黒く染まる命

作者:幾夜緋琉

●黒く染まる命
 人の居ない、地下の下水道、その中に蠢く影一つ……。
『ウウゥ……』
 と、唸り声を上げるは、幾つもの触手を生やした不浄なる者、オーク。
 ただ、普通の唸り声ではない……胸元を押さえながら、苦しみ、呻く。
 勿論、その声を聞き届ける者はおらず、静寂の中に唸り声がただ、ただ……響くのみ。
 ……救いを求め、放浪し……下水道の中を彷徨い歩く。
 が……命は最早風前の灯火の如く、耐えきれずに、下水に半身を横たえてしまうオーク。
 ……仮死呼吸している彼の元へ、音も無く、そっと近づいてくるのは……黒衣に身を包みし死神。
『……フフフ……』
 微かに、不敵に微笑んだ死神が、倒れたオークに片膝を突く。
 ……死を悼む……と思わせておき、実は……その胸元に、何か球根の様な物を埋め込む。
 そして。
『さぁ……お行きなさい。そして、グラビティ・チェインを貯え、ケルベロスに殺されるのです』
 と指示を与えると、オークは目を血走らせ。
『ウガアアアア!!』
 と、咆哮と共に立ち上がるのであった。

「皆さん、集まって頂けましたね? それでは、説明を早速ですが始めます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達に軽く一礼し、早速。
「今回、埼玉県さいたま市の地下にある、地下下水道に、どうやら死神によって『死神の因子』を埋め込まれたデウスエクスが暴走している様なんです」
「このデウスエクス……大量のグラビティ・チェインを得る為に、人間虐殺を指示されている様なのです」
「もしも……このデウスエクスが大量のグラビティ・チェインを獲得してから死ねば、死神の強力な手駒になってしまいます。そうさせない為にも、このデウスエクスが人間を殺し、グラビティ・チェインを得るよりも早く、撃破しなければならないでしょう。急ぎ現場へと向かい、デウスエクスを撃破して頂きたいのです」
 そして、更にセリカは。
「このデウスエクスは一度死にかけており、体力はかなり少なくなっています。でも、死神により強制的に体力を回復されている状態ですので、下手に攻撃を加えると、簡単に死んでしまう可能性はあります」
「ただ、デウスエクス自身は既に自分の命は亡いものだ、と朧気に理解している様なので、一切攻撃の手を緩める事は有りません。死する前に、人を殺す……ただ、それだけの気持ちで動いているのです」
「それに死神の因子が植え付けられている状態では、残り体力に対し過剰なダメージを与え、死亡させる必要が有ります。そうしないと、デウスエクスの死体から彼岸花の様な花が咲いて、何処かに消えてしまう様なのです」
「ちなみに、攻撃手段はその触手を手足に縛り付け、地面へと叩きつけるという力尽くの攻撃手段の様です。自己回復の手段も無い様です」
 そして、セリカは。
「この様な死神の動きは大変不気味ではありますが、暴走するデウスエクスの被害を止めねばなりません。皆さんの力を貸して頂ける様、お願いします」
 と、深く頭を下げた。


参加者
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
寺本・蓮(幻装士・e00154)
楡金・澄華(氷刃・e01056)
篶屋・もよぎ(遊桜・e13855)
金元・樹壱(修行中魔導士・e34863)
名無・九八一(奴隷九八一号・e58316)
寺内・美月(地球人の刀剣士・e58487)
小野・雪乃(光と共に歩む者・e61713)

■リプレイ

●澱んだ風に
 埼玉県さいたま市の地下に張り巡らされている、地下下水道。
 当然ながら、そんな地下下水道には一般人が入り込む事はほとんど無い。
 しかしながら、この地域住民には無くてはならない、不可欠な施設なわけで……当然ながら定期的にメンテナンスもされている。
 でも、そこに……。
「……また、オークが現れてしまったのですか……」
 と寺内・美月(地球人の刀剣士・e58487)が、溜息一つ。
 ……デウスエクスが一つ、オーク。
 女性を凌辱する事に至福を覚えるという、ある意味、女性の敵。
 しかし、今回のオークは、既に一度死にかけており……そこを、死神によって強制的に復活させられてしまったのだ。
「死神の因子を植え付けられたオークですか……オークは元々から獰猛ですから、死神の因子を植えられたら手に負えないですね」
「そうだな。前にも思ったが、死神も中々悪趣味だ。なるべく根元を断ちたい所だが……まだ首魁がわからん以上、地道に対処しなければな」
「そうだね。それにしても死神って、何度も目的を阻止されても、特に対策をしている様ではないんだよね。そしてその結果、同じ事を何度も繰り返す、と……それしか出来ないのか、それとも別の目的があって、失敗しても構わないと考えて居るのかな?」
「そうですねぇ……うーん。寧ろ失敗前提で考えてるのかもしれませんねー? 成功したら儲けもの、程度の考えなのかも?」
「そうかぁ……まぁいろいろ考えられるけど、まずはこいつを倒す事を優先しないとね。割と家の近くでの事件だし、早々に事態を解決しないといけないし」
「ああ。豚に情けをかけるつもりはない。が……命を弄ばれるのは不憫だ。三途の川を渡る手伝いをしてやろう」
「そうですね。せめてもの慈悲として、死神の手駒にさせない様にしましょう」
 金元・樹壱(修行中魔導士・e34863)、楡金・澄華(氷刃・e01056)、寺本・蓮(幻装士・e00154)と篶屋・もよぎ(遊桜・e13855)らの会話。
 ……そんな仲間達の会話を聞いてか、聞かずかは分からないが。
「それにしても、今回はオークを料理するとの事ですよね? 焼き加減はミディアムで宜しいのでしょうか?」
 名無・九八一(奴隷九八一号・e58316)が小首をかしげると、それに小野・雪乃(光と共に歩む者・e61713)が。
「……もしかして、九八一さん、オークを食べようとしてます? オークは食べられませんよ?」
「え、そうなのですか? ……まぁ、何にしても、オークは地下下水道に現れるのですよね? ……中々匂いが凄い事になりそうですし……特にウェアライダーさんは、死活問題になりそうですね。ええっと……」
 ポケットをごそごそと探し、鼻栓を取り出すと。
「篶屋さん、もしよろしければ、どうぞ」
 差し出す九八一に、もよぎは。
「あ、ありがとうございます~♪」
 嬉しげなもよぎの言葉に、叢雲・蓮(無常迅速・e00144)が。
「あ、ボクにも欲しいのだよ!」
 はいはいっ、と手を上げる蓮に、九八一は包帯の下でくすりと笑いつつ。
「分かりました。これ、どうぞ。必要な方がおりましたら、遠慮なさらずに」
 と鼻栓を配布。
 そしてケルベロス達は地下下水道の入口へ……マンホールを開けると、むわっとした匂いが鼻を突く。
 十分に鼻栓の効果を発揮しているのを確認した所で、ケルベロス達は地下下水道へと降りて行くのである。

●影の闇は
 そして、地下下水道の中を歩くケルベロス。
 ……陰鬱な気配に加え、聞こえてくるのは……オークの苦しむ咆哮。
 何処かその咆哮を聞いていると、こちらまで悲しい気分に……。
「……こっちか」
 と、その声の聞こえた方向を察知し、澄華が右に曲がり、左に曲がり。
 そして……侵入して十分程経過した所で。
『……グゥゥ、アアア……!!』
 叫びながら、ケルベロス達に突撃してくるオーク。
 その初撃を容易く躱すと、オークは反転。
 ……ケルベロスに対し、涎を垂れ流し……狂った咆哮を上げ続ける。
 そんなオークに対峙した九八一が。
「対象のオークと接敵しました。迎撃を開始します」
 と呟き、蓮、雪乃が。
「フェアリンが居ればな、もう少し守りやすいんだけど、あの子にはうちの家族を守って貰ってるからな~。まぁ、それでも、オマエの攻撃は絶対に通さないけどね?」
「そうですね。大声を出すのは恥ずかしいので勇気がいりますけど、今はきっとこれが必要な時だと思うから……勇気を出して、仲間に伝えます」
 と二人の言葉。
 勿論オークは、そんな言葉を聞き届けるなんて訳は無い……更に触手を伸ばし、拘束しようとする。
 その攻撃も、更に回避しながら、蓮が。
「それにしても、ギリギリの状態にしてから大ダメージを与えて一気にやっつけないといけない……むむ、普通に戦うのよりこれは、面倒くさいのだ。けどけど、そうしないと何か厄介なことになっちゃうっぽいもんね。だから……ちゃんと手順を踏んで大ダメージ、頑張るの!!」
 ぐっ、と拳を握りしめつつ、オークから一歩離れた距離で、ケルベロスバーストを飛ばす。
 攻撃後の隙を突いた一撃は命中し、オークへ毒効果を付与。
 そして同時に九八一も、ファイアーボールを飛ばして、炎へと包み込む。
 二人の攻撃に苦しむオーク。
 対し、雪乃は前衛陣に向けて。
「包まれてゆく 夕日テラス待ちに……」
 と、美しいメロディを歌い上げる「想捧」で、前衛陣に狙アップの効果を付与する。
 続くもよぎのボクスドラゴン、自来也さんはボクスブレスで攻撃し、更にディフェンダーの蓮がワールドエンドディバイダーを放つと、樹壱が。
「ドラゴンの幻影よ、敵を焼き尽くしなさい!」
 と、炎を舞い上がらせたドラゴニックミラージュ。
 更にもよぎも。
「させませんっ!」
 と、ケルベロスバーストの一閃を喰らわせる。
 そして、スナイパーの三月は、敵の体力状況を確認。
「……まだ、大丈夫そうですね」
 と、憑霊弧月の一閃。
 ……そして、余りダメージを与えない様に、クラッシャーの澄華は具合を見つつ、零式寂寞拳で攻撃を行う。
 そして、攻撃は一巡し、次の刻。
 とは言えども、敵は既に正気を失っており、自己回復などする事は無く、ただただ攻撃するがのみ。
 力を制限する事無く、触手で手足を縛り上げ、地面に叩きつける……という行動を繰り返す。
 その攻撃を、澄華が前面に立って受け止めつつ、他の仲間達が体力の状況を見つつ。
「まだ大丈夫そうですね。では……トゲトゲのバールです、これは痛いですよ!」
 と樹壱の撲殺釘打法や、蓮が。
「俺が遠距離と回復だけかと思った? 残念、接近戦も出来るんだよ」
 と言いつつ、高速ステップで近づいて、速度と体重を乗せた暗黒縛鎖。
 そしてジャマーの蓮は、仲間へ「魂うつし」で、澄華に狙アップを付与する一方、九八一が。
「今日はご機嫌……目からビィィーム!!」
 と、『目からビーム改』を放ち、射撃すると、美月も達人の一撃。
 又、状況によってはもよぎと自来也さんが。
「回復します! まだいけますか……?」
 と『治癒花』や、属性インストールを使い、回復して体力を維持。
 ……そんなケルベロス達の攻撃で、確実にその体力は削られて、苦しむ。
 そして、オークの突撃から数分が経過し、蓮が。
「そろそろ、かな?」
 と放った一撃に、オークは、そのまま下水に倒れ込む。
 上手く立ち上がれず……仮死呼吸の様な息をしている彼。
 そんな彼の状況に雪乃が。
「そろそろですね……楡金さん、お願いします」
 と、更なる「想捧」で澄華の梗香をすると、もよぎが。
「援護しますっ!」
 と祝福の矢を放ち、蓮も。
「本当……難しいけど、勉強になりますのだよ」
 と魂うつしで、更なる狙アップ。
 多くの狙アップ効果の付与で、大幅に強化された澄華。
 オークは最後の悪あがきとばかりに、触手で引っ掻く様にして……澄華の服を一部引きちぎるも。
「……おやすみなさい。亡骸はここに残らないようにしてやる」
 と、全力の『断空』の一撃を放つと……オークは、断末魔の悲鳴と共に、崩れ墜ちるのであった。

●薄気味悪さと悪の風
 そして……オークをどうにか倒したケルベロス達。
「死神の因子は……どうなりましたでしょうか?」
 と樹壱がその亡骸の下へ……消えた亡骸の影には、何も残らないのを確認すると。
「……うん。花は咲いていない様ですね。死神の因子諸共、無事に打ち崩いたみたいです」
 ほっとし、安堵の表情を浮かべる樹壱。
 と、その言葉を聞いた九八一が。
「対象の沈黙を確認……あ、申し訳ありません、包丁をわすれました」
「……だから、誰もオークを食べたりしませんよ」
「いやいや、皆さんきっと……っ!?」
 と雪乃の声掛けに対し、すっ、身を立てた瞬間に、不意に足がもつれてしまい……其の場に転倒。
 ワイルド化した炎がジュワァアア、と蒸気を上げる。
 ……下水の蒸発した匂いは、ちょっと嫌な臭いだけど……鼻栓のお陰で、幸い被害は事は無い。
 ともあれ、無事にオークを倒したのは間違い無く。
「……本当、皆のお陰で、死神の因子を咲かせずに倒す事が出来た。感謝する」
 と澄華が仲間達へ頭を下げると、ニコッ、と笑いながら蓮が。
「ううん、むしろこっちこそありがとう、だね。こうやって皆で協力しないと倒せない相手だからね」
 手を差し出すと、澄華も僅かに笑みを浮かべて、握手。
 ……その傍らで、蓮は。
「それにしても、死神は難しいコト、してくれるのだね……もっと正面から来ればいいのに!! ま、無事にやっつけれたコトを喜ぶのと……最後まで戦わされたオークに南無阿弥陀仏なのだよ。安らかに、です」
 ちょっといつもとは違い、神妙な雰囲気の蓮に、もよぎも頷き、手を合わせる。
 ……死神によって利用されたオークもまた、被害者。
 そんな被害者をこれ以上量産させない為には、ケルベロス達は……一つ一つを、確実に対処するしかない。
 敵であり、被害者でもある物、それを利用する死神……複雑な思いを抱えつつ、ケルベロス達は下水道を後にした。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。