悪しき胞子が芽吹く時

作者:澤見夜行

●流落の胞子
 大阪市街地の空に舞う胞子。
 先の戦い――サキュレント・エンブリオとの一戦により撒かれた胞子が、風に乗り広がっていた。
 その内の幾つかの胞子が、徐々に高度を落としていく。
 まるで、落下地点を決めたかのように、ゆっくりと、フラフラと。
 そうして、胞子達はある植物の元へと辿り着いた。細く伸びる幹、緑の葉を茂らせ白い花を咲かせる植物。
 それは、ユズだ。
 辿り着いた胞子は意志を持つように蠢き、ユズに取り取り憑く。すると、ユズの木は苦しげに葉擦れの音を響かせたかと思えば、突如その姿を怪物と化してしまう。
 攻性植物。ユズの攻性植物だ。
 根を器用に足のように変えて、動き出すユズの攻性植物。
 その数、五体。
 意志を持った人に悪意をもたらす怪物達が、市街地へ向け動き出した。
 その狙いは――もちろん人間だ。


 爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出した。
 攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行い、その拠点を拡大させようと目論んでいた。
 先の巨大攻性植物サキュレント・エンブリオとの戦いによって、一先ずの防衛は成功したが、死に際に撒かれた胞子達が、その活動を開始したようだ。
 集まった番犬達にクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が説明を開始する。
「今回現れたのはユズの攻性植物で、先の戦いで撒かれた謎の胞子によって複数の攻性植物が一度に誕生し、市街地で暴れだそうとしているのです」
 クーリャの言葉に、ユズカ・リトラース(黒翠燕脚の寒がり少女・en0265)が口を曲げて憤る。どうやら自分と同じ名前の植物を愛しているようだ。
「ユズを利用するなんて失礼しちゃうね! それで、攻性植物は一般人を襲ったりするのかな?」
「はいなのです。この攻性植物たちは一般人を見つければ殺そうとするため、とても危険な状態なのです。
 敵の数は多いのですが、別行動すること無く固まって動き、戦い始めれば逃走などは行わないので、対処は難しくないのです」
 その言葉にユズカは思案して、
「けど、数の多さはやっかいだね。それに同じ植物から生まれたのなら連携とかもしっかりしていそうだし……油断しないようにしなくちゃね」
 一つ頷いたクーリャは資料を読み進める。
「敵は攻性植物五体なのです。配下などはいないのですが、リーダーもいないようなのです。どれも同じくらいの強さなのですよ」
 攻性植物は、相手を捕食する攻撃に、破壊光線を放つ攻撃、身体の一部に果実を宿す収穫形態に変形し自身の傷を癒やすようだ。
「ユズの果実が敵に利用されるなんて、なんかイヤだね。収穫したら食べれる……なんてことはないよね」
「きっと美味しくないのですよ」
 肩を竦めるユズカに笑いながら、クーリャは資料を置くと番犬達に向き直る。
「戦闘地域になる市街地は事前に避難させる事ができるので、戦闘に集中できるはずなのです」
「攻性植物がいくら連携したって、ケルベロスの絆の前には敵ではないってことを証明してあげようよ!」
 満面の笑みで頷いたクーリャは、ぺこりと頭を下げて、
「攻性植物の良いようにさせてはならないのです。どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 そう言って、番犬達を送り出すのだった。


参加者
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)
雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎・e15316)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
病院坂・伽藍(濡れ鼠・e43345)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
滝摩・弓月(七つ彩る銘の鐘・e45006)

■リプレイ

●暴走ユズを追いかけて
 商業地区に降り立った番犬達。
 視界に映るは、ユズの攻性植物が行ったと見られる破壊活動の後だ。
 真新しいその痕跡に、目標が近いことを感じる。
「派手にやったものだな」
「そう遠くへは行ってないだろう。追いかけるぞ」
 雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎・e15316)の呟きに、レッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)が一つ頷き声を上げる。
 走り出す番犬達の後ろでは、
「ユズカさん、今日はよろしくなのだ。こちら今日サポートで入った相棒の樒なのだ。今日は月ちゃんとユズカさんのボディーガードさんなのだ」
 と、月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)がユズカに声を掛ける。
「敵の攻撃力は高いようだしな、灯の言う通りボディガードとしてサポートさせて貰う。リトラースもよろしく頼む」
「わぁ、こちらこそよろしく! 足を引っ張らないように頑張るよ!」
 サポートとして参加した四辻・樒の言葉に、戦闘経験の少ないユズカは気合いを入れるように両手をグッと握り込んだ。
「灯、リトラース。無理はしないようにな」
 樒の気遣いに灯音が頷いて、答える。灯音はそのまま視線を前方へと向ければ、
「奏兄ぃー、弓月ちゃんっふぁいおー! 背中は預かるのだー」
 良く通る声を投げかけながら、ユズカと一緒にぶんぶんと手を振った。
「ええ、背中はお任せしましたよ」
「ふふ、お二人に任せられれば安心ですね」
 そんな灯音を背中越しに見て、鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)と滝摩・弓月(七つ彩る銘の鐘・e45006)は笑みを零した。
 速度を遅めた達也がユズカの傍を併走する。
「今回は無理を言ってすまなかった。合わせてくれてありがとうな」
 それはユズカのポジションへの謝罪と感謝。ユズカは首を横に振ると、達也から頂いた武装を手に、言葉を返す。
「武装まで用意してくれてありがとう! おかげで自分の仕事がちゃんとこなせそうだよ。がんばるね!」
 その返答に安心し、達也は速度を上げ自分のポジションへと戻っていった。
 視界に広がる街並みは、攻性植物による被害を目の当たりにする。
「ユズの攻性植物か。
 ユズはこの国にとって欠かせない植物と聞く」
 レッドレークの言葉に、奏過が頷いて、
「柚子は香りが良く、香り付けやジャム、柚子湯等……。
 人々が楽しめるもののはず……それをこのように利用するとは許せませんね」
 ユズの利用価値を指折り数える。病院坂・伽藍(濡れ鼠・e43345)と死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)も会話に加わり、
「ユズの香りは好きなんすけどねえ、攻性植物となっちゃそうも言ってられないっすね」
「ユズですか……食べた事はありませんが……。
 良い匂いですよね……。
 あっ、でもキャンディーとかアイスでなら食べた事あるかも……」
 と、ユズの香りと風味に思いを馳せる。
 同意するようにレッドレークが頷く。
「俺様も好きなので倒さなければならないのは惜しいが、コレ以上の被害は何としても食い止めるぞ!」
「噂をすれば、なんとやらですか――見つけましたよ!」
 弓月の声の先、緑葉を揺らすユズの攻性植物が、破壊活動を行っていた。
「立派なユズの木をよくもまぁ見事な化け物に変えたもんだ」
 夏頃になれば美味しい実をつけただろうに、もったいないことをするね、とヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)が一人ごちる。
「さあ、一気に片付けようか」
 番犬達が武器を構えると同時、攻性植物達、が番犬達に気づき、向きを変える。
 大阪市街地で、柚子の香り振りまく攻性植物が襲いくる――。

●芽吹いた悪を摘み取る
 二メートルほどのユズの攻性植物が、連携しながら番犬達を攻撃する。
 伸びる捕食の枝が腕に食らい付き、光花より放たれる飛び交う熱線が肌を焼く。
 五体揃って動く攻性植物に手を焼きながらも、番犬達が反撃の牙を突き立てて行った。
「まずは、その足止めないとね――昔からあんま得意じゃないんだけど、今日は結構うまくいったほうじゃないかい?」
 ヴィルフレッドが放つ螺旋手裏剣が、攻性植物達の頭上で分裂し、降り注ぐ。足の役割を果たす触手根を斬りつけるように降り注ぐ手裏剣に、攻性植物達が浮き足立つ。
「ほら、そこ。危ないよ」
 逃げ出そうとする攻性植物の足元が爆発する。ヴィルフレッドによって撒かれた見えない機雷が起爆したのだ。敵群を飲み込むように連鎖爆発をする機雷群が更なる足止めとして機能する。
「強力な攻撃手段をお持ちのようですが――対策させてもらいますよ!」
 防御に特化した番犬鎖『倒地鉄条』を用いて地面に守護の魔方陣を描き出す奏過。前衛を守護する力が備わったと見れば、自らも武器を構え打って出る。
「厄介な枝攻撃ですが――!」
 捕食しようと伸びる枝に対し、双節自在棍『曙』をヌンチャク型へと変形させ、その悉くを叩き落としていく。
 焼き払わんと、光花が花開く。グラビティの奔流を感じ取る奏過は、自らもまたグラビティによって鎖を生み出し、攻性植物に放つ。
「やりたい放題もここまでにしてもらいます!」
 雷にも似たグラビティを纏う鎖が、攻性植物を縛りあげ、その武器を封じた。
 奏過によって生み出された空白の瞬間にレッドレークが駆ける。
 その手には全体がドス赤く染まっている無骨な農業用レーキ『赤熊手』。その刃に『虚』の力を纏えば、手近の攻性植物を激しく斬りつける。傷口から生命力を簒奪すると同時、手にしたカラーボールを投げつけた。
「ターゲットだ。こいつを狙っていくぞ!」
 カラーボールが破裂し、攻性植物の一体にカラフルな色が付く。攻撃を数中しやすいようにとの目印代わりだが、これが非常に効果的だった。
 同じような見た目ということもあるが、常に位置を入れ替えながら襲い来る攻性植物達。それに対し、今狙っているターゲットが目視できるのは、番犬達全員の意思疎通が図れ、攻撃を確実に集中できるようになる。
 装着した赤ゴーグルの下で攻性植物を睨めつけながら、レッドレークは距離を取ろうとする。しかし、それを見越したように別の攻性植物が枝葉を伸ばす。
「なんだと……!?」
 思わず動揺を零しながら、浅く捕食された腕をかばうレッドレーク。
 すぐさま、灯音が治癒のグラビティを放った。
「少しでも攻撃がやわらぐといいのだが」
 灯音のグラビティが治癒効果のある白い霧を降ろす。レッドレークを含め前衛を覆うように降りたその霧は、傷を治癒すると同時に守護の力をもたらした。
 放たれる熱線が後衛を焼き払わんと連続で放たれる。燃え盛る炎が肌を焼くが、それに合わせて灯音が動く。薬液の雨を降らせて味方を治癒すると同時に、障害を取り除いていく。
「ユズカさん、そっちの回復は任せたのだ」
 戦闘経験の浅いユズカをサポートしながら、連携し、過剰ヒールにならないように立ち回る灯音。番犬達を支えているのは、間違いなく彼女だろう。
 そんな灯音に不意の一撃が迫る。気づいた時にはもう遅い。ダメージを覚悟した灯音だが、樒が割って入りガードする。
「大丈夫だったか?」
「っと。助かったのだ、樒」
 無愛想ながら心配する樒に、微笑みながら感謝する灯音。仲睦まじい鴛夫婦の姿がそこにはあった。
「右に二体だ。正面は俺が抑える――!」
 状況報告をしながら達也が、正面の攻性植物へ向け駆ける。
 番犬鎖による守護の魔方陣を展開すると同時に、オウガ粒子を放って集中力を高めれば、正面の攻性植物の攻撃をその身で受けながら、注意を引く。
「月の光よ。静かに彼の身を清めよ……」
 宵闇に仄かに光る月のような煌めきのグラビティが、刃蓙理を包む。暗き路を照らす勝利への道標が、邪悪な障害を取り除いていった。
 体勢が整ったとみれば、達也も攻撃に転じる。
 一度距離を取り、ターゲットを確認すると、一足飛びに戦場を駆ける。
「くらえ――!」
 体内の豊富なグラビティ・チェインを破壊力に変換すれば、黒煙の鉄塊剣に乗せ叩きつける。
 反撃の一打をガードしながら距離をとれば、精神を極限まで集中し爆破する。
 地に足のついた堅実な立ち回りは仲間達に安心感をもたらす。余裕が生まれ、手強い攻性植物の攻撃にしっかりと対応できるようになっていく。
「さあ、まずは確実に倒すっすよ」
 敵を注意深く観察し、その隙を突くように攻撃を繰り返すのは伽藍だ。狙い澄ました一撃は確かな手応えを伽藍に返す。
 敵の情報だけではない。味方との連携、位置関係を踏まえ、陣形を作っていく。その細い双眸の奥で、油断なく戦場を睨めつけていた。
 オウガ粒子が重ねて番犬達の集中力を高める。研ぎ澄まされた集中から一点の突破口を伽藍が見出した。
「これがネクロオーブの真の力!」
 それは近接武器しか使ってこなかった番犬が使い道に悩んだ末に辿り着いた一つの境地。
 全力で投げ飛ばされたネクロオーブは敵への怨念によって追尾する。
 逃げようとする攻性植物に直撃したネクローオーブがその木の幹を粉砕し、突き抜ける。
「まずは一体っすね」
 したり顔の伽藍が、戻ってきたネクロオーブを手にとった。
「数は減っても、まだまだ元気ですね……」
 抑え込んでいた狂気を解き放ち、仲間達に感染させることで、破邪の力を与えるのは刃蓙理だ。
 止めどなく放たれる攻性植物の攻撃をその身を盾にして受け止めて、仲間の被害を軽減していく。
 メディック、ディフェンダーのポジションにいる者と連携し、お互いに過剰な回復はさけるようにしていた。この連携は確実に意味をなし、攻撃に転じる機会を増やしていた。
「……深きへ……」
 刃蓙理は自らの体力が半減したとわかれば、即座にグラビティを迸らせる。
 それは当然の如く自らの血を代償に、地の底に留まった怨念どもを吸い上げ纏う。汚れた【泥の島の禁呪】。
 自らの破壊力を増大させた刃蓙理は、次なるターゲットを確認すると、手にしたオーブ、邪聖魂ネクロマンサーより熱を持たない『水晶の炎』を生み出し、攻性植物を切り刻み、その命を摘み取った。
「滝摩さん、そっちへ行きましたよ……」
「任せて下さい――!」
 弓月へと近づく攻性植物。地面に描き出した守護星座が破邪の耐性を与えると同時、弓月へと捕食の枝が伸びる。
「くっ……このくらいではまだ――!」
 腕から感じる鋭い痛みに奥歯を咬みながら、弓月が武器を振るう。
 天空より無数の刀剣が召喚され、降り注ぐが、これを攻性植物たちは大きく動いて躱していく。だが、その大きく動いてできた隙を狙って、弓月は空の霊力を帯びた、傷口を切り広げる一撃を直撃させる。
「これが私の楽しみです。どうぞ、御覧あれ!」
 動きを止めることなくグラビティで即興の美術用品を生み出した弓月は、心のままに絵を描き上げる。
「植物を描くことはありますが、植物に絵を見せることは少ないですね」
 楽しむままに描き上げた『だまし絵』が攻性植物達の感覚を麻痺させていった。
 仲間がやられて数を減らした攻性植物達は躍起になって攻撃を繰り返す。
 捕食と同時に放たれる光花の熱線に膝を付く者もいたが、番犬達の仲間を想うフォローによって体勢を立て直すと、攻撃に転じていた。
「練習通りに――皆を支える!」
 ユズカが生み出す光の盾が番犬達を守護し、強力な攻性植物の攻撃を無力化していく。
 油断することなく、地面に守護星座を描きだし、破邪の耐性を生み出せば、仲間達を支えた。
 回復役をやっかいと捕らえた攻性植物がユズカに迫る。
「きゃ――」
「大丈夫、心配には及びませんよ」
 ユズカへと迫る攻撃を奏過が庇い受け止める。安心させるように優しく言葉を掛ける奏過にユズカは頬を紅潮させて、元気に答えた。
「えへへ、ありがと、奏過さん!」
「もう少しです。がんばりましょう」
「そうだな、一気に詰めていこうぜ」
 サポートとして参加した相馬・泰地がユズカの肩を叩く。
 極限まで膨れあがった筋肉が鋼の鎧となって泰地の身体を包んでいた。
「いくぜ、ウォォォォ――!!」
 咆哮にも思える裂帛の気合いを泰地が発する。
 それは重力震動波に変換され、攻性植物達を襲った。身を震わせるほどのエネルギーが、攻性植物達の集中力を掻き乱す。
 ――残るは三体の攻性植物。
 手痛いダメージを受ける攻性植物達は、ユズの実を生み出し収穫することで傷を癒やしながら立ち回る。仄かにユズの香りが戦場に漂う。
 爽やかな香りの中、番犬達が最後の詰めへと向かい戦場を駆ける。
「ユズカさん、刃蓙理さんのサポートをお願いするのだ! 私は、雪村さんを――!」
 灯音がユズカと共にグラビティを生み出し仲間達を治癒する。
「いくぞ――!」
 癒やされた達也が、疾駆し、攻性植物に肉薄すると、グラビティを乗せた爆発的な一撃を叩き込む。
「やらせないっすよ」
 攻撃を受けながら反撃しようと試みる攻性植物を制する伽藍。捕食しようと伸びる蔓枝を切り払い、その幹にもダメージを与える。
 攻撃のタイミングを逃し動揺を浮かべる攻性植物に、達也と伽藍が肉薄し、同時に武器を振るった。
 葉擦れの音を響かせながら、また一体、攻性植物の命の芽を奪い取る。
 幾重にも伸びる光の帯。
 仲間を庇いながら刃蓙理が光りの帯から飛び出すと、ヌンチャク型の如意棒でその花弁を散らしていく。
「狙った獲物は逃がさない……」
 ニヤリと口を歪ませる刃蓙理が、攻性植物に接近する。逃げようとする攻性植物を掴んで引っ張り、逃がさない。
「その隙、もらいました」
「逃がしはしないよ――!」
「やってやるぜ――!」
 生み出された隙を狙って弓月とヴィルフレッド、泰地が飛びかかる。
 泰地の生み出した無数の刀剣が突き刺さりその動きを止めると、弓月の放つ傷を切り広げる一撃が様々な障害を増大させ、攻性植物を苦しめた。そこにヴィルフレッドのグーラ(ブラックスライム)が飛びかかり、攻性植物を丸呑みにした。
 盛大な音を立てて咀嚼するグーラは、食べ終えた残骸を吐き出した。あとに残るのは攻性植物だった何かだ。
「ところでグーラ、このユズの味はどうなんだい?」
『……』
 その味については、何とも言えない表情を見せるグーラだった。
 残す一体に向け、奏過とレッドレークそして樒が走る。
 放たれる攻性植物の連撃を樒が受け止めいなしていく。
「皆が建物の事を気にしなくて済むようにもしたい所だな」
 その動きは、周囲の建物にまで気を遣うものだ。
「一気に行きますよ――!」
 奏過の放つ双節自在棍の一撃が攻性植物の蔓枝を破砕し、続くグラビティの鎖が光花を縛り上げる。
 同時に、オウガメタル『鬼瓦』を身に纏い、『鋼の鬼』と化したその身で、攻性植物の幹を殴りつける。
 歪むように吹き飛ばされる攻性植物。そこに疾走するレッドレークが攻撃を合わせる。
「真朱葛、張りきってるな――いくぞ。喰らい焼き尽くせ!」
 厚く束ねた赤蔦に地獄の炎を纏わせる。いくつもの燃え盛る首を持つ遠呂智の姿を成して暴れ回り、攻性植物を飲み込んでいく。
 レッドレークの手懐ける攻性植物は同族相手だろうとあまり気にしないタイプのようだ。むしろ負けず嫌いなのか、その力を見せようと宿主たるレッドレークが制御に苦戦する力を見せる。
 地獄の炎を纏う攻性植物に飲み込まれたユズの攻性植物は、そうして、断末魔の震動を生み出すと、動きを止めその命を散らすのだった。
 炎が消え、市街地に静けさが戻ってくる。
 謎の胞子によって動き出したユズの攻性植物は、こうして倒されたのだった――。

●ユズ香る空に
「リトラースさん、お疲れ様でした」
「弓月ちゃん! そちらこそお疲れ様。大丈夫? 怪我とかしてない?」
 戦い終わって。
 ユズカと少しだけお話がしたいと思っていた弓月の願いは叶ったようだ。
「こっちはいいな。次はあっちか」
 ヒールを終えた達也が、肩を回しながら壊れた次のビル群を眺める。
 結構派手に破壊されている場所もある。今暫くヒールの作業は続けなくてはならなそうだ。
 路上に残る、ユズの攻性植物の死骸。その死骸を確かめるように調べていた奏過が腰を上げる。
「奏兄ぃ、何か捜し物なのだ?」
「新芽があれば……と思いましたがなさそうですね」
 新芽があれば植え替えもできたかもしれないが、ないのであれば仕方が無い。せめて元いた場所に還して弔ってやろうと奏過は思った。
 攻性植物の死骸から香るユズの香りが空へと昇っていく。
 この辺り一帯の空に、胞子は見えない。だが、まだこの空のどこかに胞子が舞っていることだろう。
「胞子も撤去できたら良いのですが……」
 弓月が小さく呟く。
 その呟きを耳にしたレッドレークが思案する。
 攻性植物の攻勢。根城としている大阪城地下で何が起きているのだろうか。
「これで終わりだと良いのですが……」
 刃蓙理の言葉に、言い知れぬ不安と予感を感じながら、番犬達は陽光降り注ぐ空を見つめていた。

「よし、終わり。みんなでユズ茶でも飲んで帰るのだ」
 不安を払拭するように灯音が声をあげる。
「わ、賛成! 行きたいでーす!」
 それにユズカが乗っかって、ヒールを終えた番犬達が揃って手をあげた。
 不安や心配はある。
 けれど、きっと自分達の力でそれを払拭出来るはずだ。
 今は一先ずの戦いを終えたことを労い、休息を取ることにしよう。
 微笑み合う番犬達は、おいしいユズ茶を求めて歩き出した――。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。