秘せずば花なるべからず

作者:雨音瑛

●深夜の繁華街にて
 光と色がぎらつく中を、一人の男が歩いている。酒で紅潮した顔は、通り過ぎた者が思わずと距離を取るほどの体躯と強面だ。頬と額に走った傷も、恐ろしさを増すのに一役買っている。
「……女性だけならともかく、男性も逃げていくなんて……生まれつきコワイ顔をしていただけなのに、あんまりですよぅ……額の傷は小さい頃花火を覗き込んだときについた傷で……頬の傷は使っていたエキスパンダーが壊れた時についたものなんですよぅ……それに僕はただのイラストレーターでぇ……」
 酔いに任せて零した言葉に、男性は涙をにじませる。
「仕事を貰えるだけでもマシなんですかねぇ……あ、ヨークシャーテリアのイラストは来週いっぱいでしたっけ。明日から頑張らないと……」
「……え。ねえ、そこのあなた」
 色気を滲ませた声がまさか自分にかけられたものとは思わず、男は顔を上げ、当たりを見回す。
「!? ぼ、僕ですか!?」
「そう、あなたよ。ちょっとオハナシしたいことがあるの、ついてきて」
 見れば、女性は「大事なところ」を植物で覆っただけの姿。加えて異様なまでの妖艶な笑み、怪しいオブ怪しい以外の感想が出てこようか。
 だが、これまで女性とはほとんど縁のなかった男はうなずき、ふらふらと女性のあとをついてゆく。
 やがて路地裏にさしかかったところで、女性は振り返って男性に抱きついた。
「ね。私と一緒になりましょう?」
 甘い香り。柔らかな感触。自分を見つめる瞳。男性は目を閉じ、
「……はい」
 答えると、男性の知らない感触が唇を覆う。
 唇を重ねられたのだと男性が気付く頃には、男性の体の中に攻性植物の根が、茎が入り込んでいた。

●ヘリポートにて
 大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物たちが動き出したのは、どうやら爆殖核爆砕戦の結果によるところがあるようだ。
 大阪市内を重点的に攻撃しているのは、大阪市内で事件を多発させて一般人を避難させ、大阪市内を中心として拠点を拡大させようという計画なのだろう。
 これは、大規模な侵攻とはいえない。
「だが、このまま放置すれば、ゲート破壊成功率が『じわじわと下がって』いってしまう」
 そう告げるのは、ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)。
「破壊率低下を防ぐためには、敵の侵攻を『完全に』防ぎ、さらには隙を見つけて反攻に転じる必要がある」
 では、今回の侵攻はというと。
「いやに露出の高い、女性型の攻性植物だ。彼女は大阪市内の繁華街に深夜現れ、酔った男性を誘惑して攻性植物化させようとしている」
 被害者は、軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)が危惧していた『強面でモテない男』。これまで女性に縁が無かったためか、あからさまに怪しいこの攻性植物にすら魅了されてしまうようだ。
「被害者となる男性を避難させるのは容易いが、そうすると攻性植物は別の場所に現れてしまうため、被害を防げなくなってしまう」
 ならば、どうするか。ウィズは続ける。
「直前に少しだけ接触して攻性植物の誘惑を断るよう仕向けられれば、男性は攻性植物から離れてゆく。そうすれば、男性の安全は確保できるだろう」
 被害者男性が誘惑に乗ってしまうのは、女性と縁遠いことが理由に挙げられる。その部分を短時間でフォローできれば、攻性植物と有利に戦えるそうだ。
「というのも、男性の対処に失敗した場合、男性は攻性植物に寄生され、配下として戦闘に加わってしまうんだ」
 対処に成功した場合、戦闘となるのは女性型攻性植物『白の純潔の巫女』1体のみ。
「敵が使用するグラビティは3種類。毒を与える花粉をまき散らす攻撃、防備を下げる無数の花弁を相手に纏わり付かせる攻撃、投げキッスをする動作で炎を放つ攻撃だ」
 戦場となるのは、そこそこ人通りの多い繁華街。状況によっては人払いをする必要があるだろう。
「なるほどな。ここで善行を積んでおけば、来世は美少女間違いなしだ。もちろん、来世は美少女を目指さないっていうケルベロスの助けも歓迎するぜ」
 拳を打ち鳴らし、双吉は豪快に笑った。


参加者
大神・凛(ちねり剣客・e01645)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
天野・司(心骸・e11511)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の弾丸・e39784)

■リプレイ

●仕事
 大阪市の繁華街を歩く一人の男の前で、イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)は立ち止まった。
「わ、貴方動物が好きそうなお顔をされてますね!」
「そ、そう見えます? でもお嬢さん、僕なんかと一緒にいたら、警察を呼ばれますよ……? 僕、こんな見た目ですし……」
 少女のようにすら見える女性に話しかけられ、金剛・毅はあちこちに視線を向けている。
「キミが怖くないかって? 生まれつきの顔が怖かろうが顔に傷があろうが性格が怖いと決め付けるのは相手に失礼じゃないか? 実際、話してみるとやわらかい話し方じゃないか」
 微笑むのは、大神・凛(ちねり剣客・e01645)。
「うんうん、そうですよ。それに、話し方も丁寧ですし」
 同意しつつ、イリスは恋人のことを思い出す。結構な強面ではあるがその実内面はとても優しい恋人は、どこか毅と重なる。
 そこへ、ウイングキャット『夜朱』が通りかかった。夜朱は常盤緑色の目で毅を見上げると、足元にすり寄るようにして毅へとまとわりつく。
 とたん、毅の表情が和らいだ。
「猫は好きかい、お兄さん」
 夜朱の主である瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)が、言葉をかける。
「動物の直感は鋭いものだ。動物が懐く人に悪人はいないだろうさ、自信を持つといい」
 灰はしゃがみ込み、サバトラの毛並みを撫でる。
 見た目と内面と同じ人もいるが、そうではない者もいる。灰は、それをよく理解していた。毅が攻性植物の誘惑をはね除けられるよう応援するつもりだ。
 毅はケルベロスたちを見渡して、ぽつりとこぼす。
「……実は、動物のイラストを描いて生計を立てているんです」
「イラストレーター! じゃあじっくり被写体に向き合える人か。雑な俺にゃあ無理な話だ!」
「いいな。今度みせてくれよ」
 天野・司(心骸・e11511)が快活に笑い、凛がまた笑みを向ける。凛としても、実際かわいいものは好きだ。
「あ、確か掲載されたものをスマホに……」
 毅はスマホを操作してひとつの画像を見せる。
「素敵ですね。あの、外見ではなく、素敵な絵を描く毅さんが素敵なんですよ?」
「作品は、人柄を映す鏡だと聞いた事がある。優しく癒やしを与えられる作品を作れる貴方は、素敵な人だね」
 と、アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の弾丸・e39784)も好青年の笑みを向ける。
 表情こそ仮面のように作ったものではあるが、その言葉には『自分で何かを生み出せる』毅への確かな尊敬の念が込められている。アルシエル自身が何かを作り上げることはできないからかもしれない。
 また、外見で苦労する辛さというものは、正直なところアルシエルには理解できない。だが、何をしないわけにはいかない。
 時間は少ないが、毅が攻性植物の誘惑を断ち切れるようにしなければ。

●外見
 そういえば、と、司が毅の顔を覗き込む。
「随分な傷じゃないか。そいつはどうした?」
 数秒の沈黙ののち、毅は意を決したように話し始めた。
 額の傷は、小さい頃花火を覗き込んだ時についたもの。頬の傷は、使っていたエキスパンダーが壊れたときについたもの。
「……怖がらずに聞いてくれたのは、君が初めてです。ありがとうございます」
「生まれ持った面には罪が無いだけに不憫な。ただ怪我で失明とか無かったのは幸いだ」
「この傷がない顔だったらもっと人生違っていたのかな、と思うことはありますけどね」
 毅の言葉に、アルシエルは小さく首を傾げた。
「見目が良いだけのモノはそれを失ったらどうなるんだろうね……人だけじゃなく、物も含めて……見た目だけじゃなく中身を見て欲しいものだ」
「アルシエルの言うとおりだ。外面だけじゃない、中身を見てくれる人だっている。優しい兄ちゃんなんだから尚良縁が転がってるはずさ。なあ、双吉!」
 司に肩を叩かれ、毅は照れ笑いする。その表情は、遭遇した当初よりもずっと穏やかになってきている。
「おう、よくぞ声をかけてくれた、司。俺も周囲に恐れられて孤独に生きてきた怖い顔仲間だぜ」
 にっかり笑いながら、軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)は毅の前に進み出る。
「俺も昔は孤独だったがいろんな奴と関わっていく中でダチもできた。話をしてあんたは悪い奴じゃあねぇと伝わったぜ。あんたにも俺たちだけじゃなくて、話を聞いて、中身を見てくれる奴と出会えるさ」
 周囲に恐れられて孤独だったという共通点を持つ者として。そして、その孤独を超えて少しは友人ができた先達として。
 双吉は、毅を攻性植物の犠牲にはさせたくないと励ましの言葉を贈る。
「逆に中身に触れず、言い寄ってくる奴がいたら怪しいと思えよ!」
「そ、そうですね! その通りですよね。ありがとうございます、本当に……」
 声をかけてもらったこと。話を聞いてもらったこと。励ましてもらったこと。それらへの感謝を述べる毅に、双吉にとって眼鏡仲間のテレサ・コール(黒白の双輪・e04242)は黒縁の眼鏡を差し出した。
「これは……?」
「黒縁の眼鏡は、かけるとちょっと印象が和らぎます。どうぞ」
 アンニュイ無表情で差し出されたそれを、毅はおそるおそる手に取る。そして、かける。
「ど、どうでしょう……?」
 テレサが毅の頭からつま先までを目線だけで何往復かし、こくりとうなずいた。
 そこへ乱入したのは占い師の女性――の、格好をしたアデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)だ。
「そなた、女難の相が出ておるぞ! 外面だけで判断して寄ってくる奴なぞ打算か下心に決まっておる。絶対に相手をしてはならぬぞ! さあ、わかったならさっさとここから去るのじゃ」
「え、ええっ!?」
 驚く毅に、アデレードは指を一本立てて突き出した。
「一つアドバイスをやろう。人というのは第一印象をその外面で判断しやすい。モテる……というのはやはり外面のいい人間ということになる」
 じゃが、と、アデレードは一呼吸おいて続ける。
「パートナーとなる人物に対しては人はその内面を知ろうとする。つまり、その場合、外面なぞ、所詮はテクスチャにすぎぬということじゃ。お主はお主の特徴を、お主の好きなことを貫くのじゃ」
「それに、最近この辺もおかしな客引きが多いらしいぞ? 一人だと狙われるみたいなんで兄さんも気をつけておきな」
「特に、路地裏などに連れ込もうとする女の人には注意してくださいね」
 灰とイリスに続き、司も小声で毅に耳打ちする。
「一番危険なのは、綺麗な姉ちゃん……みたいな攻性植物があんたを狙ってる。付いてっても寄生されるだけで、良いこと無しだ」
「わ、わかりました……十分に気をつけます。皆さん、本当にありがとうございました」
 深く頭を下げた後、毅はケルベロスたちと別れた。

●忍び寄るもの
 毅に近付く女がいる。
 女は『白の純潔の巫女』。予知の通りひどく露出が高いその姿は、酒が入っていてもちょっと、いやかなり怪しく思えるが、女性に縁遠い者はそれすらも受け入れてしまうのだろうか。
 白の純潔の巫女は、毅に何かしらの言葉を向けている。それもまた、予知どおりの言葉であろう。
 少し離れたところで様子をうかがうケルベロスが聞いたのは、毅による次の言葉だけだ。
「……お断りします!」
 毅が駆け出したのを確認して、灰はすぐさま殺界を形成した。
「よくやった。あとは俺たちにまかせてくれ」
「だな。双吉、そっちは任せた!」
「おう、いっちょ囲い込んで、しっかり撃破するとしようぜ!」
 司と双吉も、手分けしてキープアウトテープを使用する。
 そうして、ひとつの戦場が出来上がる。
「あら、あら……ケルベロスかしら?」
 白の純潔の巫女は妖艶な笑みを向け、首を傾げる。
「あなたたちが彼に入れ知恵したのね。それじゃあ、代わりに――」
 手を頭上に掲げ、白の純潔の巫女が続けたかと思いきや、
「私と遊んでもらおうかしら!」
 手を振り下ろし、防備を下げる無数の花弁を凛へと解き放った。
 アデレードはすぐさま雷の壁を構築し、先の状態異常を打ち消しつつ耐性を与える。
「何の、この程度! 悪あるところに正義あり! そなたの企みは看破しておる。覚悟するがよい!」
「いつものこととはいえ、好青年の仮面は肩が凝るな。……さて、覚悟は出来ているな?」
 素の態度を敵に向けつつ前衛へと紙兵を散布するのは、アルシエル。敵に注ぐ視線は、毅に向けていた時のものとはまるで異なる冷たさだ。
「銀天剣、イリス・フルーリア――参ります!」
 イリスも名乗りを上げ、全天より冽刀「風冴一閃」に光を集め始めた。
「光よ、かの敵を束縛する鎖と為れ! 銀天剣・玖の斬!!」
 銀色の髪をなびかせ、白の純潔の巫女へと一気に距離を詰める。刃が白の純潔の巫女の肌を滑り、血を吹き上げさせると同時に光が鎖のようになって絡みついた。
 毅のフォローは十分だったといえるだろう。ならば、あとは――。
「攻性植物を倒して憂いを断ち切りたいというものです」
「だな! それに、今日のことが兄ちゃんの支えになってくれるといいよな」
 言いつつ、司は指先に無色の炎を灯した。
「何だって、最初はちょっと怖いだろ?」
 言うが早いか側面に回りこみ、女をつつく。
「……っ!?」
 白の純潔の巫女は、その顔に恐怖を浮かべる。原始的な恐怖が記憶の底から呼び覚まされたのだ。
「よし、これで攻撃に対する判断が鈍るはず」
「なら、俺も阻害を重ねるとしよう」
 つぶやき、灰はドラゴニックハンマーを構える。撃ち出す弾丸は、宣言どおり相手の動きを戒めるものだ。
 それにしても、と灰はどこか楽観的な視線での白の純潔の巫女を眺める。
「酔った相手を狙うとは悪質な攻性植物だ」
 夜朱の短い鳴き声ひとつ、清らかな風が後衛へと吹き込んだ。
「行きます」
 変わらぬアンニュイ無表情で、テレサも斬り込もうと店舗の壁を蹴り、宙を取る。重力と流星をその足に纏わせ、白の純潔の巫女を蹴り倒すように一撃を加えると、テレサはライドキャリバー「テレーゼ」の掃射を避けた。
 撃ち込まれた弾丸で、滑らかであった肌に幾筋もの赤が流れる。
「どうした、この程度か?」
 斬霊刀「黒楼丸」で、仲間の与えた傷口を斬り広げるのは凛。仄かなピンク色に輝く刃が、ネオンの光で鮮やかに輝く。
「……まだ、戦いは始まったばかりよ? 楽しみましょう」
「ああ、楽しもうじゃねぇか。ガワが美女でも、躊躇いなく殴りぬくぜ」
 拳を打ち鳴らし、双吉は白の純潔の巫女の背後へと回り込んだ。
「ハエトリグサみてーなテメーの内面が俺には見えてるからなァ〜〜〜〜ッ!」
 跳躍した双吉が見舞ったその技は――いわば、流星のヤクザキックであった。

●散るもの
 白の純潔の巫女が得意とするのは、状態異常の付与。
 だが、ケルベロスたちはそれを上回る速度で白の純潔の巫女へと状態異常を与え、増やしてゆく。
 当初の余裕はどこへやら、白の純潔の巫女は歯噛みし、避けきれぬ攻撃を次から次へと受けるだけとなっている。
 もちろん、彼女の繰り出す攻撃が脅威であることには変わりない。だが、アデレードのヒールはもちろん、状態異常を消し去るグラビティを持ち込んだ者も多い。
「さて、」
 夜朱の送る風が、心地よい。攻撃優先で立ち回る灰は、隙あらば状態異常を加速度的に増やそうとしていた。そして今、まさに好機。
「そこか」
 白の純潔の巫女が言葉に反応して振り向くよりも早く、目に見えぬ斬撃が彼女を襲う。
「うそ、よ、私が、こんな!」
「このまま押し切らせてもうらぜェ!」
 双吉は双翼にブラックスライムを纏い、白の純潔の巫女の真正面を取った。
「ひ!?」
「力押しってーのは柄じゃないが、しかし! 完全に捉えたこの状況! 思いっきりいくしかねーよな〜〜〜〜ッ!!」
 双翼のブラックスライムが、挟み込むようにして白の純潔の巫女を喰らう。双吉は息を吐き、押しつぶすような拳のラッシュを見舞った。
 わずか数秒ではあるが、その威力はかなりのもの。
 解放された白の純潔の巫女の姿は、満身創痍そのものだ。
「まだ、よ……!」
 白の純潔の巫女は手を掲げ、くるりと回す。宙に浮かぶは大量の花粉、合図ひとつでケルベロスの戦列目がけて飛散する。
 それを庇うのは、ジャイロフラフープ・オルトロスを体の前に構えたテレサ、テレーゼ、司だ。
「ご無事ですね」
 攻撃を受け止め、テレサは白いジャイロフラフープ・オルトロスを下げる。黒いほうことテレーゼも、ケルベロスの無事を確認してエンジンを唸らせる。
「あの様子だとあと少しだ、最後まで頑張ろうぜ!」
 司も後衛に声をかけ、再び前を。
「人々のためにも、毅さんのためにも……あなたはここで、倒します! 灼き尽くせ、龍の焔!」
 イリスの詠唱に応えるように現れたのは、竜を象る炎。白の純潔の巫女を焼き付くさんと、食らい付く。
 司も攻撃に出ようと踏み出すが、自身の傷が少しばかり心許ない。が。
「アデレード、回復は頼んだ!」
「うむ、わらわに任せよ。お主たちはこのまま押し切るのじゃ!」
 薬液の雨で、司の傷が消えてゆく。そのままドラゴニックハンマー「殲刻」にて、司は白の純潔の巫女へと凍結の一撃を叩き込んだ。
 アルシエルも攻撃を重ねようと、呪を込めた弾丸をリボルバー銃に押し込んだ。
「北方より来たれ、玄武」
 引き金を絞れば、銃口を抜けていくひとつの弾丸。現れるは四神玄武、その躯に巻き付く蛇の毒が、白の純潔の巫女に注ぎ込まれる。
「あ……っ……」
 さらには、テレーゼの突撃。テレーゼに灯った赤々と燃える炎が、白の純潔の巫女へと移り、燃え上がらせる。
 直後、テレサがジャイロフラフープ・オルトロスの弾丸を撃ち出した。
「当たれっ!!」
 打ち出す反動は、あまりに大きい。たたらを踏みつつ、テレサは弾丸が白の純潔の巫女を貫通したのを見届ける。
「これで最後だ! この太刀筋みきれるか!?」
 喰霊刀「白妖楼」を抜き、凛は白の純潔の巫女の真正面に立った。自作したこの刀もまた、刃がほのかにピンク色の輝きを放っている。
 白の純潔の巫女の目が、見開かれる。
 だが、その時には全てが終わっていた。
 白の純潔の巫女はくずおれ、全身に葉を茂らせたかと思うと、すぐに枯れて消えていった。
 アルシエルが破損箇所にヒールを施すのを横目に、テレサは無表情で立ち尽くす。
(「また一人、眼鏡で人を真理に導きました」)
 眼鏡こそが真理の「眼鏡真教」の教えを今日も広められたことに達成感を覚えつつ、無表情のままのテレサである。
「これで証明されましたね。眼鏡という絶対不変の補正デバイスが、視力だけではなく他人に対する印象をも補正するということを」
 その言葉を聞いたテレーゼは、さもうんざりしていると言わんばかりにエンジンを吹かした。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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