●からふる・えっぐ
そこはとある河原、その橋の下。
人の気配が薄いその場所で握りこぶし程の大きさのコギトエルゴスムに、機械で出来た蜘蛛の足のようなものがついた小型ダモクレスがごそごそと動いていた。
そしてそれは、捨てられていたあるものを見つけ飛びついた。
それは周囲に捨てられていたものを巻き込んで肥大化して不格好な手足を得て立ち上がる。
「えっ! ぐっ!」
家庭用電気ゆでたまご器――それは今、立ち上がりごみで作ったカラフルなたまごを周囲へと飛ばし始める。
●予知
ある場所にダモクレスが現れるので対処してほしいと夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は集ったケルベロス達に告げた。
「ある河原に捨てられていた、電気ゆでたまご器にダモクレスがとりついちゃうんだ」
被害者はまだ出ていないものの、このまま放っておくわけにはいかない。
何か起こる前に撃破してほしいとイチは続けた。
イチ曰く、敵のダモクレスは家庭用電気ゆでたまご器とのこと。
周囲にあった廃棄家電を取り込んでその大きさはひと、一人分くらいになっているという。
どこかずんぐりむっくりとしたシルエットにちょこんとはえた手足のダモクレス。
それはカラフルなごみのたまごを発射したり、コンセントコードで薙ぎ払ったりしてくるという。
「もともとはゆでたまご器なのね」
ごみたまごはいただけないわ、とザザ・コドラ(鴇色・en0050)は話を聞いて唸る。
ずんぐりむっくりしたシルエットはちょっと可愛い感じかも、と零しつつ。
「強敵ではないから、よっぽど油断しない限りは負けることはないと思うよ」
それから、とイチは言葉続ける。
頑張ってくれるケルベロスさん達にご褒美を用意しました、と。
「この近隣にあるホテルでランチビュッフェが行われてるんだよね」
「ランチビュッフェ!」
「で、そのビュッフェのテーマはイースターなんだ」
「イースター!」
サラダは旬の野菜。それらを好きに選んで、ドレッシング。
スープはミネストローネ、そしてじゃがいも。
冷たい前菜にはオニオンとケッパーたっぷりのスモークサーモン、もしくはサーモンのマリネもある。春野菜を使ったテリーヌも何種かあり、目にも鮮やかだ。
春野菜のオイルパスタ、鶏肉の香草焼き、魚のトマトソース煮とほかにも色々。
ローストビーフは固まりからシェフが目の前で切ってくれ、付け合わせマッシュポテトやにんじんのグラッセと共に渡してくれる。
それから、一品、注文してから作るあたたかな料理を頼めるとか。
パプリカやチーズなど好きな具材を入れることができるホワイトオムレツか、薔薇のオムライスだ。
薔薇のオムライスはチキンライスの上に薄い卵を薔薇のような形にしてかぶせてあり、人気の一品。
そしてテーマのイースターを一番体感できるのはデザートだ。
うさぎやにわとりを模した卵型のチョコ。一口苺タルトにはうさぎの耳のチョコがたっている。小さなシュークリームはたまごから孵ったばかりのひよこのよう。
一口ロールケーキは色々な模様でお城のように積み重なっている。
カップケーキにはパステルカラーのクリームがのりその上にはたまごやうさぎ、イースターを思わせるアイシングクッキーやチョコレートが色々と乗っている。どれにしようかと迷うのもまた楽しい。
他にもパステルカラーのマカロン、苺のシャンティなど可愛らしくて、美味しいものが沢山ある。
「な、なにこれ素敵!」
「うん、しっかりお仕事してから、楽しんできてほしいなって」
イチはよろしくねと言いながら、ケルベロス達をヘリオンへと誘った。
参加者 | |
---|---|
小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138) |
大成・朝希(朝露の一滴・e06698) |
輝島・華(夢見花・e11960) |
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289) |
ユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365) |
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083) |
影守・吾連(影護・e38006) |
天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082) |
●ご家庭で鍋を使わず
「えへへ、イースターのブュッフェ楽しみだよね♪ 春の食材とオムレツと……――うん。でもその前にちゃんとお仕事するよ!」
この後のお楽しみを零してにこにこ笑顔のイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)。しかし、その表情もそれが現れたなら引き締まる。
周囲には天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)が人入らぬ様示した後。
ダモクレスか、と水凪もその姿を見上げる。
「本当に何にでも取り付くのだな、今回もしっかりと対処せねばなるまい」
ずずんと重い音を響かせて立ち上がったダモクレス――それは家庭用電子ゆでたまご器だったものだ。
ずんぐりむっくりとしたボディはどことなくかわいらしく愛嬌がある。
「えっ! ぐっ!」
その姿を見詰め、大成・朝希(朝露の一滴・e06698)が漏らした言葉は。
「……あれは鳴き声、なんでしょうか」
「一応鳴き声的なものだと私は思うわ」
と、ザザ・コドラ(鴇色・en0050)が答える。しかし、実のところよりも今大事なのは。
「ともかくひよこになる前に眠って貰いましょう」
「そうね! この後の為に!」
「ええ、楽しい美味しいびゅっへのためにも!」
そのために朝希が撃つ手は仲間達への支援。
額に影落つ蕗畑のまぼろし――囁く気配は姿見せぬ小人神たちのものだ。葉より零るる大粒の玉水は飛沫となって、癒しと共に狙いを研ぎ澄ます力を。
「ゆでたまご器は可愛らしいですが悪さはいけません」
しっかり止めてみせます! と輝島・華(夢見花・e11960)がきりっと声あげるとライドキャリバーのブルームもその想いに応えるように前へ出る。
華がとんと地面叩けば、雷が仲間達を守るように走り壁を築く。
「あさゴハンにゆでたまごが食べたい時に便利よね」
ころんとちょっと可愛らしい見た目に気になるかも、と零しつつもユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365)はでも、と言う。
「ビュッフェのために、速攻で殲滅よ!」
ユーロがぽちっと爆破スイッチを押すと敵の身の上で爆発が起こる。
「もともとは美味しいものを作って人を笑顔にしてただろうになぁ……」
しっかり眠らせてあげなきゃと影守・吾連(影護・e38006)が振るうのは竜鎚だ。放たれた竜砲弾は真っ直ぐに敵へと向かっていく。
続けて、水凪は冥府深層の冷気を帯びた手刀を放ちその身を凍りつかせ動きを阻害する。
「ずんぐりむっくり、確かに可愛いケド」
とんと地面を蹴って踏み込んだのは小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138)だ。
この後には友達とのご褒美が待っている。それを思えば、口から零れる言葉は一つ。
「ちゃっちゃと終わらせよ!」
まるい身体の足元に入り込んで繰り出したのは人として高めた一撃だ。
ちょっとかわいいけど……ごめんね! とイズナは心の中で思いつつ傍らに『御業』を喚ぶ。
それが火炎弾を敵へと放てば炎がその身の上で燃えあがる。
ごうごうと燃えあがるが、これでもまだ敵は倒れる様子はない。
「ゆで卵は大好きだけど」
ダモクレスになっちゃったら放ってはおけないとマイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)も走る。
「ご褒美が待ってるから……ラーシュ、気合入れるよ!」
ブレスを吐く、マイヤのボクスドラゴン、ラーシュ。
そのブレス跳び越えて走り込んだマイヤは流星の煌めきと重力を足に乗せて飛び蹴った。
ケルベロス達の攻撃は続く。
敵は一体であり、よっぽどのことがなければ危うい事もない相手だ。
戦いの流れはケルベロス優位。
「……今、ここに」
水凪が紡ぐは虚無魔法だ、空間の結び目を解き不可視の獣を召喚し敵へと向かわせる。
その一撃の後、しゃっと唸る音を立てて走るのは相手の電源コードだ。
「させません!」
仲間に受けさせてはと、華はそれを受けに入る。そしてすぐさま振るった杖からは雷撃が一閃、空を走り敵を穿つ。
傷を受けたなら、朝希とザザはすぐさま手を打つ。
向かわせたヒールドローンは傷を癒し、そして盾を持って守りの力を与える。
「ハンプティ・ダンプティのように容易く砕かせはしませんから」
ふわりと、緋色の蝶が舞いあがる。
「――緋の花開く。光の蝶」
イズナの手のひらから解き放たれた蝶は幻想的に舞い、己しか見えなくしその足を止めさせる。
マイヤがとる手は、今一番敵へとあたりやすい攻撃。
ふらついた敵へと妖精弓構えてマイヤが放った一矢。そのエネルギーの矢はまっすぐ、敵へと突き刺さり微睡をもたらす。
「全て焼き尽くす! この真紅の炎で!!」
両手に炎の剣を具現化して、悪魔の翼から炎を噴射しながら突撃するのはユーロだ。
「ま・しぇりみたいに上手くないケド……下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるってね!」
戦いの終わりも近い。数多の緋色の符を勢い良く宙にばら撒いて里桜は発動する。
その符によって創り出された、見覚えのあるマスケット銃は里桜の周囲に突き刺さる。
安全装置など無く、炎による弾は込められ撃鉄は既に起されている。
「最大火力で燃やしてやるよォ!」
一発撃っては次の銃を手に、里桜は炎弾を見様見真似、雨のように降らせていく。
そこへ踏み込んだのは吾連だった。翼を広げ、そして尾は地を打って跳ねる。その反動も乗せて竜鎚を思い切り振り上げ打ち込んだ衝撃は進化可能性を奪う一撃。
その一撃に、敵はがしゃりと音をたて崩れていくのだった。
●お勤め終わって
「お仕事お疲れ様です、華さん。お招きもありがとうございます」
「ありがとうございます、姉様。このビュッフェの為にもお仕事頑張りました」
イチ兄様にも感謝しないと、と華は紡ぎながら景へと笑む。
「イースターはあまり馴染みはないですが、どれも美味しそうですね」
「私も実はイースターは良く知らないのですが、見ていて楽しいです」
卵にちなんだ沢山の料理は趣向を凝らしていてどれも気になるもの。
小さく、照れた笑み返しどれも美味しそうですねと華は言う。
席について迷うのはオムレツか、オムライスか。
「私はオムレツの方を注文しようかなと」
「姉様がオムレツにするなら私は薔薇のオムライスにします。卵の薔薇、どんな風なのでしょう……楽しみです」
二つを待つ間にビュッフェも。
「ビュッフェは悩みますが……お野菜やお魚を中心に」
景の皿の上には色々と。
「歳とは思いたくないのですが、お肉は最近重たく感じますね……」
でも美味しく頂けそうと景はローストビーフを。薄切りにし薔薇の形を作っているそれは見た目にも華やかだ。
「華さんはまだ育ち盛りですし、お肉の方が好きでしょうか?」
よければどうぞと、お皿の上にその花を。
そして席に戻ると、丁度運ばれてきたふたつ。
黄色い卵をちょっとずつ波打たせて作った薔薇の花。勿体ないけれど、花弁も一緒に掬って花は一口。
「よろしければオムレツの方も味見させて貰ってもよろしいですか?」
ええ、と景が頷いて皿を寄せる。すると景もお礼にと自分のお皿を。
「オムライスも食べてみて下さい、美味しいですよ」
美味しいご飯のあとはもちろんデザートも。
「デザートは苺タルトが気になりますが……食べるのを迷ってしまいますね」
お腹の余裕は、と思うと食べられる個数も限られる。そこで景は華に笑みを送り。
「折角ですから、色々なものをお願いして交換でも。どうでしょう?」
「はい、交換は勿論喜んで! これで沢山食べられそうです」
そのお誘いはもちろん大歓迎。
華と景は二人でデザートを選びに旅立つ。
「復活祭のものか。なかなか色鮮やかなものが多いな」
水凪の言葉にソロは、馴染みは薄いが面白いお祭りだと答える。
「前菜から既に美味しそうだ……ミネストローネ大好き」
と、ソロは迷いなくそれを。
前菜、甘味は良いとして水凪もまたどうするか迷い所。
「ソロはどちらを食べたい?」
「私はホワイトオムレツ。チーズにアスパラなんかも入れちゃおうかな」
絶対に美味しいこと間違いなしとソロが答えると水凪はもし、と声かける。
「嫌でないのならわたしがもうひとつを頼み、分けるのはどうだろう」
その提案にソロは頷く。
「薔薇のオムライスにも興味ありだ!」
ではわたしは薔薇のをと頼んで。
しばらくするとそれが二人の前に。水凪は取り皿にとって分け合う。
「美味しいものは分け合うと美味しさが増すものだな」
これを食べ終わったら甘味を取りに行こうと水凪はソロを誘う。
「甘い物は別腹、というやつだ」
「チョコエッグも他のデザートも、満足行くまでいただこう」
至福の時間はまだまだ続く。
「何食べる?」
どれも美味しそうで迷っちゃうとマイヤは表情緩める。
「ホワイトオムレツとオムライスの両方はさすがに食べ過ぎかな?」
「ウサギやたまごでのデコレーションがカワイイ!」
さすがイースタービュッフェ! とユーロは声零す。
鶏肉とチーズ入りのホワイトオムレツを注文したユーロは食事もだけれど、デザートも楽しみだと思う。
「紹介してくれたザザとイチに感謝だね」
並ぶ料理はどれも美味しそう。
ユーロの姉、ルリィと一緒にビュッフェへ。
「ミネストローネ、サーモンのマリネ、テリーヌ、鶏肉の香草焼き、魚のトマトソース煮」
それから薔薇のオムライスとルリィが紡げば。
「スモークサーモン、春野菜のテリーヌ、春野菜オイルパスタ、ローストビーフ。ホワイトオムレツは注文済み」
気になるものを皿にとって席に戻れば、ちょうどホワイトオムレツと薔薇のオムライスがやってくる。
「ユーロ、色々食べたいから交換し合って食べ比べるわよ」
そう言うと、ユーロははいとルリィの口元へ一口分を運ぶ。
それは少し恥ずかしい。けれどお姉さんぶってしょうがないわねとルリィは食べる。
妹には甘いのは、仕方ない。
「お姉様、目指せ全種類制覇!」
デザートのイースター仕様のこだわりに心揺さぶられる。
次から次へと、色々とってきてはユーロとルリィは仲良く食べさせあいっこを。
「うん。楽しみに待ってたよ♪」
イズナはえへへと笑み浮かべてそわそわ。
「春の食材いっぱいの料理なんだよね? とっても楽しみだよ!」
いっぱい楽しんじゃおう! とイズナはザザを誘って一緒に。
「春の彩り鮮やかなランチに心踊っちゃうよ」
春とイースター。その彩は見ているだけでも楽しい。
「うう、どれも美味しそうで困るわね」
「オムレツも迷っちゃうし、デザートも」
旬の野菜のものや、可愛く彩られたもの。それらを好きなだけお皿に。
りんごのオムレツは無かったので薔薇のオムライス。
その代り、りんごのタルトはどうやらある様子。
いちごに桃、春の、イースターのデザートも色々あって迷ってしまう。
いっぱい見て回って、食べて。
楽しくなってイズナはザザにありがとと笑いかける。
「お土産もあるかな?」
「あっちにお持ち帰りコーナーあったわよ、行きましょ!」
と、まだ楽しみは終わらない。
卵料理のふわとろって好き、と楽しみにしているマイヤ。
そのマイヤへキリッとした顔を向けたラズリー。
「俺に良い考えがある」
良い考え? と首を傾げたマイヤへと笑み向けて。
「迷ったら全部食べよう。半分こすれば沢山食べられるよ」
「半分こ! 素敵な魔法の言葉! いいの?!」
ラズリーの提案にきらきら瞳輝かせるマイヤ。
半分この約束をした二つが目の前にやってくる。
「チキンライスの丘に卵の薔薇! 崩しちゃうのがもったいないくらいだけど」
はい、半分とマイヤは嬉しそうに取り分ける。
「本当、食べるのが勿体無いくらい」
ラズリーも白兎のようと言いながらホワイトオムレツにナイフを。
するととろりとチーズが蕩けだす。
「はい、半分どうぞ」
「チーズも大好き。口の中にとろとろが広がるね」
あつあつだから舌を火傷しないようにねとラズリーは笑む。はふはふと食べるホワイトオムレツでもまた笑顔に。
こういう所にくると欲張りたくなるのはなんでだろうねとマイヤは笑う。
そして向かうはデザートのもと。
「食べちゃいたいほど可愛い、ってこの事なのかもしれない」
「底なし胃袋なら全部食べるのに!」
どれも綺麗で可愛くて、凄く美味しくて幸せ。
「こっちのタルトはもう食べた?」
「まだ! あ、タルトもらってもいい?」
こっちはヒヨコかな、兎の卵かなと二人で楽しむデザートの幸せ。
苺も甘くて美味しくて、まだまだいくらでも食べられそうだ。
「コレがホテルのぶっふぇ……!」
足を踏み入れた瞬間、里桜の表情は輝く。そしてエヴァンジェリンの方をくるっと向いて。
「エヴァンジェリン、ぶっふぇって凄いね!」
「えぇ、すごいわ。春と彩で溢れて、ワクワクしちゃうね」
エヴァンジェリンは『ビュッフェ』と言いにくそうな里桜に微笑ましいと笑みを零しつつ答える。
案内された席でもそわそわ。選べる二つはどっちも捨てがたい。
「……ねえねえ、エヴァンジェリン。良かったら、前のカフェの時みたいにシェアしない?」
「シェア?」
そう言われて、エヴァンジェリンは思い出す。
里桜と出会ったカフェの思い出。その時の事を。
それを思い出しながら勿論と笑めばぱぁっと嬉しそうな笑み。
「わーい! シェア、シェア!」
そして目の前に来たのはハムとチーズ、野菜控えめのホワイトオムレツに思わず、頬も緩む。
そして薔薇のオムライス。その黄色い花にエヴァンジェリンも感激する。
それを食べ終わったらお次はスイーツ。
まず里桜が手にしたのはカップケーキ。イースターデコレーションを食べるのはちょっともったいない気持ちにもなる。
けれど口にすれば程よくしっとりで美味しい。
「あ、テイクアウトってできるのかな?」
持ち帰れるものがあったらしたい、と里桜は思う。
「大事なヤツにもおいしいものお裾分け! そしたら、帰っても幸せいっぱい!」
そんな気持ちが、溢れてくるからだ。
タルトを頬張っていたエヴァンジェリンは素敵な提案と紡いで。
「きっと、喜んでくれるよね」
互いの大切な人を思い浮かべれば笑みが零れる。
「美味しいものは、友だちも、大切な人も、皆一緒に分け合いっこしたら、きっと」
幸せと、二人の声と笑みは重なる。
お待ちかねの時間。
「むぅ……おいしそうなの、いっぱい」
困ったと零す千は吾連にぱっと視線を向け。
「吾連、千と手を組まないか? いっぱい食べるため、ホワイトオムレツと薔薇のオムライス半分こしよ!」
「半分こ……千、ナイスアイディア」
それだ、と吾連は笑み浮かべる。
ホワイトオムレツも薔薇のオムライスもどっちも気になるのだから仕方ない。
「オムレツの具は2人で選ぶのだ! 千はチーズとジャガイモあったらうれしいって思う。吾連は何がいい?」
「俺もチーズとジャガイモが入ってたら嬉しいな。それに加えて、ひき肉もどうかな?」
「ひき肉いいな! おいしさましまし!」
それからもちろんデザートも。
吾連が選んできたのはカップケーキとマカロンだ。
自分にはチョコ味、茶色のウサギを。千にはバニラ味の白ウサギ。
「カップケーキ可愛い! ありがと!」
「良かったら、チョコ味も一口どう?」
「じゃあ、千のも一口あげるのだ!」
千が選んできたタルトもロールケーキも勿論美味しい。
「むふー、しあわせたまご味」
「甘い物は別腹だ!」
浮かべる笑顔は、二人一緒だからなお一層。
美味しい物はもっと美味しくて、いくらでも食べれそうな気分になる。
並ぶものはどれもイースターの淡い色彩。
その可愛らしさにもう目が幸せと朝希は笑み零す。
そして然しもの女丈夫もこの美食を楯にされては抗えますまいとオルテンシアへと視線向ける。
「美食だけで乗せられるほどの安い女に見えてたの?」
「ふふ、どうぞ卑怯と罵って下さいませ。なんて」
そんな会話は戯れの響きに満ちていて。
ふと、朝希が見つめるの先には菫色のマカロン。
「誰かに似てて僕には食べられな……、あっ」
「……ふ。まだまだ甘いわね少年」
オルテンシアが伸ばした指がそれを捕まえて、口へと迷いなく運ばれる。
嗚呼、指先は無情と苦笑交じり。
さっくりいただかれたマカロンはさすがのお味。
「でも僕だって、他ならぬ貴女だから誘ったんですよ」
イチさん達のとびきりのお誘いに目がない『同志』ですもんね? と朝希が笑いかければオルテンシアも笑み返し、如何と差出すのはロゼの一皿。
一切れ多めにもらったのは食べ盛りの彼のために。
春の彩は心躍らせる。
朝希の前には薔薇オムライス。その花弁のつくりの繊細さは食べるのが惜しい程だけれど、一口掬って口に運べば、美味しさの花開く。
その様子に、春色の褒美には萌える若草が良く似合う、とオルテンシアは思う。
「お仕事お疲れさま、朝希・いっぱい食べて、たくさん語らいましょう」
そう言って、オルテンシア自身も一口。
メインを食べ、お楽しみのデザート。
うさぎの耳、丸いひよこの愛らしさにお互い笑み零れ、そしてそれは食べるのはもったいないけれど、可愛いだけではない。
美味しいと、いつも強かなオルテンシアが見せる笑顔。
その垣間見る表情こそが僕の幸運と朝希は思う。
「――イースターエッグ、見いつけた」
その言葉に瞬いて、今日ばかりは卵から孵った童心に委ねて笑いあう。
作者:志羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年6月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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