喧騒の影虚ろ

作者:幾夜緋琉

●喧騒の影虚ろ
 埼玉県川越市。
 駅にほど近い市街地の影、ビルとビルの間には灯はなく、暗闇の空間が広がる。
 そして、そこは……その暗さが示すが如く、人の暗部。
 ビルの人が捨てたのか、心無い人がどこからか持ち込んで捨てたのかは分からないが……そこに積み重なっていたのは、打ち捨てられた廃棄家電製品。
 人に買われ、様々な理由はあれど、愛される事を失った家電製品が積み重なるのは、物悲しい雰囲気が漂う。
 ……そんな廃棄家電製品の山の中に、ごそ、ごそ……と潜り込もうとしている一匹の蜘蛛。
 いや、正しく言うのならば、握り拳ほどの大きさをした、コギトエルゴスム。
 蜘蛛のような足をごそごそとしながら、その家電製品の山の中に潜り込んで行ってしまう。
 ……そして、コギトエルゴスムが中へと潜り込んで、数分。
 ゴミの山は、強い光に一度包まれる。そして……コギトエルゴスムの取り憑いた、極々普通の扇風機がその山の上に飛び出てくると。
『……ウウウウウウ!!』
 風切り音を甲高く掻き鳴らしながら、ダモクレスは人の殺意と共に、動き始めるのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスね! それじゃ、説明始めるッスよ!!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスへいつも通り元気な挨拶をすると、早速。
「埼玉県の川越市、駅から数分といった所のビルの谷間に、どうやら家電製品が打ち捨てられていた様なんッス」
「この家電製品の一つがどうも、ダモクレスになってしまう様なんッスよ。幸いにもまだ被害は出てないッスけど、ダモクレスをこのまま放置すれば、多くの人々が虐殺されて、グラビティ・チェインを奪われる具合になりかねないッス。そこでケルベロスの皆さんには、急ぎ現場に向かい、このダモクレスを撃破してきて欲しい、って寸法なんッスよ!」
 更にダンテは。
「このダモクレスは、元々は扇風機の様で、その姿形もやはり扇風機に似ている様ッス。そして、攻撃手段も同様、元となった扇風機の回転する羽根に由来している様ッスね」
「具体的に言うと、その羽を砕き、高速回転する刃の如くにして飛ばし攻撃為てくる様ッス。羽根は3つで、それぞれの羽に毒、麻痺、石化の効果がついている様なんッス」
「又、その羽はコギトエルゴスムの効果かは分からないッスけど、飛ばしたら次の刻には再生するというシロモノの様なんッス。つまり、羽を飛ばすこうげきを無尽蔵に行う事が出来る、っていう厄介な相手なんッスよ!」
「ちなみに時間は深夜の頃ッスから、周りには殆ど一般人は居ないッスけど、ビルとビルの間というかなり狭い所が戦いの舞台になる模様ッス。前衛、後衛含めて、真っ正面に対峙する人は挟み撃ちして2人、といった所になるッスから、その当たりどうするかは良く話し合って欲しいッス!」
 そして、ダンテは最後に。
「罪の無い人々が、このままじゃ大惨事になってしまうッス。ケルベロスの皆さんの力で、どうにか対峙してきて欲しいッスよ!!」
 と、拳をぎゅっと握りしめ、振り上げるのであった。


参加者
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
シャルロット・フレミス(蒼眼の竜姫・e05104)
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
フォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)
浦戸・希里笑(黒蓮花・e13064)
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
不動峰・くくる(零の極地・e58420)

■リプレイ

●影に廻れば闇の中
 埼玉県の川越市、駅にほど近い所に位置する市街地の一角。
 ビルとビルの谷間には僅かな隙間が生じており、そこは……人の管理の手が及ばない狭間の地。
 ……でも、人の目が及ばないからこそ、そこに巣くうデウスエクスの影もある。
「全く……自分たちで自らの首を絞めてたら世話無いね……」
 と、瞑目しながら、溜息を一つ吐く浦戸・希里笑(黒蓮花・e13064)に、峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)も頷いて。
「本当。使わなくなった家電を規定の場所に出さないと、こういう事になるんだから、本当に辞めて欲しいよね」
「……廃棄家電を一箇所に纏めたら、其処を狙われるのだろうけども……まぁ、狙いが絞られるだけ、まだマシかな」
 ……二人の言う通り、今回のデウスエクスは、廃棄家電製品に取り憑くダモクレスである。
 本来のルールに則って、ちゃんと然るべき場所に捨てていれば……少なくともこんな街中でダモクレスが現れ、暴れるなんて羽目にならなくて済むはずなのである。
「うむ。違法投棄されなければ、このようなことも起こらなかっただろうに……打ち捨てられた扇風機がダモクレス化とは、本当皮肉な話じゃのう……勿論、このような感情は余り持つべきではないのかもしれぬがの」
 と彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)が肩を竦める一方で、希里笑は。
「戦えない人たちの為に、私たちが前に出て戦う。なのに、その人たちが危険を撒く……これも一種のマッチポンプなのかな? ……いや、コレは違うか。でも、こんな街中に不法投棄って……自業自得とは言わないけど、それが原因で事件が起こるなんて、何だかなぁ……まぁ、だからって見逃すって話はあり得ないんだけどね」
「うむ、放っておくわけにも行くまい。罪も無きものまでに犠牲が出てしまうのは防がねばならん。丁重に葬ってやらねばな」
 と戀も頷く。
 ……その一方、他のケルベロス達は、と言うと……。
「それにしても、扇風機のダモクレス、ですか……」
 ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)がぽつり呟くと、フォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)、シャルロット・フレミス(蒼眼の竜姫・e05104)も。
「そうね。扇風機かぁ……最近家では使ってないですね」
「最近はクーラー、という物を使う人が多い様ね。でも、扇風機もこれからの季節に十分活躍してくれる家電製品……だから、さっさと倒さないと……」
 そんな会話に対し、不動峰・くくる(零の極地・e58420)が。
「ふむ。扇風機のダモクレス、でござるか……そういえば、同じようなのを先日片付けたばかりな気がするでござるが」
 小首を傾げる彼女に対し、ルピナスが。
「そうですね……確かに扇風機のダモクレス……それ自体は、さほど珍しくは無いと思います。ですが、戦場となる場所が個々まで狭い戦いとなると、初めての経験になりますね」
 ダンテから聞き及ぶ限りにおいては、ビルとビルの間で、挟み撃ちしたとしても、真っ正面に立てるのは一人ずつという……極めて狭い戦場。
 自ずと戦い方も、大幅に制限されてしまう訳で……近接攻撃が出来るのは二人まで、という事になる。
「……近接攻撃がダメってなると、行動がワンパターンで終わっちゃうね。同じ事の繰返しで、ぐるぐるぐる……まぁ、遠距離攻撃の方が慣れているから、僕としては楽が出来て構わないけどさ……」
 陽月・空(陽はまた昇る・e45009)がぽつりと零すのに対し、くくるはニカッと笑い飛ばし。
「まぁ、そんな事はどうでもいいでござる。さっさと潰して終わらせるでござるよ!」
 巨大手甲『轟天』『震天』を打ち合わせながら、気合い一発。
 そしてルピナス、希里笑も。
「そうですね。何はともあれ、最善を尽くすのみです」
「ダモクレスが表に出て暴れ廻る前に、この狭い路地で必ず決着を付けよう!」
 と、ダモクレス討伐への強い決意を胸に秘めて、ケルベロス達はビルの谷間へと急ぐのであった。

●怒りの騒ぎ
 そして、ケルベロス達は、ダモクレスの眠りしビルの谷間へと到着。
 ……と、到着したその瞬間に、ビルの谷間から金色の光が、漏れ出てくる。
「丁度、現れた瞬間の様ね。被害が出ない内に、仕掛けるわよ」
 とフォルトゥナの言葉に頷き、ビルを挟んで二手に分かれ……挟撃に飛び込むケルベロス。
 ……ビルの狭間に積み重なった、打ち捨てられた廃棄家電製品の山。
 その山の頂上で飛び跳ねているのは、昔から良くある形式の、首振り型のリビング型扇風機。
 ……勿論、ダモクレス化により、ケルベロス達に対し明かな敵意を剥き出しにしており、羽根を凄まじい速度で回転させる事で、ピュゥゥゥ、という風切り音を掻き鳴らしている。
「悪いわね。あなたの行き止まりよ」
 と、そんな扇風機ダモクレスに対し、先制と言わんばかりに、その頭上からのスターゲイザーの蹴撃を放つシャルロット。
 不意を突く形で、ダモクレスへのダメージを叩き込む一方……その前面に立つはフォルトゥナ。
 その一歩後ろにそれぞれ希里笑、くくるが配し、ダモクレスを決して逃さぬ様に対峙する。
「近接戦闘は、シャルロット、フォルトゥナ、宜しく」
 と希里笑の言葉に頷き、そしてフォルトゥナはスカルブレイカーの一撃で攻撃する。
 真っ正面から正対した二人の攻撃に対し、ダモクレスは、というと……ピョンピョンと飛び跳ねて回避。
 どうやら、中々身軽な敵の様である。
 そして、対するダモクレスの反撃。
 一層、その羽根を高速回転させる。その高速回転する羽根は、耐えきれなくなり……パリン、と砕かれ、石つぶての様にケルベロスを襲う。
 まるで刃の様なものが、腕や足めがけて飛んでくるのは、少々恐怖を覚えてしまう。
 が、その攻撃に対して、敢て。
「そのような攻撃、そよ風の様でござるなぁ。もっと風量無いでござるか? そんなんだから、クーラーに負けるんでござるよぉ」
 くくるが敢て、挑発する様に笑う。そして希里笑が。
「……石つぶてならぬ、羽根つぶて……厄介だけど、注目してれば、避けるのは難しく無い……」
 と言いつつ、一歩後ろからのバスターフレイムでの射撃。
 同時にくくるが逆側より。
「拙者の雷撃、とくと味わうでござる!」
 と怒號雷撃を放ち、避けにくい状態を作り出す。
 対しスナイパーのルピナスが、命中率の上がった熾炎業炎砲で。
「御業よ、炎弾を放ち、敵を焼き払いなさい!」
 で炎を付与する一方、空はフォーチュンスターで服破り効果を付与。
「……これしかやる事が無くて逆に暇だね……相手も飛ばしてくるだけみたいだし」
 と空の言葉に、後ろの恵が。
「油断しちゃダメだよ! みんな!」
 と声を掛けつつ、先ほどの羽根砕き攻撃を喰らった仲間をサキュバスミストで回復。
 そして、仲間達を補助する様に戀が。
「ここで一つ、お聞きあれ。幻想曲【星雲の儚き光】」
 と『星雲の儚き光』での共鳴ヒール。
 ……そして、行動は一巡し、次の刻。
 とは言えども、ダモクレスが特殊な行動をする、という事は無く……ただただ、その羽根の高速回転を行い弾け飛ばし、砕く攻撃をするがのみ。
 流石に、至近距離に居るシャルロット、フォルトゥナは、攻撃を躱す余裕は持てない。
 だが、各々の方角に居る恵、戀がおり。
「大丈夫かの? 今回復してやるでな」
 と、しっかりとヒールグラビティを掛ける事で、ダメージを後に残さない様にする。
 そして、シャルロットは。
「隙があるなら斬るわ!」
 とヒットアンドアウィエで、喰霊斬りを叩き込むと、同時にフォルトゥナがスカルブレイカー。
 更にそれに入れ替わる様にしての、くくるがグラインドファイアを穿ち、一方希里笑もバスターフレイムによる連携。
 そして、三巡目、ルピナスが。
「氷結の螺旋よ、敵を凍えさせる力となって下さい!」
 と螺旋氷縛波に続き、空のファミリアシュートでのバッドステータスを一気に倍加。
 ……メディックを除く仲間達が、全て猛攻を加えることで、ダモクレスの攻撃を受け止めながらもダメージを重ね続ける。
 様々なバッドステータスを与えてくるものの、一撃、一撃を確実に対処する事が重要。
 そして……戦闘開始から十数分、ダモクレスの体躯は最早ボロボロ。
 そんなダモクレスの状況を間近で見たフォルトゥナが。
「そろそろ……かしらね?」
 と、仲間達に宣言。
「わかりました……闇の精霊よ、鋭き剣となりて敵の全てを封じよ!」
 とそれにルピナスが『裁きの闇剣』を飛ばして、一閃を仕掛けると……その羽根一つが、完全に稼働部から砕け散る。
 そして、フォルトゥナが。
「死を忘れた者達は、滅びる運命なのです!」
 『天火明命』によるグラビティチェインが縛り上げ……そしてシャルロットが。
「猛る雷雲、戦場の硝煙、駆ける煌き……出でよ竜の雷!」
 と『蒼眼竜の煌雷』が、雷撃を【滅竜刀 -轟-】に纏わせ、そして、稼働部中心に向けて叩きつけると……ダモクレスは、完全に爆散するのであった。

●虚ろな影と
 そして……無事、ダモクレスを討伐したケルベロス。
「……ふぅ……終わった様じゃな。皆のもの、お疲れ様じゃな」
 と涼しい顔で戀が仲間を労うと、それにくくるが。
「確かに疲れたでござるな。でも、戦闘後の一服は格別でござるよ。ふぅ……」
 何処からともなく取り出した煙管で、煙をくゆらせるくくる。
 ……何はともあれ、ダモクレスによる大きな被害も無く、一般人も守られた。
「でも……人が不法にゴミを捨て続ける限りは、事態は何も変わらないんだよね。一年間で起きた不法投棄や、家電を利用したダモクレスの事件の数を発表して、不法投棄防止キャンペーンとかやれないかな……」
 と恵はぼやきつつ……取りあえず、戦闘の爪痕のヒールに取りかかる。
 勿論、恵だけでなく、総出で以て、戦闘の爪痕のヒールを行う。
 そして……一通り直した後に、残る不法投棄の廃棄家電製品の山を前にして。
「……それじゃ明日になったら、業者に連絡して回収する様に言っておくね」
 と希里笑の言葉に戀が。
「うむ、頼む。それにしても……やはり、人という存在は、わからんな。こういう行為は、後に自分に返ってくると言うのに……」
「そうだねー……やっぱり、啓蒙活動も必要なのかもね?」
 恵の言葉に、そうかもしれない……と思いつつ。
 そして片付けも一通り終わった所で、シャルロットは。
「それじゃお先に失礼するわね。本当、ケルベロスにも休日が欲しいものだわ」
 と言いながら、翼を出して其の場から離脱するシャルロットなのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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