しろがねの漁り火

作者:七凪臣

●標の海
 銀の波に洗われる砂浜に立ち尽くし、レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)は我が目を疑う。
 弧を描く波打ち際の対極に、一輪の花が咲いていた。
 無論、『花』というのはただの比喩。実際は、花のように美しくたおやかな女が、暗い水平線を見つめて立っている。
 雨を含んだ重い雲の狭間から薄ぼんやりとした光を注ぐ月よりも目を惹く、しろがねの光に包まれたその女の姿にレスターは見覚えがあった。
 否、『見覚え』などと生易しいものではない。
 彼女は、亡くした妻に瓜二つだった。違う、妻そのものの姿をしていた。
(「――サルベージ」)
 脳裏を過った不吉な言葉に、レスターの裡に得心が落ちる。同時に、ケルベロスの本能でレスターは悟った。
 あれは、妻ではない。妻の形をした死神だと。
 冥い海を照らす漁火。誘き寄せた命を死へと誘う魔性。
 だと、言うのに。
「っ!」
 瞬きの刹那、音のない跳躍で眼前に至った死神の一撃を、レスターはぎりぎりで躱す。
「……残念。子供ではないのね」
 長い髪が、纏った柔らかなショールが、繊細な刺繍を施されたワンピースの裾が、衝撃の余韻と海風に煽られ緩く波打つ。
「でも、あなたでも、いいわ」
 ラヴェンダー色の瞳を向けられ、レスターの全身が泡立った。血が、魂が、震える。

 何故、この夜。レスターがこの浜辺を訪れようと思ったのか、本人にもよく分からない。
 だがこれは運命。宿業の縁。
 ――立て。お前に意地があるのなら。
 自らに言い聞かせ、レスターは武骨な刃を構えた。

●邂逅
「ヴェルナッザさんが出逢ったのは、彼に何らかの縁がある死神だと推察します」
 レスターを襲う死神に関する大凡を語り、リザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)はケルベロス達へ急ぎの救援を求める。
 予知はしたものの、レスターとは連絡がつかない状態。事は一刻を争い、遅きに失すればレスターの命が危ういのだ。
 場所はとある夜の浜辺。
 美しい女性の姿をした死神は、淡い銀の光を操るのを得手としている。光の蕾が花開く時には多くの人を惑わし、手にしたカンテラに息を吹きかけ放つ銀光で自由を奪う。そして蝶の羽ばたきのような舞は、優美な見目に反した強烈な威力を有す。
「あと、子供に対する執着もあるようでした。特に女性だと狙われる率が上がる可能性がありますので、十分ご注意下さい」
 幸い、レスターと死神が居る浜辺に余人の気配はない。ケルベロス達は戦いに集中する事が出来るだろう。
「何かと向き合う戦いになるかもしれません。佳き決着を迎えられるよう、祈っています」


参加者
鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632)
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)
ジゼル・フェニーチェ(時計屋・e01081)
シィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)
藍染・夜(蒼風聲・e20064)
ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)

■リプレイ

 潮風に火の粉が舞い、燃え尽きた真っ白な灰が雪のように降っていた。
 赤黒い異臭が立ち込める、抜けるような青空。
 ――青空?
 違う、今は夜。天は深藍に微睡み、海の香りは甘やかなほど水気に富む。
(「あれは、骨と肉の塊」)
 分かっているのに、レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)の視界は過去と現在が溶けて混ざり合って、ぐちゃぐちゃになる。
 否、境界が曖昧になっているのは夢と現実かもしれない。
「……オル、メル」
 白い『敵』を前に、亡き人の名がレスターの唇から零れる。
 白、赤、青、白、黒、赤、白、白、白――。
「冥の海へ連れていくわ」
 しろがねの死神――オルウィンが囁き、手にした灯りを口元へ近付ける。視線は囚われたまま、レスターは何処か痺れたような手で剣を握り直した。
 嗚呼、分かっている。分かっているとも。だが、それなら。なぜ。なぜ、何故。
「オ、ル――」
「抗わないで?」
「そうはさせませぬ!」
 ふぅと吹き掛けられた吐息に、白銀の光波が溢れた。それに飲まれる間際、割り入った誰かの背中に、レスターの意識は『今』へと急浮上する。

●縁
 殺意宿す光の中心へ、ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)は迷わず己が身を投じた。二重に苛まれる苦痛に、鍛え上げられた足が砂に縺れる。
 そのギヨチネの頭上を超え、カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)は竜翼で滑空した。星屑の尾を引き、カルナの蹴りが白き死神をよろめかせる。そこへレスターは螺旋力で加速させた杭を無心で打ち込んだ。
 衝撃に破けた精緻なレースがはらと散り、仄かな光を帯びた糸が潮風に煽られる。
 暗い海に、しろがねの女の姿はよく映えた。けれど消え入りそうな儚さを、そうはさせじと星降りの蹴撃で藍染・夜(蒼風聲・e20064)は縫い留める。
 中空で器用に踵を返した夜は、レスターの傍らに着地し、素早く彼の状況を確かめると安堵の息を吐く。
「無事で何より」
「……面倒をかけてすまねぇ」
 俯き詫びる男の顔には前髪がかかり、表情までは伺えない。しかし強張る気配は後ろ姿からも知れ、鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632)はドラゴニックハンマーを構えて声を張る。
「……! わたしとドラゴンくんも助けにきたよ!」
 狙いを定める、しろがねの光。花香がしそうなラベンダー色の瞳は、蝶のように魅了されてしまいそう。だが、哀しいような、怖いような――何より躊躇なく襲い来る姿が敵だと判じさせるから、ハクアは戸惑いを捨てて竜の砲弾をデウスエクスへ叩きつけた。
「ドラゴンくんはギヨチネさんをお願い」
「かたじけのうございます」
 育ち盛りの少年のような匣竜は、ハクアの願い通りに灰の属性を注ぎ、受けたギヨチネは砂に埋もれた足を引き抜く。揃い踏んだ戦場を一瞥すると、先程の一撃の結果が知れる。余波にはジゼル・フェニーチェ(時計屋・e01081)やローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)、ドラゴンくんも巻き込まれていた。されどレスターを庇えたのは、狙い的に上々。
 然して神に準じる男は、再び踏み込む。
「其の有り様、断じて赦せぬものではございませぬ」
 生まれし人が死して神の御許へ辿り着くまでが、尊き命の営み。それに反逆を掲げる死神へギヨチネは魂喰らう拳を見舞い、間髪入れずにジゼルはヒールドローンを展開する。ジゼルと共に戦場に至ったつんと澄ました風情の翼猫、ミルタも清き羽ばたきで前線を撫ぜた。
「邪魔をするの?」
 奪った筈の力が補填される不快さを、死神が呟く。その冷えた声音に、シィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)の背筋が凍る。
 理由は、死神に対する無自覚な苦手意識。襲われた過去が、シィラを苛む。けれど仲間を守る為、シィラはドールめいた容貌に似合いの華やかな微笑を浮かべてみせる。
「せめて新たな悲劇が起こらぬよう、確り責務を果たしましょう」
 それが今、わたしに出来る唯一のこと。
 凛然と目を開き、仲間の状況を具に観察し。シィラは自らを含める癒し手らへ自浄の加護を授け、敵の惑わしに負けぬ布石を打った。
 代わりに、ローデッドには負債が残る。
 しかし常は閉じがちな左目を開いた男は、気怠さをものともせずに砂上を跳ねた。
「ハッ、死神って輩はどいつもこいつもロクでもねェ」
 しなやかな筋肉を躍動させ、ローデッドは零の境地を拳に乗せる。
 人様の身体を拝借するなど以ての外。気に喰わぬ悪辣な魂胆に、左目から漏れる地獄の炎が暗がりに憤怒の軌跡を描く。
「盗らせねェぜ、これ以上は何一つ」
 死神を象る一部である光花が、ふっくらと綻ぶ。開花は間もなく。理解した上でローデッドはデウスエクスの間合いへ飛び込み、白い頬を石へと変える一撃を呉れてやる。

●罪と罰
 白い女を中心に、波打ち際で力と力が競り合い。爆ぜる余波に水と砂が飛沫を上げ、血と汗が滴り落ちる。
「邪魔」
 音も無く、死神が中空を舞った。鋭い刃と化した薄絹にギヨチネは果敢に飛びつき、ジゼルとドラゴンくんも自身を盾にし射線を塞ぐ。
 絶え間ない剣戟に、夜海の歌が重なる。
「……オル」
 そこに混じるレスターの狂おし気な声に、夜は眼前の死神と、同胞である男の浅からぬ縁を視た。
(「斯様な再会は痛く苦しいものなのであろうな……」)
 欠けた心でも推察し得る胸中に、夜の繰る霧は濃度を増す。
「疾く悲劇の幕を引こう――散り逝く極まで惑い続けよ」
 再びの船出の餞にとの、せめてもの祈りは混沌の檻となって結実し、死神の身体を麻痺の毒で侵した。
 直後、呼吸をぴたりと合わせたローデッドが獣化した腕でデウスエクスへ切り込む。ちょうど真後ろを捕らえるのに成功した一撃に、死神の長い髪がざんばらになって散り落ちた。
 苛立ちに、振り返る女の目つきが嶮を帯びる。
 美しさが際立たせる凄みは、緊張を緩めれば気圧されてしまいそう。だからハクアは、敢えて訊ねる。
「ねえ、あなた。どうして子供を狙うの……?」
「――」
 特に女性だと、と予知者が告げた狂気の矛先の問いを死神は白い一瞥で流し、襲い来たハクアのファミリアである白兎を払い落とす。だがハクアの疑念は、ギヨチネの義憤の種の一つ。
(「女子供を標的にするなど、唾棄すべき悪行」)
 他者の盾になる事を善とする彼にとり、対峙する死神は女の形をとれどもただの悪。死神を騙り、他者の姿形を装うことそのものが既に生への冒涜だというのに!
「早々に世の理に還るのが宜しいでしょう」
 断罪にギヨチネがまた一歩、踏み込む。弧を描いた武術棍の撓りは風を切り、死神の手元のしろがね色の光を弱めた。
 少しずつ、けれど着実に。ケルベロス達はデウスエクスを追い詰めてゆく。同時に、鬼気迫りゆくようで色を失くすレスターの表情。
「――……メル」
 細く耳に届いたレスターの声に、ジゼルは緑の瞳を見開いた。
(「あぁ、そういうことなの?」)
 柔らかな音律は、女性名のようであった。ならば、もしかしたら。
(「死神は誰かをサルベージすると言う。この姿がレスターととても深い関係なの、だとしたら」)
 可能性と可能性を掛け合わせた推察から導き出す答の数は、幾通りも。されど死神が時折ハクアやジゼル、シィラへ向ける羨望と慈愛が綯い交ぜになったような視線を鑑みれば、選択肢は絞られる。
「……今は、やめておこう。ね」
 口数少ない女は、そこで関係を紐解くのを止めた。結局、成すべき事は変えられないのだ。だから治癒用小型無人機で守りを固め、戦線の維持強化に努める。
 シィラもまた、同じ想い。
 幾度か戦場を共にし世話になったレスターの、力になりたいと此処へ駆けつけたのだ。詮索よりも、彼に本懐を遂げてもらう方が大事。故にシィラはミルタと並び、時に花弁のダンスで、時に守護星座の耀きで仲間を癒し続ける。
「ケルベロスは、消えて」
 また死神がしろがねの花を一斉に咲かす。前衛を襲う儚い眩さ。それを掻い潜り、カルナは砂浜を走った。
(「二度と会えない人が居るなら、例え死神だとしても会いたいと思うのでしょうか?」)
 記憶を彼方へ埋もれさせたカルナにとっては、遠い感傷。
(「いえ、考えても仕方のない事ですね」)
 攻勢を擦り抜け真横から迫るカルナに気付いた女が振り向くのを視界に、カルナは加速する。
 死神の常套手段とはいえ、意に染まぬサルベージは気分のよいものではない。他人でこうなのだ。当事者のレスターの心中は如何許りか。計り知れぬ心の飽和に眩暈を覚え、迷夢を切り抜けるようカルナは掌に意識を集中させて、一気に突き出す。
「宿縁を断ち切るために、多少なりともお手伝いします。レスターさんは殺させません」
 ――死者を穢す死神には相応の罰を。
 装甲をも破砕する一撃で、カルナは死神に膝をつかせた。

●いさりび
 白き竜が居た。港町が轟々と燃えていた。
 レスターは己を忘れ、戦いにかまけた。気が付けば、二人を見失っていた。
 再会は浜辺。眩い蒼穹の下、嬲られ、妻と娘は息絶えていた。
(「何度も問うた」)
 目覚めた時には骸は消えていた。
(「おれが殺したようなもんだ」)
 繰り返し見る、為せぬ夢。
 すまなかった、と。
 愛している、と。
 或いは、せめて。別れの挨拶を告げる夢を――。

「ぬおおおっ!」
 しろがねの舞を全身で浴び乍らギヨチネは気概を吼えて死神に肉薄し続ける。
「本当に邪魔な人。さっさと消えて」
 纏わりつかれる不快を白い女が言い捨てた。レスターが憶えている声の儘。
 ――嗚呼、もう我慢の限界。
「見るな、語るな、その貌で、その声で」
 炸裂した憤怒に任せ、レスターは竜骨の剣を手に疾駆する。
「返せ、還すべき処に。その骸を、……その魂を」
 唸りは低く、瞳は冷え冴える。
(「力及ばず喪った全て。また海で失う事になるのか――」)
 襲い来る悔恨を、レスターは意思と意地でかなぐり捨てる。すぐ近くに傷だらけになったギヨチネがいた。こうして庇い続けてくれる仲間がいる。支えてくれる者が、この場にいるから。
 地獄の炎を棚引かせる剣閃が、デウスエクスを右肩から打つ。ぐしゃりと歪んだ骨格に、女から美しさが損なわれる。
 そこへハクアが、憐れの迷いを生まぬ速度で仕掛けた。
「砕け散れ、花よ舞え」
 短い詠唱に、鹿を模した氷のサモンが海辺を走り出す。透ける体はしろがねの光に淡く輝き、砂に足跡を残し。
「さよなら、おしまい。駄目だよ。この体はあなたのじゃない」
 ハクアの願いを叶えるよう死神へ体当る。きぃん、激突の衝撃が甲高く鳴り響く。無数の破片とって鹿は散った。だが与えたダメージは敵の命を削り、残した美しい光景がケルベロス達を鼓舞する。
「目に見えるもの全てが真実とは限りませんが、その眼には何が映っていらっしゃるのでしょう」
 闘志を剥き出しにしたレスターを隣に、ギヨチネは口元を緩めた。
「然し今、此処に、貴方は有りましょう」
 匣竜に灰の力を注がれ、ギヨチネは固い拳を死神へ叩き付ける。
「そう、ね。これは死神」
 抑えの陣に加わり、ジゼルもレスターへ強い視線を送った。
 真の決着は、見守るしか出来ないのをジゼルは知る。ならば思い出を直しも壊しもする古き時計屋の娘は、行く末を眼に焼き付けるのだ。例え誰が忘れても、己だけは覚えて居続ける為に。
「あたしも支えるから、レスターは思う存分。ね」
「――」
 ジゼルから届けられた、明日に期待を抱かせるような力に、レスターは無言で頷く。
「カーテンコールは、お気に召すまま」
 ミルタの羽ばたきのリズムに合わせ、シィラは紳士たるテディベアの手を取りくるり。砂の舞台に踏むステップは軽やかに、やがて意識を敵へひたと絞る加護となってレスターの身に結す。
「お往き下さい」
 シィラもレスターへ託した。この白い死神がレスターにとって大事な人であったように、きっと皆が誰かの大事な人。誰一人、欠かず、帰る。無論、レスターも。
 交錯を映す水面に、しろがねの漁火が漂う。
 ケルベロス達の包囲を振り払おうと死神が足掻く。その度に彼女の肌は石に覆われ、やがて目に見える肌の殆どが硬直した時。
「もう、あなたは何処へもゆけません」
 空翔けたカルナの蹴撃が、白い女の足を砂に深く縫い止めた。
「いや、いや、いや――あ」
 何かを求めるが如く華奢な手が宙を掻き、ラヴェンダー色の視線が砂地を彷徨う。
 死者を冥の海より掬い上げ、手駒とする死神。その所業は、心無き悪趣味としか言いようがない――が。
(「死神もまた、『心』を知りたいと。心あったものを器にするとしたら」)
 感傷だと知る想像を裡に抱き、夜が刃を抜いた。
 討つ事に迷いはない。されど大事だと思える人が出来た夜の胸中には、『大切』を上辺でなぞっていた時には知らぬ波が立つ。
 ――寂しい。
 欠けた心の虚無を、空白を。死神の在り様に投影した夜は、剣舞によって霞の檻を折り、白い女を封じ込める。
「あ、あ、あ!」
 視界を封じられもがく女へ、ローデッドが飛びつく。
 かつて自身が宿敵と対峙した時、レスターからはトドメの隙を貰った。
(「貰った借りは、返す」)
 因縁も、その重さもローデッドは知らない。ただ、宿す炎が似ていて。彼の瞳が同種のそれだとも分かる。
 動く理由は、十分。
「あんたには必要な決着なんだろう」
 逃れようとする死神を重力を集中させた蹴りで蹲らせ、ローデッドは決着を宿縁の主へ託す。
「果たしてこい。あんたの手で、手向けてやれ」
「感謝する」
 独りでは成し得なかった。
 事が終われば改めて皆へ礼を述べねばと思い乍ら、レスターは死神を――オルウィンを目指す。
(「オルも、好きだった」)
 共に愛した海に風景が、スローモーションのように流れる。けれど忘れ得ぬ貌だけは、はっきりと見えた。
「――」
 その唇が新たな音を紡ぐ前に、レスターは蛍火にも似た炎を溢れさせる右腕で女を捉え、抱き締める。
「還せ」
 宣告に、レスターが発する銀の光が増す。それはしろがねを映した火。妻の色。
 二人を中心に、炎の柱が天へと延びる。滔々と、轟々と、優しく、強く、儚く。
「あァ」
 数歩、引いた位置から、魂を黄泉へ還すが如き光景を見上げ、ローデッドは嘆息する。
「眩い銀の、憎らしいほど綺麗なこと」

●嘘と標
 ――ぁ、あ、レ……、メ……。
 風に浚われ光となって消え逝く女が発したのは、他者にとってはただの呻き。けれど意味を拾い上げたレスターは鋭い眼光を和らげ、僅かに微笑んだ。
 ――大丈夫、メルは浜で遊んでる。
 真実に反する、真っ白な嘘だ。しかしそれに女が嬉しそうに目を細めたように見えたのは、レスターの思い込みだろうか?
 全ては海が攫っていった。
「約束は、二度と破らない」
 空になった腕を掲げ、指の銀環を目に、波濤を耳に、男は呟く。
「必ず、必ず仇は討つ」
 ――それから。
「君の元へ還る」

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 6/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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