影から影へ

作者:神無月シュン

「最近暑い日が続くなー」
 急にアイスが食べたくなり、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は散歩がてらコンビニへと夜道を歩く。
 一瞬感じる視線。気のせいかと思いしばらく歩くが、視線はまだ感じる。
 何かあった場合、一般人を巻き込みたくはない。ミリムはあえて人通りがない方へと歩いていく。そして路地裏へと到着すると、
「誰だ!」
 振り向き叫ぶ。
「黒猫……?」
 電柱の陰から出てきたのは、真っ黒な猫……の様に見えるが、存在感が薄くそこにいるのかすら怪しくなる。視線を下げていくと、その影はモザイクに覆われていた。
「ドリームイーター!?」
 猫の様な姿のドリームイーター――シェイド。初めて出会ったはずなのに、どこか懐かしさを感じる。この気持ちが何なのか、ミリムが考えたその瞬間、シェイドの姿が目の前から消えていた。
「っ!?」
 一瞬感じた殺気に、飛び退くミリム。先程まで立っていた場所へと、シェイドの爪が振り下ろされていた。
 シェイドは攻撃を外し着地すると、再度攻撃の機会を窺う為に、近くの影へと溶け込んだ。

「よく集まってくれた」
 集まったメンバーを一瞥し、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は満足そうに頷く。
「早速で悪いが、ミリムが、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知された」
 急いで連絡を取ろうとしたが、連絡がつかなかったという。
「ミリムがまだ無事なうちに、お前達には救援へと向かってもらいたい」

 現場には人通りはなく、人払いをする必要は一切ない。
「敵は猫の様に素早い動きで、影から影へと移動しながら攻撃してくる。『武器封じ』、『トラウマ』、『ドレイン』といった攻撃をするようだな」

「早速準備を始めてくれ」
 頼りにしているぞと、ザイフリート王子はニヤリと笑った。


参加者
空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)
アルクァード・ドラクロワ(爬虫類大嫌いな血晶銀龍伯爵・e34722)
黎薄・悠希(憑き物の妖剣士・e44084)
新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)
牧野・友枝(抗いの拳・e56541)

■リプレイ


 窮地に立つ仲間を救うべく、ケルベロス達は街灯に照らされた夜道を走る。
 人の居ない方、居ない方へ……。
「影猫……影って、もふもふとか手触りあんのかね?」
 空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)が走りながら、ふと疑問を口にする。
「実際に触ってみたらどうかしら?」
 それに答えたのは頭上からの声。体長3メートル程もある巨大なクマの姿をしたブラックスライム『クロマ』。その頭の上に乗っていた、黎薄・悠希(憑き物の妖剣士・e44084)のものだった。
 曲がり角を曲がり、目的地はもうすぐ。ケルベロス達は、走る速度を上げた。
「なんでボクが狙われるんだ?」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が呟く。
「次の攻撃に備えないと……!」
 懐かしさや不安、様々な感情が湧き上がるが、今はそれどころではない。影に潜んでいて今は姿が見えない相手。いつ襲い掛かってくるかわからない状況で、考え事をしていたらやられてしまう。神経を研ぎ澄まし周囲を警戒、敵の攻撃に備える。
 こう着状態が続く中、遠くから複数の足音が聞こえてくる。
「最近はなんかもう、目を離すと襲われてんな、ミリム」
「ミリっち! 大丈夫!?」
「ミリ姉さま、この間襲われてからまだ1週間ですのに……」
「団長、加勢する。宿敵を潰す絶好のチャンスだ。反撃といこう!」
 空牙、牧野・友枝(抗いの拳・e56541)、新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)、ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)。駆けつけた仲間達が次々ミリムへと声をかける。
「え? どうしてみんな此処に? ……ああ、予知か!」
 ミリムは一瞬驚くが、最近似たような事があったばかり。すぐに納得する。
 仲間の用意した灯りが辺りを照らし、ドリームイーターの『シェイド』が姿を現す。ぱっと見ただけでは黒いもやの塊に見える。よく見れば、目や口があり黒猫の様にも見える。だが輪郭はとても曖昧で、吹けば闇夜にとけてしまう。そう思わせるほどに存在感が全くない。足元の影がモザイクで覆われていなければ、ドリームイーターであることすらわからないほどに。
「猫型ドリームイーターか。猫は萌えるよな。黒猫は特別に大嫌いだがな」
「おやおや、ウィアテスト君は愉快な知り合いが居るのだねぇ。殺意MAXの知り合いとは……ね!」
 ラギアの隣、アルクァード・ドラクロワ(爬虫類大嫌いな血晶銀龍伯爵・e34722)がランタンでシェイドを照らす。
「あらあら、知り合いの知り合いだからと思ってきてみたけれど、親戚なのね?」
「いやこんなの親戚じゃないからね?!」
「あら、違うの?」
 悠希の誤解を懸命に解こうとするミリム。皆が騒がしくしている間、シェイドは再び影へと身を隠した。
「ああーもうこそこそして! 今に引っ張り出してやるからね!」
「ひとまず身のこなしが素早いのは、どうにかしないとかしらね」
 周囲の警戒を始める友枝と悠希。
「ドリームイーターが! 俺の知り合いを襲ったことを後悔させてやる!」
 帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)の性格が好戦的なものへと変わる。
「そんじゃ……その存在、狩らせてもらうぜ? 悪く思うなよ!」
 空牙は首にかけていたヘッドホンを頭へと装着し、戦闘態勢に入った。


「みんなに力を」
 地面へと描かれるのは、ミリムの守護星座。暖かな光が溢れ出し、仲間を包み込む。
「団長は貰い手が決まってるんだ。潔く諦めろよ」
 一瞬視界に入った、シェイドに向かってラギアが飛び蹴りを放つが、シェイドは素早い動きでするりと躱すと影のモザイクが巨大な口へと形を変え、ラギアに襲い掛かった。
「……ほら、死角ができてんぜ?」
 攻撃に気を取られていた瞬間を狙い、空牙の放った竜砲弾がシェイドを吹き飛ばす。
 シェイドはすぐに体勢を立て直し、上空へと跳び上がっていた友枝の急降下蹴りを躱し、
「行きなさい、星よ」
 瑠璃音の放つ星型のオーラも軽々と躱していく。
「あらあら、すばしっこいのね。でも、私の攻撃からは逃げられないわよ?」
 攻撃を回避し着地する瞬間に合わせて、悠希の飛び蹴りがシェイドの胴を撃つ。一度、二度と地面に打ち付けられゴロゴロと転がっていき、やがて塀へとぶつかり止まった。シェイドがフラフラと立ち上がる。
「こっちを見やがれ!」
 翔の尋常ならざる美貌から放たれる呪い。その傍らでアルクァードがカラフルな爆発を巻き起こし、仲間の士気を高めていく。
「全然当たりやしないな」
 空振りして地面にめり込んだ武器を引き抜き、ラギアが愚痴る。
 シェイドはその間にも影から影へと移動し、ミリムへと襲い掛かる。
「フッ、効かんなァ!」
 アルクァードが間に入り攻撃を受け止めるが、
「いや、嘘嘘待って待って痛い痛い!」
 続けざまに放たれた2撃目に、堪らず後ずさる。
「大当たりだ!!」
 攻撃終わりに隠れる影を勘で狙った、空牙の電光石火の蹴りが避ける暇もなく、シェイドへと突き刺さる。
「今だよクロマ、やっちゃえ!」
 悠希の掛け声に応じ、捕食モードへと姿を変えたクロマが襲い掛かる。
「オラオラオラ! 蹴り砕いてやらぁ!」
 悠希の攻撃に怯んでいた所へ、続いて翔の蹴りが襲い、シェイドは堪らずに後退すると再び影へと姿を隠した。


 用意した灯りのおかげで、暗闇から急に襲われることは無くなっているとはいえ、攻撃の度に影へと隠れる敵。まるでモグラ叩きをしている気分になってくる。違うとすれば影に潜んだからと言って、攻撃が当たらなくなるわけではない。隠れる先さえわかってしまえば攻撃が可能という事だ。
 今までの攻撃で弱ってきたのか、徐々にその速度も落ちてきている。既に目で追えないほどの速さはない。
 ミリムが放った虚無魔法がシェイドへ襲い掛かり、塀も一緒に抉り取る。
「ごめんなさい……後で直します」
 塀に空いた大きな穴から見える建物に向かって、ミリムは頭を下げた。
 怒りに任せてシェイドが友枝へと襲い掛かり、すぐに影へ。
「何処に隠れたって!」
 反撃に放たれた友枝のオーラの弾丸が、影に隠れきる前にシェイドへと命中し吹き飛ばす。
「永久の姫、出会う者に祝福を。孤独な永遠の呪いだとしても」
 瑠璃音の歌声が癒しの響きとなって、戦場へと満ちる。
 アルクァードがアームドフォートを構え、一斉射。砲弾が飛ぶ中、アルクァードのボクスドラゴン、クールマ・ヴァスキも攻撃をするべく突進する。
「くっ!? 影が食べられて……る?」
 友枝の影へと喰らいつくシェイド。友枝の影が徐々に薄くなっていく。
 ――やばい。頭に響く警鐘に飛び退き一気に距離を開ける。瞬間、全身の力が抜け膝をつく。どうやら影と一緒に生命力まで吸いとられたみたいだ。
「大丈夫か?」
「大丈夫、ちょっと体力を奪われただけ」
 警戒しながら声をかける翔。友枝は立ち上がると両手を閉じて開いてを繰り返し、大丈夫だと告げた。
「敵も体力が残り少ないんじゃないかな」
 ここにきて見せた攻撃に、アルクァードはそう推測する。
 それならばと、ケルベロス達は一気に勝負に出る。
「死にはしない。死ぬほど痛いだけだ」
 ラギアの冷凍ブレスと氷の竜爪の連撃に砕けた氷が宙を舞う。
「逃げ場所わかってりゃ、そこに罠張るのは当然だろ?」
 空牙が影に仕込んだ分身が、隠れようと向かってきたシェイドを斬り刻む。
 方向転換し、別の影へと逃げようとするシェイド。しかし眼前にはグラビティ・チェインを両手に集中、凝縮させた友枝の姿。
「この距離なら…ッ!」
 力強く踏み込んだと同時、掌底打ちと共に圧縮されたグラビティ・チェインが炸裂し、シェイドを吹き飛ばす。
「禁じられた詩でも、我歌う、其が貴方を救うなら」
 瑠璃音が瞳を閉じ、敵を呪縛する禁歌を歌う。
「さて、そろそろ見せてもらおうかしら、瑠璃色の世界に染まる中の影は、どうなるのかをね。行くわよ、五ノ刻、黎明。十七ノ刻、薄暮。始り、終わりの交わり、来たりて――――宵闇、瑠璃斬!」
 シェイドが動きを止めた刹那、悠希から放たれる神速の一撃。
「捉えたぜ……! ……肉片も残さねぇ……跡形もなく消えやがれ!」
 翔の放った光線が軌道を変え、逃げるシェイドを追尾し……飲み込んだ。
「私の武勇伝を聞きたいかね!? 良かろう、存分に聞かせてやろう! が、まずはそこに座りたまえ。寝る事すら許さんので喜び咽び泣きたまえ!」
 何やらかを延々と語りながら、全方向から殴打と蹴りの連打を浴びせるアルクァード。武勇伝を語るのが楽しいのか、その表情はまさにドヤ顔。
「ごめんなさい……」
 どうしてこの言葉が口を衝いたのかは分からない。だが、躊躇っている余裕はないとミリムは距離を詰める。
「はずしたりすんなよ? ぶちかませっ!」
 ラギアの声に背中を押され、
「覚悟はいいですか」
 光輝のエネルギーを集中した拳がシェイドに撃ち込まれると、辺りに目が眩むほどの光が溢れる。
 光が収まると、そこにはもうシェイドの姿は無かった。


「はてさて、お疲れさん」
 武器をしまいながら仲間を労う空牙。
 悠希はクロマの上から辺りを見回し、危険がないかの確認をしている。
 乱れた服を正しながら、周囲を直していくアルクァード。瑠璃音も手伝うようにそちらへと向かった。
「みんなボロボロになっちゃって……けど、助けてくれてありがとう」
「なんともない。いつものことだ」
「ん? こんくらいへーきへーき。大丈夫だよ」
 笑って返事をするラギアと友枝。
「それより何事も無くて良かったよ。……ま、私はミリっちが負けるとは全然思って無かったけどね?」
「もう親戚の方はお痛はできません、安心してくださいね」
「だから、親戚じゃないからね?!」
「え、親戚ではないです?」
 さっきもしたようなやり取りを、周りの修理を終えた瑠璃音と繰り広げる。
「ウィアテストさん、無事ですか?」
 戦闘が終わりいつもの様子に戻った翔が心配そうに駆け寄ってくる。
「みんなのおかげで無事だよ」
「よかった」
 安心した途端、ぐぅと翔のお腹が鳴る。
「せっかくですから、皆さんでアイス買いに行きましょう」
「いいね。助けてくれたお礼に奢るよ」
「アイスか、いいな。最近暑いし」
 瑠璃音の提案にけらけらと笑いながら空牙が便乗する。
「あら、いいわねアイス。私もご一緒していいかしら?」
 警戒を解いた悠希も会話に参加する。
 もう夜遅い時間。あいているのはコンビニぐらいだが、元々行くつもりだったのだ。どうせならみんなで行こうと、一同歩き出す。
 その最中、ミリムは昔飼っていた黒猫の姿が頭によぎる。
(「もしかしてあれは……まさか……ね」)
 ――ドン。
 考え込んで止まっていたミリムの背中を何かが突き飛ばす。
「わぷ」
「おっと、大丈夫か? 調子が悪いなら、おんぶでもするか?」
「だ、大丈夫だからっ」
 抱き止めた空牙が心配そうに顔を覗き込むと、ミリムは顔を真っ赤にし慌てて返事をする。
「いちゃついていると、おいていくぞ」
 数メートル先を歩くメンバー達。声をかけてきたラギアはニヤニヤと、からかうような笑みを浮かべている。
「ほら、いこっ」
 耳まで真っ赤にしたミリムは、空牙の手を取ると走り出した。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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