ミッション破壊作戦～機械の産声

■リプレイ

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　今回のミッションは松坂市防疫戦であった。

　轟音を立てて飛ぶヘリオン。やがて窓の外、地上に見えた光景に豊田・姶玖亜（ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077）が声を上げた。
「松阪と言えば松阪牛だよね。それなのに、あの見苦しい肉塊はなんだい？　屍隷兵まで湧いて出て、美味の代表みたいな松阪牛を落ち着いて堪能できやしない。……この屍隷兵達も、もとは罪のない松阪市民だったのかもしれない。そう思うと、やりきれないね。だけど、だからこそボクらが引導を渡して、彼等がこれ以上犠牲を出さないように、望んでいない殺戮に手を染めないようにしないと。それができるのは、ボクらなんだ。さあて、一仕事してこようか」
　姶玖亜が拳を打ち合わせながら言い、仲間のケルベロス達も頷いた。

　ヘリオンの降下口に、上村・千鶴（陸上競技部部長・e01900）は降り立つ。
　眼下、遥か下方には強襲型魔空回廊のドーム。
　その向こうには、屍隷兵のフライガールが牛たちを相手に酸鼻極まる光景を繰り広げていた。
（「そこには多くの人達の生活があったはず。牛たちを育て、その肉を売ってお金を稼いでいただろう。やつらは人々を殺し食い、あまつさえその大切に育てた牛をも食い散らかす。殲滅したところで、彼らの生活はもう戻れないだろうことは明白……その落とし前は、ここでつけさせてもらう……」）
　千鶴は光の小剣グラディウスを構えた。デウスエクスの暴虐を見下ろして、負けず嫌いを感じさせる気合いを放つ。
「これ以上、何一つ食べさせやしない……！　ここで、打ち止めよ……！！！」
　千鶴は、吼えるように叫ぶとグラディウスを構え、ヘリオンから飛び立った。真っ直ぐにグラディウスの切っ先をドームへ向け、風を切って急降下していく千鶴。

「あいつの命の重力すらも操って、私はみなさんの守りをしましょう。大丈夫、墓場のヘカテは伊達じゃないわよ」
　続いてセレスティン・ウィンディア（墓場のヘカテ・e00184）が降下口に現れた。
「悍ましき屍の寄せ集め、その存在はまさに死者の冒涜！　永遠の安らかな眠りも約束されないなんて、死者は骨となって地に眠ってればいいものを、その腐った醜態をさらに増やす気か。とっとと私の目の前から居なくなって、この地にお前のようなハエは必要ない！！」
　セレスティンもまた光の小剣を携えると、躊躇いもなくヘリオンから飛んだ。真っ逆さまに落ちていきながらグラディウスを構えるセレスティン。

　次に姶玖亜がヘリオンの降下口に立った。
「敵とはいえ、かつては守るべき人々であった屍隷兵。正直、守るべき人達だった屍に銃を向けるのは、やりきれないさ。だけど、このまま見過ごしてたら、更なる被害が、悲しみと絶望が、松阪に溢れてしまう。松阪には美味と笑顔が溢れるべきなんだ！　今こそ松阪を解放し、この地の人々の笑顔を取り戻す！　屍に銃を向ける罪は、ボクが抱える。お前は…人々の想いを願いを乗せろ」
　魂の叫びを上げながら、姶玖亜は降下口から空中へと飛んだ。小剣グラディウスで光の軌跡を描きながら、ドームへと急速に落下していく。

　次々にケルベロス達は降下口に現れた。
「此処は、懸命に生きる人々の世界よ！　破壊と死を齎すデウスエクス襲来の根源を、絶つ！　グラディウス、力を貸して貰うわよ――そして、その求めに応えなさい！」
　ローザマリア・クライツァール（双裁劒姫・e02948）は背中に挿していたグラディウスを取り出し構え、ヘリオンから飛び降りていった。
「未来を必死に生きる人々の生活を脅かす屍隷兵どもめ……その行いは万死に値する。このグラディウスで、腐った肉塊ごと消え去れ！」
　雑賀・真也（不滅の守護者・e36613）は、グラディウスをクールに構えると突撃するように飛び降りた。
「松阪牛を育てるのがどれだけ大変か分かってるの！？　すごく大変なんだし、すごくおいしいんだよ！　せっかくの松阪牛にそんな仕打ちをするなら、お仕置きだよ！」
　鷹崎・愛奈（死の紅色カブト虫・e44629）は怒りに満ちた声を上げて、オラトリオの翼を広げながらグラディウスを手に持ち、ヘリオンから飛び降りた。
「……人も牛も容赦なく食い潰して増える……種一つを滅ぼすためにあるようなその増え方、おぞましい。この地の大事な命と資源をただ食い潰して無残に骸を転がせ増えるだけのお前達は、骸を綺麗残さず大地へ還してくれるハエの足元にも及ばない！　その肉塊ごと、この星のどこにも生かせはしない！　早々に失せろ！！」
　フィスト・フィズム（白銀のドラゴンメイド・e02308）は、グラディウスを構え、ウイングキャットのテラとともにドームをめがけて飛び降りた。
「俺は『兄貴』には清潔にしろって言われれてさァ。汚物やら蝿やらがたかるのは許せねェ訳だわ。ましてや生きてる人や牛に食らいついてくる蝿ときた。……ローカストの連中だって飢餓から来た最終手段だったってのになァ。屍隷兵に喰わせる様な生きてる連中はどこにも居ねェ。供養ぐらいはしてやるが……とっとと消えなァ！！」
　霧島・トウマ（暴流破天の凍魔機人・e35882）は、デウスエクスへの怒りを原動力に、グラディウスを光り輝かせながら、ヘリオンから飛び降りた。重力に従って急速に落ちて行くトウマ。その先には魔空回廊のドーム－－。

　ドォォオオオオンン……。
　ドォォオオオオンン……。
　ケルベロスが一人、落下してくる度に、グラディウスの先端がドームへ突き刺さり、閃光と爆炎がほとばしる。濛々と舞い上がるスモークの中を、地獄の番犬たちは一人ずつ走る。
　轟音と轟雷は連続的に続き、爆発し炎上し続けるドーム。
　その周囲を白みがかった灰色の煙は風に流されながらどこまでもたなびいていた。
　ケルベロス達は、その煙の中を、あらかじめ打ち合わせしていた方角へと走り、撤退しの準備を始める。

　仲間が全員そろった。そして一人一人が、ドームの方を振り返る。
「ダメだったか……」
　爆炎とスモークを噴き上げながらもそびえたつドームを見つめ、真也が呻くように呟いた。
「後に続く誰かの為と思えば、その道を切り拓く標は立てられたわ」
　ローザマリアは凛とした声音でそう言った。
　フィストがアイテムポケットを利用し、仲間のグラディウスを回収していった。
　仲間達は諦め半分に魔空回廊を見上げた。
　魔空回廊を破壊することは出来なかった。だが、今は出来なくても、後続のケルベロス達がきっとドームを打ち砕いてくれる事であろう。
　そう祈り、ケルベロス達は、延々と舞い上がる白煙の中を、撤退を開始した。
　ヘリオンの中で、皆、撤退のルートは確認しあっている。
　そのとき－－。

「ギギギ……」
　否、ジジジ……なのか。
　不愉快な羽音を鳴らしながら、そのスモークの中を巨大な蠅の影がよぎる。
　戦慄するケルベロス達。
　スモークを異形の羽でかきわけ、屍隷兵フライガールが空中から現れた。
「ギギギギ……」
　顎で歯ぎしりするような異音を立てている。
　千鶴はライジングダークを使いたかったがセットされていない。

「何も語らない美しい白い骸骨が好きなの。髑髏のゴーストがお友達。フライガールのあの姿は見るに堪えない。私の美学に反するのよ」
　セレスティンが歌うような声で言った。
　それを聞き取ったのか、フライガールは不愉快な叫びを上げ、空を切って飛ぶ。
　フライガールの骨管が前に立つセレスティンの白い皮膚を突き破った。
　麻痺していくセレスティン。

　真也は装甲から光り輝くオウガ粒子を解き放ち、その光で仲間を覆い、彼らの超感覚を目覚めさせていく。
『悪戯好きのアイトヴァラス、オムレツ好きの悪戯者よ、さあおいで。私達の手伝いをしておくれ』
　フィストは悪戯者の宴（コール・オブ・アイトヴァラス）を自分と同じ列に使った。
　カラスのような黒い羽の小竜の群れがフィストに呼び寄せられる。グラビティの発動に伴って何処からともなく漂ってくるオムレツの匂いに惹かれ、悪戯好きの精霊達は飛び回り、加護の風をバラ撒いた。
　真也のメタリックバーストを受けたセレスティンは立ち上がり、バレットタイムで己の感覚を増幅していく。自らを回復しながら加護を打ち破る力を手に入れ、周囲をスローモーションのように近くしていく。
　ローザマリアは因果之劒【Answerer】（斬霊刀）を振りかざすと、物質の時をも止める氷の弾丸を発射した。
　時空凍結弾とともにひた走る千鶴。
「誰よりも速く、何よりも先へ……！」
　彼女もまたパイルに「雪さえも退ける凍気」を纏い、その切っ先でフライガールを貫き凍結させる。
　二重の冷気に襲われるフライガール。
「少しは消毒になりゃいいんだけどなァ」
　トウマは日本刀に呪詛をこめ、月のように美しい軌跡を描きながら凍てつくフライガールを斬りつけていく。呪われた斬撃を受けるフライガール。
　愛奈は流星の煌めきと重力を宿した跳び蹴りをフライガールに炸裂させ、足止めにしていく。
『さあ、踊ってくれないかい？　と言っても、踊るのはキミだけだけどね！』
　ダンシングショットを撃ち放つ姶玖亜。
　フライガールの足下に絶え間なく銃弾を撃ち込み、それを敵が避けようと足掻くように仕向けることで、敵を足止めにした。

　鼓膜が破れるような不快な羽音。
　フライガールは羽を絶え間なく震わせて耳障りな羽音を立てる。
　そして、その音が、フライガールに与えた傷痕を癒やしていくようだった。
　息を飲むケルベロス達の前でフライガールはみるみるうちに治癒していく。
「ギギギ……」
　嘲笑するような空気を放つフライガール。

　ケルベロス達がダメージを与えても、フライガールは耳障りな羽音で回復していく。
　一進一退のゲームが続いた。
　ケルベロス達は連携しながらダメージで削るがフライガールは即座に回復する。そして骨管を使ってケルベロス達に攻撃を与えた。

　……二度目に、フィストはゾディアックソードで守護星座を描き、その光の円陣で仲間達を守った。
「さぁ、時よ踊れ。愛しき屍の上で！」
　セレスティンは小石を振り上げると鋭く放り投げ、フライガールの腕を打ち砕いた。
「俺は苛烈なる者！　兄貴から生まれた反逆の刃！！」
　トウマは音速を超えた速さでまっしぐらに駆け抜け、鉄拳をフライガールに打ち込んでその加護の力を打ち破った。瞬間、ドSな笑みが彼の顔に浮かぶ。
『お前を守っている加護とやら、見切らせてもらったぞ。その加護、破らせてもらう！』
　続いて真也の鷹翼二連（タカヨクニレン）。
　経験と心眼によりフライガールの加護を見切ると、それに”効く”魔剣を二振り複製して両手に構える。それらをブーメランのごとく投擲して敵を斬り裂く。さらに２本同じ魔剣を複製しながら一瞬にして敵に近接。ブーメラン攻撃で再び敵を斬り裂くと同時に、複製した両手の魔剣で十字斬りを浴びせた。
　粉々に打ち砕かれる加護。
「さーて、どうやって撃ち落とされたい？」
　姶玖亜はリボルバー銃を素早く撃ち放ち、フライガールの攻撃の手を封じていく。
　ローザマリアは掌に「ドラゴンの幻影」を呼び出した。そのドラゴンが咆哮し、火炎でフライガールを焼き払う。
『On your mark! Get set! Go!』
　On Your Markによりクランチングスタートからダッシュし、全力で駆け抜けると、フライガールを殴り伏せる千鶴。
「さあ、お前の罪を数えろ！松阪牛の罪は重いよ！」
　愛奈はジャッジメントレイを行った。
　シャイニングレイの強化である。
「おばあちゃんが言っていた。『罪の重さなんてものは裁く側が決めるものなのよ。』って。だから調停者は公平で正しくないといけないんだ」
　そう呟きながら翼から聖なる光を放ち、フライガールの罪を直接攻撃していく。

「ギガアッ！！」
　回復していてもダメージはたまっていたのだろう。
　ケルベロス達に向かって不快な声で吼えるフライガール。
　デウスエクスは千鶴に向かって空を飛び、死の抱擁を行おうとした。
　しかし、その寸前にセレスティンが飛び出る。
　デウスエクスに締め上げられるセレスティン。
　その攻撃の破壊力は今までと比べものにもならなかった。

　すかさずフィストは、妖精弓から祝福の矢を撃ち放ち、セレスティンを射抜いて回復していった。
　セレスティンは妖艶に微笑んだ。
「その醜い抱擁すべて引き受けるわ。そのかわり…あなたの命を頂戴？」
　粉骨乱舞（ボーンフレイク・クリア・インパクト）。
　スケルトンゴーストを粉骨状態で召喚。フライガールが直接触れた個所に砲撃し一瞬にして相手の生気を奪い取る。骨は貫通したのちは風花のように輝きながら、召喚者のもとへ奪った命を届けた。
　トウマは腕の肘から先をドリルのように回転させながら突撃し、抉るような一撃をフライガールに与え、装甲にヒビを入れた。その威力に悲鳴を上げるフライガール。
　真也もまた、日本刀に雷を帯電させていく。雷撃の閃きを放つ日本刀、それを構えて突撃するとフライガールの装甲にさらなるダメージを与え、粉砕していった。
　千鶴は装甲の壊れたフライガールに鋭く冷たいイガルカストライクを行い凍結させていく。
　姶玖亜はドームの近くの建物を狙い射撃を行う。跳ね返った銃弾が死角からフライガールを撃ち抜いた。
　愛奈は二本のルーンアックスを空にめがけて振り上げる。そして突っ走り、フライガールの双肩を狙って十字に強く切りづけた。
「悪いわね、通らせて貰うわよ」
　喘ぐフライガールにローザマリアが告げた。
『劒の媛たる天上の御遣いが奉じ献る。北辺の真武、東方の蒼帝、其は極光と豪風を統べ、万物斬り裂く刃とならん――月下に舞散れ花吹雪よ！』
　高速劒『紊雪月花・風華散舞』（コウソクケン・ミダレセツゲッカ・フウガサンブ）を使うローザマリア。
　スモークの漂う空。切れ切れに見える空の光。その陽光を反射する花吹雪のごとき一閃。
　その正体は劒を振るう腕のみを重力から解放することで繰り出される不可視の超高速多段斬撃。神速にも達するその劒閃は真空波を生じ、たとえ間合いの外に占位する対象であっても無慈悲に斬り刻む。
　その神速の連撃にトドメを刺され、フライガールは滅びた。

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　スモークが風に流れて晴れていく－－。
　爆炎も閃光も静まりつつあった。
　魔空回廊のドームは屍隷兵の怨念を吸い込むように黒々とそびえたっている。
「長居は無用よ。さっさと離脱しましょう」
　ローザマリアが言った。
　流れるスモークの中に身を隠し、ケルベロス達は撤退のために駆け抜ける。
「あたしも、おばあちゃん達みたいにがんばれたかな？」
　愛奈が不安そうに呟いた。

　今回の決して無駄ではない。皆、胸の中でそう呟きながら、灰白の視界の中を、ただ走り抜けるのであった－－。

作者：柊暮葉	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年5月28日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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