本当に行くの?

作者:麻香水娜

●楽しい放課後
「お姉ちゃんがチケット3枚取れたって!」
 教室でおしゃべりに花を咲かせていた3人組の1人がスマホを見ながら興奮気味に声を上げた。人気アイドルグループのコンサートチケットが取れたらしい。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

 佐川・美奈は女子トイレで手を洗いながら軽い溜め息を吐く。
(「……アイドル興味ないんだけどな」)
「興味のない事に時間も金も使いたくないよな」
 急に声をかけられた美奈が振り返ると、そこには気の強そうな女子──フレンドリィがいた。
「お前はお前の好きな事に時間も金も使えばいい。他人に合わせて、自分の好きな事ができなかったらつまらないだろう?」
「そうね。私は行かないって言わなくちゃ!」
 女子生徒の言葉に頷いて女子トイレを出て行こうとした美奈の背中から大きな鍵が突き立てられる。
 倒れた美奈の傍らに現れたドリームイーターは教室へ向かった。

●あくまで慎重に
「日本各地の高校にドリームイーターが出現し始めたようです」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が静かに口を開く。
 ドリームイーター達は、高校生が持つ強い夢を奪って強力なドリームイーターを生み出そうとしているらしい。
 今回狙われたのは、佐川・美奈という学生で、空気を読んでまわりに合わせる事に疑問を持っている所を狙われたようだ。
「ドリームイーターは、強力な力を持っていますが、夢の源泉である『空気を読むことへの疑問』を弱めるような説得ができれば、弱体化させる事ができるでしょう」
 周りの空気を読まずに自己主張を繰り返す人は、人の和を乱すといって嫌われる事も多い。自分の意思を持つ事と空気を読む事。折り合いをつけるのは難しいところだが、うまく説得できれば、戦闘を有利に進められるだろう。
「ドリームイーターは、まず佐川さんの友人2人がいる教室に向かいます」
 教室には狙われる2人の他、数人の生徒が残っているが、ケルベロスが現れると、ドリームイーターはケルベロスを優先して狙ってくるので、襲撃されている2人を含め、一般人の安全確保は難しくない。
「足止めしつつ一般人を教室から出て離れるように誘導できれば問題ないでしょう」
 誘導に教師の手を借りるという事も可能だ。
「このドリームイーターは状態異常を付与させる事を得意としています。説得で弱体化させれば戦闘は有利に運べますが、匙加減を間違えると、ドリームイーターを倒したとしても、目覚めた佐川さんは『他人にあわせて、自分の意見を言えない弱い心』になってしまいます」
 説得を行わなければその心配はないが、戦闘は過酷なものになるだろう。
「あまり強く否定しすぎると、佐川さんが目覚めた後の事にも影響してしまいます。どうか、慎重にお願い致します」


参加者
二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
ジゴク・ムラマサ(心ある復讐者・e44287)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)
ヘルト・フォールクヴァング(忘失の騎士・e56553)

■リプレイ

●楽しい放課後?
「──というわけなんだ。他にも仲間が6人潜入している」
 エイティーンを使って制服を纏った鈴木・犬太郎(超人・e05685)が職員室で教師達の前で話す。
「私達で避難の時間を稼ぎますので、先生方にはその間に生徒を2階から遠ざけて頂けると助かります」
 同じくエイティーンを使って制服姿になった館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)が続けた。
 内心では数年ぶりの制服姿にコスプレのようだと嘆息しながら。
「教室からは離れているようだし、階段で他の階から2階に来ないようにもしてくれると助かる」
 更に犬太郎が戦場に近付く生徒がいないよう予防策も張る。
「事が起きたら連絡しますので、お願いします」
 詩月はアイズフォンで連絡する為の代表の番号を聞き、犬太郎と共に2―4の教室に向かった。

「随分買うたなぁ」
「うん。折角だしね。学校のパンって食べてみたかったんだ」
 小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)が、購買部で買ったと思われるパンをいくつも抱えた陽月・空(陽はまた昇る・e45009)に話しかける。
 実際は45歳であるが、ドワーフ故に少女のような見た目の真奈と、中学生に見えるが17歳である空は当たり前のように制服姿。
「だ、大丈夫ですよね、無理してるっぽくないですよね……?」
 若干童顔だし大丈夫だろうと、エイティーンを使わなかった二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)が不安げに呟いた。
「大丈夫ッスよ! 俺もちょっと高校生って無理がありそうだけど、空さんと同じくらいに見えそうッスし」
 13歳で最年少のカーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)がニカっと笑いかける。
「こらこら、廊下で食べてはいけませんよ」
 パンを食べていた空に大人の声がかかった。
「お腹減っちゃって……あ、なんだ……びっくりした」
 注意されて咄嗟に言訳を口にした空は、仲間であるヘルト・フォールクヴァング(忘失の騎士・e56553)の顔を見て小さく息を吐く。
「先生さようならー」
「さようならー」
 通りかかった女子生徒がヘルトに挨拶をして帰っていった。
 ヘルトはプラチナチケットを使って新しいALT──外国語指導助手として一般人には認識されている。
「あ、トイレ入ってくで」
 美奈がトイレに入っていくのを目にした真奈が声を上げた。
 そこへ丁度教職員に協力を頼んできた犬太郎と詩月が姿を見せる。仲間達と無言で頷き合うと、2人は教室の中に入っていった。

●大事なのは
 トイレから美奈──そっくりな何かのハチマキをして胸がモザイクになっているドリームイーターが出てくる。
「来たで! 悪夢の時間は終わりや。ここからはケルベロスのお仕事の時間や!」
 真奈が廊下から大声を上げ、エクスカリバールをフルスイングした。
 その声を耳に入れた教室内の詩月が片目を閉じてアイズフォンで教職員の代表の番号に繋げて知らせ、続いてすぐに隠れている仲間に連絡する。

 ──バーン!!

「イヤーッ!」
 いきなりロッカーが内側から開いたかと思うと、隠密気流で潜んでいたジゴク・ムラマサ(心ある復讐者・e44287)が飛び出した。
 制服に忍者マスクをした中年が飛び出してくれば、教室内に残っていた生徒は一瞬何が起きたのかと全員が動きを止める。
「ここは危険だ! 前の入り口からすぐに出るんだ!」
 前の入り口──トイレからは後ろ側の入り口の方が近いからと、ジゴクが隣人力を使いながら生徒たちに声をかけた。明らかに不振人物ではあるが隣人力の効果により、生徒たちは戸惑いながらもトイレから遠くなる入り口に向かう。
「早く逃げるんだ!」
 教室内にいた犬太郎も隣人力を使いながら大声を張り上げて生徒達の背を押し、後ろの入り口まで武器を構えながら走った。

 ドリームイーターは真奈の撲殺釘打法を咄嗟に後ろに飛び退いてかわし、胸のモザイクを大きな口の形に変えて真奈に襲いかかる。
 しかし、葵が咄嗟に真奈の前に出てモザイクに包まれた。
「大丈夫でしたか!」
 ダメージに顔を歪めつつも、振り向き様に真奈を気遣う。
「おおきに!」
「空気を読むってことは、友達を大切にしてるってことだぜ!」
 真奈が葵に笑顔を向けると、教室内から飛び出してきた犬太郎がドリームイーターに鉄塊剣を叩き付けた。
「好きなことも、嫌いなことも友達と一緒にやれば楽しいだろ」
 すぐに飛び退いて言葉を続ける。
(「弱体化前は……確かに強力、ですね……」)
 ケルベロスコートを着て制服姿を隠す葵の顔がダメージに歪んだ。
「自分の意見を言えるのは大事なことですけど、譲れることなら周りに合わせた方が良い時もありますよ」
 しかし、自らに気力溜めを使って回復しながら言葉をかける。
「自分の意思を強く持って主張することは大事だよ。けどね、周りと話をして、妥協点を見つける事も大事だと思う」
 詩月が静かに声を掛けながら、前衛にスターサンクチュアリを使い、守護をつけながら葵の傷を癒した。
『……』
 ケルベロス達の言葉に、ドリームイーターの意思は少し揺れだす。
(「……揺れてきたかな? ボクはちょっと様子みよう」)
 ドリームイーターの様子を注意深く見つつ、下手に攻撃して逆上させるのもよくない、そう判断して、ゴーストヒールを使って葵の傷を癒す。
「相手に合わせるだけが友情じゃない。ちゃんと自分の意見を言わなきゃ、息苦しくなるし『してやってる』って気持ちになっちまうからな。でも──」
 カーラの声が響いた。一度言葉を止めてドリームイーターの様子を見ながら、葵に気力溜めを使って傷を回復させる。
「だからって相手に合わせないのも変な話。ちゃんと話し合っての思いやりが大切だよ」
 しっかりドリームイーターの目を見て語りかけた。
『譲る……妥協点……思いやり……』
 ドリームイーターは、言われた言葉を反復するようにぶつぶつと繰り返す。
「他人を優先しようとする自己犠牲の精神、それがあったからこそ、素敵な友人達を得たのでしょう?」
「相手の想いを汲みつつ、己の考えを伝える訓練を積めば、美奈=サンはタツジン級コミュニケーション力を得られるはず。焦ることはない、己を卑下することもない」
 ヘルトとジゴクが否定するでもなく、できていた部分を褒める大人の言葉をかけた。
『自己犠牲……コミュニケーション力……』
 ドリームイーターが右手を口元に当て、視線を廊下に向けて悩みこむ。
「ドーモ、ドリームイーター=サン。ジゴク・ムラマサです。少女の揺らぐ心を利用し産み出されたアヤカシ、滅ぶべし!」
 パッ視線を鋭くしたジゴクが名乗りをあげた瞬間、ヘルトから黒い魔力弾が放たれ、ジゴクが一気にローラーダッシュで距離を詰めて、炎を纏った激しい蹴りを見舞った。
『!?』
 ドリームイーターがぐらりとよろめく。真奈の攻撃を避け、犬太郎の強力な攻撃も何とも思わない風であったのに。
 ケルベロス達は全員が顔を見合わせ、これ以上は弱体化させすぎてしまうだろうと、武器を構え直した。

●一気に片をつける!
 トイレより奥の教室にいた生徒達は非常階段から回ってきた教師の手で避難させられ、2―4の教室にいた生徒達は勿論、他の教室にいた生徒達も階段から避難する。
 階段の踊り場にも教師が立ち、別の階の生徒達が近付かないように誘導した。
 ドリームイーターは見えない何かに攻撃を受けつつも、滅べと言い放ったジゴクに悪夢で侵食しようとモザイクを飛ばす。
「グワーッ!」
 モザイクに包まれたジゴクは膝をついて頭を抱えてしまった。
「回復はまかせたで!」
「はい!」
 ジゴクを横目で見つつ、回復は仲間に委ねた真奈がドラゴニックミラージュを放ち、葵が気力溜めでジゴクの悪夢を薄らがせる。
「一気にいくぜ!」
 犬太郎がサイコフォースを放つも、ドリームイーターは横に跳躍して寸でのところでギリギリかわした。
「次は思いっきり当てちゃって」
 詩月が喰霊刀を振るい犬太郎に魂うつしを使う。
「あ、友達さんに手間をかけて貰った感謝だけはしていた方が良いと思うよ」
 空は星型のオーラを蹴り込みながら、ぼそりと呟いた。説得とはまた違った形で、目覚めた美奈の心に残るといいと思いながら。
「回復ッ! 『しゃぼん玉!』」
 カーラがまだ若干視点の定まらないジゴクに、ガジェットのスチーム噴出口から6センチのナノナノ型シャボン玉を噴出させ包み込ませる。弾けたシャボン玉は傷をジゴクの傷を大きく回復させて悪夢も完全に取り去った。
「その少女の心を弄んだ罪、償っていただく!」
 キッとドリームイーターを見据えたヘルトが全身に力を溜め、溜め斬りを放つ。
「葵=サン、カーラ=サン、ドーモ」
 ジゴクは悪夢を取り去り回復をしてくれた2人に軽く頭を下げ、素早くドリームイーターの懐に潜り込んで斉天截拳撃を叩き込んだ。
『クッ……』
 よろめくドリームイーターは体中の傷をモザイクで修復する。攻撃していた何かも消え、燃え続けていた炎も消し去った。
「まあ、気楽に考えたらいいんやないか? 手間かけた感謝しつつも行きたくないときに行きたくないって伝える方法を学ぶのも勉強やしな」
 説得には参加しないようにしていた真奈は、後の事も考えて空の言葉に付け足すように軽くフォローを入れ、すぐに表情を引き締める。
「刃の錆は刃より出でて刃を腐らす」
 今まで喰らったグラビティを炎に変えてドリームイーターを包んだ。
「今仲良くできてるなら、ホントに好きな物も受け入れてもらえるかもですね」
 葵は優しく微笑みながら、しかし思い切りルーンを発動させた斧を振り下ろす。
「一撃だ、俺のたった一撃を全力で完璧にお前にブチ込む」
 犬太郎が自分の拳に獄炎と降魔力を纏い、渾身の力でドリームイーターの胸のモザイクを思い切り殴りつけた。
「いくよっ」
「うん」
「はい」
 詩月が攻撃のタイミングを知らせてから御業を出すと空とヘルトが頷き、御業から放たれた炎弾と共に空の小動物、ヘルトからは回復して消されてしまったトラウマを付けるために再び黒い魔力弾が放たれる。
『──ッ!!!!!!』
 3人の見事な連携攻撃を受けたドリームイーターは息を詰まらせ、体中がモザイクになって四散した。

●悪夢が消えたら
「さっさと片付けて帰ろうぜ」
 犬太郎が仲間達に声をかける。喫煙者である彼は早く校内を出て一服したいようだ。
「ホウキ持ってきたで! 割れたガラス素手で拾うたらあかんよー」
 真奈が教室の掃除用具入れからホウキやチリトリを持ってきた。
 攻撃の余波で削れた壁や割れたガラス窓の破片が散らばっている。
「お、助かるぜ」
「真奈=サン、ドーモ。私は破片を掃除しよう」
 ヒールのない犬太郎とジゴクがホウキを受け取り掃除を始めた。
「なぁ、全部終わったし突っ込んでええか? エイティーンも使わずに学生服でしかもそのマスク……」
 真奈がホウキを取りに来たジゴクに、ずっと言いたかった言葉をかける。
「これは状況判断だ。いいね?」
 ツッコミを受けたジゴクは全く恥ずかしがるコトもなく言い切った。
「学校の生活って結構大変なんだね……人間関係も大変」
 傷付いてしまった周辺をヒールしながら空がぼそりと呟く。
「でも友達と一緒に何かやるのって楽しいッスよ。友達のやってる事に興味持って好きな事増えるのもいいじゃないッスか」
 同じくヒールをしていたカーラがニカっと楽しげな笑みを広げた。

 全員でヒールや掃除をしてひと段落する。
「佐川さんってアニメやゲームが好きなんですよね……間をとって2.5次元とか、意外とアリなんじゃ」
 葵が何気なくぼそりと呟く。
「そういうのもありかもね。私は本人に直接声をかけてこようかな」
 じゃあ一緒に行きましょう、と葵と詩月が美奈が倒れている女子トイレに向かった。
「あ、職員室言って礼言ってくるぜ。こういうのは、がらじゃないんだがな」
 犬太郎は頭をガシガシかきながら職員室に向かう。
「私は、少し校内を散策してみます。若かりし頃を思い出すきっかけがあるかもしれませんので……」
「思い出すきっかけッスか?」
 ヘルトの呟きにカーラが首を傾げると、自分には記憶がないんです、と苦笑した。
「あ、すいません……」
 カーラはハッとして項垂れる。
「いいんですよ。カーラはまだ中学生ですよね。一緒に高校を見て回りませんか?」
 しかし、ヘルトは気にしないようにと微笑んで、一緒に歩き出した。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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