恨み晴らさでおくべきか

作者:澤見夜行

●漏らすは恨み言
 その日、朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)は新オープンした『マボロシ』を名乗るカレー屋で、一人スペシャルなカレーを食べてご満悦だった。
「うぅーとってもスパイシーでピリピリヒリヒリするけど、とっても美味しかったですー」
 たっぷりの香辛料で炒められたサラサラのルー。香りを添えるターメリックライスが見事にマッチして、舌に合う味付けだった。
 ゴロゴロとしたチキンは柔らかく、舌に溶ける。大きな野菜の入っている日本のカレーとは異なる装いだが、それがスペシャル感を増していて、とても気に入った。
 そう、大満足だったのだ。大満足で上機嫌。
 だから、帰りの道すがら、その周囲に人がいなくなっていることにも、あまり気を止めなかった。
 暗くなった道に、一人歩く足音が響く。
 そんな環の垂れた耳が、不意に異音を聞きつけた。
 異音――いや、それは恨み言。
「嗚呼……羨ましい、なぜに貴様はそうも幸せなのかぁ……」
「――っ! 誰です!」
 空間を泳ぐ靄。否――それは迷える魂か。
「嗚呼……ずるい、憎い、幸せそうに歩く貴様が憎いぃぃぃ!」
 現れるは、猫。猫の姿を持つ怨霊だ。目に映る全てを憎むその同心円の瞳からは止めどなく涙が流れ落ち、醜く開いた口からは、止めどない恨み言を泣き叫ぶ。
 その姿、その特徴。環には覚えがあった。
「啼鬼! こんな場所に現れるなんて――」
「――憎い、憎い、憎い。この恨み晴らさでおくべきかぁぁ――!」
 幸せな時は一変し、悪寒孕む殺気が溢れ、暴風となる。
「やるしか、なさそうです――!」
 環が意を決し、戦闘態勢をとると同時、恐怖と絶望を好み恨み泣き叫ぶデウスエクス、啼鬼が環に襲いかかった。


 駆けつけたクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が集まった番犬達に説明を開始する。
「頻発する襲撃同様、環さんが、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知されたのです。連絡は、残念ながら間に合わなかったのです。
 一刻の猶予もないのです。環さんが無事なうちに、なんとか救援に向かって欲しいのですよ」
 続けて、クーリャは敵についての情報を知らせてくる。
「敵は死神が一体。配下などはいないのです」
 猫の怨霊のような姿のこの死神は、恨みぶつける視線で相手の神経回路に異常をもたらす攻撃に、恨みを増大させる嘆きの波動をぶつける攻撃、空中を泳ぎ回り体勢を立て直す治癒能力ももっているようだ。
「周辺は市街地ですが、敵の能力によって人払いはされているので戦闘に集中できるのですよ」
 駆け足で説明を終えたクーリャは番犬達に向き直ると、
「元気で幸せに満ちている環さんを狙う悪い死神なのです。
 環さんを救い、宿敵であるデウスエクスを撃破して欲しいのです。どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 ぺこりと頭を下げたクーリャは、そうして番犬達を送り出した。


参加者
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)
立花・恵(翠の流星・e01060)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
一之瀬・白(八極龍拳・e31651)

■リプレイ

●恨みの亡者
 何がそこまで嘆きを生み出すのか。
 恨みを零しながら啼泣する猫の怨霊は、幸せの感情を持つものを決して逃すことはない。
 啼鬼と対峙する朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)の脳裏に『あの時』の記憶がよぎる。
 家族と出掛けたあの日、爆発事故によって閉じ込められたその時。環は見たのだ、恨み、恐怖、絶望を零しながら幸せだった者達を惨殺した啼鬼の姿を。
 顔が強ばる。心に巣くう恐怖が首をもたげ覗き込んでくる。
 それでも、と奥歯を噛み締め、武器を握る。心に火を入れ恐怖を燃やす。私はもう『あの時』とは違うのだと。
 啼鬼の、涙を零す同心円の瞳が環を睨めつける。まるでお前こそが恨みの対象だとでも言うように。
 環は襲い来る恨みの視線に怖じ気づくことなく、目を見据える。身体を振るわせる嘆きの波動に抵抗する。後ずさることはしなかった。
「嗚呼……恨めしい。その力強い瞳、揺らがない心、幸せを享受するその精神が憎い、憎い憎いィィィ」
 啼鬼が怨霊たる身体を揺らす。グラビティの奔流が啼鬼から生み出され、環を襲おうと飛び交う。
 咄嗟の判断で横へと身体を飛ばし、一撃を避ける。だが、啼鬼より生み出されるグラビティは止まることを知らず環に襲いかかる。
 回避困難の危機に直面したその時、環を救うのは暖かさと力強さを併せ持つグラビティの奔流。
 月明かり灯る天空より舞い降りるは、環を救おうと駆けつけた番犬達だ。
「百火! 奴を足止めしろ!」
 環へと襲い来る嘆きの波動を、百火と呼ばれた黒髪のビハインドが両腕に纏った鎖で軌道を反らす。
「――間一髪、かの……環殿、大丈夫か?」
「環、助けに来たぜ! 人を恨んでばっかの根暗野郎なんて、ぶっ倒してやろう!」
「みなさん! 来てくれたんですね!」
 一之瀬・白(八極龍拳・e31651)と立花・恵(翠の流星・e01060)の言葉に笑顔を華を開かせる環。
「おい、面白そうなことやってるな。私も仲間に入れてくれないか」
 言うが早いか、ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)は一足飛びに啼鬼へと肉薄すると、肘から先をドリルの様に回転させ啼鬼に一撃を見舞う。
 残りの面々も、環を守るように啼鬼に立ちはだかった。
「あぁ……恨めしい、なぜに仲間に救われる、友情、愛情、感謝、正なる感情、その全てが憎いぃぃぃ――」
 目にした現状すべてに恨みを零す啼鬼に、恵は肩を竦ませ、啼鬼に愛用のリボルバー銃を突きつける。
「一体何をそんなに恨んでいるかは知らないけれど、とても正気とは思えねーな。
 ――まぁいいさ、あんたを、その怨念ごと撃ち抜いてやる!」
 恵の言葉に続くように、八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)も言葉を走らせた。
「見た目グロかわいくて不覚にもちょびっと萌えてしまいましたがだまされません!
 環さんはボクの宿縁邂逅に駆けつけてくれた恩人にして友人、絶対に助けます!」
 悪辣のストリートキングとの対決は記憶に新しい。あの時、駆けつけてくれた環に恩を返すのだと、東西南北は手にした武器を握りしめた。
「怖い瞳です……目に映る者全て恨んでいるかのようです」
 少しでも不安を紛らわせようと、サーヴァントのクゥを抱くリュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)。必ず全員で帰るのだと、強い意志を瞳に宿らせる。
 番犬達は見えない絆で結ばれている。それはグラビティに暖かさをもたらし、心に戦う力を灯す。
 啼鬼の涙流す同心円の瞳が、それを捕らえていた。愛する仲間を守るというその行為、感情が、幸せという啼鬼の嫌う感情に結びつく。それを啼鬼は許すことなどできないのだ。
「嗚呼……幸福に包まれる、お前達は、惨たらしく惨めに死ぬがいぃぃぃ――!」
 怨嗟の雄叫びを上げる啼鬼。ビリビリと身体に伝わる負の感情。
 集いし番犬達へと、恨み吐き散らす怨霊猫『啼鬼』が襲いかかった――。

●あの時とはもう違う
 耳障りな恨み言を零しながら、グラビティの暴風を巻き起こす啼鬼。
 啼鬼の身体より伸びる鬼火は、これまでにサルベージされてきた者達の嘆きと恨みの感情か。
 ともすれば、心を汚染されかねない負の感情を受けながら、番犬達はその手にした武器を振るい応戦する。
 戦闘経験豊富な番犬達が揃ったこの戦い、徐々にペースを握った番犬達の力が発揮されていった。
 リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)が啼鬼の攻撃をその身で受け止める。仲間を守る盾として、全身に力を籠めて踏みとどまる。
 人々のささやかな幸せ。生きる喜び。それらを妬み、嫉み、奪い去ろうとする啼鬼を、元警察官のリューディガーは許してはおけなかった。
「怨嗟を撒き散らす悪霊の居場所など、この世にはないと知れ。
 環のことは、決してやらせはせんぞ!」
 地面に描きだした守護星座が光り輝き、仲間達を守護する力と変わる。
 続けて生み出した満月に似たエネルギー光球を仲間へと与えれば、そのグラビティの破壊力を増大させる。
 仲間を護り、支援することに徹するリューディガーの動きは、番犬達の戦いの礎となる。
 リューディガーの支援を受けてソロが大地を蹴った。
 愛刀・竜王そして虎王の二刀を手に、飛び交うグラビティの嵐の中を疾駆する。手にした刀から捕食した魂のエネルギーを生み出せば、それを纏い集中力を高める。
 刹那の間で啼鬼に肉薄したソロは、二刀を振りかざし竜虎の構えとすれば、大きく振りかぶり得物を振るう。放たれる二本の牙が、敵を喰らい穿たんと鋭きグラビティを伴って啼鬼を襲う。
「おのれ、おのれ、おのれェェェ――」
「――浅いか」
 反撃の一撃を刀で防ぎながら、一度距離を取るソロ。その後ろから八崎・伶(放浪酒人・e06365)が駆ける。
「うちの団員に手ェ出して貰っちゃ困るな。頼りになるイイ女なんだぜ?」
 瞬時の接近から、身体を捻り放たれる蹴撃。流星纏うその一打は重力の楔となって啼鬼の足を止める。
 恨みなんてものはよくないと、伶は思う。それは自分も苦しめるものだと思うからだ。
 恨んでも恨んでも、底が尽きることがない。
「――だからこそ、お前、そんな格好になるんだろ」
 高速演算し見抜いた構造的弱点に一撃を加えながら、伶は言葉を続ける。
「デウスエクスにそういう話を解いてもしょうがねェかと思うが、
 環もテメェも苦しんで、その感情も消化出来ずで、ちっともイイコトねえよな」
 サーヴァントの焔に指示を出しながら、もう一度、重力の楔を打ち込まんと流星の蹴りを振るう。
「――だから、楽にしてやるよ。
 すっぱりさっぱりな、その為の鎌だ」
 大振りの戦鎌を振るい、その生命力を簒奪する。
「嗚呼……恨めしい、その力、その心。もっと、恐怖に、絶望に溺れ苦しめェェェ」
 空中を魚の様に泳ぎ回り、グラビティを循環させると共に、同心円の瞳で睨めつけ、嘆きの波動を放つ啼鬼。肌を焼くような痛みをもたらす負のグラビティだ。
「クゥ、お願い、注意を引きつけて」
 クゥに指示を出したリュートニアは、オウガ粒子を放ち、味方の集中力を強化する。続けて、オーロラのような光で仲間達を包み込めば、その傷を癒やすと同時に、破邪の力を与えていく。
 神経を冒し、その障害を増大させてくる啼鬼に対し、番犬達を支えるリュートニアの働きは十全とも言えるものだ。
 過剰回復を避けるため、仲間達と声を掛け合うなど、しっかりとした基本戦術に則っている。
 また手が空けば、クゥとのコンビネーションの他、同じ旅団に所属する者達との連携を狙い、啼鬼に迫る。
 リュートニアの治癒を受けた恵が間合いを確認しながら手にした剣を振るう。
 地面に描きだした守護星座が輝き、仲間達に守護の耐性を与えるのを確認すると、地を蹴り、啼鬼へと肉薄する。
「幸せがそんなに憎いか?
 何がお前をそんなにしたのか、お前だって幸せが欲しかったんだろうが、
 それを人の幸せを奪う理由にする奴には、絶対幸せなんて訪れないぜ!」
 手にした拳銃と剣で変則的な攻撃を繰り出し、啼鬼を翻弄するようにダメージを与えていく恵。
 雷の霊力帯びた弾丸が射出され、神速とも言える速度で啼鬼に吸い込まれる。怨嗟の声を上げる啼鬼に続けて空の霊力帯びた剣で、その傷跡を正確に切り広げた。恵の動きは止まらない。
「炸裂しろ! 灼熱の星の衝撃よ!」
 闘気込めた銃弾を、空高く跳躍したところで連続射撃を行う。放たれた弾丸達は高エネルギーを発しながら超高速で啼鬼の胸元に着弾する。急所を確実に貫くその一撃から逃れる術はない。
「人の幸せが憎い、妬ましい……ボクにも覚えがある感情です」
 やればできると信じる心を魔法に変えて、将来性を感じる一撃を繰り出す東西南北。
 その胸中には、リア充への嫉妬とも取れる感情があった。
 啼鬼の気持ちはよく分かる。
 楽しそうに街を歩くリア充を見て血の涙を流したこともある。
「――だからって容赦はしません。
 リア充を憎むだけならともかく、彼女が食べたカレーには何の罪もありません」
 啼鬼の攻撃をくぐり抜け、明日から本気を出すという近いの心を溶岩に変えれば、啼鬼の足元より噴出し飲み込む。
「おいしいものを食べて何が悪い!
 せめてそれ位の贅沢は許してください!
 ボクもスペシャルなカレー食べたい!」
 後半は本音がダダ漏れだが。その想いはこの場にいる誰もが思うところだろう。しかし、目に映る者全てを憎み恨む啼鬼にその言葉は届かない。
 変わることのない全てを恨む同心円の瞳が、番犬達の神経を故障させる。
「僕の背骨は避雷針、きたれ臨界/破れ限界!」
 傷を負いながらも、返礼するように体内で圧縮した指向性の高圧電流を放つ東西南北。感電、麻痺するその効果に啼鬼の動きが鈍りだした。
 その隙を白は逃さない。
「怨霊め……極光の果てで朽ち果てるがいい!」
 彗星の如き光を放ちながら素早い身のこなしで啼鬼に突撃する白。
 八極拳の技交えた、爆突は爆発的衝撃となって啼鬼の身体を歪ませる。
 続けて、背負った阿頼耶識より光線を放てば、その身の神経を焼き切っていく。
 恐怖、絶望、恨みを押しつける啼鬼は傍迷惑な事この上ないと、白は零す。
 大事な友である環に、そのような感情は似合わないと感じていた。
「彼女の笑顔を、貴様の様な怨霊に曇らさせはせぬぞ!」
 百火の両腕に纏った鎖が伸びる。無数に飛来する鎖が、啼鬼を捕らえ、その頸を露出させた。魂魄を収束させ、巨大な戦斧の形状で自身の手刀に纏わせれば、一瞬で啼鬼に肉薄し、頸を目がけて振り下ろした。
 啼鬼から怨嗟の声が上がる。直撃した魂魄が啼鬼の身体を蝕み、その動きを阻害し止まない。
「皆、もう一息です」
 リュートニアが治癒のグラビティを放ち、傷ついた身体を癒やす。邪悪な阻害が排除されれば、番犬達の動きが軽やかになる。
 リューディガーが反撃を受け止めながら銃を抜くと、獲物を狙う狼のように鋭敏な感覚で敵影をとらえ、警告と共に威嚇発砲を行い、更なる足止め効果をもたらした。
 啼鬼の恨み事は変わることはない。どこまでも他人を恨み、嘆き、涙を零す。それはもはや啼鬼の意志ではなく、サルベージし取り込んだ者達の悲しみの叫びに他ならない。
 連鎖的に悲しみを広げる啼鬼を、これ以上のさばらせるわけにはいかない。環がグラビティを迸らせる。
「全ての命の源たる青き星よ。一瞬で良い……私に力を貸してくれ! いくよ、環!」
「ソロさん! はい、力を貸して下さい!」
 ソロと環が戦場を疾駆する。両翼に展開すれば、挟み込むように、突撃する。
 地球のグラビティチェインと己が魔力を連結(リンク)し、自身の限界を超えた力を瞬間的に発生させるソロの技は、さざ波のような蒼く輝く光が周囲より集いて、身の丈程の光刃を創り出す。
 環の操る攻性植物が、蔓触手形態へと変形し、啼鬼を捕縛する。動きを止めた啼鬼に環とソロが肉薄し、脳天を直撃するフルスイングと因果を断つ蒼の一閃が啼鬼に絶大なダメージを与える。
「憎い、に……く……いぃ……この恨み晴らさでおくべきかぁあ!」
 恨みは消えることなく、至近にいる環の耳に届く。弱り切った啼鬼。誰の目にも明らかな死を目前に、環は拳を握る。
「その見た目、その声……忘れたことはないのですよ。
 もう私は、あの時の無力に泣く女の子じゃありません」
 助けに来てくれた仲間達の視線が環の背を押す。
「恨み事を吐き散らすのは終わりです、啼鬼!」
 これまでの経験と――今の持ちうる全ての感情と力を籠めて。全身全霊、渾身の拳が啼鬼を撃ち貫く。
「オォォ……恨み、嘆き、恐怖がァァ――!」
 叩き込まれたグラビティの奔流は、まるで啼鬼の怨念を浄化するようにその身を包み消し去っていく。
 後に残るは、キラキラと光り輝くグラビティの残滓だけだ。
 何も無くなった空間を前に、安堵から、環がぺたんと座り込む。
「はは、やりました」
 振り向いて、眉根を寄せながら微笑む環に番犬達は安堵して、ゆっくりと傍へと寄った。
 恐怖、絶望、恨みの感情を好み、自ら怨念を吐き散らす死神『啼鬼』はこうして倒されたのだった――。

●幸せの輪
「本当にありがとうございました!」
 環の感謝の言葉が夜の街に響く。
 周辺のヒールを終えた番犬達は環を囲んで談笑していた。
「それにしてもカレーかぁ。どんな味だった? 俺も腹減ったし、食べにいきてー……」
「スパイスが利いているという話だったか。食べてみたいものだな」
「カレー屋か……。是非俺にも教えてもらえないか。
 そんなに美味い店なら、今度妻や仲間たちと行ってみたいものだ」
 恵がお腹をさすりながらカレーを想像し、ソロがその味に興味を持てば、リューディガーも同意するように頷いた。
「それなら今度、スペシャルなカレーご馳走しますね。一緒に食べに行きましょうー」
「はいはーい、ボクもお気に入りのカレー屋さんに行きたいです!」
「僕も行ってみたいです」
 環の提案に東西南北とリュートニアが手をあげて――いや、その場にいる全員が期待に顔を綻ばせる。
「賑やかでイイじゃねェか。また楽しみができちまったな」
 伶が笑顔でそう言えば、白が「あぁ楽しみだな」と、笑った。
 番犬達に笑顔の華が咲く。
 恨み、恐怖、絶望を振りまく死神『啼鬼』は倒された。幸せな日々を謳歌する者達を狙う者は居なくなったのだ。
 だから、そこには幸せが満ちていた。
 仲間に救われたという感謝の気持ち。仲間を救えたという安堵の気持ち。お互いを思い合う、友情と愛情は混ざり合い、幸せの感情となって輪を作った。
「みんなと出会えて、本当に幸せです!」
 特段の笑顔を見せて環が笑う。
 その笑顔に釣られるように番犬達も微笑んで――。
 夜の街、どこか彼方で香る幸せのスパイスを感じながら、番犬達は帰路へとつくのだった。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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