雨降花の獣

作者:吉北遥人

 今日の大阪市は雨だった。
 土砂降りだ。刺すように痛く、遠くで雷鳴も聞こえる。少し先が白くけぶる景色の中、泥の池みたいになった公園には誰もいない。いつもならベンチで陽にあたっている野良猫も、今はどこかで雨宿りをしているのだろう。
 動く者のない公園を、花粉のような何かがふわりと横切った。
 不思議なことに激しい雨に打ち落とされることもなく、謎の花粉はベンチ脇の花壇に咲くアジサイのもとへと吸い込まれるように漂う。
 それが可憐なピンクの花びらに触れた瞬間、アジサイの花全体が脈打つように震えた。
 盛り上がった土から意志持つ者のように根がひとりでに飛び出して、爆発的に肥大化した。その変化は同じ花壇に咲く別のアジサイにも感染のように伝わり、次々と花壇の土がめくれあがっていく。
 やがて花壇からすべてのアジサイが抜け出たとき、そのそばで豪雨に打たれていたのは五つの異形だった。体中をアジサイの花で豪華に飾り立てた、逞しい茎と根の四肢を持つ、五体の怪物――。
 異形の群れは公園の外へと向かい、荒々しく泥水を蹴立てた。

●梅雨入り
 ヘリオンの窓にひとすじ、雨滴が垂れていた。
「大阪市内で攻性植物が動き出したみたい」
 機内の談話室に集ったケルベロスたちにそう切り出しつつ、ティトリート・コットン(ドワーフのヘリオライダー・en0245)はプロジェクターを起動させた。
 爆殖核爆砕戦――2016年12月の決戦の結果、ケルベロスは攻性植物たちを大阪城周辺に抑え込むに至った。それ以降、周辺地域で攻性植物による事件は起こっていたが……。
「今回はけっこう重点的な攻撃だ。おそらくだけど、大量に事件を起こすことで一般人を追い出して、自分たちの拠点を拡大しようとしてるんだと思う」
「そうなると」
 思案するように顎に手を添えたのは黒豹頭のウェアライダー――玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)だ。
「放っておいた分だけゲート破壊成功の目が薄くなっていく、ということか」
「うん。じわじわとね」
 陣内の言葉にティトリートが頷く。
 その後ろで、スクリーンに大阪市内の地図が映しだされた。
「現場は市内の公園。謎の胞子によって変貌したアジサイの花が、キミたちの敵だ」
 その攻性植物はアジサイを纏った四足歩行獣のような見た目だ。数は五体で、常に集団行動をとる。
 戦闘が始まれば逃走を行うこともないので対処は易しいだろうが、同じ植物から生まれたためか連携がしっかりしている。油断は禁物だ。
「公園は広いし、付近に出歩いている人はいないから、戦いに集中できると思う。ただ……」
 そこでティトリートはちらっと、法衣姿のレイ・ウヤン(地球人の光輪拳士・en0273)に目をやった。ヘリオライダーからの説明を聞き逃さないよう気を張っているのか、少年拳士は真剣な面持ちをたたえている。
「すごい雨が降ってるんだ。だから、体を冷やさないよう気をつけてね」
 普段から薄着の人にはちょっとつらいかもしれない。雨具を使用しても濡れないでいるのは難しいだろう。
「『雨が好きな花』って言われるアジサイだけど、この怪物たちが好むのは血の雨だ。間違ってもそんなのは降らせちゃいけない。残らず倒してきてほしい」
 温かいココアでも用意して皆の帰りを待ってるよ――そう言って、ティトリートはプロジェクターの電源を切った。


参加者
桐山・憩(コボルト・e00836)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
ブルローネ・ウィーゼル(モフモフマスコット・e12350)
フェイト・テトラ(黒き魔術の使い手・e17946)
九十九折・かだん(スプリガン・e18614)
鋳楔・黎鷲(天胤を継ぐ者・e44215)
ハンス・アルタワ(柩担ぎ・e44243)

■リプレイ

●篠突く
 重たい雨だね……――。
 フェイト・テトラ(黒き魔術の使い手・e17946)の、彼にしては珍しく敬語の抜けた囁きは、激しい雨音に紛れた。
「すげぇ雨……噂のやばたにえんってヤツ?」
 雨具を一切持っていないため、公園入口に並び立つケルベロスたちは皆、まるで海に飛び込んだみたいになっている。手足の人工皮膚に滝のような雨が突き刺さる感触に、桐山・憩(コボルト・e00836)の口から自然とギザ歯が覗いた。一方、白イタチのウェアライダー――ブルローネ・ウィーゼル(モフモフマスコット・e12350)はせっかく整えた尻尾が早くもぐっしょり濡れて、どこか物悲しげだった。戦いにあたって心を落ち着かせるためにブラッシングしたのだが、この悲しみまではとかせない。
 住宅地からほど近いとはいえ、視界を白く奪うかのような土砂降りの中を出歩いている者はいなかった。動くものといえばケルベロスと――公園内から走り来るあれらだけだ。
 雨のカーテンの向こう、水柱を立てて疾走する五つの影がある。アジサイの花を身に帯びた四足の怪物――攻性植物だ。
 入口を塞ぐように位置するケルベロスを、怪物たちも捕捉したようだった。いっそう速度を上げるや、高々と跳躍する。豪雨とともに降り落ちる先、黙然と佇んでいるのは九十九折・かだん(スプリガン・e18614)だ。濡れそぼつ前髪の下、緑の双眸が殺到する怪物どもを映した。
「――――――――」
 かだんの正面で雨粒が消し飛んだ。
『呼声は遠く(デーメーテール)』――かだんの喉から迸った、雨音さえ圧する咆哮は一瞬、彼女を起点に豪雨を半円状に吹き散らした。その円弧上で怪物たちが横殴りの雨粒に打たれながら全身の葉を震わせ、失速する。
 同胞が途中で落下していく中、唯一勢いを失わなかったのは効果圏外にいたジャマーの怪物だ。咆哮をすり抜けた怪物の、ピンクのアジサイが咲き乱れる前面がばっくりと開き、覗いた鋭い枝が牙のような輝きを灯す――その姿を横合いから眩いヘッドライトが襲った。
 エンジン音を甲高く響かせて、ライデルさんが怪物に激突したのだ。とっさに怪物が機体に牙をたててしがみつくが、ライドキャリバーはその場で高速スピン。泥水を撥ねながら遠心力で怪物を引き剥がす。
 怪物が転がっていく先、新条・あかり(点灯夫・e04291)の槍の穂先で紫電が弾けた。
 雨に濡れた紫陽花はとてもとても好きだけれど、獣の姿をあなたたちが望んでいるとは思えないから――。
「……ごめんね、倒すよ。全力で」
 踏み込むと同時、稲妻突きが深々と怪物を貫いた。肉体ではないためか手応えは薄いが、電撃は敵を構成する枝葉を確実に蝕んでいる。貫かれてなお喰らいつこうとする怪物を、あかりは槍から振り落とした。泥水に跳ねる怪物をレイ・ウヤン(地球人の光輪拳士・en0273)の阿頼耶光が追い立てる。
「掩護はお任せ、を……」
 先ほど墜落した四体が再びこちらへ疾走するのを認識しつつ、ハンス・アルタワ(柩担ぎ・e44243)はたどたどしく呼びかけた。黒髪が額に張り付くのも気にならぬげに手中の爆破スイッチを押し込む。雨中でも色彩豊かな爆煙が前衛を覆った。
「……俺の知ってる『アジサイ』はこんなんじゃないんだがな」
 同じ名前を持った友人の顔を思い浮かべる玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)の周囲に『矢』が出現した。『ダプネーの拒絶』――グラビティ・チェインより生成された鉛の矢は、爆煙の尾を引いて宙を走る。
「面白い作戦を考えつくものだ。まあ、乗ってやるとしよう」
 女と見紛う中性的な容貌の中で、鋳楔・黎鷲(天胤を継ぐ者・e44215)の唇が挑発的に吊り上がった。その周りでは光の戦輪が高速回転しながら滞空し、ブルローネが発生させた霧を吸い込んでいく。充分に霧を蓄えるやマインドスラッシャーは弧を描いて群れへと射出された。
「こちらにも気を引くのです!」
 矢と戦輪が怪物たちの花葉を切り裂く中、フェイトの魔法詠唱が完了した。まるで泥水中から立ち上がったかのように鎧騎士の影が現れ、剣を横薙ぎしたのだ。『アレース・ゲラーン・ニコ・エリュトロン』に怪物たちは斬られながらも、その敏捷性をもって騎士の影をすり抜ける――それとほぼ同時に、憩の装着する縛霊手から光弾が発射された。
 御霊殲滅砲の巨大な光は通過範囲の雨をくり抜くように消し飛ばし、獣たちのただ中に着弾した。
 轟音。土砂が爆裂し、四体の姿が水柱に消える。

●暴雨
 敵ジャマーの動きを抑えながら、前衛の四体を範囲攻撃で殲滅する――それがケルベロスたちのおおまかな作戦だった。
 ディフェンダーを複数擁した編成には単体への集中攻撃は通りにくく、ダメージが分散しやすい。その点、列攻撃は敵ディフェンダーにダメージが集中する可能性も内包しつつ、一列の頭数が多いほどダメージの総量は増す。四体ともなればかなりのものだ。
 それゆえ範囲殲滅は効果的なのだが、同時にある宿命も背負っている。それは――長期戦に陥りやすいということだ。
「横だ、フェイト!」
 水柱の奥に見出した影にマインドスラッシャーを射出しながら、白鬣から雨滴を飛ばして陣内が吼えた。その警告に押されたようにフェイトが背後へ身を反らす。直後、爪のように尖った数本の枝が空間を裂いた。フェイトの胸に浅く血の筋が走る。
 水柱で姿が隠れた後、雨に紛れて瞬時に接近したものらしい。防具耐性がなければざっくり斬られていたかもしれない。クラッシャーの怪物は向きを変えて再度、凶爪を振るった。だがライデルさんがフェイトを突き飛ばすようにしながら座席に乗せて連れ去り、爪はただ雨を斬るにとどまる。
「花か、花は好きだ」
 怪物に咲くアジサイを見下すような笑みを浮かべ、黎鷲は天胤剣を抜き放った。
「可憐で美しく、儚いものだからな――まぁ俺には敵わんが」
 黒豹の視線がこちらに向いてるかを意識しつつ、隙を見せた怪物に剣を振るう――寸前、水を吸って重たい巫女服を翻した。黎鷲の剣が、別方向から間合いを詰めていたもう一体のクラッシャーの牙と噛み合う。
 間髪容れずに『天胤狂乱』――絶刀に封されし怨嗟を黎鷲が解き放った。掻き毟りたくなるようなおぞましい叫びに、怪物が総毛立つように花葉を震わせる。
「どうだ見たか、これが鋳楔の力だ。そこらの有象無象とは格が違う。さあ、狂え狂え狂え!」
 怪物が逃れるように剣から離れるが、その周囲を霧が付きまとう。ブルローネの『自己流忍法・霧隠れの術』が叫びの効果を増幅しているのだ。
「どんどん妨アップ、いきますよ!」
 列攻撃で状態異常を引き起こす戦法においてブルローネは強力なブースターだ。ブルローネが忍法を唱えるたびに霧が濃くなって、中衛たちの武器に纏わりつく。
「天が曇ろうと、主はわたしたちを見ています」
 祈るようにハンスが囁いたとき、その身から放たれたのは桃色の霧――ブルローネの忍術とは別種の、サキュバスの魔力である。ハンスの霧が集まった先では、先ほど爪を浴びたフェイトがライドキャリバー上で麻痺していた。猫、そしてエイブラハムも豪雨に負けぬよう翼をはためかせ、回復に加勢する。
「あなたの相手は僕だよ」
 回復をするのはこちらだけではない。ジャマーの怪物の背でピンクのアジサイが咲き誇り、敵前衛の傷ついた枝葉が再生していく。すかさずジャマーへと、あかりがハートクエイクアローを撃ち込んだ。心震わす矢の連射がアジサイを貫き、削ぎ落とす。散っては雨に打ち落とされる花弁に、むしろあかりの方が心穏やかではいられなかったが、弦を引く指に迷いはない。
 そしてジャマーの怪物もただ的となるわけではなかった。枝の牙を閃かせて飛来する矢をへし折るや、あかりへと突進したのだ。察知した憩が駆けつけ、あかりも新たに矢を番えるが、怪物の枝が伸びる方がわずかに早い――。
 鮮血が散り、同時に怪物の枝が叩き斬られた。
 それを為したのはあかりの前に割り込んだ比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)だ。裂けた腕に頓着せずアガサが惨殺ナイフを繰り出して、怪物を突き飛ばす。怪物が体勢を立て直すより早く、木下・昇(永遠のサポート役・e09527)の跳弾射撃が根の脚を射抜く。
「旋風斬鉄脚!」
 旋回する蹴撃が、泥水に跳ねる怪物を死角から抉った。さらに畳みかけようと相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が豪腕をしならせるが、別の個体が二体、邪魔するように喰らいついてきた。ディフェンダーだ。
「プレゼントの時間だ。ありがたく受け取れ!!!」
 その二体の足元に撃ち込まれたのは、憩の『No.071【粘着質な死】(ザ・アドヘシブ・デス)』――抗力低下剤の詰まった弾丸だ。撃たれた怪物のうち、片方の動きが目に見えて精彩を欠く。そこへ告死の影のように水飛沫をあげて走り来たのはかだんだ。
 特徴的なヘラジカの大角は今はない。雨を受け止めて重くなってしまう角は収め、獣の特徴を拳に現す。煩わしいと雨具を使わず、身体という葉に雨を受ける在りようは自然のモノだ――。
「私もお前達と、そのくらいは――近しくありたい」
 激しい雨にそう言葉を乗せ、かだんは怪物にとどめの拳を叩き込んだ。
 一方そのとき、陣内へとクラッシャーの怪物が強襲していた。巧みな位置取りでダプネーの拒絶をかわしながら、光る牙が陣内の肩を切り裂いていく。たたらを踏む陣内の背後から怪物が再度跳びかかる。
 その牙の前に突如、鉄塊剣が立ち塞がった。
「微力ながら自分も助力させていただきます……!」
 割り込むように振るわれた玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)の大剣は怪物の牙と激突し、雨を弾きながら離れては衝突を繰り返す。
 その最中、黎鷲と相対していたクラッシャーの怪物が踵を返した。加勢するようにユウマへと走る――だがその動きは、豪雨とともに急降下した刺突に縫い止められる。
「イサギ!」
「やあ、水もしたたるいい男。花が見たくてね、遊びに来たよ」
 軽い調子で陣内に返す月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)の足下で、怪物が自ら身を裂きながら日本刀の束縛から逃れた。高空から舞い降りてきた男へと爪を繰り出す。が、そのときにはイサギも一歩引いて刀を構えていた。
 本当はジャマーを仕留めるつもりだったが、こいつも邪魔――斬っていいモノだ。すくい上げる斬撃は怪物と雨滴を弾き飛ばす。
「私も掩護する」
 ハンスが前衛を癒すべくスターサンクチュアリの陣を形成するのに合わせて、神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)からヒールドローンが飛び立った。状態異常のみならず物理面の防御態勢も整っていく。晟に話しかけられ、ハンスはどうにか「ありがとう……ございま、す」とだけ返した。
「雨は嫌いだが」
 喰霊刀をだらりと提げた銀髪の男、ナザク・ジェイド(甘い哲学・e46641)がちらと陣内に視線を寄越した。
「世話になっている奴がいるから仕方ない。ひと肌脱ぐか」
 ナザクが凝視したのはユウマと剣戟を交わす怪物だ。『歪み』のビートを意識に直接叩き込まれて怪物がよろめく。
 かだんの両手のハンマーが一体化し、地面に叩きつけられたのはそのときだった。
 ワールドエンドディバイダー。轟音とともに噴き上がった莫大な衝撃と炎熱は豪雨すら押し退けるように蒸発させ、前衛三体の怪物どもを燃え上がらせた。水では消えぬ魔炎にもだえる怪物たちをヘッドライトが照らしだす。
「炎に爆発を足してひゃっはーなのです!」
 ハイパーライダー発動。ライデルさんの座席で器用に仁王立ちしながら、フェイトが両手の爆破スイッチを力強く押し込んだ。爆炎連鎖獄の見えない爆弾が炸裂し、怪物たちがさらに激しく燃え上がる。
 豪雨の中で消えぬ焚き火のように炎上する怪物の動きは鈍く、もはや脅威ではない。ブルローネが霧のエンチャントを、ハンスが爆煙による強化をさらに供給し、サポートのケルベロスたちを含めた人数で範囲攻撃を繰り返せば長期戦にもならない。
 黎鷲が天胤剣の力を揮い、憩が御霊殲滅砲を炎へ撃ち込めば、もう怪物どもは自力で動くことすら困難になっていた。まるで怪物と化してしまう前、花壇に植わっていたときのように。違うのは激しく燃えていること、そしてそんな有様でありながら、いまだ人間を害する意思を失っていないこと。
「お疲れさん。もう楽にしな」
 吐き出すように告げた陣内からマインドスラッシャーが放たれる。光の戦輪は雨を弾きながら分裂し、前衛の怪物三体の命をまとめて刈り取った。
 残る一体、ジャマーの怪物も重なる状態異常のため、切れかけたねじ巻き人形のように動きは緩慢だ。だがそれでも脚力はまだ健在だった。間合いに佇むあかりへと砲弾のように飛びかかる。
「ごめんね……」
 交錯の刹那、あかりの首を狙った爪撃は、彼女の肩を裂いた。一方、緩やかに下ろしたあかりの指先にはグラビティで形成された刃があった。
「謙虚で辛抱強い花――また巡り巡って命を咲かせますように」
 少女の背後で、上下半分に切断された怪物が、中空で雨に溶けるように消滅する。
 いつしか炎も怪物たちを燃やし尽くして、初めからなかったかのように消えていた。
 残ったのは最初と変わらない、激しい雨音。

●遣らずの雨
 雨はやむどころか、その雨脚をいっそう強くした。
 戦闘中ならまだしも、いつまでもあたっているわけにはいかない。それにこの豪雨では土をいじるのも難しいこともあり、けっきょくアジサイや花壇に何かしてやることはできなかった。
 でも、と軒先から雨空を見ながらハンスは思う。雨は、いつかは止むものです、と。
「いやージャマーがんばりました! どうでしたか、僕どうでしたか?」
 駆け込んだ建物の軒先で雨宿りをしているのだが、ヘリオンが迎えに来るまでもうちょっとかかりそうだ。濡れた尻尾を乾かしつつ丁寧にブラッシングしながら、白イタチのブルローネは陣内にアピールした。
「ああ、よくやったと思うぞ」
「たまさーん、僕とライデルさんもがんばりましたよ!」
 褒められて嬉しいステップを踏むブルローネを押しのけ、フェイトも主張する。
「そうだな。活躍してたな」
「おおっ、たまさんに褒められたのです! これは明日は大雨でしょうか。あ、もう降ってますね!」
「調子乗んな」
「陣内、今回ともに戦えて光栄だ」
 デコピンをくらったフェイトがふえぇぇぇと雨の歩道をのたうち回る。それを視界から外しつつ、黎鷲が傲然と濡れた前髪を払った。
「お前もこの俺とともに戦えて光栄だろう。なにせ俺の獅子奮迅を目の当たりにできたのだからな」
「たしかに、あの剣技は凄まじかったな。チームを組めて良かったよ」
「そ、そうか! ふっ……ふふ……」
 少女のような麗貌に花が咲いたのも一瞬のこと。他人にはそれとわからぬ上機嫌な足取りで黎鷲が踵を返す。少し離れたところでレイが小さくくしゃみしていた。
「なぁ陣内、煙草一本貰えねぇか」
 かだんが上着を絞る隣で、憩が喫煙のジェスチャーをした。
「自前のを派手に濡らしちまった」
「そういうことなら……俺もだよ」
 取り出した煙草とライターはすっかりダメになっていた。でもとりあえず一本渡す。
「その辺の店で買うか……いっそ火で炙ったら吸えるかな?」
「ははは、そりゃいいな――って、おいかだん、吸い殻食うなってあれほど……聞いてんのか!」
 盛り上がる陣内と憩をむすーっと眺めているかと思いきや、憩からかすめ取った煙草を口に放り込んだかだんに、憩が目を三角にして叫んだ。やめさせようと顎をつまむが、無心の咀嚼は止まらない。
「タマちゃん」
 呼び声に視線を落とせば、陣内がかけてあげたロングコート――それもずぶ濡れだが、ないよりはマシだろう――の下から、あかりの蜂蜜色の瞳が覗いていた。支援に来た友人からは、彼女が風邪をひかないよう気をつけろと忠告されたが、言われるまでもない。
 あかりは背伸びすると、手にしたタオルで陣内の毛皮を拭き始めた。この雨の中、よくタオルを濡らさずに済ませたものだ。ほのかに温もりを感じる。
「……お家に帰ろう、陣」
「……早く帰って、温かいカフェオレを淹れてやる」
 拭きながら、拭いてもらうがまま、二人が言葉を交わす。
 雨に覆われた景色はまだ、白い。

作者:吉北遥人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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