サンザシ咲うおどろのみち

作者:そらばる

●サンザシの花は赤く染まる
 豪邸と呼んで然るべき邸宅の広々とした庭は、今や鬱蒼たる森と化していた。
「いや、こりゃひどい。いったい何年放置したのかねぇ」
「さてなぁ。なんせ、依頼人が子供の時に過ごしたっきりの生家だって話だ」
「久方にこっちで暮らすことになったらしいが、この有様じゃあな。あーあーせっかくのサンザシが……」
 百戦錬磨の庭師たちも呆れかえる惨状。
 とりわけ酷いのが、屋敷へ続く石畳の道だった。おそらく昔は「ちょっと背の高い生垣」程度のものだったろうサンザシの木々が、今は伸び放題に枝を張り巡らせて絡み咲き、踏み入る隙間もない状態だ。
「……まずはこのおどろのみちをどうにかせにゃ。トゲに気を付けろよー」
 白く可憐な花を夥しく咲き誇らせる枝に、庭師の一人が手を伸ばしたその時。
 花粉らしき何かが漂い、サンザシの木々に取りついた。
「――ひっ!?」
 手に取ろうとしていた枝に、逆に強力な力で手首に巻きつかれ、庭師は仰天した。
 木々は蠢き、明確な殺意をもって、棘にまみれた枝を庭師たちへと伸ばしてくる。
 男たちの絶叫が轟き渡り、サンザシの花は赤く染まった。

●庭に巣食う攻性植物
「おどろのみち……棘の路、か。攻性植物が狙うには絶好の場所だね」
 予知に聞き入っていた砂星・イノリ(ヤマイヌ・e16912)が小さく零した。
 左様、と頷き、戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)はより詳細を語り始める。
「こたびの事件は、爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物勢力の仕業と考えられます」
 攻性植物たちは大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしている。事件を多発させることで一般人を避難させ、大阪市内を中心として自分たちの拠点を拡大させようという計画なのだろう。
 大規模な侵攻ではないが、放置すればゲート破壊成功率も『じわじわと下がって』しまう。
 事態を悪化させぬためには、敵の侵攻を完全に防ぎ、さらに隙を見つけて反攻に転じなければならない。
「こたび現れるはサンザシという植物が攻性植物化したもの。謎の胞子によって5体一度に誕生し、市街地にて暴れ出そうと致します。一般人を見つけ次第、殺そうとする危険な状態でございます」
 数は多いが、別行動などはせず固まって動き回る。戦い始めれば逃走などもしないため、対処は難しくない。
「しかしながら数の多さは脅威。同種の植物より誕生したゆえか、互いの連携も侮れませぬゆえ、油断は禁物にございます」

 敵はサンザシの攻性植物5体。
「サンザシはバラ科の落葉低木。白く小さな花を数多咲かせ、枝にはトゲがございます。秋には赤い実を生らせ、食用としても知られますが、今時分は花の季節でございますね」
 トゲのついた枝でツルクサの如く絡みつく『蔓触手形態』、大量の花々を輝かせ光線で薙ぎ払う『多重光花形態』、夥しい実を生らせ黄金に輝かせる『収穫形態』といったグラビティを使用する。
「とりわけ強力な個体もなければ、弱小な個体もなし。5体すべてが同等の戦闘力を持つものとお考えください」
 戦場となるのは、小さな森のような状態になっている豪邸の庭。ケルベロス達はサンザシが攻性植物になった直後に駆け付けることになる。
 予知に現れた庭師たちを含め、周辺の一般人の避難は事前に鬼灯が手配する。ケルベロス達は戦いにのみ集中できるはずだ。
「敵の連携を打ち破り、攻性植物勢力の侵攻の阻止を。そして、再び主を迎える庭に平穏を。皆様、よろしくお願い致します」


参加者
ヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020)
エリヤ・シャルトリュー(影は微睡む・e01913)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
泉宮・千里(孤月・e12987)
砂星・イノリ(ヤマイヌ・e16912)
九十九折・かだん(スプリガン・e18614)
エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)

■リプレイ

●蠢くサンザシ
 鬱蒼たる森と化した邸宅の庭には、人の姿はない。
「庭師の人達は無事逃げたね」
 砂星・イノリ(ヤマイヌ・e16912)は大きな耳をそばだて辺りに人の気配がないことを確かめると、青々とした緑の重なり合う薄闇の向こうに視線を転じた。
「せっかく咲いた花だけど、人を傷つける前に止めさせてもらうよ」
 森の中心部で蠢くのは、白く可憐な花々を、葉を覆い隠すほどに咲き誇らせ、伸び放題に生長したサンザシの木々。
 絡み咲き石畳を覆い尽くす真っ白な棘の路に、九十九折・かだん(スプリガン・e18614)は感心の声を上げる。
「よく育ったもんだなあ。緑としては、これも在るべき姿なんだろうが」
「確かに、こうも見事な棘の路を築き上げるたァ、自然の力ってのは熟、大したもんだ」
 飄々と同意しながらも、泉宮・千里(孤月・e12987)の身のこなしには隙がない。
「――だがこの星の摂理から外れて咲き荒ぶもんは、剪定せにゃなるまい。災いの芽たる異形の繁栄は、食い止めるのみ」
「ああ、これから人に愛される庭だものな。手荒い上に、素人だが――剪定と、行くか」
 かだんも頷き、蠢く木々の前へと踏み出す。
「サンザシは花も果実も好きだが、攻性植物では……」
 少々残念そうにぼやくのは、ヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020)。
「大人しく愛でさせてくれるなら良いけれど、そうもいかんしな。一株とて、残してはやれないねぇ」
「うん。きれいなお花だけど、あぶないのなら、倒さなくちゃね」
 エリヤ・シャルトリュー(影は微睡む・e01913)は眠そうな、幼さを残す口調で同意し、治癒のグラビティを高め始める。
「サンザシってのは食えるつってたか。花ではあっけど折角だ、おいしく頂いちゃうとしますかね」
 サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)は飄々と言い放ちつつ、前のめりに殺気を放ち始めた。
 ケルベロス達の戦意を受けてか、サンザシの蠢きがいっそう不穏さを増した。体積を増すかのように枝を高ぶらせ、一同の前へと立ちはだからんとする。
「……放置されたことに立腹している、というのは単なる錯覚なのだろうな。攻性植物の侵攻なら、確り抑止せねばなるまい」
 ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)は戒めるように冷静に呟きながら、皆を庇うように前へ出た。
「せっかく綺麗なのに、人を襲うようになるなんて……」
 エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)は子供らしい素直な感性で悲しみ、けれどそれ以上の正義感で、瞳を燃やした。
「可哀想だけど、やっつけないといけないパオね」
 胞子を受けて攻性植物と化した植物は、もはやデウスエクスそのもの。
 殺意を高ぶらせるサンザシへと、地獄の番犬の牙は、迷いなく剥かれた。

●焦熱の森
 戦いの先手をとったのは、千里。
「花の言葉は希望か、或いは成功を待つ、ってったか。然れどテメェらの其を、認める訳にゃいかねぇ。目論見が実を結ぶ前に、一つ残らず摘み取ってくれよう」
 出し抜けの戯言は口三味線。裏に仕込まれたのは忍術か、妖術か。烟霞に惑い狐に抓まれれば最後、何処からともなく迫る刃は捉え所無く気紛れに踊る。手近に蠢くサンザシの一体へと。
 仲間たちの標的はそれで決まった。強化の輝きが陣営を満たす中、ヒルダガルデはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら、喰霊刀を手に同じ個体へと斬り込んだ。
「そら、呪いあれ」
 凶悪な猟犬の如き刀が、美しい軌跡を描いてサンザシの枝葉を正確に斬り刻む。
 標的となった一体目をカバーするように、他のサンザシたちが一斉に反撃を開始した。大量の花々が輝き、三本の光線が陣営を隅々まで薙ぎ払う。光と熱を掻い潜るように、ツルクサの如くトゲだらけの枝が伸びてヒルダガルデを捕らえる。標的にされた最初の一体は、一拍遅れて花々を果実に変化させ、夥しい輝きで耐性を全体に振り撒いていく。
 陣営に蔓延する炎、焦熱。エレコは即座に治癒に取り掛かった。
「お願い、みんなを守って、パオ」
 【生命湧き】のゴーレム。練成された愛らしい小型ゴーレムたちが、ドローンの如く前衛の仲間たちを癒し、その姿と浄化の力で皆を勇気づけていく。
「前衛はだいじょうぶだね。なら、僕は後衛を」
 眠たげな、ふわふわとした口調ながらに、エリヤの観察眼は侮れない。耳を澄ませ鼻を効かせ、仲間達の状態を確かめながら、手元の攻性植物を黄金に実らせて、熱傷の深刻な後衛の炎を祓っていく。
「命に、恋をしよう」
 かだんが放つのは、吐息とは名ばかりの、地を這うような低い轟声。聴いた仲間たちの心が鼓舞される。呼吸が、鼓動が、命が、本能が。争い方を、その胸のうちから引き摺りだす。
 絡み咲くサンザシたちへと縛霊手の掌を差し向け、イノリは呟く。
「帰ってくる人がいるんだ、家や庭はなるべく壊したくないな」
 光が閃き、撃ち出される巨大光弾。打ち据えられた敵群が痺れに動きを鈍らせ、ビーツーによって付与されていた破壊のルーンが耐性のいくつかを打ち破った。
「長引けば住民や避難している人たちも不安になるかもしれねえ。オレも加勢するぜ!」
 半裸裸足の格闘家スタイルの泰地は、旋風の如き身のこなしでまばゆい光の弧を描き、敵の死角から強靭な回し蹴りを叩き込んだ。
「すこしでも、動きをとめる」
 言い捨て、凛として佇む近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)はオウガメタルを蠢かせ、絶望の黒光を照射する。
 サンザシたちがいっそう激しく蠢く。二体が光花を、二体が蔓触手を、一体が果実を。各々が代わる代わるグラビティを変え、手数と大量の状態異常でケルベロスに対抗してくる。
「支援は任せてもらおう。……道標を炙り出す、力を我等に」
 肉体が熱される感覚を、鱗を鉱石の如く赤熱させながら耐え、ビーツーはボクスドラゴンのボクスに視線を送って、阿吽の呼吸で輝炎領域を広げ始めた。自身の臙脂色の炎とサーヴァントの白橙色の炎が、希望を与えるが如き黄金色に輝く魔法陣を形成し、仲間たちへと青鷲の加護を与えていく。
 身を焼く炎が祓われることを待たず、サイガは躊躇なく敵へと肉薄した。
「喜べよ。枯れたり手入れで散るよか派手に咲けんだから」
 殺気苛烈、俊敏に踏み込んだ頑健な肉体から、流星煌めく蹴撃が、サンザシの全身を大きく揺さぶった。

●痛みを超えて
 光線の炎が、トゲ持つ蔓触手が、ケルベロスを苦しめる。サンザシ達は数と能力を活かし、対象を一つに絞らず、前・中・後衛、全ての列に、隙あらば攻撃を仕掛けてくる。夥しい炎が常にケルベロスの陣営に付き纏った。
「我輩はみんなを治すのが仕事なのパオ! あんしんして任せてね、パオ!」
 エレコはFederを駆使して戦場を軽やかに舞い踊り、花びらのオーラに載せて治癒と浄化を振り撒いていく。テレビウムのトピアリウスもディスプレイに動画を流して臨機応変に立ち回り、主のサポートに怠りない。ヒルダガルデも剿滅のローゲの蒼い熱で、己に絡みつくトゲと炎を払い除けていく。
「森よりいずる不浄は、森へ還そう」
 ヒダリギは腕を水平に掲げ、絡みついた攻性植物を燦然と輝かせた。
 果実のもたらす浄化と、都会の森に現れた守護者の気配に、イノリは奮い立つ。力強い咆哮が森を貫き、それは敵の信念を揺るがせる歌となってサンザシ達の力を削いでいく。
 ケルベロス達は敵全体への牽制を挟みながらも、主力の攻撃は一点に集中させた。かだんの援護によりグラビティの副次能力を高められた後衛が、仲間の不浄を祓い、敵の動きを阻害し、主力の攻撃を的確な命中へと導いていく。
 徹底された役割分担、無駄のない攻撃。集中砲火を浴びる一体目は、枝を折られ花を散らせ……追い詰められた果てに、夥しい全ての花をよりいっそう輝かせた。光線に焼き払われる前衛。
 しかし、燃え盛る炎をものともせずに破り現る、豪胆な人影がひとつ。飛び込んだ勢いのままに音速を超える拳を叩きつける。
 敵の耐性を砕いた満足いくその手応えに、ヒルダガルデはニヤリと笑い、嘯く。
「失礼。少々邪魔だったものでね」
 続けざま、炎を割るようにしていかずちが弾けた。
「折角の花もこうなっては形無し――荒び人刺す棘は無用」
 雷の霊力を帯びた斬霊刀を携え、千里は抜かりなく距離を詰めた。
「花と散れ」
 神速で突き出された刃が、激しい火花を散らしてサンザシの幹を捉えた。
 サンザシの蠢きがピタリと止まる。
 花々が、一斉に散った。真っ白な花吹雪が突如視界を塗りつぶし、一瞬にして消え去った時にはもう、一体目のサンザシは残骸も残さず消え果てていた。
「まずは一体か」
 淡々と戦果を確かめると、ビーツーはすぐさま次の標的を身振りで示した。ビーツーが星型のオーラを蹴り込むのに合わせて、ボクスが白橙色の炎を吐きかける。
 仲間が欠けたことに、サンザシ達が動揺することなど当然ない。淡々とした猛攻が次々にケルベロスに襲い掛かる。
「力をかしてね」
 エリヤは足元に小さく囁きかけると、大地に塗り込められた惨劇の記憶を呼び覚ます。抽出された魔力が傷を癒し、分厚い炎とトゲを祓っていく。エレコも手分けして治癒を祓う。
 敵は四体、彼我はまだまだ拮抗状態。戦局を動かさんと、サイガは影の如く敵の死角に踏み込み、得意の近接格闘へと持ち込んだ。
「葉の下に隠しても無駄だぜ?」
 シニカルな笑みと共に、ひときわ大きく張り出た枝を、漆黒の爪によって根元から引き裂く。イノリを中心に辛抱強く重ねられてきた牽制が、夥しく増殖する手応え。
 あからさまに動きを鈍らせたサンザシに、ケルベロス達の攻撃が怒涛の如くうちつける。狙われたサンザシも他の個体の治癒を受けて立て直しを図るが、ケルベロスの火力が一枚上手。
 満身創痍で伸ばした蔓触手も、壁の如く立ちふさがる、威風堂々たるかだんの生身によって阻まれる。
 巻き付く蔓に、棘に、皮膚や肉を裂かれながらなお、かだんは棘を厭わず素手で枝を掴み取り、豪快に引き裂いた。血みどろの全身で、零れ出る樹液から生命エネルギーを啜りとるその姿は、一種異様な迫力を放っていた。

●最後の一株
 辛うじて残っていた生気を吸い尽くされた二体目が、あっけなく枯れ果てる。
 戦力の拮抗は完全に崩れた。ケルベロス達の猛攻はさらに厚みを増し、サンザシは防戦一方に追い込まれていく。
「みんながんばってなのパオ! 吾輩がついてるパオ!」
 満月に似たエネルギー光球を生み出し、傷ついた仲間にぶつけていくエレコ。もはや守りに籠る必要なしと、強化の大盤振る舞いだ。
「どれ、少し夢幻を見てくるといい」
 呟くや否や、深々と踏み込む千里。一刀が三体を一度に斬り伏せ、眩惑をもたらす桜吹雪を散らす。
 良く躾けた喰霊刀が、手元でうずうずと主の「よし」を待っている感触に、ヒルダガルデは笑みを深めた。
「良いぞ、存分に食い散らせ」
 片方を正眼に、片方を逆手持ちに構え、ヒルダガルデは喰霊刀の暴走するに任せて斬り込んだ。喰霊刀究極奥義が、魂を喰らわんばかりにサンザシの花を散らし、枝を折り砕く。
 エリヤは眼に蝶の形をした魔術式を浮かべ、黒ローブに織り込まれた無数の魔術回路の一部を発動させた。
「《我が邪眼》《閃光の蜂》《其等の棘で影を穿て》」
 影縛の邪眼:《Minois=apis》。エリヤの影の一部が蝶の群体へと変化し、蜂の如き鋭い針を一斉射出、針雨が敵を蹂躙していく。
 三体目が倒れ、四体目も瞬く間に虫の息。ビーツーは棘の触手を自前の頑健な鱗で弾くように凌ぎながら、テルミットアクスのルーンを発動させた。
「その命、もらおうか」
 光輝く呪力と共に、大斧の刃が振り下ろされ、四体目もまた花吹雪となって散った。
 最後の一体が蠢く。しかし重ねに重ねられた行動阻害が、それを許さない。
「人に愛でられる為の花だ。平穏を彩る棘だ」
 かだんは血にまみれた姿のまま五体目へと肉薄しながら、言葉少なに呟いた。
「血を吸うのは、今日だけで、終いだ」
 惨殺ナイフがサンザシの幹を鋭く斬り裂く。飛び散る樹液から、容赦なく生命力が吸い上げられる。
 イノリは藪を飛び越え、木々の合間を駆け抜け、変幻自在の金属生命体に支えられながら、おどろのみちへと構わず踏み込む。この小さな森は、遠い故郷の山に似ていて、心地よい。
「この場所に、血の色は似合わない。――行こう、クルーン」
 オウガメタルが戦い方を示す。イヌは地を蹴って飛びかかる。進もう、一歩、その先へ、倒れるよりも速く踏み出して。誰かの帰る場所を守るために。
 ケルベロス達の血を幾度となく浴び、サンザシの花々はまだらな赤色に染まっていた。サイガはシニカルに一笑する。やはり花の色と言えば、白より赤だ。
「ハッ、最後のおめかしってヤツだな」
 愉快げに呟きながら、素早く敵の懐に飛び込み、幹へと拳を叩き込む。衝撃と共に降魔の気がサンザシの体内へと浸透し――、
「俺からも一色」
 直後、弾けた。爆散に伴って噴出した中身は、極染の名にふさわしい、森にあり得ざるビビッドカラー。
 極彩色の花吹雪が駆け抜け、最後の一体もまた、かき消えるように消滅した。
「ハッピー感、味わえたかよ?」
 皮肉げなサイガの呟きが、サンザシ達へのはなむけとなった。

 平和を取り戻した森……もとい庭に、エレコの歓声が響く。
「終わったパオー! みんなけがは大丈夫パオ?」
「ああ、このぐらいなんでもない」
 端的に返すかだんはどう見ても血まみれで、有無を言わさず仲間たちのヒールを浴びることとなった。
「さて、少しは整えておこうかね。この惨状では庭師殿も作業しづらかろうよ」
 荒れ果てた周囲を見渡し、ヒルダガルデがぼやいた。
「確かにな。どの程度まで手入れすべきか迷うところだが」
 ビーツーは同意し、千切れたサンザシの枝を鋭い棘ごとボクスに燃やしてもらう。
「とりあえずは片付いたが――禍根断つまで、落ち着けんな」
 手入れに加わりつつ、更なる異変がないかと警戒を怠らぬ千里。その視線は、自然大阪城の方角を向く。
 庭の奥へと歩を進めながら、エリヤは肺いっぱいに空気を吸い込んだ。
「どっちを向いても葉っぱの匂い。なんだか森の中みたいだね」
「うん、懐かしいな。故郷の森を思い出すよ」
 同じく散策に繰り出しながら、イノリは木々のざわめきに耳を澄ます。
 二人に付き添うヒダリギも、大きく頷いた。
「みごとな森だ。庭師にととのえられてしまうのが、すこしもったいないかもしれない」
 大自然を故郷に持つ二人は、小さく笑い合う。
 微笑ましく見守っていたエリヤは、ふと、庭の隅に白い花を咲かす低木を見つけると、小さく破顔し、語りかけた。
「だいじょうぶ、見失わないよ……頑張る」
 まだ小さく、隅にひっそりと根を張り、だからこそ胞子の侵食を免れたのであろうサンザシは、沢山の花々を活き活きと綻ばせていた。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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