メロン農家直営の喫茶店を営む高見・夕子は早朝、その日に使うメロンを収穫するために温室へ足を運んでいた。
メロンはこれからが旬。一番美味しい季節に一番美味しいメロンスイーツを食べて欲しくて、夕子は大きく実った完熟プリンスメロンを手に取った。
「んー、いい香り。お前はどんな風に食べたらおいしいかな? パフェかな? タルトかな?」
メロンを手に妄想を膨らませた夕子は、とっておきのメロンを抱えて温室を出た。
厨房へ向かう夕子に、突如蔓が巻き付いた。
攻性植物と化したメロンに取りつかれた夕子は、落として壊れたメロンに必死に手を伸ばした。
「私のかわいいメロンが! 形が崩れても、ジュースやゼリーな……ら……」
最後までメロンの心配をする夕子は、やがて完全に取り込まれてしまうのだった。
●
「たいへん! メロンマニアさんがメロンになっちゃう!」
慌てた様子で集まったケルベロス達に訴えたねむは、テーブルに置いた地図を指差した。
攻性植物に取り込まれたのは、高見・夕子というメロンマニア。
メロン好きが高じすぎてメロン農家となり、とれたてのメロンでメロンスイーツを提供するカフェのオーナーもするようになったという筋金入りのメロン狂だ。
彼女がメロンの攻性植物に取りつかれてしまったのは本望と言えなくもないが、もちろん放置するわけにもいかない。
「大急ぎで夕子さんを助け出して欲しいの!」
夕子に取りついた攻性植物は一体。
取り込まれた人は攻性植物と一体化してしまっており、普通に倒すと一緒に死んでしまう。
だが、相手にヒールをかけながら戦うことで、戦闘終了後に夕子を救出できる可能性がある。
早朝のため、周囲に人影はない。
戦場は、温室と厨房の間にある少し広い場所のため、戦闘に支障はない。
「夕子さんを救出できたら、とっておきのメロンスイーツをおなか一杯食べさせてくれるよ! 美味しいメロンを守るためにも、皆がんばってね!」
美味しいメロンに思いを馳せたねむは、両手をぎゅっと握り締めた。
参加者 | |
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シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336) |
パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506) |
春日・いぶき(遊具箱・e00678) |
アイン・オルキス(矜持と共に・e00841) |
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524) |
フリューゲル・ロスチャイルド(猛虎添翼・e14892) |
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390) |
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254) |
攻性植物に侵食され、メロンになりかけながらも幸せそうに微笑む夕子に、シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)は目を丸くした。
「メロンを愛するメロンマニアさんがメロンに取りつかれてしまって……。このままではメロンに取り込まれてしまい……。あら? もしかして、本望……?」
「手塩にかけて育てたやつに取りつかれるたぁ不憫じゃねぇか。恩を仇で返すのを見過ごすわけにゃいかねぇ!」
大きく一声吠えた鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)は、巨大な祭壇を内蔵した腕を大きく振り上げた。
豪快な弧を描きながら放たれる一撃は幹を揺らし、みしりと嫌な音を立てる。
道弘の攻撃に呼応したシエルは、青碧の龍戦槌を砲撃形態へと変化させるとメロンの攻性植物へと竜砲弾を放った。
戦闘態勢を整える攻性植物に、シエルはドラゴニックハンマーを掲げた。
「もちろんですわ。早くメロンマニアさんをお助けしなくては!」
視線を見交わし頷き合ったシエルと道弘は、同時に武器を構えた。
危機を感じ取った攻性植物は、メロンの実を巨大化させるとトエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)へ突進を仕掛けた。
鋭い牙に毒の痛みを感じて一歩引いたトエルは、囚われた夕子を改めて見た。
攻撃を受けても目を覚ます様子もなく幸せそうに眠る夕子の姿に、トエルは眉をひそめた。
ねむの話だと、夕子は攻性植物に取り込まれる刹那でさえ、メロンの心配をしていたという。
言いたいことはあるが、今の夕子に何を言っても伝わることはない。
「救出したら、一言言わないと」
鉄塊剣を構えメロンの攻性植物へ突きつけたトエルは、己の体に破剣の力を宿らせた。
体力を回復したトエルに、パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)は元気よく縛霊手を振り上げると紙兵を散布した。
霊力を帯びたジャック・オー・ランタン型の紙が踊りながら前衛を守るように展開し、耐える力を与えていく。
「これでまた耐えれる時間が伸びたのだ! さぁ、みんながんばれー♪」
パティの声援を受けたフリューゲル・ロスチャイルド(猛虎添翼・e14892)は、虹の軌跡を描きながら攻性植物へ踵を叩きこんだ。
「もうちょっとがんばってね、絶対助けるからね!」
「古代語魔法よ、敵を石化させる光線を放て!」
フリューゲルと同時に放った笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)の魔法の光線が枝を貫き、石化を与える。
続く攻撃に、うっとりとした夕子の表情が少しだけ歪んだ。
連続攻撃にダメージ蓄積を見たアイン・オルキス(矜持と共に・e00841)は、雷の針を指の間に装備すると腕を大きくしならせた。
「その身に溜まった毒、残さず殺してみせよう」
狙い違わず放たれた針は幹に刺さると、与えられた傷を殺すことで癒しを与えていく。
回復を確認した春日・いぶき(遊具箱・e00678)は、惨殺ナイフを閃かせると強引な魔術切開を施した。
「貴方がいなくなってしまったら、この子達の面倒は誰が見るんですか」
いぶきの真剣な訴えに、夕子がうっすらと目を開く。
「……誰?」
「ケルベロスです。どうぞご安心を、僕たちが、必ず、助けます」
「今美味しいメロンが……」
夢現の状態でメロンを語る夕子を抱いた攻性植物は、大きく枝を鳴らした。
●
九尾扇を振りかざしたフリューゲルは、陣形を指揮すると破魔の力を前衛へと与えた。
陣形を向かわせた先で幸せそうな夕子に、フリューゲルは訴えかけた。
「メロンが大好きで、大事に育ててるんでしょ? まだまだ育ててあげたいメロンたちほうっておいていいの?」
フリューゲルの問いかけに顔を上げた夕子は、首を傾げた。
「私の……メロンちゃん……」
枝を蔓触手形態へと変化させた攻性植物は、怒りも露わにフリューゲルへ向けて枝を鞭のように叩きつけた。
鋭いナイフのような蔓を腕に巻きつけたフリューゲルをよそに。
意識を取り戻しかけた夕子の気を引こうと蠢いた攻性植物は、再行動すると別の枝を収穫形態へと変化させた。
黄金のメロンを目の前に見た夕子は、畏れ慄いたように呟いた。
「おお……。これがあの伝説の黄金メロン……」
黄金のメロンから発せられる金の光を浴びた夕子は、戻りかけた意識をメロンの幻影へと埋没させていく。
再び意識を手放しかけた夕子を、叱咤したのはシエルだった。
「気を確かに持ってくださいませ! 夕子様のお望みは、美味しいメロンを食べていただくことであって、メロンになることではないのでしょう?」
心からの呼びかけと共に魔術書に書かれた詩を読み上げたシエルは、ちいさな妖精と共に魔術による攻撃を放った。
冷水を浴びさせられたように気を取り直した夕子は、周囲を見渡した。
「でもあの黄金のメロンは素晴らしい……」
「黄金のメロンが食いたきゃ、自分で作れ! そして俺にも食わせろ! 話はそれからだ!」
百戦百識陣に破魔の力を得た道弘は、拳を握り締めると超硬化させた。
大きく拳を振りかぶった道弘は、強引に攻性植物を殴りつけると耐性ごと破壊する。
惨殺ナイフを手にした氷花は、夕子を勇気づけるように声を掛けながらジグザグスラッシュを放った。
「メロンは、甘くて美味しいよね、私も大好きだよ。だけど攻性植物になっちゃったら、メロンを食べてくれる人を殺しちゃうかも知れないんだよ?」
魔術の乗った惨殺ナイフは、攻性植物の足止めを更に加速させていく。
「好いている果物に寄生されて食われるなど、後味の悪い話にしかならん。そのようなものは好まぬ、助けるぞ」
オルキスウェポンを抜き放ったアインは、身を低く構えると鞘に納めた日本刀を抜き放った。
抜刀と同時に放たれる斬撃が弧を描き、メロンの攻性植物の太い幹を切り裂く。
蔓で傷ついた腕を抱えたフリューゲルに、南瓜型の光が飛んだ。
「フリューゲル! まだ倒れるには早いのだ!」
南瓜型の光はフリューゲルを癒し、巻きついていた触手をほどいていく。
まだ健在な攻性植物に、トエルは指を差した。
「戒め、砌絶つ堰よ……ここに」
詠唱と共に指先に錬成した魔力は迷うことなく攻性植物へ叩き込まれ、着弾した魔力が攻性植物を戒めていく。
縛られ、窮屈そうな夕子に、トエルは語りかけた。
「貴女のメロンが不良になりかけてるので、更生させるの手伝ってください」
「メロンが不良…? それは大変……」
呟く夕子に駆け寄ると、いぶきは再びウィッチオペレーションで夕子を癒した。
意識がはっきりしてきた夕子を元気づけるようにに、いぶきは微笑みかけた。
「お辛いかも知れませんが、メロンへの愛で、頑張ってください」
「うん……メロンのため、だもんね」
弱々しく微笑んだ夕子に、攻性植物は蔓を振り上げた。
●
戦いは続いた。
意識をはっきりさせた夕子に声を掛けながらも、ダメージを与えすぎないように攻撃を仕掛けていく。
戦闘は長引き、ケルベロス達もダメージを負っていったが、行動阻害系のバッドステータスが累積していった結果攻性植物の行動に陰りが見え始めていた。
苦しそうに顔を歪める夕子に、道弘は咄嗟に回復へと舵を切った。
「あと少しだ! メロンの為にも根性見せろ!」
道弘の雄援の声に、夕子は力強く頷いた。
「まだ見ぬメロンのためだもの!」
「その意気です。あなたに巣食う毒、残さず殺してみせましょう」
アインが放つ雷の針が、攻性植物の毒素を排出していく。
顔色の良くなった夕子に、攻性植物は蔓をしならせるとフリューゲルへと放った。
攻撃を軽く避けたフリューゲルは、お返しとばかりに飛び上がると旋刃脚を攻性植物へと叩き込んだ。
その脚応えに目を止めたフリューゲルは、仲間たちへと声を掛けた。
「皆! 一気に畳み込もう!」
その声に、惨殺ナイフを手にした氷花は楽しそうに微笑むと一気に間合いを詰めた。
「あはは♪ 貴方達を皆、真っ赤に染め上げてあげるよ!」
輪舞を舞うように斬りつけられた攻性植物は、周囲に体液を撒き散らす。
開かれた傷口に、強烈な旋風が奔った。
「今、助ける」
鉄塊剣を横薙ぎに薙ぎ払うトエルの声が、旋風に乗って夕子の耳に届く。
弱った攻性植物に、パティの元気な声が響いた。
「シエル、いっくよー!」
「妖精さん、妖精さん。どうか、わたくしに教えてくださいませ」
パティの声に呼応したシエルは、妖精さんに語り掛けると幹の一部を指差した。
「パティ様、弱点はあそこですの!」
「お菓子をくれぬなら……お主の魂、悪戯するのだ!」
シエルが指さした幹に向けて、ジャック・オー・ランタンの大鎌が閃いた。
ハロウィンの幻影を背負いながら両断する勢いで放たれる攻撃に、妖精さんの魔法が乗せられ切り裂いていく。
同時に飛び出したボクスドラゴンのジャックが、ダメ押しとばかりに体当たりで傷口を押し広げる。
幹を半分以上断たれた攻性植物に、静かな声が響いた。
「熟れすぎ果実は、ぐずぐずと」
いぶきが放った純愛果実(ヒトリヨガリ) が、傷ついた幹に纏わりつく。
ぐずり、と崩れて潰れながら幹を溶かす紅いアイの色をした果実に、攻性植物はついに倒れた。
●
攻性植物から解放された夕子を抱きとめたアインは、まだ残る傷口に雷の針を刺した。
「大丈夫ですか?」
「……あれ? メロンは?」
目覚めた夕子の第一声に、トエルは一歩前へ出た。
「夕子さん。攻性植物にとりつかれた時、自分の状況を分かっていましたか?」
「え……?」
きょとんとする夕子を、トエルは静かに諭した。
「メロンの前に、まず自分の命を守って欲しいんですが……。死んでしまったらどうにもなりません」
表情に乏しく、だからこそ真に胸にくるトエルの言葉に、夕子は俯いた。
「ご、めんなさい。私、メロンのことになると何にも見えなくなっちゃって……」
「ま、無事だったんだから良かったじゃねえか」
豪快に笑いながら周囲にヒールをかける道弘の近くで、いぶきは手にした攻性植物のひとかけらの匂いを嗅いだ。
止めを刺す寸前にこっそり回収したメロンの攻性植物のかけら。止めの寸前に、美味しそうなところをこっそりカットしたのだ。
「ふふ、物は試し、攻性植物が意外と美味しいということを、僕が証明致しましょう」
攻性植物の実を口に含んだいぶきは、何とも言えない表情になった。
本物のメロンほど甘くはないが、ニガウリほど苦くもない。好みの分かれる味だった。
攻性植物にもいろいろあるから、全ての攻性植物がおいしいとも食べられるとも言えない。
だがこの攻性植物は、普通のメロンの方が甘くておいしい気はした。
「夕子さん。――もしよろしければ、とびきり美味しいメロンを一つ、選んでいただけますか? 口直しに」
いぶきの声に顔を上げた夕子は、立ち上がるとケルベロス達へ頭を下げた。
「もちろん! ――皆さん、本当にありがとうございました。お礼に、美味しいメロンをたくさんご馳走します! いえ、させてください!」
「わあい、やったね!」
しっぽをパタパタさせながら飛び上がったフリューゲルは、おいしい予感に笑顔を零した。
メロンをふんだんに使ったメロンパフェに、シエルはスプーンを握り締めた。
「このメロンパフェ、素敵ですわ! メロンがふんだんに使われていて見た目も綺麗ですし……」
パフェを一口食べたシエルは、口の中に広がるメロンとクリームのハーモニーに目を閉じて感激した。
「味も最高ですわ!」
「シエルー、そっちと半分こしよー?」
半分に切ったメロンをスプーンですくって味わっていたパティは、シエルのパフェに大様用のメロンを差し出した。
「いいですわね♪」
「あれ? そっちのメロンと味が違うのか?」
お喋りしながらメロンを味わうシエルとパティの向かいで、アインはメロンカップのスイーツを味わった。
「メロンカップにプリンを入れて、季節のフルーツやクリームをあしらったプリンアラモードか。なかなか豪勢だな」
「このシンプルなメロンも、美味しい」
半割にした王様のメロンを味わっていたトエルは、ふと首を傾げた。
「これ……シャーベットとかアイスとかもありますか?」
「もちろんです! 今お持ちしますね!」
トエルの問いに、夕子は早速メロンシャーベットを運んだ。
タルトを食べていた氷花は、頬に手を当てて芳醇な味を味わった。
「甘くておいしいです! 夕子さん、私もメロンシャーベットをいただいてもいいですか?」
「もちろん! このメロンは、シャーベット用の特別な子なんですよ!」
蘊蓄を語り出す夕子に、道弘は感心したように頷いた。
「そんなメロンも作ってるのか。どんな風に育ててるんだ?」
「よくぞ聞いてくれました!」
手を握り締めた夕子は、甘さ控えめのメロンコンポートを道弘に出しながら力説する。
「それは凄いな。それにしても、このコンポートは甘くてうまいな」
「良かったらお土産に瓶詰もいかがですか?」
「もらおうか。ねむも喜びそうだ」
嬉しそうな夕子に、道弘も楽しそうに笑った。
美味しいメロンを味わっていたいぶきは、瓶詰を用意する夕子に訊ねた。
「宜しければ、メロンの美味しい食べ方を数点、ご教授頂きたく」
「もちろんです!」
楽しそうにメロンの食べ方を教える夕子に、いぶきは頷いた。
「それから、とびきり美味しいメロンを一つ、選んでほしい。贈り物にしたいんです」
「了解です! 食べるのはいつ頃ですか?」
いぶきから根掘り葉掘り聞きだした夕子は、メモを見ながら唸った。
「じゃあ、あの温室のあの子ですね。後で取って来ます」
「あまーいメロン、大切な人と、一緒に食べさせていただきますね」
「あっ、そうだ、ボクがお世話になってる所も喫茶店なんだよ!」
口の周りをクリームと果汁でぺたぺたにしたフリューゲルは、ぴんと手としっぽを挙げた。
「出来たらでいいからメロン買ってきてーって頼まれたんだけど、お買い物していいですかー? おいしいメロン、友達にも食べさせてあげたいんだ!」
「了解です! お友達は何人ですか? どんなスイーツ用ですか?」
またもや根掘り葉掘り聞きだす夕子に、フリューゲルは楽しそうに答えた。
「わたくしも、オミヤゲのメロンをいただけますか?」
「私も、贈答用のメロンをいくつか貰いたい」
手を挙げるシエルとアインに、夕子は嬉しそうに駆け寄った。
「もちろんです! いいメロンをお渡しするためにも、リサーチ協力お願いします! ――あ、そのメロンシャーベットもお土産ありますよ!」
空の皿に目を落とした夕子は、トエルに声を掛けた。
「では、分けて頂けますか? 同じ旅団の元気っ子達も喜びます」
「パティもお土産欲しいのだ!」
「喜んで!」
トエルとパティのリクエストに、夕子は大きく頷いた。
「うむ。これで一件落着、だな」
楽しそうな仲間を見渡したアインは、満足そうに頷いた。
作者:三ノ木咲紀 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年5月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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