベロスたちを貫き、ビリビリと揺さぶってくる。
「遠隔スピーカーユニットとは……中々、レトロな物を……出力、『Crystal Funnel』にバイパスっ、雅さん!」
「及ばずながら、お貸しします! 防壁陣展開!」
 叔牙と雅の2セット計二十四基の『Crystal Funnel』が、雅の構える『Guard of Aegis』に並び半球を描く。
 そこにフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)のシールドローンが描く『紅紫防壁陣』を加え、ようやっと咆哮は抑えられた。
「アーニャさんを、お願いします。想いを、届けてください……!」
 激しい衝突に爆ぜる端末。フローネに頷く展開された叔牙の背部放熱ユニットは赤熱し、早くも熱暴走を警告している。
「DETECT UNKNOWN! R/D-1 ANALYZE……ANALYZE!」
「敵は相手を攪乱し、戦線を切り崩すことに長けていると思われる……単騎での遭遇だったのは幸いね。主力部隊の後方から相手を攪乱すれば、戦局を覆すこともあり得るわ」
 正体不明の攻撃を分析するマークへ、リティは回収したドローンからの情報をリンク、警告する。
 恐ろしい能力だ。最善の運用をされれば、誰だけの命が失われていたか……行われなかったのは精神の未熟さを考慮してか、個人的なワガママゆえか?
「わからなくていいんだよ? アナだけを見てればいいの……すぐ楽になれるから……」
「っ!」
 声のトーンが変わった。遠ざかる意識にリティは咄嗟、ワンドサイズの『電磁施術攻杖』を自身の腿へ突き立てた。
 自らを巻き込むライトニングウォール、雷撃の衝撃が意識を強引に戻させる。
「催眠です! 圧力が増しています、意志をお強く!」
 こみちの声が聞こえる。果敢に伸ばした『欲望を掴む腕』の雷のごとき突きが、敵ドローンの一つを叩き落とす。
「アーニャさんとアナさんは姉妹だってお聞きしました。その、わたしは一人っ子ですけど……それでも、お姉ちゃんや妹から命を狙われたらと思うと……っ」
「お姉ちゃんは、アナと話してるんだよっ!」
 殺意を帯びた催眠の魔眼が声を遮る。
「こみちさん!?」
「CGW ACTIVE!」
 目耳から血を吐くこみち。間一髪、マークの展開した『Counter Gravity Wave』が少女の命をつないだ。
「……これ以上は、アナっ!」
 叫びと共にアーニャのフォートレスキャノンが圧力を増す。向けられる怒りと決意は、勝ち誇るアナがたじろぐに十分。
「だってお姉ちゃんを、邪魔するから……!」
 後ずさるアナの翼が切れたのは、まさにその時。
「人を惑わし見下していては、分からぬこともある」
  『求道氷槌』を叩きつけて減速。片膝立ちの着地姿勢のまま、リカルドは静かに振り返った。
「あなたのお相手はアーニャさんでも、こみちさんでもないの。この場にいる全員……忘れちゃダメよ?」
 正真正銘のサキュバス、デジルの魔眼が輝き、轟竜砲が咆哮する。側面からの攻撃は惜しくもかすめるに留まったが、それも一つの布石。
「わけわかんない話しないでよ! 何よ、それ!」
「こういうことよ……魂の残滓、刹那の精霊を作り上げなさい」
『Dragonic Souls』の竜頭が吐き出した吐息が、かわしたアナの周囲に集まり出す。
『オルタストライクアナザー』……背後からの殺気に飛び退くアナめがけ、形成された疑似ビハインドは抱きしめるように刃を振るった。

●Hurtful Song
 激しいノイズが廃墟に響く。アナが身をかがめるより早く、疑似ビハインドのクローアームは彼女の翼端を掴んでいた。
「それじゃお願い、叔牙さん」
「は……併せ、ます!」
 デジルにあわせ、ひとまずレッドゾーンに突入した熱を放出。反作用も乗せた叔牙の超音速の拳がスピーカーを翼ごと貫いた。
「あぐっ!? ……もう許さない! 許さないんだから! この場でスクラップにしてやる! 全員ッ!」
「やってみればいいわ。管制システム、アップデートパッチ配信」
 邂逅から三度目の切り札だが、今度ばかりは状況が違う。リティのアンテナが、『強行偵察型アームドフォート』のレドームが可聴域外の轟音で情報を展開する。
 ゲートウェイにはマーク・ナインを指定。苦闘の記録も新しいダモクレスの『R/D-1』AIだが、『エクスガンナーシステムVer.β』との組み合わせは、こと情報処理においてこれ以上なく心強い。
「ROGER、YOU HAVE」
「あてにさせて、いただきます……!」
 マークの『LU100-BARBAROI』クローラーが圧力を強引に押し切って突破する。アナを中心に大きく旋回しつつ、『DMR-164C』バスターライフルを斉射。
 バレットタイムが増大させた知覚の導くまま、薙ぎ払うような光条がラウドドローンを叩き落とし、切り離していく。
「テロス・イーリス……音と振動による自己暗示とは、面白い事を考えるわね」
「サブリミナル効果は否定されたと聞きましたが……ダモクレス、侮れません」
 分析の結果にしげしげと頷くデジル、ソフィア。
 人の肉体は思いのほか、精神の影響を受ける。魂が肉体の限界を凌駕する時もあるし、逆に動かないと思いこみが四肢を石のように固めてしまう事もある。
「そういう押し付けはごめんこうむる……!」
 裂帛の叫びでリカルドが踏み出した。最初の衝撃を逆回しするかのように、固まった四肢へ力が一期に戻っていく。
「受ける側としては、全く同意ね。雅、いける?」
「問題、ありません」
 廃墟の外壁を蹴って三角飛び。デジルの蹴りがからぶった素振りで、雅の身体を打ち上げる。
「なにそれ……っ」
「構造的弱点、看破。破壊……!」
 アナに動揺する暇も与えず、一瞬にして死角をとる。突き付けた雅のバスターライフルから放たれる『破鎧衝』が、アナのフィルムスーツを引き千切った。
「……完了。リカルドさん、後は」
「任された。渦巻け叡智、示し導き、風よ絶て。吼えよ、絶風の『咎凪』よ」
 突き出す二指から放たれるは圧縮された烈風の弾丸。突き刺さる『絶風弾:咎凪』の回転が、アナのサキュバスを模した羽を根元から引き千切った。
「痛い! 痛い、痛い痛い! なんでよぉ!? お姉ちゃん、なんでなのよぉ!?」
「アナさん!」
 悲痛な、しかし自己中心的な少女の悲鳴に、こみちが堪らず呼びかける。
「話を、聞いてあげてください。アーニャさんのお話を」
 ノイズと悲鳴が止まる。見つめ返すダモクレスの少女は、十分に感情的に見えた。

●静止した世界
 荒い息のアナに、アーニャはライフルを下ろし手を伸ばす。
「お姉、ちゃん……」
「投降して、アナ。貴女だって定命化すれば……心を得れば、きっと……!」
 灰色の瞳が見つめ合う。動揺、迷い……アナの表情は、少なくともケルベロスたちにはそうみえた。
「中々面白い子だけど、こっちも仲間を譲る訳にはいかないのよね」
「NEGATIVE……NOT……BUT」
 デジルの呟きにマークのアイセンサーが自問するように明滅する。かつて自分がそうであったように、救える命は救いたい。しかし。
『そう見えるのは貴方がたの感傷ですよ』
 彼に組み込まれた戦術システム『エクスガンナーシステムVer.β』に会話機能……自我はない。だが推奨される選択肢には、かつての持ち主だったダモクレスの声がどうにもちらつくのだ。
「この子は、自分の意思と……心めいた物も。持ち合わせている様に、思いましたが……」
「流れはこちらにあるわ。最後まで、油断せず」
 雅の漏らした声に、スカウトドローンからの情報をリティが警告する。必要なものはそろっているように見える……であれば、何が少女を留めるのか?
「わかったよ、お姉ちゃん」
「……アナ?」
 ダモクレスの少女は立ち上がり、アーニャの手を……つかみ寄せる。
「戦闘行動を確認、叔牙!」
「出力リミット、最大! 間に合わせ、ます!」
 フォーメーションを組むスカウトドローンへ、叔牙の腕、肩、上半身装甲がスライドする。吹き荒れる熱風、殺意を輝かせる光学攻撃用励起体は一気に臨界へ。
「お姉ちゃんは、もうお姉ちゃんじゃないんだね……っ!」
「やめて、アナ!」
 一歩遅い。狂気を帯びた唱話がアナの外装を、アームドフォートを引き千切る。爆風が弾け、美しい銀髪が朱に染まる。
 もがくアーニャ、がっちりと掴まれた手は少しも緩まない。このままでは自分が彼女の盾にされてしまう、それこそが狙いなのか!
「だったら……!」
「基本、姉妹喧嘩には手を出さない主義だがね……!」
 状況を変えたのはタイミングを計る瀬部・燐太郎(戦場の健啖家・e23218)の『奥の手』だった。地獄を圧縮した衝撃波が真後ろからアナを襲い、アーニャと共に前のめりに倒れ伏せさせる。
「敵機動解析・照準多重捕捉。光条嵐舞……すいません……撃ち貫きます!」
「スカウトドローン、フォーメーション」
 なおも狂気じみた擬似催眠魔眼をアーニャへ集中させようとするアナへ、叔牙は覚悟の『RayCrisis』を放つ。全身より放たれた閃光が、リティのスカウトドローンに加速しダモクレスを貫く。
 破裂しそうに痛む頭、歪む視界。アーニャは最後の力を振りほどけた右手に込め、バスターライフルを掴む。
「……テロス・クロノス」
 静止した時間の中、しかし躊躇う余裕はない。アーニャは押し付けたバスターライフルを構え直し、再び引鉄を引いた。
「デュアル……バーストっ」
 ダモクレスの催眠洗脳能力の中核……魔眼と歌声を放つ頭部へと。

 いつしか空は薄暗く、赤みがかっていた。
「……誰のことかは言わないが、兄弟を救おうとした馬鹿は、痛い目に遭ったんだ。後悔はないか……とは聞かないが……」
 言葉を探すリカルドに、マークは黙って首を振る。
 ただ、ただ、『Counter Gravity Wave』の空間を展開する。それ以上、何も言えなかった。
「アナ……ごめんなさい……私は、貴女にも心を持って欲しかった……この地球で大切なモノを見つけて……他の姉妹ともみんなで、暮らし……っ……」
 少女だったものを包む布の前、アーニャは泣いた。それ以外、何もできなかった。
「あまりに、早すぎたのか……純粋すぎたのかもしれません……定命化には、至らなかったのは……」
 雅は思う。彼女が愛していたのは姉のアーニャ、ダモクレスのアーニャ。ただそれだけだったのか。
「最近……第一世代レプリカントの……系列機や、姉妹機との。遭遇例……増えましたね。グラビティ・チェインの。導き、なのでしょうか……」
「でも……こんな……こんな導き……!」
 言葉を詰まらせるこみちに、叔牙もまた目を伏せる。
「……それでも、俺達は、前を向いていかねば、ならない……筈だ。どの様な事実が残ってしまっても……」
 リティに借りた決意と弔いの杯を掲げ、リカルドは一息に飲み干した。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。