こころのゆくえ

作者:長谷部兼光

●Friendly
 佐伯・アキが高校に入学しておよそひと月。
 すぐに気の合う友達も出来て、ここまでの高校生活は順風満帆そのものだった。
 唯一、不満の声をあげるとするなら……ありきたりにお金の話になる。
 何しろ花の女子高生。背伸びの一つもしたくなるもので、背伸びをしたまま街を歩けば、あれも欲しい、これもかわいい、と物欲が刺激されるのもむべなるかな。
 しかし学校は夏・冬休み以外でのバイトを原則禁止しており、かと言って月々のお小遣いだけでは足りない。
 四人の友人達も概ね同じような境遇で、五月に入ってからは専ら金欠話で盛り上がっていた。
「……だったらさ、いっそ盗っちゃう?」
 放課後の教室内。友人の一人が冗談めいた口調でそう言った。
 単なる放言だろう。アキがそれは駄目でしょ、と窘めていればすぐに消えて無くなってしまうはずの言葉だった。
 けれどもアキは躊躇し、逡巡してしまう。和気藹々とした『雰囲気』を自分の一言で壊してしまうのではないか、と。
「そうだよね。みんなでやれば、案外バレないかもね」
 別の友人が、『空気を読んで』話題を合わせる。これも冗談の類だろう。
 その後も冗談に冗談が重なって、いつの間にか犯罪を共謀する様な、良くない雰囲気が出来上がってしまう。
 機を失ったアキはただ相槌を打つばかり。
 これは、不味い。友人達と別れたアキは一人教室で溜息をつく。このまま流されてしまえば本当に、やらかすことになってしまうかもしれない。
「半端に空気を合わせようとするからだ。頭数が多いからこそ血迷う事もある。良くないことだと解っていたなら、例え謗られようとも声を上げる勇気を持たなくちゃな」
 アキが振り返れば、そこに居たのは番長のような雰囲気を纏う、見ず知らずの女学生。
 ……やはり注意するべきだったのだろう。
 女番長の言葉で確信したアキは彼女に礼をいうと教室を後にし、

 背後から、女番長に大きな『鍵』を刺された。
「ついでだ。手伝ってやるよ。何、罪を犯す前に死んでしまえば、まっさらなまま逝けるだろうさ」
 そしてアキから生まれたドリームイーターは疾走する。
 友人達を殺(さと)す為に。

●天秤
 日本各地の高校にドリームイーターが出現し始めたようだ。と、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は語る。
 ドリームイーター達は、高校生が持つ強い夢を奪って強力なドリームイーターを生み出そうとしているらしい。
「佐伯・アキ……彼女が狙われたのは、丁度、空気を読むことへの疑問を持っていたからだ」
 アキから生み出されたドリームイーターは、強力な力を持つが、この夢の源泉である『空気を読むことへの疑問』を弱めるような説得ができれば、弱体化させる事が可能となる。
 ……ただし。
「友人達を正そうとするアキの思考は極めて真っ当だろう。何の瑕疵も無い。皮肉な話だが、プラスの方向への説得は既にドリームイーター――フレンドリィが済ませている」
 生み出されたドリームイーターの弱体化……説得を行った場合、アキの心にも大きな影響を及ぼす。集団に異を唱えようとする彼女の精神は消失し、ただ諾々と周囲の空気に流される人間になってしまう。
 現状のままの彼女を救出するためには、ドリームイーターに『全く説得を行わず』撃破する必要があるだろう。
 ただしこの場合、強力なドリームイーターと真正面から戦うことになり、依頼の難度は一段上がると考えていい。
 戦場となるのは某県の高校。
 ドリームイーターの狙いはアキの友人達四名だが、既に高校を後にして方向もばらばらに帰宅の途についており、その内の誰を最初に狙おうとするのか見当がつかない。
 故に、明確なスタート地点である高校の敷地内で接敵し押し留めるのが最良だと王子は説明する。
 校内にはまだ部活中の生徒・教師がそこそこ残っているが、ケルベロスが現れるとドリームイーターはケルベロスを優先して狙ってくるので、一般人を避難させるのはそこまで難しくはない。教師達に先導を頼んでも問題無いだろう。
「器物の修復ならヒールをかければ良い。だがこころはそう簡単に修復できないものだ。くれぐれも慎重に……な」


参加者
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)
葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)
ヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676)
ルルド・コルホル(廃教会に咲くイフェイオン・e20511)
リップ・ビスクドール(暴食の狂狗・e22116)
レイラ・ゴルィニシチェ(双宵謡・e37747)
ルナ・ゴルィニシチェ(双弓謡・e37748)
ドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117)

■リプレイ

●過程
 空腹だった。慰みに、リップ・ビスクドール(暴食の狂狗・e22116)は己の指を齧る。
 陽の落ちかけた校内に、大音量のサイレンが鳴り響く。
 危急を告げる放送。俄かに沸き立つ混乱の悲鳴。
「ここだ、よ……おいで……」
 リップはそれらをさして気にも留めず、四方へ殺界を走らせる。犠牲を出さないことに拘泥する性質ではないが、万一、喰事の時間に邪魔が入ってしまえば台無しだ。
 ともあれ、殺界だけでは誘引するに足りないか。
 浮足立って校庭から遠ざかろうとする生徒と教師たち。騒然とする校内で、しかし一つだけ特異な行動を取る影がある。
 殺界の存在をまるきり無視し、渡り廊下を疾駆するその影こそ――フレンドリィの生み出したドリームイーターだ。
「来なさい。デウスエクス。あなたに人殺しはさせません」
 アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)が割り込みヴォイスに乗せて夢喰いに届けるのは、冷たい敵意と、明確な宣戦布告。
 直後、姿勢はそのまま、首だけ器用にこちらへ向けた夢喰いは渡り廊下を蹴とばし、殺戮針路をケルベロスへと変更する。夢喰いが携えるチェーンソーが回転を始め、悲鳴にもよく似た駆動音が日常を塗りつぶす。
「現在、校庭でドリームイーター一体と交戦中です! 非常に危険ですので、校庭には近づかないようお願いします! 先生の指示に従って、速やかに避難してください!」
 片目を瞑ったドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117)が淀み無くそう発すると、彼女のメッセージを携帯電話越しに受け取った職員が一言一句漏れなく校内放送で拡散させた。
 周囲の喧騒を切り裂き、奔る鋸刃がリップにめり込む寸前、抜かりなく強襲を警戒していたルルド・コルホル(廃教会に咲くイフェイオン・e20511)がそれを受け取める。アイラノレはルルドが奮闘しているその隙に、幾多の包帯を繰りドリームイーターの四肢を縛った。
「手元が狂ってしまうでしょう。じっとなさい」
 機巧之翼と見習い神官の力を借りて施された拘束は、いくらもがき足掻こうと解けない。
 空へと高く飛んだヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676)は翼をはためかせると、脚部に重力を収束し、ドリームイーター目掛け急降下する。流星の如き蹴撃が夢喰いを射貫き、彼女からさらに機動力を奪い取った。
「デウスエクスはまずオレ達を狙ってくるはずだ。絶対にそっちには行かせないから生徒たちに専念してくれ!」
 地に帰還したヒスイが声高らかに教師たちへ要請し、レイラ・ゴルィニシチェ(双宵謡・e37747)のボクスドラゴン・チェニャが野次馬をつまみ出し、ルナ・ゴルィニシチェ(双弓謡・e37748)のボクスドラゴン・ヴィズが、腰を抜かしたらしい生徒を介抱して頑丈そうな運動部員に預ければ、教師も生徒も校庭から退いて、後に残ったのはケルベロスと、ドリームイーターと、幽かな声援の残響。
「デウスエクスの中にも、まともな事が言える奴も居るんだな。諭した事を感謝はするが……見逃す理由にはならないな」
 鋸刃に刻まれたうずくような痛覚を抑えつけ、ルルドは一閃、オドーラでドリームイーターの右手首に小さな傷をつけた。ブラックスライム・影狼はそこから侵食を果たすと濃紺色の焔に変じ、暴れ狼が内部より焼き滅ぼさんと夢喰いの全身を駆け巡る。
「筋の通った論を伝えることもあるものだと思いましたが……出来上がるのは結局、人を殺めるだけの化け物ですか。所詮はデウスエクスですね」
 葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)はロッドを振るい電撃的にルルドを活性化させた後、ひどく褪めた眼差しで夢喰いを睨んだ。
 敵の実力(レベル)は高い。恐らく常に先手を譲ることになるだろう。回復役(オルン)としてはそちらの方が都合が良いが。
「望みのモノ――強いドリームイーターさえ完成すれば、過程のゼンアクは関係無いのかも?」
 跳躍したレイラが夕焼け空に虹の弧を描き、そのままドリームイーターへ滑り落ちると、オルンはレイラから若干視線を外し、耳を寝かせ、何処か気まずそうな調子でそうですね、と小さく肯定した。つい先程までのシニカルな姿とは対照的だ。
 そんな様子のオルンの見て、レイラをふと小首を傾げる。彼の声、何処かで聞いた事がある様な。無い様な。
(「なんだアイツ?」)
 果実の黄金光で前衛を照らしながら、ルナは双子の妹と獣人姿のオルンをじいっと観察する。レイラはオルンに引っかかるモノを感じているらしいが、オルンは恐らく、レイラの事を知っている上で誤魔化している節がある。同じ顔立ちだからか、彼はルナに対しても些かよそよそしい。どうしてそんな態度を取るのか問い正してみたいところだが……。
「……それじゃあ……喰べる、ね……?」
 三人の思惑をよそに、リップの背腰部より飛び出した赤黒い泥は邪竜の形を取ると、文字通りドリームイーターに喰らいつく。
 けれども夢喰いの生命力は強靭で、『今はまだ』喰らいつけるものの、呑み込めない。
「……はい。もう大丈夫です。ご協力ありがとうございました。一先ずあなたも避難してください。後はこちらにお任せを!」
 サイレンが止む。ドロッセルが閉じていた片目を開くと、天竺牡丹の切っ先を夢喰いへ向ける。薙刀に封じられていた怨念を解放し、更に自身に取りついた悪霊との一体化をも果たしたドロッセルが変じるのは、雷の龍。
「霊魂完全開放!木行・終式 雷霆ノ如ッ!」
 龍の両眼が敵を捉えた。爆音を轟かせ、敵を噛み砕かんと一直線に突撃する。
 鋸刃の回転音もまた、それに対抗するようにけたたましく叫喚した。

●弱点
 敵の機動力は標準より少々上、と言った程度だが、攻撃力がまともじゃない。時間をかければかけるほどこちらが不利になっていくだろう。
「弱点を突いて、一気に畳みかけたいところだが……」
 ヒスイは改造銃『ミタマシロ』を指にかけスピンさせる。今までの攻撃で、敵の弱点を明確に突いたと言えるものは存在しない。溜息が出てくるくらいにタフだ。
「いえ。弱点ならあの敵にも存在します。ですが……」
 その弱点は……と、ドロッセルが言い淀む。
「……ああ、『説得』、だっけ?……誰か、アレに言いたい事、ある……?」
 リップは酷く軽い声音で相槌を打つと、仲間たちに訊く。
 天秤だ。ケルベロス達がこのままドリームイーターを抑え続けられる保証はない。大きな視点で見れば、少女の心を犠牲にして敵を弱体化させ、事件の早期解決を図るのも決して悪しき選択ではないだろう。
 ……だが。
「有りません。デウスエクスに説かれたものという点で些か釈然としない所はありますが、彼女の考えは高潔と思えますから」
 オルンは毅然と断言し、即座イフの逡巡をすべて雪ぐように、後衛へ薬液の雨を降らせた。
「デウスエクスが正論、ね。ま、大いに結構じゃねぇの。あとはテメェを倒すことで、あの子の選んだ答えを肯定してやるだけだぜ……間違っちゃないってな!」
 ヒスイがミタマシロの射線にドリームイーターを収めた刹那、彼女は徐にヒスイ目掛けてチェーンソーを投擲する。せっかくオルンの雨で傷が塞がったのだ。こんなすぐに傷が開いては彼に済まないと、ヒスイはチェーンソーを狙撃する。一発目の銃弾が鎖鋸の軌道を僅かに逸らし、間髪入れずに放った二発目の弾丸は鋸刃に接触、その後、大きく飛び跳ねた。
 ヒスイの跳弾が死角より夢喰いを貫くと、アイラノレは対照的に、真正面からバスターライフル・Faveurを構え、金の銃口(まなざし)を差し向ける。
「迷い、悩むということ。それは、心があるからできること。ならば、私はその心を守るために参りましょう」
 ココロは揺らがない。たった一人の少女の心を守れない存在に、一体何が救えると言うのだろう。
 意を決し、アイラノレはファヴィのトリガーに手をかける。迸る光線が夢喰いの熱を奪い、彼女の体は氷塊の如き冷気を帯びる。そこへルルドは迷うことなく、獣の拳を叩き当てた。
「決まりだな。悪いが、総取りだ」
 元々全員が『そのつもり』でここに来た。
「アキさんの心、そのままの形で返してもらいます!」
 困難な道ではあるが、これが何より正しい道だろう。
 ドロッセルは大地に沈む『惨劇の記憶』から魔力を抽出し、前衛に分け与える。
「じゃあ……もういい、よね……いただきま、す」
 リップとしてはどちらでも構わない。難易善悪関係なく、ただ、餓えが満たされればそれでいい。込み入った話が終わったのならば、あれはもう、食べていいものだろう。
 ドロッセルによって研ぎ澄まされた感覚に従って、膂力のままに夢喰いを素手で引き裂き、更に捕食せんとばかりに噛みついた。
「まームズカシイかもだけど、立ち直ってほしいもんね」
 言いながら、レイラは左の掌を伸ばし、
「その後どーすっかはアキ次第。うちらはそれまでの道作ったげないとね。アレもコレもほしーって気持ちはめっちゃわかるー。でもやっぱ盗るってのはダメっしょ、コーカイすると思うし」
 ルナは右の掌を伸ばす。
 闇と光。小さな竜たちが織り成すブレスに彩られ、二人が歩を進める毎、煌きを伴い物語は進行し、踊る様にステップを踏めば、点は線と成り、線は縁を結ぶ。立止る双つの謡の足許に拡がるのは、光の陣。
 宵が共にするは月。月が照らすは夜の闇。掌二つが繋がって、くるりくる。くるくるり。
「双子座のみちびき、感じてみ?」
 ルナとレイラの声が重なり溶ける。再び出逢いひとつに成りて。奇跡を願えば、互いの傷が癒えてゆく。

●激突
 グラウンドを染めるのは、果たして陽の色か、それとも緋の色か。
 ……これ以上は持たないかもしれない。こちらの作戦の問題では無く、相手の力がただひたすら強いのだ。
 だが、此処から押し切らなければ、アキの心は決して戻らない。
「凄い威力ですね。ですが、このまま暴れられては流石に困りますので!」
 ドロッセルが夢喰いの鎖鋸を捌きつつ、幾度目かの如意棒を叩き込む。相手の力を削ぎ落し、それでもまだ足りないなら再び削ぎ落すのみだ。
 ドリームイーターは如意棒が作り出す変幻自在の間合いから距離をとり、モザイクからもう一本のチェーンソーを取り出すと、二枚の鋸刃を最大振動させ後衛に迫った。
 乱舞だ。嵐の如き唸りを上げて振るわれる刃は有機・無機の区別無く全てを切って斬り伏せる。
 ドロッセルのお陰で後一撃は耐えられる、そう判断したか、ヴィズとチェニャはそれぞれ攻撃手であるアイラノレとヒスイの盾となり、刃禍を二人に寄せ付けない。
「ぁは……活きがいい……喰べがいがあ、る……クフフ」
 自身のダメージなど意に介さず、リップは自ら刃嵐に突っ込むと、縦横無尽に制覇して、再び邪竜をけしかける。
 切っても、弾いても無意味だ。不定の泥はすぐに邪竜の形を取り戻し、執拗なまでに獲物を追いかけ喰らいつき、ついには噛み千切り、そして呑み込んだ。
「ん……ごちそうさま」
 邪竜より逃れた夢喰いは、戦場を校舎内に移そうと目論み疾駆する。ゲリラ戦を仕掛けるつもりか。
「よせ」
 ルルドの影狼は大きく膨れ上がると口を開き、鋸刃ごと夢喰いを飲み込んだ。
 学校で学ぶ事は多くある。友情や、或いは今回の空気を読むことへの疑問に直面したのもそうだろう。酸いも甘いも含めて、ここは彼女の学び舎だ。
「知らずの内に、他人が踏み躙っていいもんじゃねぇ」
 影狼が放り出した夢喰いを、終点で待ち構えるのはヒスイだ。ヒスイは鋼拳でドリームイーターを彼方に弾き飛ばし、小型弾薬庫から御業を籠めた弾丸を取り出す。
「不動金縛弾。今回は出番が無かったが……」
 弾丸を無造作に宙へ放り投げ、そしてミタマシロで狙いをつける。
 射出された弾丸は宙を舞うそれにかち当たり、加速して、再び夢喰いを奇襲した。
「行こ、リラ!」
「ルナルナ……ちょっと待ちくたびれちゃったし!」
 ルナとレイラが全く同時に夢喰いへ掌を翳せば、竜の幻影が交差して、双幻竜の炎は一息に全てを焼却した。
 灰が舞い、火花が散りゆく赤の戦場を、凍てる無音が支配する。
「何の煌きも持ちえないキミには、この無音(しじま)がお似合いだ」
 痛みを覚えるほどの静寂の中で、オルンはそう、呟いた。
「寄越してください、その存在を」
 すべての粒子を停めてしまうように。すべてを無かった事にするように。この凍えは、静かに夢喰いを追い詰め、その全てを奪う。
 ごう、と、アイラノレの携えるレシプロエンジンがスチームを噴き出し、無音の終わりを真白く染め上げる。再び音を取り戻した世界が奏でるのは、歪な金切り声と澄んだ音の色。
 アイラノレのチェーンソー剣・Filomenaは蒸気をかき分け、夢喰いの鎖鋸とぶつかり、赤熱し、鎬を削り、鍔ぜり合う。
 だが、それも僅か数秒足らずの事。
「――フィオ」
 やがて金切声が軋み、止まる。
 ボクスドラゴン達から光と闇の属性を預かったアイラノレは、鎖鋸ごとドリームイーターを両断した。

●戻る心
 校内のヒールを終わらせて、アイラノレがアキを軽く診たが、特段異常は見られない。
 ココロの方も、特に変化は無い筈だ。
 アキがケルベロス達に礼を言うと、レイラとルナいいのいいの、と、軽い調子で返した。
「トモダチに指摘すんのはつらいかもだけどさ、がんばって。うまくできるって信じてっからさ」
「まちがってるってシテキすんのはムズカシーかもしんないけど、オーエンしてんね。あ、そーいや自分で作るってのも安く好みのモノ手に入るし? 方法のヒトツだと思うんだよねー」
 それはナイスアイディアかも、と、アキは頷く。二人がアキに送るのは、説得ではなく、純粋なエールだ。
「お前の迷いは正しい事だったぜ。だから、後は踏み出す勇気だ。頑張れよ」
 続いてルルドがアキの背を押した。彼女なら、何の問題も無いだろう。
 リップは怪しく怪しく目を細め、ひっそりアキに耳打ちすると、彼女は大丈夫です! と強く言い残し、友人達を諭す為に駆けだした。
「……お腹が鳴るか、ら……かぁえ、ろ」
 その様子を見届けたリップはあくまでもマイペースな調子で、鼻歌交じりにその場を去る。
「なぁドロッセル。リップはあの子に何て囁いたんだ?」
「さぁ。状況証拠が少なすぎて、何とも……?」
 唐突に残された謎に、ヒスイとドロッセルは肩をすくめた。
 かくして、フレンドリィが引き起こした事件は、一旦の終わりを見せる。
 が。

「ね。オルンって、前は人型してた?」
「……レイラさん。気付かれましたか……」
「なんだ。やっぱりリラと知り合いだったんだ。何でよそよそしいフンイキ出してたの?」
「ええと。それはですね……」
「あの時は、アリガトね」
「いえ。その……はい」
 オルンのこころのゆくえは、さて。

作者:長谷部兼光 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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