殺戮の時を告げるハト時計

作者:夏雨


 市営のアパートが並ぶ某団地。夜更けのごみ捨て場には、燃えないゴミとして処分されるのを待つ電池式のハト時計があった。そのごみ捨て場を目指してやって来たのは、コギトエルゴスムにクモの足が生えたような小型のダモクレス1体。
 捨てられたハト時計に目をつけたダモクレスは、特殊な力で時計を解体、改造し、無数の火花が散るごみ捨て場からハト時計の新たな姿が現れる。
 頭部となる時計本体からはロボットのような体が備わり、両肘の先には鋭い秒針の形が剣のように突き出している。
 時計の窓から飛び出した小さなハトは、口から放つエネルギー光線でごみ捨て場を爆破してみせた。
 動作確認を終えたかのように、ダモクレスは住居の方へと歩みを進めていく。


「ダモクレスのせいで、ハト時計が随分と凶悪な代物になってしまったっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は近い未来の予測について、招集されたケルベロスらに詳細を説明する。
「ハト時計と一体化したダモクレスは、団地の住人を襲うつもりっす。多くの人命を奪うことで、グラビティ・チェインを集めるためっすね。犠牲者が出る前に、皆さんでこのダモクレスを破壊してくださいっす!」
 人型ロボットのように改造されたダモクレスは、『レプリカント』と同等の能力を発揮する。両腕から伸びる秒針型の剣身は鋭い切れ味を持ち、時計の小窓から無数のハト型ミサイルを放つこともできる。更に小窓からは、エネルギー光線を放つハトも飛び出してくる。
 『近くを歩いている人はいないようですけど、住人が外に出ないようにする対策は必要そうっす』と、ダンテは団地の目の前が戦闘域となる状況を憂慮した。


参加者
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
立花・吹雪(ウラガーン・e13677)
幸・公明(廃鐵・e20260)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
吉良・琴美(白衣の悪魔・e36537)
ノルン・ホルダー(黒雷姫・e42445)
穂村・花園(忌火・e56672)
鴻・潤(グリム・e61667)

■リプレイ


 まばらな街灯の薄明かりに照らされ、ごみ捨て場から動き出す大きな影に目が止まる。ダモクレスの姿を現したハト時計の影を認め、比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)は『殺界形成』を発動した。殺気の幕が静かに団地一帯を包み込み、民間人を寄せ付けない領域が完成する。
 黄泉は道中食べ終わったフランクフルトの串を弄びながら言った。
「⼤きな鳩時計が相⼿ね、時刻を知らせる時計に永眠させられたらたまったもんじゃないね」
「やっぱり素早いのかな? 時計だけに」
 そうつぶやくノルン・ホルダー(黒雷姫・e42445)の表情には、戦いに心躍らせるわくわくした様子が覗く。
「まずはダモクレスによる殺戮を食い止めましょう!」
 やる気にかられる立花・吹雪(ウラガーン・e13677)がそう言って刀を抜き放つと、ケルベロスらは各々臨戦態勢を整えた。
 爆破されたごみ捨て場を背にして動き出そうとするダモクレスのもとに、ケルベロスらがなだれ込む。
 向き直ったダモクレスの体は多くの歯車で形成され、頭部分の時計は三角屋根の家の形。オーソドックスなハト時計のデザインである。
 ダモクレスが正面を見せたのと同時に、無数の桜の花弁状のエネルギー体が天司・桜子(桜花絢爛・e20368)を中心にして舞い始める。
「桜の花々よ、紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ――」
 熱量を伴う花弁は桜子の詠唱と共にダモクレスを覆うように散らばり、やがて紅蓮の炎へと変じた。
 全身を包み込もうとした炎に焼き尽くされそうになるダモクレスだが、時計の針の形をした剣身で猛炎を振り払う。ダモクレスはその勢いのままに両肘の先に備えた剣身でケルベロスらを斬り刻もうと襲いかかる。
 ダモクレスの間合いへ次々と攻め入るケルベロスらに向けて鴻・潤(グリム・e61667)は奇蹟の力を宿した歌声を響かせようと、
「此処より動くことは、許可できません」
 響き渡る歌に力を乗せ、潤の清らかな声は仲間の戦闘能力を引き出す現象を起こす。
「知ってるか? 燃えないゴミなんてぇのはねぇんだぜ、燃やせば燃えるんだよ」
 相手をしようと意気込む穂村・花園(忌火・e56672)の周囲には、振り向けられる剣身をかわす度に炎が巻き上がる。
 舞い踊るように現れた炎は花園の意志に沿って動き出し、ダモクレスの体にまとわりつくようにその表面を走る。あっという間に燃え広がる炎は、時計の屋根部分を激しく燃え上がらせた。


 時計の『12』の文字盤の上についた小窓から小さなハトが飛び出したかと思うと、ハトはくちばしからエネルギー光線を乱れ打つ。
 からくりのハトはでたらめな時報を示し、小窓から出入りする度に攻撃を畳みかけようとするケルベロスらを狙い打つ。
 光線をかわして爆風を受ける潤は、辟易した様子で言った。
「ハト時計……は、子どもの頃とても好きでしたが、光線を放つモノはご遠慮願いたいですね」
 ハトが時計から出入りする瞬間を見定めながら、幸・公明(廃鐵・e20260)は潤の一言を受けてため息まじりにつぶやいた。
「ハト、といえば平和の象徴といったイメージだけれど……」
「あれはあれで害鳥の面もあるけどな」
 バスターライフルを構える吉良・琴美(白衣の悪魔・e36537)は言った。
 前線で体を張る者らにダモクレスの注意が注がれている隙に、琴美はライフルの照準を定める。
「しかし、こんな形で害を振りまくとはな」
 銃口から発射された魔法光線はダモクレスへ命中し、機械の体を弾いて怯ませた。
 攻撃が止んだ一瞬の隙をついて、すばやく迫る黄泉と吹雪は攻撃を仕掛ける。鋭い足さばきから連続で蹴り込まれるダモクレスは、防ぎ切れずに追いやられていく。
 ノルンは砲身を現した巨大なハンマーを構え、ダモクレスを追撃する。砲撃を受けたダモクレスからは爆炎が生じ、更に後退していった。
 オウガメタルの能力を引き出す公明は、光り輝く粒子を猛撃する者らに向けて放出し、その感覚を研ぎ澄ますように働きかける。
 鋭く剣身を振りかざすダモクレスは反撃に出ようとするが、奇蹟の力を宿した潤の歌声は相手の聴覚器官を引きつけ、歌い手であるパラディオンの力を発揮し続ける。
 鈍る動きから無防備な状態をさらすダモクレスに向けて、長柄の斧を振りさばく黄泉の一振りが頭上から迫った。黄泉の攻撃を剣身で受け止めたダモクレスの関節は自在に動き、更に斬りかかろうとする吹雪の刀を思わぬ動作で弾く。
 踏み止まろうと刀を構える吹雪に対し、ダモクレスの切っ先は容赦なくその体を突き飛ばす。吹雪の体は追撃を試みようとした花園の方へと飛び出し、2人を衝突させたダモクレスは隙のない動きでケルベロスらの包囲陣を崩していく。


 鋭く振られる刃は接近しようとする者を圧倒し、ダモクレスは反撃の余裕を潰しにかかる。
 剣身を振る動きを封じようと、公明もハンマーの砲身を掲げる。
「焼き払ってあげるよ!」
 その横で言い放つレプリカントの桜子は、胸部の発射口を開いた。2人から続け様に射出される砲撃を受け、ダモクレスの上半身はもうもうと立ち込める白煙に覆われた。
 ダモクレスはハンマーを突き出すノルンの動きにも反応し、ハンマーから逸らされた剣先はノルンへと向かう。ノルンもダモクレスに引けを取らない機敏さでハンマーを切り返し、触れる直前の刃を弾いてみせた。
 ハンマーを構えるノルンはダモクレスとの剣戟を繰り広げようとするが、飛び退くダモクレスは時計の小窓を再び開く。小窓からは、後ろ足からミサイルのように煙を吹く無数のハトが次々と飛び出す。
 ハト型ミサイルから冷静に回避行動を取るノルンは、緊迫した戦況が続く最中でも一層目を輝かせているように見えた。
「おっ、本物みたいだ!」
 リアルな作りのハト型ミサイルが目の前を過るのを見て、公明はつぶやいた。
 ミミックのハコもちょこまかとミサイルを避け続けながら、中から吹き出したエクトプラズムをハトの形にし、ダモクレスと対抗するように襲いかかっていく。
 ノルンは更に槌神の力を解放し、髪型やその色、服装までも変身を遂げ、超重力の力で相手をねじ伏せようと立ち向かう。
 複数のミサイルに追尾され追い詰められた黄泉は、臆さずに自らの斧で両断しようと構えた。斧とミサイルが触れた瞬間、爆発の衝撃に巻き込まれる黄泉の体は吹き飛ばされた。
 琴美はダモクレスに向けて言った。
「その程度か? 実験台らしく、私にもっとその力を見せてみな」
 好奇心を満足させるためだけに行動しているような口振りで、琴美のボクスドラゴンと共に治療に専念する。
 琴美は頭上へと放り投げた薬液のパックを射撃で破裂させ、ミサイルの爆発に巻き込まれた黄泉を中心にして薬液の雨が降りかかる。
 左右の剣身を振るダモクレスは接近する者にも容赦せず、距離を置けば光線やミサイルでの追撃を狙い、油断ならない動きでケルベロスらに対抗する。
「リサイクルのつもりか知らねーけど――」
 炎を操る花園は、飛び出すミサイルを燃やし尽くそうと言い放つ。
「残らず燃やすゴミにしてやる!」
 無限に発射されるミサイルは、龍のように食らいつく炎に触れる度に爆発を繰り返す。
 度々巻き起こる爆風に目を細め、公明は苦笑しながら言った。
「さすがに近所迷惑かな?」
 『だと思うよ』と相槌を打つ桜子は、
「ハトは可愛いけど、これ以上の迷惑は止めないとね」
 エネルギー体の花弁を舞い散らせ、攻撃の機会を阻むミサイルの狙いを逸らそうとする。ミサイルは花弁の熱源を追い始めるが、それでも余りある数のミサイルがケルベロスらを仕留めようと向かう。


 ダモクレスとの激しい攻防を繰り返し、吹雪の太刀筋は相手の致命傷に達する勢いを幾度となく見せた。ダモクレスも必死に吹雪の動きを注視し続け、火花を散らす動きは衰えを知らない。
「近隣住民の平和のためにも、この手で必ず倒します!」
 ダモクレスを見据えて言い放つ吹雪と共に、
「永眠するのはあなたの方だよ」
 黄泉も率先して接近戦を仕掛ける。
 黄泉の斧がダモクレスの刃とかち合う直前に、潤は自ら生み出した氷の切っ先を打ち出した。ダモクレスを狙った氷尖は頭部に当たって砕け散り、黄泉はぐらついた機体に向けて容赦なく斧を振り下ろす。
 地面に剣をついて体を支えるダモクレスだが、吹雪は更に黄泉が穿った歯車部分目がけて一閃を放った。
 確かな手応えと共に、ダモクレスはすばやく吹雪たちから距離を取る。しかし、その動きはぎこちなく、むき出しになったボロボロの部品がいくつも胸部にぶら下がる。
 一気に攻撃を畳みかけようとするケルベロスらの動きを察知し、ダモクレスは光線やミサイルを放ち続けてケルベロスらを寄せつけない。
「皆、元気を出して、あと一息のはずだよ!」
 爆風に煽られながらも、桜子は支援の手を伸ばす。凛とした桜子の歌声が響き渡ると不思議と力がみなぎり、歌によって発揮される癒しの力が、ケルベロスらを満たしていった。
 特殊な電流を指先から操り、負傷した対象の感覚を刺激するように行き届かせた公明は、
「働き者なことは素晴らしいですが、もう⼗分でしょう――」
 エネルギー体である剣を具現化し、決着をつけようと攻撃に乗り出す。
「なぁに、ハトもいますし寂しいことはありませんよ」
 ハト型ミサイルを射出し続けるダモクレスに挑みかかる公明。その陽動もあり、ノルンは死角からダモクレスへと接近する。
 ノルンの気配を察知し、頭部だけを真後ろに向けたダモクレスは、即座にノルンの肩口を光線でなぞった。光線を受けてもなお、ハンマーを振り抜くノルンの動きは衰えず、振り抜いたハンマーはみしみしとダモクレスの左腕をきしませ、関節部分は変形し始めていた。
 ノルンと睨み合うダモクレスの間合いに踏み込もうとした公明だが、目の前の地面は片方の剣身に大きくえぐられる。その直後を狙い、公明の背後から飛び出す花園は強く地面を蹴り出した。宙へ飛び出した勢いのまま、花園はダモクレスを足蹴にして激しく突き放す。
 ダモクレスはくずおれそうになりながらも両足を地面につけていたが、ダモクレスに向けて力を集中させた琴美は、その足元を狙って爆破を引き起こした。
 立ち上る爆炎の向こうから、機体の部品がばらばらと散らばる。動きを止めたように見えたダモクレスだが、吹雪は徹底的に攻め抜く構えを見せ、
「この花は貴⽅へのせめてもの⼿向けです。この⼀閃で切り裂く!」
 その周囲に現れる電流が舞い散る花のように弾けたかと思うと、吹雪は瞬く間にダモクレスの目の前へと迫る。至近距離から放たれた一太刀によって、ダモクレスの体は破壊し尽くされた。
 バラバラに吹き飛んだ上半身を支えていた両脚は、その場にガクッと膝を折り曲げ、完全に停止した。

「心置きなくやれたのはよかったけどよ――」
 花園はゴミ置き場周辺のあちこちに残る爆破の跡を見て、ため息をこぼしそうになる。似たような渋い表情を見せるノルンは言った。
「派手にやり過ぎ? 近所の人たち、不安にさせちゃったかな?」
 修復作業を進める桜子は、『⼀応お騒がせしたこと謝っておいた⽅がいいかな?』と言うノルンに対し、苦笑しながら応じた。
「ハト攻撃は面白かったけど、後始末をする方は大変だね」

作者:夏雨 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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