デッドオア舎弟

作者:あき缶

●奇妙な選定
 酒のストックがなくなったので、伏見・万(万獣の檻・e02075)は、ひとり酒屋を目指して歩いていた。
「……?」
 急に自身を取り巻く空気が変わったような気がして、万は足を止める。
 殺気のようなものが漂う張り詰めた空気、先ほどまでそれなりにいた筈の人影もなくなった。
「お。ケルベロスはっけーん」
 軽薄な声に万は振り向く。
 街灯をスポットライトのように浴びる、浅黒い肌に金髪と不良を絵に描いたような格好のシャイターンがいた。
「なあなあ、死んでくんねえ? 舎弟(と書いてエインヘリアルと読む)にしてやっからよぉ」
 目を細め、シャイターンが万を誘う。
「ハッ、お断りだな」
 当然ながら鼻で笑う万に、シャイターンは、
「はー? おめーの意思とかどうでもいーわけよ。ようは殺しゃいいわけでよー!」
 気軽かつ問答無用に襲い掛かってきた。

●チンけなヒラの見た目によらず
 シャイターン『ヤソ』の思考は奇妙なもので、エインヘリアルを舎弟にしようと思っているらしい。シャイターンはエインヘリアルの配下なので、まるでヒトを手下にしようとする犬のような無謀な考えなのだが……ごくごく稀にそんな野望を抱く者もいるのだろう。もちろんヤソの野望は今のところ実現していない。
「で、そいつが伏見さんを襲おうとしてるんや。予知した時刻まであとちょっとしかない」
 香具山・いかる(天振り付くヘリオライダー・en0042)は、またしても役に立たないスマホをしまいこみながらケルベロスに協力を請う。
 万への連絡は付かないので、現場に応援に行くほか、彼を救う方法はないという。
 相手はヤソ一人だけで、仲間はいない。民間人も周囲にはいないことが確認できている。
「ヤソは見た目、チンピラヤンキーそのもののチャラ男のくせに、そこそこ強いんよね。下っ端丸出しの見た目に油断したらあかんで」
 とにかく時間が無いから、といかるは説明を切り上げ、ケルベロスをヘリオンにいざなった。


参加者
花凪・颯音(欺花の竜医・e00599)
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
デレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689)
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)
大神・小太郎(血に抗う者・e44605)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)

■リプレイ

●ヤのつく自由業!?
 見た目の通りの、腰を低めてすくい上げるように伏見・万(万獣の檻・e02075)を睨めつけ、舎弟になるよう強いてくるシャイターンのヤソを、万は鼻で笑う。
「死ねって言われてホイホイ死んでやるわけにも、舎弟になれって言われてハイそうしますってわけにもいかねェなァ」
 ビキィとヤソのこめかみがのたうつ。
「はー? おめーの意思とかどうでもいーわけよ。ようは殺しゃいいわけでよー!」
 と万に殴りかかるヤソの前に、もふんっと白い毛玉が落ちてきた。
「いい夜だな。大喧嘩には丁度良い」
 と涼しげに言うのは、ヘリオンから直接降下してきた笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)である。
「あーー?」
 とんだ邪魔にヤソの眉間のシワが増える。
「若頭に絡むとは見る目が無い。いや、むしろ良すぎて選んじまったのかな?」
 するりとヤソの睨みをいなし、鐐は飄々と笑った。
「闇討ちなんざセコいマネしやがって、命知らずも居たモンだなァオイ」
 トントンと肩をチェーンソー剣で軽く叩きながら、デレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689)は、ヤソに負けず劣らず凶悪なガンをくれる。
「おやおや、エインヘリアルに擦り寄るしか能がない油虫がうちの若頭に何の用ですか?」
 デレクに続き、次々降下してくるケルベロスが全員男なのを内心壮観だとも思いながら、花凪・颯音(欺花の竜医・e00599)は、周囲の空気に合わせる。彼のボクスドラゴン、ロゼもサングラスをかけて、任侠気分である。
 同じくサングラス装備で、ヤの付く御一行ロールを決め込む大神・小太郎(血に抗う者・e44605)。齢十一歳なのに精一杯ガンつけを頑張っている。
「おうおう、うちの若頭を舎弟にしようとかいい度胸だな」
 まだちょっと高い声で懸命に威嚇したと同時に、ずるんとまだ低めの小太郎の鼻からサングラスがずり落ちた。
「……兄さん、解っておいででしょうか。舎弟は下僕とは程遠く、仁義や忠節で成り立つものでございます」
 ボクスドラゴンたいやきを肩に乗せ、霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)は講釈してやる。
「それが分からぬ者には、遠からずとも『滅び』はやって参ります……。まぁ、それが『今』でございますがね」
 カイトは、バイザーを下ろすと、冷ややかに告げる。
「……減らず口塞いでとっととくたばると良い」
 ぬうっと赤毛のオウガが万とヤソの間におさまった。
「おうおう、あんた今うちの若頭のタマ取るって言いました?」
 やはりスーツにサングラス姿の柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)は、やれやれと教え諭すようにヤソに言う。
「あんた謝るなら今のうちですぜ。若頭が本気を出せば不死の者でも海より深い地獄に沈められちまいやす」
「誰が若頭だっつの……。ま、野郎共、いいタイミングじゃねェか」
 万はニヤと笑い、ゴキリと拳の関節を鳴らす。
「あンなチンピラとっとと畳んで、飲みに行こうぜェ」
 飲み、と聞いて呑み歩き好きの鐐の丸くて白い耳がピクと動くが、ケルベロス業務中なので静かにしていた。
 ヤソは散々な言われように、歯が折れるほどにギリギリと歯噛みしている。
「やれやれ、血気盛んなことだ……」
 牽制射撃の間もなく飛び込んでいった仲間達に苦笑しながら、ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)はやってきた。手にしたギターで、仁義なきアレっぽい曲を奏でながら。
「俺も気兼ねなく暴れるとしよう」
 気分が盛り上がってきた、と昂揚するケルベロスとは裏腹に、ヤソは顔を醜く歪め、憤怒を吐いた。
「……殺す。てめーら全員殺して舎弟だ。ケッテーェエエエイ!」
 声を裏返しながらシャイターンが焔の刃を無数に投げてきたのを、するりと避け、
「ハン、シャイターン如きがケルベロスに首輪でもつけようってか? なんにせよ喧嘩売ったのはテメェだ。今更後悔した所で地獄行きのキップはキャンセル効かねえぜ」
 デレクは凶悪に笑ってみせた。

●チンピラ抗争
「万のおっちゃんを舎弟にしてぇなら、まずは俺達コタキタコンビを倒してもらおうじゃねーか! 行くぜ、鬼太郎のおっちゃん!」
「おう、まずは俺たちコタキタコンビを倒してからにしてもらおう!」
 ブンッと鬼太郎が桜牙を思い切り振り下ろす。怪力の素振りによって巻き起こる突風に乗って、身軽な小太郎が天高く飛び上がる。その勢いのまま、ヤソめがけて流星の蹴りを放った。
「ハ、ガキがいっちょまえに息巻いてらぁ」
 と言いつつ、デレクはドラゴニックハンマーを撃つ。
 チェーンソーでヘドロの翼めがけてカイトが切りつけ、たいやきは甘い属性を後衛にインストール。
 ビィンとウルトレスの指で弦が震えて、背負った銃器から冷凍光線が放たれる。
「舎弟だの上役だの、拳で決めるのもたまには悪くないよな?」
 鐐は自身のサーヴァント、明燦のタックルと共に組み付きにかかる。
「んの野郎……ッ!」
「逃げるなら止めんぞ」
 にやと笑い、組み付きながら鐐が言うと、
「だぁれがぁ……」
 底冷えのする声が返ってきた。
「ふふ、見事なまでの漢祭りだね」
 電撃で賦活してやりながら颯音がクスリと笑うと、それを受けた万がニヤリと笑い返す。
「華が無い? いいじゃねェか、存分に暴れようや。さァ、泥臭ェ殴り合いだ」
 チャキチャキと刃を鳴らしながら、万は両手にナイフを握った。血みどろの舞踏と称される見事なステップで、ヤソに斬り込んでいく。
 ヤソはそれをまるでダンスバトルをしているかのように軽やかなフットワークで避け、ぐんっと踏み込むなりカウンターの華麗なストレートを、ワン、ツーと決める。
「ナメてんじゃあねえぞ、コンチキショウがー!」
 良いパンチをもらって、万がたたらを踏む。
「ぐ、う……」
 鼻と口から垂れた血を手の甲で拭い、万はぐわんと揺れる脳を落ち着かせた。
「見た目だけだとそんなに強くなさそうなんだがな」
 鬼太郎はそう言いながら、ぐんっと拳を突き出した。ぶわりと拳圧が押し出され、風が万の痛みごと吹っ飛んでいく。
「良い度胸じゃねえか、刈り取ってやらぁ、その魂をよォ!!」
 デレクが叫ぶと同時に、全身を弛め、アスファルトを蹴って跳躍する。ヤソに急速に接近し、斬って抜ける。
 続き、カイトがナイフでその傷を切り広げる。
 ウルトレスのバスターライフルから、ヤソの護りを的確に崩すポイントへの狙撃が決まる。
「よくも若頭をーっ」
 小太郎の足が炎をまとって跳ね上がる。
 パカンと頭を見事に小僧に蹴られたヤソが、
「くっそ、カトンボ共が囲んできやがって!」
 と唾を吐いた。
「おや、人数差が怖いかい?」
 颯音に電気の支援をもらいつつ、ナイフを振るう鐐はヤソに尋ねた。
「ああ!? んなわけ、ねえだろう、がぁあっ、このクソどもがぁあああっ!!!」
 ヤソの怒号で、物理的にケルベロスを傷つける汚言が撒き散らされる。
 ロゼと明燦が万と鬼太郎を庇った。たいやきが同族に異なる属性をインストールして支える。

●人とデウスエクスは見た目によらぬもの
 ウルトレスの任侠アレンジ版ブラッドスターが夜の街に響き渡る。
 幾度目か拳を交えた後、携帯していたスキットルを傾けた万は、ぽちゃんとしか舌に酒が落ちなかったので――そもそも在庫が切れていたから酒を買いに来たときに因縁をつけられたのだ――眉をひそめる。
「さっさと飲みに行きてェんだよ。そろそろ潰れろ、チンピラ」
 ヤソは中指を立て、
「ざっけんなよ、ゴルルルァ!」
 舌を巻きながら、万めがけて拳を振り抜く――が、鬼太郎にがっしりと受け止められた。
「畜生、離しやがれデカブツ!」
「言ったよなぁ。うちの若頭のタマ取るってんなら、まずは俺たちコタキタコンビを倒してからにしてもらおうってよ!」
 鬼太郎のシャウトを見て、
「おおー、かっこいい」
 小太郎はサングラスの奥で目を輝かせた。
「よーし、俺も!」
 喰霊刀『人喰い刀月喰』の刀身に小太郎は親指を這わせた。つうっと切れた皮膚からとろりと血が刃に走るなり、刀が赤黒く染まる。
 不吉な色の刀を小太郎はしっかりと構え、ヤソに突き刺す。
「ぐ……がっ、このクソガキ」
 禍々しい呪詛に侵されるシャイターンが、幼い妖剣士を憎々しげに見下ろす。
「俺も忘れてもらっちゃ困るぜ! なにせ、俺と鬼太郎のおっちゃんでコタキタコンビなんだからな!」
 ぐぐっと刃を押し進めながら、小太郎はニッと笑った。
 挟むようにカイトが背後からチェーンソー剣をヤソに浴びせる。
「口が減らないようなら、こちらで減らしてやる。くたばれ」
 二人が離れるなり、鐐はもふぅとヤソを抱き込んだ。
「上に登りたい夢は否定せんさ。……そのまま夢現に落ち逝け」
 柔らかな毛布に包み込まれたような安堵感を錯覚させる、グラビティ・チェインの直接注入に、ヤソの目がどろりと溶ける。
「もう息切れですか? ……ならば、せめて苦しまない様に送って差し上げますよ」
 くす、と笑って颯音は『遠き君よ』と短縮詠唱。星の力秘めたる魔剣を召喚する。魔剣は大きく振るわれ、ヤソの翼を切断した。
「おら、この喧嘩はおめえに売られたモンだろ、とっととケリつけろや。お膳立ては十分だろ!」
 フェアリーブーツから星をデウスエクスに蹴り込み、デレクは『若頭』に花を持たせてやる。
「言われるまでもねェ。……大体どこの誰だか知らねェが、チンピラ……てめェのその態度が気に食わねェ」
 万は、ヤソの真正面から踏み潰すかのように足に体重を乗せて降魔真拳を放った。いわゆるヤクザキックである。
 見事に大きな音が響き、デウスエクスは二度と動けなくなった。

●戦友と飲む勝利の美酒
 それを見届けた万は、気だるげに両手をボトムスのポケットに突っ込み、歩き出す。
「そんじゃ、打ち上げって事で飲みに行くかァ。……世話になった礼に、一杯ぐれェ奢ってやらァ」
「うん、飲むぞ! お気に入りの店で凱旋の美酒、乾杯といこう!」
 鐐の声が弾む。
「言い出したからには美味い酒でねえと承知しねえかんな?」
 とデレクが言うと、白熊は大いに胸を張った。
 それを聞いて颯音が軽やかに後ろにつく。
「成人したばかりで余り詳しくないのだけれど……。ふふ、折角の機会だ、先達達に美味しいお酒を教えて貰おうかな」
「あー、呑みですかー。別に構いはしませんけど深酒にならんようにして下さいね―?」
 バイザーを上げ、すっかりいつもの調子に戻ったカイトがてくてくと続く。
「打ち上げ? 俺も行く行く! 未成年だからって置いてくなよな! 俺はケルベロスとして働く立派な大人の男の一人、なんだからな! 俺、サイダーがいいー!」
 ぴょんと飛び跳ね、小太郎が走って追いかけた。
 その後ろを、ゆっくりとウルトレスと鬼太郎が歩いていく。
「彼奴も酒楽を知ればまた違ったのかねぇ……」
 ぞろぞろと男八人で店に向かいながら、鐐はしみじみと呟いた。一杯目は、弔いの献杯としようか。
 そしてケルベロスは夜の街へと消えていった――。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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